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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1786 7点 骨の刻印- サイモン・ベケット 2012/08/21 22:16
法人類学者デイヴィッド・ハンター、シリーズの2作目。前作の閉鎖的寒村につづいて、英国最果ての嵐の中の孤島というクラシカルな舞台設定に、死体鑑定のエキスパートを置くミスマッチ的な組み合わせがユニークな謎解きミステリです。
感想を一言で言うと「どんだけひっくり返すんだ!」という感じ。
犯人の指摘があっても残りページを勘案すると、何かどんでん返しがあるだろうと予測はできるのですが、これは想定の遥か上を行く凄まじさでした(最後のサプライズはややあざといか)。一つ気になったのがアンフェアぎみの登場人物表の表記ですが、かといって代替案が思い浮かばないので、これはやむを得ないところでしょうか。

No.1785 6点 仙台で消えた女- 多岐川恭 2012/08/20 18:26
「消えた女」三部作の3作目。時代小説に軸足を移していた作者の最後期のミステリ作品です。「京都」は未読ながら「長崎」がごく平凡な旅情ミステリだったので、あまり期待せずに読みましたが、これは作者らしい捻ったプロットでした。
消えた人妻を追う三人の男女、それぞれ三者三様の秘めた思惑を徐々に明らかにさせながらも、”的の女”瀬戸溶子は最終章近くまで登場させない構成の妙。殺人事件の犯人に関するどんでん返し以上に、彼女は薄倖の女なのか悪女なのかという興味で読ませます。
エピローグの一文がなんとも言えない味がある。

No.1784 6点 疑り屋のトマス- ロバート・リーヴズ 2012/08/18 22:04
酒と女と競馬をこよなく愛する”やくざな大学教授”、トマス・セロンが競馬場での調教師殺しに巻き込まれる、シリーズの1作目。
本筋の殺人事件の謎解きのプロセスはともかく、知的ユーモアと皮肉交じりの語り口が心地いい作品。主人公のトマスをはじめ、文学趣味のギャングのボスなど、ややマンガチックながら登場人物のキャラクターが生き生きしていて読んでいて楽しい。作者自身も執筆当時はハーヴァード大学の教授だったようですが、ベテラン作家の作品かと思えるほど遊び心が溢れていました。

No.1783 6点 欲の無い犯罪者- 井沢元彦 2012/08/16 17:30
古美術研究家・南条圭の推理ノート。最初期の作品集であり作者の意気込みが感じられるミステリ趣向が十分なものがいくつかありました。

「極東銀行の殺人」は、銀行強盗籠城事件という構図がラストで鮮やかに反転。タイトルでメインアイデアの元ネタ(クリスティの某作)を示唆していますが、”東洋銀行の殺人”のほうがより明確だったかも。
「不運な乗客たち」は、列車事故を利用した”蓋然性の殺人”かと思わせてのツイスト、「欲の無い犯罪者」は、誘拐身代金を受け取らず馬券購入に充てさせる”ホワイ”が魅力的で伏線も丁寧な佳作だと思います。

No.1782 6点 百万長者の死- G・D・H&M・I・コール 2012/08/15 18:23
”乱歩が選ぶ黄金時代のベスト10”に一時は挙げられていたという英国古典本格ミステリ。コール夫妻の合作での第1作で、ウイルスン警視シリーズの第2弾です(シリーズの1作目は夫の単独名義)。

超高級ホテルの一室に血痕を残して失踪したアメリカの大富豪の謎を基軸に、舞台をシベリア、フランスと移しながらも、なかなか進展しない地味な捜査の第1部はやや退屈に感じました。ウイルスン警視の言動、株価操作が絡む企業謀略や英仏海峡の密輸なども含めて、作風はクロフツとよく似ています。あれだけ引っ張っておいて真相がコレかよ!という感がなきにしもあらずですが、サブタイトルを”ウイルスン警視最後の事件”と称したくなるような探偵小説としてのラストがユニークです。

No.1781 5点 ナミヤ雑貨店の奇蹟- 東野圭吾 2012/08/12 13:56
閉店した雑貨店を窓口に、過去の人々からの時空を超えた手紙のやり取りによる人生相談の顛末を描く、「トキオ」路線のファンタジー系”ちょっと感動する話”。
連鎖式長編というべきか、個々のエピソードが、ある施設の存在によって結びつき徐々に一つに収斂していく構成の妙はさすがです。ただ、あえて裏の主人公である浪矢の爺さんを登場させないのはいいのだけれど、施設に関係した人々の群像小説のようになっていて、物語全体の焦点がはっきりしないまま話が終ってしまった感もありました。

No.1780 5点 追撃の森- ジェフリー・ディーヴァー 2012/08/08 22:31
全体の8割を占める延々と続く森林の鬼ごっこの部分が読んでいて乗れなかった。例によって細かなトリックの連打でどんでん返しを繰り返しているのだけれどディーヴァーの作品としては驚くまでには至らない。ついついテレビのオリンピック中継に目が行ってしまって読み進めるのに時間がかかってしまった。
作者が”これまでのどの作品よりショッキングな結末”と言っているのが不可解で、終盤は、主人公の女性保安官補ブリンを巡る家族小説、恋愛小説的な趣きが強く出ている印象を受けた。オリンピック柔道競技の旗判定のごとく、青3本が全て白旗に反転するような(笑)鮮やかなどんでん返しとはいかなかった。

No.1779 6点 衣更月家の一族- 深木章子 2012/07/31 22:01
第3回ばらのまち福山ミステリ文学新人賞(長い!)を「鬼畜の家」で受賞しデビューした作者の2作目。

湊かなえ風のイヤミスをイメージしていましたが、意外とトリッキィなプロットのミステリでした。
一見タイトルと乖離した関連性が見えない3つの物語を、前作でも登場した元刑事で私立探偵の榊原が接着剤の役割になって最終章で合体させ、意外な構図を浮き彫りにしていくという構成です。
第2部の3億円の宝くじを巡る犯罪など、個々の話は面白いけれど、メインの仕掛けは分かりやすいのではと思う。プロローグとタイトルで方向性が見えてしまった。「~の一族」となればやはりネタはあれでしょうし。

No.1778 6点 奪回- ディック・フランシス 2012/07/25 23:07
誘拐犯との身代金交渉や被害者側の精神的ケアが仕事という実在する誘拐対策会社をモデルに、その派遣員アンドルーを主人公にした競馬シリーズの22作目。

イタリア、英国そして米国と次々舞台を移して、競馬関係者を標的にした連続誘拐犯の謎の首謀者との頭脳戦を描き、終盤の窮地からの脱出など活劇的にもそれなりに面白く読めるのですが、作者らしさがあまり感じられなかった。具体的には、主人公が組織の一員でプロフェッショナルな人物ということもあるけれど、ヒロインの女性騎手との絡みが中途半端で、首謀者「彼」の人物像も悪党ぶりがあまり伝わってこなかったですね。まあこれは、ディック・フランシスだからの不満なので、冒険スリラーの水準は十分クリアしていると思いますが。

No.1777 6点 本格ミステリ鑑賞術- 事典・ガイド 2012/07/23 21:31
本格ミステリの”読みどころ”を技術論を交えて多角的に紐解いたガイドブック。
テーマは、「フェアかアンフェアか」「伏線の妙味」「ミスディレクション」「犯人特定のロジック」から、「解決の多重性」「叙述トリックの鬼子性」「メタミステリの開拓性」など、本格ミステリのあらゆる要素について、具体的に多くの作品例を取り上げて解析しているので、分かりやすい上に非常に刺激的な内容になっています。特に「フェアかアンフェアか」が個人的に示唆に富む興味深い内容でした。
”具体的に作品例を取り上げ=ネタバレのオンパレード”になるわけで、各章の冒頭に該当作品名を明示しているのですが、その中に未読本があっても関係なく読み進めてしまう面白さがあります。

No.1776 6点 笑うきつね- フランク・グルーバー 2012/07/21 15:59
ボディビルのハウツー本のセールスで全米各地を渡り歩き、ドタバタ騒動を巻き起こしながらも最後に殺人事件を解決する、ジョニー・フレッチャー&サム・クラッグのコンビ・シリーズ2作目。

金欠状態の二人が泊るホテルの部屋での死体発見というシリーズのお約束のような発端から、サイコロ賭博や養狐業者の展示会でのお馴染みのセールス・パフォーマンスと、軽ハードボイルド風のテンポのいい場面展開で飽きさせません。
メインの謎である20年前の少年失踪事件の真相はやや伏線不足といえますが、最終章で関係者を一堂に集めた謎解きが定番を外したかたちで捻っています。

No.1775 3点 君の館で惨劇を- 獅子宮敏彦 2012/07/19 19:09
乱歩と横溝の小説をなぞらえた”見立て連続不可能殺人”ものの本格ミステリ。と書くと、これ面白そうと思ってしまうのですが、残念ながら個人的には今年のワーストに近い内容だった。
”怪奇と残虐美”という乱歩の通俗長編はほとんど読んでないので、続々と繰り出されるウンチク、ネタバレの類いがまず分からないし、お互いに仮面で顔を隠し対峙する探偵と怪人・黒死卿という設定や、探偵のおふざけキャラが受け付けなかった。
唯一、乱歩の未完長編「悪霊」をモチーフにした土蔵の密室トリックが面白いのだけど、前提となる動機がかなり無茶です。この動機で、「健康のためなら死んでもいい」というギャグを思いだした。

No.1774 4点 治療島- セバスチャン・フィツェック 2012/07/15 18:38
嵐で孤立した北海の島にある別荘を主な舞台に、元精神科医の主人公と謎の訪問女性との心理劇を描くサイコ風サスペンス。

新刊の「アイ・コレクター」がまずまず面白かったので、ドイツで驚異的ベストセラーだったというデビュー作の本書も読んでみたのですが、これは見事にハズレでした。
4年前の少女失踪事件を背景に、不可解な出来事を連発させる途中までのリーダビリティは良ですが、引っぱった末の真相はいわゆる”〇〇オチ”のたぐい。信頼できない語り手によるミステリでこれをやられると読者はたまりません。

No.1773 5点 花束に謎のリボン- 松尾由美 2012/07/12 22:07
花屋の店員の女性とあまり売れない小説家の男性、同棲するカップルが出くわした”ちょっと気になる出来事”の謎解きもの7編の連作ミステリ。

”日常の謎もの”というのも憚れるほどの歯ごたえのない内容で、男性の謎解きも推理と言うより小説家としての妄想に近い感じがする。真相も読者にゆだねるようなものもあり、ミステリとして読むとかなり物足りない。
これは、ミステリを出汁にした恋愛小説として読むのが正解かと思いますが、主人公の女性が苦手なタイプで、最終話の彼女がとった行為は個人的に理解しがたい。

No.1772 7点 逃走と死と- ライオネル・ホワイト 2012/07/09 20:34
4年の刑期を終え出所したジョニーは、かねてより計画していた大金強盗という大博打を実行するため、4人の仲間を募り着々と準備を進めていくが・・・・・。

ロングアイランド競馬場の売上金強奪計画をえがいたクライム・ミステリ。
最近立て続けに読んだジャック・フィニイのゲーム感覚の襲撃小説と異なるのは、ノワールの味わいが強いこと。
競馬場の出納係やバーテンダー、ジョニーの友人である警官など、どのメンバーも金銭と家庭に問題を抱えていて、それぞれの複数視点での描写が物語に厚みをもたせ効果をあげているように思う。
とくに、クライマックスの襲撃シーンでの、カットバック方式を使った10人以上の登場人物の多元描写が斬新で非常にスリリングに感じた。これは映像向きシーンだと思っていたら実際に映画化されていた。監督は「2001年宇宙の旅」「時計じかけのオレンジ」のスタンリー・キューブリック。

No.1771 7点 黄色い部屋はいかに改装されたか?- 評論・エッセイ 2012/07/07 13:52
本格ミステリの将来のあり方について論考した都筑道夫のエッセイ風の評論集。作者の言い方では”モダーン・ディテクティヴ・ストーリイ論”となりますが、要は’70年はじめの国内ミステリの現状に対するアンチテーゼになっています。このたび、佐野洋氏との”名探偵論争”部分の「推理日記」からの転載などを追加した”増補版”がでて、しかも解説が法月綸太郎氏ということで約30年ぶりに”再読”しました。

論旨は、「トリックよりロジック」とか「論理のアクロバット」などの有名なキーワードでよく知られていると思いますが、まとめると、当時(昭和45年ごろ)の必然性のないトリック偏重の本格ミステリを批判し、謎解きのロジックに重点を置くミステリを提唱、そのためには読者が納得できる”名探偵”が必要というものです。
初読時には、なぜ”モダーン・ディテクティヴ”がシリーズ名探偵復活という結論になるのか、逆行じゃないかと違和感もありましたが、トリック小説への批判と同時に、犯罪小説によるジャンルの拡散への畏れという「二正面作戦」ではないか、という法月氏の解説で目からウロコです。しかし、「なめくじに聞いてみろ」をリスペクトしたタイトルの小説も書き、ロジック重視ミステリの正統後継者といえる法月綸太郎氏ですから、本書の解説者に最適ではあるのですが、評論集の評論というのは結構神経を使ったんじゃないでしょうかね。
評論といってもエッセイ風の読みやすい内容ですし、多くの内外ミステリ(自作の小説作法を含む)を例示のために取り上げているので、(たびたび話が横道に逸れるのを我慢できれば)、現在の若い人でも十分興味深く読めるのではと思いますよ。50歳前後のおじさん読者はノスタルジーに浸れますし。

No.1770 6点 クランシー・ロス無頼控- リチャード・デミング 2012/07/04 23:58
ハードボイルド連作短編集。’50年代に「マンハント」誌に断続的に掲載されたクランシー・ロスもの6編をまとめたものです。
クランシー・ロスは私立探偵ではなく、ある地方都市でナイトクラブと非合法の賭博場を経営する伊達男で、ハードボイルドの主人公としては異色です。
腕っぷしと銃撃は敵なしなうえ、登場する妖艶美女には毎回惚れられるという設定は通俗ハードボイルドそのものですが、いちおう各編ともラストに構図のどんでん返しを用意しているのでミステリ趣向も楽しめます。ただ、仕掛けがパターン化されているので、後半の作品になるとマンネリ感もありますが。
部下のクラブ・マネージャーや町を牛耳る組織のボスなど、脇を固めるレギュラー陣とクランシーとの粋なやり取りも(翻訳の山下諭一氏の功績もあって)連作もの特有の面白さを味わうことができた。

No.1769 6点 「妖奇」傑作選- アンソロジー(ミステリー文学資料館編) 2012/07/03 20:35
戦前の探偵雑誌アンソロジー”幻の探偵雑誌”シリーズにつづく、戦後の探偵雑誌のアンソロジー”甦る推理雑誌”シリーズの第4弾は、昭和22年創刊の「妖奇」。
当初は戦前作品の再録が中心だったのが、ネタ切れのためか徐々に無名新人・覆面作家ばかりの掲載になったらしい。本書のラインナップを見ても高木彬光「初雪」以外はマイナーなものばかりです。

目玉作品は、なんといっても長編340ページ一挙収録の尾久木弾歩「生首殺人事件」でしょう。
「本格ミステリ・フラッシュバック」に取り上げられた作家のなかでひときわ異彩を放つ得体の知れない作家・輪堂寺耀。その別名義のコテコテの本格モノです。
遺産相続がらみのお屋敷ものという設定は当然として、犯行予告カード、3連続の密室殺人、しかも全て首なし死体、容疑者を一覧分析した丁寧な論証、で、もちろん”読者への挑戦”つき。コード型本格のガシェットをテンコ盛りにした設定にはマニアが泣いて喜ぶこと間違いなし。難点はトリックが既読感あるものばかりで作者の狙いが丸分かりなところですかね(笑)。

No.1768 6点 死亡告示クラブ- ヒュー・ペンティコースト 2012/06/29 18:17
悪戯好きの大物コメディアンが遺した10万ドルの”相続ゲーム”を巡るサスペンス+謎解きミステリ。
相続候補者である友人知人の7人、称して”死亡告示クラブ”の一員で俳優のラリーは、自動車に仕掛けられた爆弾で命を狙われたことから、有名なコラムニストで名探偵の誉れ高いグラント・サイモンの事務所に駆け込むが・・・というストーリー。

グラントの助手である”ぼく”ことヴァンスが語り手になる構成でネロ・ウルフシリーズを連想しました。関係者を”死亡告示クラブ”と称する所も「腰ぬけ連盟」を思わせます。もっとも、レックス・スタウトと比べるとウイット&ユーモアはなく、サスペンスが主軸ですのでテイストはだいぶ違いますが。
真相が明らかになるラストの地方飛行場のシーンはスリリングなのですが、中盤の展開がやや冗長に感じました。

No.1767 6点 言霊たちの夜- 深水黎一郎 2012/06/27 18:11
従来からの作者の拘りである”言葉(日本語)”という素材を、とことん笑いで解体した連作短編集。東野圭吾の「〇笑小説」シリーズや、筒井康隆のナンセンス・ギャグ小説に似たノリがあります。

勘違い男のちょっとした言葉の聞き間違いの連続がとんでもない事件につながる「漢(おとこ)は黙って勘違い」と、日本語教師が、日本語の非論理性に振り回される「ビバ日本語!」の前半の2編がかなりの爆笑もの。ユーモアのセンスが抜群です。
「鬼八先生のワープロ」と「情緒過多涙腺刺激性言語免疫不全症候群」はともにアイデアが面白いが、話の展開にヒネリが欲しかった。
今年一番笑えた小説ですが、ミステリとは言えないので採点は控えめにしておきます。

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