皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1845件 |
No.945 | 5点 | 十八の夏- 光原百合 | 2013/11/26 21:58 |
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2002年発表。
第55回の日本推理作家協会賞受賞作(短篇部門)「十八の夏」を含む作品集。 瑞々しい青春時代が蘇る・・・かな? ①「十八の夏」=甘くてちょっぴり苦い、年上の女性に対する青春時代の恋愛・・・って書くと本当に恋愛小説(?)と思ってしまうが、さすがにミステリー作品としての受賞作だけあって、ラストにはミステリーっぽい仕掛けが用意されている。でも、確かにこういうオッサンってモテるのかもしれないなぁ・・・羨ましい。 ②「ささやかな奇跡」=これは・・・いい話だ! ほのぼのしたホームドラマのような一篇。子供を持つ父親としては、「もしこういう境遇になったら?」っていう仮定で読んでしまった。 ③「兄貴の純情」=才能もないくせに芝居の世界に打ち込むバカな兄貴。そんな兄貴がひとりの女性に惚れたのだが、その女性は実は・・・という展開。まぁよくある話と言ってしまえばそのとおりなのだが。 ④「イノセント・デイズ」=作者によれば一番ミステリーっぽい作品とのことなのだが、個人的にはそれほど良いとは思わなかった。女性目線では納得できるのかもしれないが・・・ 以上4編。 前々から読もう読もうと思っていた本作だけど、期待したほどではなかったというのが正直な感想。 もともとミステリー的な部分は付け足し程度かなという予備知識はあったけど、「ミステリー+恋愛小説」としては、どちらにも中途半端な感が拭えない印象が残った。 でもまぁ、やっぱり「十八の夏」が中では一番いい作品だと思う。 上品でライトなミステリーが好みという方なら、一読して損はないだろう。 ①以外はあまりピンとこなかったな。 (いずれにしても30超えたオッサンが読むのは若干キツイ気がした・・・) |
No.944 | 7点 | 中途の家- エラリイ・クイーン | 2013/11/17 16:03 |
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国名シリーズからライツヴィルシリーズにつなげるための、まさに「中途」の作品として有名な本作。
これまでよき“相棒”だったクイーン警視も登場せず、エラリーが孤軍奮闘。ニューヨークとフィラデルフィアに挟まれた「中途の家」に関する謎を解く。 ~ニューヨークとフィラデルフィアの中間にあるトレントンのあばら家で正体不明の男が殺された。その男はいったいどこの誰として殺されたのか? 美しいフィラデルフィアの人妻とニューヨークの人妻を巻き込んだ旋風のなかに颯爽と登場するクイーンは、「中途の家」と中途半端な被害者の生活からいかなる暗示を得て、この難事件を解決するのか。美と醜、貧と富の二重性。ひとりであってふたりの被害者という異常な設定のもとに会心の推理が進行する~ なかなか味わいのある良作、という読後感になった。 国名シリーズでは、NYという大都会を舞台に、劇場や百貨店、病院、競技場といった一種の閉鎖空間で殺人事件が起こり、クイーン父子が華々しい活躍をする・・・という派手めな印象だった。 それが本作では一変。 トレントンという地方都市のあばら屋という地味な舞台設定となった。 終盤まで、エラリーの捜査過程というよりは、法廷をはじめとする登場人物たちの動きが中心となり、エラリーの推理が開陳されるのは、「読者への挑戦」が挟まった後の終盤以降。 そこでは、真犯人足り得る6つの条件が提示され、容疑者ひとりひとりをふるいにかけ、消去法が試みられるなど、従来の国名シリーズの名残ともいえる展開。 燃えカスのマッチに関するロジックもクイーンらしさ全開っぽくて良い。 しかし、本作への評価はそういういわゆる従前のクイーンっぽさではなく、パズラーミステリーからの脱却を図り、エラリーを事件の渦中に飛び込ませることとした作風の変化についてなのだろう。 ただし、ライツヴィルシリーズほどその辺が徹底されていないところが、まさに「中途」の作品という評価に落ち着く。 個人的には好きだけどね。 (作者が本作を好きな作品のひとつとして言及したことは有名だが、何となく分かる気がする・・・) |
No.943 | 6点 | 貴族探偵- 麻耶雄嵩 | 2013/11/17 16:01 |
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常磐洋服店の超高級スーツを着こなすダンディな男。その名も「貴族探偵」。
自身では決して動かず、考えず、ましてや推理など瑣末なことは使用人に任せる・・・破天荒な“名”探偵が主人公の連作短篇集。 ①「ウィーンの森の物語」=実際の探偵役は貴族探偵の老執事・山本が務める本編。しかも、事件は針と糸を使った密室トリックがメインなんて・・・ふざけてるとしか思えない・・・のだが案外まともなラスト。 ②「トリッチ・トラッチ・ポルカ」=メイドの田中が本編の探偵役。アリバイトリックがメインとなるのだが、バラバラ死体とアリバイといえば、だいたいこういう方向性になるよなぁ・・・という真相。でも、結構ブッ飛んでる。 ③「こうもり」=本作中で一番のボリュームを誇る本編。探偵役は今回も田中が務める。これもアリバイが事件のメイントリックとなるのだが、トリックは反則技のような気がするけど・・・これも作者のおフザケかな? ④「加速度円舞曲」=ひとりの女性が巻き込まれた落石事故から殺人事件までに発展してしまう本編。探偵役は大男の佐藤。現場の見取り図がふんだんに出てきて興味をそそるが、ちょっと分かりづらい感じ。それにしても貴族探偵・・・我が儘すぎ! ⑤「春の声」=大富豪の跡を継ぐ美しい娘と、その娘の花婿候補の三名。三名の花婿候補がほぼ同時に殺害されるという不可思議な事件が発生。しかも現場は雪密室。そして、三名それぞれが別の男を殺した容疑者という妙な状況に・・・。今回は今まで登場した山本、田中、佐藤のそれぞれが三名を殺した犯人を当てるというスゴイ展開に。結末はまぁ、ロジックをこね回してるという気がしないでもない・・・ 以上5編。 一作ごと問題作を発表している作者らしい、一筋縄ではいかない作品集だな。 それほど派手なトリックやプロットが用意されるわけではないけど、独特の皮肉っぽさやお遊びを感じられる作品が並んでいる・・・ そんな読後感。 貴族探偵のキャラそのものは別にどうということもないし、表面の皮を一枚むけば、ロジックの効いた普通の短篇という骨組みが見えてくる。 こういうレベルの作品を出し続けられるのは、やっぱり作者の能力といういうことになるのだろう。 続編も出たのでそれも楽しみ。 (これって、やっぱり「富豪刑事」にインスパイアされたのだろうか?) |
No.942 | 6点 | 彼女が死んだ夜- 西澤保彦 | 2013/11/17 16:00 |
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1996年発表の長編。
時系列で言えば、匠千暁シリーズの最初の事件に当たる(とのこと)。 タックやタカチ、ボアン先輩といったシリーズでお馴染みのキャラクターが総登場し盛り上げてくれます。 ~門限六時。家が厳しい女子大生ハコ(箱)ちゃんは、やっとのことでアメリカ行きの許しを得た。出発前日、親の外出をいいことに同級生が開いた壮行会から深夜帰宅すると、部屋には女性の死体が・・・。夜遊びがバレこれで渡米もフイだと焦った彼女は自分に気があるガンタに死体遺棄を強要する。翌日発見された遺体は身元不明。別の同級生も失踪して大事件に。匠千暁最初の事件!~ このシリーズの特徴かもしれないが、とにかくロジックを捏ねて捏ねて捏ねまくってる・・・ そんな雰囲気の作品。 (「麦酒の家の大冒険」ほどではないけど・・・) 二つの殺人が絡んだ大事件なのに、作中での警察側の絡みは一切なく、ひたすらタック、タカチらの素人捜査が描かれる。 この辺は正直なところ不自然さは否めない。 タックらが少ない物証や自分たちの捜査から「ああでもないこうでもない」という仮説を立てては壊すという繰り返し。 ラストにはそこそこ驚愕の真相が判明するのだが、何となく無理矢理パズルのピースを当て嵌めた感が強い。 (そういう設定なのは分かっていても、警察は何やってたんだろう・・・って思ってしまう) ハコちゃんの両親の秘密は結局どうしたかったのか?? こういうノリを楽しめるかどうかが本シリーズのポイントだろう。 作者の作品群でいえば、「七回死んだ男」や「瞬間移動死体」など特殊設定下の作品は個人的に大好物なのだが、本シリーズについてはちょっと微妙という評価。 青春ミステリーとしての甘酸っぱさや苦さも含めて、シリーズファンにとっては見逃せない作品だと思う。 (舞台が四国、恐らく高知県だと思われるのに標準語をひたすら喋ってるのがかなり違和感・・・) |
No.941 | 6点 | 謎まで三マイル- コリン・デクスター | 2013/11/09 16:44 |
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1983年発表。
お馴染み「モース主任警部」シリーズの長編作品。 ~河からあがった死体の状態はあまりにもひどかった。両手両足ばかりか首まで切断されていたのだ。ポケットにあった手紙から、死体が行方不明の大学教授のものと考えたモース警部は、ただちに捜査を開始した。だが、やがて事件は驚くべき展開を見せた。当の教授から、自分は生きていると書かれた手紙が来たのだ。いったい殺されたのは誰か? モースは懸命に捜査を続けるが・・・。現代本格の旗手が贈る謎また謎の傑作本格~ 面白い趣向なんだけど、ちょっと物足りない。 そんな感想になった。 首なしどころか、両手両足までもが切断されたという猟奇的な死体や、章前に各章の小見出しを付すなど、本格好きには堪らないサービスが用意されていて、ついつい期待してしまう展開。 まずは、この死体がいったい誰なのかというのが謎の中心になる。 この辺り、普通の“犯人探し”のフーダニットではなく、死者のフーダニットがテーマとなる点で変わっていて面白い。 ただし、このシリーズらしく序盤から中盤まではモース警部とルイス部長刑事の捜査が続いて少しまだるっこしい。 そして終盤以降(本作では二マイル目以降)では死体が急速に増え、あろうことか登場人物のほとんどが死んでしまうというアクロバティックな展開に突入してしまう・・・ 最終的に明らかになる死体の身元は何だか付け足しみたいになってしまった。 魅力的な前フリからすると、もうちょっとやり方があったんじゃないか? って思わされる。 (でも、これがモース警部シリーズだと言われると、「そうかも」ということにはなるのだが・・・) トータルでは、水準レベルという評価に落ち着くかな。 (ロンドンのソーホーってそういう街だったんだねぇ・・・) |
No.940 | 5点 | カラット探偵事務所の事件簿①- 乾くるみ | 2013/11/09 16:43 |
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高校の同級生で名探偵の古谷とワトスン役の井上が開いた探偵事務所。その名も「カラット探偵事務所」。
そこに持ち込まれた事件を描いた作品集の第一弾。 ファイル1~5の事件となぜかファイル20の事件が今回の収録作。 ①「卵消失事件」=いきなりガックリくるようなタイトル。探偵事務所に最初に持ち込まれた謎は夫の浮気となぜか中身だけがなくなった「卵」について・・・。これって暗号っていうかちょっとしたお遊びというレベル。 ②「三本の矢」=いわゆる“サンフレッチェ”ということで、毛利元就の故事にちなんだ事件&真相。○○○ンを使った遠隔操作が面白いと言えば面白い。 ③「兎の暗号」=作者得意の暗号モノ。しかも和歌を使った高度なものなんだけど・・・あんまりしっくりこない感じ。 ④「別荘写真事件」=昔失踪した父親の居場所を探して欲しいというのが今回の依頼。手掛かりは最近撮られた父親の写真なのだが・・・。なぜか綾辻氏の○○館のトリックを思い出してしまった。(○○球つながりだからね) ⑤「怪文書事件」=今回も①と同様、浮気がテーマ。依頼人と一緒に勇躍事件の現場に向かった二人だったが、その場で唐突に事件は解決してしまう・・・ ⑥「三つの時計」=50分では行けるはずのない場所に行くことができた理由は? ということで、今回のテーマはアリバイということになる。本件がファイル20の事件なのだが、なぜ突然20番目の事件がここに書かれているかは途中で説明してくれるのだが、実はそれ以外に大きなサプライズがラストに判明する。 (なるほどね・・・このトリックって手を変え品を変え出てくるよなぁ・・・。確かに「明示」はされてなかったけど、先入観ってこわいね) 以上6編。 全体的にはそれほど見るべきものはなかったなというのが感想になる。 叙述やSFなど、作品ごとに趣向を凝らした長編と比べると、ミステリーとしてのレベルが一枚も二枚も落ちる。 まぁ最後の“大技”だけが救いかな。 (ベストと呼べる作品はなし。暗号ものが好きな方なら③がいいのかもしれない。) |
No.939 | 7点 | 造花の蜜- 連城三紀彦 | 2013/11/09 16:42 |
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2008年発表。文庫で上下二冊分冊というボリュームの長編。
つい先日、作者の訃報に接し、追悼番組ならぬ追悼読書をしようということで本作をセレクト。 本作は作者最後の作品となってしまった作品・・・(合掌) ~歯科医の夫と離婚をし、実家に戻った香奈子はその日息子の圭太を連れ、スーパーに出掛けた。偶然再会した知人との話に気を取られ、圭太の姿を見失った香奈子は、咄嗟に“誘拐”の二文字を連想する。息子は無事に発見され安堵したのも束の間、後に息子から本当に誘拐されそうになった事実を聞かされる・・・。なんと犯人は「お父さん」を名乗ったというのだ。そして、平穏な日々が続いたひと月後、前代未聞の誘拐事件の幕が開く。各紙面で絶賛を浴びたミステリーの最高傑作!~ これは連城ミステリーの極北なんだろうな。 処女長編「暗色コメディ」以降、自身にしか書けない、書かない、独特の味わいを持つ作品を書き続けた作者の遺作に相応しい・・・ そんな気持ちにさせられた。 とにかく普通の「誘拐もの」ではない。 同じく誘拐ものの「人間動物園」(2002年)も、サスペンス性と連城独特の反転ミステリーを見事に組み合わせたミステリーだったが、本作でも序盤~中盤のサスペンス感とそれ以降の反転の連続が見事に組み合わされている。 そして、終盤からはもうとにかく「反転」の連続と言っていい。 従前に見せられていた事件の構図がつぎつぎと否定され、違う側面が作者から提示されいく。 これは「万華鏡」とでも表現すればいいのか、「多面体」とでも表現すればいいのか・・・ 最終章を前に、一応事件は収束を迎えるのだが、子供が誘拐されるという“普通の”事件が、まさに前代未聞の“誘拐事件”であったことが明らかにされるのだ。 こういうプロットって、連城にしか思いつけないんじゃないか? 直木賞受賞という確かな「筆力」と相俟って、こんな作家はもう出てこないんじゃないかという気にさせられた。 最終章(「最後で最大の事件」)については・・・まぁ蛇足のような気もするし、作者の最後の稚気のような気もするし・・・ (必要かどうかと言われると迷うところだが・・・) もう新作は読めないんだよなぁ。 後は未読の作品を丁寧に読んでいこうと思います。 最後にもう一度、不世出&孤高のミステリー作家・連城三紀彦に敬意を評して・・・合掌。 |
No.938 | 5点 | モザイク事件帳- 小林泰三 | 2013/11/01 22:14 |
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旧題「モザイク事件帳」から改題された「大きな森の小さな密室」名にて読了。
探偵役やその他の人物たちがモザイク調に登場してくる変形の連作短編集。 ①「大きな森の小さな密室」=『犯人当て』がメインの一篇。一応ロジカルな密室ものなのだが、どこか変な設定と妙な登場人物。そして探偵役は徳さん・・・ ②「氷橋」=『倒叙ミステリ』と銘打たれた一篇。ホテルの浴槽で感電死した死者とアリバイトリックがメイン。こう書くと正調なミステリーっぽいが、やっぱりどこか変な感じ。探偵役は西条弁護士。 ③「自らの伝言」=『安楽椅子探偵』が主題。探偵役は新藤礼都。彼女の鋭い推理が炸裂するのだが・・・やっぱりどこか歪んでいるような気がする。 ④「更新世の殺人」=ずばり『バカミス』として書かれた一篇。数百万年前の地層から今死んだばかりのような新鮮な死体が発見される、というのがメインの謎。怪しい考古学者も登場してくるし・・・。 ⑤「正直者の逆説」=『??ミステリー』と銘打たれた作品。丸鋸先生が探偵役なのだが、正直よく分からん! ⑥「遺体の代弁者」=こちらは『SFミステリ』として書かれた一篇。普通の作品でさえブッ飛び気味なのに、さらにSFときたら「こんなのありか?」というような作品になっている。これも十分『バカミス』ではないか? ⑦「路上に放置されたパン屑の研究」=最後は『日常の謎』がテーマ。なぜか2、3日おきに決まった路上に置かれているパン屑が本作の謎となる。これも普通の「日常の謎」ではなく、狙いのよく分からない仕掛けが施されている。探偵役は田村二吉。 以上7編。 う~ん。何ていうか、どれも一筋縄ではいかないような短編が並んでいる不思議な作品。 ロジカルなようでいて、そうではなく、作者の遊び心がどの作品にも投影されているという印象を受けた。 ただ、正直クオリティとしてはあまり高いとは感じなかったし、個人的にはストライクとは言えない作品だった。 たまには毛色の変わったものを読みたいという方ならどうぞ。 (個人的ベストは②かな。⑦もまずまず良かった。) |
No.937 | 7点 | エンプティー・チェア- ジェフリー・ディーヴァー | 2013/11/01 22:12 |
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「ボーン・コレクター」「コフィン・ダンサー」に続くリンカーン・ライムシリーズ第三作。
今回はいつものNYではなく、アメリカ南部・ノースカロライナ州のパケノーク郡という片田舎が舞台となる異色作。 ~脊椎手術のためにノースカロライナ州を訪れていたライムとサックスは、地元の警察から捜査協力を要請される。男ひとりを殺害し二人の女性を誘拐して逃走した少年の行方を探すために、発見された証拠物件から手掛かりを見つけるのだ。土地勘もなく分析機材も人材も不十分な環境に苦労しながらも、なんとか少年を発見する。だが、少年を尋問するうちに少年の無罪を信じたサックスは、少年とともに逃走してしまう。少年が真犯人だと確信するライムは、サックスを説得するが、彼女は聞こうとしないばかりか逃走途中で地元の警察官を射殺してしまう!~ 前二作とは毛色が違うのだが、最終的にはやっぱりディーヴァーらしい結末が待ち受ける。 長々と読まされるけど、そういう意味では安心して読みすすめてよかった・・・と言えそう。 紹介文のとおり、本作では南部の片田舎といういつもとは全く違う舞台設定にとまどい、なかなか力を発揮できないライムが描かれる。 その代わり、大活躍(?)するのがアメリア・サックス。 “昆虫少年”との逃避行中、あろうことか警察官を射殺してしまい、事件後には連邦裁判に被告として立つことになってしまう。 終盤、サスペンス的に一番盛り上がる銃撃戦のシーンでは、得意の銃で敵をなぎ倒す姿も描かれ、サックスファンにとってはかなりウレしいサービスだろう。 そして、やっぱり作者といえば「終盤のドンデン返し」の連続。 これについては、本作も例外ではない。 昆虫少年が巻き込まれた殺人&誘拐事件という化けの皮が剥がれ、ある大企業そしてひとつの街までもが絡む巨悪が露見することになる。 最初は“いかにも”という疑似餌が作者そしてライムによって撒かれるのだが、読者はそれに引っ掛かってはいけない。 本当の「悪人」は誰なのか? それが読者の前に晒されたとき、「えっ!」と思わされること請け合い。 (「じゃ、なんでわざわざライムを巻き込んだんだ?」という疑問は浮かぶのだが・・・) こうやって書いてると、すごい高評価ということになりそうだが、中盤の展開が少々まだるっこしいし、サスペンスとしての盛り上がりや出来という意味では、「コフィン・ダンサー」より一枚落ちると感じる。 まぁ好みの問題かもしれないが、シリーズとしてはどうしてもこういう変化球的作品も必要なのだろう。 (“昆虫少年”も年齢にしてはかなり幼いような印象・・・。でも、スズメバチのトラップは相当怖い!) |
No.936 | 4点 | 繭の密室- 今邑彩 | 2013/11/01 22:10 |
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警視庁捜査一課・貴島柊志シリーズの四作目。
今回は以前登場した中野署の倉田警部(前回は刑事。昇進したのね)とコンビを組むことになった貴島が事件の謎を解く。 ~日比野功一の妹・ゆかりは帰宅途中に何者かに誘拐された。同時期にチェーンのかかった密室状態のマンションの一室からの転落死事件が発生。捜査に当たった貴島刑事は六年前のある事件にたどり着く。事件の真相は、そして誘拐の行方は・・・? 傑作本格ミステリーシリーズ第四作~ ちょっと、っていうかかなり冴えない本格ミステリー。 そんな印象が残った。 風変わりな密室や誘拐事件など、何とかしてミステリー好きに「ウケよう」としているのは分かるのだが・・・ 如何せん薄味だし、作者らしい切れ味が全く感じられなかった。 まず密室トリックはかなりこじつけ気味。 偶然に偶然が重なったこうなりました・・・とでもいうことかもしれないが、それでは読者には推理のしようがない。 こういう変化球は割と考えられるのかもしれないけど、多分あまり褒められたトリックにはならないのだろう。 フーダニットについても何かこう、消化不良というかすっきりしない感覚が残る。 読者の錯誤がトリックのキーになるという点では、叙述トリックに近いのだろうが、無理矢理だなという印象が強い。 貴島刑事のキャラもなぁ・・・。せっかく前三作で「影のあるニヒルな二枚目」で「過去の事件か何かを引きずっている」という設定を深めていったのに、本作ではその辺に全く触れることなく、淡々と事件を解決してしまう・・・ さすがにこれでは褒めるところがない。 本シリーズはこれで終了となったのだが、本作は確実に「やっつけ」だったのだろう。 今まで読んだ作者の作品中では一番の駄作。 (亡くなった後に「ルームメイト」が映画化! 作者も草葉の陰で喜んでいるのだろうか?) |
No.935 | 5点 | 人形はライブハウスで推理する- 我孫子武丸 | 2013/10/23 22:45 |
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人形探偵シリーズの第四弾。短編集としては第一作目の「人形はこたつで推理する」に続く作品集となる。
2001年発表。久しぶりに作者の作品を手に取ることにしたが・・・ ①「人形はライブハウスで推理する」=表題作だがちょっとパンチ不足気味。ライブハウス内のトイレで起こる密室殺人がテーマなのだが、密室トリックが雑で分かりにくい。 ②「ママは空に消える」=睦月の勤務先の幼稚園の園児が発した言葉が謎のキーとなる作品。「空の上」をどのように解釈するかということなのだけど・・・アイデアとしては面白い。 ③「ゲーム好きの死体」=ゲームといっても一昔前のハードとソフト・・・(多分スーパーファミコンの時代だな)。で、この頃のゲーム機が頭に浮かばないと分かりにくいかも。 ④「人形は楽屋で推理する」=園児たちを連れて人形劇を鑑賞することになった睦月たち。そこで一人の園児が忽然と消えてしまうのが今回の謎。まぁ大したことはないが、心温まる一篇ではある。 ⑤「腹話術志願」=嘉夫に弟子入り志願してきた男が巻き込まれるコンビニ強盗&殺人事件。一種の錯誤を利用したトリックなのだが、それほど響いてはこなかった。 ⑥「夏の記憶」=睦月の過去にまつわる謎を解き明かすのが本編のテーマ。鞠夫が指摘する真相(?)は「あっ!」と思わされることなのだけど・・・ 以上6編。 短編らしいワンアイデア勝負の作品が並んでいる。 トリック自体は特段どうということもないレベルなんだけど、そこまでの持っていき方というかプロットはさすがにうまい。 ただ、何となく既視感というか二番煎じという印象にはなった。 嘉夫と睦月のじれったすぎる関係が爽やかでもあり、優柔不断でもあり・・・好みは分かれそうだな。 (個人的ベストは②。あとは⑤⑥かな・・・) |
No.934 | 8点 | 本命- ディック・フランシス | 2013/10/23 22:44 |
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1962年発表。大作家D.フランシスの競馬シリーズ第一作目が本作。
原題“Dead Cert”(=死の不正?)。フランシスも後回しにしていた作家なのだが・・・ ~濃霧をついて蹄鉄がぶつかりあう鋭い音が響く。遥か前方を走る一頭の鞍上では、騎手のビルが最後の障害を跳ぶべく馬の態勢を立て直していた。本命馬アドミラル号はその力強い後半体の筋肉を盛り上げ、緊張し跳んだ。完璧な跳躍。鳥のごとく宙に浮き次の瞬間落ちた。そしてビルは死んだ・・・。これは事故なのか? ビルの親友アラン・ヨークはその疑いに抗しきれず、ただひとり事件の謎を追う。迫真のシリーズ第一弾!~ これは面白い。 本格ミステリーとしても、サスペンスとしてもやはり一級品だ。 さすが読み継がれてるシリーズというのも頷ける・・・(ちょっと褒めすぎか?) 紹介文のとおり、事件は不審な落馬死亡事故から始まり、徐々に競馬サークルに蔓延っている八百長事件へと発展していく。 こう書くと、この手のミステリーにはありがちなストーリーだし、本作においても骨格となるプロットは実に単純なもの。 中盤あたりからいかにも怪しげな人物が登場するので、ミステリーファンなら「多分こいつが黒幕か?」というアタリがつけられるに違いない。 でも、本作のスゴさはそこではない。 読者が主人公ヨークと一体になり読み進められるリーダビリティの質、ミステリーとしての要素がうまい具合に配置されているバランスこそが本作の良さだと思った。 ラストに待ち受ける主人公の大ピンチと更なるドンデン返しもよく効いている。(予定調和気味ではあるけど・・・) 他の方の書評を見ると、本作はフランシスらしくない作品とのことであるので、逆にますます次作以降に興味が湧いてきた。 せっかく後回しにしていたシリーズなので、じっくり時間をかけ楽しむこととしたい。 (巻末解説に日本と英国の競馬の相違点がまとめられていて参考になる。やっぱり、馬が生活に密着に関係していた国と胴元がいかに集金するかから始まった国とは違うということだろうな・・・) |
No.933 | 6点 | そして誰かいなくなった- 夏樹静子 | 2013/10/23 22:42 |
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1988年発表の長編。
タイトルから分かるとおり、A.クリスティのミステリー史上に燦然と輝く傑作「そして誰もいなくなった」を本歌取りした作品。 この作品のパロディはいろいろ出されてますが本作は・・・ ~湘南・葉山マリーナから沖縄を目指す豪華クルーザーのインディアナ号が出港した。船のオーナーから招待を受けたのは、会社役員秘書、エッセイスト、医者、弁護士、プロゴルファーの五人。オーナーは御前崎から乗船するという・・・。翌朝、一人の死体が発見され、彼の干支である猿の置き物が消えていたのだ! 騙される快感に酔える傑作長編~ まずまず面白かった・・・というのが、ある程度譲歩した感想。 終盤までは、とにかく本家「そして誰もいなくなった」と同様、船内というクローズド・サークルで次々と人が殺されていく展開。 ひとり、またはひとりと登場人物が少なくなり、当然真犯人候補も狭まっていく・・・ そしてついに二人に絞られ、あろうことかひとりになってしまう・・・ 本作のようなパロディものは本家の骨格や味わいを残しながらも、主眼となるトリックはオリジナリティを出さなければならないというハードルが課せられるのは自明。 本作では最終章に作者の蒔いた仕掛けが明らかにされるのだ。 まぁ手練のミステリー好きなら、「やっぱり!」というレベルかもしれないが、まずまず納得感は得られた気はする。 そして、最後に気づくだろう。本作は「・・・誰もいなくなった」ではなく、「・・・誰かいなくなった」なのだと! トータルで評価するとこのくらいの点数。 でも結局これって、いわゆる「プロバビリティーの犯罪」に属するんだと思うけど、結構リスクあるよなぁ。 お話としては面白いが、かなり無理のあるプロットなのは確か。 (面白けりゃそれでいいんですけどねぇ・・・) |
No.932 | 4点 | 闇に問いかける男- トマス・H・クック | 2013/10/17 21:38 |
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2002年発表の長編作品。原題は“Interrogation”(=尋問かな?)
トマス・H・クックは初読みなのだが、前から気になってた作家のひとりではあった・・・ ~NY市内の公園で少女が殺害された。公園に住み、そこで遊ぶ少女たちをひたすらスケッチしていたもの静かな若者が容疑者として拘留されるが、殺害を頑として否認し続ける。なすすべもない二人の刑事。証拠物件も見つからず、釈放までに残された時間はあと11時間・・・。クック会心のタイムリミット・サスペンスの結末はあまりに切ない~ うーん。期待していたものとは違った。 ひとことで言うならそんな感想。 紹介文からは、「緊迫感に溢れスピーディーな展開のサスペンス作品」を期待していたんだけど、どちらかというと心理面に焦点を当て、じっくり読むタイプの作品。 各章前には時間の経過を示す時計盤が挿入され、そこで緊張感を高めたかったのかもしれないが、成功しているとは言い難い。 要は、狙いと結果がずれていて、何かちぐはぐな印象なのだ。 二人の刑事の捜査過程がメインプロットなのだろうが、途中から脇役の登場人物がつぎつぎに登場し視点人物化していて、かなり読みにくい。 ラストには一応ドンでん返しめいたサプライズは用意されているのだが、ちょっと唐突だし蛇足気味。 などと、不満点は次から次へと浮かんでしまう。 で、良かった点はというと・・・・・・(思い浮かばない!) 作者といえば「緋色の記憶」に代表される「記憶シリーズ」など、世評の高い作品群もあり、そちらを手に取るとこをお勧めします。 かくいう私もそうすればよかったなぁ・・・ (良質な「タイムリミット・サスペンス」という惹句には弱いんだよねぇ) |
No.931 | 6点 | 美女- 連城三紀彦 | 2013/10/17 21:37 |
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1997年発表の作品集。
連城というと逆説に満ちた切れ味鋭い短編が思い浮かぶが、本作は恋愛系とミステリーの中間というような作品になっている。 ①「夜光の唇」=ダブル不倫の夫婦。夫の前に現れたのは、妻が送り込んだ美貌の女性。当然の如く、夫はその女性に手を出すことに・・・。しかしながら、この女性には秘密が・・・。蓮城らしい”ひねくれた”プロット。 ②「喜劇女優」=これは巻末解説で評論家の千街氏が絶賛していた一篇。確かに、他の作家では考えつかないような“ひねくれた”プロットだ。多くの登場人物たちが徐々に消えていく・・・ ③「夜の肌」=癌に蝕まれ、風前の灯のようにやせ衰えていく妻。その妻を抱き寄せながら・・・ラストに重い一撃がやってくる! ④「他人たち」=これもスゴイ話だなぁ・・・。とにかく唖然とさせられるわ、この展開。「他人」のはずなのに、いつの間にか全ての関係者が肉親またはそれに準ずる人々になってしまう・・・。どんなマンションだ! ⑤「夜の右側」=これも①につづきダブル不倫のお話。男女のドロドロした恋愛系ストーリーに蓮城らしい“ひねくれた”仕掛けが加わるとこうなる。 ⑥「砂遊び」=これはごく短い作品。ただし技巧はすごい。 ⑦「夜の二乗」=これはミステリー色の比較的強い一篇だが、これもひねくれた仕掛け+男女ドロドロは同じ。 ⑧「美女」=表題作だがあまり印象に残らず。これも不倫がモチーフ。里芋のような女性の顔っていったい?? 以上8編。 なかなか読了するのに苦労してしまった。 何回も書いたけど、とにかくどの作品もドロドロ恋愛愛憎劇とひねくれたプロットの連発って感じなのだ。 さすがにここまで続くと食傷気味になる。 連城らしいといえばそれまでだが、もう少しミステリー寄りの切れ味を期待していたのでちょっと期待はずれ。 まぁそれでもレベル的には決して低くはないので、評価はこの辺にしておきます。 (ベストは②か④かな。どちらも他の作家には書けない、いや書かないだろう作品) |
No.930 | 7点 | 天狗の面- 土屋隆夫 | 2013/10/17 21:36 |
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1958年発表。江戸川乱歩賞へも投じられた作者の処女長編作品。
(受賞したのは仁木悦子の「猫は知っていた」) シリーズキャラクターとなる千草弁護士は登場せず、土田巡査の友人である白上矢太郎が探偵役として事件を解明する。 ~信州・牛伏村にある天狗伝説。信仰を集めたのは、天狗堂のおりんという女性。天狗講の集まりの日、太鼓の音と呪文の声、天狗の面に囲まれて、男が殺された。そして連続する殺人事件。平和な村を乱すのはお天狗様の祟りなのか? 駐在所の土田巡査は見えない真相に苦悩する。一種の催眠状態に陥った人間と宗教と政治の黒い関係を描き出す。著者初の長編推理小説~ 実に「端正な本格ミステリー」という味わい。 何よりこれは設定の勝利だろう。 「天狗」という禍々しく怪奇じみた存在、戦争の香りの残る山あいの村と信心深い住民、それとは正反対の泥臭い政争・・・ これらの材料をすべて目くらましとして使い、これらを剥ぎ取った後は実に単純なトリックと動機が残る、という趣向。 アリバイトリックも錯誤を利用した実に単純な手なのだが、目くらましが効いているせいで、鮮やかな印象が残った。 特に最初の衆人環視のなかの毒殺トリックが非常に良い。 (なかなかアクロバティックなトリックではあるが・・・) 矢太郎がなぜか「毒殺講義」を行うのもサービス精神に溢れていて楽しい。 伏線もかなりフェアにはられていて、これだったら終章前に「読者への挑戦」などを挿入しても面白いのではとさえ思えた。 土屋隆夫は読もう読もうと思いながら後回しになっていた作家だったけど、やっぱり読むべきだったなぁと今回改めて認識させられた。 冗長さは一切なし。本格好きなら読んで損のない一冊という評価でよいだろう。 (矢太郎の口を借りて作者がミステリーを表現したことば・・・「探偵小説とは割り算の文学である。事件÷推理=解決 この解決の部分に未解決や疑問が残されてはいけない・・・」にも共感。) |
No.929 | 6点 | 新参者- 東野圭吾 | 2013/10/08 21:14 |
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前作「赤い指」から数年、日本橋署へ異動となった加賀刑事が活躍するシリーズ作品。
東京・小伝馬町で起きたある殺人事件。その関係者ひとりひとりにスポットライトを当てていく連作短編集。 ①「煎餅屋の娘」=物語の始まりは人形町の煎餅屋さんから。実母を亡くし祖母を慕う娘と、その娘を大切に思う父親。ちょっとしたボタンのかけ違えのような謎をやさしく解き明かす加賀・・・。いい話系。 ②「料亭の小僧」=今どき珍しい存在だよ・・・“小僧さん”なんて。下町の老舗料亭を切り盛りする女将とだらしない主人。いかにもドラマのようなストーリー。 ③「瀬戸物屋の嫁」=まさに嫁姑問題を抱える家庭。一見いがみ合っている嫁姑だが、男にはよく分からない絆みたいなものがあるようで・・・ ④「時計屋の犬」=気難しい職人肌の時計屋。かせぎのない男性と駆け落ち同然に結婚した娘を勘当したのだが・・・やっぱり親娘の絆ってやつは強固なんだよね。 ⑤「洋菓子屋の店員」=これは本作のターニングポイントと言ってもいい一編。被害者となった女性が足繁く通っていた洋菓子店とお気に入りの店員。そこには当然理由があった・・・ ⑥「翻訳家の友」=殺された女性の友人で翻訳家。離婚して翻訳業の道に引き込んだはずが、その本人が結婚&海外移住することになり・・・ ⑦「清掃屋の社長」=今までの流れからやや離れたストーリーが展開される本編。新たに登場する人物たちが、実は殺人事件に大いに関係することになるのだが・・・。そろそろまとめに入ったな。 ⑧「民芸品屋の客」=最終段階になってなんでこんな話を盛り込んできたのか? まぁ「凶器」の問題なのは間違いないが。 ⑨「日本橋の刑事」=いよいよ解決編。加賀が殺人事件の謎を見事解き明かすわけだが、多分最初から分かってたんじゃないの? ラストもいい話に。 以上9編。 何だかとっても「いい話」です。日本橋・人形町という江戸情緒・江戸文化が生き残る街をまるで「ぶらり途中下車」のように加賀が歩き、人々と接していく・・・。 今まで割とシリアスな展開の多かった本シリーズとは明らかに一線を画した作品に仕上がってます。 まぁうまいよねぇ・・・。言うまでもないことですが、抜群のリーダビリテイです。 加賀のキャラってこんなだっけ? という気がしないでもないですが、読んで損のない作品でしょう。 ただ、今までのシリーズ作品より高評価はしにくいかな。 |
No.928 | 4点 | 愛人岬- 笹沢左保 | 2013/10/08 21:12 |
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1981年発表。作者一連の「岬シリーズ」の一作。
本作で何と200作目の長編という、作者にとって記念すべき作品(だそうです)。 ~丹後半島・犬ヶ岬の断崖で起きた連続殺人事件。被害者の男女の接点が見つからないまま有力な容疑者となったのは男の友人である水沼雄介だった。水沼の愛人・古手川香織は雄介の無実を証明するため鹿児島へ向かう。だが、そこで見つけたものは、香織を苦しめるある事実であった。アリバイ崩しの妙味と男女の哀切を見事に描ききった本格推理小説の傑作!~ ひとことで言うなら「二時間サスペンス」にぴったりの作品。 (悪い意味で・・・) 紹介文にあるとおり、ミステリー的な本作の肝は「アリバイ崩し」ほぼ一本。 しかも、『容疑者が密室に閉じ込められることでアリバイが成立している』という魅力的な設定なのだ。 こう書かれると、密室トリックとアリバイ崩しがどのように融合しているのか?と期待するのだが・・・ これが見事に裏切られることになる。 このトリックは頂けない・・・ 作者のトリックというと、「霧に溶ける」や「求婚の密室」のサプライズ感十分のトリックなどが思い出されるんだけど、これは正直なところ、トリックというよりも「勘違い」というべきだろう。 こんなあやふやでリスクの高い賭けをする真犯人の心情はかなりリアリティに欠けるのではないか。 あと、男女の絡みのシーンが余りに多すぎ! その描写力には感服するしかないけど、終章に至っても延々絡みのシーンが続くとさすがに辟易してきた。 ミステリー的には評価できない作品ということだろう。 |
No.927 | 6点 | プリズン・ストーリーズ- ジェフリー・アーチャー | 2013/09/29 20:15 |
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タイトルどおり、“監獄に入っていた”男たちの実話をベースにした作品集。
原題は“Cat O'Nine Tales”(九尾の猫)。作者のJ.アーチャーも収監された経験を持つことは有名。 (まさに、転んでもタダで起きない、作家魂あふれる作品) ①「自分の郵便局から盗んだ男」=商才あふれる夫婦が主人公。フィッシュ&チップスの店で成功を収めた夫婦が、ステップアップとして選んだのが郵便局の買収。それも見事に成功していたのだが・・・ ②「マエストロ」=大繁盛しているイタリアレストランなのだが、オーナーの男が手にしている収入が望外に少ないものだった。何か秘密が隠されているのか? ③「この水は飲めません」=ロシアにやってきたおしどり夫婦。しかし、それは仮の姿で、夫は妻を亡きものにするため、「水」に仕掛けを施す。男の作戦は成功したかと思われた矢先に・・・。何とも言えない皮肉というか、作者らしいきついオチが待ち受ける。 ④「もう十月」=十月がくると自ら進んで小さな犯罪を犯し、収監されることを望む男。この手の話は日本でもよく耳にするけど、やっぱり世界でも共通なんだね。 ⑤「ザ・レッド・キング」=“レッドキング”っていうと、どうしてもウルトラ怪獣を思い出してしまうが(古いか?)、当然全く関係なし。逸品のチェスの駒(キング)をめぐる詐欺がテーマなのだが、ちょっと分かりにくい。 ⑥「ソロモンの知恵」=なかなか結婚しなかった親友が連れてきた女性は、絶世の美女だがバツ2の女性。親友が突然大金を相続した直後、女性から離婚を言い渡されてしまう。離婚裁判の場でも女性の思惑通りに進むかと思われたが・・・最後に切り返しが! ⑦「この意味、分かるだろ」=何回捕まっても密輸に手を染めてしまう馬鹿な男。こんな男にもったいない商才のある妻。妻は夫の保釈金を支払いながらも、着実に会社を大きくしていくが・・・。男ってアホだね。 ⑧「慈善は家庭に始まる」=会計事務所に務める真面目だけが取り柄の男。繰り返しの人生のなかで出会ったひとりの女性と恋に落ちる。そして、これまでの会計士としての経験から、ある儲け話=犯罪を思いつくのだが・・・ ⑨「アリバイ」=ミステリーっぽいタイトルだけど、オチは正直よく呑み込めず。 ⑩「あるギリシャ悲劇」=ギリシャの海上に浮かぶ小島が本作の舞台。島民の父という存在の老人が大活躍(!?) ⑪「警察長官」=インド・ムンバイが舞台。あまり記憶に残らず。小品かな。 ⑫「あばたもえくぼ」=イタリアはローマが舞台。サッカー界の元英雄が一生のパートナーに選んだのは、何と体重100kgは超えるという何とも不釣合いな女性。そして、その女性が早逝し次に選んだのも・・・。要は“デブ専”ってこと? 以上12編。 ストーリーテラーとして定評のある作者。どの短編集もツイストの効いた「うまい」作品が並んでいるだけに、今回も安定感十分な短編を期待していたのだが・・・ 今まで読んだ作品よりは一枚落ちるなというのが正直な感想かな。 クライムノベルとしても、ちょっと小品という感じだし、ミステリーとしての観点からすると高評価はちょっと難しい。 (私的ベストは③。⑥や⑦もまずまず。) |
No.926 | 4点 | トリック・シアター- 遠藤武文 | 2013/09/29 20:13 |
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「プリズン・トリック」で第55回江戸川乱歩賞を受賞した作者。受賞後の最初の長編が本作。
前作に続いて、読者を驚かすトリック&プロットに拘った作品に仕上がっているか? ~同日同時刻、500キロメートル離れた東京と奈良で起こった二つの「殺人」。容疑者として浮上したのは同一人物だった。謎を追う刑事たちの前に、今度は閉鎖病棟での密室殺人が発生。三つの事件がつながり、驚愕の真実が明らかになる! 乱歩賞受賞作を超えた作者渾身の長編ミステリー第二弾~ 何とも荒削りな作品だ。 他の方の書評では「詰め込みすぎ」という言葉がよく出てくるが、それよりも作者の狙いというか、書きたいことが分散しすぎて結局最後までよく分からないまま終わってしまった、という感じ。 前作「プリズン・トリック」でも、ラストの大技一本勝負という感じで、中盤は破綻して穴だらけという評価だったのだが、本作でもその辺りはあまり改善されなかったようだ。 ①同じ時間に殺された二人の容疑者が同一人物=アリバイ崩し、②閉鎖病棟での殺人=密室。 ミステリー的にはこの二つが本作の大きな「肝」となるはずだったのだろうけど、正直なとこ途中からそんなことそっちのけで公安絡みの社会派を思わせるような動機探しがメインとなってしまう。 結局、①②とも常識的な線で解決が付けられ、タイトル的に本格ミステリーっぽいガチガチの仕掛けを期待した分、肩透かしをくらったような脱力感を味わってしまった。 ラストもなぁ、衝撃的ではあったが、何だか救いのない気分・・・。 作者が注力しただろう「事件の背景、構図」についても、登場人物の書き込み不足が響いてちょっとリアリティに欠けるのが痛い。 主役級の安孫子警視正をはじめ、捜査陣となる刑事を大勢登場させ過ぎたのも失敗かな。 ってことで、ネガティブな感想ばかり書いてしまいましたが、作者の筆が持つエネルギーというか情熱みたいなものは感じさせてもらった。 それが救い。 |