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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1666 6点 三本の緑の小壜- D・M・ディヴァイン 2012/01/03 18:52
”一列に並んだ三本の緑のガラス壜。あの有名なかぞえ歌のように、一本ずつ落ちて割れていく。”

タイトルはマザーグースからのようで、同じ学校の13歳の少女ばかりを狙った連続絞殺事件を象徴しているわけですが、童謡殺人といったケレン味はなく、後半部でさらりと触れられているだけというのがいかにもディヴァインらしい。
本書の特徴は、3人の登場人物によって割り振りされた一人称多視点の採用でしょう。特に情緒不安定の少女シーリアによる語りの第三部はミステリの趣向にも寄与しているところが巧妙だと思った。
ただ、今回は犯人当てとしてはやや分かり易いかな(動機の線から”この人物しかありえない”と思いその通りだった)。

No.1665 6点 キングを探せ- 法月綸太郎 2011/12/31 16:35
法月綸太郎シリーズ久々の長編。
ライトな筆致で力作感はないけれど、4×2枚のトランプ・カードの組み合わせを巡る”頭の体操”的ロジック展開や、終盤の犯人側と綸太郎の頭脳戦の攻防などが流石と思わせます。
「交換殺人」テーマだと、今更ストレートにそれをトリックとして使用できないでしょうし、どうしてもこういったプロットになりますね。そういえば、綸太郎シリーズの短編にも同じように交換殺人をヒネッたのがあったような。
ところで、本書における、法月警視と綸太郎の事件を巡るディスカッションの雰囲気は、クイーン親子というより都筑道夫の「退職刑事」シリーズを髣髴とさせるものがありますね(親子の立場は逆ですけど)。

No.1664 6点 ミステリが読みたい! 2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2011/12/30 11:42
数年前の創刊号の身びいきランキングに唖然として以来、ずっとスルーしてきた「早ミス」を久々に購入。「このミス」を読んだ直後だけに、企画、編集内容を自然と比較してしまいます。

ランキング本といっても結局は新刊本の読書ガイドなわけで、21位以下の作品の扱いに冷たい「このミス」と違って、100位までの作品の内容紹介と寸評がある「早ミス」のほうに軍配を上げる。
さらに、ジャンル別ベスト5、部門別ベスト5と、多角的にランク付けしているのがポイント高し。総合ランキング上位といっても自分の嗜好に合うか分からないから、これなら参考になると思う。(個人的には、海外のキャラクター部門で「天使の護衛」が1位タイというのがうれしかった。笑)

早川書房の作品が多くランクインしているのも、新装ポケミスが頑張った今年に限っては身びいきとは言えまい。

No.1663 6点 名探偵群像- シオドー・マシスン 2011/12/28 23:24
歴史上の有名人物を探偵役に据えた連作ミステリ。おなじみの”親愛なる読者諸氏---”で始まるエラリー・クイーンの序文がかなり熱いです。

収録10編の中で印象に残ったのは、まず最初の「名探偵アレキサンダー大王」。毒殺トリック自体は分かり易いけれど、この意外な犯人像の設定には初っ端から「おおっ」と思った。
看護婦たちを引率してクリミアに向かう行程中の殺人を扱った「名探偵フローレンス・ナイチンゲール」もミスディレクションが巧妙な傑作。ナイチンゲールの性格付けが魅力的でこれは長編で読んでみたい気がした。
その他、”エンデヴァー号”船上の殺人に挑むクック艦長、”見えない人”ネタのレオナルド・ダ・ヴィンチ、アフリカのジャングルでのコンビ探偵・スタンレーとリヴィングストン博士なども面白い。
ミステリとしては手掛かりの”気付き”に重点が置かれたものが多い。なかには不出来なものもありますが、各話それぞれの時代背景や雰囲気はしっかり書けているので、歴史モノ好きには満足いく内容だと思います。

No.1662 7点 影の車- 松本清張 2011/12/27 18:53
昭和36年に月刊誌に連載された連作短編集。連作といっても各話に特につながりはなく、明確な共通するテーマも見いだせないのですが、清張お得意の”日常性のなかに忍び込む闇”が引き起こす7つの殺人事件が収録されています。いくつかの作品は”バラ売り”されていて他社の短編集で既読でした。

第1話の「潜在光景」が個人的にベスト。不倫相手である女性の懐かない子供の異常な行為に焦点を当てながら、ラストにくる構図の反転。名作「天城越え」の姉妹編の様な感じ。
他の収録作はトリッキィな作品が多く、この時代ならではの電報を使ったアリバイトリックの「典雅な姉弟」や、意外な死体の処理方法「鉢植えを買う女」なども印象に残った。
古代史ミステリ+現代の殺人の「万葉翡翠」だけ他の作品と毛色が違っているように思えた。

No.1661 6点 非常線- ホイット・マスタスン 2011/12/25 15:23
マスタスン名義の2作目で、今作もオーソドックスな警察小説でした。
細かく分けられた各章の頭に現在時刻を表示して、警察側の捜査活動と犯人の行動を、刻々とドキュメンタリー風に描く方式がサスペンスを醸し出していて良。拉致された娘・エリザベスの愛称が関係者の立ち位置によって、”ベティ”であったり”リズ”と呼んでいたりで情報がすれ違い、身元がなかなか判明しない経緯など芸もなかなか細かい。その点、あらすじ紹介で娘の意外な身元を明かしているのはもったいない。
ブラサム警部を中心とした捜査側の面々の人物造形の書き込みがやや浅く定型どうりというきらいはあるものの、87分署シリーズが書かれる前年の作品であり、時代を考えたらそのへんは止むを得ないかなと思います。

No.1660 4点 このミステリーがすごい!2012年版- 雑誌、年間ベスト、定期刊行物 2011/12/24 18:51
今年は立ち読みで済まそうかな、と思って行った近所の書店では、なんとビニールに密封されて店頭に置かれていた。「このミス」まさかのビニ本化状態。で、やむなく購入。

ランキング入り作品は年々独自色が薄れているけれど、今年は特に顕著で、ほぼ文春と変わらなくなってしまった(ベスト3は国内、海外ともまったく同じ)。来年は一般投票を取り入れるらしいが、そうすると今度は昔の文春のようなランキングになったりして。

企画のほうは、”我が社の隠し玉”ぐらいしか興味が湧かない。論創社の「ウィザーズ&マローン裁判」に期待したいが、それより論創社さん、去年の隠し玉で予告した、クェンティンやクリスピンはどうしたのでしょう?

”このミス大賞作家極上ミステリー特別書き下ろし!”と称して、今年も宝島社お抱え作家の短編が4編収録されているのだけれど、今回初めて読まさせていただいた。
いずれも思っていた以上に筆が立っており(ハードルを低く設定したこともあり)、小粒だけど「クリスマス・テロ」や「YESか脳か」なんか結構面白い。ミステリというよりエンタメ小説といった感じでしたが。

No.1659 5点 大統領のミステリ- リレー長編 2011/12/23 13:45
現職大統領フランクリン・ルーズヴェルトが考えたプロットを、当時(1935年)のアメリカを代表する7人の作家が分担して書いたリレー形式の長編ミステリ。
この数年前に英国で発表された「漂う提督」と比べると、まとまりが良すぎて、リレー・ミステリ特有のギクシャク感がないのが、かえって物足りない。また、謎解きの要素が少ない通俗クライム・ミステリといった内容で、展開がやや冗長に感じた。
ヴァン・ダインが担当した章では、マーカム地方検事やヒース部長刑事を登場させ、アンソニー・アボットはサッチャー・コルト市警本部長を出しているのですが、最後は、E・S・ガードナーのペリイ・メイスン弁護士に美味しい所を持っていかれてます(笑)。

No.1658 6点 謎解き名作ミステリ講座- 事典・ガイド 2011/12/21 18:28
月刊誌に連載時のタイトルは「80年代生まれとミステリを読む」で、読書の中心が新本格以降の国産ミステリというイマドキの大学生を相手にして、名作ミステリをその書かれた時代背景を踏まえて紐解くという講義録のダイジェスト。

毎回、前振りや余談の部分が多いのだけど、名作ミステリの残された謎や瑕疵と思える矛盾点を、著者なりに謎解くという趣向があり、これが面白かった。
たとえば「キドリントンから消えた娘」では、瀬戸川猛資氏の『夜明けの睡魔』のなかで、”見逃せない大きな瑕疵”とされたバレリーの手紙の矛盾とか、「点と線」の東京駅の4分間に関する矛盾を解消させる試みなど、佳多山氏なりのマニアックで強引なロジックながらも興味深く読めた。
本書の性質上、古今東西の名作のネタバラシが前提になっているので取り扱い注意ではありますが。

No.1657 6点 メグレと消えた死体- ジョルジュ・シムノン 2011/12/20 22:17
又聞きの不確かな目撃証言と決定的とはいえない状況証拠で男を警察に引っぱり、心臓病の気があるその男に対して夜を徹する長時間の尋問を行う。警察の待合室には容疑者の年老いた母親が心配して徹夜で付き添う状況・・・・・。
人権擁護団体や弁護士会から訴えられそうなメグレの強引な捜査が気になるのですが、後半部ほとんどを占める尋問場面、容疑者と母親に対峙するメグレの心理戦がなかなか迫力がありました。
登場人物では、過去にメグレと関わったエピソードをもつ通称”のっぽ”の元売春婦がいい味出してます。

No.1656 5点 スパイダーZ- 霞流一 2011/12/18 21:23
本格パズラーと警察小説のハイブリッドというだけでなく、B級アクション、バカミス密室トリック、操りの構図(なにせ、スパイダーですから)など、多彩なミステリ趣向を盛り込んだなかなかの力作だと思います。
問題は、自分が信じる”正義”のためには手段を選ばない主人公の刑事・唐雲の人物造形にあって、この人物に感情移入することは難しいでしょう。
むしろ、ノワールまたはサイコミステリが好みの読者のほうが合うかも。

No.1655 6点 気どった死体- サイモン・ブレット 2011/12/16 18:46
裕福な高齢者限定の長期滞在型ホテルで起きた不審死と宝石盗難事件に遭遇したホテルの新しい住人パージェター未亡人は、亡き夫から伝授された”特殊技術”を使って探偵活動に乗り出すことに......。

サイモン・ブレットのもう一人のシリーズ・キャラクター、パージェター夫人が登場する第1作。俳優パリス・シリーズ同様に、シニカルな英国式ユーモアがちりばめられていますが、コージー系のミステリとはちょっと違います。
殺人者の独白をところどころで挿入したり、終盤に真犯人と思しき人物が次々と変転(二転三転どころか、五転六転)する非常にスリリングな展開で読者を翻弄させてくれます。ただ、推理して真相に至るには伏線不足の気がしますが。
日記や宝石などの小道具をミスリードに使う手法が巧妙で、心地いいヤラレタ感を味わえますよ。

No.1654 5点 帝王、死すべし- 折原一 2011/12/14 19:03
いつもの折原流叙述ミステリ。しかし、これはちょっと微妙な出来かな。
復讐者の手記や父親が行動を起こすというプロット、タイトルから、ニコラス・ブレイクの「野獣死すべし」を意識させつつ、最後に・・・・という流れは、折原の通読者であれば仕掛けを察することは容易でしょう。もうひとヒネリ欲しかった。
今回の三面記事ネタ、京都伏見の「てるくはのる」事件は、あまり本筋と連動していないように思えるのも難点。

No.1653 6点 棺のない死体- クレイトン・ロースン 2011/12/12 18:54
奇術師探偵グレート・マーリニが登場する4作目で、シリーズ最後の長編。
墓場からよみがえる死者、心霊写真にポルターガイスト現象、密室状況からの人間消失など、ディクスン・カーをも凌駕するような怪奇趣向と不可能興味がテンコ盛りですが、ワトソン役で今回は主人公格のロス・ハートの軽い語り口と相殺されて、サスペンスはあまり感じません。色々な不可解な事象も拍子抜けする常識的な真相であったり、オリジナリティの点で問題があったりします。
それでも、終盤のフーダニットを巡っての二転三転する多重解決の部分は大いに楽しめました。
ワトソン役、担当警部補、探偵役の順に推理を披露する設定において、(細かいロジックは別にして)この結末の処理方法はなかなかユニークだと思う。

No.1652 5点 第四の男- 石崎幸二 2011/12/10 11:40
会社員・石崎とミス研女子高生たちによる、お笑い&本格パズラーの第8弾。
女子高生にはいびられ、女性刑事にはビンタを浴びるという、作者の被虐趣味?が横溢するギャグはマンネリもあって今回はややトーン・ダウンぎみですが、誘拐未遂事件につづく犯行声明文の隠された企みや、密室内の血痕の謎など、ミステリの構成としてはよく出来ているのでは。

No.1651 5点 不自然な死体- P・D・ジェイムズ 2011/12/08 18:24
ダルグリッシュ警視シリーズの3作目。
”自然死に見せかけた殺人”を扱ったセイヤーズ「不自然な死」を意識しながらも、両手首切断という自然死を否定する死体を発端にもってきて、もう一段捻っています。その切断理由もまあ納得いくものです。
精緻な心情描写と重厚な筆致というジェイムスらしさは、半分を占める第1部までは覗えるのですが、休暇中で管轄外のダルグリッシュが本格的に捜査に乗り出した後半はやや駆け足ぎみかな。トリックはなかなか面白いのだけど、木に竹を接いだような感じを受けた。

そういえば、本日ついにメジャー挑戦を表明!・・・って、そっちは、ダルビッシュ(笑)。

No.1650 6点 ビブリア古書堂の事件手帖2- 三上延 2011/12/06 18:27
北鎌倉にある古書店の美人店主・栞子さんと古書にまつわる日常の謎。ビブリオミステリの第2弾。

題材となった古書のトリビア・ネタに寄りかかっているもの(第2話など、その知識があればタイトル自体がネタバレ)があるが、青春恋愛ものの要素も加わり、今作も爽やかで読み心地が良かった。
ミステリの趣向では、第1話の「時計じかけのオレンジ」が面白い。前作までの流れがあるから、栞子さんの最後のオチが効いてくる。

No.1649 6点 雪どけの死体- ロバート・バーナード 2011/12/05 18:11
舞台はノルウェー北部の町トロムソ。雪の下から発見された旅行者らしき英国青年の殺害死体を巡る非シリーズもののミステリで、第1章が「真昼の黄昏」、最終章が「真夜中の太陽」と題されていて、この北極圏の町の季節の変遷を章題で表わすところがニクイです。
これまで読んだバーナード作品は家庭内の事件を扱ったものばかりでしたが、本書は、チャールズ・ブラウンと名乗っていた被害者の足跡をたどるファーゲルモ警部の捜査を中心に展開されていて、警察小説の趣きが強い。ノルウェー国内ならず英国まで飛んで証言を得る関係者一人一人のキャラクターがまた例によって変に個性的で、これがバーナードの一番の特徴でしょう。捜査過程も面白いが、終盤の真犯人との対峙、心理戦もなかなかスリリングでした。

No.1648 6点 要介護探偵の事件簿- 中山七里 2011/12/03 18:18
下半身が不自由な車椅子の老社長が探偵役を務める連作短編集。
不動産会社を一代で興し名古屋の政財界で絶対的な影響力を持ちながら、警察や権力に対して反骨精神旺盛なこの主人公・香月玄太郎がなかなか面白い。ミステリとしては独創性に欠けるかなぁと思いつつ、キャラクター小説として楽しめました。
収録作のなかでは、銀行強盗の現場に巻き込まれる第4話「要介護探偵と四つの署名」が個人的にイチオシです。
主人公の玄太郎や介護士のみち子さんなど、登場人物の何人かは「さよならドビュッシー」からのスピン・オフですが、そっちを読んでおくと最終話「最後の挨拶」の趣向がより効いてきます。

No.1647 5点 トム・ブラウンの死体- グラディス・ミッチェル 2011/12/01 18:29
魔女の血を引く心理学者ブラッドリー夫人を探偵役に据えたシリーズの22作目。
魔女らしき老婆の存在というオカルト要素は、ブラッドリー夫人が事件に関わるキッカケでしかなく、宙に浮いている感じがするが、これはまあお約束のようなものか。
パブリック・スクールの学生寮を舞台に、教師たちとその家族の複雑な人間関係を紐解きながら、生徒たちの様々な生態が挿入されているのは、タイトルの元となった19世紀の英国小説「トム・ブラウンの学校生活」が念頭にあるのでしょう。いつもながら、子供を登場させると描写が活き活きしているように感じる。ただ、ミステリとしては徒に解決を先延ばししている感がありキレがないように思う(あの証言が出てこないから解決しないだけでは・・・・)。

このシリーズ1929年から84年にかけて66作も書かれているようで、現在7作の邦訳があるのですが、その版元が本書の早川書房をはじめ国書刊行会、晶文社、河出書房新社、長崎出版、論創社、原書房と、単行本クラシック・ミステリ出版社勢ぞろいというのがすごい。しかも、どの出版社も2冊目を出す気配がない(笑)。

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