皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
虫暮部さん |
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平均点: 6.20点 | 書評数: 2075件 |
No.1435 | 9点 | 延暦十三年のフランケンシュタイン- 山田正紀 | 2023/04/27 13:27 |
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SF設定が基盤にあるし、宗教者の物語だし、すわ最初期の〈神シリーズ〉の再来か? とも思ったが、事象より個を描いているあたり、もう少し後の時期のアクション系連作集の匂いの方が強い。そこに加えた一捻りがつまり、延暦年間と言う時代設定なのである。
この設定が非常に有効で、ベタで大仰な展開も内心如夜叉の玉依の女性性も違和感無く読めた。滂沱の涙が三回とは自分でも驚き。現代物だったらそこまで素直に浸れなかったかも。 |
No.1434 | 7点 | 人喰いの時代- 山田正紀 | 2023/04/27 13:26 |
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思うまま書いたらネタバレしてました――。
作者は本作と『ブラックスワン』で “SFを書いて、かつミステリーを書くという独特なスタンスを築きたい、という思いもあったのだが ~ SF作家がミステリーを書いた、というふうに受けとめられることになった” と述懐している。 それもむべなるかな、と私は思うのだ。山田SFのキー・ワードである “虚構性” がそのまま引き継がれているんだもの。 作中の某の心を何らかのブラック・ボックスであると解釈すれば、『地球・精神分析記録』や『夢と闇の果て』と近似の構造だ。いつもの手で来たか、と見られても仕方が無い。 但し、ミステリであることを重視するなら、その虚構は開きっぱなしではなく何らかの形で収斂するのが望ましい。 イヤ、一概にそうとは言えないか。しかし本作の場合は、五話目までは割と古風できちんとまとまった本格ミステリ短編なのに、最終話で虚構性をぶっこんでしかも中途半端に閉じかけたままなので、どうにもバランスが悪い。身も蓋も無く言えば、この部分は作中作だよ! あっ、そう。で済んでしまう感じ。 その点が、本作を合理的なミステリと捉えても、破格の実験作と捉えても、物足りない。いっそ最終話をカットして、昭和初期の歴史ミステリに徹するのもアリだったのでは。 |
No.1433 | 4点 | 化石少女と七つの冒険- 麻耶雄嵩 | 2023/04/27 13:25 |
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何と言うか、やる気が感じられないんだよね。常時100%で書き続けられないのはまぁ判るが、力を抜いた軽めのものを意図して失敗している。無機的に書こうとして拗らせたような文体も、メルカトル鮎とか木更津悠也とかでは生きて来るんだけど、化石オタクの御嬢様女子高生を描くには不適格。照れてる場合じゃない。相沢沙呼を見習え!
そんな中、鹿沼亜希子の存在感だけは、あっちの世界線から引っ張って来たような冷ややかな微熱で際立っていた。次巻は『化石少女 vs カメラ少女』にすれば? |
No.1432 | 5点 | 鋏の記憶- 今邑彩 | 2023/04/27 13:24 |
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既存のピースを小器用に組み合わせただけだが、特に悪印象は無い良品。写真を取り寄せたり家宅侵入したり、警察官の行動として暴走気味ではある。
一話目の “時計はどっちにズレているのか” が一番いい小ネタだと思うが、それが際立つ使い方になっておらず勿体無い。 |
No.1431 | 5点 | ルパン対ホームズ- モーリス・ルブラン | 2023/04/27 13:24 |
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“ルパンとホームズの共演” と言うコンセプトだけで、事件の内容は練らないまま突っ走ってしまったのか。あまり “対決” って感じがしない。
キャラクター小説としては面白い。探偵側はちょっと三の線で、Herlock Sholmes の名の方が寧ろ相応しいかも。「金髪婦人」中盤でウイルソンが “洞察力” を見せる場面など素晴らしい。 |
No.1430 | 10点 | 幻詩狩り- 川又千秋 | 2023/04/20 13:38 |
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言語SFって何だ? テッド・チャンとかチャイナ・ミエヴィルとか円城塔とか。今読み返すと小松左京『果しなき流れの果に』の枠組みに山田正紀の〈神シリーズ〉を嵌め込んだもの、と言う気もする。
シュルレアリスト達から80年代日本へ、丹念に綴られる “幻詩” の成立過程が兎に角面白い。素材の良さをシェフが上手く引き出していますね。てっきり西都デパート会長が “黒幕” かと思っていたが、悪意の有無は不明なままフェイドアウトしちゃったなぁ。 アクション系に魂を売る前の高純度な川又SF。本作のことを思うと、硬いチーズの塊にナイフを入れると中はトロリと柔らかく溢れそうで芳香を嗅いだだけでトリップ、みたいなイメージが浮かぶのである。 |
No.1429 | 6点 | 七面鳥 危機一発- 山田正紀 | 2023/04/20 13:31 |
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山田正紀には “本を一冊読めば一冊書ける” との噂があるらしい(本人は一冊じゃ無理ですと否定している)。
似たような意味で、本書を構成する各短編も、主人公言うところの “泥棒のルーティン・ワーク” を略さずしっかり書き込み引き伸ばせば『24時間の男』系統の長編に仕立てられるのではないか。 それをギュッと濃縮した、と言うには、のほほんとした書き方で個々のネタがそこまで研ぎ澄まされていない。何を盗んだのか判らないとか依頼人が泣いたとか七面鳥最後の選択とか七子が “ちぎれるように手を振った” とか、胸に残るポイントはあるけれど、それとこのそこそこのストーリーを秤にかけると分が悪い。水準の高い作家の、凡作。 但し、スパッと楽しめる娯楽作品として成立するにはあまり高過ぎない方がいいと言う側面もあるんだろう。 “コミック・アクション” と銘打ち表紙イラストがモンキー・パンチってそりゃ狙いは明確。全編一人称だから山田康雄の声で脳内再生されちゃうよ。あっ、今の若い人は違うのか。 |
No.1428 | 5点 | プレーグ・コートの殺人- カーター・ディクスン | 2023/04/20 13:30 |
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建物の構造とか短剣の形状とか、重要な筈の物が色々上手くイメージ出来なかった。
3章。ジョゼフが “名前負けしている” とは。聖母マリアの夫、ヨセフを引き合いに出している? 18章。語り手の姉のアガサが “ゴーゴンをいくらか穏やかにしたような女性” とは。発表の時点で “アガサと言えばあの人” だったのかな? 確かに写真を見るとそんな感じではある。 20章。芝居の演目が真相を暗示する遊び心は好き。たとえ通じなくとも。我が国ならベルばら? |
No.1427 | 3点 | 友が消えた夏- 門前典之 | 2023/04/20 13:29 |
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物理トリックは解けなかったが、事件及び作品全体の構造についてはヒントが色々あって概ね読めた。“タクシー拉致事件” が平行して描かれていたから余計判り易かったとも言える。そこが判ったら犯人も明白だ。ここまではまぁ悪くない。
しかし、真犯人は公的には死亡とされているわけで、自身の戸籍はもう使えない。その辺の設定がおかしいね。 それを抜きにしても、犯人の計画はおかしい。自分か周囲か、どちらかを消すだけで良いのに両方消しちゃっている。 つまり、自分が死んだことにするなら、他人になって生き直すしかないが、それなら周囲との関係は切れるわけで、殺す必要は無い。と言うか、黙って消えればいいだけで、死んだフリも必須ではない。 本名云々にこだわりつつリセットしたいなら、自分のままで一人だけ生き残ってしかも疑われない状況、が必要な筈。 あと、演劇部員達の会話がぎこちない。いや、現実の会話をそのまま文字にしろと言うことでは勿論ないよ。“小説の文章として読んだ時に面白い会話文” と言うものはあって、その観点で見た場合にどうもわざとらしい、と言うこと(好みの問題も大きいとは思うが)。 で、“録音記録を書き起こした文書” との設定でしょ。実は録音自体がシナリオを見ながら演技したものだったのでは、と疑ってしまった。 |
No.1426 | 3点 | 蟻の棲み家- 望月諒子 | 2023/04/20 13:29 |
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この作者は文章力も取材力も構成力も備え持ち、人権も尊厳も無いような営みを嫌と言う程くっきりと描き出している。中盤ちょっとごちゃついたものの、汚辱を引きずりつつ進行する事件の様相には惹き込まれた。
しかしそれが実は、構成力の空回りの上に築かれた幻影だったなんて。 あの真相はなんなのだろうか。何故ターゲットを直接殺さない? 心理的なものも含めて理由が何も無いじゃないか。一人葬るために三人殺して、そんな迂遠な計画、それこそ “ばかじゃないのか、お前は” である。がっかり。 |
No.1425 | 5点 | 鱈目講師の恋と呪殺。桜子准教授の考察- 望月諒子 | 2023/04/13 10:16 |
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森博嗣の描く閉鎖社会としての大学をもう少しコミカルにした感じ? ロジカルな謎解きでは全然なく、寧ろホラーに近いのでは。飲み会のエピソードはひどい。きちんと言えばいいものを。否応なく共犯者にされた周囲はいたたまれないだろ。(金が全てではないにしても)授業料を払う側に対して、教える立場でそんな気分的理由による拒否権があるのか。 |
No.1424 | 6点 | フェルメールの憂鬱 大絵画展- 望月諒子 | 2023/04/12 10:23 |
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主要キャラクター(と言うか黒幕)が『大絵画展』と共通なせいで、広い意味での落としどころになんとなく見当が付いてしまったのは大きなマイナス。
題材は好きなんだよ。田舎の純朴な信仰と、集金装置としての新興宗教と、並べて描くと本質的な差は無さそうなところが面白いと言うか意地が悪いと言うか。 |
No.1423 | 5点 | 星くずの殺人- 桃野雑派 | 2023/04/11 10:58 |
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説明的だと感じる部分が少なくない。しかしそういう書き方だから真相(動機)が受け入れ易いとの側面もある(ちょっと皮肉)。陰謀論を登場させたのは上手い手だと思う。
スタッフ達の退去は事前に読めなかった筈で、“状況の想定外の変化が犯人の行動に与える影響” が何か欲しかった。 そもそも一人ずつ殺すやり方は目的にそぐわないのでは(本来なら12対1だ)。私だったら、一人を人質にして残りを宇宙船で還らせ、人質には脱出ポッドを使う、かなぁ。 Kiken! Mada modoruna. これは、会社の存続を優先して “(今すぐ帰還したいとの希望は)聞けん!” が真相だろうと思っていた。 後にメールの全文が明らかになってもこれと言った効果は上がっていないでしょ。読者に対する引っ掛け? |
No.1422 | 7点 | 怪人デスマーチの退転- 西尾維新 | 2023/04/07 14:35 |
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父の正体を知って三者三様に踏み外した子供達。家族の崩壊と再生の物語? うそうそ、そんなまっとうなものではない。
奇人変人大集合。“あ、大変だ、殺さなきゃ” に、つい共感してしてしまう怖い話。最初の殺人のホワイが曖昧なままなのは残念。 実は、待葉椎が私の頭の中で『ハコヅメ』(勿論オリジナルの漫画版)の川合みたいなイメージで固まってしまい困っている。ミスキャストだ。 |
No.1421 | 7点 | 三体0 球状閃電- 劉慈欣 | 2023/04/07 14:29 |
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読むと世界の見え方が変わってしまう与太話。
この人の作風には、ぶっきらぼうな書き方故に却って感傷を読者が勝手に奥から引っ張り出してしまう、みたいなところがある。その点ではやっぱり、本当は過剰なエモーションを持つのにそれに陶器で蓋をして固めたような林雲のキャラクターからは目が離せない。ロマンスにならないところがまた良し。 これが(登場人物はともかくストーリー的に)どうして『三体0』なの? とずっと思っていたが、最後につながって納得。成程ね! |
No.1420 | 6点 | 野火の夜- 望月諒子 | 2023/04/07 14:29 |
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プロローグを始めとして、非常に残酷かつ美しい場面が要所要所に配されており印象に残る作品ではある。
しかしここまでとっちらかってしまうなら、ポイントを絞ってメインの事件だけにした方が良かった。本来関連の無い案件が木部美智子をハブにして交錯しているだけのような設定は効果が無い。 12年前、記者の事故死は結局、純然たる事故? 大雨の中を出掛けて死んだジャーナリストの心情も曖昧なまま。25年目の偶然の出会い、はまぁ大目に見るか。 |
No.1419 | 7点 | 腐葉土- 望月諒子 | 2023/04/01 14:20 |
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基本的にはとても面白かった。様々な正義が絡み合って依拠したり反発したりするさまが有機物っぽいニオイを発する力作。“長過ぎでは?” と思いつつ読んでいたら意外なところがミステリ要素につながったりして、濃度が高く必然的な長さであると納得。
ただ、最終章で真相①犯人は誰でその動機はこうだ、と言うところがミステリとしての頂点。ここでせっかく驚いたのに真相②実は主導者は別にいて本当の動機は云々、と畳み掛けるのはどうも戦略ミスに思える。①より②の方が衝撃度が低いんだもの。ソフトに引き戻してどうする。 私だったら、まず②で或る種の感動を誘った後に①が来て “結局、カネかッ?” と落とす方がいいな。 それに、②に関してはこれといった証拠が無い(よね?)。自供内容に頼るのみである。つまり情状酌量狙いの犯人が舌先三寸で切り抜けた、のかも。作者の意図はどうあれ、リドル・ストーリーとして成立してしまっている。 粗探しをもう一つ:やはり最終章。“睡眠薬の濃度を上げる為に酒の量を減らした” との説明には首を傾げてしまう。薬の量を増やせば済むじゃないか。酒が少ないと盗み飲みしづらい。 作者は、何らかの齟齬を生じさせておかないと手掛かりが少な過ぎる、と思ったんじゃないかな~。でもこれは悪手だな~。 |
No.1418 | 5点 | 栞と噓の季節- 米澤穂信 | 2023/04/01 14:19 |
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最低限の現実感を保持しようとして小さくまとまってしまった。それこそが狙いだと言われたらまぁ頷くしかない。リミッターを一つ二つ解除すれば小市民シリーズくらいにはなるだろうに。
小ネタは効いている。on the road は “ドサ回り” じゃ。 |
No.1417 | 4点 | ペニス- 津原泰水 | 2023/04/01 14:18 |
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語り手の頭の中だけで勝手にホラーが進行しているみたい。アメーバが仮足を広げるように連想が結び付いて現在地の意味を見失わせる。それが最後に反転して納得させてくれることは遂に無い。
但し、そのワカラナサに乗れなかったのは、エロスの指向が私の嗜好と合わないことが大きい。と言うか読者に嫌悪感を催させる目的でそれら性的な事象を書いたとしか思えない。つまり私のこういった感想は作者の思う壺なのではないだろうか。雑誌連載で細切れに読めばまだ呑み込み易かったのだろうか。初出は小説推理だぜ。 |
No.1416 | 8点 | 無実はさいなむ- アガサ・クリスティー | 2023/03/24 12:41 |
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はっきりと伏線が示されていたのに何故気付かなかったのだろう。
それぞれ方向性の違う子供達のキャラクター、その更に異分子である車椅子のフィリップの存在感も良い。心情描写が交錯して、こんなに書いちゃって矛盾しない真相に着地出来るのか? と心配になったが、この視点の変遷が面白く、シリーズ探偵を起用しなかったのは正解。 以下ネタバレ。 クリスティー文庫版解説で指摘されている、“犯人は真相を暴露して自分の罪状を軽くしようとするのではないか” と言う件について。 これは状況が或る種のチキン・レースになっているんだね。 暴露してしまうと、罪状は軽くなっても、家族の中の元のポジションに戻って遺産を受け取ることはまぁ出来ない。一方、アリバイ自体は本物なのだから、自分が頑張っているうちに証人が出頭すれば晴れて無罪放免でポジション復帰が出来る。何故か未だ証人は見付からないが、それは明日かもしれない……。 なかなか難しい判断だろう。六ヶ月程度では思い切れなかったのも不自然ではない、と私は思う。獄死は結果論であって、当人にしてみれば命まで賭けていた心算はないのでは。 但し、あくまで故人の心情なので、作者としてはこの苦悩を描く視点を確保出来なかったのかもしれない。 |