皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1809件 |
No.33 | 5点 | εに誓って- 森博嗣 | 2024/10/06 14:17 |
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Gシリーズも四作目に突入。Φ→θ→τの次は「ε」(イプシロン)・・・
いったいこのシリーズにはどんな謎が仕込まれているのか? 今までにないスケールの大きささえ感じさせる。 2006年の発表。 ~山吹早月と加部谷恵美が乗り込んだ中部国際空港行きの高速バスが、バスジャックされてしまった。犯人グループからは都市部とバスに爆弾を仕掛けたという声明が出される。乗客名簿にあった「εに誓って」という団体客名は、「φは壊れたね」から続く事件と関係があるのか? 西之園萌絵が見守るなか、バスは疾走する~ 今回、本シリーズとしては一風変わった設定に見える。 紹介分のとおり、東名高速を走る高速バスがジャックされ、シリーズキャラである加部谷と山吹のふたりが人質となり巻き込まれてしまう。 で、終章前、くだんのバスがなんと谷底に落下してしまう! ふたりの運命は? っていう緊張感に包まれるわけなのだが、真相はいかに?という展開。 仕掛けそのものは、本シリーズらしからぬアナログ的なもの。それもそのはずで、仕掛けた方が真犯人側ではなく、〇〇の側だから・・・ 普通のミステリーであれば多少のヤラレタ感はあるのかもしれんが、なにせこのシリーズ作品なのだからなあー、若干の拍子抜け感はある。 そして何よりも”ε”の謎。これは少しも真相に近づくことなく終了。ますます深まる「なぜ」の連続。真賀田四季の残像もチラついてきているので、まあ徐々に謎は解けていくのだろう(本当?)。 そういう意味でも、本シリーズはひとつひとつの作品が大きな「章」であるということなのかな。 とすれば、このモヤモヤ感も致し方なし・・・。でも、今後の展開が心配にはなる。 |
No.32 | 5点 | τになるまで待って- 森博嗣 | 2024/04/29 13:25 |
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Gシリーズの三作目。記号は「τ」・・・なんて読むのか初めて知りました。
「Φ(ファイ)」「θ(シータ)」ときて、今回は「τ(タウ)」・・・。やっぱり、何か深~い意図があるんだろうね・・・ そう思わざるを得ない。2005年の発表。 ~森の中に建つ洋館は、「超能力者」神居静哉の別荘で「伽羅離館(からりかん)」と呼ばれていた。この屋敷に探偵の赤柳初朗、山吹、加部谷、海月ら七人が訪れる。突然とどろく雷鳴、そして豪雨。豪華な晩餐のあと、密室で館の主が殺害された。死ぬ直前に聴いていたラジオドラマは「τになるまで待って」・・・。大きな謎を孕むGシリーズの第三作~ ここまで来ると、もう、普通の本格ミステリーではない(のではと感じる)。 もちろん表向きや体裁は本格ミステリーそのもの。鉄格子付きの窓と頑丈な棒鍵で施錠された扉、という超堅牢な密室だったり、不穏な登場人物、不穏な「館」、そして、なぜか「館」の玄関はある瞬間から施錠され出ることができない・・・ もう、物凄い道具立てで、ミステリー好きの心をくすぐる要素は満載。 ただし、その解法は今まで以上に読者を突き放してくる。なにせ、探偵役の犀川なんて、ものの数分現場を見ただけで、トリックを見破ってしまう。 そして、肝心の密室トリック。これが想像以上に「物理的」なのだ。「物理的」というのは決して「超絶トリック」という意味ではない。どこにでもあるような簡単な道具を使ってできる仕掛けを、人間の手で行った・・・という意味での「物理的」なのである。 あまりにも単純というか、あっさりしすぎていて拍子抜け感は半端ない。むしろ、神居のマジック(加賀谷をアナザーワールドへ連れて行ったやつ)の仕掛けのほうが面白いくらいだ。 さらにスゴイ(?)ことに、本作は真犯人が指摘されないまま終了となってしまう!! 名前がほのめかされてもないところがなかなかスゴイ。こんなのアリ? もう、なんていうか、作者としてもここまで量産してくると変化球というか、「力をこめたストレートなんて投げていられるか!」とでも言わんばかりである。 ただ・・・その分、本作は実に「意味深」である。本作自体がシリーズの伏線となっていることが十分に予想できる。この「伽羅離館」の存在も、赤柳探偵も、萌絵の叔母の意味深な発言も・・・ まあそういう意味では旨い「仕掛け」ではある。 またもや作者の手のひらで転がされてしまう、哀れな読者となってしまうのだろう・・・ね。 |
No.31 | 5点 | θは遊んでくれたよ- 森博嗣 | 2022/12/17 14:22 |
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Gシリーズの二作目。Φの次はθか・・・。
本シリーズになってますます混沌としてきた印象なのだが実際はどうなのか? 2005年の発表。 ~25歳の誕生日にマンションから転落死した男性の額には、「θ」という文字が書かれていた。半月後、今度は手のひらに赤い「θ」が書かれた女性の死体が。その後も「θ」がマーキングされた事件が続く。N大の旧友・反町愛から事件について聞き及んだ西之園萌絵は、山吹ら学生三人組、探偵の赤柳らと推理を展開する~ 今回は・・・なんともフワフワした事件と展開。 飛び降り自殺にしか見えない事件が連続して起こるのだが、死者の体(靴の中の場合もあったけど)のどこかに必ず「θ」の文字が残されている。 つまりは「ミッシング・リンク」が本作のメインテーマになると思われる。 のだが、そこは森ミステリー。当然一筋縄ではいかない。 ロジックの核となるのは「同じ口紅」(→これで「θ」が書かれた)。 今回も一応探偵役は海月(くらげ)が務めるのだが、海月の推理に関して、犀川はとっくに気付いていた模様。(犀川を通じて萌絵も分かっていたという流れ) それにしても、前作でも感じたことだが、読者をまるで突き放したように見えるのは勘違いなのだろうか? 前作の密室といい、本作の不可解な連続自殺といい、提示される謎は魅力的なのだが、実に静か~に進行していく。そして、真犯人も恐らくコイツという程度だし、動機なんか「多分・・・」で終わってしまう。 本作一番のサプライズは、「保呂草」と「真賀田四季」の名前が登場したこと!やはり本シリーズも森サーガの中にガッチリ組み込まれていることが分かったことで次作以降の展開に注目。 |
No.30 | 6点 | Φは壊れたね- 森博嗣 | 2022/01/28 22:30 |
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「S&Mシリーズ」⇒「vシリーズ」⇒「四季四部作」と続いてきた森ワールド。続いて始まるのは「Gシリーズ」
その幕開けとなるのが本作。萌絵や国枝、犀川は引続き登場するけれど、新たに主要キャラクターとして出てくるメンバーもちらほら。2004年の発表。 ~その死体はYの字に吊るされていた。背中に作りものの「翼」をつけて。部屋は密室状態。さらに死体発見の一部始終がビデオで録画されていた。タイトルは「Φは壊れたね」・・・。これは挑戦なのか? N大のスーパー大学院生、西之園萌絵が山吹らの学生たちと事件解明に挑む!~ 最近何かと話題のギリシア文字である。その名も「Φ」(ファイ)。例の感染症もそのうち「Φ型」というのが出てくるのだろうか? などと詰まらぬことを想像してみた。 で、今回も今までと同様、メインテーマは「密室」である。そう、森ミステリーでは定番中の定番ともいえるガジェット。 しかも、電子鍵で施錠され、窓も完全に施錠、そしてまるで現場を見張るようにビデオ撮影がされていたというオマケ付き。そんな完全無比な密室が今回の相手となる。 ただ、この「密室」がクセもの。作者のミステリーを読み継いでいる者としては、密室トリックが徐々に陳腐化或いは簡素化されているなぁーと思っていた矢先、今回は何て言うか、まるで読者を突き放したような「密室」である。 表現するのが難しいんだけど、「まるで、密室トリックなんて、一応定番なので入れてますけど、それが何か?」というふうにでも言っているような感触。 本作で探偵役を務める海月も探偵キャラとしては、かつてないほどドライな性格で、読者を突き放す。 そんなに突き放すのなら、密室トリックなんて入れなきゃいいのに!って思ってしまう。 そうは言っても、密室トリック自体は非常にレベルが高い。いかにも不自然な関係者たちや、その行動、Yの字に張り付けられた死体を始めとするあまりに不自然な現場・・・そのすべてが密室を解き明かすカギにはなっている。こんなトリックをいとも簡単に披露すること自体、稀有な才能だとは思う。 他の皆さんが触れているとおり、タイトルの意味は結局不明なままである。(どうも犀川や萌絵、海月は分かっているようだが・・・)。作者にとってはそんなことはどうでもよいことなんだろう。この辺りは、量産が過ぎて、徐々に作者の熱量が作品内に挿入できないということになっているのではないか。ということで、シリーズ続編は不安な限りである。 |
No.29 | 5点 | 四季 冬- 森博嗣 | 2021/06/08 20:20 |
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「四季」四部作もついに最終作。タイトルは当然に「冬」。
真賀田四季をめぐる物語は一体どんな結末を迎えるのか? それは果たして私の理解の範疇なのか? 2004年の発表。 ~「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内側を、ある殺人事件を通して描く。作者のひとつの到達点であり新たな作品世界の入口ともなる四部作完結編~ うーん。『よく分からん』 以上! てな具合で書評を終えてもいいくらいの作品だった。 これは真賀田四季の頭の中なのか、内面なのか、はたまた作者自身の頭の中の光景なのか? 平々凡々たる私の頭では、なんとも曖昧模糊とした感覚でしかない。 終章の四季と犀川の場面。 これは時間軸としては一体どうなっているのか? 「今」なのか、「100年後(?)」なのか、単に四季の想像の産物なのか・・・ それでも実に教唆に富む言葉を四季は放っていく。 『そもそも、生きていることの方が異常なのです。死んでいることが本来で、生きているというのは、そうですね、機械が故障しているような状態。生命なんて、バグです・・・』 だそうです。でも、何となく頷けるような気もしたりして・・・ これで一応、彼女をめぐる物語には一応のピリオドが打たれる。そして、紹介文にもあるとおり、新しい作品世界が始まることとなる。 我々読者は、作者の大きな手のひらのなかで弄ばれる存在のよう。いや、次々と作者が制作したフィルムを見せられる「ゲスト」というべきか。 いずれにしても次のステージへ進むことにしようか・・・ (よく分からん書評でスミマセン) |
No.28 | 6点 | 四季 秋- 森博嗣 | 2021/05/13 22:20 |
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時は流れ、「すべてがFになる」(=妃真加島での事件)以後の世界が描かれる本作。
「秋」といえば『実りの秋』となるのか・・・? 2004年の発表。 ~妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人はさまざまに噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を意識せずにはいられなかった・・・。犀川准教授が読み解いたメッセージに導かれ、ふたりは今一度彼女との接触を試みる。四季の知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾~ なるほど・・・ シリーズファンにとって、本作はまさに“ボーナス・トラック”的な一冊だったんだな。 「犀川と萌絵」、「保呂草と各務」、「紅子と林」、「世津子と祖父江」などなど、これまでのシリーズに登場してきた主要登場人物たちの関係性、更には作者にうまいこと(?)はぐらかされてきた時間軸が鮮やかにお披露目されることになる。 個人的にいうと、vシリーズの異端作「捩れ屋敷の利鈍」の伏線がここで綺麗に回収されたことに感動。 まぁ、ネタバレサイトで凡その「仕掛け」は理解していたわけだけど、これは目の前に示されてみると、やはり「鮮やか」という一言。 あと他の方も書かれてますが、終盤での紅子と萌絵の出会い。「すべてがF」から順に読み継いできた読者としては、ただただ「万感の思い」(!) 本作でもうひとつ感慨深かったのが、萌絵の成長ぶり。 シリーズ当初、二十歳そこそこの世間知らずのお嬢さまだった萌絵。当時はただ自分自身の意見を表明しさえすればよかった「昔」、そして周りの歩調に合わせ、人生の後輩たちの成長にも目配りをしなくてはいけなくなった「今」 当たり前のことだけど、こうやって人は年を重ね、成長していくんだよなぁ・・・という思いを今さらながら強く考えさせられた。「文学的」という形容詞とは最も遠いはずの理系ミステリーで、こういうことを内省させられるなんてなぁ・・・ ということで次作はシリーズ最終章の「冬」。 そして作品世界は更に広がっていく。 |
No.27 | 5点 | 四季 夏- 森博嗣 | 2021/04/29 22:20 |
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「四季」四部作の二作目は当然「夏」。四季も成長して十三歳・・・。
目くるめく森サーガはどのような展開をしていくのか。 2003年発表。 ~十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得て、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだことは? 孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾~ 本作にはうわべだけの書評なんて必要ない。いや無意味だろう。 以上、終了。 ・・・いやいや、さすがにそれでは気が引ける(何に?)、ということで雑感だけを記す。 本作はいわゆるミステリーでは全くない。 ラストに衝撃的な展開が待ち受けてはいるが、中途は目に見える形では「謎」の提示もなく、事件めいた事象も起こらない。ただ、ひたすら、四季の目で捉えた事象、話した言葉、頭の中のイメージが語られていくだけ。 それでも。読者は揺さぶられる。圧倒的な世界観に。 今回のサブタイトルはRed Summer! 確かに「Red」。 四季にとっての「生」とは、はたまた「死」とは。人は「死ぬ」のではない。「死ななければならない」のだ。それが彼女にとっての唯一無二の帰結、ということなのだろうか? 今回は前作に引き続きとなる紅子、各務のほか、保呂草も登場する。時系列の壁を越えて登場する森サーガの役者(登場人物)たち。まるで彼らの群像劇のようだという思いを強くした。 誘拐された(?)四季と彼女を発見した林(この書き方って叙述トリックですか?)のやり取りがなかなか秀逸。紅子とかつて夫婦だったことを一瞬にして四季に言い当てられた林。結婚指輪を外してない林が「外れないだけ」とうそぶくのに対して、「嘘」「緩そうだもの・・・」って返す13歳。何か心に残る場面だ・・・ |
No.26 | 5点 | 四季 春- 森博嗣 | 2021/03/21 10:15 |
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真賀田四季-森博嗣作品を語るうえで、欠かすことのできない登場人物。
その彼女を主人公とした四部作。その第一章となるのが、本作。題して「春」・・・ 2003年の発表。 ~天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアとなった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか?~ 文庫版の121頁で、四季が言い放つ台詞。 『そうなの。冗談みたいな真似をしないといけないってこと。この世の手続って、大半が冗談だと思うわ。』 ・・・成程。フィクションの中の登場人物とはいえ、わずか6歳の子供にこうまで断定されるとは。 でも、言われてみればそうかもしれないなぁー。 昨今の政治家たちの答弁や、日々繰り返される過剰接待を巡る野党からの追及なんて見てると、「冗談」という表現が最も適格かもしれないと思ってしまう。 いやいや、そんなことはどうでもよかった。 本題なのだが、うん? 本題って何だ? そもそもこの作品に本題、本筋なんてものが存在するとは思えない。 個人的には、読んでて森博嗣の頭の中が恐ろしくなってきた。 矢継ぎ早に出された作品の数々、時系列すら超えた登場人物たちとその背景。こんなにまで膨らみを持つ作品世界が頭の中で構築され、それを実際に表現できるなんて・・・ 単純に作者の才能に、能力に敬服するばかりだ。 vシリーズの最終作「赤緑黒白」で、思いもよらなかった作品世界のつながりが見えてきた刹那。もはや、本作はトリックがどうとか、密室がどうとかいうレベルで断じてはいけないのかもしれない。 真賀田四季をめぐる物語は始まったばかり。そして、今後どのように「すべてがF」に繋がっていくのか・・・ (本作を一作ごとの登録にしていただいて誠にありがとうございます) |
No.25 | 6点 | 赤緑黒白- 森博嗣 | 2020/01/18 14:58 |
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長かったvシリーズもついに完結!
保呂草や紅子たち阿漕荘のメンバーともこれでお別れかと思うと寂しさが募る・・・ 2002年の発表。 ~鮮やかな赤に塗装された死体が、深夜マンションの駐車場で発見された。死んでいた男は「赤井」。彼の恋人だったという女性が「犯人が誰かは分かっている。それを証明して欲しい」と保呂草に依頼してきた。そして発生した第二の事件では、死者は緑色に塗られていた・・・。シリーズ完結編にして、新たなる始動を告げる傑作~ いろいろと「示唆」に富んだ作品である。それはおいおい語るとして、 まずは本筋の殺人事件。「赤井」さんは赤く塗られ、「美登里」さんは緑色に塗られ・・・という展開。最初はABCパターンなのだろうかという想像だったのだが、「ミッシング・リンク」ではなく明らかな「リンク」が判明し予想は早々に裏切られる。 矢継ぎ早に起こる四つの殺人事件。終盤、紅子が暴く真犯人については、恐らく想定内という方が多いだろう。 (アナグラムには気づかなかったけど・・・) 珍しくド派手な銃撃戦もシリーズの掉尾を飾る作品としては相応しいのかもしれない。 そして今回いつも以上にフォーカスされるのが「動機」。もちろんここでいう「動機」とは、例えば社会派ミステリーなどに登場する「動機」とは全く趣を異にする。文庫版335頁で保呂草が、『・・・彼等を殺人へと駆り立てたものとは、結局のところ(強烈な憎悪や欲望)ではなく、目の前にあった越えられない柵が、一瞬消えただけのことなのだ。ふと手を伸ばしてみたら、あるはずのガラスがなかった・・・』と語っている。 今回の真犯人の動機については、我々市井の人間からは想像もできないものだ。その分、リアリティは薄いと言えるのかもしれないけど、作者は別次元の解を用意している。 紅子の「まず殺人があって、それからそのための設定」という指摘も衝撃的だった。 これで謎に満ちたvシリーズも終結。怪しい魅力を振り撒いていた保呂草の謎も分かったような、分かりきれてないような・・・ そして、ついに今回ネタバレサイトを閲覧することに・・・ 『衝撃!』のひとこと。まさか、あの人物があの人物で・・・、えっーそれだと年代が合わなくないか?などという疑問が噴出。 いやいや、これはスゴイわ。海堂氏の「桜宮サーガ」もスゴイけど、それに負けず劣らず。いったいどんな頭の構造してんだ? ということで、次シリーズも当然読み継いでいくことになりそうだ。 (でも、「捩れ屋敷の利鈍」の設定だけはどうにも無理があると思うんだけどなぁー。再読してみようか・・・) |
No.24 | 6点 | 朽ちる散る落ちる- 森博嗣 | 2019/06/21 22:24 |
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発表順に読み進めてきたVシリーズもいよいよ大詰め。
残すは最終作「赤緑黒白」のみとなった第九作目がコレ。 2002年の発表。 ~土井超音波研究所の地下に隠された謎の施設。絶対に出入り不可能な地下密室で奇妙な状態の死体が発見された。一方、数学者・小田原の示唆により瀬在丸紅子は周防教授に会う。彼は地球に帰還した有人衛星の乗組員全員が殺されていたと語った。空前の地下密室と前代未聞の宇宙密室の秘密を暴くVシリーズ第9作~ ついに、“宇宙来たぁー”(by福士蒼太)。 ありとあらゆる様々な密室を取り上げてきた森ミステリーも、ついには宇宙空間へ進出?! というわけで、今回は前々作に登場した「土井超音波研修所」が再度事件の舞台として登板。 と言っても、現在進行形の事件ではなく、地下の秘密空間で見つかった白骨死体が謎の中心となる。 いわば、前々作(「六人の超音波科学者」)の後日譚的な内容。 ・・・って考えると、本作と前々作に挟まった前作(「捩れ屋敷の利鈍」)って一体どういう意味があったのか? 『保呂草と萌絵をクロスさせること』が主目的? なんだろうか? (いずれにしても、本作ではその解答は得られない) で、「密室」である。“空前の地下密室”の解については、いかにも本シリーズらしいという感想。 ただ、これが許されるなら何でもありだなという気にはさせられた。 (個人的には、森本君が小鳥遊練無との会話のなかで挙げたトリックが一番面白かったけどな・・・) まぁ、Vシリーズでの「密室」は、決してプロットの主軸ではないということは、これまで何度も触れてきたとおり。今回も同様。 えっ? “前代未聞の宇宙密室”はどうしたんだって? ・・・・・・(寝たふり) そんなもん、ありましたかねぇ・・・。あーあ、あったね。確かに。あったような・・・うーん。 少なくとも“前代未聞”というのは100%大げさです。 |
No.23 | 6点 | 捩れ屋敷の利鈍- 森博嗣 | 2019/01/24 22:55 |
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Vシリーズも回が進んで八作目となる本作。
本作最大の売りは何といってもS&Mシリーズの主役・西之園萌絵の登場。 森ミステリーファンにとってはまさに堪えられないシチュエーション(!)、ということで2002年の発表。 ~「エンジェル・マヌーヴァ」と呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェ様の捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリ~ 作者のミステリーというと、やっぱり「密室」というキーワードは切っても切れない。 ただし、密室に対して正面から挑んでいた感のあるS&Mシリーズとは異なり、Vシリーズ突入後は「密室」に対するアプローチも徐々に変革的というか、トリックは二の次というプロットが目立つようになってきた。 本作も、「捩れ屋敷」という妙ちきりんな建物とコンクリートで隙間が塞がれた最大級に堅牢な建物が保呂草と萌絵の前に立ち塞がる。 これはもう・・・普通なら歓喜すべきシチュエーションのはず。 どんな密室トリックなんだ?・・・って。 ただ、示された解法は正直言って、決して満足のいくものではない。 「拍子抜け」と表現される方も多いだろう。 エンジェル・マヌーヴァの消失トリックについても同様に「そんなこと?」というようなものだ。 ただ、本作の「狙い」はどうもそんなところにないようだ。 「密室」は単なる疑似餌。真の狙いはシリーズ全体を貫くもっと大掛かりなもの・・・ 保呂草と萌絵のハイセンス(?)な会話からもそんな空気がヒシヒシと伝わってきた。 他の方々も触れているとおり、次作以降、作者の狙いも明らかになってくるようで、まぁ旨いよね・・・ 私はたっぷり前菜をを食わされたということなんだろうか・・・ じゃぁー次の料理、そして是が非でもメインディッシュを食べねば、という気分になるじゃないか。 瀬在丸紅子の言葉も気になるよねぇ・・・ |
No.22 | 6点 | 六人の超音波科学者- 森博嗣 | 2018/06/25 21:26 |
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「恋恋蓮歩の演習」に続くVシリーズの第七弾。
2001年の発表。 ~土井超音波研究所・・・山中深くに位置し、橋によってのみ外界と接する。隔絶された場所。所内で開かれたパーティーに瀬在丸紅子と阿漕荘の面々が出席中、死体が発見される。爆破予告を警察に送った何者かは実際に橋を爆破、現場は完全な陸の孤島と化す。真相究明に乗り出す紅子の怜悧な論理。美しいロジック溢れる推理長編~ 同じ“流れ”の中にあった前作(「恋恋蓮歩の演習」)と前々作(「魔剣天翔」)から一転、今回の舞台は「陸の孤島」と化した超音波研究所という何とも怪しげな設定・・・ しかも、巻頭から思わせぶりな館見取り図が挿入され、中途には首切り死体も現れるなど、本格ファンの心をくすぐるガジェットに溢れた作品となっている。 Vシリーズも巻を重ねるごとに“超変化球”的な仕掛けが目立ってきたと思いきや、初期作品に近い直球の本格ミステリーに先祖返りしたかのような趣向?いう感覚だったが・・・ ただ、どうも、本作、作者が新しいアイデアを捻り出して・・・というわけではなく、自作や他作のトリックの焼き直し或いは流用っぽいものが目立つ気がする。 例えば、首切り+手首まで切られた死体っていうと、Why done it?⇒ 被害者の入れ替わり、というのは見え透いてるから、当然“捻り”があるんだろうと読者は予想するんだけど、今回のトリックはなぁ・・・作者としては安易すぎるのではないか? Who done itも分かりやすすぎて、瀬在丸紅子もすぐに看破してしまったし・・・ どうもその辺り、敢えての安直さなのか、単なるネタ切れなのか、気になるところだ。 ド直球の本格ミステリー志向の作品にするんだったら、もうワンパンチもツーパンチも欲しかったなというのが偽らざる思い。 ただし、次作(「朽ちる散る落ちる」)も本作と同様、「土井超音波研修所」が舞台ということで、作者らしい仕掛けがあることを期待したい。 (いよいよVシリーズも佳境に入ってきたのかな?) |
No.21 | 5点 | 虚空の逆マトリクス- 森博嗣 | 2018/01/27 11:31 |
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短篇集としては「今夜はパラシュート博物館へ」に続く第四弾となる。
S&Mシリーズが一編入ってるのがファンとしてはうれしい限り(なんだろうな)。 2003年の発表。 ①「トロイの木馬」=当然、あの有名な逸話がモチーフとなっているわけだけど、アレを森博嗣風にアレンジするとこういう感じになるんだねぇ・・・ということ? 入れ替わりが激しくて、最後は何が何だか分からくなったのは私だけだろうか。 ②「赤いドレスのメアリイ」=“奇妙な味”のミステリーっていうところだろうか。どこかで読んだような、焼き直しのような気はするけど、何ともオシャレな感じに仕上がってて、後味は悪くない。 ③「不良探偵」=途中、「これってもしかしてまともな謎解きミステリーなんだろうか?」と思ってしまった。オチは腰砕けのような、残尿感が残るような・・・。 ④「話好きのタクシードライバー」=『ヒトシ松○のスベラナイ話」に出てきそうなストーリー(特段笑いはないけど)。これって、作者が体験した実話なのか? ⑤「ゲームの国」=他の皆さんがおっしゃるように、とにかく「回文」「回文」またまた「回文」というお話。もう、本筋なんてどうでもよい。ところで、回文好きのサークルや集まりって、そんなに多いんだろうか? ⑥「いつ入れ替わった?」=S&Mシリーズ。またまた犀川先生と萌絵の歯痒い関係が描かれる・・・(もういいって)。本筋としては、誘拐事件の最中、身代金入りのカバンが石ころ入りのカバンに入れ替わる、っていう面白い謎なのだが・・・なんかうやむやで終わった感。 以上6編。 これは、森博嗣ファンブックだね。 ファンにとっては、犀川と萌絵のその後なんて堪らないだろうし・・・ 他の作品もひとことで言うなら「ごった煮」っていう感じなのだが、作者らしさという意味では“いかにも”ということかな。 長編ではできない、しないことも短編だからできるということなのだろう。 佳作とは言えないけど、決して嫌いではない。 そういう感想。 (ベストは?と問われたら、②or⑤かな・・・) |
No.20 | 5点 | 恋恋蓮歩の演習- 森博嗣 | 2018/01/10 22:30 |
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2001年発表のvシリーズ第六作。
何とも意味深なタイトルだし、英文タイトルは“A Sea of Deceits”・・・ よく分かんねぇ・・・ ~世界一周中の豪華客船ヒミコ号に持ち込まれた天才画家・関根朔太(せきねさくた)の自画像を巡る陰謀。仕事のためその客船に乗り込んだ保呂草と紫子。無賃乗船した紅子と練無は、完全密室たる航海中の船内で男性客の奇妙な消失事件に遭遇する。交錯する謎、ロマンティックな罠。スリリングに深まるvシリーズ長編第六作!~ 航空機内の密室殺人を扱った前作「魔界天翔」。 お次は、豪華客船内で起こる不可思議な消失事件がメインテーマとなる。 航空機⇒船というのは作者らしい稚気なのか、最初からの計算ずくなのか? 前作でも、発生する事象は何とも「曖昧模糊」とした形をとっていたが、本作ではさらに「曖昧模糊」さがレベルアップした印象だ。 いったい何が書きたかったのか? 単にミステリーの一形態としての「船上ミステリー」に取り組みたかったのか? ラストで判明することとなるサプライズについても、恐らく本シリーズファンなら中途で「もしやそうではないか・・・」と薄々察したはず。 (かくいう私もそうだが) そんなことは作者も折り込み済だろうからなー 保呂草VS鈴鹿一族VS各務、そしてVS紅子、おまけでVS祖父江・・・ この図式は前作と同様なのだが、それぞれがそれぞれの思惑を抱いてついたり離れたり・・・ 何ともスマートでスリリングな展開。 もはや探偵を主役とした本格ミステリーというよりは、盗賊を主役としたアルセーヌ・ルパン或いはルパン三世シリーズのような風味になった感のあるシリーズ。 今後の展開は気になるけど、徐々に個人的な好みからは外れていってる印象。 でも、やっぱり気になる。特に保呂草の行く末に・・・ |
No.19 | 5点 | 今夜はパラシュート博物館へ- 森博嗣 | 2017/05/12 23:39 |
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「まどろみ消去」「地球儀のスライス」につづく第三短篇集。
2001年発表。 ①「どちらかが魔女」=久々のS&Mシリーズというだけで心が弾む(?)。やっぱり、犀川先生のクールさは群を抜いているし、物事の捉え方はもはや職人芸だ。あと、諏訪野も職人芸? ②「双頭の鷲の旗の下に」=犀川&喜多が母校の文化祭に招かれて・・・という一編。そして、同時に進行する謎の事件・・・。現実と過去が入り混じってよく分からなくなってくる。 ③「ぶるぶる人形にうってつけの夜」=とにかく“二倍男”がツボ! 途中まで「ぶるぶる」じゃなくて「ぷるぷる」だと思ってた。平面図の件は指摘されるまで気付かなかったな・・・ ④「ゲームの国」=アンチ・ミステリ、ということでよいのでしょうか? アナグラムか・・・まっ、どうでもいいって言うか・・・ ⑤「私の崖はこの夏のアウトライン」=ファンタジー? イメージの世界 ⑥「卒業文集」=小学校の卒業文集をそのまま載せ、そこにミステリーのスパイスを盛り込むというセンスの高い作品。そんな仕掛けが?と思ってると、最後の最後で「うーん」となる。 ⑦「恋之坂ナイトグライド」=一応、最後にオチがある。 ⑧「素敵な模型屋さん」=児童文学のような、大人向けのような、ラストには心が温まる・・・そんなストーリー 以上8編。 いやいや・・・読んでて、途中あまりの「分からなさ」に投げ出したくなった。 「いったい何がいいたいのだろう?」って多くの読者は思うのではないか? (特に私のような拙い読者は) そこはさすがに森氏で、もちろん企みや仕掛けがそこかしこに用意されている。 普段のシリーズ長編とは違って、よい意味では「前衛的」で「遊び心たっぷり」。 でも分かりにくいよネ・・・それが狙いなのかもしれないけど、「分かる人には分かる」っていうのは罪だという気もした。 評価はちょっと辛め。 ところで「パラシュート博物館」とはどういう意味なんでしょうか? |
No.18 | 6点 | 魔剣天翔- 森博嗣 | 2017/03/04 15:39 |
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「夢・出逢い・魔性」に続くvシリーズの第五作。
2000年発表。 ~アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮かぶその完全密室で起こった殺人事件。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに解き明かす!~ 相変わらずというかvシリーズも五作目となり、元々異形のミステリーだったものが、更に「異形化」してきたな・・・って感じ。 今回の謎は何と「空中密室」!! 曲芸飛行を行っているコクピット内で発生する密室殺人。 しかもあろうことか銃殺、しかも背中から、っていうとびっきりの謎だ。 いったいどういうトリック?って思いながら読み進めていたが、事件の顛末が語られるばかりで、なかなか瀬在丸の推理に行き着かない流れ。 「おいおい、もうページがないぞ!」って思ってると、やっと真相解明へ。 そして明かされるのが、アノ(どの?)真実。 正直、「えー!」って思わされた。 これって、斉藤さんは気付かなかった、っていうことなんだよね・・・ すげぇリスクがあるように感じるけどなぁー っていうか、もうアッサリしすぎだろう。「肩透かし」って捉える読者も多いだろうな。 一番のサプライズは例のダイイングメッセージか? 何だか実にもったいつけといて、意味はコレかよ!! 「国文科」出身は別に関係ないと思いますけどね・・・ いやいや・・・これはもしかして「シャレ」で書いたのか? それとも大真面目なのか? ますます捉えどころのない世界へ向かい始めた感のある作品だった。 |
No.17 | 6点 | 夢・出逢い・魔性- 森博嗣 | 2016/10/16 00:05 |
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数えてVシリーズも四作目となった本作。
舞台はいつもの“那古野”ではなく、東京・渋谷というのが異質かも。 2000年発表。 ~二十年前に死んだ恋人の夢に怯えていたN放送のプロデューサーが殺害された。犯行時、響いた炸裂音はひとつ。だが、遺体にはふたつの弾痕があった。番組出演のためテレビ局にいた小鳥遊練無は、事件の核心に位置するアイドルの少女と行方不明に・・・。繊細な心の揺らぎと瀬在丸紅子の論理的な推理が際立つシリーズ第四作!~ これはまた・・・不思議な雰囲気を纏った作品だ。 読了した後、何となく頭に浮かんだのは「ボーダレス」という単語或いはフレーズ。 いつもの舞台である那古野を飛び出し、日本の中心・東京で事件に巻き込まれるところも、何となくボーダレス。 今回は小鳥遊のある特徴が事件の核心に繋がるのだが、男とか女とか性別を超えたところにあるボーダレス(・・・ってネタバレしてるような・・・) 真犯人がプロデューサー殺害に至る経緯というか動機についても、オイオイそんなことあるのかい?っていう意味で、ボーダレス(動機になりうるかどうかの境界ということ)だなと感じた。 今回のフーダニットもまたブッ飛んでいる。 「そんなとこから出してきたか!」とでも表現したくなるような存在なのだ。 作者らしく、事件の舞台は密室なのだが、密室構成のトリックはもはや二の次というか、あまり深い意図はない。 銃声と弾痕の差異の謎についても、実にアッサリ片付けられている。 密室や不可解現象の謎の構築に拘ったS&Mシリーズとは、やはりミステリーに対するアプローチの違いを感じてしまう。 どちらが好みかと問われると「前シリーズ」と答えてしまいそうだが、Vシリーズのスゴさも徐々に気付いてきたように思える。 今まで脇役扱いだった小鳥遊と香具山にスポットライトを当てた本作。 その代わりというか、保呂草の“おとなしさ”が不気味に感じた次第。次作に期待ということか? (でも一番のサプライズは稲沢の正体だったりする。これって、あれだけの意味でよかったのか??) |
No.16 | 6点 | 月は幽咽のデバイス- 森博嗣 | 2016/06/25 21:53 |
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「黒猫の三角」「人形式モナリザ」に続くVシリーズの第三弾。
2000年発表の長編。 ~薔薇屋敷或いは月夜邸と呼ばれているその屋敷には、オオカミ男が出るという奇妙な噂があった。瀬在丸紅子たちが出席したパーティーの最中、衣服も引き裂かれた凄惨な死体が、オーディオ・ルームで発見された。現場は内側から施錠された密室で、床一面に血が飛散していた。紅子が看破した事件の意外な真相とは?~ これまた強烈な“変化球”本格ミステリーである。 当然ながら、作品ごとの出来不出来や若干のレベル差はあるけど、ここまで引き出しの多い作家は非常に稀だと思う。 今回もやはり登場する「密室」。 ただし、これがクセもの! そして、密室の謎に添えられた“こぼれた水”の謎がまたクセものである。 読み返してみると、案外分かりやすいヒントが散りばめられているなぁーと気付く。 例えば、床の凹み然り、現場に落ちていた“毛”然り・・・ ただし、真相がここまでアクロバティックなものだとはなかなか踏み込めなかった。 (終章までで何となく方向性は勘付いていたが・・・) 紅子の解説はまるで中学校の化学(理科か?)の授業のようだった。 前から思ってたけど、このVシリーズって、このレギュラーメンバー全員登場させる意味はあるのか? 少なくとも小鳥遊や香具山のサイドストーリーなどはいらないなぁと思ってしまうのだが・・・ 相変わらず保呂草は胡散臭いし、紅子VS夕夏の争いもしつこく書かれてるし・・・ 何か、本筋部分は今回かなり薄味というか、少量だったように思うのは私だけだろうか? それでもまぁ十分水準級での評価できる。 なかなか真似できないアイデアだしね。 |
No.15 | 5点 | 人形式モナリザ- 森博嗣 | 2016/02/21 17:46 |
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1999年発表。
「黒猫の三角」に続くVシリーズの第二弾。 保呂草潤平、瀬在丸紅子ほかレギュラーメンバーが揃って避暑地で大活躍(!?) ~蓼科高原に建つ私設博物館「人形の館」に常設されたステージで、衆人環視のなか「乙女文楽」の演者が謎の死を遂げた。二年前に不可解な死に方をした悪魔崇拝者。その未亡人が語る「神の白い手」。美しい避暑地で起こった白日夢のような事件に瀬在丸紅子と保呂草淳平ら阿漕荘の面々が対峙する・・・。大人気Vシリーズ第二弾~ やはりS&Mシリーズとは微妙にテイストの異なるVシリーズ。 前作では、初っ端からいきなり「大技」というか「飛び道具」のような仕掛けに面食らったのだが、本作では一転してやや静かな展開。 事件自体は衆人環視のなかで起こる不可能犯罪、一種の密室殺人であり、そこは実に作者らしい。 誰も犯人足りえない状況のなかで紅子が指摘した真犯人に「アッ」と思わされることは間違いないだろう。 (観客の視線を一方に集めて別のところで・・・ってこれはマジックでよくやる手だな・・・) ただ、今回もトリック云々はプロットの本筋ではない。 「この犯罪を誰に見せたかったのか」・・・これが本作一番のメインテーマとなるのだ。 謎そのものも今までに接したことのないものだが、その真相もまた意外というか不可解(?) これが言いたかったことだとすれば、私の平凡な頭では理解不能としか言いようがない。 もともと動機へのアプローチは二の次というか、一般的な理解の範疇ではない本シリーズにしても本作はブッ飛んでいる。 紅子のキャラもまたスゴイ。 萌絵はまだ理解の範疇に入っていたけど、紅子の頭の中はもはや範疇ではない。 前作以上に彼女の心の揺れを読者は知ることになる。 (ついでに保呂草のキャラもまだまだ謎だらけだ) ただ、作品としてはどうかな? どうもボンヤリしていたというか、メリハリに欠けるというか、つかみどころのないまま終わった感が強い。 モナリザの謎と真相だけが現実的に思えた。 |
No.14 | 7点 | 黒猫の三角- 森博嗣 | 2015/10/18 20:57 |
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1999年発表。
S&Mシリーズに続くVシリーズの一作目が本作。 保呂草潤平、小鳥遊練無、香具山紫子、瀬在丸紅子の四人が織り成すハーモニー(!?) ~一年に一度、決まったルールの元で起こる殺人事件。今年のターゲットなのか、六月六日、四十四歳になる小田原静香に脅迫めいた手紙が届いた。探偵・保呂草は依頼を受け「阿漕荘」に住む面々と桜鳴六画邸(おうめいろっかくてい)を監視するが、衆人環視の密室で静江は殺されてしまう。森博嗣の新境地を拓くVシリーズ第一作!~ 「そうきたか・・・」っていうのがまずは読了後の感想。 密室などとにかく本格ミステリーのガジェットに拘ったS&Mシリーズも、作品を重ねるごとにやや変化球気味になっていた矢先。 「さすがにもう本格へのアプローチも限界なのか?」という思いもしていた。 そんななか始まった新シリーズ。 ある意味衝撃の結末(?)が襲う本作。 いきなり(シリーズ一作目で)コレ? って騙される読者も多いことだろう。 でも、一筋縄ではいかない森ミステリー。 当然ながら作者の「企み」がそこには隠されている・・・ 密室については腑に落ちない読者も多いことだろう。 前シリーズとは比べ物にならないほどデフォルメされた密室トリック。正直にいえば、かなり「適当」なのだ。 ただ、そこは作者の「拘り」ではない。 作品全体に仕掛けられた「欺瞞」こそが本作の真骨頂。 そういう意味では、前シリーズで培われた作者の力量がさらに昇華されたのが本シリーズとも言える。 ってことは決して低い評価はできないな・・・と考える次第。 (動機については敢えて触れない) |