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[ 警察小説 ]
非常線
ホイット・マスタスン 出版月: 1958年01月 平均: 6.00点 書評数: 2件

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東京創元社
1958年01月

東京創元社
1962年01月

No.2 6点 人並由真 2019/11/20 12:10
(ネタバレなし)
 1950年代のカルフォルニア(訳文の表記ママ)。その日の深夜零時前後、25歳の保険外交員オーエン・クラークは、恋人のエリザベスとドライブデートを楽しんでいた。だが車を停めていた二人のもとに、警官を装う拳銃を持つ男が猥褻な興味で接近。オーエンから偽警官だと見破られた男は彼を殴って意識を失わせ、そのままオーエンの車を奪い、気絶させたエリザベスとともにどこかに逃げ去った。パトカーで巡回中の警官、ゲリティーとシャベスの二人はやがて千鳥足で歩くオーエンを発見。頭部への衝撃で意識が朦朧としていたオーエンは当初酔っ払いかと思われるが、警察医ケネス・フレイジーの診断で他者から暴行を受けたと判明する。事件性が認められる中でオーエン本人の記憶も戻り、地元警察の「石頭」ことマーロ・ブラサム警部の指揮のもと、拉致された若い娘を救うべく深夜の非常線が張られるが……。

 1955年のアメリカ作品。作者マスタスン(別名義ウェイド・ミラー)が書いたガチガチの警察小説で、評者の大好きな50年代アメリカミステリの気分を満喫できる一冊。
 プロローグから小説本文に深夜零時を表意する小見出しがあり、その後は映画のようなカットバック切り替え手法で視点を分散、経過するリアルタイムの時刻を表示しながら物語が進行。そのうえで本書の原題から、この作品がどんな趣向かは分ってしまう。
(いや「そういう小説の作り」だろうということは、最初から察しがつく種類の作品なので別にいいのですが。)
 
 もうひとつの大きな趣向は、先にレビューをされているkanamoriさんが書いている人間関係のちょっとした意外さで、これも小説の前半~半ばには明らかになるが、まああえて最初から読者が知る必要もない(今回のレビューのあらすじでもその辺はぼかした)。
 今回、評者の家には旧クライムクラブ版と創元文庫版の双方があり、翻訳がたぶん同じなら珍しい版の方がいいやと思って前者の方で読んだので、kanamoriさんが被った創元編集部のあらすじでネタバレされる災禍は逃れた(旧クライムクラブの書籍本体には、あらすじの類がない)。

 先にちょっと触れた「そういった構造」の作品なので、ストーリーは呆れるほどテンポ良く進み、途中で話の流れを潤滑にするためやや捜査陣側に都合良すぎる部分もあるが(わざわざ深夜に警察に自発的な情報をくれる善きサマリア人的なキャラクターの登場など)、まあ職人作家の読み物小説として見ればぎりぎり許容範囲か。
 警察と事件関係者、犯人自身、それらをひっくるめた群像劇的な側面もあるこの作品は当然ながら各キャラ同士のサイドストーリーも面白く、特にブラサム警部の部下でハンサムな巡査部長フロイド・ジャンセンと、警察本部の美人の通信スタッフ、ツルディ・エルンストのちょっとだけラブコメっぽいやりとりなど良い味を出している。本書を最終的に気持ちよく読了できるのは、その辺の味付けも大きい。
 
 なおこの作品、(創元文庫版で読むならば)あらすじは事前に見ない方がいい一冊ということになるが、登場人物一覧の方は良くも悪くもやや微妙。
 というのは(評者の場合クライムクラブ版での話だが)登場人物一覧の方は、やはり軽い? ネタバレになる危険性もある一方、なかなか名前の出ない「逃走する変質者」が登場人物表にある名前の誰なのか、という興味で読むことも可能だから。同時にそうすると、この人物は小説内でどういう役割を負うのだろう? という種類の関心が膨らんでくるキャラクターの名前もあり、そういう意味では人物一覧表が機能した作品ではあった。
 3時間で読み終えられる佳作~秀作。好きか嫌いかといえば当然かなり好き。 

No.1 6点 kanamori 2011/12/25 15:23
マスタスン名義の2作目で、今作もオーソドックスな警察小説でした。
細かく分けられた各章の頭に現在時刻を表示して、警察側の捜査活動と犯人の行動を、刻々とドキュメンタリー風に描く方式がサスペンスを醸し出していて良。拉致された娘・エリザベスの愛称が関係者の立ち位置によって、”ベティ”であったり”リズ”と呼んでいたりで情報がすれ違い、身元がなかなか判明しない経緯など芸もなかなか細かい。その点、あらすじ紹介で娘の意外な身元を明かしているのはもったいない。
ブラサム警部を中心とした捜査側の面々の人物造形の書き込みがやや浅く定型どうりというきらいはあるものの、87分署シリーズが書かれる前年の作品であり、時代を考えたらそのへんは止むを得ないかなと思います。


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