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kanamoriさん
平均点: 5.88点 書評数: 2474件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1714 6点 野蛮なやつら- ドン・ウィンズロウ 2012/04/01 22:32
”犯罪小説というジャンルの枠を叩き壊し”ているかは分からないが、シナリオ風のセンテンスを織り込み、スラングや作者の造語で溢れ弾けた文体は、ウィンズロウ節の進化形なんだろう(このあたりは、3作ぶりに還ってきた翻訳の東江さんの功績もあると思う)。細かく章割されていることもあって読む者をグイグイ引っ張ってくれる。

同じ様にメキシコの麻薬カルテルとの戦いを描いた「犬の力」が先にあるだけに、それと比べると物語が小粒でストーリーに新味が感じられない点はあるが、主人公・男女3人の関係は、作中でも触れられている映画「明日に向かって撃て!」を髣髴とさせるところがあってよかった。脇役のオフィーリアの母親もいい味出してます。

No.1713 7点 田沢湖殺人事件- 中町信 2012/03/30 18:10
脳神経科の権威・堂上の妻で推理作家の美保が、中学の同窓会に出席したあと田沢湖で変死する。妻が15年前のある事件について調査していたのを知る堂上は、関係者に会い妻が殺害されたと確信する、というのが粗筋です。

これは中町信の会心作でしょう。15年前の中学の密室事件のトリックはユニークだけど冷静に見ればバカミスとも言えますし、2本のアリバイ・トリックのうち時刻表トリックは土地勘がないとピンとこないもので、個々のトリックは大したことはないです。しかしながら、美保の残した手紙の断片が挿入される構成の妙と、プロット全体に施された〇〇を誤認させる工夫が秀逸です。プロローグも、作者の他作品と比べ露骨な叙述トリックになっていないのも好感が持てる。

No.1712 5点 グレタ・ガルボに似た女- マイ・シューヴァル&トーマス・ロス 2012/03/29 20:33
マルティン・ベックシリーズが完結し、同時期に共同執筆者だったご主人のペール・ヴァールーが亡くなったこともあり、長らく休筆状態だったマイ・シューヴァルが15年ぶりに出した長編ミステリ。
今回のパートナーはオランダの作家ですが、「女刑事の死」のロス・トーマスだとエドガー賞作家同士の合作か、と早とちりしてました。ロス・トーマスじゃなくトーマス・ロスなのでした(苦笑)。
スウェーデンとオランダ、居住国も言語も異なる作家二人の合作ということで、その執筆方法の煩雑さについて”あとがき”にも触れられていますが(ベックシリーズ同様に章毎に交互に書いていく方式)、やはりその結果、完成度は落ちるといわざるを得ません。中年男たちの追跡調査はそれなりに読みどころがあるのですが、若い男女の逃避行のパートは書き込み不足だと思います。なぜ、そこまで苦心して合作にこだわったのかが分からないですね。

No.1711 6点 方丈記殺人事件- 斎藤栄 2012/03/28 18:17
”奥の細道”、”徒然草”に続く「古文」殺人事件シリーズの3作目。鴨長明暗殺説や方丈記の暗号など、一応のネタ振りはあるものの、歴史の謎は単なる装飾に過ぎずメインではありません。

大学助教授の失踪事件と、三重塔で死体が発見された女性金融業者の事件という、並行して語られる一見関連のない二つのストーリーが、最後に合流し驚きの真相が立ち現れるという構成で、確かにサプライズ感はあるのですが、地の文に虚偽と言える記述があり、現代の感覚ではアンフェアになってしまうのが惜しいところです。
三重塔の空間密室のトリックは、ドリフの大道具を使ったコント・レベルで笑えます。

No.1710 6点 火神被殺- 松本清張 2012/03/27 20:28
バラエティに富んだ5編収録の短編集。
表題作「火神被殺」は、古代史の論考と現代の殺人を結びつけた「陸行水行」や「万葉翡翠」などに連なる作品。古事記と出雲風土記をネタに、神による神殺しのエピソードに見立てた死体状況が絶妙のミスディレクションになっている。
「奇妙な被告」は裁判モノ。”自白の任意性”を逆手に取ったトリックは現代でも十分あり得るものだと思う。
「神の里事件」は神道系の新興宗教教団内の二重殺人事件。凶器の隠蔽や人物に関するトリックなど、かなり本格ミステリしてますが、播磨風土記などのウンチクを読むのが少々キツイ。
そのほか、私小説風の物語からクライムミステリに変わる「恩誼の紐」の暗さが、道尾秀介の最近の作品を連想させる内容でした。

No.1709 5点 北京悠々館- 陳舜臣 2012/03/26 20:35
日露開戦前夜、清朝末期の北京を舞台背景にした本格ミステリ+スパイ謀略スリラー。
緊迫した国際情勢のなか、清朝の動勢を探るよう任務を背負わされた書画商の土井は、政界のフィクサー的人物の館を訪れ工作を終えた後、石造りの密室で主人の刺殺死体に遭遇する・・・・・。

不可能殺人の趣向はまあ大したことがない、というか残念レベルですが、当時の中国社会や政治情勢など”大陸人気質”のようなものが垣間見れて興味深かった。事件の構図もそういったものが伏線になっており、いかにも中国人がらみの謀略スリラーという感じがする。

No.1708 6点 77便に何が起きたか- 夏樹静子 2012/03/25 18:58
表題作の旅客機をはじめ客船、鉄道などの乗り物を題材にした5編収録の本格ミステリ中短編集。

表題作は、爆破墜落した旅客機の乗客の1割が同じ地方都市のお互い無関係の住民だったという謎。ミッシング・リンクを探る捜査過程がスリリングな力作だが、そんな不確かな情報で決行するか?....という感も。
「ローマ急行殺人事件」が、アンチ安楽椅子探偵ものというべき問題作。”オリエント急行”のネタバラシからこういう着地点に持ってくるとは予想外でした。
そのほか、「特急夕月」「山陽新幹線殺人事件」の2編も本格ミステリ読みを皮肉ったところがあり面白い。

No.1707 5点 鳴き竜殺人事件- 草野唯雄 2012/03/24 16:47
重要文化財・東照宮薬師堂の”鳴き竜復元計画”に携わる大学で、女子大生と研究室助手の不審死が連続して発生。復元作業担当の教授・水野は、老刑事に協力し真相究明に乗り出すが.....というストーリー。

犯行現場で見つかった特殊な紐の結び方だけで、27年前の戦時中の殺人と関連づけるなど、ご都合主義で強引な展開が目立つ作品です。すべては、最終章で明かされる意外な真相のためなのですが、そのアイデア自体は評価できるものの、そこに至るまでの展開が巧いとは言い難いです。

No.1706 7点 真夏の妖雪- 小林久三 2012/03/23 22:08
幕末、明治、大正時代の史実に取材した歴史・時代ミステリの短編集。
赤痢騒ぎのさなか、明治天皇行幸下の陸軍大演習予定地の村での密室殺人を扱った「血の絆」がよかった。この時代と設定ならではの意外な動機に説得力がある。
表題作の「真夏の妖雪」も力作。殺された岡っ引きが懐中に雪を抱いていた理由はやや肩透かしの感があるが、老岡っ引きの執念の捜査と、凝らされた陰謀の構図は読み応え十分。
そのほか、関東大震災に絡む謀略を描いた「焼跡の兄妹」や、大正の大疑獄・シーメンス事件が題材の「海軍某重大事件」など、作者の立ち位置はいずれも”反権力”で、「暗黒告知」と同じ路線の”社会派歴史ミステリ”とでも呼称すべき作品集となっています。

No.1705 5点 未亡記事- 佐野洋 2012/03/22 20:26
地方新聞社を舞台にした初期の本格ミステリ。
タイトルは”実際は死んでいない人の死亡記事”というぐらいの意味です。

長編ながら正味3時間ほどで読めるお手軽さはいいが、やはり物足りない感は否めない。
いわゆる「顔のない死体」をメインにしながら、ひとヒネリした展開ですが、今やこのパターンで意外性を捻出するのはむずかしいのではと思います。ただ、事件の前の”政治部長の妻”から新聞社への虚偽電話の真意は面白い。

No.1704 5点 殺人者は道化師- 梶龍雄 2012/03/21 22:04
軽井沢の別荘に住む謎の女性・リラ夫人の探偵譚7編収録。
読者サービス的な官能シーンが適度に挿入されていますが、どの作品も骨格はきっちり本格ミステリしてます。探偵助手で奔走するボーイッシュな少女の言動がいかにもカジタツ風で、その点は馴れが必要です。
このような”裏の顔”をもった探偵役というのは当時の国内ミステリでは珍しいと思うのですが、枚数の関係もあって設定があまり活かされていないのはもったいない感じがします。
個々に見てみると、とくに飛び抜けた傑作と言うのはないが、アリバイ奪取トリックの「女優エリカの悪夢」がベストかな。密室状況からの宝石消失トリック「消失の闇」もまずまず。どちらもさりげない伏線が効果的に使われています。

No.1703 6点 赤い森の結婚殺人- 本岡類 2012/03/20 18:35
信州にある高原のペンション”銀の森”のオーナーが素人探偵を務める本格ミステリ。「白い森の幽霊殺人」に続くシリーズの2作目です。
驚天動地の大仕掛けがあるわけではないが、いくつかの物理的トリックを織り込んだ全体のプロットは一定水準をクリアしていると思う。樫尾刑事から情報が入る毎に、何度も仮説を組み立てては崩していく探偵役のオーナー里中の推理過程が丁寧に描かれているのも好印象。
結婚披露宴会場のゴンドラからの花嫁消失トリックの仕組みはだいたいの予想がついたが、焼死体の手首の役割は意外だった。ただ、いきなりの軌道修正でそこまでやれるものだろうかという疑問はある。

No.1702 6点 Sの悲劇- 中町信 2012/03/19 18:58
現在のところ作者唯一の短編集。ユーモアで味付けするとか個性的なキャラクターの探偵役を登場させるなどの余分な一般受けの要素が全くない、愚直なまでにトリックにこだわった本格パズラーが7編収録されています。

表題作「Sの悲劇」は、無理のないダイイングメッセージはいいが、伏線があからさまで犯人当てとしては安易。
「死の時刻表」は、容疑者3人の中から真犯人を特定する手掛かりがユニークな良作。
「裸の密室」は、作者の長編で多用するようなプロローグが巧妙なミスリードになっている上に、密室トリックが暴かれるキッカケも面白い。これが個人的ベスト。
「カブトムシは殺される」これも密室状況を解明する手掛かりが秀逸。「サンチョパンサは笑う」の写真による偽アリバイは平凡。「312号室の女」のアリバイ工作はある長編の原型らしいが、内容を憶えてないので楽しめた。「動く密室」は、自動車教習所ならではのアリバイ工作と錯誤による密室。両トリックともよく考えられており、これが準ベスト。

No.1701 5点 私だけが知っている 第1集- アンソロジー(出版社編) 2012/03/18 17:57
昭和30年代にNHKで放映されたドラマ形式の推理クイズ番組「私だけが知っている」のシナリオ・アンソロジー。
鮎川哲也、土屋隆夫、笹沢左保、島田一男など、当時の”新進気鋭”の推理作家が脚本を書いており興味深く読んだ。夏樹静子はまだ慶応大学在学中か卒業したばかりで、本名の五十嵐静子名義になっている。

史料的な意味合いもあるので、記念すべき第1話「三等寝台事件」など、謎解き物としては不出来の初期作品も収録されてますが、プロ作家が担当した数作は楽しめたものもある。
鮎川の吹雪の山荘もの「七人の乗客」、笹沢の足跡トリックの変形「見えない道」、土屋のリンゴ1個から真相が割れる「死の扉」の3作が印象に残った。また巻末に、NGなしの生放送ゆえの失敗談も載っていて、そっちも面白い。
映像で伏線や手掛かりを提示するドラマ形式という番組の性質上、シナリオだけでは限界があるので、イラストや見取図を載せる工夫もあってよかった。

No.1700 3点 愚者は怖れず- マイケル・ギルバート 2012/03/17 17:45
シリーズ探偵のヘイズルリック警視も端役で登場しますが、本書は謎解きの要素はあまりなく、ジャンルでいえば”社会派スリラー”というのが適切でしょうか。

終戦間もないロンドンが舞台で、男子中学の校長・ウェザロールが、食品の闇市場を牛耳る犯罪組織に脅迫を受けながらも立ち向かっていくというストーリーですが、正直言って面白さが判らなかった。
プロットが充分に整理されておらず、意味を読みとれない文章が時々出て来る翻訳のせいもあって読みずらい。また、頑固で正義感の強い主人公ウェザロールの心情描写がほとんどないので感情移入もできない。

No.1699 6点 いわゆる天使の文化祭- 似鳥鶏 2012/03/16 21:56
高校生・葉山君と卒業生・伊神先輩が探偵役を務める学園ミステリ、シリーズの第4弾。

日常の謎を長編でやるのは難しい面もあると思うのですが、なるほど今回はそうきましたか。途中で何となく違和感があったものの終盤まで見抜けなかった。読み直してみるとなかなか巧妙な仕掛けになっていました。
ただ、いろいろ詰め込み過ぎてプロットがゴチャゴチャしており、スッキリ騙されたという感じにはならなかった。たとえば化学準備室のエピソードはいらなかったのではと思う。

No.1698 6点 ホット・ロック- ドナルド・E・ウェストレイク 2012/03/14 22:26
不運な泥棒ドートマンダーの初登場作品。
リチャード・スターク名義の”悪党パーカー”と同様に、犯罪プランナーを主人公とした金品強奪もののクライム・ミステリながら、こちらはスラップスティックな味付けが特徴です。

シリーズの後の作品群は、ドートマンダーを悲惨で笑える窮地に立たせるドタバタ劇が興味の中心なんですが、第1作の本書は意外と強奪方法のハウダニットにも力点が置かれていてテイストがだいぶ違います。
目的の”ブツ”エメラルドの所在が、展示場から警察ビル、精神病院、銀行など次々と変転するたびに、繰り出す強奪計画が段々と過激になっていくのが笑える。一種の連作短編の趣もあります。
小悪党の仲間、相棒のケルプ、運転役のスタン・マーチのレギュラー陣は、まだ持ち味全開じゃあないのが少々残念。

No.1697 4点 歪笑小説- 東野圭吾 2012/03/12 21:59
出版社や小説家先生の生態をネタにしたユーモア連作集。
本書の原稿に目を通した時の、版元・集英社担当者のリアクションを想像して読むのも面白いかも。

ただ、これまでの「〇笑小説」シリーズと比べると、ブラックさや過激さが減退していて、変に編集者や若手作家に対して気を使っているように思えるのは気のせい? 
今の東野圭吾なら何を書いても許されると思うんですが(笑)。

No.1696 7点 ふくろうの叫び- パトリシア・ハイスミス 2012/03/11 16:53
”パラノイアの女王”と称されるハイスミス中期の心理サスペンス。短編のような研ぎ澄まされたキレ味は感じなかったが、その分思ったより読みやすい。
主人公のロバートをはじめ、いずれも精神状態が不安定な男女4人が織りなす恋愛トラブルが悲劇に発展していくという話ですが、読者の不安感を煽るように登場人物たちが徐々に壊れていく様の描き方が巧妙です。とくに離婚したばかりの元妻ニッキーのロバートに対する悪意・嫌がらせの連打は作者の真骨頂でしょう。
女性の家を覗き見するロバートという冒頭のシーンを読んだ時には、終盤になってこの人物に感情移入することになろうとは思わなかった。

No.1695 5点 ブンデスの星、ふたたび- 井上尚登 2012/03/09 18:12
プロ・サッカーチーム”ビッグカイト相模原”のホペイロ(用具係)坂上君が、選手やスタッフがらみの日常の謎を解く、シリーズの第3弾。

今回は、提示される謎が今まで以上に魅力に欠ける印象で、真相も分かり易いものが多くミステリ的には低調です。スタッフ仲間のドタバタ劇では、洗濯係の光恵さんのキャラが相変わらず強烈ですが、一方でマンネリ感も否めず。と、思っていたら、撫子さんのケータイ紛失事件の最終話は、連作ミステリならではの”意外な犯人像”の設定で◎でした。

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