皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
ZAtoさん |
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平均点: 6.55点 | 書評数: 109件 |
No.24 | 7点 | 煙霞- 黒川博行 | 2011/01/09 13:46 |
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そもそも『煙霞』にしろ、『蒼煌』『螻蛄』『悪果』と黒川のこだわりなのだろうが、タイトルが難しすぎる。そもそも「煙霞」などという言葉を知っている日本人がどれほどいるだろう。意味は読んで字のごとく「煙のように立ちこめたかすみ、もや」。カッコいいとは思うもののどんな内容の小説なのかまるでわからない。『陽気なギャングが地球を回す』ほどくだけろとは思わないが、ひと目でキャッチできるタイトルをつければ、もっと売れるのではないかと思う。
タイトルのセンスはともかくとして、『煙霞』は間違いなくプロの作家の仕事だ。二億数千万の金塊をめぐって疾走する痛快エンターティメント。一気読みさせる面白さは保証されているようなものなのだからもっと目立ってもいい。 それにしても結局、黒川博行は『蒼煌』から『迅雷』まで自分のフィールドワークをごった煮にして『煙霞』という作品に仕上げたわけで、ここまで読者の予測を裏切り続けた黒川作品も珍しい。 |
No.23 | 5点 | 蜘蛛の糸- 黒川博行 | 2011/01/09 13:36 |
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「大阪人がみんなそんなん思われたらかなわんなぁ」という声が飛んできそうだが、それが黒川節の魅力であるのだから仕方がない。
一読して、まさに “しょーもなさ青天井” というベタな内容。ただ黒川博行の小説であるのだから、知る人は知る、読む人は読むという相当に突き放したスタンスの一冊という印象。 黒川のファンであって、「ほんとに黒川博行はアホなもん書きよったな」ということを面白がれるセンスがなければ楽しめない。ノリとしてはヤクザ映画の添え物で公開されるようなお色気喜劇といったところだろうか。 |
No.22 | 7点 | 左手首- 黒川博行 | 2009/10/17 13:43 |
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恐いのは、ふとしたときに訪れる「悪魔の囁き」という奴だろう。
ここで踏み出すか踏み止まるかで人生がまるで違ってくる。 カッコ悪い男たちが弾けようとする姿は、ことの善悪は横に置いたとしても立派な武勇伝に思えてしまうし、これを教訓として、あるいは反面教師にして地道が一番だという納得も出来る。 おそらく黒川ワールドの主人公たちが最後に奈落に落ちる姿はふたつの思いを読者に抱かせるのではないか。 |
No.21 | 8点 | 八号古墳に消えて- 黒川博行 | 2009/10/17 13:38 |
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“関西アンダーグラウンドの名手”が
古遺跡発掘に犯罪小説のネタを嗅ぎつけた。 もう黒川博行の貪欲な嗅覚は犯罪者と変わらんな。 |
No.20 | 7点 | 二度のお別れ- 黒川博行 | 2009/10/17 13:36 |
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黒マメコンビの丁々発止のやりとりが笑いを誘い、
ややカルカチュアライズされた上役の描写と合わせてユーモアミステリーの雰囲気を醸しているのだが、 黒川本人は真面目に本格推理小説の線を狙っていたのではないか。 少なくとも誘拐のトリックと意外な犯人という落としどころは十分に練られたものである。 今読むとデビュー作ゆえの発酵度の薄さはご勘弁か。 |
No.19 | 8点 | ドアの向こうに- 黒川博行 | 2009/10/17 13:33 |
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あとがきに本人が記しているように、この作品は警察の捜査を通して描いた本格推理小説であり、
雲を掴むようにぼやけていた事件の輪郭が次第に狭められて、 やがて絞られた焦点のように真犯人が浮かび上がる構造が見事。 |
No.18 | 7点 | てとろどときしん- 黒川博行 | 2009/10/17 13:32 |
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「ようそんな口から出まかせを平気でいえますな。閻魔さんに舌ぬかれまっせ」
「かまへん。わしゃ二枚舌や」。 相変わらずたまらんですなぁ、このノリは。 |
No.17 | 8点 | 蒼煌- 黒川博行 | 2009/10/17 13:29 |
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黒川作品の登場人物たちは、おしなべて欲望にとり憑かれている。
もともと業腹な金銭欲に名誉欲が加味されることで、それは一層ギラギラと鮮烈なイメージとなる。 しかし『蒼煌』にはそれを良しとしない清貧な理想が一方の核としてあり、 その対比が「人間喜劇」としての面白さを際立たせているのではないか。 |
No.16 | 8点 | 切断- 黒川博行 | 2009/10/17 13:27 |
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ストーリーそのものは凄惨な殺しの場面があり、珍しくレイプまがいの描写もあり、銃撃、誘拐、追跡、爆破と
黒川作品としても最大限にエンターティメントの要素を盛り込みんだもの。 それでいて本格推理ものの領域に踏みとどまっているのだから贅沢な作品であることには違いない。 自らひと皮もふた皮も剥けようとする黒川の筆致が安易なカタルシスを許さない硬質感を産んでいる。 |
No.15 | 8点 | 迅雷- 黒川博行 | 2009/10/17 13:25 |
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『封印』で一気にハードボイルドの領域に踏み込んだときには日活アクションの趣を感じさせたが、
『迅雷』の味わいは70年代の深作欣二『資金源強奪』や中島貞夫『狂った野獣』といった東映B級アクションのケッサクのノリに近いものを感じる。 |
No.14 | 7点 | 封印- 黒川博行 | 2009/10/17 13:21 |
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本格推理作家からハードボイルド作家に転進していく挨拶代わりの習作という位置付けなのかも知れない。
そうなると主人公が誓いを破って拳を振るうまでの展開と、その後の展開とでは作品の色合いが異なっていくのも、黒川自身がこの瞬間に作家としての方向性の封印を解いたと穿ってみるのも面白いような気がする。 |
No.13 | 9点 | 国境- 黒川博行 | 2009/10/17 13:19 |
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桑原にしてみればゴロ巻きの相手が同業のやくざから社会安全員や国境警備兵に代わっただけのことであり、二宮にしてみても身にかかる火の粉として極道社会も北朝鮮国家体制も似たようなものなのかもしれない。
しかし、だからといってミナミで成立する話を半島から大陸まで等倍で膨張させたチンケなものではない。 北朝鮮の国勢や地理関係に対する黒川の描写は精緻に渡っている。 ストーリーはフィクションとしても、そのフィクションをしっかりと成立させるには根幹の背景がリアルでなければならないことを黒川は熟知しているようだ。 |
No.12 | 5点 | 暗闇のセレナーデ- 黒川博行 | 2009/10/17 13:16 |
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「探偵が女子大生」「テレビドラマ用に作られた原作」「密室トリック」という私にとっては三重苦のような作品だったが、例によって美術業界の暗部などがこと細かく描写され、一見、お気軽なライトミステリー風でありながら重厚感を失っていなかったのはさすがだったと思う。 |
No.11 | 7点 | 燻り- 黒川博行 | 2009/10/17 13:14 |
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確かに自分も地道にキャリアを積んでいくという人生を諦めざるをえない歳となって、一攫千金への渇望は日々増すのみであるのだが、リスクを負うほどの気力が今ひとつ内から湧きあがってくることもなく、火もつかないので“燻る”ことも出来ない。
そんな男としてどこか去勢されてしまっているのではないかという気分を黒川博行に喚起させられた読書だった。 |
No.10 | 4点 | キャッツアイころがった- 黒川博行 | 2009/10/17 13:11 |
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死体発見現場が滋賀、京都、大阪ということでそれぞれの警察が合同捜査の不自由な状況となり、
面子と縄張りの争いに発展していくあたりは警察小説として面白いテーマでもあるので、 出来れば女子大生探偵の活躍を抜きで読みたかったという恨みは残った。 まるで別の小説を一冊の本で読んだような不思議な気分ではある。 |
No.9 | 7点 | カウント・プラン- 黒川博行 | 2009/10/17 13:10 |
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多分に登場人物たちが、記号化しがちな短編小説にあって、追う側と追われる側のそれぞれの人生さえも煤けて見せる表現力は、下手な長編一冊分以上のボリューム感があり、そこには『疫病神』の読後感と変らないカタルシスがあった。 |
No.8 | 8点 | 大博打- 黒川博行 | 2009/10/17 13:09 |
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誘拐ものの最大の見せ場は身代金の受け渡し場面にあるのはいうまでもなく、そこに作家たちは様々なアイデアを凝らす。
しかし犯人と被害者、犯人と警察との人間ドラマが薄いとシステマチックなアイデア先行だけの小説になる。 黒川は人間をしっかりと描ける作家だ。 それも心象描写を延々と綴っていくのではなく、会話や台詞で使われる言葉を精査しながら、 そこから醸される登場人物の心情を読ませることにかけては天下一品だともいえる。 |
No.7 | 6点 | 絵が殺した- 黒川博行 | 2009/10/17 13:04 |
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正直いえば刑事が容疑者のひとりとコンビを組んで捜査に乗り出す展開はやり過ぎだったと思うし、
真犯人のアリバイと密室殺人を崩すきっかけとなる種明かしも高尚なものとはいい難い気もした。 しかし、例えば土砂降りの中をずぶ濡れになって事件現場まで走る刑事たちの以下のやりとりを思い出すと どうしても口元が緩んでしまい、四の五のいっても仕方がない気にさせる。 |
No.6 | 7点 | 海の稜線- 黒川博行 | 2009/10/17 13:02 |
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所謂「姿なき容疑者」を題材とした本格推理ものになるのだが、関西、四国を飛び回るスケールの大きさと、
緻密な取材力、考え抜かれた殺人トリックの妙に東西文化論という膨らみも加えて、 文庫の裏表紙に書かれた「黒川博行、初期の最高傑作」の惹句に嘘はないと思った。 |
No.5 | 7点 | 暗礁- 黒川博行 | 2009/10/17 12:59 |
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この物語のキモは桑原のシノギへの執念に尽きるだろう。
そして人間関係の複雑さは黒川小説でも最大級で、そこに巨大な利権があることはわかっているのだが、 その利権の総元締めが企業なのか、警察なのか、やくざなのかが判然としないまま、 桑原が強引にこじ開ける風穴に我々は二宮とともに腕を引っ張られように突き進んでいく。 ただ、桑原と二宮の丁々発止のやりとりは相変わらず楽しいのだが、 以前の警察小説のように物語の途中で一度、展開を整理するような描写があってもよかったのではないか。 シノギの矛先が二転三転するのを、 黒川が面白がり過ぎた恨みは残ったような気がする。 |