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kanamoriさん
平均点: 5.89点 書評数: 2426件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1866 6点 六花の勇者 2- 山形石雄 2013/01/15 18:22
”剣と魔法”の異世界を舞台に、選ばれし6人の戦士が悪の魔神と配下の凶魔たちに挑む冒険ファンタジーの第2弾。
前作のような密室状況の不可能犯罪というガチ本格の趣向こそないものの、7人目の偽の勇者探しというフーダニット興味を引き継ぎつつ、凶魔の統率者テグネウとの闘いが本書のメインです。
”地上最強の男”を自称する主人公アドレットは今回脇役で、ある秘密を抱える勇者のリーダー格モーラを物語の核としていて、彼女とテグネウとの策略合戦のコンゲーム的な仕掛けが面白いです。このトリックを見ると、やはり作者は本格ミステリも意識しているなと思います。
魔神側の陣容も明らかになり、次作以降のストーリー進展が楽しみではあります。

No.1865 7点 明日に賭ける- ウィリアム・P・マッギヴァーン 2013/01/13 18:52
初期の悪徳警官ものや社会派ハードボイルドで知られるマッギヴァーンの’50年代後期の傑作です。
4人組が田舎町の銀行を襲うという筋立てですが、物語半ばで計画の実行がなされ、後半は、一味にひきずりこまれた2人の実行犯の逃避行と、心の動きを中心に描いた異色のクライム・ノベルでした。
第二次大戦の英雄ながら平和社会に適応できない白人男アールと、人種の偏見と感情的確執にけなげに耐える黒人男イングラムとの人間関係が、憎悪から友情へと揺れ動く様が克明に描かれていて、このあたりは”社会派”のレッテルに偽りなしです。また、それらがラストの感動的なシーンにつながる構成も素晴らしいです。
当時のミステリ・マガジン編集長・都筑道夫の「これ以上のものを書くとなると、探偵小説にならなくなる・・・」という初版の解説の言葉も肯けます。

No.1864 6点 読まずにはいられない- 評論・エッセイ 2013/01/12 12:52
ミステリ作家・北村薫の書評・エッセイ集。文庫解説や各種雑誌などに書いてきたものを取りまとめたものです。

覆面作家時代の暴露話や、創元社の戸川さんとの数々の因縁めいたやり取りをはじめとして、著者のフアンであれば非常に楽しく読めるエピソードが満載です。
東西ミステリー・ベスト100(もちろん旧版)で、内容紹介とうんちく欄を担当した全ての作品の再録をみると、クイーンと鮎川哲也に対するリスペクト度合いがよくわかります。また、一概にミステリマニアは、有名作を読んでないことを何故か自慢げに披露したくなる習性があると思うんですが、超名作「そして誰もいなくなった」の未読をサラリとカミングアウトするところがいかにも作者らしいです。
いちばん面白かったのは「慟哭」の解説です。ラストの一行、「作者に生きていられると、論評は難しい」には爆笑です。

No.1863 6点 核パニックの五日間- ジョゼフ・ディモーナ 2013/01/10 13:33
アメリカ空軍のミサイル基地から盗まれた核爆弾3個によって、ニューヨークがパニックに陥るという、まぁタイトル通りのデッドラインもの冒険スリラーです。

米ソ冷戦時代の70年代の話なので、戦略核兵器削減交渉(SALTⅡ)とか多国籍企業の暗躍・陰謀からみという古臭いやや定番の背景設定ではありますが、”犯人”である科学者レナード・チュウの行動原理・人物造形が丁寧に描かれているところはなかなか良ですし、デッドライン・サスペンスのパターンを外す中盤の展開も「おおっ」と思わせます。
ただ、主人公の司法省次官補にくっついて行動する大富豪の娘ペギイの言動がかなりチープ感があり、傑作級のサスペンスをB級に貶めてしまったように思います。

No.1862 4点 新本格ミステリの話をしよう- 事典・ガイド 2013/01/10 12:54
「十角館の殺人」から始まった新本格ミステリの25周年に合せて昨年出た評論集。綾辻行人から新鋭の円居挽までの新本格作家20人と、鮎川哲也、島田荘司ら先駆者5名についての作家論、作品論が中心となっています。

著者には申し訳ないですが、途中からは流し読みのようになってしまいました。
本書は、文庫の解説などで過去に著者が書いてきたものを切り貼りしたような編集で、系統立てて”新本格”を解析したものとは言えません。どこかで読んだような話が多く、作家によって内容の濃度にバラツキ(単にその文庫作品の解説だったり)がありました。読む者に「へえ~っ」と思わせるような新鮮な切り口の評論は見当たらなかった。

No.1861 5点 信州・小諸殺人行- 中町信 2013/01/08 22:15
女性画家と幼児が神社の石段から転落死するという事件をきっかけに、小諸に住む老画家や周辺の人物がバッタバッタと殺されていくというB級本格ミステリ。
夫婦探偵ものですが、氏家周一郎&早苗夫婦は登場しないノンシリーズ長編です。
ミスリードのための意味深のプロローグや、過去の事件の真相に気付いた人物が次々と殺されていく展開など、お馴染みのプロットですが、旅館の離れの密室殺人と、室内の三毛猫からのロジック展開はまあ面白かった。しかし普通に考えて、あれだけの理由で何人も殺す必要性はないでしょう。

No.1860 6点 メイン・ディッシュはミステリー- 事典・ガイド 2013/01/07 14:02
ミステリ作家で翻訳家の小泉喜美子によるエッセイ風の海外ミステリ読書ガイド。

”殺人をテーマに好んで扱うジャンルだけに、ミステリーは美しく洗練されていなければならない”---という作者のこだわり・嗜好が作品紹介に一貫して出ています。そのため、泥臭い社会派やトリック中心の国内本格などは斬って捨てているわけですが、「”本格”という名称はミステリの王道かと誤解を与えかねないので、”謎解き中心もの”と呼ぶことにする」など、この点はカチンとくる人もいたでしょうねえ(笑)。
謎解き中心もの、ハードボイルド、サスペンス、クライム・ストーリー、警察小説、ユーモア・ミステリなど、一応入門篇らしくジャンルごとに名作群の紹介がありますが、やはりレイモンド・チャンドラーとクレイグ・ライスの項目は気合の入り具合が違います(笑)。
30年位前のミステリ・ガイドですが、今回再読してもあまり古びた感じは受けなかったですね。海外ミステリをもっと読んでほしいという作者の熱意がよく伝わってきます。

No.1859 7点 喪失- モー・ヘイダー 2013/01/06 18:22
昨年度のアメリカ探偵作家クラブ最優秀長編賞(エドガー賞)受賞作品。
英国西部ブリストルの重大犯罪捜査隊に転属したジャック・キャフェリー警部シリーズの5作目です。

連続少女連れ去り事件を発端に、中盤から終盤にかけて事件の様相が劇的に変転する読み応えのある警察小説風のサスペンス大作で、以前読んだ初期作のようなエグい描写は抑えめで、あるミステリ趣向を施すなど単純なシリアル・キラーものでない点は評価できると思います。ただ、シリーズを通した過去のエピソードに説明不足なところがあり、個人的には、ミステリの完成度では同じエドガー賞候補の「容疑者X」に分があるように思いました。
登場人物では、個性的な潜水捜索隊の女性隊長・フリー・マーリーが主役を食う活躍で、キャフェリーとの過去の因縁含みで今後の展開が楽しみではあります。

No.1858 7点 快楽としてのミステリー- 評論・エッセイ 2013/01/05 11:45
昨年亡くなった丸谷才一氏の書評・エッセイ・評論集。「快楽としての読書」日本篇・海外篇につづく第三弾で、本書はミステリー小説に特化した内容になっています。
取り上げる作品が古典から007、松本清張、大沢在昌「絆回廊・新宿鮫Ⅹ」まで、年代もジャンルも幅広いのがまず驚きです。

「ハヤカワ・ポケット・ミステリは遊びの文化」と題した瀬戸川猛資・向井敏両氏との鼎談を収めた第1部が、ポケミス愛にあふれた内容で、同じポケミス・ファンとして楽しめた。今年はポケミス発刊60周年なので、絶版本の復刊フェアが期待できるかも。
「深夜の散歩」(マイ・スィン)からの再録は懐かしい。フリードリヒ・デュレンマット「嫌疑」「約束」や、ポール・ソマーズ(アンドリュウ・ガーヴ)の「震える山」などの忘れられた作品が個人的に気になる。
そういった中で、やはりレイモンド・チャンドラーを取り上げる回数が多いのですが、最近の書評で、清水俊二の「長いお別れ」と村上春樹の「ロング・グッドバイ」を比較したものが秀逸です。そういえば、和田誠氏による本書のカバー・イラスト=黒猫を抱いてパイプをくゆらす紳士、これってチャンドラーですね。

No.1857 4点 殺人者にダイアルを- 梶龍雄 2013/01/03 15:34
「天才は善人を殺す」の芝端敬一ら大学生探偵団の4人が活躍するシリーズの第2弾。
メンバーの紅一点”お京”の知人らの連続自殺事件を調べていくうちに、思いがけない大きなスケールの構図が浮かび上がってきて・・・といった話ですが、残念ながら前作より青春ミステリの味わいが希薄になっていて、伏線の張り具合もイマイチな気がします。時代設定が戦前や終戦直後のものより、本書のような”現代ミステリ”のほうが題材が古びてしまうのは皮肉な感覚ですが、ダイヤル式電話はやはり時代を感じますねえ。
ただ、アリバイ崩しのヒントが”フィボナッチ数列”(=「ダ・ヴィンチ・コード」でもお馴染み)というのは面白かった。

No.1856 6点 悪の断面- ニコラス・ブレイク 2013/01/03 14:56
雪深い片田舎の村を舞台に、共産主義者グループが、正月休暇のためホテルに滞在していた著名な物理学者の娘を拉致誘拐するといったスパイ・スリラーです。
私立探偵ナイジェル・ストレンジウェイズが登場するシリーズの一冊ですが、一家の護衛を任されていたナイジェルは殴り倒されたり、ホテル内のミエミエの内通者の特定に手間取ったりで、あまり名探偵らしくないですね。
それでも、犯人グループの動きと捜査側の追及を並行して交互に描く救出劇は緊迫感があり、監禁された自分をモデルにして小説を書く8歳の娘ルーシーの造形も魅力的です。
ただ、ある男の子の扱いや、結末の処理にはどうしても後味の悪さを感じてしまいます。

No.1855 6点 新 顎十郎捕物帳2- 都筑道夫 2012/12/29 20:43
ふだんは大名屋敷の中元部屋で酒を飲んでブラブラ遊んでいるが、手下のひょろ松が事件を持ちこむと快刀乱麻で謎を解く、久生十蘭が生み出した北町奉行所の”顎十郎”こと、仙波阿古十郎の捕物帖パスティーシュ第2弾。

衆人環視の密室状況下での人死にで敵役・藤波友衛が疑われる「三味線堀」や、座敷牢という密室での殺人を扱った「貧乏神」などの不可能興味で読ませるものから、花嫁衣装を着た幽霊「亀屋たばこ入」、ドッペルゲンガーの殺人「離魂病」などの怪奇趣向のものまで、江戸時代のウンチク話を交えた名調子が楽しい。
贋作と言うより都筑道夫の捕物帖のテイストが強く、途中で顎十郎が砂絵のセンセーとダブッて見えてきました(笑)。なお、個人的ベストはプロットが最後まで凝っていて完成度が高い「貧乏神」。

No.1854 7点 失脚/巫女の死- フリードリヒ・デュレンマット 2012/12/28 10:49
スイス出身の劇作家・小説家、デュレンマットの中短編4編が収録された作品集。作者の邦訳は、ずいぶん前に早川のポケミスから2作ほど出ているのは知っていたのですが、読むのはこれが初めて。
社会性のあるテーマを持った文学的な風刺小説という側面もありますが、そういったものを抜きにしても物語として面白かった。

第1話「トンネル」は、通学の列車内という日常が突如として非日常に変転するシュールな不条理小説。
「失脚」は、スターリン時代のソ連を思わせる政治局会議の一幕劇風の心理サスペンス。幹部それぞれ粛清に怯えながらの心理戦が滑稽だし、結末がこれまた喜劇的です。
「故障」は、ミステリのジャンルでいうと”奇妙な味”。車の故障のためある屋敷に泊まることになった有能セールスマンが、4人の老人と”裁判ごっこ”を始めるが・・・という話で、終盤の展開は読者のヨミの斜め上をいってます。
「巫女の死」は、”オイディプスの悲劇”を扱った歴史幻想もの。デルポイの神託を司る預言者と老いた巫女の俗物的な造形が、現代の怪しげな新興宗教団体のパロディみたいで笑える。

No.1853 6点 のぞきめ- 三津田信三 2012/12/26 12:01
久々(10年ぶりぐらい?)の作家・三津田信三シリーズ。
といっても三津田は最初と最後に登場するだけで、”ある呪われたひとつの村”に纏わる2つの怪異譚が小説の大部分を占めていて、全体の構成は「幽女の如き~」によく似ています。

昭和の終わり、大学生4人がアルバイト先の別荘地近くの廃村で遭遇する恐怖の体験談(第1部)は純粋なホラーで、とくに”視線”のくだりは鳥肌モノです。
昭和の初め、憑依信仰と因習が支配する同じ村を舞台に、ある一家に起きた連続怪死事件をつづった民俗学者の手記(第2部)はホラーミステリ。こちらは途中ちょっと引っ張りすぎと感じるところがありましたが、終章で示唆される”真相”はいかにも作者らしいものでした。
怪異現象にも”説明がつくもの”と”説明がつかないもの”がある。そういった意味では、”如き”シリーズ以上にホラーとミステリが融合している作品ではと思います。

No.1852 6点 アフリカの百万長者- グラント・アレン 2012/12/23 22:15
粘土のように変幻自在に顔を変える怪盗、クレイ大佐登場の連作長編。論創社版”ホームズのライヴァルたち”シリーズの最新作です。
怪盗といっても駆使するのは詐欺的手法なので、コンゲーム小説といった趣です。
ユニークだと思ったのは、標的が拝金主義の俗物大富豪サー・チャールズに固定されていることと、犯罪が被害者側(チャールズの義弟)視点で語られるところでしょうか。こういった繰り返し騙される設定だと本来マンネリになるのですが、各編で騙しのテクニックに変化を持たせ、また被害者と読者にフェイントを仕掛ける工夫もあって飽きさせません。
幕引きの処理については賛否が分かれそうですが、個人的にはほろ苦い余韻があっていいと思います。

本書が論創海外ミステリ叢書の記念すべき100冊目ということなので、私的ベスト3を考えてみました。(初期のころは翻訳技量の評判がよろしくなかったのであまり読んでいませんが)
①「ジョン・ディクスン・カーを読んだ男」(ブリテン)②「巡礼者パズル」(クェンティン)③「不可能犯罪課の事件簿」(ヤッフェ)

No.1851 6点 潜伏者- 折原一 2012/12/22 18:44
サブタイトルが”The Hands of Mr.Hotta Morio”(=「堀田守男氏の手」)ということで、トマス・バークの傑作短編「オッターモール氏の手」(『世界短編傑作集④』収録)に倣ったサイコサスペンスかと思っていたのですが、”アパートの一室に潜む謎の人物の正体は意外にも・・・”といった倒錯シリーズその他で何度も読まされたいつもの折原ワールドの作品でした。
「追悼者」のノンフィクション作家男女コンビが再登場するのですが、探偵役としての役割が中途半端で十分に活かされているとはいえず、謎の核心である行方不明の少女たちの真相も分かりやすく、出来としてはやや期待はずれという印象です。なによりも長すぎますね、もう少しコンパクトにできるはず。

No.1850 6点 夜明けのフロスト- アンソロジー(出版社編) 2012/12/20 12:04
『ジャーロ』に掲載されたクリスマス・ミステリのアンソロジー。この雑誌、今では烏賊川市シリーズの短編連載ぐらいが目玉なんでしょうけど、以前は翻訳ミステリ短編も結構載せていたんですよね。

表題作は中篇で、クリスマスの同時多発事件でモジュラれるデントン署のフロスト警部という、まあ長編と同じパターンの作品。もうひとつの”クリスマスのフロスト”といったところです。
フロスト警部以外にも、シリーズ100編目だという引退したレオポルド警部もの(エドワード・ホック)、ニューヨークにクリスマス休暇のダイヤモンド警視(ピーター・ラヴゼイ)、名無しのオプとシャロン・マコーンの競演(プロンジーニ夫婦合作)、暴走ぎみのダルジール&パスコー(レジナルド・ヒル)と、英米の人気キャラクターが総出演していて楽しめます。
ただ、これらはクリスマスの時期の事件というだけで、心温まるような「クリスマス・ストーリー」とはいえないかな。
そういった意味では、ナンシー・ピカード「Dr.カウチ、大統領を救う」や、ダグ・アリン「あの子は誰なの?」がテーマに合致しているかもしれません。

No.1849 6点 猫間地獄のわらべ歌- 幡大介 2012/12/19 12:03
江戸時代の考証的情報を交えたキッチリとした時代小説という側面と、突如メタ・レベルになりミステリのお約束をネタに笑いを取るバカミスの要素とが入り混じった本格ミステリの怪作です。

密室破りに始まり、首なし死体と見立て連続殺人、読者への挑戦状、館(屋形?)もの、アリバイ崩し、”意外な犯人パターン”など、本格ミステリの趣向がてんこもりで楽しめる。(トリックを活かすために3つの中短編を強引につなげ長編にした感もありますが)。
また、ラストに炸裂する○○トリックについては、冒頭に主人公の御使番に関する情報が明確な伏線になっており巧妙だと感心。直前に「丸太町ルヴォワール」を読んでなければもっと驚けたかもしれません。
いちばんツボだったのが、”読者への挑戦”が、謎解きの挑戦ではなく、”壁本にせずに最後まで読むことができるか”という挑戦だったことですね(笑)。

No.1848 6点 エラリー・クイーンの災難- アンソロジー(国内編集者) 2012/12/17 12:10
エラリー・クイーンの贋作&パロディを集めたアンソロジー。ホームズに関しては掃いて捨てるほど出ているのに、クイーンのものは”世界初”というのがちょっと意外でした。

贋作編のなかでは、エドワード・D・ホックが「インクの輪」と「ライツヴィルのカーニバル」の2編収録されていて、前者がミッシング・リンク(パターン探し)テーマの傑作。単なるパスティーシュにとどまらず、犯人特定のロジック展開など本家と比べても遜色ない出来です。クイーン名義の代作もしているホックですからパステーシュはいわばお手の物でしょうけど。
他の作家のものでは、”ダイイング・メッセージ探し”というような「本の事件」もマニアックでよく考えられた内容の作品です。クイーンが老齢なのにニッキィがなぜ若いのか?と思っていたら・・・オチも面白い。

パロディ&オマージュ編では、探偵クイーンだけでなく、ミステリ作家や編集者としてのクイーンもネタにされている。
ネタ的にはピンとこない微妙なものもありますが、面白かったのは、スティーブン・クイーン作の「ドルリー」で、『レーン最後の事件』の結末が許せない熱狂的ファンが、作者のバーナビー・ロスを監禁し復活譚を書かせようとする話。この作者名とタイトルといい、どっちかというとクイーンじゃなくてキングのパロディだろ(笑)。

No.1847 7点 丸太町ルヴォワール- 円居挽 2012/12/15 20:47
京都を舞台にした疑似裁判”双龍会”シリーズ?の第1弾。
今回全面改稿した講談社文庫版で読了。諸々の書評などの情報からちょっと苦手なタイプのミステリと想像していたのですが、そんなことはなく、全般的な印象は、えらく遠回りしたラブ・ストーリー、と言う感じでしょうか。とくに第1章の論語と”ルージュ”の心理戦風やり取りが秀逸です。
たしかにラノベ風の登場人物たちは鼻につくところがあり、連発される〇〇トリックもどこかで読んだものばかりという感もありますが、その仕掛け方は巧いと思いました。証拠の捏造など”なんでもあり”のコンゲームを思わせる裁判と、終盤の逆転に次ぐ逆転は圧巻です。
また、分かる人にはニヤリとさせる多くの小ネタも楽しい。(たとえば、たびたび出て来る”落花戻し”=「風来忍法帖」など)。

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