皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1859件 |
No.519 | 6点 | プレイバック- レイモンド・チャンドラー | 2011/07/30 01:01 |
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作者最後の作品。
名作「長いお別れ」から4年半の沈黙を経て、久々にマーロウ登場です。 ~女の尾行を依頼されたマーロウは、ロサンゼルス駅に着いた列車の中にその女の姿を見つけた。だが、駅構内で派手な服装の男と言葉を交わすや、女の態度は一変した。明らかに女は男に脅迫されているらしい。男は影のようにその女について回った。そして2人を追うマーロウを待つ1つの死とは?~ チャンドラー最後の作品ということを考えれば、何となく感慨深い作品のように思ってしまう。 事件そのものは、マーロウが突然事件に巻き込まれ、関係者の美人とすぐに深い仲になったりしながら、事件全体の構図&謎を解き明かす・・・ ということで、まぁいつもの調子のように思える。 ただ、巻末解説で触れられているとおり、これまでとはやや異なったテイストがあるのも事実のようです。 今回、ベッドシーンが多いという指摘もありますが、やっぱりマーロウはカッコいいですよ。 本作の舞台となるサンディエゴもチャンドラーやマーロウの世界観によくマッチしてます。 レベル的にはそれほど高い評価にはなりませんが、古き良きハードボイルドを味わいたい方にはお勧め! (有名な台詞『・・・やさしくなかったら、生きている価値がない』・・・シビれるねぇ) |
No.518 | 6点 | アヒルと鴨のコインロッカー- 伊坂幸太郎 | 2011/07/30 01:00 |
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大ヒットした長編「重力ピエロ」に続く第5長編作品。
本作もやはり、伊坂らしい台詞まわしが特徴的な吉川英治文学新人賞受賞作。 ~引っ越してきたアパートで出会ったのは、悪魔めいた印象の長身の青年。初対面だというのに、彼はいきなり「一緒に本屋を襲わないか」と持ちかけてきた。彼の標的はたった1冊の広辞苑! そんなおかしな話に乗る気などなかったのに、なぜか僕は決行の夜、モデルガンを手に書店の裏口に立ってしまったのだった!~ なかなか評価の難しい作品ですねぇ・・・ 正直、中盤までは読むのが多少苦痛になるようなまだるっこしい展開。 伊坂らしい独特かつ軽妙な語り口だけが目立ち、どうということのない話が続いているだけのように思えてしまう。 それでも、さすがに終盤に入ると、そこまでの伏線がきれいに回収されていく手口を満喫させてもらえます。 「カットバック」もうまく使ってますよねぇー。 こういう書き方をされると、とにかく読み進めていくしかないという気にさせられる。 これで、「もしオチがしょうもなかったら承知しねぇぞ」と思ってしまいますが、まずは及第点といった評価でしょうか。 ただ、コアなミステリーファンにはウケない気がします。 (ブータン人って、そんなに日本人に似てましたっけ?) |
No.517 | 3点 | 花曇り- 赤井三尋 | 2011/07/30 00:58 |
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乱歩賞受賞作「翳りゆく夏」に続く作品集。
普通の短編+ショートショートという組み合わせですが、ミステリー色はやや薄くなっています。 ①「老猿の改心」=金庫破りの名人「老猿」が仕事中に見つかり、あろうことか金庫の中に閉じ込められる! 結果は如何に? ②「クリーンスタッフの憧憬」=TV局に勤めるアルバイトの清掃員の話。いわゆる「ちょっといい話」という奴ですが、あまりにステレオタイプ。 ③「三十年後」=昔の悪ガキトリオの1人が30年後に・・・というよくあるプロット。最後にはお決まりのオチかと思いきや、なかなかブラックに・・・ ④「青の告白」=2,30年前のプロットのような気がする。プロの作家としてはどうか? ⑤「花曇り」=戦前~戦後にかけての囲碁界が舞台。まぁ、いい話ではあるが、オチも「ふーん」程度。 あとはショート・ショート作品(「遊園地の一齣」「紙ヒコーキの一齣」「アリバイの一齣」「善意の一齣」「誘拐の一齣」) 以上5編+α。 はっきりいって、低レベルの作品集。 正直ミステリーとは呼べませんし、プロットがあまりにも古臭いのでは? 巻末解説ではソツなく誉めてますが、個人的には誉めるところが思い浮かばない・・・ まぁ、買ってまで読むほどではないという評価。 (全体的に渋すぎる作風・・・せめてもう少し起伏が欲しい) |
No.516 | 6点 | 町長選挙- 奥田英朗 | 2011/07/24 15:46 |
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絶好調の「ドクター伊良部シリーズ」第3弾。
今回は実在の人物がモデルにされてます。(しかも相当分かりやすい!) ①「オーナー」=人気球団「東京グレート・パワーズ」のオーナー田辺満雄、通称「ナベマン(!)」が今回のクランケ。この老練な人物ですら、伊良部のマイペースとアホパワーの前には負けてしまう・・・でも、「老害」ってのは絶対ありますね。 ②「アンポンマン」=アンポンマンこと、某IT企業の風雲児・安保貴明が主人公。超効率的な思考で世間をアッと言わせ続ける安保が悩まされるのは「ひらがな健忘症」(!) パソコンでのローマ字変換に親しんでしまった方にとっては「ギクッ!」とするかも・・・ ③「カリスマ稼業」=40代にして美貌を保ち続ける女優、白木カオル(!)が主人公。まぁ、女優っていうのは多かれ少なかれ、陰ではこういう努力をしているんでしょうし、プロ意識が高いということだから、決して悪いことじゃないと思いますけどね・・・もう少し「自然に」ということなんですかね。 ④「町長選挙」=選挙戦を前に真っ二つに住民が割れている町、「千寿島」が舞台。公然と札束が乱れ飛ぶ激しい選挙戦に伊良部がなぜか巻き込まれていきます・・・でも、やっぱり最後は何とも心温まる光景になる。 以上4編。 相変わらず「うまい」ねぇ。 ①~③はモデル丸分かりで皮肉一杯ですけど、何か問題出なかったんですかねぇ?(特に③) まぁ、いろいろ皮肉を言いながらも、最後には「ホロッ」とさせられるので、読後感はいつでもいいんですけど・・・ 結局、この伊良部シリーズ共通のテーマは、「あまり肩肘張らず、見栄も張らず、自然体でいこうよ!」ということなのでしょう。 でも、伊良部の真似なんて絶対できない! (前作、前々作と比べるとやや落ちる印象。やっぱり④が面白い。) |
No.515 | 7点 | すべてがFになる- 森博嗣 | 2011/07/24 15:44 |
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第1回メフィスト賞受賞作にして、S&Mシリーズの第1作目。
記念碑的作品に相応しく、本格ミステリーのギミックをたっぷりと詰め込んだ大作です。 ~孤島のハイテク研究所で少女時代から完全に隔離された生活をおくる天才工学博士・真賀田四季。彼女の部屋からウェディングドレスを身にまとい両手両足を切断された死体が現れた。偶然、島を訪れていたN大助教授・犀川と西之園萌絵が、この不可思議な密室殺人に挑む~ 久し振りに再読。 森作品は、当初S&Mシリーズをノベルズで刊行のたび読んでいましたが、何か肌に合わないような気がして途中で完全に脱落してました。 やっぱり本作は別格のような気がしますね。デビュー作とはとても思えない。 ミステリー的な視点で見れば、密室トリック(と言えるか?)はやや反則気味ですし(これなら何でもありになってしまう)、「動機」もはっきり言って意味不明。 フーダニットかハウダニットかどちらかにもう少し拘って、深掘りしても良かったかなというのが個人的感想。 ただ、当時はこういう設定自体が目新しかったでしょうし、「新しい形の本格ミステリー」という表現が確かに当て嵌まるのだと思います。 というわけで、再読してみると、S&Mシリーズをもう1度おさらいしてみるのもいいかもという気が・・・ (私みたいなコテコテの文系人間には、やっぱり犀川のような考え方に反発を覚えるんでしょうか・・・それが肌に合わないと感じるのかな?) |
No.514 | 5点 | 仮面荘の怪事件- カーター・ディクスン | 2011/07/24 15:43 |
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H.M卿登場作品。
他の方の書評どおり、元ネタはフェル博士ものの短編のようです。 ~ロンドン郊外の広壮な邸宅「仮面荘」。ある夜、不審な物音に屋敷の者たちが駆けつけると、名画の前に覆面をした男が瀕死の状態で倒れていた。その正体は何と屋敷の現当主であるスタナップ氏その人だった! なぜ自分の屋敷に泥棒に入る必要があったのか、そして彼を刺したのはいったい誰か?~ 1940年代に入ると、カーの作風に変化が見られ、初期~中期の怪奇・オカルト趣味が薄れ、リアリティを重視する方向に変わっていきます。 本作もその例に洩れず、カーらしいオドロオドロしさ全くなし。むしろ、H・M卿が狂言回しのような役どころを演じていて、笑いさえ誘います。 本作のメインテーマは、「なぜ自分の家に泥棒に入る必要があったのか」という謎。 真相については、ちょっと頭を捻れば辿り着けるようなものかなぁとは思います。 物証などについても、割とあからさまに伏線が張られているので、ストレートすぎる解決にやや拍子抜けはするかもしれません。 「血」の件については、確かにちょっと不自然でしょうねぇ。 「赤いオリ」なんていう表現も出てきますが、それってどう見ても「血」にしか見えないんじゃない?(しかも見たのが現職の刑事ですから・・・) まぁ、全盛期の作品に比べれば1枚も2枚も落ちるというのが正直な感想。 (H・M卿がインド人の奇術師に見えるなんて・・・ホントか?) |
No.513 | 4点 | 耳すます部屋- 折原一 | 2011/07/20 21:44 |
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お得意の叙述トリックにホラーテイストを若干加えた作品集。
作者のファンとして知られる女優の池波志乃が巻末解説を書いてます。 ①「耳すます部屋」=ごく単純な叙述というか、単なる引っ掛け。しかもあまり怖くない。 ②「五重像」=幼い頃に遭った事件を後々思い出すという、よくあるプロット。 ③「のぞいた顔」=他の長編にも同様のアイデアが使われてます。 ④「真夏の誘拐者」=今回は、「これ」と同様のプロットが目立つ。 ⑤「肝だめし」=長編「異人たちの館」の作中作で使われた作品。出来もイマイチ。 ⑥「眠れない夜のために」=雑誌の「読者相談コーナー」を使ったプロットは折原でも始めて読んだ。そこだけは面白い。 ⑦「Mの犯罪」=Mとは宮崎勤のことらしいですが・・・ ⑧「誤解」=どっちが殺人者で、どっちが被害者で・・・というプロット。ラストは唐突。 ⑨「鬼」=これも③と同様、他作品に使われたもの。 ⑩「目撃者」=まぁ叙述トリックといえばそうだけど・・・ 以上10編。 中途半端で正直駄作が多い短編集という印象。 他の作品からの転用や、後々長編作品に転用されたプロットなども目立ち、「とりあえず」書きましたというような印象。 折原の場合、当然長編の方がいいわけですが、それにしてもこれはちょっとねぇ・・・ (特にお勧めはなし。敢えて言えば・・・やっぱりないなぁ) |
No.512 | 8点 | 百万ドルをとり返せ!- ジェフリー・アーチャー | 2011/07/20 21:42 |
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コン・ゲーム小説の傑作と評される1作。
処女長編とは思えないほどの出来栄え。 ~大物詐欺師で富豪のメトカーフの策略により、北海油田の幽霊会社の株を買わされ、合計百万ドルを巻き上げられた4人の男たち。天才的数学博士を中心に医者・画商・貴族が専門を生かしたプランを持ち寄り頭脳の限りを尽くして展開する痛快無比の奪回作戦。果たして、百万ドルは取り返せるのか? 新機軸のエンターテイメントとして話題を呼ぶコン・ゲーム小説の傑作~ いやぁーこれはかなり面白かった。 「シンプル・イズ・ベスト」とも言うべき単純さと、スピーディーな展開にすっかり嵌まってしまいました。 メトカーフという男も、自身は「負け知らずの男」のはずなのですが、4人が仕掛けた罠に面白いように掛かっていくんですねぇ・・・ 3人目までそういう流れが続いた後、「なんかイマイチ盛り上がりに欠けるなぁ」と思ってきた矢先に、「大仕掛け」が炸裂する! これには正直やられました。 ラストもなかなか小粋なエンディング。読後感も実に爽快でした。 頭を真っ白にして、何も考えずに読むのがお勧めの1冊。 (「詐欺」については実に初歩的な手口。よくこんな単純なやつに引っ掛かったな・・・) |
No.511 | 6点 | 水の迷宮- 石持浅海 | 2011/07/20 21:40 |
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「アイルランドの薔薇」「月の扉」に続く第3長編。
氏の作品らしく、特殊設定下での脅迫&殺人事件がテーマ。 ~3年前に不慮の死を遂げた水族館職員の命日にその事件は起きた。羽田国際環境水族館に届いた1通のメールは、展示生物への攻撃を予言するものだった。姿なき犯人の狙いは何か。そして、自衛策を講じる職員たちの努力を嘲笑うかのように殺人事件が起きた。すべての謎が解き明かされたとき、胸打つ感動が読者を襲う!~ 氏の初期作品らしくて、好感の持てる作品というのが読後の感想。 確かに「甘い」かもしれませんし、ラストはあまりにも「作りもの」っぽさが目立ち、安手のドラマを見ているような感覚にはさせられますが・・・ ただ、前2作や他の作品でも感じたことですが、日常の世界ではあまり知ることのできない、こういう特殊設定を持ってこられ、登場人物たちの会話や心の動きを見せられながら、ついつい作者の「手練手管」に引っ掛かっているような気にさせられるのも事実。 今回の「水族館」という舞台もなかなかよく練られていると思います。(薀蓄も楽しい) まぁ、プロローグからして伏線があからさまなので、事件全体の構図がやや分かりやすいのと、殺人の動機が相当弱いとういか理解不能に近いのが割引ですかねぇー トータルで見れば、十分楽しめる作品だとは思いますし、水準級+αといったところでしょう。 (実際、片山の「夢」は実現可能なのでしょうか? 実現したらかなりスゴイことになるでしょうけど・・・) |
No.510 | 7点 | 殺す者と殺される者- ヘレン・マクロイ | 2011/07/16 00:12 |
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作者といえば、精神分析学者ウィリング博士シリーズが有名ですが、本作はノンシリーズの1作。
円熟期の上質サスペンス。 ~遺産を相続し、不慮の事故から回復したのを契機に職を辞し、亡母の故郷へと移住したハリー・ディーン。人妻となった想い人と再会し、新生活を始めた彼の身辺で異変が続発する。消えた運転免許証、差出人不明の手紙、謎の徘徊者・・・そして、ついには痛ましい事件が起こった。この町で何が起きているのか?~ なるほど! 確かにこれは上質なミステリーです。 メインの「仕掛け」については、今となっては、残念ながら相応のインパクトしか与えられないかなと思いますが、さすがにうまいですね。 特に「時間軸」については気付きませんでしたし、数々の伏線をあからさまに晒しているのもニクイ・・・ 精神医療でいうと、これって、重度の「統○○○症」ということなんですよねぇ? ある日突然、天と地がひっくり返るような「事実」に気付かされる主人公ハリー(もしくはヘンリー)の心の揺れ具合も本作の特徴の1つでしょう。 新聞記事で終わるラストも、かなりの余韻を読者に響かせます。 まずは、読んで損のない1冊と言えるでしょう。 (男って、昔好きだった女性をなかなか忘れられないよねぇ・・・なぜだろう?) |
No.509 | 7点 | メイン・ディッシュ- 北森鴻 | 2011/07/16 00:11 |
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小劇団「紅神楽」の主演女優・紅林ユリエ(愛称、ネコ)を主人公とするノン・シリーズ。
作者得意の連作短編集です。 ①「アペリティフ」=連作のプロローグ。 ②「ストレンジ・テイスト」=ユリエを中心として、ミケさんや小杉といった主要人物が登場。相変わらず数々の料理のレシピが出てきて、食欲をそそられる。 ③「アリバイ・レシピ」=ユリエを中心とするストーリーと並行するもう1つのストーリー。5人の同級生に纏わる過去の忌まわしい事件についての謎が語られる。 ④「キッチンマジック」=ミケさんがかつて通ったラーメンの名店の味を再現。しかし、かつての名店の味は変わっていた・・・そして、ミケさんの謎も深まる。 ⑤「バッドテイストトレイン」=これは、もう1つのストーリー。グルメ作品(?)としては珍しくテーマは「駅弁」。そして、ミケさんと5人の同級生との間に何かのつながりがあることが分かる・・・ ⑥「マイオールドビターズ」=世にも美味な地ビールが登場!(呑んでみたい) 劇団をたった1人で鑑賞する老資産家の正体とは? そして、ミケさんが突然の失踪。 ⑦「バレンタインチャーハン」=いわゆる「黄金のチャーハン」!(ご飯パラパラのやつ) レシピは意外に簡単なんですねぇ・・・ ⑧「ボトル"ダミー”」=深まるミケさんと5人の同級生の謎。ミケさんの正体はやっぱり・・・ ⑨「サプライジングエッグ」=ついに、過去の事件の謎&からくりが判明。なるほど、そういうことでしたか。 ⑩「メイン・ディッシュ」=タイトルに反して「おまけ」のような話。 以上10編+特別料理(!) さすがにうまいです。作者には「連作短編の魔術師」の称号を進呈! 現在と過去の事件をうまい具合にミックスして、途中には「叙述」という香辛料を混ぜ、絶妙のコース料理に仕上げられてます。 そして、例の如く、うまそうな料理の数々! ミステリーとしては薄味かもしれませんが、見事な後味を残す1品だと思います。 |
No.508 | 6点 | 完全犯罪に猫は何匹必要か?- 東川篤哉 | 2011/07/16 00:09 |
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烏賊川市シリーズの長編3作目。
鵜飼・戸村のおバカコンビ+烏賊川署刑事が今回も大(?)活躍。 ~回転寿司チェーンを経営する資産家が殺害された。犯行現場は自宅のビニールハウス。そこでは、10年前にも迷宮入りの殺人事件が起こっていた。資産家に飼い猫の捜索を依頼されていた探偵・鵜飼と、過去の事件の捜査にも関わっていた砂川刑事がそれぞれの調査と推理で辿り着いた真相とは?10年の時を経て繰り返される消失と出現の謎?~ ここまで「猫」がキーワードになっているミステリーは初めて読んだなぁ。 まさか「三毛猫ホームズ」が伏線になってるとは思いませんでした。(ネタバレっぽいですが・・・) なる程、だからビニールハウスですか! 変だとは思ったんだよねぇー。何で「ビニールハウス?」っていうのが。 レベル的には、推理クイズレベルの仕掛けを相当膨らまして仕上げたという感じはするんですが、もともとこんな作風ですから・・・ ただ、それでも、第2の殺人はちょっと頂けないかなぁ・・・ 凶器が「○○○○」なんて! これ本気か! 味噌汁もいるか? なんていう読者のツッコミも当然織り込み済みなんでしょうね、作者は。 招き猫の薀蓄もなかなか興味深く拝読させていただきました。 (今回は、砂川刑事も大活躍で、よかったよかった・・・) |
No.507 | 6点 | 虚夢- 薬丸岳 | 2011/07/11 22:42 |
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「天使のナイフ」・「闇の底」に続く長編第3弾。
前2作に続いて、犯罪捜査&司法の問題点をテーマに現代社会を抉っていきます。 ~愛娘を奪い去った通り魔事件の真犯人は「心神喪失」で罪に問われなかった。運命を大きく狂わされた夫婦はついに離婚するが、忌まわしい事件から4年後、元妻が街で偶然すれちがったのは、忘れもしない「あの男」だった・・・~ 「少年犯罪」そして「幼女への性犯罪」に続いて、今回のテーマは「刑法39条」。いわゆる「心神喪失者は罪に問われない」・・・ 相変わらず重たいテーマを出してきますねぇー。 重大犯罪には付き物のようなテーマですが、確かにこれも判断が難しい問題ではあります。 犯罪者にも人権はありますが、それ以上に被害者、そして被害者の家族の人権・権利は尊重すべきではないかというのが個人的な意見ではあります。 「統合失調症」についても、以前仕事の関係でいろいろと話を聞いたテーマであり、興味深く読まさせていただきました。 本作については、この「刑法39条」を逆手にとったようなトリック(?)が終盤に炸裂! まぁ、それが本作のメインプロットとなるわけですが、前2作と比べるとやや弱いかなというのが正直な感想です。 前2作は、終盤のサプライズが見事だっただけに、どうしてもインパクトで劣ってしまうような気がする。 ラストももう一捻りあればなおよかったかなぁ・・・ (すすき野のキャバクラってそういうシステムなんですね。へぇー変わってる!) |
No.506 | 5点 | フレンチ警部とチェインの謎- F・W・クロフツ | 2011/07/11 22:40 |
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フレンチ警部登場作品としては、「フレンチ警部最大の事件」に続く第2作目。
純粋なミステリーというよりは、冒険小説とでもいうべき作品でしょうか。 ~快活な青年チェイン氏は、ある日ホテルで初対面の男に毒を盛られ、意識を失ってしまう。翌日自宅へ帰ると、家は何者かに荒らされていた。一連の犯行の目的は何か? 独自の調査を始めたチェイン氏を襲う危機また危機。いよいよ進退窮まったとき、フレンチ警部が登場し事件の全貌解明に乗り出す~ ちょっと微妙な感じの作品。 クロフツといえば、地道な捜査による「アリバイ崩し」がハイライトですが、本作はそれとは無関係。 第1部では、チェイン氏が何度も犯人グループに襲われ、どうやらその理由が友人から受取った手紙に関係していることが分かる。そして、仲間に加わった女性が拉致されるに及んで、フレンチ警部に救いを求めるところから第2部が始まり、主題は「暗号の解読」に・・・というのが大まかな粗筋。 あまり捻りはなく、正統派の冒険小説という感じですし、暗号も複雑に見えましたが、フレンチ警部があっさりと解明してしまいます。 唯一、犯人が手掛かりとして残した紙切れをもとに、フレンチが問題の都市とホテルを捜索する場面にクロフツらしさを感じてしまいました。 (確かに、ブルージュもアントワープもいい街です) でも、フレンチ警部にはバカ正直な捜査&アリバイ崩しが似合うなぁというのが1ファンとしての正直な感想ですね。 |
No.505 | 6点 | UFO大通り- 島田荘司 | 2011/07/11 22:37 |
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御手洗潔シリーズ。
御手洗=石岡の名コンビが贈る中篇2作を収録。 ①「UFO大通り」=鎌倉の自宅で異様な姿で死んでいる男が発見される。そして、同じ頃、御手洗は死亡した男の近所に住む老婆の家の前でUFOや宇宙人が行き交ったことを聞き及ぶ。この摩訶不思議な事件を御手洗はどう推理するのか。 ②「傘を折る女」=ある豪雨の夜、名古屋市郊外の路上で、傘の柄を車に轢かせている若い女性が目撃される。その話を石岡から聞かされた御手洗は、その超人的な推理で瞬く間に背後にあった事件を推察するが、事件は意外な方向に・・・ 作品の出来はともかく、御手洗が海外へ旅立つ前の石岡とのコンビは「やっぱりいい!」。御手洗シリーズはこうでないと! 最近は、世界を股にかけ、超人的な活躍を見せる姿ばかり読まされてきましたので、多少なりともホッとさせられる作品でした。 そこで、感想&書評ですが・・・ 『マズマズの満足感』というところでしょうか。 ①は御手洗シリーズの典型とでもいいたくなるプロットですね。新興宗教に侵されていたとしか思えないような殺害現場、現場の隣では宇宙服を着た異星人が光線銃を撃っている! こんな謎分かるわけないですよ。 まぁ、真相は現実的収束のギリギリラインという感じですよねぇ・・・結局はいつもの「偶然の連続」という大技が繰り出されてしまうわけですから。 ②の方は、珍しく完全な「安楽椅子探偵」モノ。 まぁ、「折られた傘」から鬼のように推理を展開する姿はロジック全開と言えなくはないですが、要は「好きなように言ってるだけ」にも思えます。 ここまで突飛な状況を出されたら、ロジックもクソもないという感じがどうしても拭えません。 しかも、まさか「アレ」が両方に出てくるなんて・・・(途中で気付いちゃいましたけど) というわけで、不満を挙げればキリはないのですが、冷静な評価をすれば、平均点+αかなっと。 (①は舞台がなぜ鎌倉か分かりましたが、②はなぜあそこだったのかな?) |
No.504 | 6点 | 探偵を捜せ!- パット・マガー | 2011/07/06 23:37 |
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「被害者を捜せ!」などに続く作者の長編第3作目。
貫井徳郎の作品に触発されて、「本家」の方を手に取ってみました。 ~病弱な夫を殺して、金と自由を手に入れようとした美貌の若妻。だが、殺人を決行した夜、その山荘を訪れた4人の中に、夫が死ぬ前に呼び寄せた探偵がいるらしい。妻は探偵を探し出そうと必死の推理を展開。目星を付けた男を殺したが、探偵はまだいなくならない、さらに次の人物を・・・~ なかなか楽しめる作品だとは思います。 もちろん、50年代の作品ですから、いろいろと細かな齟齬や、「もう少しやりようがあるだろ!」的な部分は目に付きますが、それでも作品のプロット自体はよく練られているのではないでしょうか。 犯人側からみた一種の「倒叙」に、真犯人探しならぬ「探偵探し」を加えているわけで、考えようによっては、通常のフーダニットよりも気が利いていると言えなくもないような感じ。(言い過ぎか?) マーゴットのキャラは、紋切型といえばそれまでかもしれませんが、終盤に向かうほど徐々に追い込まれていく心理がよく追われていて、サスペンス的な要素も楽しめます。 まぁ、ラストがちょっとあっけないというか、捻りがないというのが不満といえば不満ですが、トータルでは十分に水準レベルの作品ではないかと思います。 (自己チューの女って、ホントに怖いね!) |
No.503 | 7点 | エコール・ド・パリ殺人事件- 深水黎一郎 | 2011/07/06 23:35 |
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芸術ミステリーシリーズの第1作目。
芸術(絵画)とミステリーをうまい具合に融合させた佳作です。 ~エコール・ド・パリ-第2次大戦前のパリで、悲劇的な生涯をおくった画家たち。彼らの絵に心を奪われ続けた有名画商が密室で殺された。死の謎を解く鍵は、被害者の遺した美術書のなかに潜んでいる! 芸術とミステリーを融合させ、知的興奮を呼び起こす作品~ さすがに評判どおりで、一定水準にある佳作だと思いますね。 「密室」や「作中作」、そして「読者への挑戦」など、本格ファンの心をくすぐるガジェットが目白押しで、ワクワクしながら読み進めてると・・・ 「策士」ですよねぇーこの作者は! 簡単な密室講義まで挿入しながら、読者を煙にまくような密室の解法。確かにその方向しかないんですよねぇ・・・ 要は、そのトリックを成立させるための「エコール・ド・パリ」であり、「作中作」なわけです。この辺りは、本格ミステリーの理想型とさえ言えるかもしれません。 ただ、フーダニットのレベルが低いのが実に惜しい! 「真犯人」らしき人物がほぼ特定されてしまうので、この辺りをもう少しうまく処理できなかったのかなぁというのが正直な感想ですね。 それにしても、「カ○○○○」ですか! 思い出しましたよ、中学の社会科の授業を。 エコール・ド・パリの画家を含め、美術関係の薀蓄もなかなか興味深く読ませていただきましたし、後の作品も必ず読んでいこうと思います。 (これだけ本格志向の作品なら、もう少し重厚な作風の方が好みなんだけどなぁ・・・その辺もちょっと残念。あと、警部のキャラの謎は後の作品で何らかのネタバラシがあるのかな?) |
No.502 | 7点 | ジョーカー・ゲーム- 柳広司 | 2011/07/06 23:31 |
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「魔王」と恐れられる男「結城中佐」が設立したスパイ養成機関"D機関”を舞台に繰り広げられるスパイ・ミステリー(?)
日本推理協会賞受賞作。 ①「ジョーカー・ゲーム」=ポーカーを使って1人を罠に嵌めるゲームのことだそうです。まさに、ジョーカー・ゲームのようにD機関に嵌められた佐久間が主役。本作がどういう小説なのかよく分かりました。 ②「幽霊(ゴースト)」=完璧にスパイ役を演じる男"蒲生”。でも、それを上回るのが結城中佐。プロットが秀逸。 ③「ロビンソン」=スピッツではない(ちょっと古いか?)。ロビンソン・クルーソーに引っ掛けた暗号だが、こんなに複雑な暗号よく分かったなと思うし、やっぱり「結城中佐恐るべし!」 ④「魔都」=といえば、やっぱり租界時代の「上海」・・・というわけで、スパイが暗躍するにはまさにうってつけの舞台ですね。都会の夜は人間を狂わせるっていうことですかねぇ・・・。 ⑤「XX(ダブル・クロス)」=英語の俗語で"裏切り”という意味らしい。最終的に飛崎が下した判断は余韻をひく。結城中佐の器の大きさはさすが! 以上5編。 切れ味たっぷりの作品集。 第2次世界大戦前のきな臭い日本・世界という舞台が、実に作品世界にマッチしてます。 プロットも秀逸ですし、やはり「結城中佐」という特異なキャラクターがよく「効いている」。 世間的な評価の高さにも十分納得させていただきました。 (②がベストかな。①や④も十分面白い) |
No.501 | 7点 | 悪魔はすぐそこに- D・M・ディヴァイン | 2011/07/02 23:51 |
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ディバインの第5長編。
本作もやはり正統派の英国パズラー・ミステリー。 ~大学の数学講師ピーターは、横領容疑で免職の危機にある亡父の友人ハクストンに助力を乞われた。だが、審問の場でハクストンは教授たちに脅迫めいた言葉を吐いた後変死する。次いで、図書館でも殺人がおき、名誉学長暗殺を予告する手紙までもが舞い込む。相次ぐ事件は、ピーターの父を死に追いやった 8年前の醜聞が原因なのか?~ なかなかよくできているんじゃないでしょうか。 本作には多くの人物が登場し、その分、容疑者候補にも事欠かないような展開。普通の翻訳物なら、読みながらこんがらがってしまうような状況になるはずです が、そこはディバイン! 人物描写が並じゃないです。 特に、探偵役となるラウドンと2人の女性(ルシールとカレン)の描写はスゴイ。読みながら、性格や考え方が手に取るように分かります。 フーダニットについては、途中から容疑者が5名ほとに絞られたものの、なかなか1人に特定できないというもどかしい展開。 ただねぇ・・・ちょっとしたミステリーファンなら、それ以外に「意外な犯人」がいるのには気付きますねぇ・・・しかも作品タイトルが「あれ」ですからー。 巻末解説で法月氏が「本作は再読した方がよい」旨言及してますが、まさにそのとおりかもしれません。初読時では、どうしても作者が埋蔵した伏線や仕掛けには気付かないかも? とにかく、「正統派の翻訳ミステリー」好きには堪らない作品でしょう。 (本筋とは関係ありませんが、ダメな上司に振り回されるカレンとフィニー警部補に何となくシンパシーと感じてしまった・・・) |
No.500 | 9点 | 絆回廊 新宿鮫Ⅹ- 大沢在昌 | 2011/07/02 23:49 |
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記念すべき(?)500冊目の書評は、「新宿鮫シリーズ」の最新刊で。
本シリーズがパート10を迎えるなんて・・・感慨深い! ~巨躯、凄みのある風貌、暴力性、群れない・・・ヤクザも恐れる伝説的アウトローが「警官を殺す」との情念を胸に22年の長期刑を終え帰ってきた。すでに初老だが、いまだ強烈な存在感を放つというその大男を阻止すべく捜査を開始した鮫島。しかし、捜査に関わった人々の身につぎつぎと・・・親子、恩人、上司、同胞、しがらみ、恋慕の念。各々の「絆」が交錯したとき、人々は走り出す。熱気、波乱、濃度、そして疾走感~ シリーズ第1弾からすでに20年が経過しましたが、第10弾を迎えても、決して褪せることのなく、読者の心を沸き立たせてくれる・・・やっぱり凄いね! 今回も、実に「新宿鮫シリーズ」らしいストーリー&展開。 前半は、鮫島を中心に、登場人物たちの"人となり”や心の動きが順に語られながら、割と静かに流れていく。 中盤以降、物語は加速度的に進行し、登場人物たちがまるで運命に吸い寄せられるように新宿・歌舞伎町の「ある場所」へ・・・ そして、物語が最高潮を迎える瞬間、ついに「○○○が×××しまう」(!) こうやって書いていると、新宿鮫っていつも「交響曲」のような作りになってるんですねぇ。それだけ起承転結がしっかりしているということなのでしょう。 でも、本作ではついに恐れていたことが現実になってしまったなぁ・・・(「狼花<新宿鮫Ⅸ>の書評で書きましたが) 後悔と悲嘆に暮れ、号泣する鮫島の姿が目に浮かんでしまって、思わずもらい泣きしちゃいました。 それと、ラストの新宿署副署長の台詞がまた泣かせる・・・(言いこというねぇ!) 今回、新しいステージへの予感を抱かせるような作りになってましたので、まだまだ本シリーズは続いていくのでしょう。 晶や香田との関係も気になりますが、いつまでも鮫島は鮫島でいて欲しいなぁと思わずにはいられません。 (帯に書いてる「鮫島は歯をくいしばる・・・」という台詞が胸を打つ! 鮫島の姿に、自分が忘れかけた「使命感」とか「熱いこころ」という奴を追い求めているんですねぇ。スイマセン。新宿鮫シリーズについて語り始めると、ついつい熱くなってしまいます・・・) |