皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.492 | 6点 | サイモン・アークの事件簿〈Ⅰ〉- エドワード・D・ホック | 2011/06/18 14:16 |
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短編の名手、E.D.ホックの生み出した名シリーズの作品集。
何と、年齢2千歳(?)のオカルト研究家、サイモン・アークが神秘に包まれた謎を解き明かします。 ①「死者の村」=作者のデビュー作でもある本編。新興宗教に犯され、突然73人もの住民が飛び降り自殺した謎を解き明かす。 ②「地獄の代理人」=いにしえの著作「悪魔崇拝」に絡んだ殺人の謎。部屋のドアに貼り付けにされた死体など、面白そうな要素はあるのだが・・・ ③「魔術師の日」=舞台はエジプト、テーマは「魔術」というわけで、こちらも舞台設定は申し分ないのだが・・・トリックはちょっと無理があるのでは? ④「霧の中の埋葬」=世界大戦で敗れ、敗走した日本兵が残した宝物をめぐる事件。短編らしい切れ味を感じる作品で好感。 ⑤「狼男を撃った男」=男が狼男と間違えて撃った男は、普通の若者だった・・・。オカルトの仮面を剥がせば、人間の欲望や嫌らしさが垣間見える事件。これもなかなか。 ⑥「悪魔撲滅教団」=これも謎の新興宗教がテーマ。普通の解決と見せかけて、最後にドンデン返しあり。 ⑦「妖精コリアダ」=よく分からなかった。単なる「妖精」ではなかったってこと? ⑧「傷痕同盟」=絵画切り裂き事件がテーマ。これも短編らしい捻り。 ⑨「奇跡の教祖」=三たび新興宗教ネタ(好きだねぇー)。自動洗車機からの消失はやや子供だまし。 ⑩「キルトを縫わないキルター」=うーん。普通。あまり印象に残らず。 以上10編。 全編に共通するのは、オカルト的な外観をまとった事件を、サイモン・アークが現実的な事件として解決するというパターン。 ちょっとした発想の転換で事件を解決するというのは短編のよさを十分に引き出していて、さすがですねぇー。 ただ、作品ごとでかなり出来栄えに差があるような気はしました。 (④⑤が面白かった。①はそれほどでもない。全体的にはまあまあレベルなかぁ・・・) |
No.491 | 8点 | 赤い指- 東野圭吾 | 2011/06/18 14:14 |
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加賀刑事シリーズ。
今回は、加賀の父親も登場。少しづつ加賀の秘密が明らかになってくる感じです。 ~少女の遺体が住宅街で発見された。捜査上に浮かんだ平凡な家族。いったいどんな悪夢が彼らを狂わせたのか。「この家には、隠されている真実がある。それはこの家の中で、彼ら自身の手によって明かされなければならない」。加賀刑事の謎めいた言葉の意味とは?~ いやぁ、これは「重い」。ひたすら「重い」というか「痛い!」。 主人公である前原の姿に思わず自分を重ねてしまいました。(特に妻との関係・・・) 父親として、夫として、そして年老いた親を持つ「子供」として、前原の「なさけない姿」がなんともいえず、読んでて「つらく」なってしまいました。 やっぱりすごい作家ですよ、東野圭吾は! ここまで、人間の嫌なところを抉り出して、さらけ出すなんて・・・。 そして、それを解明する加賀恭一郎のキャタクター! この短さで、濃厚な人間ドラマを作り上げる手腕にとにかく感心。 ラストもにくいねぇ・・・特に、将棋! かっこよすぎ! 最後に効いてくる「赤い指」の仕掛けも見事です。 (自分の子供がこんな奴にならないように祈るのみ・・・) |
No.490 | 7点 | 山魔の如き嗤うもの- 三津田信三 | 2011/06/18 14:12 |
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刀城言耶シリーズ4作目。
ホラーと本格物が見事に融合した意欲作です。 ~忌み山で人目を避けるように暮らしていた一家が忽然と消えた。「しろじぞうさま、のーぼる」一人目の犠牲者が出た。「くろじぞさま、さーぐる」二人目の犠牲者。村に残る六地蔵の見立て殺人なのか、ならばどうして? そして・・・。六地蔵に纏わる奇妙な童唄、消失と惨劇の忌み山。そこで、刀城言耶が見たものは何か?~ 相変わらず見事な本格ミステリー。まさに、現代に甦った「横溝」・「金田一耕助」といった雰囲気。 今回のテーマは「見立て殺人」。 途中、「見立て殺人」の分類を試みるなど、本格ファンの心理をくすぐってくれますよねぇ・・・ そして、本シリーズ最大の特徴とも言える、真相解明前の「疑問点の列挙」とドンデン返しの連続。 こうやって書いていると、本当にすごいミステリーに思えてしまいます。 ただ、「首無」と比べると、やはり1枚落ちるかなという印象はやむなしでしょうか。 「首無」のトリックには相当サプライズを感じましたが、今回は「そこまで」ではなかった。 (確かに、「一家の○れ○○り」にはアッと思わされたが、「見立て」についてはちょっと弱いか?) それにしても、「顔を焼かれた死体」とか「旅芸人一座」というのは、まさに「金田一シリーズ」を思い起こさせますねぇ・・・(よく出てきたギミックです) トータルでは、読む価値十分の力作という評価でよいでしょう。 |
No.489 | 7点 | 九マイルは遠すぎる- ハリイ・ケメルマン | 2011/06/12 22:34 |
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ニッキイ・ウエルト教授のロジックが切れまくる!作品集。
純粋な推理だけを武器に、些細な手掛かりから難事件を次々に解き明かしていきます。 ①「九マイルは遠すぎる」=有名作。「ほんの少しの言葉から意外な真相を導く!」で有名。でも、それほどとは感じなかった。 ②「わらの男」=むしろこっちの方が①より感心。「安楽椅子探偵」のお手本のような作品。 ③「10時の学者」=これも秀逸! 恐らく真犯人は「こいつ」と最初から想像はつくが、そこまでのロジックが見事。 ④「エンド・プレイ」=捜査陣が見落としたちょっとした手掛かりから、真相解明! これぞ名探偵もの。 ⑤「時計を二つ持つ男」=これって「遠隔殺人」でしょうね。 ⑥「おしゃべり湯沸し」=封筒の中身を推理する場面が面白い。 ⑦「ありふれた事件」=いかにも犯人らしい奴はやっぱり犯人ではなかった。 ⑧「梯子の上の男」=チェスと犯罪を絡めての推理法がなかなかGood。犬や梯子といった小道具も効いている。 以上8編。 評判どおりの面白さ。 「安楽椅子型探偵」の見本のようで、ロジックが小気味よく効いてます。 気の利いたラストもよい。ミステリー好きなら1度は読むべき作品でしょう。 (①はそれほどでもない。それよりは②~⑤がお勧め) |
No.488 | 6点 | リピート- 乾くるみ | 2011/06/12 22:33 |
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敢えていえば、「SFミステリー」(?)
タイムトラベルとミステリーを融合させた意欲作。 ~もし、現在の記憶を持ったまま10か月前の自分に戻れるとしたら? この夢のような「リピート」に誘われて、疑いつつも人生のやり直しに臨んだ10人の男女。ところが、彼らは1人また1人と不審な死を遂げて・・・「リピート」の正体は?~ 設定は面白い! よく練られてます。 なぜ、「リピート」した男女が次々と殺されていくのか? その「動機」こそが本作のメインテーマでしょう。 「なるほど」と思いましたね。 だからこそのメンバーの選抜であり、このタイムトラベルの設定(条件?)ということなんですねぇ・・・ その辺りの「仕掛け」はよく分かりました。 「イニシエーションラブ」といい、本作といい、読者の騙し方は流石です。 ただ、ちょっと冗長かなぁー。特に前半。 「リピート」の説明が長々と続いて、最初の事件が起こるまでかなり待たされます。 ラストもちょっと薄味ですかねぇ・・・ バタバタ終わったなぁという読後感が残ってしまいました。 (でも、トータルでは水準以上。楽しめます。) |
No.487 | 5点 | 鬼- 今邑彩 | 2011/06/12 22:31 |
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ブラック風味の短編集。
後半に進むほどブラックの度合いが増していく印象です。 ①「カラス、なぜ鳴く」=家庭や子供に無関心な父親。「ドキッ!」とさせられる世の父親は多いんじゃない? ②「たつまさんがころした」=こういう姉妹の力関係ってなんかドラマに出てきそう。子供を巻き込むところが嫌らしいね。 ③「シクラメンの家」=最後にひっくり返される展開。「まさかねぇ・・・」っていうのがこういう短編の醍醐味。 ④「鬼」=これはまぁ、軽いホラーだよなぁ。オチにもう一捻りあるといいんだろうけど・・・ ⑤「黒髪」=「ザ・女の執念」的なストーリー。こんな「髪の毛」見たら怖い! ⑥「悪夢」=これも、ちょっと「軽い」(怖さが)。カウンセラー視点というのは分かりやすくていい。 ⑦「メイ先生の薔薇」=「子供って無邪気」では済まされない! ⑧「セイレーン」=これが1番まとまってて面白かった印象。こういう「薄幸な美人」てやつに男は弱いよねぇー。 ⑨「蒸発」=これは「軽いSFミステリー」? プロットは膨らませ方次第では面白い筈。 ⑩「湖畔の家」=過去の忌まわしい記憶が甦る・・・というのはよくあるプロット。 以上10編。 全体的な印象は「軽い」。まぁ、ブラックはブラックだけど、ちょっとまとまりすぎで、「怖さ」とか「サプライズ」に欠ける印象。 もう少し、「後味わるいなぁ・・・」的なインパクトが欲しかった。 (どれも平均点かなぁ・・・敢えていえば⑧) |
No.486 | 6点 | 人格転移の殺人- 西澤保彦 | 2011/06/05 20:24 |
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作者お得意のSFミステリー。
相変わらず奇妙奇天烈な設定によるミステリー。 ~突然の大地震でファーストフード店にいた6人が逃げ込んだ先は人格を入れ替える実験施設だった。法則にしたがって6人の人格が入れ替わり、脱出不能の隔絶された空間で連続殺人事件が起こる。犯人は誰の人格で凶行の目的は何なのか?~ 変な「設定」です。 他の方も書評でもありますが、正直ややこしい! 「見た目」と「精神?」が別人格になっているだけでなく、しかもそれが超頻繁にマスカレード(転移)していくわけで、読んでいるうちに訳が分からなくなってしまいます。 事件もアッという間に進行して、アッという間に終わるので、「何が何だか・・・」って思っているうちに終局へなだれ込むという印象。 メインの「謎」については、伏線がはっきりしているのでちょっと分かりやすいかもしれないですねぇー。 まぁでも、これはアイデアの勝利としか言いようがない! 動機にしろ、最終的な真相にしろ、凝った設定の割には正直ショボイかなという気もしますが、まずはこんなアホなことを考える作者に敬意を表したくなります。 たまには変わったミステリーを読みたいという方は1度手にとってみてはいかかでしょうか? (せめて、関係者を日本人にして欲しかった。ただでさえ複雑な設定で、しかも名前が覚えにくいのがツライ!) |
No.485 | 6点 | ブラウン神父の知恵- G・K・チェスタトン | 2011/06/05 20:22 |
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名作「ブラウン神父」シリーズの第2短編集。
いつものとおり「読みにくさ満点」の作品。でも面白い! ①「グラス氏の失踪」=もしかしてダジャレ(?)的なオチ。短編らしい切れ味は感じる。 ②「泥棒天国」=いかにもこのシリーズらしいプロット。「真相は裏側から見よ!」ということ。 ③「ヒルシュ博士の決闘」=確かに「アッ」とは言わされますが、現実的にこんなことありえるのか? ④「通路の人影」=やっぱり名作と言われるだけある。「へぇー」って感心させられる。 ⑤「器械のあやまち」=いわゆる「嘘発見器」の話。ブラウン神父は信用してないということらしい。器械を使うのは所詮人間だから・・・という理屈。 ⑥「シーザーの頭」=これも③と同じプロット。要は「○○二○」。 ⑦「紫の鬘」=これも本シリーズらしい「逆説」が主題。 ⑧「ペンドラゴン一族の滅亡」=うーん。ちょっとよく分からない。 ⑨「銅鑼の神」=ポーの名作「盗まれた手紙」に比較される作品。確かに発想のポイントは同じかも。 ⑩「クレイ大佐のサラダ」=のんびりしたタイトルですが・・・当時の英国人のアジアの国に対する感覚も何となく窺える。 ⑪「ジョン・ブルノアの珍犯罪」=「珍犯罪」って・・・妙なタイトル付けたねぇー。 ⑫「ブラウン神父の御伽噺」=珍しくドイツが舞台というか、ドイツの伝承の謎をブラウン神父が解く。 以上12編。 確かに、本シリーズらしい「逆説」の効いた作品も多く、「短編」の見本のような気もします。 ただ、如何せん読みづらくて、なかなか頭に入ってこない・・・(もちろん、こちらの読解力不足もあるでしょうが) というわけで、近いうちに再読してみようと思います。 (①④⑦辺りが面白かった。⑩以降はあまり頭に入らず・・・) |
No.484 | 5点 | 黒い森- 折原一 | 2011/06/05 20:20 |
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表からも裏からも、どちらからも読める。その上、袋綴じあり!
折原らしい、というか折原しか書かないんじゃないか? そんな作品! ~「ミステリーツアーの目的地で待っている」。駆け落ちする2人の恋人に同じ内容のメールが届いた。行き先は樹海の奥、作家が家族を惨殺したと伝えられる山荘。ツアー客が1人、また1人と樹海の闇に消えていくなか、恋人が待つ目的地へ辿り着けるのか。そして、山荘の固く閉ざされた1室で待つものとは?~ 「倒錯の帰結」で1度仕出かした失敗をまた繰り返してる? 確かに趣向、技巧としては相当の高レベルの筈です。 何しろ、前からも後ろからも読め、2つのストーリーのオチが「袋綴じ」の中に待ち受けているわけですから・・・ でもねぇ、いかんせん内容が趣向に追いついていないとしか言いようがない! 他の方の低評価も分かる気もします。 ただ、これこそが「折原!」というのもまた事実。叙述トリックとは、詰まるところ読者をいかに欺けるかということですから、こういう趣向にチャレンジしていくという姿勢も第一人者としては必要なのかも?(ホントか?) 相変わらず、話の盛り上げ方は巧みですし、そんなに「ヒドイ」こともないと思うんですけど・・・ (いかんせん、オチに捻りがなんだよねぇー) |
No.483 | 8点 | 杉の柩- アガサ・クリスティー | 2011/05/31 22:25 |
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E.ポワロが登場する18番目の作品。
ミステリーとラブストーリーがうまくミックスされた佳作。 ~婚約中のロディとエリノアの前に現れた薔薇のごとき女性メアリー。彼女の出現でロディが心変わりし、婚約は解消された。激しい憎悪がエリノアの心に湧き上がり、やがて彼女の作った食事を食べたメアリーが死んだ。犯人は私ではない、エリノアは否定するが・・・真実は?~ これは、隠れた(?)名作では!? 最近読んだクリスティ作品の中ではダントツに面白かったような気がします。 事件の鍵は、関係者がついた少しづつの「嘘」と不可解な行動・・・その1つ1つがポワロの灰色の脳細胞によって解明されていく・・・ 途中まではエリノア以外に「これは怪しい」という容疑者も浮かばないまま、最終章へ突入。 裁判シーンが描かれる「第3部」で真相が明かされるわけですが、これまで全くノーマークだった1人の事件関係者が真犯人として糾弾されるカタルシス! 読者が解明するのは厳しいですが、2つの「物証」もなかなか効果的です。(相変わらず知らない薬物が出てきますが・・・) ネームバリューでは、他の有名作に劣りますが、高いクオリティーの良作という評価で間違いないでしょう。 (何というか、実に気品のある作品でクリスティらしさが十二分に出ています。ラストのポワロのセリフもなかなか味わい深い・・・) |
No.482 | 6点 | ルパンの消息- 横山秀夫 | 2011/05/31 22:22 |
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作者の処女長編作。
サントリーミステリー大賞「佳作」受賞作です。 ~15年前自殺とされた女性教師の墜落死は実は殺人だった。警視庁に入った1本のタレコミで事件が息を吹き返す。当時、期末テスト奪取を計画した高校生3人が校舎内に忍び込んでいた。捜査陣が2つの事件の結び付きを辿っていくと、戦後最大の謎である3億円事件までもが絡んでくるのだった。時効まで 24時間。果たして事件は解明できるのか?~ デビュー作としてはまずまずの出来ではないかというのが率直な感想。 事件関係者3名が、刑事の尋問を通じてそれぞれ過去を回想、徐々に真実が明らかになってくる過程がなかなか読ませる・・・ 別に派手なトリックや叙述的な仕掛けがあるわけではないですが、作者らしく丁寧に作りこまれたプロットは一読に値すると思います。 ただ、「3億円事件」まで絡ませたのは、相当無理がある! 本筋に無理やりくっ付けた感がありありで、ラストのドンデン返しも微妙。 まぁ、でもやっぱり横山秀夫は「短編」でこそという思いを強くしましたね。 数ある珠玉の短編集に比べれば、本作の読み応えが薄く感じてしまうのはやむなしというところでしょう。 (不良高校生が自身を賭けてやることが「テスト問題を盗み出すこと」なんて!ある意味平和すぎでしょ!) |
No.481 | 7点 | 新・世界の七不思議- 鯨統一郎 | 2011/05/31 22:21 |
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「邪馬台国はどこですか?」の姉妹編。
今回は、世界の古代史について、静香と六郎の論争(?)が交わされます。 ①「アトランティス大陸の不思議」=幻の大陸「アトランティス」は本当にあったのか? どこにあったのか?がテーマ。古代ギリシャ云々については、ギリシャ神話をはじめ、ミステリーの世界ではお馴染みですが・・・「プラトン」って久し振りに聞いたなぁ。 ②「ストーンヘンジの不思議」=ストーンヘンジってイギリスにあったんですね。知らなかった。でもストーンヘンジ=日本の○○というのは、なかなか説得力があるような気がする。 ③「ピラミッドの不思議」=世界の七不思議といえば、やはりこれでしょう。残念ながら現物を見たことがないので、死ぬまでに1度は見ておきたいものです。宮田の説はちょっと説得力に欠ける気がする・・・ ④「ノアの方舟の不思議」=そういやぁありましたねぇ、こんな伝説が。確かに「洪水系伝説」というのは世界中に伝播しているようで、ここでの宮田の説は信憑性があるように聞こえる。 ⑤「始皇帝の不思議」=暴君として名高い「始皇帝」の真の姿とは?というテーマ。これは逆説的ですが、古代中国の場合、為政者が変わるたびに、前代の為政者を徹底的に貶めるというのは常識のようですし、結構納得。でも、最後の邪馬台国との関連性については、さすがに眉唾かな? ⑥「ナスカの地上絵の不思議」=確かに不思議です。まぁ、常識的に考えればこういう考え方に落ち着くんでしょうねぇ・・・さすがに、宇宙人説はちょっとねぇー。 ⑦「モアイ像の不思議」=ピラミッドと並んで、七不思議といえばコレ的なテーマ。ホント、こんな太平洋の離れ小島にこんな謎の物体が多数造られてるなんて、世界は謎で一杯です。宮田の説は割りと受け入れやすい。 以上7編。 確かに、「謎」のスケールが大きい分、前作よりは解釈の切れ味は劣るかもしれません。 ただし、謎そのものが十二分に魅力的ですから、存分に楽しめる。世界史や古代史好きならば手に取る価値は十分でしょう。 (個人的ベストは⑤。中国史は中国という国を知る上でも面白い!) |
No.480 | 7点 | さらば愛しき女よ- レイモンド・チャンドラー | 2011/05/28 21:16 |
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ハードボイルドの巨匠、R.チャンドラーの名作。
私立探偵フィリップ・マーロウが実に格好いい! ~前科者大鹿マロイは、刑務所を出たその足で別れた女性を探しに黒人街を訪れた。だが、そこで彼はまた殺人を犯してしまう。現場に居合わせたマーロウも取調べを受ける。その後、高価な首飾りをギャングから買戻すための護衛を依頼されるが、マーロウは自らの不手際で依頼人を死なせてしまう。苦境に立った彼に待っていたものは・・・~ 確かに何ともいえない「香り」を感じる作品。 L.Aという街もハードボイルドにはピッタリ! マーロウの渋い格好よさを引き立ててる気がしますね。 大鹿マロイの謎の元カノを探すというプロットは単純ですし、中盤がちょっとダレるように感じましたが、やはりラストが秀逸。 マロイにとっては悲しい結末ですが、それを見届けるマーロウには本物の「男」を感じさせられる・・・ というわけで、大人の男だったら、一読の価値は十分有りでしょう。 (マロイがなぜそこまでヴェルマに拘るのかが分からない・・・今のヴェルマにはそこまでの魅力はなさそうですから・・・) |
No.479 | 6点 | 終末のフール- 伊坂幸太郎 | 2011/05/28 21:14 |
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ノン・シリーズの連作短編集。
数年後に小惑星が衝突し、地球が滅亡する、というかなりストイックな設定です。 ①「終末のフール」=学業が優れているのが「天才」ではない。特に、こういうストイックな場面では「バカ」の方がよっぽど価値がある・・・ということ? ②「太陽のシール」=世界一(?)優柔不断な男が登場。こんなストイックな状況で、妊娠した妻。果たして生むべきか生まざるべきか? ③「籠城のビール」=確かに、無責任なマスコミは嫌だ! でもマスコミ人も迷っているのだ! ④「冬眠のガール」=何とも魅力的な女性です。やっぱり、死ぬ前に恋人欲しいよねぇ・・・ ⑤「鋼鉄のウール」=苗場さんが実にかっこいい。どんな状況になろうと、「やるべきことをやる」という姿勢こそ最も美しいのだと思わされる。 ⑥「天体のヨール」=やっぱり、「自分の決めた道」を持ってる人は強い・・・っていうことかな? ⑦「演劇のオール」=何となく虚無的。 ⑧「深海のポール」=ほぼ全編に登場するレンタルビデオ屋の渡部氏が主役。一本筋の通った父親のキャラが魅力的。 以上8編。 地球滅亡が迫り、人間の心が一旦荒廃した後、落ち着きを取り戻しつつあるといった状況設定。 「仙台」という設定のせいかもしれませんが、大震災後の今現在を何となく想起させる・・・ ただ、結局、伊坂は何が言いたかったのか? ちょっと不明。 (キャラ的には⑤の苗場さんがベスト。誰もがどうしていいか分からないような状況下では、自分ができることを休まずやることが一番大切なんだと気付かされる) |
No.478 | 5点 | 夜は千の鈴を鳴らす- 島田荘司 | 2011/05/28 21:12 |
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吉敷刑事シリーズ。
タイトルからして、W.アイリッシュの名作「夜は千の目を持つ」を意識している? ~JR博多駅に到着した寝台特急「あさかぜ1号」の2人用個室から女性の死体が発見された。検死の結果、死因は心不全と判明。だが、前夜、被害者が半狂乱になり口走った「列車を止めて、人が死ぬ、ナチが見える」という意味不明の言葉に吉敷は独自の捜査を開始する~ 正直、吉敷刑事(警部)シリーズの中では「凡作」だと思います。 事件の最大の謎とも言える「ナチ」の謎は、割と早い段階で判明してしまい、その時点でちょっとトーンダウン。 後は、いわゆる「アリバイ崩し」がメインとなるわけですが、そのアリバイトリックも氏の他作品(例えば「はやぶさ1/60」や「出雲伝説7/8」)に比べても、かなり低レベルでは? (島田ファンとしての)救いは、この時期、徐々に事件に対してストイックになっていく吉敷の姿や、後に氏のライフワークにもなる冤罪事件への傾倒の萌芽がかいま見えることでしょうか。 また、吉敷シリーズには、毎回魅力的な女性が登場しますが、本作も同様。こういう女性を書かせるとさすがにうまい。 ただ、明らかにワンパンチもツーパンチも足りない作品としか言えないなぁ・・・ (「あさかぜ」も随分前に運転停止になってしまいました。21世紀の現在はトラベル・ミステリーを書くのも一苦労ですねぇー) |
No.477 | 5点 | 帽子収集狂事件- ジョン・ディクスン・カー | 2011/05/22 20:16 |
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「魔女の隠れ家」に続くフェル博士シリーズの第2作目。
創元推理文庫から最近出た新訳版で読了。 ~"いかれ帽子家”による連続帽子盗難事件が話題を呼ぶロンドン。ポーの未発表原稿を盗まれた古書収集家もまたその被害に遭っていた。そんな折、ロンドン塔の「逆賊門」で彼の甥の死体が発見される。古書収集家の盗まれたシルクハットを被せられた格好で・・・~ 何か、カーらしくない作品のような気がします。 「密室」や「オカルト」といったカー独特のエッセンスも希薄ですし、仕掛けやトリックについてもやや小粒な感じがしました。 何で、乱歩はこの作品をカーNO.1かつミステリーベスト10にも選出したのでしょうか? 文庫版あとがきで、戸川氏もその点に触れてますが、どうやら戸川氏も今ひとつそれが納得できてない様子・・・ アリバイトリックは、非常にポピュラーな手法。 見せ方がうまいので、面白く感じますが、長々と引っ張るほどのものではないですねぇー。 動機についても後出しで、読者にその動機を推理できる伏線はないような気がするのですが・・・ そう悪いという訳でもないのですが、そこまで評価するほどかなあ?という印象ですね。 (新訳版は実に読みやすい! やっぱり翻訳物は訳の良し悪しで大きく印象が変わっちゃいます) |
No.476 | 6点 | 魔法飛行- 加納朋子 | 2011/05/22 20:14 |
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前作「ななつのこ」に続く、「駒子シリーズ」の第2作目。
本作もやはり「加納朋子」ワールド全開の連作短編集。 ①「秋りん・りん・りん」=複数の名前を持つ美しい女子大生に纏わるちょっとした謎。瀬尾さんも言ってますが、男性にとってこういう女だけの世界って、まさに"ワンダーランド”ですねぇー。 ②「クロス・ロード」=街中の十字路でひき逃げに遭った一人の少年。幽霊の正体は「彼」なのか? 徐々に骸骨化していく「絵画」の謎。 そうか、確かにそういう画法ってあったような気がする。 ③「魔法飛行」=懐かしいね「糸電話」! 最近の子供も知ってるのかな? 卓見クンと野枝さんの関係もなかなか微笑ましい。 ④「ハローエンデバー」=エンデバーって、一昔前のスペースシャトルの愛称。①で登場した謎の女性も再登場。 以上4編。 本作は、駒子が書いた物語を瀬尾に送り、それに対して瀬尾が感想&謎解きを行うという趣向をメインに、「謎の手紙」が絡まる展開。 「ななつのこ」と同じく、最終編で連作の謎が明らかになるのですが・・・なんかちょっと分かりにくい、というかパズルがきちんと当てはまらないような感覚。 ということで、前作よりはちょっと落ちるかなという印象です。 ただ、好きですけどね。たまにはこんな作品を読んで、ほのぼのした感覚になるのもいいもんです。 (やっぱり③が一番いいね) |
No.475 | 8点 | 暗色コメディ- 連城三紀彦 | 2011/05/22 20:13 |
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作者の長編第1作目。
何とも表現できないような独特の世界観が味わえる作品。 ~もう1人の自分を目撃してしまった主婦。自分を轢き殺したはずのトラックが消滅した画家。妻に「あんたは1週間前に死んだ」と告げられた葬儀屋。知らぬまに妻が別人にすり替わっていた外科医。4つの狂気が織り成す幻想のタペストリーから、やがて浮かび上がる真犯人の狡知!~ いやぁ・・・正直これは驚いた! 「序章」から「第一部」までは、どう読んでも推理小説的ロジックやリアリティーのかけらも感じられない展開・・・何か、精神疾患の患者を主人公にした幻想小説を読まされているようにしか思えない・・・ これがどう転んだら、「本格ミステリー」として収束させられるのか? 興味津々といった感じで「第二部」へ突入。 まさに、1つ1つ糸が解かれていくように、「幻想」というハリボテがはがされていきます。そして残ったのは現実感のある解決と狡知な真犯人! 連城マジックを見せられた思いです。 敢えて言えば、やはりロジックの無理矢理感はありますし、現実と仮想の「ギリギリ」感は好みが分かれるのかもしれませんが・・・ ただ、それを押しても、読む価値十分という作品で間違いなし。 (直線道路とエレベーターのトリック?はかなり無理があるように思う。あと、外科医のキャラは相当コワイ・・・) |
No.474 | 5点 | 「信濃の国」殺人事件- 内田康夫 | 2011/05/15 21:25 |
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別名「信濃のコロンボ」、長野県警の竹村警部が活躍するシリーズ。
舞台は作者お得意の長野県です。 ~信州毎朝新聞の編集者の絞殺死体が長野・水内ダムで発見され、部下である1人の記者が疑われた。しかし、恵那山トンネル・長楽寺・寝覚の床でも次々と絞殺死体が発見され、それが長野県歌「信濃の国」に歌われる名勝であることに記者の妻は気付いたが・・・~ 内田氏の父親が長野県出身であり、氏自身も軽井沢在住ということで、信濃・長野県に対する「愛情」が窺われる作品になってます。 北信(長野市周辺)と中・南信(松本市や飯田市など)がいろいろな面で対抗しているという話は確かに耳にする機会はありましたが、歴史上こんな事件があったわけなんですねぇ・・・ 本作の肝は、トリック云々ではなく、大きすぎるくらい大きい「事件の背景」と「動機」にあります。 ですから、読者が竹村警部に対抗して推理していこうなんて全く無理。事件の構図は途中で明らかになりますが、「誰が」という点はもはやどうでもいいという気さえします。 個人的に、浅見光彦シリーズにはTVドラマを始め食傷気味のため、本シリーズか岡部警部の登場作品だけ読んでるような状況。 量産作家としての作者を毛嫌いする方も多いでしょうが、「旅のお供」には一番なんですよ!これが。 (別に縁もゆかりもありませんが、長野県、特に松本周辺は好きなんですよねぇー。神々しい山々に囲まれながら暮らす生活に憧れさえ持ってます。) |
No.473 | 6点 | マルタの鷹- ダシール・ハメット | 2011/05/15 21:23 |
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私立探偵サム・スペードが活躍する伝説のハードボイルド作品。
大昔にジュブナイル作品で読んだ記憶が・・・でもほとんど忘れてた!(当たり前か) ~私立探偵スペードは、若い女性からある男の尾行を依頼された。だが、その仕事を買ってでた相棒は何者かに撃たれ、問題の男も射殺される。その嫌疑はスペードにかけられたが・・・黄金の鷹像をめぐる金と欲の争いに巻き込まれたスペードの非情な行動を描く、ハードボイルド不朽の名作~ 本作が発表された年代(1930年)を考えれば、"異例”な面白さを持つエンターテイメント作品だと思いますね。 21世紀の現在では当たり前のように書かれているハードボイルド作品の原型というか、「雛形」がここにあったという感じです。 確かに、他の方の書評どおり、プロット的には首を捻る箇所が多いのも事実で、「鷹像」を巡る攻防戦も緊張感に欠けてますし、事件の中心人物としてスペードを振り回すオショーネシーの行動も意味不明?な気がしてなりません。 ただ、何ともいえない「雰囲気」があるのも事実。 スペードの「この街(サンフランシスコ)は俺の街だ」的セリフが何ともカッコいい! この後、チャンドラーやロス・マクにつながるハードボイルドの系譜の始まりとして一読する価値は十分ありと断言しましょう。 (登場後、すぐに殺される相棒アーチャーは気の毒。でも、こんな艶っぽい作品をジュブナイル作品として出していいんでしょうか?) |