皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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[ 本格 ] トム・ブラウンの死体 ミセス・ブラッドリー |
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グラディス・ミッチェル | 出版月: 1958年01月 | 平均: 5.33点 | 書評数: 3件 |
早川書房 1958年01月 |
No.3 | 6点 | 人並由真 | 2021/08/25 06:31 |
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(ネタバレなし)
第二次大戦の終結からしばらくした、その年の10月。英国の一地方スピイ村にある、寄宿制のパブリック・スクール「スピイ校」の周辺で殺人事件が起きる。殺されたのは歴史とラテン語を教える青年教師ジェラルド・コーンウェイで、その死因は溺死。だがその死体は水気と関係のない、スピイ校の経済学とフランス語の教師ベネット(ベニイ)・アーチェロ・ケイの自宅の庭で発見された。アマチュア名探偵として知られる有名な精神病理学者ビアトリス・レストレェンジ・ブラッドリイ夫人は、この事件に介入。やがて女好きでレイシストで性格の悪い被害者が、周囲の多くの者と問題を起こしていたことが明らかになってくる。 1949年の英国作品。ミセス・ブラッドリーシリーズ(本作ではブラッドリイ表記)の第22弾。 こないだ読んだレオ・ブルースの『死の扉』の作中でミステリマニアの登場人物がやたらグラディス・ミッチェルをホメていたのに関心を煽られて、少年時代に古書店で200円で買ったまま死蔵していたこのポケミスを読んでみる。 しかし巻頭の登場人物一覧表に並ぶキャラクターだけで20数人、実際にメモを取ると名前がある人物だけで70人前後に及ぶ(……)。これをメモするだけで、かなりのカロリーを使った(汗)。 ただしストーリーそのものは、それだけ多数の人物を予想以上に器用に明確に使いこなしており、テンポよく物語を紡ぎあげていく感じ。思ったよりもダレない。ポケミス本文で約300ページの物語を、いっきに一晩で読んでしまった。 ローカルなパブリック・スクールを舞台にした、いわゆるコージー風味のフーダニットパズラーとしては、少なくとも読んでいるうちは退屈しないで楽しめた。 が、最後の真犯人の決着については、先にレビューのお二人のおっしゃっている通り、キレもないし、やや唐突。その人間が犯人という必然性もイマイチなような……? なにより、死体移動の謎の真相については、なんだやっぱりそんなものですか、という感じで、腰砕けも甚だしい。 というか、コレ、ずっと先行して書かれた、黄金時代の別の作家のあの短編のアレンジだよね? たしかに、ブラッドリイ夫人と、作品の印象を強めるキーパーソンで重要人物の一人といえる(ようなそうでないような)「村の魔女」レッキイ・ハリーズとの<あの場面>だけはインパクトあったが……もしかしたらグラディス・ミッチェルって、こういうのがスキなのか。 評者は本作と『タナスグ湖』しかまだ読んでいないけれど。 まあとにかく、読んでる間はなかなかワクワクできた。 他の感想サイトなども含めて、ミッチェルはもっとなんかクセのある作品もありそうなので、また機会を見て読んでみたい。 しかしkanamoriさんのご指摘で気が付いたけれど、本当に日本では、同じ出版社が2冊以上続けて出してくれないのだな。よっぽど売れないのか。 じゃあ次は、まだ出してない創元あたりに、ひとつ未訳作の発掘をお願いしたい。 |
No.2 | 5点 | nukkam | 2016/07/14 14:13 |
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(ネタバレなしです) 1949年発表のミセス・ブラッドリーシリーズ(本書のハヤカワポケットブック版ではブラッドリイ夫人)の第22作です。解説によればこのタイトルはトマス・ヒューズ(1822-1896)の「トム・ブラウンの学校生活」(1857年)をもじっているらしいです。ちなみに本書にはトム・ブラウンという名の人物は登場しませんし、私はヒューズの作品を読んでいないので本書との関連性があるのかどうかはわかりません。中盤のビネ=シモン式知能検査法の場面は江戸川乱歩の短編「心理試験」(1925年)を読んだ人なら思わずニヤリとしそうです。ミッチェルの作品としては「おとなしい」という評価が多いようですが最終章の衝撃は「ソルトマーシュの殺人」(1932年)や「タナスグ湖の怪物」(1974年)にも劣らないと思います。推理説明が物足りなくて真相に唐突感があるのがちょっと不満です。 |
No.1 | 5点 | kanamori | 2011/12/01 18:29 |
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魔女の血を引く心理学者ブラッドリー夫人を探偵役に据えたシリーズの22作目。
魔女らしき老婆の存在というオカルト要素は、ブラッドリー夫人が事件に関わるキッカケでしかなく、宙に浮いている感じがするが、これはまあお約束のようなものか。 パブリック・スクールの学生寮を舞台に、教師たちとその家族の複雑な人間関係を紐解きながら、生徒たちの様々な生態が挿入されているのは、タイトルの元となった19世紀の英国小説「トム・ブラウンの学校生活」が念頭にあるのでしょう。いつもながら、子供を登場させると描写が活き活きしているように感じる。ただ、ミステリとしては徒に解決を先延ばししている感がありキレがないように思う(あの証言が出てこないから解決しないだけでは・・・・)。 このシリーズ1929年から84年にかけて66作も書かれているようで、現在7作の邦訳があるのですが、その版元が本書の早川書房をはじめ国書刊行会、晶文社、河出書房新社、長崎出版、論創社、原書房と、単行本クラシック・ミステリ出版社勢ぞろいというのがすごい。しかも、どの出版社も2冊目を出す気配がない(笑)。 |