皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.832 | 6点 | 透明人間の納屋- 島田荘司 | 2013/02/23 16:00 |
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2003年、「講談社ミステリーランド」シリーズとして配本されたなかの一つ。
子供向けの作品でも「島荘はやはり島荘」だった! ~昭和52年の夏、一人の女性が密室から消え失せた。母子家庭の孤独な少年・ヨウイチの隣人で、女性の知人でもある男性は「透明人間は存在する」とささやき、納屋にある機械で透明人間になる薬を作っていると告白する。混乱するヨウイチ・・・。やがてその男は海を渡り、26年後、一通の手紙がヨウイチに届く。そこには驚愕の真実が記されていた!~ これは本当に子供向けというのを意識して書かれたのだろうか? 主人公は一人の少年(小学校低~中学年くらいか?)だし、ボリュームは抑えられているなど、作品の体裁としてはそれっぽいのだが、書かれている内容は実にシビアでハードな内容・・・。 これを小学生や中学生が読んで、理解できたのだろうか? まぁそれはともかく、本作のプロット・筋立てはいつもの「豪腕・島荘」のままだ。 殺人現場から死体が消失し、その理由が「透明人間」なんて、奇想と言わずして何と言うのか。 密室からの消失トリック自体は、さすがにそれ程のレベルではない。 ただ、そんなことは二の次、二の次・・・。 物語としての、この「壮大さ」はどうだ! 子供向けのストーリーの背景にあの「歴史的&社会的事件」が使われるなんて・・・ これは子供向けの名を借りた社会派ミステリーなのかもしれない。 ミステリーとしての完成度も水準も全く異なるが、名作「奇想!天を動かす」をなぜだか思い出してしまった。 やはり、稀代のミステリー作家なんだよなぁ・・・。 (最後の一行は相当切ない) |
No.831 | 5点 | 蠟人形館の殺人- ジョン・ディクスン・カー | 2013/02/16 22:39 |
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「夜歩く」や「髑髏城」などに続くアンリ・バンコラン物の長編四作目が本作。
「蝋人形館」という、いかにもカーらしい怪奇趣味が漂う作品。昨年に出版された新訳版で読了。 ~オーギュスタン蝋人形館に入る姿を目撃されたのを最後に行方不明となった元閣僚の娘オデットは、翌日セーヌ川に死体となって浮かんでいた。予審判事バンコランが老館主を尋ねると、彼は最近館内で女殺人鬼の人形が動き回るのを見たと言い出す。蝋人形館へ赴き現場を確認しに地下の恐怖回廊へ向かった一行を出迎えたのは、セーヌ川に巣食う半人半魚の怪物サテュロスの像に抱えられた女の死体だった!~ 敢えていうなら、ちょっと「竜頭蛇尾」な作品と言えそう。 前半から中盤にかけての謎の提示は、いかにもカーらしいケレン味に溢れている。 蝋人形館、恐怖回廊、サテュロス像、謎の殺人鬼などなど、読者の首筋をゾクゾクさせる道具立てが揃っている。 現場の蝋人形館も密室状況とあっては、その後の展開を期待せずにはいられない・・・のではないだろうか。 ただ、暗黒街の大物・デュランが登場してからがどうもパッとしない。 バンコランの捜査&推理過程が開陳されるわけではなく、ワトスン役のマールの冒険譚などが中心となるのがちょっと拍子抜けなのだ。 確かに、終章で明かされる真犯人の名には「エッ?!」という衝撃を受けるのだが、この人物の登場シーンがあまりにも少なくて、正直かなり唐突感がある。 まぁ、伏線が丹念に張られているのだと言えなくはないのだが、ロジックの鍵となっている「ある材料」について、読者が気付くのはかなりキツイ気がする。 カー作品の解説などを読んでると、やっぱり初期のバンコラン・シリーズはその後のフェル博士やH・M卿物に比べて一枚も二枚も落ちるという評価に首肯せざるを得ないのだろうなぁ。 本作も決して悪くはないのだが、作者の代表作と比べると、高い評価は無理だろう。 (退廃的なパリの街の描写はなかなか惹き込まれる) |
No.830 | 7点 | ゴールデンスランバー- 伊坂幸太郎 | 2013/02/16 22:38 |
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2007年発表。映画化もされ、作者の代表作ともいえる作品となった。
ビートルズの名曲「ゴールデン・スランバー」に載せて、作者らしい洒脱な言い回しが冴える大作。 山本周五郎賞受賞作。 ~衆人環視のなか、首相が爆殺された。そして犯人は俺だと報道されている。「なぜだ?」 、「何が起こっているんだ?」、「俺はやっていない!」。首相暗殺の濡れ衣をきせられ、巨大な陰謀に包囲された青年・青柳雅春。暴力も辞さぬ追手集団からの、孤独な必死の逃走劇。行く手に見え隠れする古い記憶の人物たち・・・。運命の鍵を握る古い記憶の断片とビートルズのメロディ。スリル炸裂超弩級エンタテイメント巨編~ これは「伊坂らしさ」と「伊坂らしからぬ」が混じりあったような作品、 っていう感じか。 読了後に「文庫版解説」を読むと、作者が本作では今までの作品とは「伏線の回収」という点で趣向を変えている云々との記述があり、これが「らしさ」と「らしからぬ」という相反する感想につながったのだろう(多分)。 「らしさ」で言うなら、相変わらず登場人物に配慮が行き届き、一人一人が見事なまでにキャラ立ちしていること。 本作でも森の声が聞こえる森田や、カズ、そして元カノの樋口とそして樋口の子供まで・・・説教めいているのにどこか洒脱で心に響いてくるフレーズの数々・・・ (でも一番秀逸なのは、青柳父の『痴漢は死ね』か!?) 「らしからぬ」なのは、やっぱりラスト。 今までなら綺麗に伏線が回収されて、「アレとアレがここでつながるのかぁ!」という快感を得られていたのだが、本作では多くの?が回収・解決されないまま残されていく。 ラストこそ薄明かりの見えたシーンで終わっていて後味がいいが、この辺はちょっとむず痒い感覚はどうしても残ってしまう。 (特に、警察側の異様さの謎が最後まで明かされないのが、一番歯痒いのだが・・・) 『物語の風呂敷は、畳む過程がいちばんつまらない』とは、作者の言葉なのだが、ある意味、自身の作品のレベルを一段上げるためにも、本作の「試み」は必要だったのだろう。 ただし、単なる市井の一ミステリーファンとしては、今までの「伊坂マジック」をもう少し味わっていたい、というのが偽らざる気持ちなんだけどなぁ・・・ (「ゴールデンスランバー」聴きたくなった・・・) |
No.829 | 4点 | モロッコ水晶の謎- 有栖川有栖 | 2013/02/16 22:36 |
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お馴染み、火村助教授(今なら准教授か?)&推理作家アリス・コンビの作品集。
今回も滋賀~京都~大阪~兵庫と、関西圏を股にかけての捜査行・・・ ①「助教授の身代金」=助教授とは別に火村のことではなく、ドラマで助教授役を演じたある俳優のこと。いかにも狂言めいた誘拐事件に巻き込まれる二人なのだが、火村がたどり着いた真相は意外なもの・・・。ただ、何かピンとこないプロットなんだよなぁ・・・。 ②「ABCキラー」=クリスティの名作「ABC殺人事件」のオマージュとして出版されたアンソロジー収録作品。確かに、元ネタをひと捻りもふた捻りもしてはいるのだが、これも何だかピンとこない。そもそも最初の二件の動機や背景は何だったのか? 声明文を送りつけた奴は? いろんなものが置き去りにされたまま強制終了という感じ。 ③「推理合戦」=これは「箸休め」的ショート&ショート。別にねぇ・・・ ④「モロッコ水晶の謎」=中編ほどの分量のある作品。意図的に書き順を遡っているのだろうが、あまり意味がないように思える。謎の中心は毒を入れたタイミングと動機なのだろうが、どちらもあまりピンとこないんだなぁ・・・。フーダニットは分かりやすいし、あまり褒めるところはない。 以上4作。 相変わらずこのシリーズのクオリティは低いように思える。 特に、今回の収録作については、作者あとがきでプロットの「狙い」が書かれているので理解できたが、そうでなければ「一体なにが書きたかったのか?」という感じになったに違いない。 それほど「ピンとこない」のだ。 確かに、短編ミステリーとしてのまとめ方は旨いと思うし、ソツはないのだが、だからといって満足できるレベルではないだろう。 ちょっと辛い評価かもしれないが、どうもこのシリーズとは相性が悪いのだ。 (「これがいい」と言えるのはないかな・・・) |
No.828 | 7点 | むかし僕が死んだ家- 東野圭吾 | 2013/02/11 20:03 |
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1994年発表のノンシリーズ長編作品。
作者の多彩ぶりがよく分かる一冊と言っていいのではないか? ~「わたしには幼い頃の思い出が全然ないの・・・」。七年前に別れた恋人・沙也加の記憶を取り戻すため、私は彼女と「幻の家」を訪れた。それは、めったに人が来ることのない山の中にひっそりと建つ異国調の白い小さな家だった。そこで二人を待ち受ける恐るべき真実とは・・・? 人気作家が放つ長編ミステリー~ 派手さはないのだが、徐々に心に染みてくるような・・・そんな読後感。 紹介文のとおり、本作の舞台は山の中にひっそりと建つ別荘風の一軒家。物語のほとんどがこの家の中で、わずか二人の登場人物の間で展開される。 そして、過去が綴られた「日記」が本作のプロットの中心。 登場人物の二人が、この「日記」を紐解くたびに、謎が解け、そして謎が追加され或いは深まっていく・・・ それが憎らしいくらいに旨いのだ。 文庫版解説の黒川博行氏が、「この作品の伏線の張り方は尋常ではない」と書いているが、まさにそのとおり。 全ての謎が解決される「第四章」では、これまで埋め込まれた伏線の数々が鮮やかに回収され、収まるべきところに収まっていく。 まぁ、これは言うなれば「一流のマジシャンの手口」ということに尽きる。 しかも、それをさもたいしたことないようにやってのけるのが、大作家・東野圭吾の真骨頂なのだろう。 サプライズ或いはインパクトでいえば、正直なところ「小品」と言うべきなのかもしれないが、決して侮れないスゴイ作品だと思う。 ラストの切なさも個人的にはGood。 (リーダビリティも尋常じゃない・・・) |
No.827 | 6点 | 黒後家蜘蛛の会3- アイザック・アシモフ | 2013/02/11 20:01 |
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安楽椅子型探偵シリーズの第三弾作品。
本作でもメンバーのあまり意味のない(?)喧々諤々を尻目に、給仕人ヘンリーが鮮やかに謎を解く。 ①「ロレーヌの十字架」=旅先で知り合った「運命の人」がバスの中から消える。残されたメッセージが今回の謎、というわけで十字架型の印がいったい何を表すのか、という展開。でも、これはアメリカで暮らしてないとピンとこないなぁ・・・ ②「家庭人」=今回のゲストはみんなの嫌われ者、税務署の職員。彼はあらゆる犯罪の中で最も罪の重いのは脱税だと主張するのだが・・・。謎を解く鍵となる「進法(10進法とか)」の話はよく分からん。 ③「スポーツ欄」=米国に住み、二重スパイとなったロシア人が殺された際に残したいわゆるダイニング・メッセージ。ワシントンポスト紙のスポーツ欄にこの暗号を解く鍵があるのだが・・・ロシア語のネタは確か前作か前々作にもあったような気がする。 ④「史上第二位」=これも「謎のメッセージ」がプロットになった作品。歴代の米大統領の中で「史上第二位の人物は?」という謎らしいのだが・・・これもアメリカ人じゃないとちょっとピンとこないかも。モンローとかクリーブランドなんてマイナーだろっ! ⑤「欠けているもの」=新興宗教が唱える「トライ・ルシファー」。その男は、火星から見た景色が見えるということなのだが・・・一見すると全く矛盾のない話に思えたのだが、ヘンリーは根本的な「誤り」に気付く。そりゃそうだ! ⑥「その翌日」=今回のゲストは出版社の編集者。せっかく発掘した有望新人からの原稿が滞るという自体に困り果てているのだが・・・これも「謎のメッセージ」系の作品。今回はこういうプロットがかなり目立つ。 ⑦「見当違い」=これもまた「謎のメッセージ」が登場。で、謎を解く鍵が、米国内の地理(地名)とある制度(コード?)ということで、またまた日本人にはピンとこない感じ。 ⑧「よくよく見れば」=本作は珍しく殺人事件が扱われた一編。冒頭から「言葉」に関する議論がメンバーで行われていて、そういう方向のプロットなのは察しがつく。でも、「ブラインドマン」って、「見えない男」って意味だよね? ⑨「かえりみすれば」=ゲストとしてSF作家が登場。となれば、例のごとく作者自身も話のネタとして登場させ自虐ネタに。本筋は・・・まぁどうでもいいか! ⑩「犯行時刻」=本編はタイトルどおり「アリバイ」を主題とした作品。要は、アリバイに関して証言した人物の時刻の認識に係る問題なのだが、こんな勘違いするかなぁ・・・? ⑪「ミドル・ネーム」=これも日本人にはピンとこない、アメリカのカルチャーが謎を解く鍵になる。まぁ小品だが・・・ ⑫「不毛なる者へ」=黒後家蜘蛛の会の設立メンバーが残した遺言が今回の謎。そう、またまた「謎のメッセージ」に関するプロットなのだ。でも、「不毛」=ハゲって発想には笑えた(これが正解じゃないですが・・・) 以上12編。 それにしても、今回は「謎のメッセージ祭り」だった。 「小ネタ集」的なのは最初からなので気にはならないが、ちょっとネタ切れ感が出てきたのかもしれない。 でもまぁ楽しめる作品だろう。 (レベル的にはどれもあまり変わらないが、敢えていえば⑤かな) |
No.826 | 6点 | スリープ- 乾くるみ | 2013/02/11 20:00 |
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作者らしい企みに満ちたミステリー作品がコレ。
ジャンルで言えばやっぱりSFってことになるのかな・・・。 ~テレビ番組の人気レポーター・羽鳥亜里沙は、中学校卒業を間近に控えた二月、冷凍睡眠装置の研究をする『未来科学研究所』を取材するために、つくば市に向かうことになった。撮影の休憩中にふとした悪戯心から立ち入り禁止の地下五階に迷い込んだ亜里沙は、見てはいけないものを見てしまうのだが・・・。どんでん返しの魔術師が放つ傑作ミステリー~ プロットとしてはかなり魅力的。 主人公の少女が、研究所職員の奸計に嵌って冷凍催眠状態にされ、目覚めれば30年後の世界・・・さて、これからどのような危機に巻き込まれるのか、というところまでは最初から読者にも予想できるのだが・・・ ここまで「ふんふん」と読み進めてきた読者は、第九章(「胡蝶の夢」)で「えっ!」と思わされることになる。 これが一つ目のどんでん返し。 そこから、まるでパラレルワールドのような作品世界が二重構造のように仕掛けられていたと分かるのだ。 これが単なるSFではなく、ミステリー的仕掛けを十分に意識した作者の真骨頂と言えるだろう。 終章ではもう一度「裏の裏か?」と思わせつつ、後を引くようなラストを迎える。 この辺りの手練手管は、「魅力的」プロットと評するだけのことはあるのだ。 ただ、例えば「リピート」などと比べると、サプライズ感は小さいかなぁ・・・ 「リピート」は、リピートの仕組みと殺人事件の動機の謎が最後に一気に収束されるというカタルシスが味わえたのだが、本作ではサプライズ感はありつつも、ある程度「予想の範囲内」のまま終了したという印象になってしまう。 ということで、あまり高評価はできないのだが、決して「つまらない」作品ではない。 本作はSFの大家・ハインラインの名作「夏への扉」のオマージュということだが、ネタ元も読みたくなってきた。 (これって、かなり映像向きな作品のような気が・・・。特に美少女フリークなら・・・) |
No.825 | 6点 | 痾- 麻耶雄嵩 | 2013/02/07 22:13 |
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問題作(?)「夏と冬の奏鳴曲」の続編的位置付けの作者第三長編。
メルカトル鮎、木更津悠也という二大探偵を登場させながら、主役は前作に引き続き如月烏有が務める。 ~忌まわしい和音島(かずねじま)の殺人事件の後遺症で記憶喪失になった如月烏有は、失われた記憶を取り戻そうと寺社に連続放火。すると、焼け跡からは焼死体が発見される。その彼のもとに、「今度はどこに火をつけるつもりかい?」と書かれた手紙が届く・・・。烏有は連続放火殺人犯なのか? 銘探偵メルカトル鮎が真相に迫る新本格ミステリー~ やっぱり分からん。正直、理解の範疇を超えてる。 前作(「夏と冬の奏鳴曲」)も長々と物語を読まされて、結局読み終わっても数々の?が残されたままという展開。 そういう消化不良の状態のまま、本作では更に新たな謎が提示される。 文庫版解説で、法月氏が『本作を前作と続編という考えで読むと肩透かしをくう・・・』と書かれてますが、その通りでしょう。 放火事件の方はともかく、殺人事件については一応合理的な解決が成されていますが、何だが付け足しのような内容。 後はひたすら烏有が悩み悶える姿を延々読まされてるという感覚。 中盤過ぎ、唐突にメルカトルが登場し、ようやく物語が加速し始めるのだが、その真相はかなりご都合主義のような感じなのだ。 (木更津に至っては出てきた意味あるのか?) 本作一番のサプライズはやはり「エピローグ」部分なのだろう。 ここで、処女長編「翼ある闇」と本作がリンクしていることが明らかにされる・・・。メルカトルの行動&言葉はコレを踏まえてのものだったのか・・・ということになるのだ。 この世界観を若干20代の作者が示したことについては素直に敬意を表したい。 ただ、全体的にはやはり「若書きかなぁ」という評価は免れないと思う。 (新本格というムーブメントがあったからこその作品であり、作家だったんだなという思いを強くした) |
No.824 | 7点 | 死との約束- アガサ・クリスティー | 2013/02/07 22:11 |
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名作「ナイルに死す」に引き続き、中近東を事件の舞台とした作品。
エルサレム~ヨルダン~ペトラ遺跡など、個人的にも興味深い舞台背景なのだが・・・ ~「いいかい、彼女を殺してしまわなきゃ・・・」。エルサレムを訪れたポワロが耳にした男女のささやきは闇を漂い、やがて死海の方へ消えていった。どうしてこうも犯罪を連想させるものにぶつかるのか? ポワロの思いが現実となったように殺人は起こった! 謎に包まれた死海を舞台に、ポワロの並外れた慧眼が真実を暴く~ これも実にクリスティらしいなぁ・・・ ミステリー作家としての作者のスキル&テクニックが凝縮されたような作品ではないか。 クリスティの「うまさ」が読者をミスリードさせる「腕」なのだとしたら、本作はかなり高水準だと思う。 一人の老婦人に生殺与奪権を握られたかのような家族たち、そしてその一家と関わりを持ち、殺人事件に深く関わってしまう男女5名。 老婦人が殺害されたとき、当然「動機」により容疑者にされてしまう家族たち・・・ 一家の立ち振る舞いが余りにも戯画化されているため、読者の目線はどうしてもそこにフォーカスされてしまうが、作者=名探偵ポワロの目線は事件全体の大きな円(サークル)全体を捉えているのだ。 そしてラスト。ポワロの推理は、今までずれていたフォーカスを正確な位置に合わせてしまう。 本作ではそこがきれいに嵌っている。 (特に、何でもないように思えた前半のある場面が、実は事件全体に関わる大きな「鍵」になっている、という仕掛けが見事) 殺人事件が起こるまでがやや長いが、その分ストーリーをじっくり味わえると言えなくはない。 プロットやラストのサプライズ感でいえばやや小品かもしれないが、とにかく端正な本格ミステリーなのは間違いない。 (本作では、ポワロの「天狗ぶり」が特に目立つような気がした。まぁいつものことだが・・・) |
No.823 | 3点 | ポケットに地球儀- 安萬純一 | 2013/02/07 22:10 |
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「ボディ・メッセージ」で第20回鮎川哲也賞を受賞した作者が贈る連作短編集。
事件に巻き込まれるとなぜか「密室」に閉じ込められるミステリー作家・アマンと担当編集者が織り成す事件簿。 ①「パンク少女と三日月の密室」=毎朝通勤電車で乗り合わせる一人の女性がとる謎の行動の理由とは・・・。本筋の真相はかなりこじつけ感がある。今回閉じ込められる密室は三日月型の部屋。 ②「ノイズの母と回転する密室」=事件の舞台は崖地に建つマンション。なぜか雨の晩にベランダに砂が積もってしまうというのが依頼人の持ち込んだ謎。これも真相は??・・・強引だろ! 因みに密室は回転しながら開ける部屋という仕掛け。 ③「DJルリカと四角い密室」=同窓会に出席したDJルリカがちょっと会場から離れた次の瞬間に参加者が消えてしまう・・・というのが今回の謎。で、閉じ込められる密室は四角形の堅牢な奴なのだが・・・ ④「メロデス美女とドアのない密室」=部屋から持ち物が次々と無くなる・・・というのが今回持ち込まれた依頼。同棲している男性が恐らく犯人なのだが、どうやって盗んでいくのかが不明、ということなのだが、真相は脱力感あり。性懲りもなく閉じ込められた密室は文字通り「ドアのない密室」(!)。 ⑤「密室魔と空中の密室」=これまで(①~④)、アマンと編集者を密室に閉じ込めてきたのが「密室魔」。ということで、今回は密室魔の正体が明らかになるとともに、究極の密室に閉じ込められることに・・・。そんなアホな! 以上5編。 これは・・・ダメだろっ・・・。 「密室」という謳い文句に惹かれてついつい手に取ってしまったのが運の尽き。 創元文庫もよくこんな作品出版したよなぁ・・・ 「密室」は事件の本筋とは全く関係なく、しかもたいした仕掛けがあるわけではない。本筋の方のプロットもかなり脱力感のあるものなのだ。 これでは高評価はできない。 作者はいったい何を狙ってコレを書いたのか? 鮎川賞受賞者ならもう少しレベルの高い作品を生み出して欲しい。 (ちょっと言い過ぎかな?) |
No.822 | 7点 | 夜想曲(ノクターン)- 依井貴裕 | 2013/01/31 21:57 |
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1999年発表。どうやら、今のところ本作が作者最後の作品になってしまっているようだが・・・
「読者への挑戦」も挿入した王道の本格ミステリー。 ~同期会が催された山荘で三日三晩に三人のメンバーが絞殺された。俳優の桜木もこの会に参加していたが、なぜかその間の記憶が抜け落ちていた。ただ、ひとつロープで他人の首を絞めた生々しい感触を除いては・・・。そして、その追い討ちをかけるように何者かからワープロの原稿が送られてきた。そこには空白の三日間が小説として再現され、桜木を真犯人として断罪していたが・・・。トリック&ロジックの本格派が新たに叩き付ける「読者への挑戦状」~ 粗も目立つが、前向きに評価したい作品。 作者が仕掛けたトリックは主に二つ。 一つ目は結構面白かった。 もちろん、ミステリーを読み慣れた者にとっては、最初からなんとなく違和感を持ちながら読み進めていたわけで、こういう手のトリックじゃないかという予想は付いた。 見せ方があまりうまくないせいか、「鮮やか!」というわけではないが、探偵役・多根井の推理により真相が見事に反転する場面はなかなか唸らされるのではないか。真犯人絞込みのロジックも実に端正。 ただ、一つ気になるのは警察の捜査の具合。この真相であれば、警察の捜査はいったいどのように行われたのか? いわゆる「作中作」的な仕掛けなのだから・・・ で、もうひとつのトリックが問題。 これって必要か? まぁ一つ目のトリックだけでは弱い、ということかもしれないが、唐突すぎてちょっと「どうかなぁ・・・」という気になった。 (一応伏線は張ってあるのだが、これは気付かないよなぁ) でも、こういうチャレンジブルな本格ミステリーはなるべく評価してあげたいというのが本音。 基本的にはこういう作品は好物なのだ。 (もう少しプロットを煮詰めていればなぁ・・・。ちょっと惜しい) |
No.821 | 6点 | わが身世にふる、じじわかし- 芦原すなお | 2013/01/31 21:55 |
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「ミミズクとオリーブ」、「嫁洗い池」に続くシリーズ第3弾。
今回も悪友・河田警部を含めたお馴染みの3人が、美味しそうな数々の料理とともに事件を解決に導く・・・ ①「ト・アペイロン」=悪友・河田警部がNYへの研修出張から帰国。因みに表題は古代ギリシャ語で『無限なもの、不定なもの』という意味を表す言葉。 ②「NYアップル」=河田警部がNY在任中に発生し、名探偵の奥さんが解決した事件の顛末を披露する。しかし、NYの事件を安楽椅子型探偵するとは・・・やるねぇ奥さん! ③「わが身世にふる、じじわかし」=地元・八王子界隈で起こった2人の老人の失踪事件。片方の老人が残した手紙は何と「暗号」だった。まぁ暗号自体はよくある「手」の奴なのだが・・・。 ④「いないいないばあ」=主人公が幼年期に遭遇したある不思議な事件が、河田警部の持ち込んだ現在の事件解決のきっかけとなる。本編で登場するお好み焼きのソースの話・・・すごくよく分かる(気がする)。 ⑤「薄明の王子」=今回の事件の舞台はあるプロレス団体。団体のエースが、他団体へ移籍前の最後の試合で、負けるはずのない「噛ませ犬」役のレスラーのバックドロップを浴び死んでしまう・・・。これって、三沢の件がきっかけなのか?主人公のプロレスへの想いはすごくよく分かる。 ⑥「さみだれ」=複雑な人間関係を持つ家族の間で起こった殺人事件。河田から話を聞くだけで、大凡の真相を察してしまう奥さんって・・・。今回は早稲田界隈の街歩きのシーンがなかなか楽しい。 以上6編。 相変わらず何ともいい雰囲気の作品。 事件自体は結構猟奇的だったりするのだが、気取らず且つ美味そうな料理や、互いに貶しながらもなくてはならない存在の主人公と河田の会話などを楽しんでると、自然にゆったりした気分になる・・・そんな作品集。 ただ、ミステリーとしては前作や前々作の方に軍配が上がるとは思う。 (ミステリーとしては②かな。それ以外では⑤も好きだが・・・) |
No.820 | 6点 | ボーン・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー | 2013/01/31 21:53 |
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大人気「リンカーン・ライム」シリーズの第一弾がコレ。
伝説の殺人鬼・ボーンコレクターが蘇る・・・NYを恐怖のドン底に陥れる連続殺人事件が発生する。 ~ケネディ国際空港からタクシーに乗った出張帰りの男女が忽然と消えた。やがて生き埋めにされた男が発見されたが、地面に突き出た薬指の肉はすっかり削ぎ落とされ、女物の指環が光っていた。NY市警は科学捜査専門家リンカーン・ライムに協力を要請する。彼は四肢麻痺でベッドから一歩も動けないのだが・・・ 「さすが」と言えば「さすが」だが・・・ 途中の展開は結構冗長かなぁと思えた。 とにかく、本作はリンカーン・ライムという人物の「人となり」を味わい尽くすことが肝要なのだろう。 殺人現場に残された「犯人の痕跡」の一つ一つに対し、己の経験や勘、そして数々の科学捜査を駆使して真犯人に肉薄する姿。 他の方の書評でもあったが、その姿はまるで『現代に蘇ったシャーロック・ホームズ』と言っていい。 そして、本作のもう一人の主役が、事件に巻き込まれ、ライムの片腕となったアメリア・サックス。 美しい外見とは裏腹に、心の中に暗闇を持つ彼女も、ライムの慧眼に心酔し、彼の目となり手となって事件の渦中に飛び込んでいく・・・ 作者と言えば「終盤のどんでん返し」というイメージだが、本作はその辺りはそれ程でもない。 この手のミステリーの場合、どうしても真犯人に意外性が要求されるため、こういう感じになるのだろうが、ちょっと無理やり感はある。 サスペンス感こそが本来「肝」になるべきなのだろうが、最初に書いたように、それにしてはちょっと冗長すぎるのだ。 作品自体の質は相当高いと思えるので、そんな所が気になってしまった次第。 (これから本シリーズを順に読んでいくつもり) |
No.819 | 4点 | 狙われた男―秋葉京介探偵事務所 - 西村京太郎 | 2013/01/23 22:31 |
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私立探偵・秋葉京介を主人公とした作品集。
西村流ハードボイルドを追求(?)したのであろう作品が並んでいるのだが・・・ ①「狙われた男」=汚い商売でのし上がった風俗店経営者が今回の依頼主。脅迫を受け、命を狙われているというのだが・・・事件のからくり自体は非常に単純。 ②「危険な男」=街中で知り合い、恋仲になった美女。そして美女が自室で殺害される事件が起こり、秋葉へ救いを求めたのが事件の発端。美女の正体がなかなかつかめないというのがプロットの肝なのだが・・・ ③「危険なヌード」=当初は単純な美人局的事件かと思わせたのだが・・・事件は二重構造になっていた、というのが今回の事件。秋葉も危機に陥るのだが、危険が迫れば迫るほど喜びを感じるのが、この男(であるらしい)。 ④「危険なダイヤル」=ある女性を殺してくれとの依頼を受ける秋葉。この女性を調べるうちに、ある石油会社を舞台にした利権を巡る陰謀に巻き込まれていく・・・。真の仕掛け人の正体には若干のサプライズあり。 ⑤「危険なスポットライト」=二人の女性アイドルとそのバックに控える芸能プロダクション同士の争いが絡む事件。背景自体は実に単純で紋切り型。 以上5編。 作者の作品に登場する私立探偵といえば、左門字進(「消えた巨人軍」などに登場)が有名だが、本作に登場するのは秋葉京介。 恐らく他の作品には出てこないし、そういう意味ではなかなかレアな作品ではある。 ただなぁ・・・、作品の質は相当低いよ。 命の危険をも顧みず、事件の渦中に飛び込む、冷静かつ勇敢な私立探偵・・・なんてオリジナリティがないんだ! やっぱりシリーズ化されなかったのも頷ける、そんな作品。 (特にこれがよいというのはないなぁ・・・。正直、時間つぶしにしかならない) |
No.818 | 5点 | 盤面の敵- エラリイ・クイーン | 2013/01/23 22:30 |
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1963年発表の長編作品。
名探偵エラリー・クイーンと真犯人との対決をチェスの対局になぞらえ、華麗な推理ゲームが展開される。 ~四つの奇怪な城と庭園からなるヨーク館で発生した残虐な殺人事件・・・。富豪の莫大な遺産の相続権を持つ甥のロバートが、花崗岩のブロックで殺害されたのだ。エラリーは父親から事件の詳細を聞くや、俄然気負い立った。殺人の方法も奇抜ではあるが、以前からヨーク館には犯人からとおぼしき奇妙なカードが送られてきていたのだ。果たして犯人の真の目的は? 狡知に長けた犯人からの挑戦を敢然と受けて立つクイーン父子の活躍!~ この真相はかなり微妙だな。 他の方の書評にもあるが、自身の名作「Yの悲劇」を彷彿させる舞台設定(犯人の署名は「Y」、事件の舞台はヨーク家)、真犯人の筋書き通りに犯行を行う示唆殺人など、本作は実にゲーム性に満ちたプロットになっている。 途中で殺人の実行者が判明しながらも繰り返される殺人事件。そして、真犯人候補が徐々に狭められるなかで、最後の最後にやっと明かされる真犯人の正体。 そう、これが実に微妙なのだ・・・。 確かに、こういうプロットもありだとは思うし、時代性を考慮すれば先見性のあるものなのかもしれない。 ただなぁ・・・これだといろいろともったいぶって書かれた途中の展開が、「必要だったの?」っていう気になってしまう。 例の犯人からの手紙の署名についても、正直よく理解できなかった。 (キリスト教国では意味のある「こと」なのかもしれないが・・・) まぁ、代作者の手による作品ということであるが、個人的な好みとはやや外れていたという感じは否めない。 作品の雰囲気や遊戯性自体は嫌いじゃないだけに、何か惜しいなぁ。 |
No.817 | 6点 | トスカの接吻- 深水黎一郎 | 2013/01/23 22:28 |
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前作「エコールド・パリ殺人事件」に続く芸術探偵シリーズの第二弾。
今回の芸術はズバリ「オペラ」。個人的には全くの門外漢ですが・・・ ~歌劇「トスカ」公演の真っ只中。プリマドンナが相手役のバリトン歌手を突き刺したそのナイフは、なぜか本物だった。舞台という「開かれた密室」で起こった前代未聞の殺人事件。罠を仕掛けた犯人の真意は何か? 芸術探偵・瞬一郎と伯父の海埜刑事が完全犯罪の真相を追う。「読者に勧める黄金の本格ミステリー」選出作品~ 真犯人には確かに驚かされた。 なる程! 伏線も張ってあるし、動機もまぁ理解できなくはない。 「開かれた密室」については、その惹句ほど魅力的なトリックではないし、第2の殺人で出てくるダイニング・メッセージについても「こりゃ分からんわ!」というレベル(こんな専門知識ないよ!)。 ということで、本格ミステリーとしての骨格は長短入り混じってるという評価が適当だろう。 (文庫版は「読者への挑戦」が追加されるサービス振り!) でも本作に関しては、オペラの知識がないと面白みが半減するような気がする。 もちろん、本格ミステリーにこういう薀蓄は付き物で、作品を通していろいろな薀蓄に触れることは、個人的は楽しいのだが・・・ ただ、オペラについては知識があまりにもないし、正直、薀蓄部分に本作のかなりのウェイトが置かれている体裁になっているのが、ちょっと読んでて違和感を抱いてしまった次第。 あとは登場人物の作り込みがちょっと甘いのかな・・・ 探偵役の瞬一郎にしても、変人として書かれている警部にしても、イマイチ魅力に乏しくて、どうもその辺が読後にスッキリこない理由になっているのだろう。 本格ミステリーの仕掛け自体は面白いだけに、そこが残念でならない。 (オペラって、日本でもそんなに人気なんでしょうか?) |
No.816 | 5点 | カブト虫殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2013/01/19 18:14 |
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「グリーン家」「僧正」に続くヴァン・ダインの第5長編。
古代エジプト研究者の自宅兼博物館で起こった殺人事件を名探偵ファイロ・ヴァンスが解き明かす。 大昔にジュブナイル版で読んで以来の再読。 ~エジプト博物館内で復讐の神を前にして殺されていた死体は、犯人を指摘するあらゆる証拠を備えていた。しかし、その証拠はあまりにも明確に犯人を指摘しすぎている。我がファイロ・ヴァンスの苦悩はそこから始まる。法律的には正義の鉄槌を下し得ない犯人に対して、エジプト復讐の神は如何なる神罰を用意したのか? 神を信じないヴァンスは如何にして神の手を利用したのか?~ 作者がこういうプロットで書きたかった意図は分かる。 そんな読後感。 シリーズ五作目だし、今までと同じベクトルのフーダニットは書きたくなかったんだろうなぁ・・・。その辺に工夫・アイデアがあると言えなくはない。 要は「裏の裏は表だ」ということに尽きる、これがプロットの軸。 ただ、その狙いが十分成功しているとは言い難い。 最初の殺人事件はいいのだが、例えば、その後に起こる殺人未遂事件などは、まぁ一応真犯人の狙いを補完する材料なのだろうが、相当にお粗末ではないか。 ヴァンスは真犯人のことを「恐ろしく頭がよく知恵が回る」人物だと指摘しているが、この程度なら誰でも考えつくレベルだろうし、こういう目くらましに踊らされる警察も相当お粗末ということになる。 ただ、時代性を考えると致し方ないかな。 今までストレート勝負を挑んできた作者が、初めて投げた変化球が本作とでも言えばいいのかもしれない。で、最初から空振りは取れなかった、ということだろう。 作者が「一人の作家が優れた長編作品を生み出せるのは6作が限度」と主張したのは有名だが、次作「ケンネル殺人事件」以降は作品の質が相応にダウンすることになる。でも、初・中期の6作品のうち、本作が一番劣る・・・という感想。 |
No.815 | 8点 | 七つの会議- 池井戸潤 | 2013/01/19 18:12 |
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作者の新刊は、十八番の連作短編集。
日本を代表するメーカー・ソニックの関連会社・東京建電が本作の舞台。 ①「居眠り八角」=東京建電恒例の営業会議。営業部のエース・坂戸課長が熱弁を振るう中、いつものように居眠りするのが部下の八角。八角に対し強硬な態度を続けていた坂戸がパワハラで訴えられたことで、社中に謎と激震が走る。もうひとりの課長・原島の視点を軸に物語はスタートを切った。謎を残して・・・。 ②「ねじ六奮戦記」=ねじ製造業を営む中小企業・「ねじ六」。三代目として悩みながら会社経営に奮闘していた逸朗の元に、東京建電・坂戸から無理難題なコストカットが通知される。悲嘆にくれるなか、一筋の光明が訪れるのだが・・・。 ③「コトブキ退社」=不倫に破れ、日常の仕事にも飽き飽きした東京建電のOL・優衣。予定もないのに結婚退職すると通知した彼女が、自分を変えるために最後に挑んだのが社内での軽食販売プロジェクト。腰掛けOLが自分の殻を破っていく姿には何だが考えさせられるが・・・。 ④「経理屋稼業」=本編の主人公は経理部課長代理の新田。しかも彼は③に登場した優衣の不倫相手。コストアップの原因となっている営業部・原島課長の行動に疑問を抱いた新田は単独調査を始めるのだが・・・。この新田の人となりとか、人当たりはねぇー身につまされる。物語はこの辺から急展開していく。 ⑤「社内政治家」=本編の主人公は出世競争に破れ、閑職へ押しやられた男・佐野室長。顧客からのクレームを調査していくうちに、佐野もまた社内の謎、不審に気付き調査を始める。そして起こした行動が内部告発。ただし、これは動機がちょっと不純。まぁ、部下を徹底的に馬鹿にする上司ってどこにもいるものです。 ⑥「偽ライオン」=東京建電を牛耳る営業部長・北川。野心を抱き、ライバルを蹴落とし、出世競争を勝ち抜いた北川は、しかし失ったものも多かった。そして、ついに暴かれる社内ぐるみの旧悪。 ⑦「御前会議」=親会社からの出向役・村西がついに知ることになった社内の旧悪。それは、親会社の屋台骨をも揺るがしかねない大事件だった。そして開かれる親会社での役員会議。その結果は・・・会社の論理といえばそれまでだが。 ⑧「最終議案」=揉み消されるはずだった旧悪がついに露見。それぞれの人生を賭して働いてきた男たちの行く末は実に皮肉なもの。まぁこれが「勧善懲悪」ということかもしれないが・・・ 以上8編。 うーん。重いねぇ・・・ 最近やや軽め・明るめの作品が続いていただけに、初期の作風に戻ったかのように重厚で考えさせられるストーリーだった。 いつもなら時代劇ばりの勧善懲悪で、勝者と敗者の姿をくっきりと象徴的に浮かび上がらせるのだが、本作の登場人物には明解な勝者は存在しない。「会社の論理」という見えないルールに縛られ、翻弄されていく男たちの姿はよく理解できるだけに切なくなる。 みんな頑張ってるんだけどなぁ・・・。家族のため、生活のため、会社のため、そして自分のため。 でもそれだけではダメなんだろう。 一人の人間として「矜持」を持って、この厳しい時代・世の中を生きかなければならない・・・実に青臭いがそんなことを考えさせられる作品。 サラリーマンにとっては、自身の仕事や人生を振り返るためにも一読してみてはいかがだろうか。 |
No.814 | 6点 | 悪党- 薬丸岳 | 2013/01/19 18:11 |
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乱歩賞作家・薬丸岳の2009年発表長編作品。
ただ、長編とは言っても、各章に異なったサイドストーリーを配し、連作短編的な味わいもある作品になっている。 ~探偵事務所で働いている佐伯修一は、老夫婦から「息子を殺し少年院を出て社会復帰した男を追跡調査してほしい」という依頼を受ける。依頼に後ろ向きだった修一だが、所長の木暮の命令で調査を開始する。実は修一も姉を殺された犯罪被害者遺族だった。その後「犯罪加害者の追跡調査」をいくつも手掛けることに。加害者と被害者遺族に対面する中で、修一は姉を殺した犯人を追うことを決意したのだが・・・衝撃と感動の社会派ミステリー~ こういうテーマは実に作者らしい。 乱歩賞受賞作「天使のナイフ」でも、次作(「闇の底」)・次々作(「虚無」)でも、作者は世間に潜む重いテーマに正面から向き合い、問題点を明らかにするなかで、プロットの中に有機的に取り込んできた。 そして、本作のテーマは「犯罪被害者遺族」。 殺した犯人は短い刑期で社会復帰するのに、決して心が癒されることのない遺族たち・・・。 本作ではそういう遺族が何人も登場する。 そして、その遺族たちの依頼に応え、追跡調査する佐伯修一もまた心に深い深い闇を抱える犯罪被害者遺族なのだ。 これは成長物語であり、若くして非業の死を遂げた姉を思い、他人に愛情を持てなくなった修一の呪縛を解くための再生の物語なのだろう。 今回、「謎解き」という要素は薄いので、そういう手の作品を期待すると肩透かしを食うが、「読み応え」という点ではそれなりの満足は得られるのではないか。 まっ、ただ、個人的には初期3作や「刑事のまなざし」などよりは一段落ちるかなという評価。 オチも今ひとつで予定調和なのがやや残念。 |
No.813 | 6点 | 白光- 連城三紀彦 | 2013/01/13 01:37 |
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2002年発表の長編作品。
この作品も相変わらずの「連城節」、或いはこれぞ「連城ミステリー」と言うべき作品。 ~ごく普通のありきたりな家庭・・・。夫がいて娘がいて、いたって平凡な日常・・・のはずだった。しかし、ある暑い夏の日、まだ幼い姪が自宅で何者かに殺害され庭に埋められてしまう。殺人事件をきっかけに、次々と明らかになっていく家庭の崩壊、衝撃の真実。殺害動機は家族全員に存在していた。真犯人はいったい誰なのか? 連城ミステリーの最高峰がここに!~ これは・・・見事なまでの「連城ミステリー」。 連城にしか書けない、または連城しか書かないミステリーに違いない。 しかし、実に企みに満ちた作品だ。 ミステリーとしては平凡すぎるくらい平凡な殺人事件のはずだったのに・・・最後の一行までもつれにもつれていく展開。 ラストの衝撃はそれ程でもないかなという感想だが、本作が「初連城です」という読者の方なら相当面食らうのではないかと思う。 子供の頃からいがみ合う姉妹を妻とする2組の夫婦、そしてその娘たちと、認知症の父。 殺されるのは次女の娘なのだが、彼女を「殺した」という人物が出てきては消え、「こいつか!」と思ってはするりとかわされていく・・・ 事件の謎が深まるほどに明らかになる登場人物たちの悪意とゆがんだ感情。 とにかく、この世界観にはいつの間にかどっぷりと浸からされてしまった。 まぁ、正当なミステリーからはかなり逸脱した作品だし、好みからいえばもう少しミステリー色が濃い作品の方がよい。 ということで、氏の作品としてはあまり評価はしないのだが、まぁこの雰囲気、世界に是非一度は触れてみていただきたい。 (嫌な女だねぇー「幸子」。こういう男女間の心の機微を書かせると天才だね) |