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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1845件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.965 6点 戦士たちの挽歌- フレデリック・フォーサイス 2014/01/12 23:22
角川文庫で編まれたF.フォーサイスの作品集一作目。
すべて結末の意外性が存分に楽しめる三篇で構成。

①「戦士たちの挽歌」=ロンドンの街中で発生した撲殺事件。被疑者は無抵抗の被害者を二人がかりで殴り殺したのだが、被害者の身元がなかなか判明せず・・・。終盤、辣腕弁護士の手に掛かり、被疑者が無罪放免される展開の後に、意外な結末が用意されている。タイトルの意味はラストまで読み終えると納得。
②「競売者のゲーム」=本編の舞台は絵画を中心とするオークション会社。貧乏な役者が換金のために持ち込んだ古びた絵画が思わう波紋を呼び起こす・・・。序盤に嵌められたオークション会社社員が、嵌めた男に復讐を果たすというのが本筋なのだが、なかなか軽快なコン・ゲーム風に書かれていて面白い作品に仕上がっている。良作。
③「奇蹟の値段」=物語の舞台はイタリアの都市・シエナ。第二次世界大戦中の野戦病院で、多くの入院患者に対して奇跡を起こしてきたひとりの看護婦とドイツ軍医師。この二人にはどのような秘密があったのか? というプロットなのだが、ラストには思わぬ“引っ掛け(肩透かし?)”が待ち受ける。でも、ちょっと分かりにくい展開。

以上3編。
著名作「ジャッカルの日」以来、久々にフォーサイス作品を読了。しかも短篇。
感想としては、マズマズの面白さという感じかな。
最初に触れたとおり、三作とも終盤からラストに捻りが効いていて、さすがに達者だなという気にはさせられる。
ただ、迫力というか重厚感という観点から見ると、やはり長編でこそという作家なのかもしれない。

評価としては水準+αということに落ち着く。
(順位を付けるなら②>①>③ということになりそう)

No.964 7点 ひまわりの祝祭- 藤原伊織 2014/01/12 23:21
乱歩賞&直木賞ダブル受賞のデビュー作「テロリストのパラソル」に続く第二長編がコレ。
1997年発表。いかにも藤原伊織らしい雰囲気のある作品。

~自殺した妻は妊娠を隠していた。何年か経ち、彼女にそっくりな女と出会った秋山だが、突然まわりが騒々しくなる。ヤクザ、闇の大物、昔働いていた会社のスポンサー筋などの影がちらつくなか、キーワードはゴッホの「ひまわり」だと気付くが・・・。名作「テロリストのパラソル」を凌ぐ、ハードボイルドミステリーの傑作~

これぞ“伊織流ハードボイルド”とでも言いたくなる・・・そんな作品。
「テロリストのパラソル」にしても「てのひらの闇」にしても「シリウスの道」にしても、作者の作品には何とも言えない“匂い”があるのだ。
どの作品にも、必ず過去を背負った影のある主人公(男性)が登場する。
主人公は表の世界に背を向けたような生活を送っているのだが、ちょっとしたことから事件に遭遇し、徐々にその大きな渦に巻き込まれていく・・・

これを「ワンパターン」と呼ぶのはたやすいのだが、それでも引き込まれてしまう。
まるで花の蜜に誘われるミツバチのように・・・
本作の主人公は高校時代、天才的な絵の才能を見せていたグラフィックデザイナー。
彼が、ゴッホの幻の「ひまわり」を軸とした事件に巻き込まれていく。
過去に触れ合っていた知人たち、そして事件の渦中で知り合った人たち・・・
その登場人物ひとりひとりが魅力的な役割を与えられているかのように、ドラマを彩っていくのだ。

なんだかミステリーの書評っぽくないけど、こんな感想になってしまった。
とにかく早逝が惜しまれる作者。これで、長編作品はすべて読んだことになるのが・・・それが何とも切ない。
まだまだ新作が読みたくなる、そんな作者&作品だった。
(確かに「テロリストの・・・」よりこちらの方が良いと思う・・・)

No.963 5点 ダブルダウン- 岡嶋二人 2014/01/12 23:20
1987年発表。
21編ある作者の長編のうち14番目に発表された作品に当たる本作。

~ボクシング、フライ級の四回戦。対戦中のボクサー二人が、青酸中毒で相次いで倒れ死亡した。雑誌編集者の福永麻沙美は、記者の中江聡介、ボクシング評論家の八田芳樹と真相を追い詰める。衆人環視の二重殺人のトリックとは? 二転三転する事件の陰に巧妙に身を隠す意外な真犯人とは? 傑作長編ミステリー~

提起される謎はかなり魅力的。
ただし、これはちょっとプロット倒れかなと思わせる・・・そんな作品。
作者の作品では警察官や私立探偵ではなく、完全な素人が「探偵役」となる場合が殆どだと思うが、本作でもそれは当て嵌る。
「探偵役」の能力不足という前提のためか、とにかく終盤に入るまでは事件そのものの輪郭ですら掴めない状況が続く。
被害者の周りで怪しい人物がつぎつぎと浮かんでいくのだが、その人物の白黒がつく前に新たな材料が提示され、読者としても何だか落ち着かない感じになってしまう。

中盤までのモタモタ感を一掃するかのように、終盤は一気に進んでいくのだが、これはスピード感があっていいというよりは、とにかく帳尻合わせました・・・というような感じ。
真犯人は意外性もあっていいのだが、こんな偶然の連続のような動機では、本格ミステリーとしてはどうかなと思わされた。
せっかく魅力的な舞台設定なんだし、もう少しプロットを煮詰めてからの方が良かった。
(その辺りは、作者のエッセイにも書かれているらしいが・・・)

ボクシングを題材にした作者の作品は他に「タイトルマッチ」があるが、作者の作品としてはどちらもそれほど成功しているとは言い難い。
ミステリーとボクシングでは相性が良くないということなのかな?
(この時代、BMWはまだ珍しかったんだろうか?)

No.962 6点 マドンナ- 奥田英朗 2014/01/05 15:11
直木賞作家である作者が贈る中間管理職サラリーマンへの応援歌(書?)的作品。
上司のこと、父親のこと、夫のことを知りたいあなたにもお勧めの一冊。

①「マドンナ」=妄想癖のある大手企業の課長が主役(もちろん妻子持ち)。ある日、人事異動でやって来た可愛いくて上品な女性部下に恋してしまう。年甲斐もなく、部下の若手社員と張り合ってまで女性の気を引こうとするのだが・・・。その気持ちはたいへんよーく分かるよ!!
②「ダンス」=一人息子が大学にも行かず、進路として選んだのが“ダンサー”(!) 当然父親としては反対するのだが・・・。そして、職場では組織に与しない同期の課長の扱いに困って・・・。その気持ちはよーく分かるよ!!
③「総務は女房」=エリートとして営業の第一線で活躍してきた男。組織を知るために、二年間という期限付きで配属されたのは総務部。そして、そこでは今までの価値観を壊されるような出来事が相次ぎ起こる・・・。
④「ボス」=自分が昇進すると思っていた部長職へ抜擢されたのは、中途採用の才媛として名高い女性上司(ボス)だった! そして、そのボスは従来の体育会系的慣習を次々破るような社内ルールを打ち出していく・・・。主人公の中年男性課長の立場は如何に!? っていう粗筋なんだけど、これも何か分かるなぁ・・・。こういう人が上司になるととりあえず困ってしまうよなぁ・・・
⑤「パティオ」=湾岸沿いの再開発地区。開発時の思惑は外れ、なかなか人が集まってこない。主人公の課長を始めとするプロジェクトチームは、集客を目指すべく様々なプランを出していくが・・・。男性が出会うひとりの老人がかなりいい味出してるし、実父との関係は身につまされる。

以上5編。
まず、本作は100%ミステリーではありません。
よって評点はこんなもんですが、とにかく「中年サラリーマン」、特に『中間管理職』にとっては、実によく分かる、実に身につまされる内容の連続。
「そうだよなぁー」とか、「分かるわー」と読みながら何度思ったことか!!
さすがのストーリーテラー振りとしか言いようがない。
上司には責められ、部下には突き上げられ、家に帰れば妻に虐げられる・・・。もう少し「中間管理職を大事にしてくれ!」と思わず声に出して言いたくなってしまった・・・
(①~④ももちろん面白いのだが、個人的ベストは⑤だな。割と静かな作品だけどそれがいい)

No.961 7点 ブラック・ハート- マイクル・コナリー 2014/01/05 15:10
「ナイト・ホークス」「ブラック・アイス」に続くハリウッド署・ボッシュ刑事シリーズの三作目がコレ。
過去に自らが引き起こした被疑者銃殺事件に基づき、被告として法廷に立たされることになったボッシュ。
彼はどのようにピンチを乗り切るのか??

~11人もの女性をレイプして殺した挙句、死に顔に化粧を施すことから、“ドールメイカー(人形造り師)”事件と呼ばれた殺人事件から四年・・・。犯人逮捕の際、ボッシュは容疑者を発砲、殺害したが、彼の妻は夫が無実だったとボッシュを告訴した。ところが裁判開始のその日の朝、警察に真犯人を名乗る男のメモが投入される。そして新たにコンクリート詰めにされたブロンド美女の死体が発見された。その手口はドールメイカー事件とまったく同じもの。やはり真犯人は別にいたのか? 人気のハードボイルドシリーズ第三弾~

本シリーズはどの作品も水準以上の面白さだ。
一作目から三作目まで読んでも、その感想は変わらない。
紹介文のとおり、本作の特徴は過去の事件と現在の事件がクロスし、シンクロしながら進行していくことにある。
刑事として自信を持って逮捕した男の妻から訴えられ、しかも相手は辣腕の女性弁護士。こちらの弁護士は頼りにならない二流弁護士・・・。
女性弁護士の罠にはまり、法廷で窮地に陥る・・・というのが中盤までの概要。

そして、後半以降はギアが変わり、一気にスピードアップ。
思わぬ人物までもが“ドールメイカー”の毒牙にかかってしまう事件を経て、終局へなだれ込む。
さらに、終盤では本シリーズではお馴染みの「ドンデン返し」或いは「サプライズ」が待ち構えていて、思わず唸らされることになる。
特に本作の真犯人はかなり意外な人物だ(ネタばれ?)。

もちろん本格ミステリーではないから、読者が推理を楽しめるというわけではないが、ここまで読者を楽しませてくれる要素があれば十分。
ボッシュと前作で知り合った恋人のシルヴィアとの大人のラブストーリーもいい具合に絡めていて、その辺りも物語に華を添えている。
というわけで万人にお勧めできる良作という評価。
(巻末解説では評論家の吉野氏が作者のチャンドラーへの敬愛振りに触れている。なる程ね・・・)

No.960 6点 追憶の殺意- 中町信 2014/01/05 15:09
2014年明けましておめでとうございます。(ちょっと遅くなりましたが・・・)
というわけで、本年一発目に何を読もうかと、書店をぶらつきながら手に取ったのが本作だったという次第。
今回読了したのは東京創元社より「追憶の殺意」のタイトルで新たに刊行されたものだが、実際は1980年に発表された「自動車教習所殺人事件」を底本とし改題したもの。

~年も押し詰まったある日、埼玉県岩槻市の土手で自動車教習所の配車係が死体で発見された。男には職場の同僚と悪質なギャンブルを行っていた疑いが浮上する。そして年が改まった途端、教習所の技能主任が密室状況下で撲殺される。さらに指導員の男が自宅マンションのマイカーのなかで殺されていた! 自動車教習所へ通う教習生と指導員・・・その絡み合いの中からあぶりだされる複雑な人間関係。やがて捜査線上に浮かんだ容疑者には鉄壁のアリバイがあった!~

まず自動車教習所という舞台設定が珍しい。
教習所に通ったのはかれこれ十年以上も前だが、教官と生徒が免許証取得をめぐって愛憎渦巻く・・・なんて想像できないし、ましてや殺人事件の舞台としてはあまり似つかわしくないような気がした。
(時代性の違いかもしれないが)

で、本筋だが、他の方の書評にもあるとおり、既刊の「○○の殺意」シリーズと違い、本作は叙述系トリックは一切なし。アリバイ&密室トリックをメインとした古いタイプの本格ミステリーで、確かに鮎川哲也の鬼貫警部ものと似た風合いの作品。
特にアリバイトリックはよく練られており、鮎川のように鉄道トリック一本槍ではなく、鉄道に自動車を絡めた結構複雑なトリックに仕上がっている。
ただし、密室トリックもそうだが、伏線が割とあからさまなところが玉に瑕で、フーダニットやハウダニットの醍醐味はあまり感じられなかった。
この辺りはデビューして間もない頃の作品ということなのだろう。

オーソドックスなミステリーをという方なら安心して読める作品ということになるが、作者らしい切れ味鋭い変化球ミステリーを求める読者にとってはちょっと物足りない作品。
本年一発目の読書としてはちょっと不発だったかな・・・
(今年はできれば「量」より「質」を重視した読書をしたいものだけど・・・結局乱読になってしまうのかな?)

No.959 7点 スターヴェルの悲劇- F・W・クロフツ 2013/12/29 21:48
1927年発表の長編。
フレンチ警部ものとしては「フレンチ警部最大の事件」などに続く三作目に当たる作品。

~ヨークシャーの荒野に建つ陰気なスターヴェル屋敷が一夜にして焼け落ち、当主と召使夫婦の三人が焼死した。当主の姪である若く美しい娘の旅行中の出来事で出火原因は不明。金庫の中に溜め込んだ莫大な量の紙幣も灰となった。だが、この火災に疑問を抱き、犯罪の匂いを嗅ぎとった銀行支配人の発言をきっかけに、フレンチ警部の捜査が開始される。事故だったのか、それとも殺人・放火といった忌まわしい犯罪が行われたのか。捜査が進むにつれ、残忍な犯罪者の邪な企みが浮かび上がることに!~

実にクロフツらしい「堅実&堅確」な作品。
フレンチ警部のキャラクター同様、生真面目で着実なミステリーに仕上がっている。
作品としての骨組みは「フレンチ警部最大の事件」などとよく似ていて、フレンチの捜査が進展した中盤過ぎには、事件の概要はつかめるのだが、ラストにミステリーらしいドンデン返しが待ち受けている。

クロフツといえば「マギル卿最後の旅」に代表される「アリバイ崩し」が頭に浮かぶが、本作ではそういう要素は殆どなく、専らフーダニットに拘ったプロット。
○れ○りを使ったミステリーは洋の東西問わず古典作品に多いので、気の利いた読者ならラストのサプライズは読みやすい手筋なのかもしれない。
もっとも、本作の場合、フレンチ自身が最後の最後まで真犯人を誤認しており、真犯人に気付いたのもちょっとした偶然からというのが珍しい。
(そういう意味では、読者が作中の探偵よりも先を越せるというレアな作品とも言えるなぁ)

とにかくクロフツが好きという(私のような)読者であれば、満足できる作品だろう。
ただし、他作品より優れているかいうと、それほどでもないという感じで、作者としては「中の上」という評価。
(主席警部昇進に対するフレンチの功名心がそこかしこに書かれており、フレンチの“若さ”が感じられる)

No.958 6点 ビブリア古書堂の事件手帖4- 三上延 2013/12/29 21:46
月9ドラマはイマイチ不調に終わった大人気ビブリオ・ミステリーシリーズの第四弾。
今回はシリーズ初の長編となっているのが興味深いのだが・・・

~珍しい古書に関する特別な相談・・・謎めいた依頼にビブリア古書堂の二人は鎌倉の雪ノ下へ向かう。その家には驚くべきものが待っていた。稀代の探偵、推理小説作家江戸川乱歩の膨大なコレクション。それを譲る代わりにある人物が残してくれた精巧な金庫を開けて欲しいという。金庫の謎には乱歩作品を取り巻く人々の数奇な人生が絡んでいた。そして、深まる謎はあの人物までも引き寄せる。美しき女店主とその母、謎解きは二人の知恵比べの様相を呈してくるのだが・・・~

とにかく「乱歩、乱歩、乱歩」にまみれた作品。
全三章のタイトルが、「孤島の鬼」「少年探偵団」「押絵と旅する男」。その他、「二銭銅貨」や「人間椅子」、「D坂の殺人事件」などなど、作中には乱歩の有名作品に関する薀蓄が満載。
それだけでもミステリー好きには堪らないかもしれない。
なかでも「押絵と旅する男」については、本筋の暗号を解く鍵となっており、作者の好みが伺える。

それはいいのだが、肝心の謎解き部分については、やや消化不良気味かなという気がした。
「二銭銅貨」のオマージュともいえる暗号もパンチ不足。
ラストにはミステリーらしい“ある仕掛け”が判明し、そこについては「へぇー」と思わされることになる。

まぁシリーズものだから、ずーと同じクオリティというわけにはいかないだろうし、本作では栞子さんと母親、栞子さんと五浦の関係がそれぞれ進展し、次作以降の展開に期待が持てるのが救いかな。
でもビブリオミステリーはやっぱり短篇でこそという世評には賛成。
(未読の乱歩作品も多いので、徐々に手を広げてみようかなという気にさせられた・・・)

No.957 5点 長い廊下がある家- 有栖川有栖 2013/12/29 21:45
2010年光文社より発表された作品集。
もうお馴染み、“火村准教授&作家アリス”コンビが活躍する作者の看板シリーズ。

①「長い廊下がある家」=タイトルどおり、長~い地下廊下のある廃屋という特殊設定下で起こった殺人事件がテーマ。廊下の真ん中にドアがあり、死体はアリバイに守られた密室状況にある・・・っていうといかにもミステリーっぽくてワクワクするが、真相は十分に予想の範囲内に収まる。
②「雪と金婚式」=これもタイトルから想起されるとおり、ある種の「雪密室」に関わる事件。これも密室+アリバイがプロットとなっているが、仕掛けはかなり陳腐ではないか? 要は思い付きっていう気がした。
③「天空の眼」=これはシリーズとしては非常に珍しい作品。何が珍しいかというと、火村の手を借りず、アリスが事件を解くという点・・・。ただそれに尽きるのだが。
④「ロジカル・デス・ゲーム」=これはミステリー作家・有栖川有栖の面目躍如というべき一篇かな。文庫版の巻末解説で杉江松恋氏が「スイス時計の謎」に匹敵する名作と褒めているが、それは言い過ぎとしても、プロットとしては面白い。

以上4編。
本シリーズについては、前々から個人的には評価していないと書いてきたが、
本作に関しても、良く言えば「安定感たっぷりの人気シリーズ」ということになるが、悪く言えば「そこそこの水準」ということになる。

まぁでも、この安定感こそが作者のストロングポイントなのだろう。
編集側も依頼すればそこそこのレベルの作品を書いてくれる・・・っていう安心感があるのかも。
そんなことを感じさせられた。
ということで「水準級」という評価に落ち着く。
(ベストは間違いなく④だろう。あとは・・・そこそこ)

No.956 5点 疑心- 今野敏 2013/12/23 21:26
日本推理作家協会賞受賞作「果断」に続く『隠蔽捜査』シリーズの長編第三弾。
警視庁が誇るキャリア竜崎伸也が新たな一面を見せる・・・。

~アメリカ大統領の訪日が決定。大森署署長・竜崎伸也警視長は、羽田空港を含む第二方面警備本部本部長に抜擢された。やがて日本人がテロを企図しているという情報が本部に入り、その双肩に更なる重責がのしかかる。米シークレットサービスとの摩擦、そして臨時に補佐を務める美しい女性キャリア・畠山美奈子へ抱いてしまった狂おしい恋心。竜崎はこの難局をいかにして乗り切るのか?~

竜崎伸也も普通の人間だった!
これが本作のテーマなのだろうか。
とにかく本作のポイントは、竜崎が畠山美奈子に対して狂おしいほどの恋心を抱いてしまうことに尽きる。
シリーズ第一作(「隠蔽捜査」)で、その強烈なキャラクターを披露した竜崎。
息子が引き起こした事件の責任を取り、所轄署長へ降格させられても、その理性的かつ効率的な思考に変化はなかったのだが・・・
いやぁー、やっぱり女って恐ろしい。
今回、美奈子側からの視点は全くなかったので、読者としては、まるで初恋に悩む竜崎の苦悩をひたすら読まされることになる。
(これが苦痛っていうか、“イタイ”と感じると本作に対する評価は下がるのかもね)

ただ、個人的にはそういう恋のゴタゴタは置いといても、肝心なテロ事件がちょっと陳腐に思えてしまった。
これは前作「果断」でも感じたことだが、警察小説として警察内部の丁々発止のやり取りがメインなのは分かるが、ミステリーとしての本筋がちょっとイタダけないというのはどうなのかな?
本作もかなりご都合主義的に描かれていて、これでは竜崎のキャラの価値も半減ということになりかねない。

ということで世間的な評価よりは厳しい評価になってしまうのだ。
作者の作品は映像向きなんだろうと思う。
(畠山美奈子を映像化するとどうなのかな? でも、職場にこういう女性がいたら、絶対気になるだろうなぁ・・・絶対!)

No.955 5点 黒後家蜘蛛の会5- アイザック・アシモフ 2013/12/23 21:22
いつものメンバーがまたまた集まり、ゲストを交えて喧々諤々推理合戦を行う。ただし、いつも真相を見抜くのは給仕のヘンリー・・・。
安楽椅子型探偵の人気シリーズもついに五作目に突入。

①「同音異義」=こういう「言葉あそび」のような作品は、本シリーズでのお馴染み。日本語に劣らず英語にも同音異義語(rightとwrightなど・・・)は多いけど、これは相変わらず日本人には推理が難しい。
②「目の付けどころ」=師匠の大学教授が示唆したたった一つの元素はなにか、というのが本編の謎。相変わらずメンバーがああでもない、こうでもないと(無駄な)推理をするのだが、結局ヘンリーの“鶴の一声”で決定。
③「幸運のお守り」=衆人環視のなかでの“お守り”消失事件が今回のテーマ。ある人物が持っているハンドバックが謎を解く鍵となるのだが・・・これは現場で気づきそうなものだけど・・・
④「三重の悪魔」=②と同ベクトルのプロット。本編では元素ではなく古書が対象物。お世話になったある人物が示唆した高価な書物はなにかということで、これも古典作品に通じてないと??ということになりそう。
⑤「水上の夕映え」=これも②④と同傾向。これまでのシリーズ作でもたびたび登場したアメリカの地名に関わる謎。“第四の海”足る存在って、普通に考えれば思いつきそうだけど・・・(これはすぐに分かった)。
⑥「待てど暮らせど」=これは・・・ある意味子供だましのようなレベル。こんなネタで本出したらマズイだろう、ってもしかしてギャグかな?
⑦「ひったくり」=文字どおり「ひったくり」事件に端を発する事件。ただし、ひったくられたバックの中身は本人へそのまま返され、なぜかバックだけが帰ってこなかった・・・、っていう謎。まぁ、真相は腰砕け気味。
⑧「静かな場所」=あるホテルで知り合った通称“ダーク・ホース”という人物に教えてもらったとっておきの「静かな場所」。それが思い出せず、そして“ダーク・ホース”なる人物と是非連絡が取りたいのだが・・・というテーマ。ヘンリーの解は・・・こじつけじゃねえの?
⑨「四葉のクローバー」=これも②や④と同趣向(クドイね)。要は「四葉のクローバー」が何を意味するのかを考え、当てればよいのだが・・・。これはまずまず説得力あり。
⑩「封筒」=中身よりも封筒が失くなったのが問題・・・っていうお話。これも同傾向だな。
⑪「アリバイ」=これはタイトルどおり、アリバイトリックが主題となる一篇。なのだが、ヘンリーがアリバイトリックを見破るきっかけとなった伏線が実に陳腐。
⑫「秘伝」=作中にデイクスン・カーを引き合いに出し、「密室トリック」に焦点を当てたのが本編。ただし、殺人事件ではなくレシピの消失事件というのがいかにも本シリーズらしい。

以上12編。
もうここまでくれば、同じようなネタの焼き直し作品が目立つ。
さすがにネタ切れだったんだろうな。
まぁでも、本作単独であればそこそこ楽しめるかもしれない。それだけの質は整えられている(と思う)。
(特にこれがよいという作品はなかったなぁ・・・。ほぼどれも同レベル。)

No.954 7点 眼の壁- 松本清張 2013/12/23 21:21
1958年、作者の代表作ともいえる「点と線」と同時期に雑誌連載、そして刊行されたのが本作。
『社会派』と称される作者らしい作品。

~白昼の銀行を舞台に、巧妙に仕組まれた三千万円の手形詐欺。責任を一身に背負って自殺した会計課長の厚い信任を得ていた萩崎は、学生時代の友人である新聞記者の応援を得て必死に手掛かりを探る。二人は事件の背後にうごめく巨大な組織悪に徒手空拳で立ち向かうが、せっかくの手掛かりは次々に消え去ってしまう・・・。複雑怪奇な現代社会の悪の実態を暴き、鬼気迫る追及が展開する~

謎解きとサスペンスが程良く混ざり合った良質なミステリー。
そんな読後感。
紹介文のとおり、物語の始まりは銀行を舞台とした詐欺事件・・・って書くと、まるで「池井戸潤」辺りを先取りしたようにも思える。
主人公が詐欺事件を探るうちに、背後にある巨悪に巻き込まれていくという展開もまさにそんな感じだ。
脇筋の話が徐々に本筋に収斂されていくプロットも現代的でリーダビリティも十分。

「謎解き」の部分でいうと、黒幕については序盤からほぼ察しがつくものの、ラストで真犯人の正体にサプライズが仕掛けられているところがミステリー作家としての真骨頂。
(事件の背景がいかにも戦後の傷跡残る日本っていう感じだ)
死体消失についても味のあるひと捻りが加えられていて、好感が持てる。
サスペンス感については、もう少し盛り上がりがあってもいいような気はしたが、時代性を考えれば仕方ないかなというレベル。

ただし、本作ではそれほど社会派としての動機面での掘り下げは感じられなかった。
どちらかというと、エンターテイメントに徹した作品ということでいいのだろう。
そういう意味では清張らしい重厚な作品を期待する方にはやや肩透かしに思えるかもしれない。
(ラスト前のシーンは残酷っていうか、ライダーマンの腕を思い出した・・・って古いね)

個人的には同時期に発表された「点と線」に引けを取らない作品という評価。
決して古臭くない良作だと思う。
(もちろんミステリーとしてのアラはいろいろあるのだが・・・)

No.953 6点 殺人症候群- リチャード・ニーリィ 2013/12/15 11:50
原題“The Walter Syndrome”。
1970年に発表された、「心引き裂かれて」に並ぶ作者の代表作。

~生来内気で、仕事にも女性にも引っ込み思案のランバート。すべてにおいて積極的で自信に満ち溢れたチャールズ。対照的な二人の男を結びつけたのは、凄まじいまでの女性への憎悪だった。ランバートを愚弄した女性を殺害したチャールズは、やがて「死刑執行人」と名乗る残虐で大胆な連続殺人犯へと変貌していく・・・。殺人犯の歪な心理のリアルな描写と衝撃の結末。鬼才ニーリィーによるサイコ・サスペンスの傑作!~

発表当時は非常に斬新なプロットだったんだろうなぁと思わせる。
巻末解説で評論家の千街氏がサイコ・サスペンスの由来・歴史について語られているが(今回、角川文庫版で読了)、同種のミステリーが隆盛を極める以前の作品であり、もしこの頃本作に触れていれば、相当な衝撃だったと感じる。
ただし、多くの方がご指摘のとおり、サイコに叙述トリックの組み合わせというのは、正直今となっては“ありきたり”のプロットになってしまった。
ラストに判明する叙述トリックも、中盤に差し掛かる辺りで大凡の検討がついてしまったなぁ。

あと気になったのは、中盤のまだるっこしさ。
猟奇的な連続殺人が描かれ、本来ならサスペンス感が徐々に盛り上がってくるべきなんだろうけど、あまりそんな感覚にはならなかった・・・(訳のせいかもしれないが)。
この辺がうまくいっていたら、作者に対する評価ももう少し上がっていたのかもしれない。
(折原なら、しつこいくらいに読者を煽る表現を入れてくるに違いない)

サイコ・サスペンスといえば「羊たちの沈黙」の発表以降、市民権を勝ち得ることになるのだが、個人的にはやや好みから外れているジャンルと今回改めて感じた。
ニーリィーでいえば、「心引き裂かれて」の方が衝撃度で数段上という評価になってしまう。
まぁ、読む順序の問題が大きいのかもしれないが・・・

No.952 6点 天に還る舟 - 小島正樹 2013/12/15 11:49
2005年に発表された本格長編ミステリー。
大御所・島田荘司と“島田チルドレン”小島正樹の共著という斬新なスタイルが話題となった本作。

~昭和58年12月。『火刑都市』事件の捜査を終えた警視庁捜査一課の中村刑事は休暇をとり、妻の実家のある埼玉県秩父市に帰省していた。そこで中村はひとつの事件に遭遇する。地元警察は自殺と判断した死体。これに不審を抱いた中村は独自に捜査を開始する。その直後に発生する第二の殺人! そして事件は連続殺人事件へと発展していく・・・。多くの遺留品、意味的な殺害方法。多くの謎の裏に隠された驚愕の真相に中村が挑む!~

読み終わった感想を一言で表現するなら、“もうひとつの『奇想、天を動かす』”とでもなるだろうか。
ふたりの共著ということになってはいるが、大掛かりな物理トリックや遠大な殺害動機など、ミステリーとしての作風はまさに「島田荘司」そのもの。
島荘ファンとしては、御手洗や吉敷ではなく(吉敷はちょっとだけ登場するが)、中村刑事を探偵役としてチョイスしてくれたのがうれしい限り。
(同じく中村が主役級として事件を解明する『火刑都市』が個人的にもスゴイ好きな作品でもあるので・・・)
また、その後の小島作品に探偵役として登場する海老原も準主役として、中村とコンビを組み、鋭い推理力を披露するのもファンサービスに溢れた仕掛け。

さて、本筋の連続殺人事件だが、相変わらずの豪腕振り。
あらゆる道具を駆使した物理トリックもスゴイのだが、それよりもフーダニットに凝らされた仕掛けの方が読みどころか。
まぁ悪く言えば、ご都合主義的な偶然の連続と無理筋のオンパレードということになるのかもしれないが、こういうことを主張する方にはそもそも島荘ワールドを楽しむことは無理なのだろうと思う。
正直、「ここまでするか?」とは思うのだが、これを支えるのが「遠大かつ歴史的な動機」ということになる。
これについてはあまり語りたくないのだが、日本人として生まれながらに背負っている“業”または“十字架”ということになるのだろうと思う。

ここまで褒めてはきたが、「奇想・・・」や「北の夕鶴」で感じたほどの衝撃やサプライズには程遠いというのが本音。
それが島荘の経年劣化に起因しているのか、小島の未熟さに起因しているのかは不明だが、過去の秀作とはやはり差のついた評点になるのは致し方ないかな。
(作品としての熱量はスゴイのだが・・・)

No.951 7点 叫びと祈り- 梓崎優 2013/12/15 11:48
~選考委員を驚嘆させた第五回ミステリーズ新人賞受賞作「砂漠を走る船の道」を巻頭に据え、美しいラストまで突き進む驚異の連作推理。「週刊文春ミステリーベストテン国内部門第二位をはじめ、各種ミステリーランキングの上位を席巻、本屋大賞にまでもノミネートされるなど破格の評価を受けた大型新人のデビュー作~

①「砂漠を走る船の道」=舞台はアフリカ大陸に跨る砂漠。“砂漠の船”足るラクダとともに貴重な塩を運ぶ隊商たち。彼らのなかで巻き起こる連続殺人(?)事件が本編の謎。とにかく美しい! そして何より殺人に至る動機が驚きの一言。
②「白い巨人」=舞台はスペインの小都市。その昔、イスラム教に征服された街。街の名物ともいえる巨大な風車を舞台に起こる人間消失が本編の謎。探偵役の斉木が解明した真相はかなり本質的なものだが・・・。これも美しい風景が目に浮かぶ。
③「凍れるルーシー」=舞台はロシア。ロシア正教会に属する修道院。そこで“聖人”と呼ばれるリザベーダという存在。柩の中に眠る彼女はまるで昨日今日死んだばかりの如く新鮮な姿だという・・・。トリックは実にミステリーっぽいというか、このトリックだけ取り出すと、なんだか薄っぺらく見えてしまうのだが、これはもう舞台設定の勝利だろう。
④「叫び」=舞台はアマゾンの熱帯雨林地方にある少数民族の村。突然村に発生した驚異の伝染病(エボラ出血熱)。伝染病に犯されてない住民までも喉をナイフでかき切られた姿で発見されてしまう・・・。まるでパニック小説のような展開なのだが、ラストは若干消化不良気味かも。
⑤「祈り」=①~④をまとめるのが本編。連作短篇としてはこういう趣向がある方が望ましいのだが、サプライズとしてはやや小粒。ちょっときれいにまとめすぎたのかもね。

以上5編。
以前から評判となっていた本作がようやく文庫化され、早速購入&読了。
すべての作品に登場する雑誌記者(或いは調査員?)の斉木を主人公&探偵役とした連作短篇集の体裁をとっている。
どちらかというと“ホワイダニット”に拘った作品が並んでいる印象。

大方の評判どおり、新人としては異例ともいえる完成度。
独自の世界観やスケールの大きさ、美しい筆致など、褒めるべきところは枚挙に暇がないほど。
ただ、これはもう個人的な好みの問題だが、ミステリーとしての“詰め込み具合”にやや不満あり、という感じ。
作家としての力量や潜在能力は十分だと思われるので、今後の作品に期待したい。
(ベストはやはり①。とにかく動機にビックリ。③も良質)

No.950 5点 剣の八- ジョン・ディクスン・カー 2013/12/05 21:55
1934年発表の長編作品。
フェル博士ものとしては、「魔女の隠れ家」「帽子収集狂殺人事件」に続く三作目という位置付けとなる。

~幽霊屋敷に宿泊中の主教が奇行を繰り返すという訴えがあった。主教は手摺りを滑り降りたり、メイドの髪の毛を掴んだり・・・。さらに彼はとてつもない犯罪がこれから起こると言っているらしい。警察はその言葉を信じていなかったが、主教の言葉を裏付けるように隣家の鍵のかかった部屋で射殺死体が発見される。そして死体の側には一枚の不吉なタロットカードが! 続出する不可解な謎にギデオン・フェル博士が挑む~

確かに世評通り“中途半端”な作品だ。
紹介文を読んでると、いつもの怪奇趣味や密室をはじめとする不可能趣味など、カーらしいギミック溢れる作品ではないかと期待してしまうのだが、そのどれもが切れ味に欠けている。
冒頭からポルターガイストが出現するという突飛な謎が提示されるのだが、その真相は実に腰砕け。
密室っぽい現場は密室ではなく、足跡の謎もうやむやのまま進んでしまう・・・

唯一、被害者側の行動にミステリーっぽい仕掛けが凝らされているのが救い。
これがフェル博士によりロジカルに解き明かされるあたりが、本作随一の見せ場かもしれない。
(これが何と序盤に終わってしまうのだが)
フーダニットについては、一応意外性はあるのだが、人物の書き分けが十分でないせいか、読んでて今ひとつピンとこないというのが本音のところ。
(「被害者の代わりに犯人が夕食をとった」理由というのが面白いのだが・・・)

まぁ駄作だろうなぁ。
巻末解説で解説者の霞流一氏が、同時期に発表されたA.バークリー「毒チョコ」を引き合いにして「探偵がいっぱい趣向」について書かれているが、それも成功しているとは言い難い。
評点は甘めに付けてもこんなものかな。
(「剣の八」とはタロットカードの絵柄のこと。トランプでいうならスペードの8ということかな?)

No.949 8点 私が殺した少女- 原尞 2013/12/05 21:54
ついに950冊目の書評に突入!(ここまで長かったような短かったような・・・)
今回セレクトしたのは、国内ハードボイルドの最高峰と言ってもいい秀作。
「そして夜は甦る」に続く“沢崎シリーズ”の二作目にして、直木賞まで受賞した作者の最高傑作。

~まるで拾った宝くじが当たったように不運な一日は、一本の電話で始まった。私立探偵沢崎の事務所に電話をしてきた依頼人は、面会場所に目白の自宅を指定していた。沢崎はブルーバードを走らせ、依頼人の邸宅へ向かう。だが、そこで彼は自分が思いもかけぬ誘拐事件に巻き込まれていることを知る・・・。緻密なストーリー展開と強烈なサスペンスで独自のハードボイルド世界を確立し、世間を震撼させた直木賞受賞作~

これはもうさすがだ。
作者がレイモンド・チャンドラーを敬愛し、彼の静謐な筆致を模していることは有名だが、その看板に偽りなし。
主人公である沢崎のキャラは、まさにフィリップ・マーロウの姿に重なる。
(沢崎の方がやさぐれてはいるが・・・)
随所に気の利いた台詞まわしが出てくるのも、チャンドラー&マーロウと同様。

本作については、ハードボイルドの枠に留まらず、本格ミステリー顔負けの謎解きが用意されている点も見逃せない。
「誘拐もの」は、前面に現れた誘拐事件だけでなく、それに隠された裏の構図をいかにうまく書けるのかが重要。
その点、本作ではラストに大掛かりなドンデン返しが待ち受け、それまで語られていた誘拐事件が反転させられるのが見事。
ダミーの犯人役が唐突すぎたので、恐らくこういうラストが用意されているんだろうなという予感はあったけど、そういう意味では予想どおりとも言える。

そして何より、本作を国内ハードボイルドの名作たらしめてるのは、沢崎の言動と彼にまつわる関係者との絡みだろう。
本作では警視庁の刑事たちを敵に回しながらも、独自の捜査と嗅覚で真犯人に迫っていく・・・
それがたまらなく魅力的!
(マーロウほど女ったらし感がないのも良い)
ハードボイルドファンだけでなく、ミステリー好きに広くお勧めしたい名作という評価。
(新宿はやっぱり日本一ハードボイルドが似合う街なんだろうなぁ)

No.948 6点 福家警部補の再訪- 大倉崇裕 2013/12/05 21:53
刑事コロンボまたは古畑任三郎を模した“倒叙もの”シリーズの二作目。
決して刑事に見えない「普通のオバサン」キャラ、福家警部補が神出鬼没に事件を解き明かす。

①「マックス号事件」=東京湾を巡る豪華フェリー“マックス号”で起きた殺人事件。真犯人が弄した小賢しいトリックが、福家警部補によってジワジワ解き明かされる・・・。たったひとつの物証が致命傷になる展開は倒叙ものでは定番。
②「失われた灯」=殺人事件のアリバイとして、なんと自らが誘拐されるという大掛かりなトリックを用意した真犯人。完璧な準備と実行かと思われたが、今回も福家警部補の技ありの誘導尋問が犯人を窮地に追い込む。
③「相棒」=別に杉下右京ではないのだが・・・。今回は売れなくなった漫才コンビが主役。もちろん、一方が犯人で一方が被害者。長い期間を経て、コンビ仲も冷めてきた二人だったはずだが、やはり苦楽を共にした二人ということなのか。福家の気配りもなかなか良い。
④「プロジェクトブルー」=真犯人は玩具企画会社の新進気鋭の社長。脅迫者を亡き者にした社長に襲いかかるのはやはり福家の鋭すぎる勘と嗅覚。

以上4編。
とにかく福家警部補のキャラが強烈だ。
いつの間にか真犯人の懐に入り込み、たったひとつの物証や証言をもとに真犯人の巧緻を切り崩してしまう。
コロンボシリーズに対する作者の敬愛ぶりは有名だが、ワンパターンもここまで徹底できればむしろ清々しささえ感じてしまう。

比較すると前作(「福家警部補の挨拶」)の方が出来はいいように思うけど、本作もまずまず評価できる。
たまには“倒叙もの”という方がいれば、手に取っても損はないと思う。
でも、次作は難しいかも・・・
(個人的ベストは②かな。次いで①。あとはやや落ちる)

No.947 8点 アリアドネの弾丸- 海堂尊 2013/11/26 22:02
バチスタシリーズの到達点とも言える本作。
すでにTVドラマ化もされており、映像で触れた方も多いのではないか?
当然ながら、本作も一連の「桜宮サーガ」としての一翼を担う。

~不定愁訴外来の田口公平医師はいつものように高階病院長に呼び出され、エーアイセンターのセンター長に任命されてしまう。そのため田口は、東城大学病院に新しく導入された新型の縦型MRI・コロンブスエッグの説明を技術者の友野から受けた。しかしその矢先、MRIのなかで友野が亡くなった。原因は不明、過労死と診断された。そして、ついに病院中を大きく揺るがす大事件が発生してしまう!~

これは大方の評判どおり、いや評判以上の秀作だろう。
これほどトリッキーでロジカルな本格ミステリーは久しぶりに読んだように思う・・・それほどの感覚。
文庫版の巻末解説ではなんと御大「島田荘司」が登場し、本格ミステリーとしての本作を褒めちぎっている。
(島荘自身も医療系の話はよく書いてるしね・・・)

島荘も指摘しているとおり、本作のトリック&ロジックの鍵となるのが「MRI」という存在。
MRIが如何なる特徴を備えているのかの理解なしでは本作を楽しむことはできない。
そして、もうひとつの「鍵」がタイトルにもあるとおり、「弾丸」ということになる。
弾丸をこういう方向性で取り扱っているのは別の作品で見たような気はするけど、これはトリックとしては強烈。
(まさに“島荘ばり”という表現がピッタリかもしれない)
こんなトリックを思いつくこと自体、作者がミステリーを愛している証拠なのだろうと思う。

その他については、いつもどおりの「海堂ワールド」が展開される。
特に本作では今までのシリーズ登場人物が勢揃いとでも呼びたくなるほどの豪華版。
何にもまして、本作での白鳥の名探偵ぶりは凄みすら感じさせる(これも“御手洗潔ばり”と言うべきか?)。
その分、田口医師はいつにも増して頼りなく、存在感の薄いまま終わった感がある。
そして、作者による「死因不明社会」に対する強烈な警鐘・・・

海堂ワールドの作品もかなり読んできたけど、いよいよ終わりに近づいてきた。
これだけシリーズを重ねてきてもこんなクオリティの作品を書けるなんて、改めて作者の才能と力量に驚かされた作品。
本格好きなら十二分に楽しめという評価。

No.946 4点 最終弁護- スコット・プラット 2013/11/26 21:59
2008年発表。主に法廷を舞台としたリーガル・サスペンス。
作者は実際に弁護士として七年間活動した後、作家生活に入った“本職”で、本作が処女作品となる。

~メッタ刺しにされ、局部を切り取られた男性の死体が発見される。逮捕された若い女性エンジェルは、腕利き弁護士のディラードに弁護を依頼してきた。エンジェルに会ったディラードは、無垢で美しいこの女性が無実であることを確信する。はたせるかな警察の捜査は杜撰で物的証拠も乏しい。だが捜査陣や検察、判事、そしてエンジェルの周囲にも怪しげな人物が・・・。リーガル・スリラーの新星登場のデビュー作!~

この手のリーガル・サスペンス系作品としては、ありがちでパンチ不足。
そんな読後感。
紹介文を読んでると、結構複雑なプロットなのかなと思わされるが、実際はそれほどのことはない。
本筋の猟奇殺人のほか、主人公であるディラードの実姉が起こす事件や別の殺人などがサイドストーリー的に絡み合うのだが、それがプロットに深みを与えているかというと・・・「そうでもない」
この辺がうまく捌けていれば、もう少し面白い展開になっていたのかもしれない。

そして、法廷での弁護士と判事、裁判官のやり取りも今ひとつ緊張感に欠けているような・・・
弁護士として実際に法廷に立っていた作者なのだから、ここで“点数”を稼げないのは痛い。
サスペンスとしての盛り上げ方にも、もうひと工夫必要だろう。

というわけで、本作をひとことで表せば“中途半端な作品”という評価になってしまう。
リーガル・サスペンスは個人的に好きなジャンルなのだが、これでは期待はずれと言うしかない。
評点としてはやや甘いかもしれないが・・・
(聖職者ほど案外○○いものかも)

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E-BANKERさん
ひとこと
好きな作家
島田荘司、折原一、池井戸潤などなど
採点傾向
平均点: 6.00点   採点数: 1845件
採点の多い作家(TOP10)
島田荘司(72)
折原一(54)
西村京太郎(43)
アガサ・クリスティー(39)
池井戸潤(35)
森博嗣(33)
エラリイ・クイーン(32)
東野圭吾(31)
伊坂幸太郎(30)
大沢在昌(28)