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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2460件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1820 7点 無罪 INNOCENT- スコット・トゥロー 2012/10/24 18:03
リーガルサスペンスの名作「推定無罪」のまさかの続編。前作の真相には触れずに物語が展開されていますが、ラスティ・サビッチ再登場ということ自体がある意味ネタバレかも。
被告人サビッチ、弁護人サンディ・スターン、検察側トミー・モルトという配役や、事件の背景にサビッチの愛人関係がある点など、前作の相似形のようなプロットながら、前回の悲劇から20年以上経っているので、各人環境の変化があり単純なリターン・マッチになっていません。また、サビッチの視点だけでなく関係者の多視点で語られることもあって、前作の様な鬱々とした重苦しい雰囲気が軽減されているように感じました。
本書も、屈折した人間ドラマと、予測不可能などんでん返しというミステリ趣向とが巧く融合した読み応え十分な作品だと思います。

No.1819 4点 社内殺人- 中町信 2012/10/22 18:20
酔いどれ課長代理・深水文明が周辺で起った殺人事件の謎解きに乗り出すシリーズの第1作。
会社内での大金盗難事件と並行して発生した女子社員の墜落事故の謎がメインかと思いきや、後半は作並温泉行き社内親睦ツアー連続殺人という展開で、重要証人の記憶喪失にダイイングメッセージも出てきて、シリーズが変わっても結局いつもながらの中町ミステリでした(笑)。そんなこんなで、ミスリードの手法が基本的に過去作と同じパターンなので真相は分かりやすかった。
(しかし、この工夫のないタイトル、なんとかならなかったのか・・・)

No.1818 6点 追われる男- ジェフリー・ハウスホールド 2012/10/20 14:18
ジュリアン・シモンズ選定の”サンデータイムズ・ミステリーベスト99”(1959年)にも選ばれた英国冒険小説の古典。
独特の雰囲気をもった小説です。普通の冒険小説であれば某国の要人暗殺計画・実行をメインに構成するところを、本書は”その後”から始まります。しかも主人公「わたし」の行動原理は、祖国のためでも金銭のためでもなく、スポーツ感覚で要人狙撃を計画したというもの。
時代や状況設定を理解するための情報が小出しなため読むのにストレスを感じますが、出版が1939年ということを考えるとナチスドイツやヒトラーの名前を明示することが憚れたのでしょう。
逃亡サスペンスからサバイバル小説と展開するなかで主人公の造形が明らかになるところがいいです。のちのディック・フランシスなどに連なる英国冒険スリラー伝統の主人公の造形です。

No.1817 6点 アルカトラズ幻想- 島田荘司 2012/10/18 22:34
奇想の騙り部・島田荘司の本領が発揮された傑作だと思いますが、御手洗シリーズ路線を期待する人には好みに合わないかもしれません。
米国を舞台にした猟奇殺人を追う捜査小説から、恐竜絶滅に関する新説論文、地球空洞説、監獄島アルカトラズからの脱獄計画、異世界を舞台にした幻想風の物語と、各章で小説のテイストが変転しネタが次々と繰り出され、作者のストーリーテリングの上手さに翻弄されます。全体の構成から前段の部分が書き込み過多でバランスが悪いのですが、その無駄と思えるパートも面白いです。
ミステリ的な仕掛けは「眩暈」のソレを思わせますが、読後感は「追憶のカシュガル」収録のある短編に通じるものがありました。

No.1816 5点 ジャックは絞首台に!- レオ・ブルース 2012/10/16 18:33
病後の静養のため温泉町を訪れていた教師ディーンは、老婦人の連続絞殺事件に巻き込まれ、またまた探偵活動に乗り出す、という歴史教師キャロラス・ディーン・シリーズの7作目です。
現代教養文庫の”ミステリ・ボックス”は、修道士カドフェル・シリーズは別格としても、ディヴァインの本邦初紹介をはじめ、イネス「ある詩人への挽歌」、ステーマン「ウェンズ氏の切り札」など、マニアックな作品選定が好ましかったレーベルです。レオ・ブルースも例に洩れませんが、ただ訳出されたのが本書というのはどうだったかなと思います。
メイン・トリックに有名な先例がある点はあまり気にならなかったのですが、ディーンが目立たず解決の手法もいまいちぱっとしません。他のレギュラー陣のゴリンジャー校長や生徒のルパート、温泉客の面々は個性的でやり取りは面白いのですが。

No.1815 5点 死の花の咲く家- 仁木悦子 2012/10/15 18:07
ミステリ短編集(角川文庫版)。
表題作は、長編「殺人配線図」の探偵役・新聞記者の吉村駿作シリーズの1編で、仁木兄妹が扱うような遺産相続がらみのミステリ。収録作の中ではもっとも本格っぽいが真相は分かりやすい。
「空色の魔女」は、園児が書いた不自然な白雪姫の絵から、幼稚園の保母が推理を展開していくプロットが面白い。子ども視点の作品2編のうち「夏雲の下で」は、お得意の小学生探偵による謎解きもの、「鬼子母の手に」は子供が窮地に嵌るサスペンスものとテイストは違うものの、ともに子供の描写が活き活きとしており読み心地がいいです。
松本清張や鮎川哲也などの短編集は出版社によって収録短編の編集がバラバラでコンプリートを目指すのが大変なのに対して、講談社文庫と角川文庫が競うように出していた仁木悦子作品は、両出版社で収録作品の重複がないというのはありがたいです。

No.1814 6点 革服の男- エドワード・D・ホック 2012/10/14 18:44
光文社文庫の”英米短編ミステリー名人選集”シリーズの5巻目。
今でこそ創元推理文庫から続々と出ているホックですが、早川の怪盗ニックぐらいしか簡単に読めない時期があり、そういう時期に出た本書は当時ファンに喜ばれたに違いありません。
ホック入門に最適な「ホックと13人の仲間たち」に倣ったような、多くのシリーズ探偵ものを中心に編まれていますが、サム医師もので、”パリ万博綺譚”を元ネタにした魅力的な謎の表題作や、オカルト探偵サイモン・アークものなど、いくつか後発の創元文庫と被るのは止むを得ないでしょう。
「不可能夫人」のギデオン・パロ卿(フェル博士+ポアロのパロディ?)、「七人の露帝」の暗号解読専門家ジェフリー・ランド、「ジプシーの勝ち目」のジプシー探偵ミハイ・ヴラドなど、マイナーなシリーズ探偵ものが入っているのは嬉しい。

No.1813 6点 キリオン・スレイの復活と死- 都筑道夫 2012/10/13 13:10
自称・前衛詩人の変なアメリカ人、キリオン・スレイが探偵役の連作シリーズ第2弾。
ミステリ的には不可解で魅力的な謎の提示に対して、解決が肩透かし気味なものも散見されますが、スタイリッシュで都会的雰囲気が読み心地がいいですし、覚えたての日本語の慣用句を誤使用するスレイのとぼけたユーモア部分も面白いです。
収録作の中では、警察監視下のバーのトイレが現場の三重密室もの「密室大安売り」がハウダニットものの良作。伏線の出し方が巧妙です。
「なるほど犯人はおれだ」は、殺人現場の証拠物件からキリオン・スレイを犯人と指摘する大学生によるダミー推理のほうがロジカルなような(笑)。

No.1812 6点 旅人の首- ニコラス・ブレイク 2012/10/12 18:20
私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズ登場のシリーズ9作目。今まで読んだ作品ではそんな感じを受けませんでしたが、ニコラス・ブレイクがセイヤーズから強い影響を受けたといわれるのが分かるような作品です。
”数ヶ月前に歓待を受けた平和な村を探偵役が再び訪れ、今度は身元不明の死体の事件に関わる”という、物語の幕開けは「ナイン・テイラーズ」を意識しているように思えます。ナイジェルの心情描写もいつも以上に深みがあり、最後はある理由で悩める探偵になっています。
事件の中心人物である著名な詩人シートンの存在感も作品の深みに寄与していて、これは作者の本職が影響しているのかもしれません。首なし死体が出てきますが猟奇的雰囲気はなく、むしろ叙情的な物語になっているのが不思議です。

No.1811 5点 天空の少年探偵団- 秋梨惟喬 2012/10/10 18:08
桃霞少年探偵団シリーズの2作目。今回は連作短編ではなく、山奥に建ち老人たちが集う屋敷”天空館”を舞台にした長編です。
塔の上の展望台という不可能状況の密室殺人トリックは、島荘の「流氷館」、森博嗣の「三ツ星館」、東川篤哉のアレなどに連なるタイプの〇〇トリックで、この種の仕掛けはあまり好みではありません。伏線は巧みに張られてはいるのですが・・・・。
”犯人”の動機を含め事件の構図はちょっとユニークですが、その相手が小学6年生の少年少女というところにやはり無理があるように思います。

No.1810 8点 世界をおれのポケットに- ハドリー・チェイス 2012/10/08 17:50
特殊合金製の現金輸送装甲車で運ばれる百万ドル強奪計画を描いたクライム・サスペンスの古典的名作。
ギャングの頭目、キザ男のチンピラ、老金庫破り、元ボクサーに謎めいた女を加えた、男女5人組の犯行グループの面々が魅力的です。多視点描写のため、中盤までは誰を主人公に据えているかも分からないのだけど、チェイスらしい”容赦のない展開”によって徐々に明らかになります。
計画・実行・犯行後と物語が進むにつれて、犯行に対する温度差が生まれ、それぞれの個性が書き分けられてゆくところが巧いと思う。同類の襲撃小説・悪党パーカー・シリーズと一番違う点は恋愛を上手く犯行に絡ませている所だろうか。ぶった切りのようなラスト・シーンが非常に印象に残る作品。

No.1809 6点 ついてくるもの- 三津田信三 2012/10/06 18:45
ホラー短編6作収録の作品集、それだけだと営業的に苦しいので刀城言耶シリーズ1編付けました、といった感じの短編集です。
ただ、その唯一のミステリ作品「椅人の如き座るもの」は、密室状況下の人間消失を扱っているのですが、かなりトホホな真相。タイトルそのマンマじゃん、とツッこんでおきます。
一方で、ホラーのほうは秀逸な作品が揃っていて、こちらは楽しめた。雛人形の呪いで一家が陰惨な結末を迎える表題作の「ついてくるもの」、小学生五人組が禁断の森に入り込み遭遇する怪異「八幡藪知らず」、一軒家に共同入居するうちの一人の様子に異変が...「ルームシェアの怪」が、読後ゾクゾクした作品個人的ベスト3。

No.1808 7点 巡礼者パズル- パトリック・クェンティン 2012/10/04 18:32
”パズル・シリーズ”最後の6作目。といってもダルース夫妻は(ちょい役で登場の「わが子は殺人者」を含め)この後も3作品に登場しますが。
前作「悪魔パズル」が本格ミステリ要素の少ないスリラー寄りだったので今回も同様路線かと思っていましたが、いい意味で予想を裏切る出来です。
闘牛やカーニバルなど異国情緒豊かなメキシコを舞台にし、複数の男女の愛憎劇を主軸にした緊張感のあるミステリ趣向十分の謎解きモノでした。主要人物はダルース夫妻を含め6人で、シリーズ初期作と比べると、パズルのピースが少ないシンプルな構成ながら、一癖も二癖もある4人の男女の中で犯人候補が三転四転する多重解決的な展開が面白い。
しかし、パトQ作品が新訳を含め年3作も出る時代が来るとは思わなかった。ダルース夫妻シリーズの残りもそのうち出るみたいだから、この勢いでスタッジ名義のウェストレイク医師シリーズも訳出してもらいたいものです。

No.1807 5点 天才は善人を殺す- 梶龍雄 2012/10/02 17:23
キャッシュカード紛失で大金を詐取され自殺したと思われる父親の事件を究明するため、主人公・芝端敬一ら大学生4人組は探偵活動に乗り出すが、といったストーリー。
事件の性質がはっきりしないまま物語が進行する中盤まではモヤモヤ感があって面白味に欠ける。カード犯罪と銀行のコンピュータ(天才)というテーマも扱いが中途半端です。ただ、密室殺人、電話トリック、操りの構図など、後半以降に次々と繰り出されるトリックはなかなか面白いと思います。
チェスタトンの逆説にたとえて、女子銀行員のなにげない行為と大金を引きだした意外な犯人を結びつけるくだりも秀逸です。

No.1806 6点 狂気の影- ヒュー・ペンティコースト 2012/09/30 12:31
機関銃を持った精神異常者が8人の男女を森の中の別荘に監禁するという、裏表紙の内容紹介を読むとサイコ・サスペンスをイメージしてしまうのですが、これは特殊設定のクローズド・サークルものの謎解きミステリでした。
閉鎖空間で登場人物たちが過去の事件の真相を追及するという私的裁判風プロットで、西村京太郎「七人の証人」、岡嶋二人「そして扉~」などに似た味わいもあります。休暇で森を訪れ事件に巻き込まれる探偵役ジョン・スミス博士はやや地味な存在ながら、一人ひとりの心の内を読み解くいかにも精神科医らしい推理方法で真相も納得がいくものです。

作者は、100冊以上のいろんなタイプの長編を書き(創造したシリーズ探偵も10人以上)量産作家のためか、解説のタイトルも「二流の人」と一般的な評価はいまいちのようですが、本書はB級感のない佳作だと思います。また、短編のほうが得意のようで、日本版EQMMに訳出されていたという”シャーロック叔父さん”シリーズがちょっと気になります。

No.1805 4点 南紀周遊殺人旅行- 中町信 2012/09/26 22:04
推理作家・氏家周一郎&早苗夫婦が参加したバスツアーで旅行メンバーが連続して殺されるシリーズの第5弾。
本書には、叙述の技巧で読者をミスリードする初期作品のような趣向はなく、ダイイング・メッセージの謎解きを中核としたごく平凡なフーダニット・ミステリでした。 殺人現場のサインペンのキャップという小道具からのロジック展開が読ませるぐらいで、真の動機を誤誘導するための偽の手掛かりなど、徒に事件を複雑にしているのは感心できません。
原稿の執筆が進まず、会社を辞め専業作家になったことを後悔する氏家というリアルな自虐ネタは面白いのですが。

No.1804 6点 死の舞踏- ヘレン・マクロイ 2012/09/25 22:09
ヘレン・マクロイのデビュー長編にして、シリーズ探偵の精神分析医ベイジル・ウィリングの初登場作品。
ニューヨークの路肩の雪の中から発見された熱射病の死体という、発端の不可思議な謎の真相は肩透かし気味で、物語中盤の展開もやや起伏に欠ける感もあるのですが、傑作「家蠅とカナリヤ」で披露したウィリング博士の心理分析的探偵手法(=”心理的な指紋”の追及)の片鱗が本書でもみられるところが面白いです。
miniさんも書かれていますが、重要な手掛かりが原文表記でないと意味をなさないというハンデがあるのですが、動機に1930年代の作品とは思えない現代的なテーマを内包している点など、さすがマクロイと思わせます。

No.1803 6点 疑惑の夜- 飛鳥高 2012/09/24 22:07
戦後すぐに短編でデビューした作者が10年後に初めて書いた長編ミステリ。仁木悦子「猫は知っていた」が受賞した第3回江戸川乱歩賞の最終候補作を改題したものらしい。

あらすじは、主人公の男女が謎の脅迫者を追及・対峙するというスリラーなんですが、ある理由で主人公が工作したアリバイの証人たちが皆”そんな憶えがない”と否定される「幻の女」パターンの不可解な謎が魅力的で最後まで引っ張ります。密室状況下の殺人や人間消失、最後に明かされる〇〇トリックと、本格ミステリの要素を複数詰め込んでおり、古臭い文章に我慢できればそれなりに楽しめます。

No.1802 5点 消えたエリザベス- リリアン・デ・ラ・トーレ 2012/09/22 13:55
18世紀の英国で実際に起きた迷宮入り事件を、当時の膨大な証拠・証言などの資料をもとに再構成し、作者が謎解くという歴史ミステリの路傍標的作品。
18歳の女中エリザベス・キャニングの失踪監禁事件は、日本の読者には全く馴染みがないのですが、ジョセフィン・テイもこの事件をモデルにグラント警部ものの「フランチャイズ事件」を書いているほどで、英国ではかなりセンセーショナルな事件だったようです。
本書は、史実をありのまま正確に伝えようとしたため、歴史研究論文を読まされている感じを受ける。特にエリザベス側と被告のジプシーの老婆側の関係者の証言が延々と繰返される裁判場面の数章は正直しんどかった。真相(作者の結論)はミステリ的な驚きもあるものの、全体的に物語性に欠けた。作者を探偵役にせずに、登場人物の一人たとえば本書で脇役になっているヘンリー・フィールディング(盲目の治安判事ジョン卿の兄)を探偵役にするなどのエンタメ志向だともっと楽しめたかもしれない。

(追記 2012.9.24)
たまたま論創社のホームページをのぞいてみたら、刊行予定にデ・ラ・トーレの「サミュエル・ジョンソン博士傑作集」が挙がっているではないか。同じ18世紀英国が舞台ながら、こちらは「クイーンの定員」にも選ばれた、”ホームズ&ワトソン”スタイルの連作ミステリだから期待できるかな。

No.1801 5点 ベートーヴェンな憂鬱症- 森雅裕 2012/09/18 20:13
東野圭吾「放課後」と乱歩賞を同時受賞した「モーツァルトは子守唄を歌わない」の探偵役、ベートーヴェンとチェルニーの師弟コンビが再登場する連作短編集。

コミカルな表紙絵とは裏腹に、後半の作品になるにつれて、老境のベートーヴェンの哀切な実情を描くことに力点が置かれ、ややミステリから離れた内容になっているのは好みの分かれるところかもしれません。
個人的には、小生意気で毒舌家の少年チェルニーとの出会いの物語でもある「ピアニストを台所に入れるな」と、皮肉屋のベートーヴェンが恋に悩む「マリアの涙は何故苦い」の前半の2編が好みでした。

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