皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.01点 | 書評数: 1812件 |
No.932 | 4点 | 闇に問いかける男- トマス・H・クック | 2013/10/17 21:38 |
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2002年発表の長編作品。原題は“Interrogation”(=尋問かな?)
トマス・H・クックは初読みなのだが、前から気になってた作家のひとりではあった・・・ ~NY市内の公園で少女が殺害された。公園に住み、そこで遊ぶ少女たちをひたすらスケッチしていたもの静かな若者が容疑者として拘留されるが、殺害を頑として否認し続ける。なすすべもない二人の刑事。証拠物件も見つからず、釈放までに残された時間はあと11時間・・・。クック会心のタイムリミット・サスペンスの結末はあまりに切ない~ うーん。期待していたものとは違った。 ひとことで言うならそんな感想。 紹介文からは、「緊迫感に溢れスピーディーな展開のサスペンス作品」を期待していたんだけど、どちらかというと心理面に焦点を当て、じっくり読むタイプの作品。 各章前には時間の経過を示す時計盤が挿入され、そこで緊張感を高めたかったのかもしれないが、成功しているとは言い難い。 要は、狙いと結果がずれていて、何かちぐはぐな印象なのだ。 二人の刑事の捜査過程がメインプロットなのだろうが、途中から脇役の登場人物がつぎつぎに登場し視点人物化していて、かなり読みにくい。 ラストには一応ドンでん返しめいたサプライズは用意されているのだが、ちょっと唐突だし蛇足気味。 などと、不満点は次から次へと浮かんでしまう。 で、良かった点はというと・・・・・・(思い浮かばない!) 作者といえば「緋色の記憶」に代表される「記憶シリーズ」など、世評の高い作品群もあり、そちらを手に取るとこをお勧めします。 かくいう私もそうすればよかったなぁ・・・ (良質な「タイムリミット・サスペンス」という惹句には弱いんだよねぇ) |
No.931 | 6点 | 美女- 連城三紀彦 | 2013/10/17 21:37 |
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1997年発表の作品集。
連城というと逆説に満ちた切れ味鋭い短編が思い浮かぶが、本作は恋愛系とミステリーの中間というような作品になっている。 ①「夜光の唇」=ダブル不倫の夫婦。夫の前に現れたのは、妻が送り込んだ美貌の女性。当然の如く、夫はその女性に手を出すことに・・・。しかしながら、この女性には秘密が・・・。蓮城らしい”ひねくれた”プロット。 ②「喜劇女優」=これは巻末解説で評論家の千街氏が絶賛していた一篇。確かに、他の作家では考えつかないような“ひねくれた”プロットだ。多くの登場人物たちが徐々に消えていく・・・ ③「夜の肌」=癌に蝕まれ、風前の灯のようにやせ衰えていく妻。その妻を抱き寄せながら・・・ラストに重い一撃がやってくる! ④「他人たち」=これもスゴイ話だなぁ・・・。とにかく唖然とさせられるわ、この展開。「他人」のはずなのに、いつの間にか全ての関係者が肉親またはそれに準ずる人々になってしまう・・・。どんなマンションだ! ⑤「夜の右側」=これも①につづきダブル不倫のお話。男女のドロドロした恋愛系ストーリーに蓮城らしい“ひねくれた”仕掛けが加わるとこうなる。 ⑥「砂遊び」=これはごく短い作品。ただし技巧はすごい。 ⑦「夜の二乗」=これはミステリー色の比較的強い一篇だが、これもひねくれた仕掛け+男女ドロドロは同じ。 ⑧「美女」=表題作だがあまり印象に残らず。これも不倫がモチーフ。里芋のような女性の顔っていったい?? 以上8編。 なかなか読了するのに苦労してしまった。 何回も書いたけど、とにかくどの作品もドロドロ恋愛愛憎劇とひねくれたプロットの連発って感じなのだ。 さすがにここまで続くと食傷気味になる。 連城らしいといえばそれまでだが、もう少しミステリー寄りの切れ味を期待していたのでちょっと期待はずれ。 まぁそれでもレベル的には決して低くはないので、評価はこの辺にしておきます。 (ベストは②か④かな。どちらも他の作家には書けない、いや書かないだろう作品) |
No.930 | 7点 | 天狗の面- 土屋隆夫 | 2013/10/17 21:36 |
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1958年発表。江戸川乱歩賞へも投じられた作者の処女長編作品。
(受賞したのは仁木悦子の「猫は知っていた」) シリーズキャラクターとなる千草弁護士は登場せず、土田巡査の友人である白上矢太郎が探偵役として事件を解明する。 ~信州・牛伏村にある天狗伝説。信仰を集めたのは、天狗堂のおりんという女性。天狗講の集まりの日、太鼓の音と呪文の声、天狗の面に囲まれて、男が殺された。そして連続する殺人事件。平和な村を乱すのはお天狗様の祟りなのか? 駐在所の土田巡査は見えない真相に苦悩する。一種の催眠状態に陥った人間と宗教と政治の黒い関係を描き出す。著者初の長編推理小説~ 実に「端正な本格ミステリー」という味わい。 何よりこれは設定の勝利だろう。 「天狗」という禍々しく怪奇じみた存在、戦争の香りの残る山あいの村と信心深い住民、それとは正反対の泥臭い政争・・・ これらの材料をすべて目くらましとして使い、これらを剥ぎ取った後は実に単純なトリックと動機が残る、という趣向。 アリバイトリックも錯誤を利用した実に単純な手なのだが、目くらましが効いているせいで、鮮やかな印象が残った。 特に最初の衆人環視のなかの毒殺トリックが非常に良い。 (なかなかアクロバティックなトリックではあるが・・・) 矢太郎がなぜか「毒殺講義」を行うのもサービス精神に溢れていて楽しい。 伏線もかなりフェアにはられていて、これだったら終章前に「読者への挑戦」などを挿入しても面白いのではとさえ思えた。 土屋隆夫は読もう読もうと思いながら後回しになっていた作家だったけど、やっぱり読むべきだったなぁと今回改めて認識させられた。 冗長さは一切なし。本格好きなら読んで損のない一冊という評価でよいだろう。 (矢太郎の口を借りて作者がミステリーを表現したことば・・・「探偵小説とは割り算の文学である。事件÷推理=解決 この解決の部分に未解決や疑問が残されてはいけない・・・」にも共感。) |
No.929 | 6点 | 新参者- 東野圭吾 | 2013/10/08 21:14 |
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前作「赤い指」から数年、日本橋署へ異動となった加賀刑事が活躍するシリーズ作品。
東京・小伝馬町で起きたある殺人事件。その関係者ひとりひとりにスポットライトを当てていく連作短編集。 ①「煎餅屋の娘」=物語の始まりは人形町の煎餅屋さんから。実母を亡くし祖母を慕う娘と、その娘を大切に思う父親。ちょっとしたボタンのかけ違えのような謎をやさしく解き明かす加賀・・・。いい話系。 ②「料亭の小僧」=今どき珍しい存在だよ・・・“小僧さん”なんて。下町の老舗料亭を切り盛りする女将とだらしない主人。いかにもドラマのようなストーリー。 ③「瀬戸物屋の嫁」=まさに嫁姑問題を抱える家庭。一見いがみ合っている嫁姑だが、男にはよく分からない絆みたいなものがあるようで・・・ ④「時計屋の犬」=気難しい職人肌の時計屋。かせぎのない男性と駆け落ち同然に結婚した娘を勘当したのだが・・・やっぱり親娘の絆ってやつは強固なんだよね。 ⑤「洋菓子屋の店員」=これは本作のターニングポイントと言ってもいい一編。被害者となった女性が足繁く通っていた洋菓子店とお気に入りの店員。そこには当然理由があった・・・ ⑥「翻訳家の友」=殺された女性の友人で翻訳家。離婚して翻訳業の道に引き込んだはずが、その本人が結婚&海外移住することになり・・・ ⑦「清掃屋の社長」=今までの流れからやや離れたストーリーが展開される本編。新たに登場する人物たちが、実は殺人事件に大いに関係することになるのだが・・・。そろそろまとめに入ったな。 ⑧「民芸品屋の客」=最終段階になってなんでこんな話を盛り込んできたのか? まぁ「凶器」の問題なのは間違いないが。 ⑨「日本橋の刑事」=いよいよ解決編。加賀が殺人事件の謎を見事解き明かすわけだが、多分最初から分かってたんじゃないの? ラストもいい話に。 以上9編。 何だかとっても「いい話」です。日本橋・人形町という江戸情緒・江戸文化が生き残る街をまるで「ぶらり途中下車」のように加賀が歩き、人々と接していく・・・。 今まで割とシリアスな展開の多かった本シリーズとは明らかに一線を画した作品に仕上がってます。 まぁうまいよねぇ・・・。言うまでもないことですが、抜群のリーダビリテイです。 加賀のキャラってこんなだっけ? という気がしないでもないですが、読んで損のない作品でしょう。 ただ、今までのシリーズ作品より高評価はしにくいかな。 |
No.928 | 4点 | 愛人岬- 笹沢左保 | 2013/10/08 21:12 |
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1981年発表。作者一連の「岬シリーズ」の一作。
本作で何と200作目の長編という、作者にとって記念すべき作品(だそうです)。 ~丹後半島・犬ヶ岬の断崖で起きた連続殺人事件。被害者の男女の接点が見つからないまま有力な容疑者となったのは男の友人である水沼雄介だった。水沼の愛人・古手川香織は雄介の無実を証明するため鹿児島へ向かう。だが、そこで見つけたものは、香織を苦しめるある事実であった。アリバイ崩しの妙味と男女の哀切を見事に描ききった本格推理小説の傑作!~ ひとことで言うなら「二時間サスペンス」にぴったりの作品。 (悪い意味で・・・) 紹介文にあるとおり、ミステリー的な本作の肝は「アリバイ崩し」ほぼ一本。 しかも、『容疑者が密室に閉じ込められることでアリバイが成立している』という魅力的な設定なのだ。 こう書かれると、密室トリックとアリバイ崩しがどのように融合しているのか?と期待するのだが・・・ これが見事に裏切られることになる。 このトリックは頂けない・・・ 作者のトリックというと、「霧に溶ける」や「求婚の密室」のサプライズ感十分のトリックなどが思い出されるんだけど、これは正直なところ、トリックというよりも「勘違い」というべきだろう。 こんなあやふやでリスクの高い賭けをする真犯人の心情はかなりリアリティに欠けるのではないか。 あと、男女の絡みのシーンが余りに多すぎ! その描写力には感服するしかないけど、終章に至っても延々絡みのシーンが続くとさすがに辟易してきた。 ミステリー的には評価できない作品ということだろう。 |
No.927 | 6点 | プリズン・ストーリーズ- ジェフリー・アーチャー | 2013/09/29 20:15 |
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タイトルどおり、“監獄に入っていた”男たちの実話をベースにした作品集。
原題は“Cat O'Nine Tales”(九尾の猫)。作者のJ.アーチャーも収監された経験を持つことは有名。 (まさに、転んでもタダで起きない、作家魂あふれる作品) ①「自分の郵便局から盗んだ男」=商才あふれる夫婦が主人公。フィッシュ&チップスの店で成功を収めた夫婦が、ステップアップとして選んだのが郵便局の買収。それも見事に成功していたのだが・・・ ②「マエストロ」=大繁盛しているイタリアレストランなのだが、オーナーの男が手にしている収入が望外に少ないものだった。何か秘密が隠されているのか? ③「この水は飲めません」=ロシアにやってきたおしどり夫婦。しかし、それは仮の姿で、夫は妻を亡きものにするため、「水」に仕掛けを施す。男の作戦は成功したかと思われた矢先に・・・。何とも言えない皮肉というか、作者らしいきついオチが待ち受ける。 ④「もう十月」=十月がくると自ら進んで小さな犯罪を犯し、収監されることを望む男。この手の話は日本でもよく耳にするけど、やっぱり世界でも共通なんだね。 ⑤「ザ・レッド・キング」=“レッドキング”っていうと、どうしてもウルトラ怪獣を思い出してしまうが(古いか?)、当然全く関係なし。逸品のチェスの駒(キング)をめぐる詐欺がテーマなのだが、ちょっと分かりにくい。 ⑥「ソロモンの知恵」=なかなか結婚しなかった親友が連れてきた女性は、絶世の美女だがバツ2の女性。親友が突然大金を相続した直後、女性から離婚を言い渡されてしまう。離婚裁判の場でも女性の思惑通りに進むかと思われたが・・・最後に切り返しが! ⑦「この意味、分かるだろ」=何回捕まっても密輸に手を染めてしまう馬鹿な男。こんな男にもったいない商才のある妻。妻は夫の保釈金を支払いながらも、着実に会社を大きくしていくが・・・。男ってアホだね。 ⑧「慈善は家庭に始まる」=会計事務所に務める真面目だけが取り柄の男。繰り返しの人生のなかで出会ったひとりの女性と恋に落ちる。そして、これまでの会計士としての経験から、ある儲け話=犯罪を思いつくのだが・・・ ⑨「アリバイ」=ミステリーっぽいタイトルだけど、オチは正直よく呑み込めず。 ⑩「あるギリシャ悲劇」=ギリシャの海上に浮かぶ小島が本作の舞台。島民の父という存在の老人が大活躍(!?) ⑪「警察長官」=インド・ムンバイが舞台。あまり記憶に残らず。小品かな。 ⑫「あばたもえくぼ」=イタリアはローマが舞台。サッカー界の元英雄が一生のパートナーに選んだのは、何と体重100kgは超えるという何とも不釣合いな女性。そして、その女性が早逝し次に選んだのも・・・。要は“デブ専”ってこと? 以上12編。 ストーリーテラーとして定評のある作者。どの短編集もツイストの効いた「うまい」作品が並んでいるだけに、今回も安定感十分な短編を期待していたのだが・・・ 今まで読んだ作品よりは一枚落ちるなというのが正直な感想かな。 クライムノベルとしても、ちょっと小品という感じだし、ミステリーとしての観点からすると高評価はちょっと難しい。 (私的ベストは③。⑥や⑦もまずまず。) |
No.926 | 4点 | トリック・シアター- 遠藤武文 | 2013/09/29 20:13 |
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「プリズン・トリック」で第55回江戸川乱歩賞を受賞した作者。受賞後の最初の長編が本作。
前作に続いて、読者を驚かすトリック&プロットに拘った作品に仕上がっているか? ~同日同時刻、500キロメートル離れた東京と奈良で起こった二つの「殺人」。容疑者として浮上したのは同一人物だった。謎を追う刑事たちの前に、今度は閉鎖病棟での密室殺人が発生。三つの事件がつながり、驚愕の真実が明らかになる! 乱歩賞受賞作を超えた作者渾身の長編ミステリー第二弾~ 何とも荒削りな作品だ。 他の方の書評では「詰め込みすぎ」という言葉がよく出てくるが、それよりも作者の狙いというか、書きたいことが分散しすぎて結局最後までよく分からないまま終わってしまった、という感じ。 前作「プリズン・トリック」でも、ラストの大技一本勝負という感じで、中盤は破綻して穴だらけという評価だったのだが、本作でもその辺りはあまり改善されなかったようだ。 ①同じ時間に殺された二人の容疑者が同一人物=アリバイ崩し、②閉鎖病棟での殺人=密室。 ミステリー的にはこの二つが本作の大きな「肝」となるはずだったのだろうけど、正直なとこ途中からそんなことそっちのけで公安絡みの社会派を思わせるような動機探しがメインとなってしまう。 結局、①②とも常識的な線で解決が付けられ、タイトル的に本格ミステリーっぽいガチガチの仕掛けを期待した分、肩透かしをくらったような脱力感を味わってしまった。 ラストもなぁ、衝撃的ではあったが、何だか救いのない気分・・・。 作者が注力しただろう「事件の背景、構図」についても、登場人物の書き込み不足が響いてちょっとリアリティに欠けるのが痛い。 主役級の安孫子警視正をはじめ、捜査陣となる刑事を大勢登場させ過ぎたのも失敗かな。 ってことで、ネガティブな感想ばかり書いてしまいましたが、作者の筆が持つエネルギーというか情熱みたいなものは感じさせてもらった。 それが救い。 |
No.925 | 5点 | 十三回忌- 小島正樹 | 2013/09/29 20:11 |
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師匠・島田荘司との共著「天に還る舟」でデビューした作者が発表した実質の処女長編がコレ。
2008年発表。師匠譲りの大トリックに拘った作品との世評だが・・・ ~自殺とされた資産家夫人の不審な死。彼女に呼び寄せられるかのごとく、法要のたびに少女が殺されていく。一周忌には生きながら串刺しにされ、三周忌には首を持ち去られ、七周忌には唇を切り取られていた。そして迎えた十三回忌。厳しい厳戒態勢のなか、またもや事件は起きた・・・。巧みな謎と鮮やかな結末に驚愕必死の長編ミステリー~ 何ともたどたどしい・・・そんな感想になった。 今や小島正樹といえば、島田荘司直系で、これでもかというほど大掛かりなトリックを詰め込む作家という評判が固まってきた。 実質のデビュー作である本作も例外ではなく、紹介文のとおり不可能趣味溢れる連続殺人を題材に、作者の自由奔放なトリックが登場する。 ただ、島田荘司というよりは、どちらかというと阿井渉三を思わせるプロット&作風で、特に列車事故が絡む二つ目の殺人事件などはもろに阿井氏の作品を思い出してしまった。 (阿井氏も島田荘司から強い影響を受けたと自身で語っていたから、似てくるのは自明なのかもしれない) 確かにトリックは大掛かりで、大ラスで判明する真犯人の正体にも結構サプライズ感はある。 「見立て」ではないのだが、猟奇的な死体にも理由付けが成されていて、この辺りもまさに“ミニ島荘”という感じ。 けど、これでは正直「つまらない」という感想を持った方が多いのではないか? 敢えていうなら、トリックが浮いているのだ。 島田荘司であれば、トリックのリアリティを補強するため、地の文に多様な工夫を凝らし読者を巻き込んでいくのだが、さすがに如何せん現時点の作者では役不足ということだったのだろう。 文庫版巻末で師匠・島田荘司は、「天に還る舟」では文書の殆どを手直ししたという逸話を披露しているが、本作を発表前に読んだ際には文書の上達に驚いた旨書かれている。 直近の作品を読んでないので、もしかすると文書が相当うまくなっている可能性はあるが、本作では「まだまだ」という評価になるなぁ・・・。 |
No.924 | 7点 | ようこそ、わが家へ- 池井戸潤 | 2013/09/23 16:57 |
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『半沢直樹』が空前の大ヒット!
デビュー当初から作者の作品を読み続けてきた読者からすると、うれしいような寂しいような・・・ そんな複雑な気持ちを抱きながら手に取った本作は文庫オリジナルという今時珍しい作品。 (ハードカバーで出す方が作者も出版社も儲かるように思えるのだが・・・違うのかな?) ~真面目だけが取り柄の会社員・倉田太一は、ある夏の日、駅のホームで割り込み男を注意した。すると、その日から倉田家に対する嫌がらせが相次ぐようになる。花壇は踏み荒らされ、郵便ポストには瀕死のネコが投げ込まれた。さらに、車は傷つけられ、部屋からは盗聴器まで見つかった。執拗に続く攻撃から穏やかな日常を取り戻すべく、一家はストーカーとの対決を決意する。一方、出向先のナカノ電子部品でも、倉田は営業部長に不正の疑惑を抱いたことから窮地へと追い込まれていく。直木賞作家が身近に潜む恐怖を描く!~ 本作も「いかにも池井戸潤!」。「池井戸テイスト」たっぷりの作品。 しかも、最近の「下町ロケット」や「ロスジェネの逆襲」といったベストセラー作品ではなく、ひと世代前の池井戸作品の雰囲気が漂う。 ということで、にわかファンにはやや食い足りないように見えるかもしれないが、個人的にはむしろ新鮮に思えた。 本作は、主人公である気弱な50代の銀行員・倉田を軸に、倉田一家が巻きこまれるストーカー事件と、倉田の出向先で起こる横領事件の二つがほぼ同時進行していく。 そして、この倉田が実に人間臭いのだ。 真面目で気弱、出世はほどほどで良い、面倒なことにはあまり関わりたくない・・・(年齢以外は何となく自分自身にシンクロしてきた) こんなどこにでもいそうなオッサンが、事件に巻き込まれることで、自分自身を見つめ直し、そして成長していく物語なのだ。 それも、「倍返しだ!」などと格好良くキメるのではなく、悩みながら半分ビクビクしながら・・・ やっぱり、どんな人間でもその人なりの「矜持」というものがあるのだろう。 サラリーマンやってると、つまらない見栄や取るに足りない優越感をついつい抱きがちだけど、そんなことじゃないんだよねぇ・・・ そんなことを考えさせられ、そして爽やかなラストに癒された。 もはや名人芸だね。 (マンネリと思う方もいるだろうが・・・) |
No.923 | 5点 | ムーンズエンド荘の殺人- エリック・キース | 2013/09/23 16:55 |
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2011年発表。「雪の山荘版『そして誰もいなくなった』」という帯の惹句が本格ファンの心をくすぐらずにはおれない・・・作品。
“ゲーム会社のパズル作家”という経歴が「いかにも」というべき、作者の処女長編。 ~15年前に探偵学校で学んだ卒業生たちのもとへ、校長ダミアンの別荘で開かれるという同窓会の通知が届いた。吊り橋でのみ外界とつながる会場にたどり着いた彼らが発見したのは、意外な人物の死体。そして死体発見直後、吊り橋が爆破され、彼らは外界と隔絶してしまう。混乱する彼らを待っていたのは、不気味な殺人予告の手紙だった。密室殺人や不可能犯罪で次々と殺されていく卒業生たち、錯綜する過去と現在の事件の秘密。クリスティの名作に真っ向から挑む!~ 心意気はよしだが、ちょっと中途半端な出来。 ひとことで言えば、そんな感じの作品に思えた。 他の方の書評にもあるし、巻末解説でも触れられているが、特に前半は視点人物が次々と入れ替わったり、過去の事件についての回想が随時挿入されたりで、何だかまとまりの悪いストーリーとなっている。 登場人物がひとりひとり、次々と殺されていく中盤以降、ストーリーは加速度的に進行し、ここでようやく面白さが増してくる感じ。 途中の密室殺人については、日本の新本格作品のように凝ったトリックというわけではなく、ある意味非常に現実的な解法(まぁサプライズは全くありませんが・・・)。 真犯人設定のプロットについても使い古されたものだろう。(伏線もかなり微妙だが) ということで、どうしても「アラ」が目についてしまうのですが、今時こういう作品を書こうという心意気をまずは買いたい・・・(?) デビュー作としてはまずまずという気もするし、こういう手の作品が大好物という読者なら、広い心で読んでみるのもいいのでは。 (文庫版で300ページ程度の分量でまとめられていて、読みやすいんだけどもう少し物語としての厚みが欲しかったかなというのが一番惜しい。) |
No.922 | 6点 | アルファベット・パズラーズ- 大山誠一郎 | 2013/09/23 16:53 |
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「密室蒐集家」で第13回本格ミステリー大賞を受賞した作者が贈る連作短編集。
京大ミステリ研出身という現代ミステリー作家としては一流(?)の経歴を持つ作者らしいパズラー短編集。 ①「Pの妄想」=本連作のレギュラーメンバーとなる四人の男女が登場。女性二人は精神科医と翻訳家。男性二人は警視庁の刑事と名探偵役のマンションオーナー。この四人が安楽椅子よろしく遭遇した事件を探究、解明していく・・・なんて浮世離れした設定! 本作のトリックはいかにも大学のミステリ研当たりで出てきそうなもの。そんなにうまくいくかなぁ(?) ②「Fの告発」=とある私立博物館内で起こった殺人事件、しかも指紋認証で電子的にロックされた密室で・・・。探偵役である峰原が解明した真相はサプライズといえばサプライズだけど・・・この○れ○○りトリックは相当無理がある。アリバイトリックはまずまず面白いとは思うが・・・ ③「Cの遺言」=東京湾をめぐるクルーズ船の中で発生した女性経営者殺人事件。そして偶然にも事件に遭遇するレギュラーメンバーの女性二人。今回は船内というおきまりのCC設定というわけで、いかにフーダニットに工夫を凝らせるかが作者の腕の見せ所なのだが・・・。まぁパズラーらしいと言えばそうだけど。 ④「Yの誘拐」=本作のみ二部構成の中編という分量の作品。とある過去の誘拐事件を例の四人が再調査するという展開なのだが、一旦峰原の慧眼で解決を見た後、驚愕のドンでん返しが待ち受ける・・・。ただ、このドンでん返しは賛否両論じゃないかな。「連作短編集」という観点からすれば確かにこういうオチもありかもとは思うけど。 以上4編。 これは「好きな人には応えられない」というタイプの作品。 ①~③は作者らしい凝ったパズラーが並んでいる。(④は別) ただ、「若書き」という感は拭えないかな。 ミステリ研の「犯人当てクイズ」なら文句ないところだけど、ここまでパズラーに拘るのなら、もうワンパンチ欲しかったなというのが本音。 まっ次作に期待というところでしょう。 (④はかなり強引。①~③のなかでは②かな。因みに本作はもともと2004年に上梓されたものに、今回③を新たに加えて文庫版として新たに発表された作品) |
No.921 | 6点 | モノレールねこ- 加納朋子 | 2013/09/15 21:31 |
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2006年発表、主に「オール読物」誌に掲載された作品を集めた短編集。
相変わらず作者らしい「目線」「視点」で書かれた作品が並んでいる・・・そんな印象。 ①「モノレールねこ」=表題作の主役は猫と、その猫を介して知り合った二人の子供。終盤には意外にも残酷なシーンが登場するが、作者らしく実にハートウオーミングなラストを迎える。こんな偶然・・・あったらいいよなぁ。 ②「パズルの中の犬」=猫のつぎは犬、というわけでもないだろうが・・・。本編はそれよりもジグソーパズルを愛する女性の心理や葛藤の方に惹かれた。 ③「マイ・フーリッシュ・アンクル」=今度の主役は動物ではなく「アンクル」。要は「おじさん」だ。相当アホで世間知らずなおじさんなのだが、ラストには意外なワケが判明することに・・・。でも女って強いな! ④「シンデレラのお城」=主役となるのは「形式だけの夫婦」。穏やかで理想の中年男性、とでも言うべき夫には更なる秘密が隠されていた。タイトルのお城はディズニーランドのシンデレラ城のことなのだが・・・こんな楽しみ方もあるんだねぇ。 ⑤「セイムタイム・ネクストイヤー」=これは雰囲気の良い作品。「黄昏ホテル」なんて、何だか映画のタイトルに出てきそうだし、映像化に向いてる作品だろう。 ⑥「ちょうちょう」=主役は脱サラし、ラーメン店を開店した男性。アルバイトとして採用した美女をめぐってひと悶着あるのだが、結果的には美女ではなく、本当の味方は別にいた、ってそんなよくある話だ。 ⑦「ポトスの樹」=オヤジを反面教師として徹底的に嫌い。「オヤジのようには絶対なりたくない」って思っている主人公。本編も③と同じベクトルの作品。実は・・・という理由が終盤に判明してちょっとグッとくる。 ⑧「バルタン最後の日」=何とザリガニ目線で書かれた作品。小学生の男の子に捕まえられ、自宅で飼われることになったザリガニ「バルタン」。こいつがラストにはイカした大活躍をするのだが・・・何とも不思議な一編。 以上8編。 動物が登場する作品が多いのが特徴といえば特徴。 まぁ相変わらずというか、実に加納さんらしい雰囲気の良い作品が並んでいる。 ちょっと特殊な設定下ではあるけど、ひとりひとりの人間(または動物)の想いがしんみりと心に染みてくる。 たまにはこんな作品で癒されるのも良いのではないか? (ベストは文句なく⑧だろう。あとは①③あたり。) |
No.920 | 8点 | 夏への扉- ロバート・A・ハインライン | 2013/09/15 21:30 |
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1957年発表。SFの大家である作者の代表作と言ってもいい作品。
原題“The Door into Summer”。早川版、福島正実氏の訳は名訳と名高い(そうだ)。 ~ぼくの飼っている猫のピートは、冬になると決まって夏への扉を探し始める。家にあるいくつものドアのどれかひとつが、夏に通じていると固く信じているのだ。1970年12月3日、かくいうぼくも夏への扉を探していた。最愛の恋人に裏切られ、生命から二番目に大切な発明まで騙し取られたぼくの心は、12月の空同様に凍てついていたのだ。そんなとき、『冷凍睡眠保険』のネオンサインに引き寄せられて・・・。永遠の名作!~ さすが、名作! そう唸らされた。 何よりも作品の世界観というか、雰囲気が何ともいいのだ。 読み進めていくうちに、読者は主人公であるダニイの心情とシンクロし、目の前に起こる出来事のひとつひとつに一喜一憂することになる。 序盤の山となる「ある事件」の発生後、ダニイは冷凍睡眠により30年の眠りにつく。そして、30年後に目覚めたときから、新たな予想外の物語が始まるのだ。 そして、終盤には更なるタイムトラベルと粋なラストが待ち構える・・・ 読み終えた後、何とも言えない満足感を味わってしまった。 本作で扱われているSFとしてのアイデアは、①冷凍睡眠②タイムトラベル③ロボット、の3つ。 ③はアシモフほどの拘りは窺えないが、①と②の取り上げ方は面白い。 まぁタイムトラベルについては単純なプロットで終始していて、タイム・パラドックス的な捻りが加えられているわけではないのだけど、それはそれとしてシンプルな面白さがあるのではないかと思う。 ファンタジックなSFが好みという方にはうってつけの作品だろうし、一度は手に取る価値のある作品という評価。 個人的にはそれほどSF好きというわけではないけれど、これくらいの評点はつけたい。 (冷凍睡眠の技術ってそろそろ実用化されるのだろうか?) |
No.919 | 5点 | 迷宮- 清水義範 | 2013/09/15 21:27 |
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1999年発表。作者はミステリー作家という感じではないが、多数の著作を持つ、知る人ぞ知る人物。
本作は前から気になってた作品だったのだが・・・今回縁あって手に取ることに。 ~24歳のOLがアパートで殺された。猟奇的犯行に世間は震え上がる。この殺人をめぐる犯罪記録、週刊誌報道、手記、供述調書・・・。ひとりの記憶喪失の男が「治療」としてこれらさまざまな文書を読まされていく。果たして彼は記憶を取り戻せるのだろうか。そして事件の真相は? 視点の違う“言葉の迷路”によって、謎は深まり闇が濃くなり・・・名人級の技巧を駆使して大命題に挑むスリリングな異色ミステリー~ 正直よく分からなかった・・・ そんな感覚が残った。 紹介文のとおり、冒頭からひとりの記憶喪失の男性が、「治療師」と呼ばれる男からつぎつぎと文書を読まされる展開が続いていく。 中盤~終盤と進むほど、徐々に犯罪の全体像は分かってくる。男や治療師の正体も当初よりちらつかされてはいるのだが、これは「ミスリード」だろう、という思いで読み進めていくことに。 で、当然ラストには事件全体の構図が判明するのだが、これが何ともモヤモヤしている。 結局作者は何がしたかったのか? これがはっきりしないのがモヤモヤの主因かな。 普通に考えれば、叙述系のトリックが仕掛けられていて、ラストにはひっくり返される・・・というのをついつい予想していたのだが、それほどそんな感じでもなかったしなぁ・・・ まさにタイトルどおり、作品全体が徐々に「迷宮」に入り込んでいくような感覚、それこそが作者の書きたかったテーマなのかもしれない。 文庫版解説では二度読みを勧めているが、ちょっとキツイかなと思った。 期待が大きかっただけに尚更ギャップを感じた次第。 (眠い時間帯に読んだのがいけなかったのかも。ついつい読みながらウトウトしてしまったような気が・・・) |
No.918 | 6点 | 消えた女- マイクル・Z・リューイン | 2013/09/08 13:58 |
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1981年発表。私立探偵アルバート・サムソンシリーズ五番目の長編作品。
チャンドラー風でもありロス・マク風でもある米ハードボイルド小説の系譜を次ぐシリーズ。 ~二か月前に失踪した友人を探して欲しい・・・エリザベスと名乗る女の依頼で、わたしはその友人プリシラが住んでいた町へ赴いた。やがて彼女は青年実業家と駆け落ちしたらしいことが分かり、調査は打ち切られた。だが、数か月後、実業家の他殺死体が森で発見され、警察は一緒にいたはずのプリシラの死体を探し始める。わたしがエリザベスに連絡しようとすると、彼女もまた姿を消していた・・・。私立探偵サムソン・シリーズの代表作~ ストーリーとしては「典型的なハードボイルド小説」。 っていう感じかな。 舞台はアメリカ東部のインデイアナポリスとナッシュビル。 ハードボイルドというと、LAやサンフランシスコなど西海岸の乾いた風土が似合うという気がしていたので、東部の田舎町という舞台設定自体がちょっとそぐわないような気がする。 それはともかく、粗筋としてはこういう手の小説としては典型的とも言え、主人公の私立探偵サムソンはひとりの女性の行方を追うことにきりきり舞いさせられる。 中盤までは混沌としていた事件の背景が、終盤を迎えるあたりで急展開。終局に向けてがぜん加速していく・・・というのもほぼお約束だろう。 謎の女性の正体自体は特段捻りはないのだが、殺人事件の真犯人にはちょっとびっくり。 まさかこんな奴が犯人だなんて思わなかった・・・という人物だ。 登場人物たちの愛憎渦巻く関係が動機につながっており、この辺の落とし方・見せ方はさすがにうまさを感じる。 文庫版巻末で解説者の瀬戸川氏がチャンドラーやロス・マクとの比較を論じているが、両者のいいとこどりをしていて、「旨さ」こそ感じるものの、やはり両巨頭のスケール感や何とも言えない作品世界と比べるとイマイチという評価になるかな。 でも、決して駄作ではなく、水準以上の作品。 (作者を代表するもうひとつのシリーズ主人公・パウター警部も登場。いい味出してる。) |
No.917 | 7点 | 奇術探偵 曾我佳城全集 戯の巻- 泡坂妻夫 | 2013/09/08 13:56 |
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先般書評した「秘の巻」に続き、今回は「曾我佳城全集」の後編に当たる本作について。
「秘の巻」でも触れたが、文庫版をこよなく愛する読者としては、せっかくの二分冊だし分量も多いので、分けて書評してみたい。 前半8編は「小説現代」誌、後半3編は「メフィスト」誌に掲載されたもの。 ①「ミダス王の奇跡」=初っ端から実にオリジナリティに溢れる一編。「雪密室」といえば、手に垢がつきまくったようなプロットだが、こんな奇っ怪なトリックは初めて・・・。こんな姿で登場する佳城にも驚かされる。 ②「天井のトランプ」=なぜか天井にトランプのカードが一枚貼られている。決して人の手の届かないところに・・・。こんな風変わりな「流行」を追ううちに事件に巻き込まれる男。そしてなぜか今回も登場する佳城・・・。まさに神出鬼没。 ③「石になった人形」=本編のテーマは腹話術。腹話術といえば「人形」が思い浮かぶが・・・本編はココに重大な秘密が隠されている。 ④「白いハンカチーフ」=なんだか大昔の歌謡曲を思い起こさせるタイトルだが・・・。本作はテレビのワイドショーに出演した佳城が、番組で採り上げられた事件の解決をその場でやってしまうという設定。まぁサプライズ感はある。 ⑤「浮気な鍵」=これは「密室」を扱った一編なのだが、作者らしい風変わりな密室。そして、登場人物たちの妙な「性癖」も作者らしいのかも・・・ ⑥「シンブルの味」=本編の舞台は日本を飛び出し、アメリカはシアトル。トリックそのものはありきたりのものなのだが、作者らしいひと捻りが効いている。 ⑦「とらんぷの歌」=奇術師がお客さんの無作為に引いたトランプを当てるというマジック。これはありきたりのマジックだが、すべてのトランプの数字を上から順番に当てるというマジック・・・これにはこういうタネがあった。 ⑧「だるまさんがころした」=「ダルマ」という名を持つ奇術師に纏わる一編。正直、オチはよく分からず。 ⑨「百魔術」=「百物語」といえば、百の怪談を行う集まりのことだが、「百魔術」とは文字どおり百の奇術(魔術)を行う集まり・・・というわけで、その場で殺人事件が発生してしまう。 ⑩「おしゃべり鏡」=「鏡」といえば、マジックには欠かせない小道具だが・・・ ⑪「魔術城落成」=佳城が10年以上の歳月をかけ建築してきた「魔術城」。ついにその城が完成する日が近づく。親しい仲間うちを招いての内覧会の最中、殺人事件が発生してしまう・・・。そしてラストは「曾我佳城全集」のオーラスに相応しいもの。余韻残るよなぁー 以上11編。 「秘の巻」もそうだが、奇術とミステリーってここまで相似形なんだと認識させてくれる。 全編に何らかの奇術ネタが埋め込まれていて、もうこれは名人芸という域だろう。 ただ、後半に行くほど徐々にクオリティが落ちてきている感はある。そこがちょっと残念。 (①がベストかな。②⑤あたりも良い。⑪は別格。) |
No.916 | 7点 | 隠蔽捜査- 今野敏 | 2013/09/08 13:53 |
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「果断」「疑心」などへと続く警察庁キャリア・竜崎を主人公とするシリーズ一作目。
「知る人ぞ知る」的な作者がブレイクするきっかけとなった作品であり、吉川英治文学新人賞受賞作。 ~竜崎伸也は警察官僚(キャリア)である。現在は警察庁長官官房でマスコミ対策を担っている。その朴念仁ぶりに、周囲は『変人』という称号を与えた。だが彼はこう考えていた。エリートは国家を守るため、身を捧げるべきだ。私はそれに従って生きているに過ぎない、と・・・。組織を揺るがす連続殺人事件に竜崎は真正面から対決していく。警察小説の歴史を変えた、吉川英治文学新人賞受賞作~ 確かに竜崎のキャラクターは強烈だ。 他の方も書評しているとおり、最初はあまりにも強いエリート意識に辟易するのだが、次第に一本筋のとおった彼の考え方に惹かれるようになる。 他の警察小説でも頻繁に書かれているとおり、警察という組織は、「組織を守るためにはどんな汚いことでもする」というイメージがあるが、そういったしがらみに切り込んでいく彼の言動はとにかく痛快なのだ。 そして、家族との関係の行方も見逃せない(特に妻の態度・・・)。 今回、竜崎とともに主要キャストとして描かれるのが同じキャリアでありながら、竜崎とは全く別のキャラとして登場する伊丹。 竜崎と伊丹の関係は磁石の両極のように反発しながらも、次第に同調していく・・・ やはりこの辺り、登場人物の造形や設定はさすがとしか言いようがない。 警察小説といえば、横山秀夫や大沢在昌、佐々木譲など達者な書き手が揃っているが、やはり作者の名前もそこに加えなくてはならない・・・改めてそう感じさせられた。 まぁ純粋な「謎解き」という要素は相当薄いが、そもそも本シリーズにそういうことを期待してはいけないのだろう。 個人的には、シリーズ二作目の「果断」を先に読んでしまったのが悔やまれる。 (やはりシリーズものはできる限り順番通り読むのがベターだと再認識した) ラストも実に爽快。 |
No.915 | 5点 | 骨の城- アーロン・エルキンズ | 2013/08/31 22:46 |
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2008年発表。スケルトン探偵シリーズの13作目が本作。
今回、舞台として選ばれたのはイギリス南部の小島セント・メアリーズ島。原題は“Unnatural Selection”だが、邦題は事件の舞台となったある「古城」から取られている。 ~環境会議の会場となった古城近くで発見された人骨。調査に乗り出した人類学者ギデオン・オリヴァーは、骨の特徴があぐらをかく職種の人間のもので何者かに殺されたのだと推定する。やがて、数年前同じ場所で開かれた環境会議で参加者たちが諍いをしていた事実と、会期終了後参加者のひとりが熊に食われて死んでいたことが明らかに。さらに今回の参加者が城から転落死を遂げ・・・。一片の骨から不吉な事件の解明に挑むスケルトン探偵!~ とにかく「骨」、「骨」、「骨」・・・だ。 (当たり前といえばそうなのだが) 終盤に差し掛かるまでは、小島の海岸で発見された骨をめぐって、ギデオンが鑑定を進める様子がひたすら描かれる。 もしかして、最後まで殺人事件や不可思議な事件は起きないのか?という危惧を抱き始めたところで、会議の参加者のひとりが不審な転落死を遂げるという事件らしい事件が発生して、やっとミステリーっぽくなってくる。 ・・・という展開で、全体的になにか「ぬるい」感覚が拭えなかった。 骨の鑑定については毎度のことながら薀蓄満載で、読みながら思わず「へぇー」と唸らされるのだが、本筋の方は特段目につくところはなし。 真犯人についても、何となく取ってつけたようで、ミステリー的に一番怪しい人物がやっぱり犯人だったというオチ。 動機も正直かなり弱いのではないかと思う。 ってことで、シリーズ他作品と比べてもそれほど高い評価はできないなぁ。 ただ、現地の捜査官として登場するクラッパー部長刑事(元警部)とロブ刑事の造形と師弟愛は心に残った。 (特殊能力犬の活躍も見事!) |
No.914 | 5点 | Rのつく月には気をつけよう- 石持浅海 | 2013/08/31 22:45 |
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湯浅夏美と長江高明、熊井渚の三人は、大学時代からの飲み仲間。毎回うまい酒にうまい肴は当たり前。そこに誰かが連れてくるゲストは、定番の飲み会にアクセントをつける格好のネタ元。今晩も、気持ちよく酔いが回り口が軽くなった頃、盛り上がるのは何といっても恋愛話で・・・
①「Rのつく月には気をつけよう」=登場する料理は生ガキとシングルモルトウィスキー。カキといえば「食当たり」ネタが定番ですが、本編もそう。ただし、この食あたりには秘密があった・・・ ②「夢のかけら 麺のかけら」=食材はなんと「チキンラーメン」。酒の肴にチキンラーメンをそのまま食べるとうまいということなのだが・・・そんなこと知ってるわ!って人が多そう。 ③「火傷をしないように」=今回はチーズフォンデュと白ワインがテーマ。ホワイトデーになぜか「固くなったパン」を贈られた女性が悩みを三人に打ち明けるのだが・・・普通こんな回りくどいことするか? ④「のんびりと時間をかけて」=本編は豚の角煮と泡盛がテーマ食材。日本~アメリカの超遠距離恋愛に悩む恋人どうしになぜか豚の角煮の謎が立ち塞がる・・・って何だかなぁ。 ⑤「身体によくてもほどほどに」=今回はぎんなんと日本酒のコンビ。これはうまいよなぁ・・・絶対! 長江が解き明かす謎そのものはもはやどうでもいい。 ⑥「悪魔のキス」=パンケーキとブランデーが本編の酒と肴。今回、初めて夏美が婚約者である冬木を飲み会に連れてくるという設定。このコンビネーションというのはちょっと想像できないけど・・・ ⑦「煙は美人の方へ」=最後はスモークサーモンとシャンパーニュのコンビ。本編では、いつものようにゲストが持ち込む悩みのほかに、本作全体に仕掛けられた趣向が明らかにされる・・・まぁバレバレだけど。 以上7編。 飲み会にゲストが謎を持ち込む、という趣向は、ずばりアシモフの「黒後家蜘蛛の会シリーズ」がモチーフになってるんだろうなぁ。 「謎(或いは悩み)」そのものは実に何てことないというか、恋人や友人どうしでそんなに分かりにくい伝え方するか?? っていう感が拭えない。 本作はそんなことより、酒と肴の絶妙なコンビネーションをヨダレをダラダラ流しながら読むというのが正しい楽しみ方だ。 ということで、酒の飲めない方は本作を楽しめないのではないだろうか、と危惧する。 (①から⑦までほぼ同水準。軽~い気持ちで読める) |
No.913 | 6点 | 名探偵に乾杯- 西村京太郎 | 2013/08/31 22:43 |
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「名探偵なんか怖くない」「名探偵が多すぎる」「名探偵も楽じゃない」に続く、名探偵パロディシリーズ第四弾にして、シリーズ最終作。
1983年発表ということで、かなり昔に一度読んでいたのだが、今回再読。 まさか本作が「新装版」として甦ろうとは思わなかったなぁ・・・ ~ポワロが死に、その追悼会が明智小五郎の所有する伊豆沖の孤島の別荘で開かれた。招かれたのはエラリー・クイーン、メグレ警部ら世界的名探偵たち。そこへポワロ二世と自ら名乗る若者が現れる。彼は本物の息子であることを証明すべく、孤島で発生した殺人事件の謎に挑むのだが・・・。「名探偵シリーズ」の掉尾を飾る傑作~ 何とも不思議な雰囲気を持つ作品。 久々に読んで、そんな感想になった。 本筋は紹介文のとおり、ポワロの追悼会に参加した13名の男女が次々と殺されていくという、まさに「そして誰もいなくなった」をパロったようなプロット。 それどころか、三つの「密室殺人」や不明な動機まで絡み合い、本格ミステリー好きには応えられない展開になる筈なのだが・・・ 残念ながら、そうはなっていない。 まず密室は・・・これは「推理クイズ」レベルだな。 (まぁこれは作者も本気で考えてないんだろうけど・・・まさか綾○を意識したわけではないよね?) 「動機」については・・・こじつけかな。 そもそも、本シリーズに対してはこういうまともなプロットやトリックを期待してはだめなんだろう。 そんなことより、本作を読んでると、作者がいかにポワロ(クリスティ)を敬愛しているのかがよく分かる。 本筋の事件が解決をみたあと、何とポワロ最後の作品となった「カーテン」の結末に異説を唱えていて、そこが一番のサプライズかもしれない。 まっ、広い心で読むことをお勧めします。 |