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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1953件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1313 5点 此の世の果ての殺人- 荒木あかね 2022/10/26 11:42
 ミステリとしてはシンプル。余計なことをしなかったおかげで “物語としては悪くないのにミステリ要素がごちゃごちゃして邪魔” になることを免れている。怪我の功名? とか言っては失礼か。
 とはいえ、捻らなくてもいいから、あと一歩深み、または驚き、が欲しかった。キャラクター的にも今一つ共感出来ず。行方不明者はてっきり蟹針図夢だと踏んだんだけどな~。

No.1312 7点 人間の手がまだ触れない- ロバート・シェクリイ 2022/10/18 13:04
 物凄く優れた1編があるわけではないが、どれもきちんとしたアイデアと奇妙(グロではなくドタバタ)なイメージを持つ軽妙な短編集。50年代SFだが古びた感じは無い。全体的に好きな作風だった。
 ミステリ的には「七番目の犠牲」。殺人合法化社会と軽く捻ったそのノウハウ。銃社会アメリカに対する批評でもある。
 Untouched by Human Hands を「人間の手がまだ触れない」とはリリカルに過ぎる日本語訳ではないか。“騙された(笑)” と思った。

No.1311 6点 影男- 江戸川乱歩 2022/10/18 13:01
 “底なし沼” は江戸川乱歩屈指の名場面だと思っていたが、記憶よりもアッサリしたものだった。それでも(それ故に?)具体的にイメージすると怖い。
 一方、幻想小説じゃないのだから “パノラマ世界” はやり過ぎ。何かしらの種がある前提で読むから、浮き彫りになるのは設計者の “意図” であって、それが裸の美女の山脈とか言われると苦笑するしかない。
 そして、ほんの僅かな出番で全てかっさらう明智小五郎。この話に必要かなぁ? 影男を完全に主役に据えたノワール小説にした方が良かったのでは。

No.1310 5点 謎亭論処- 西澤保彦 2022/10/18 13:00
 スッキリした真相ではなく、作者が如何に無理な理屈を通すかを楽しむべき芸風? 都合の悪い部分(動機とか)を恣意的にスルーしているな~と言うのが目に付く。

No.1309 6点 放課後の名探偵- 市川哲也 2022/10/18 13:00
 共感しづらい記述者を立てて読者を嫌な気分にさせるのは、狙いなんだろうな多分。効果が物凄く高いとまでは言えないが、認識論に踏み込むにはそのくらいの仕掛けは必要。内容が乏しくても如何にもっともらしく読ませるか、を頑張っているし、そういう戦略もアリだと思う。

No.1308 4点 屋上の名探偵- 市川哲也 2022/10/18 12:59
 第1話:水着を盗む行為は、気持ち的には下着とほぼ同じなのでは。
 第2話:冤罪で教師を首にする計画。
 第3話:再びの不登校を促す鍵を犯人は握ったまま。
 第4話:幸い傷害事件で済んだけど、“事後工作なんかせずに、さっさと救急車を呼んでいれば死ななかったのに……” と言う悲惨な展開をする可能性もあった。

 とか、エグい要素をシレッと混ぜているのは、狙いじゃないんだろうな多分。うーむ。曲解しても推すべきポイントが見当たらない。

No.1307 9点 祝祭の子- 逸木裕 2022/10/12 12:46
 一気読みしそうなところ、読み終えるのが勿体無くて敢えて途中で切って三日間に引き伸ばした。
 非常に乱暴な比較をしてしまうと、佐藤究『テスカトリポカ』よりも上。理由は、こちらの方が密度に絶妙な波があり、世界に浸り切っても疲れないから、ではなかろうか。
 登場人物に気持が寄り添いそうになるたびに、作者は容赦無くひっくり返す。足場をどんどん削り取るから、読者も追い詰められて息を潜めるしかない。それでも尚、“暴力の楽しさ” が感じられるところがなんとも怖い。
 先生の計画が必要以上に迂遠な感はある。口ばかりの彩香にイライラ。いつ誰を切り捨てるか繰り返し考えた、私は将文だ。

 “正当性を確保した人間が、大手を振って悪を叩けるときの、怒りながらも緩んでいる、醜悪な顔” 。
 的確な表現だな。凄いな。

No.1306 7点 涼宮ハルヒの驚愕- 谷川流 2022/10/12 12:45
 ストーリー展開だけを見るなら特に目新しくも無い。予定調和でさえある。しかし、シリーズを追って読む中で自分の中に育まれたSOS団との絆(笑)が揺さぶられるのだった。な、長門、お前いつの間に……それはそうと、冊数を経ると文体も相応に進歩して違和感無く読めるようになっていた。

No.1305 7点 涼宮ハルヒの分裂- 谷川流 2022/10/12 12:44
 ここまで読んでシリーズに対する評価が反転したね。ああいう与太話が本質だと思っていたからそういう読み方をしていたが、いま振り返るとシリーズ中盤はダラダラし過ぎだ。それがあってこそのシリーズとはいえ、佐々木が登場してピリッと締まった雰囲気の方が圧倒的にいいじゃない。しかもそれなりに与太話と両立していて上手い(のか?)。ダイレクトに『驚愕』へ続く。

No.1304 5点 影踏亭の怪談- 大島清昭 2022/10/12 12:39
 実話怪談なるジャンルがあるのは知っているが、そう言えば殆ど読んだことが無い。怖い話が駄目ってことではなく、“実話怪談” のスタイルが合わないのか。本書でも各話の中盤があまり乗れなかった。

 表題作。ラストの “死期は迫っていた” との解釈はいらないのでは。見せたくなかった → 事件発生 → 謎を追う → 巻き込まれて死、と言う本末転倒な状況の方がインパクトあると思う。
 「朧トンネルの怪談」。(ギロチンならともかく)首切りにはどのくらい時間が掛かるのだろうか。想像しづらい。作中では、ごく短時間で切れる前提で計画を立てているようで首を捻った。

No.1303 4点 深海怪物の饗宴- 戸川昌子 2022/10/12 12:38
 うわぁ、(性的に)気持悪い。こんな分野の小説もあるんだ。そりゃまぁあるよねぇ。一応ラストで意外な捻りはあるが、官能ミステリと言うより戯画的な業界モノってことで筒井康隆『大いなる助走』あたりを連想した。エロ漫画の原作にするにはいいんじゃない。

No.1302 8点 爆発物処理班の遭遇したスピン- 佐藤究 2022/10/06 15:43
 平山夢明と舞城王太郎を捏ね合わせて一見綺麗に丸めたけど灰汁抜きは全然していない、と言う感じ。導入部は比較的普通のノワール系だったり他のジャンルの小説だったりするが、数歩歩むうちに決定的に足を踏み外し、私は異界にいることに気付いた。全8編、ほぼ優劣無しでどれもいい。ただ、実際の内容に比べて妙に地味な印象が残ったのは何故だろう。

No.1301 5点 涼宮ハルヒの憤慨- 谷川流 2022/10/06 15:41
 これも広義のビブリオ・ストーリー? 思いがけないところにトリックが仕込まれていた。まるで気付かなかった。

No.1300 5点 三体X 観想之宙- 宝樹 2022/10/06 15:38
 公式スピンオフと言っても元ネタが『三体』となれば単に舞台や登場人物をシェアするだけでは済まないわけで、アイデアの釣瓶打ち状態だった原典の空白をやはり多彩なアイデアでフィルしてもうお腹一杯。第三部は独立させて読んでも充分楽しめそう。
 とは言え、あの壮絶な三部作のあとで、物凄く面白いと言う程ではまぁない。どうしたって比較する視座からは逃れられないからスピンオフの立場も大変だ。

No.1299 5点 5A73- 詠坂雄二 2022/10/06 15:37
 兎に角 “暃” と言うネタがツボに嵌まった。こういう発想大好き。ところが事件本体は次第に妙な方向へ逸れて、驚く程ではない真相に辿り着いてしまった。偶数章の各キャラクターは生々しく描けているのに、結局まとめとしては “ホラー的要素の適用は是か非か?” に終始しているようで勿体無い。“暃” で募った私の期待は何処に行けばいいのか。

No.1298 5点 灰かぶりの夕海- 市川憂人 2022/10/06 15:36
 世界設定に何かあるな~と言うのは文章から見当が付いたので、あまり驚けなかった(極端な可能性を色々考えちゃったし)。もう少し早めに明かして、設定込みで事件を眺める猶予を読者に与えた方が良かったのでは。
 自殺に見せかけるために密室トリックを用いたのなら、なぜ脇腹を刺したのか。この部分は要らなかったのではないか。

No.1297 8点 クローゼットファイル- 川瀬七緒 2022/09/27 12:49
 犯人当てではなく、物証からどれだけ飛距離を出せるか、と言うミステリ。服飾は作者の持ちネタのようだし、薀蓄の披露だと言えばその通りだが、きちんと物語として消化されている。類似品がちょっと思い付かない。  

 「キラー・ファブリック」。犯人の服の素材は、直接の手掛かりではなく、事件の構成要素への連想を誘っただけだよね。その辺が紛らわしい書き方になっていると思う。

No.1296 6点 ビブリア古書堂の事件手帖III ~扉子と虚ろな夢~- 三上延 2022/09/27 12:46
 “本を読むことで同じような人になる” と言うのは、アナログ手法による人格転移みたいで面白い。扉子が母親に似る一方で大輔は不動の安定感だから、辻褄も合う。でももっと伝奇SF的な世界観のアイデアだよなぁ。
 ディスコミュニケーションが招く不可解な状況。少々回りくどい。札を本に挿んだ気持は作中でも有耶無耶にしているし、変な展開だと思った。事件より古書談義が楽しい。

No.1295 6点 彼女が死んだ夜- 西澤保彦 2022/09/27 12:45
 ネタバレするけれども、まず基本的には、表層に見えた事象と思いがけないところへ着地する真相との飛距離は見事。
 その上で、エピローグはやり過ぎだと思う。特に、男の死体の身代わりって必要? わざわざその為に一人殺してまで。偶然発見されるまで1ヶ月放置しているし。別人になってずっと生きて行く気は無いんだよね。誰に対するカムフラージュ? どうせ殺すならその相手を殺す方が確実では。
 あと、中途挿入される財布盗難事件。そういうプレイは許容するか否か人によって明確だと思うので、あの誘い方は無謀ではないか。相手が16歳年下の男、と言うのも不自然。年齢差だけで断られかねない(偏見?)。

No.1294 5点 夜よ鼠たちのために- 連城三紀彦 2022/09/27 12:44
 期待した程ではない。物語の中で技巧が浮いていて、ここで作者が読者を騙しに来ているな、と言うポイントが何となく見えてしまう。そこで気持良く騙されることが出来ないのは、まぁ相性の問題だろうか。中では「二重生活」が良かった。

 ネタバレするけれども、「二つの顔」は何か変だ。
 結末で明かされる妙に入り組んだ殺人計画は、あまり意味が無いと思うのだ。
 ミステリにその突っ込みは野暮だけれど、当該事件では、
①死体を一つ処分した。②女が一人行方不明になった。
 これらの点について犯人自身が、
①誰も踏みこんだことのないような林の中に埋めた。②不正が発覚すれば、皆、そのために逃走したとでも考えてくれるだろう。
 と述べ、自分は疑われないと考えているらしい。ならば、普通に殺して埋めるだけで良いのではないか。
 せいぜい、事件に巻き込まれることで、いつ殺るか? 今でしょ! と背中を押される効果があったくらいのものだ。または、主人公に対して犯人が悪意を持っており、翻弄して苦しめること自体が目的の一つ、ならまだ納得出来るのだが。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
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平均点: 6.22点   採点数: 1953件
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