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虫暮部さん
平均点: 6.22点 書評数: 1843件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1463 6点 SAKURA 六方面喪失課- 山田正紀 2023/06/03 12:53
 読んだ印象は “B級” で、まさに作者の狙い通りだ。最後の大ネタは噴飯もの(良い意味)だが、盆暗刑事達の逆転劇はやや唐突で、個々のキャラクターが十二分に生きているとは言いがたい。一話ごとの小ネタを無理の無い範囲で小ネタとして上手く使っているとは思う。
 でも、後藤とか佐藤とかは駄目だろう、イントネーションが全然違う。第五話とその延長は、血の滲むような愛憎がショッキング。

No.1462 6点 哄う北斎- 望月諒子 2023/06/03 12:51
 個々のキャラクターはしっかり描かれていると思う。好ましい奴はいないが、絶対悪もいない、一長一短たちの群像劇。
 騙し合いの話なので、後半は本当に入り組んで状況が読み切れなくなってしまった。裏事情をどのように読者に判らせるか、工夫の余地がある。驚愕の真相!と言う感じでもないしね。
 美術関係の薀蓄は面白いが、こういう書き方をされると書画もお金もただの紙切れに思えて来るな。

No.1461 5点 体育館の殺人- 青崎有吾 2023/06/03 12:51
 緻密、と言うよりはチマチマしたロジック。リ-ダビリティも微妙に高くない。心意気は買うが、それに免じて一歩歩み寄った上で、こちらが楽しみ方を心得ているからこそ楽しめた、との印象である。

 体育館はサイズが大きく、抜け道なんかは色々ありそうで、“視線の密室” を納得しづらい。実際、見取図に描かれている二階通路が作中で軽視されてない? 皆が死体に注目している隙に通路から飛び降りて外に逃げた、との可能性もあるのでは。

No.1460 5点 ネメシスの契約- 吉田恭教 2023/06/03 12:50
 現在進行形の事件はともかく、過去の事案の再調査を始めた途端に新しい手掛かりが都合良くポロポロ出て来る。事件当時は真面目に調べてなかったのかと失笑を禁じ得ない。
 最後の銃撃事件(=ダミーだけど)は必要? 別にその人が疑われていたわけではない。寧ろトリックが露見したせいで犯人も特定されている。余計なことしなきゃ良かったのに。
 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞からデビューしただけあって島田荘司系のトリックだが、ストーリーの不自然さまで真似しなくてもいいんだってば。

No.1459 7点 戦物語- 西尾維新 2023/05/26 13:16
 “何も起こらなさ” はシリーズ中屈指ではないか。悩んで考えて議論を戦わせるだけ。静けさは微風に戦ぐ木の葉の如し。しかし怒ったひたぎさんには戦いた。

No.1458 7点 蘆屋家の崩壊- 津原泰水 2023/05/26 13:13
 旅情ホラーにしてグルメ小説(豆腐、蟹、蟲など)にして舌先三寸の与太話。言葉の積み上げ方が味わい深い。同作者の長編の体力を削られるような感じは無くて助かる。
 白髪になったり、拒食になったり、語り手は踏んだり蹴ったり。見た目はどういうことになっているのか。 

No.1457 6点 シュレーディンガーの少女- 松崎有理 2023/05/26 13:12
 この作者は、秀逸なアイデアを示しつつも、ズバッと切れ味鋭いタイプではなく、寧ろややナマクラでデレッとした部分に味わいを感じさせる、と私は認識している。
 その作風が生きているのが「秋刀魚、苦いかしょっぱいか」「ペンローズの乙女」。
 一方、「六十五歳デス」の、世界設定。そこでは(偽薬効果と承知の上で)ああいう稼業が成立する、そこまではいい。しかし、施術のパフォーマンスがあまりにチャチ、あの程度で大金を稼げる、非合法である、しかも警察があそこまでしつこく追いかけて来る、となると疑問符が幾つも頭に浮かんで来たのだった。

No.1456 5点 赤い矢の女- 山田正紀 2023/05/26 13:10
 山田正紀作品にトラウマを背負った主人公が登場する度 “またか” と苦笑したものだが、それは必然的なキャラクター設定なんだな~と反語的に良く判った。
 これと言った傷跡の無い本作のヒロインが、一体どのような動機付けで事件の渦中に踏み込んで行くのか、さっぱりピンと来ない。そこまで彼氏のことを深く愛していた感じではないし、ソ連に対する因縁があるわけでもない。単なる意地と勢いに流されて何度も殺されかけているのであって、しかしそんな意地を張るような性格にも見えない。こういう不自然さがここまで不気味だとは。

 彼女以外の登場人物はそこそこ生きているし、80年代のソ連紀行文としての面白さは感じた。

No.1455 4点 小樽湊殺人事件- 荒巻義雄 2023/05/26 13:08
 期待外れ。作中のミステリ談義で黄金時代に対する共感をアレコレ述べているが、それに見合う実作では全然ない。前半、やる気ありそうでなさそうな主人公と事件との距離感が、私小説とミステリとエッセイの混合みたいな、ちょっと今まで読んだことの無い独特な感じではあったものの、進行につれてどんどん散らかって興味が雲散霧消してしまった。

No.1454 8点 まず牛を球とします。- 柞刈湯葉 2023/05/19 13:13
 ぶっとんだアイデアをシレッと描く理系(風)作家? いまのところ、この平熱の文体が(レトリックの下手な文章家の逃げではなく)作風に必要な一部として成立している。森博嗣の非ミステリ系コメディにSF色を追加した感じ。

 「犯罪者には田中が多い」は、キャラクター小説化が著しい昨今のミステリに対する批評? 「家に帰ると妻が必ず人間のふりをしています。」、微笑ましい “恩返し” だろうと思っていたら、ただ一点に釘を打つだけで彩色不明なホラーに変換! 「大正電気女学生」、流行りのパターンは面白いから流行りになるんだよな、と開き直って好きだと言おう。

No.1453 6点 回樹- 斜線堂有紀 2023/05/19 13:11
 「回樹」「回祭」は、軸になる世界設定はともかく百合紋様にウズウズする。「BTTF葬送」、映画関係は素養が無いのでさっぱり。「不滅」、同作者のミステリ長編を連想してネタが割れてしまった。愛読者ほど損をするシステムってのはどうなんだろう。

 感情を描く為の触媒として異物を持ち込んでいるが、ジャンル性は希薄で、ミステリ作品と共通した “斜線堂有紀の世界” だと感じた。逆に言えば、果たしてSFだけ集める意義があるのだろうか?

No.1452 6点 南海ちゃんの新しいお仕事 階段落ち人生- 新井素子 2023/05/19 13:09
 新井素子が新口語体を引っ提げて登場した時、読者は驚きつつ、その効用は認めつつ、こう思ったのではないか――“若気の至り”。
 実際に、一時期見受けられた亜流は姿を消し、もしくはより広義のライトな文体へ収斂した。あれはあくまで “現象” だったのだ。
 本家以外は。
 デビューから45年を経て、新井素子は変わらず新井素子なのである。しかも本作は二十二歳女子の一人称なので、嫌と言う程あの語り口に浸れる。微妙にくどくてわざとらしくて、しかしこの緩めの設定のSF世界には不可欠。ふわふわと頑固職人道を貫く様に勇気を貰った。

 文体と裏腹に物語作家としてはしっかりした基盤を備えた人であり、ミステリ読みとしては当然、貫井徳郎を連想して、途中で浮かんだ疑問点が最終パートでちゃんと取り上げられていたので深く頷いた。作者も言うように謎は謎のままであるが、この延長で南海ちゃんに謎が解けるかと言うとそういうものではない気がする。

No.1451 6点 魔術の殺人- アガサ・クリスティー 2023/05/19 13:07
 事件発生前から現場に滞在しているミス・マープルも当事者の一人であって、彼女の心が揺れ動いている感じが興味深い。いつもは “途中から首を突っ込んでくる部外者” じゃない? 彼女が来た途端に事件が発生したようにも見えるので、視点が違えば容疑者の一人かも。

 しかし事件の真相を踏まえて顧みると、何だか不条理な設定である。“妹の様子が心配” と言うのは、物語開始の時点では未だ為されていない偽装工作だよね。
 それに事前に言及している姉が実は共犯者で、ミス・マープルを送り込んだのは現場を攪乱する側面的な支援だったのかも(笑)。存在しない毒殺計画を暴いてしまったミス・マープルは無自覚なまま工作の手助けしているわけだから、あとで自分のマッチポンプに気付いて頭を抱えたんじゃないだろうか。この間違え方が面白い。

 「どうして、先生は島に呼ばれたのでしょう?」
 「メタな話はやめなさい」
               (森博嗣「ゲームの国」)

No.1450 5点 世界が終わる灯- 月原渉 2023/05/19 13:06
 密室やアリバイのトリックは確実性に欠けるなぁ。
 “因果応報とでもいうような、運命的ななにかを求めた〈儀式〉である”。
 成程、その解釈はかなり説得力を感じる。グッジョブ! あっ、でも結局は自らの手で射殺しちゃったじゃないか。納得したのに台無しだよ。

 件のヨットに乗り合わせたらどうしよう。
 水も食料も平等に分ける、但し、君が死んだら肉を食うことを許してくれ。
 これがフェアだ。

No.1449 7点 大雑把かつあやふやな怪盗の予告状: 警察庁特殊例外事案専従捜査課事件ファイル- 倉知淳 2023/05/09 12:48
 これはなかなか良く出来ている。良く出来ているだけ、と言う皮肉ではなく、素直な良い意味で。この違いはどこで生じるんだろうか。ぶっとんだような飛躍は無いが、基礎をきちんと備えた作者による端正な本格ミステリに仕上がっていると思う。

No.1448 7点 去年を待ちながら- フィリップ・K・ディック 2023/05/09 12:46
 謎のドラッグ、支配者とシミュラクラム、現実崩壊、と言ったディックの持ち味が全開。言葉を変えればネタの使い回しであるが、その分こなれて来たのか。“崩壊” 感覚はこのくらい判り易い方がいい。『パーマー・エルドリッチの三つの聖痕』では宇宙の孤独を感じたが、ここでは痴話喧嘩をどこまでも引っ張るので地上に縛り付けられたまま。あの妻にはイライラしたな。捨ててしまえ! 結末が弱いのはいつも通り。

No.1447 6点 太陽が死んだ夜- 月原渉 2023/05/09 12:44
 青春ミステリ的な少女の成長譚としての要素が、事件の様相と上手く噛み合っていないような。人死にの数と比べて、心情的に犯人をサラッと赦し過ぎじゃない? 特に “死体の腹を割く” ことが妙に軽く扱われているように感じた。
 舞台がキリスト教系の全寮制女子校だと “いいなぁ” と思うのは、適度に丁寧な言葉遣いのガールズ・トークが好きだから。これが男子校だとわざとらしく粗野になりがちなんだよね。

No.1446 5点 木曜の男- G・K・チェスタトン 2023/05/09 12:44
 書かれている事柄は判るが、他愛のない話。第十三章の追跡行以降急にノリノリになる(さくらももこのナンセンス系漫画みたい)からと言って、免罪符になるわけではない。それで? と言う感じ。

No.1445 5点 からくり富- 泡坂妻夫 2023/05/09 12:43
 トリッキーな演出はネタ切れなのか、事件の裏に潜む人情の機微みたいなものに焦点を移して来たが、それにしては「手相拝見」の真相、身内の情人にスケコマシを頼むってことは、身内が泣く前提で浮気を唆しているわけで、釈然としない。

No.1444 7点 使用人探偵シズカ 横濱異人館殺人事件- 月原渉 2023/05/02 13:19
 ネタバレっぽいけど、アレに切れ込みを入れておく件:最初の落下で切れるかもしれない。逆にその後、都合良くは切れないかもしれない。

 と書いておいて何だが、これは大目に見てもいいかな~。
 物語全体を貫く運命論的構築主義の世界観に読者として気持良く呑み込まれることが出来たからね。どんでん返しも含めて良い意味で予定調和な様式美なので、物理的要素は犯人の目論見通りに作用するってことでいいのだ。
 しかし、“人間金庫” は本気でやる心算だったのだろうか……。

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虫暮部さん
ひとこと
好きな作家
泡坂妻夫、山田正紀、西尾維新
採点傾向
平均点: 6.22点   採点数: 1843件
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