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E-BANKERさん
平均点: 6.01点 書評数: 1812件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.572 7点 卍の殺人- 今邑彩 2011/10/29 22:27
作者の長編デビュー作。
最近中公文庫から出た復刻版で読了。

~萩原亮子は恋人の安東匠とともに彼の実家を訪れた。その旧家は2つの棟で卍形を構成する異形の館。住人も老婆を頂点とした2つの家族に分かれ、微妙な関係を保っていた。匠はこの家との訣別を宣言するために戻ってきたのだが、次々に怪死事件が起こり・・・謎に満ちた館が起こす惨劇は、思いがけない展開を見せる・・・~

個人的には「好み」の作品。
新本格全盛期に書かれているためか、「奇怪な館」や「複雑な関係を持つ富豪一族」など、いわゆるコード型本格ミステリーのガジェットを詰め込んだ印象。
よって、好きな人は好きだし、毛嫌いする人もいるでしょう。
「館」は出来のいい方じゃないかな。
個人的には、館の平面図を見て、「もしかして○を使ったトリック?」という第一印象を持ったわけですが(→「8の殺人」からのインスピレーション)、なるほど・・・確かに館の特徴をうまく処理している。
伏線もこまめにちりばめているので、気付く人も多いんじゃないかな?
終盤以降、事件の構図が一変するので、その辺りのプロットも、デビュー作としてはよくできてると思う。
(プロローグが思い切りヒントになってるのが、良し悪しだが・・・)
ただまぁ、こういう作品を読んでると、「人が描けてない」っていう当時の新本格系作家に対する非難のフレーズが浮かんでしまうのは否めないかな。
(確かに、そのためか人物像があまり浮かんでこない)

No.571 5点 新・日本の七不思議- 鯨統一郎 2011/10/29 22:23
「邪馬台国はどこですか」、「新・世界の七不思議」に続く歴史ミステリー第3弾。
いつものバーではなく、今回は日本のあちこちへ出張して歴史バトル(?)を繰り広げる。
①「原日本人の不思議」=日本人の定義に関する謎。縄文人と弥生人は違う人種というのはよく耳にする話ですが、じゃあ日本人ってそもそもどういう人と聞かれると困りそう。
②「邪馬台国の不思議」=このテーマは前々作でも喧々諤々議論したはず。で、今回は宮田が「ここが邪馬台国のあった場所」とした地へ出張。別に新しい説を持ち出しているわけではない。
③「万葉集の不思議」=この時代の謎の人物として度々登場するのが「柿本人麻呂」。梅原猛をはじめ、多くの研究者がいろいろと自説を発表していますが、宮田の説は「人麻呂=○原○○○」。確かに十分ありうる気はする。
④「空海の不思議」=伝説の超人「弘法大師=空海」についての謎。宮田の説は、「空海=○○人」。数々の伝説を見てると、スゴイ人物だったことは分かりますけど・・・今回は高野山へ出張。
⑤「本能寺の変の不思議」=これまた、前々作に続いて信長に関する謎ということで、今回は桶狭間へ出張。大河ドラマなどでは、信長の勇猛果敢な人物像を前面に押し出すための逸話のはずの「桶狭間の戦い」が実は・・・
⑥「写楽の不思議」=この人もよく登場しますねぇ・・・東洲斎写楽。ミステリーでも高橋克彦や島田荘司が独自の説を展開してますが、宮田の説は割とノーマルなやつ。
⑦「真珠湾攻撃の不思議」=これはまぁ、謎っていうか罪だよなぁ。近代史を読んでると、何とも言えない大きな「うねり」というか、誰も抗えないような「流れ」を感じてしまう。
以上7編。

今回は、前2作とは異なり、新説(?)を持ち出して議論を行うというスタイルではなく、現地へ赴いての「検証」って感じ。
てことで、ミステリー的な面白みや刺激には正直乏しい。
もしかしてネタ切れ? じゃないとは思いますが、次作は2人の火花散る歴史バトルが読みたいね。

No.570 6点 わらの女- カトリーヌ・アルレー 2011/10/26 21:03
フランス人女流作家によるサスペンスミステリー。
1人の女性の心理が読者に迫る有名作です。
~独・ハングルグで翻訳の仕事をする聡明な女性・ヒルデガルデ、34歳独身。彼女はいつの日か幸運をもたらす結婚を、と新聞の求縁広告を虎視眈々とチェックする日々をおくっていた。『当方、莫大な資産アリ、良縁求ム。ナルベクハンブルグ出身の未婚ノ方・・・』 これがすべての始まりだった。知性と打算の生み出した見事な手紙が功を奏し、南仏に呼び出された彼女。億万長者の妻の座は目の前だったが、そこには思いもよらぬ罠が待ち受けていた~

確かに面白いし、よくできている。
初版が1956年(昭和31年)ということを勘案すれば、驚くべきクオリティというべきでしょう。
ようやく狙い通りに妻の座を射止めたヒルデガルドの前に、突如現れた困難と挫折・・・それでもそれを乗り越えようと奮戦する彼女・・・
この辺りは、サンペンスものの良さがよく出てますし、頁をめくる手が止まらなくなります。

ただねぇ、やっぱりこれだけ「ドンデン返し」に読み慣れた身にとっては、何となく消化不良の感があるのも事実。
これはこれで、余韻を残して、きれいなラストかもしれませんが、もう一捻り欲しいというのが本音ですねぇ。
事件のカラクリが判明する場面もちょっと早すぎる気が・・・(おまけに十分予想の範囲内)
これだったら、最後の最後で真相判明! という方が読者ウケはいいでしょう。
トータルの評価としては水準+αってことになっちゃいました。

No.569 6点 傍聞き(かたえぎき)- 長岡弘樹 2011/10/26 21:02
2008年の日本推理作家協会賞短編部門受賞作である表題作を含む作品集。
氏の作品を読むのは初めてですが・・・評価は如何に?

①「迷走」=救急隊員が主人公。怪我人を病院へいち早く運ばなければならない筈の救急車を、隊長が病院の周りをうろつかせていた理由とは、というのが本作のテーマ。最初は登場人物の相関関係がよく分からなかったが、最後は納得。でも、他にいい方法あるんじゃない?
②「傍聞き」=『かたえぎき』とは、『傍らにいて、人の話を聞くともなしに聞く』こと。自分の耳で直接聞くよりも、人が話をしていることを傍で聞くことの方が真実味を感じるという人間心理が本作のテーマ。さすがに、協会賞受賞作らしく上質な作品で、オチも見事。
③「899」=消防士が主人公で、タイトルは火災現場での要救助者を意味する。火災現場に取り残された筈の乳児が突然消えた理由は、というのがテーマ。乳児の体に残った1つの特徴から、事件の背後にあったものが明らかになる・・・ラストは爽やか。
④「迷い箱」=元受刑者の受け入れ施設が舞台。再就職が決まり新しい人生を歩む筈だった男が自殺を図った理由とは、というのがテーマ。捨てるに捨てられないものを一旦入れておくための箱、がタイトルの意味。ラストで判明する、無口な男の本音がやりきれなさを誘います。
以上4編。

どれもなかなかの出来。短編らしい小気味いいプロットと切れ味、そしてラストの余韻を感じる作品が並んでます。
(4編とも、自分を犠牲にしても他人を助ける職業の現場を舞台に、ある登場人物がとった不可解な行動がミステリの核になるという仕掛け。)
ただ、あまりにも作風がカブりすぎでしょう・・・「横山秀夫」と!
作者名を伏せられて読んだら、これ絶対横山秀夫の作品だと思ってましたねぇ。
他作品がどうなのか分かりませんが、そこはどうしても気になる。
(やはり②が一番の秀作。④もなかなか)

No.568 5点 麦酒の家の冒険- 西澤保彦 2011/10/26 21:00
タック&タカチシリーズの実質第2作目。
長編で安楽椅子(アームチェア・ディテクティブ)パズラーに挑んだ野心作(?)
~ドライブの途中、4人が迷い込んだ山荘には、1台のベッドと冷蔵庫しかなかった。冷蔵庫には、エビスのロング缶と凍ったジョッキ。ベッドと96本のビール、13個のジョッキという不可解な遺留品の謎を酩酊しながら推理するうち、大事件の可能性に思い至るが・・・~

作者のチャレンジ精神は買うが、作品としてはあまり魅力を感じなかった。
それが正直な感想。
トライ&エラーで、推論を作っては壊していく中盤が、やはり冗長でクドイ。
推理の材料がベッドとビールだけというのでは、あまりに推論の要素が大きすぎるのが問題点なのだと思う。
作者がお手本としたH.ケメルマンの「九マイルは遠すぎる」も名作ではあるが、個人的にはあまり面白みを感じなかった作品。
それも、推論部分が大きすぎて、作者の匙加減でどうとでも結論付けられるところが合わなかったのだろう・・・

安楽椅子探偵物は、やはり短編にしか向かないスタイルなのでしょうし、本作も本来は短編向きのプロット。
まぁ、でもこういう荒唐無稽なストーリーは作者ならではっていう気はしますが・・・
(そういやぁ、最近エビスなんて飲んでないなぁ・・・発泡酒やら第3のビールばかり・・・)

No.567 7点 騙す骨- アーロン・エルキンズ 2011/10/21 14:13
スケルトン探偵シリーズの最新作(この時点で)かつ第16作目。
今回の舞台はメキシコ南部の田舎町。
~妻ジュリーの親族に招かれメキシコの田舎を訪れたギデオン夫妻。だが、平和なはずのその村で、不審な死体が2体も見つかっていた。銃創があるのに弾の出口も弾自体も見当たらないミイラ化した死体と、小さな村なのに身元が全く不明の少女の白骨死体だ。村の警察署長の依頼で鑑定を試みたギデオンは、次々と思わぬ事実を明らかにするが、それを喜ばぬ何者かが彼の命を狙い・・・~

「さすが!」とでも言いたくなる良作。
実は本シリーズを読んだのは初めてだったわけですが、16作目でこのクオリティとは恐れ入ります。
ギデオンやジュリーのキャラクターや、登場人物との掛け合いなども翻訳作品とは思えないほどの読みやすさで、スッと頭に落ちてくる感じ。
「骨」を鑑定するたび、事件の様相が次々に切り替わり、最終的には「見事ミステリー的に」収束させる手際にも感心しました。

ただ、難を言えば、やはり「謎」のほとんどが、「骨」経由で判明しているため、読者としては直接の推理が不可能なところでしょうか。
(もちろん、あくまでミステリーですから、恐らくは主要登場人物が何らかの形で関わっているのだろうとの予想はつきますが・・・)
そういった短所を勘案しても、読む価値は十分。
(外国人の名前は頭に入りにくいが、ラテン系の名前は特に覚えにくい。せめて作中表記はファーストネームで統一するとかしてもらえれば・・・)

No.566 3点 遭難者- 折原一 2011/10/21 14:11
長らく続いている作者の「~者」シリーズの1つ。久々に再読。
2分冊「箱入り」という何とも珍しい本。(出版社泣かせじゃない?)
~北アルプスの白馬岳から唐松岳に縦走中の難所で滑落死した青年・笹村雪彦。彼の山への情熱をたたえるため、彼の誕生から死までを追悼集にまとめることになった。企画を持ちかけられた母親は、息子の死因を探るうち、本当に息子は事故死なのだろうかと疑問を抱き始める。登山記録、山岳資料、死体検案
書などが収められた追悼集に秘められた謎、謎、謎・・・~

実に変わった本です。
本作の他にも、『前からでも後ろからでも読める本』(「倒錯の帰結」や「黒い森」)などもあり、「変なこと考える」作家ですよ、折原は!
ただし、本作はこのアイデアのみといってもいい凡作。
いつもの折原作品らしく、リポート風の手記やら昔の文集やらといったものがつぎつぎ登場し、いかにも「罠」が張ってますよというニオイ・・・
でも、この真相では「騙され感」がまるでない。
伏線が張られてるというわけでもないので、読者が予測できる材料も乏しくて、何となく「怪しい奴」と思っていた人物が、予想通り「意外な犯人」として究明される始末とは・・・
「~者」シリーズは、まあまあの佳作と凡作が入り混じってますが、本作は明らかに「読むだけ時間の無駄」というべきレベル。
(まぁ、ファンなら「珍品」としてどうしても手に取ってしまいますけどね)

No.565 7点 五声のリチェルカーレ- 深水黎一郎 2011/10/21 14:09
文庫オリジナルのノンシリーズ作品。
表題作とその表題作と関係ありそうでなさそうな短編による構成。
①「五声のリチェルカーレ」=あくまで本作のメインはこれ。
~昆虫好きの大人しい少年の起こした殺人事件。犯罪の低年齢化が進む今日では特に珍しくもない事件と思われたが、唯一動機だけは堅く口を閉ざしていた。家裁調査官の森本が接見で得たのは「生きていたから殺した」という謎の言葉。被害者は誰でもよかったという無差別殺人の告白なのか、それとも・・・~

これは、とにかく最終ページの森本の「あるセリフ」に驚けるかどうかでしょう。
これを読んで「エーッ!!」と驚けば、恐らくもう一度ページを遡ってみるに違いない。「どこで○○○ったのか?」という疑問を持って・・・
正直、私自身も分かりませんでした。
しようがなく、ネタバレサイトを閲覧して、やっと納得。これは相当高レベルのテクニックですねぇ・・・
ただ、それ以外は割合淡々と進んでいくので、もう一捻りくらいはあっても良かったかもね。
因みに「リチェルカーレ」とは音楽用語で、独立した器楽曲の一形態のこと。
(『擬態』という言葉がキーワード。確かに、人間も知らず知らずのうちに「擬態」してるんでしょう)

②「シンリガクの実験」=ミステリーとはいえない。「五声・・・」の登場人物とはどうやら別の人物らしいです。
こういつ奴って、周りに1人くらいはいそうな気がする。
これも、ラストの1行が印象深い。(「へぇーっ」)

No.564 7点 サム・ホーソーンの事件簿Ⅰ- エドワード・D・ホック 2011/10/15 21:38
数多いホックの短編シリーズでも最も登場回数の多い探偵役、サム・ホーソーン医師が主役の作品集。
氏の作品らしく、どれも不可能趣味溢れる作品ばかり。
①「有蓋橋の謎」="屋根”の付いた橋を一方から渡ったはずの馬車が向こう岸までの間で忽然と消えた謎。消えるどころか、御者の死体まで発見されて・・・作中でホームズ物の名作「ソア橋」が引き合いに出されてますが、直接の関連はありません。
②「水車小屋の謎」=鉄道便で送ったはずの金庫入りの書類が、到着した駅では消えていた謎。消えるどころか、送り主まで焼死させられて・・・推理クイズとかでよく出てきそうなトリック。分かりやすい伏線が張られてるので、真相に迫るのは簡単かもね。
③「ロブスター小屋の謎」=婚約披露パーティーの余興に呼ばれた奇術師が密室で殺された謎。これもある小道具が伏線として書かれてますので、何となくトリックは分かりましたが・・・
④「呪われた野外音楽堂の謎」=アメリカ独立記念日のコンサート会場で衆人環視の中で町長が殺されたが、犯人が忽然と消えた謎。本編が一番御都合主義っぽいトリック。何も衆人環視のなかでこんなことしなくても・・・と思ってしまう。
⑤「乗務員者の謎」=密室となった列車の乗務員室から大量の宝石が盗まれ、乗務員までも殺された謎。一見すると、相当堅牢な密室に見えましたが・・・真相はちょっと肩透かし的。「○○には気をつけろ!」っていうことかな。
⑥「赤い校舎の謎」=突然姿が消え、神隠しのように誘拐された少年の謎。これも、真相は「なーんだ」というような感想。電話のトリックは古き良き時代を感じさせる・・・
⑦「そびえ立つ尖塔の謎」=クリスマスの日。町の教会にある尖塔内(密室)で牧師が死んでいた謎。これはまぁ現実的な解法かなぁ。
⑧「十六号独房の謎」=牢破りを得意とする伝説の犯罪者。そして、今回も監視の目が光っていた独房から消えてしまった謎。要は「一瞬の隙をついた」っていうことなのだが・・・あまり誉められたトリックではないでしょう。
⑨「投票ブースの謎」=今回は最も狭いスペースの密室で起こった殺人事件。何と、投票ブース(例の、金属板で仕切られただけのやつね)内で町長候補者が殺されてしまう! これはものすごい難問と思っていたら、あっさり解決。実にあっけない。
⑩「農産物祭の謎」=別に農産物祭自体に謎があるわけではない。記念日に大観衆の中で埋めたはずのタイムカプセル。すぐに掘り返してみると、そこには何と死体が・・・という謎。トリックはちょっと読者レベルでは分かりにくいなぁ。
⑪「古い樫の木の謎」=パラシュートで降下中に絞め殺されたスタントマンの謎。本編が一番感心した。短編らしい切れ味のあるトリック&プロットの見本のような作品。だからテニスボールねぇ・・・(でもこれで現役医師が騙されるのだろうかという疑問は感じたが)
⑫「長い墜落」=本編のみ、ホーソーン医師とは無関係の作品。あるオフィスビルから墜落したはずの男が、数時間後に地面に落下した謎。不思議だよねぇ、普通に読めば。これもさすがに面白い。
以上12編。
密室ものを中心に、作者の代表作をセレクトしており、どれも水準級またはそれ以上の作品が並んでいます。トリック自体は眉唾なものや、トリックのためのトリックも混じってますが、まずは十分に楽しめる作品集でしょう。
(個人的には⑪⑫に感心。名作①もなかなか。)

No.563 7点 君の望む死に方- 石持浅海 2011/10/15 21:35
「扉は閉ざされたまま」の続編的位置付け。
通常の「倒叙」とは違う、作者らしいプロットの練られた作品です。
~余命6か月・・・癌告知を受けたソル電機社長の日向は、社員の梶間に自分を殺させる最期を選んだ。日向には創業仲間だった梶間の父親を殺してしまった過去があったのだ。梶間を殺人犯にさせない形で殺人を実行させるために、幹部候補を対象とした研修を準備する日向。彼の思惑どおりに進むかに見えた時ゲストに招いた女性・碓氷優佳の恐るべき推理が計画を狂わせ始めた・・・~

計算され、丹念に作りこまれた作品という印象。
本作の主役は犯人ではなく、犯人役に殺されようとする「被害者」。
ということで、犯人視点の「倒叙」以外に、被害者からの「倒叙」も加わるという凝ったプロット。
探偵役の碓氷を加えた3人の間で虚虚実実の駆け引きが展開されるわけですが、結果的には碓氷の圧勝。
他の方の書評にもありますが、確かに碓氷の推理力が圧倒的すぎて、ちょっと物足りない感はあるかもしれませんね。

思ったよりも辛めの採点のようですが、個人的にはなかなかの良作だと思います。
何より、作品全体に「ピーン」という緊張感が感じられて、「次はどうなる」という期待感を持って読み進めていけるのが何より。
文庫版解説で大倉崇裕氏が「倒叙モノ」の難しさを語られてますが、こういう作品では主人公(本作では日向)の心情と如何にシンクロできるかが生命線だと思いますし、そういう意味でも本作は十分に合格点でしょう。
動機はまぁ、横に置いといて・・・
(それにしても、碓氷優佳のキャラはなかなかいいね。余韻を残した終り方はちょっと消化不良かもね)

No.562 6点 学ばない探偵たちの学園- 東川篤哉 2011/10/15 21:34
私立鯉ケ窪学園探偵部シリーズの第1弾。
「謎解き・・・」のTVドラマ化も決まり、絶好調な作者の「お笑い系」本格ミステリー。
~私立鯉ケ窪学園に転校した赤坂通は、文芸部に入るつもりが、何故か探偵部に入部してしまう。部長の多摩川と部員の八橋とともに部活動に励む(?)なか、学園で密室殺人が発生! 被害者はアイドルを盗撮しようとしていたカメラマン。妙な名前の刑事コンビや個性派ぞろいの教師たちが事件をかき乱すなか芸能クラスのアイドルも失踪。学園が誇る探偵部の推理は炸裂するか!~

「面白い」といえば面白い。
何がと聞かれても困るが・・・
本作のメインは一応2つの「密室」殺人でしょう。
1つめの密室トリックは「うーん」というほかない。「振りこ」の件が出て、もしかして「島荘の例のヤツ?」と思わせますが、さすがにそれは「捨てトリック」とほっとしたのもつかの間、真相はさらに脱力するもの。アレって、そんなに弾力があるんですかねぇ?
2つめのトリックの方が面白い。映像に向いてそうなトリック。ただ、密室にする必然性が如何せん弱いと思うんですけど・・・
プロットそのものは割りと練られているので、程よいボリュームと相俟ってスイスイ読むことが出来ました。
手軽に本格ミステリーを楽しむにはまぁいいかな。
(祖師谷大蔵警部と烏山千歳刑事って・・・東京近郊の住人か元住人にしか分からないんじゃない?)

No.561 4点 魔術の殺人- アガサ・クリスティー 2011/10/10 16:20
ミス・マープル物の第5長編。
セント・メアリ・ミードから離れ、古い友人のためにひと肌脱ぐマープル。
~旧友の依頼でマープルは変わり者の男と結婚したキャリイという女性の邸宅を訪れた。そこは非行少年ばかりを集めた少年院となっていて、異様な雰囲気が漂っていた。キャリイの夫が妄想癖の少年に命を狙われる事件が起きたのもそんななかであった。しかも、それと同時刻に別室では不可解な殺人事件まで発生していた!~

正直「たいしたことない」作品。
「魔術の殺人」などという、大げさな邦題こそ付けられてますが、魔術などというほどのトリックではありません。
(原題は、『They do it with mirrors』。殺人の現場を奇術やショーの舞台と舞台裏に見立てているわけです・・・)
「誰が殺せたか」といういわゆるアリバイが鍵となるわけですけど、別にマープルでなくて刑事レベルでも十分に看破できるようなトリックだと思うんですけどねぇ。
第2の殺人もよく意味が分からなくて、はっきりいって蛇足気味。
何より、複雑でドロドロした一族の姿をさんざん描写している割には、ミスリードもそれほどなく、結局最も怪しげな人物が真犯人という展開はガッカリ。
ということで、辛い評価となってしまいました。
(別に少年院という設定じゃなくてもよかったんじゃない?)

No.560 6点 人間動物園- 連城三紀彦 2011/10/10 16:16
2002年発表の誘拐ミステリー。
本作もやはり「連城ミステリー」の濃厚な香りが漂います。
~記録的な大雪にあらゆる都市機能が麻痺するなか、汚職疑惑の渦中にある大物政治家の孫娘が誘拐された。被害者宅の至る所に仕掛けられた盗聴器に一歩も身動きのとれない警察。追い詰められていく母親、そして前日から流される動物たちの血・・・二転、三転の誘拐劇の果てにあるものとは何か?~

なんとも形容し難い作品。
これぞ「連城」というしかないし、他の作家では書けない作品でしょう。
第1部では、奇妙な誘拐事件とそれに翻弄される家族・警察の姿が描かれるが、何ともいえない「違和感」が読者の心に積み重なってくるような感じ。
そして、第2部終盤以降で、事件そのものが鮮やかに反転させられる・・・
冒頭から、普通の誘拐事件ではないという匂いがプンプンさせてましたが、そういう「構図」だったとは・・・
この辺りは、やはり作者の力量を感じずにはいられません。

ただ、他の方の書評にもありますが、「読みにくかった」のは確か。
視点が次々と変わっていく流れや、思わせぶりな表現が多く挿入されていたため、展開を呑み込むのに時間がかかってしまいました。
「動機」はどうですかねぇ・・・
確かにリアリティ的にはキツイ気はしますが、プロットそのものに直結してますから、これはこれでいいとは思いますが・・・
(結局、身代金がすり替わった件はどうなったのだろうか?)

No.559 7点 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 2011/10/10 16:13
1つの長編作品と呼ぶべきか中短編集と呼ぶべきか迷う作品。
タイトル作を2つの小作品が挟み込むようにしていて、なかなか凝った作り。
①「こうへいくんとナノレンジャーきゅうしゅつだいさくせん」=まぁ前菜+デザートという位置付けでしょうか。最初読んだら、「こりゃなんの意味だ?」としか思えないでしょうけど・・・(よかったね、ナノレンジャー拾えて)
②「The Ripper with Edouard」=米国の小都市を舞台とした無差別殺人事件が一応のテーマですが・・・これも「何の関係があるの?」って最初思ってしまう。テーマは、高い木の上に吊り上げられた死体。
ラストにオチが用意されてますが、これ単独では「ふーん」という感想にしかならない。
③「安達ケ原の鬼密室」=表題作であり、あくまでも本作のメインはこれ。
~太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る「鬼」に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内に7人もの死体が残された。50年の時を経て、"直観”探偵・八神が真相を解明する!~

これは普通の長編に十分できるプロットだと思うけどなぁ・・・
スタイル的には、どこか「占星術殺人事件」を思い起こさせるけど・・・(戦中の荒唐無稽な未解決事件だし)
途中挿入されている「密室の行水者」がモロにヒントになっているので、これを読めば、メインの謎もおのずと分かってしまう仕掛けなんでしょう。
動機やら、アレが「鬼」に見えるか?など、細かい部分はちょっと流しているなぁという印象。
一読者から見たら、「こんな変化球にしなくても・・・」と思ってしまいますが、作者からすると、「二番煎じ」感が気になったのかもしれないですね。
(だから、こんな凝ったスタイルにしたのか?)
トータルでは、なかなか楽しめたし、決して悪くない作品だとは思います。

No.558 6点 魔王- 伊坂幸太郎 2011/10/05 22:34
表題作とそれから5年後のストーリー(「呼吸」)からなる作品。
他作品より若干「硬派」な印象がしましたが・・・
~会社員の安藤は弟の潤也と2人で暮らしていた。自分が念じれば、それを相手が必ず口に出すことに偶然気がついた安藤は、その能力を携えて1人の男に近づいていった。何気ない日常生活に流されることの危うさ。新たなる小説の可能性を追求した物語~

何となく考えさせられた。
表題作の主役・安藤(兄)も、「呼吸」の主役・潤也(弟)もある特殊能力を持ち、それを試しながら世の中に挑戦(?)していこうとする。
まぁ、特殊能力という設定自体、作者の十八番とするところですし、使い方がうまいですね。
兄の「腹話術」能力っていうのは、ともすると漫画チックになりそうなのに、「政治」とか「ファシズム」といったかなり硬派なテーマのせいで、ついつい読まされてしまいました。
(政治家に対する感情や思いっていうのは、まさにそのとおりだねぇ)
個人的には、潤也の特殊能力は相当羨ましい!
(夢の「単勝ころがし」がいつでもできる!)
ただ、ミステリーとは呼べない作品でしょうから、評価はこんなものかな。
ラストはちょっと中途半端なので、続編(「モダンタイムス」)に期待します。

No.557 6点 七人のおば- パット・マガー 2011/10/05 22:33
「被害者を捜せ!」に続く長編2作目。
本作でも独特のアイデアが光る作品でしょう。
~結婚して英国に渡ったサリーは、NYの友人からの手紙でおばが夫を毒殺し、自殺したことを知った。だが、彼女には七人ものおばがいるのに、手紙には肝心の名前が記されてなかったのだ。一体どのおばが? 気懸かりで眠れないサリーに夫のピーターは、おばたちについて語ってくれれば犯人と被害者の見当をつけようと請け負う。サリーはおばたちと暮らした7年間を回想するのだが・・・~

プロット&アイデアには感心させられる。
こういうパターンもありですよねぇ。
ただそんなことより、何よりもスゴイのは、「七人のおば」たちの強烈なキャラクター!
こんな女たち、絶対嫌だ! 女性の嫌な部分をすべて持っているといっても過言ではないおばが七人も・・・
とにかく、個性たっぷりに七人を書き分けた作者の筆力は賞賛に値する。

ただ、ミステリーとしてはそれほど評価できないような気がしました。
フーダニットについても、サプライズ感は小さいですし、「あの人物」についての不自然さは普通気付くだろう!
(ミスリードかとも思いましたが、それがすんなり真相だったとは・・・)
回想部分も正直長すぎるし、謎解きに関係のある箇所の割合が小さすぎるのは否めない。
ということで、面白さは感じながらも、評価としてはこんなもんかなぁ。

No.556 7点 狐火の家- 貴志祐介 2011/10/05 22:32
作者唯一の本格長編ミステリー「硝子のハンマー」に続く、防犯探偵シリーズ第2弾。
セキュリテイ会社社長且つ犯罪者(?)でもある榎本と、美人弁護士・純子とのコンビが「密室」の謎に挑む。
①「狐火の家」=田舎にある古い日本家屋で起こった密室殺人、って書くと、何だか「本陣殺人事件」を思い起こさせますが、そんなに精巧(?)な密室ではありません。1箇所だけ空いていた窓がどういう意味を持っていたのかが事件の鍵に・・・
②「黒い牙」=これは「何とも言えない」・・・ある意味相当グロい作品。気味の悪いある生き物と、その生き物を愛でるマニアの間で起こる殺人事件。これってやっぱり「遠隔殺人」になるんでしょうね。しかし、このトリックを実行できる「犯人」には恐れ入る。
③「盤端の迷宮」=鍵どころかチェーンまで掛かったホテルの部屋での密室殺人。これが一番本当の「密室」らしい作品でしょうか。将棋界の裏側で起こっている問題(本当?)を絡ませ、真犯人&被害者の心理から発生した「密室」・・・なかなか面白い作品。
④「犬のみぞ知る」=これは、作者らしからぬバカミス! ただ笑うしかないオチとキャラクター。こんな作品も書けるんですねぇ。
以上4編。
本シリーズらしく、すべて「密室殺人」を扱った作品集。
ただ、「密室」とはいっても「硝子のハンマー」のように「ハウダニット」に拘った堅牢な「密室」というよりは、「ホワイダニット」に焦点を当て「密室」を構成するに至った過程に拘っている印象。
榎本&純子のコンビもすっかり板についていて、こんな軽いタッチの作品も楽しませてくれる作者の力量に改めて感服しました。
こういうホラー以外の作品もたまには出してほしいね。
(②は個人的にとにかくグロかった。夢に出てきそう!)

No.555 8点 さむけ- ロス・マクドナルド 2011/09/28 21:37
ゾロ目555番目の書評は、作者というかハードボイルドの代表作とも言える本作で。
私立探偵リュウ・アーチャーが独特の「渋さ」で、複雑な人間関係を切り裂きます。
~実直そうな青年アレックスは、茫然自失の状態だった。新婚旅行の初日に新妻のドリーが失踪したというのだ。私立探偵アーチャーは見るに見かねて調査を開始した。ほどなく、ドリーの居所はつかめたが、彼女は夫の許へ帰るつもりはないという。数日後アレックスを尋ねたアーチャーが見たものは、裂けたブラウスを身にまとい、血まみれの両手を振りかざし狂乱するドリーの姿だった。ハードボイルドの新境地を拓いた巨匠畢生の大作~

さすがに読み継がれるべき大作という感想ですねぇ。
物語は、序盤~中盤はドリー&アレックスを中心に進みますが、何となく先が見えないじれったい感覚。
中盤以降、隠された過去の殺人事件が明るみに出てからは、事件の構図が一変し、スピーディーな展開に。
徐々にスポットライトが当てられる1人の人物・・・コイツの立ち位置がなかなか分からなかったなぁ。
ロイの周りを何人もの女性の姿が見え隠れするが、実際の登場人物とイマイチ噛み合わないと思ってるうちに、終盤へ。
そして、ラスト1頁の「衝撃!」。
確かに、これは本格ミステリー顔負けの「大ドンデン返し」という奴でしょう。
犯人像は終盤以降明らかにされてましたけど、まさか「アイツ」がねぇ・・・今回は完全にヤラレた。

他の方の書評にもありますが、アーチャーの造形は、例えばF.マーロウなどとは違っていて、後者が「動」とすれば、「静」というイメージ。
(もちろん、行動力は他のハードボイルド探偵に負けないですが・・・)
自身の考えや想いに拘りながら、あくまでも愚直に真実を追究するアーチャーの姿は、やはりカッコイイ。
本作を読了した後は、多くの方が、まさにタイトルどおり「さむけ」を感じるんじゃないかな?

No.554 6点 陰獣- 江戸川乱歩 2011/09/28 21:36
角川ホラー文庫版で読了。
乱歩中期の傑作と評される作品ですが・・・
①「陰獣」=探偵作家の寒川に資産家夫人・静子が助けを求めてきた。捨てた男から脅迫状が届いたというのだが、差出人は探偵小説家の大江春泥。静子の美しさと春泥への興味で寒川はできるだけの助力を約束するが、春泥の行方は掴めない。そんなある日、静子の夫の変死体が発見された~

乱歩の匂いが濃厚に漂う作品だなぁ。
乱歩らしい世界観とロジックが微妙な具合に融合していて、その辺のミックス加減が本作の「高評価」を生んでいるのでしょう。
「大江春泥」と「平田一郎」。謎の2人の人物をめぐって、寒川の頭の中で、様々なストーリーが形作られる・・・
静子の造形も何とも乱歩らしい。
(乱歩好きなら、堪えられない作品なのでしょう)

②「蟲」=これはミステリーというか、軽いホラーでしょう。「虫」ではなく、「蟲」としたタイトルが言い得て妙。
前半~終盤はどうでもよくって、ラスト1頁にすべてが集約されてます。

No.553 7点 - 麻耶雄嵩 2011/09/28 21:35
今や本格ミステリーの雄とも言える作者の第7長編。
考え抜かれた技巧の数々が込められた秀作(?)
~オカルトスポット探検サークルの学生6人は京都山間部の黒いレンガ屋敷「ファイヤフライ館」に肝試しに来た。ここは10年前、作曲家の加賀蛍司が演奏家6人を殺した場所。そして半年前、1人の女性メンバーが未逮捕の殺人鬼ジョージに惨殺されている。そんな中での4日間の合宿。ふざけ合う仲間たち。嵐の山荘での第1の殺人はすぐに起こった~

これは、「長所」と「短所」が入り混じった作品。
他の方の書評どおり、叙述トリックについてはかなり「レベルが高い」(分かりにくいとも言える・・・)
特にいわゆる「○別誤認」については、正直面食らった!
(なんで、そんなことに平戸が驚くのかって)
まさか、読者には最初から明かしていて、作中の人物には分かっていないとはねぇ。
「視点」の件は最初から違和感がかなりあったので、誰もが「何かある」と気付いたはず。
いずれにしても、結構作者の技巧は高レベルで、読み手の力量を問われる作品なのでしょう。

いわゆる典型的なクローズド・サークルもので、これぞ「新本格」とでもいうべき雰囲気。
埋め込まれた技巧や伏線はそれなりに見事なのですが、何となく、詰め込みすぎて消化し切れてないという気がするのも事実。
この辺は好みの問題かもしれません。
(「人物が描けてない」なんて無粋なことはいいませんが、どうしても上すべり感があるんですよねぇ・・・)

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