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[ ハードボイルド ]
ひまわりの祝祭
藤原伊織 出版月: 1997年06月 平均: 7.62点 書評数: 8件

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講談社
1997年06月

講談社
2000年06月

角川書店(角川グループパブリッシング)
2009年09月

No.8 7点 Tetchy 2022/04/12 23:31
1997年刊行の本書。23年前の、しかも前世紀の作品だが、その時既に社会人だった私にとってはさほど前の話のように思えなかったが、やはりところどころに時代を感じさせる。
例えば本書ではオリックスではイチローがまだ活躍しており、デザイン会社での記憶媒体ではMOが主流となっている。いやはや懐かしい。USBメモリーやSDカードが主流になっている現在、MOなんてもう時代の遺物だ。私も当時使用していたが、今の若い子たちはMOなんて知っているだろうか。
更に驚いたのは携帯電話の最初の3桁が030であり、そして番号が10桁であることだ。PHSが050だったっけなどと思い出した。
またタクシーに自動車電話がついてるなどという描写もあり、私もずいぶん昔から生きている者だなぁと思い知らされた。

ゴッホの知られざる8枚目のひまわりの絵を巡る美術ミステリであり、冒険小説でもあるが、読み終わった今、実に類型的な作品であるなとの印象が拭えなかった。

まずゴッホの知られざるひまわりの絵の存在を巡るまでの道のりは本格ミステリ的興趣もあり、実に面白い。
主人公秋山秋二のモラトリアムな生活に突如介入してきた、かつての上司村林のカジノへの誘いをきっかけに彼の周りで彼を見張る者たちが現れたり、また自殺した妻に似た女性が絡んできたりと主人公の身に何が起きているのか不明な点が学芸員をしていた亡き妻英子の遺品に遺されていたメモからゴッホの知られざる8枚目のひまわりの存在に至る、この見事な展開はそれまで何が謎なのかが解らなかっただけに、目の前の靄が一気に晴れる思いがした。

さらにゴッホが8枚目のひまわりを書いていた可能性についてもゴッホ生前の創作姿勢から可能性の高い“あり得る話”だと思わされるし、何よりも主人公の亡き妻英子とゴッホ8枚目のひまわりの存在をアメリカ人美術コレクター、ナタリー・リシュレとの交流から繋げていく流れは実に読み応えがある。
歴史秘話的な興趣に満ちており、恐らく藤原氏は美術が好きで造詣が深いのだろう。でないとこんな話は浮かばない。

ただここからがいけない。登場人物たちやプロットが非常に類型的になっているのだ。
モラトリアムな主人公が事件に巻き込まれ、望むと望まざるとに関わらず、銀座の中心に住みながら家とコンビニの往復でしか毎日を過ごさなかった日々から一転して赤坂のカジノや京都の亡き妻の弟の家まで行く羽目になり、そこから晴海の倉庫で銃撃戦へと展開していく。
原田という謎めいたカジノのマネージャーが味方に付き、記憶力と洞察力が高い上に身なりは優雅、さらに格闘能力も高く、おまけにゲイであるというなんとも作られたような便利な登場人物に、亡き妻の英子に似たヒロイン加納麻里は21歳の若さにしては世間だけでなく、アメリカ社会のことまで知っており、フランス語まで解する。さらになぜか主人公を気に入り、最後は命を懸けてまで主人公の危機を救い、散っていく。

また一介の元サラリーマンが暴力団と手を組み、さらに一介の零細中古ディーラー元社長が一流の拳銃使いとなっている。
とにかくそれぞれの登場人物に設定を盛り込みすぎなのだ。年齢と持っている能力の高さ、成熟度が釣り合わない気がした。いわばプロットを成立させるために登場人物たちに設定を押し込めている感じだ。また人間関係も狭すぎる。このバランスの悪さが読書中、常に頭に付きまとってしまった。

このように中の餡子は非常に美味しいのに昔子供の頃に食べた質の悪い外側の皮がパサパサな饅頭のような作品になったのは誠に残念だ。まさに昭和の味わいといった古めかしさを感じた。
既に鬼籍に入っており、今はもう数限りある残された作品を愉しむしか術はないが、江戸川乱歩賞受賞後、直木賞受賞後の1作としてはこのプロットはなんとも類型的すぎる。刊行年の年末ランキングにランクインしなかったのも頷ける。彼の作品は全て持っているのでそれらが藤原伊織という名を刻むだけの価値あることを強く望みたい。

No.7 7点 あびびび 2017/08/25 14:46
甘党のひきこもりっぽいお兄さんが、突然切れ切れのハードボイルドの主役になる…そういう設定は嫌いではないが、あまりにスーパーマンすぎないか?これはおそらく、ふがいない人生を余儀なくしている私の、主人公に対するやっかみだろう(苦笑)

最愛の妻の自殺と、妻によく似た女性の犠牲的行動が、どこかもの悲しい。

No.6 8点 itokin 2014/10/22 18:07
さすが東大文学部卒、この人は頭がいいなあ、初っ端から読者を引き込む力、緻密な計算された展開、まるで翻訳ものを読んでるようしゃれた会話など久しぶりに堪能しました。最後が少し悲しいのでこの点数としました。私も主人公のような性格になりたかったなあ(凡人には無理か)。

No.5 5点 蟷螂の斧 2014/01/24 17:08
ストーリーの展開はスピード感もあり、また純文学的な香りも漂い結構楽しめました。しかし、ミステリー要素の2つの主題に疑問符がつき、後味はあまりよくありません。一つは妻の自殺の原因~いまひとつ妻の心情(必然性)が理解できないこと、また究明場面も曖昧のままですっきりしない。あえてそのようにしているのか?・・・。二つ目はラストシーン~大いに疑問です。美術に関する価値観が相違していると言われればそれまでですが・・・。

No.4 7点 E-BANKER 2014/01/12 23:21
乱歩賞&直木賞ダブル受賞のデビュー作「テロリストのパラソル」に続く第二長編がコレ。
1997年発表。いかにも藤原伊織らしい雰囲気のある作品。

~自殺した妻は妊娠を隠していた。何年か経ち、彼女にそっくりな女と出会った秋山だが、突然まわりが騒々しくなる。ヤクザ、闇の大物、昔働いていた会社のスポンサー筋などの影がちらつくなか、キーワードはゴッホの「ひまわり」だと気付くが・・・。名作「テロリストのパラソル」を凌ぐ、ハードボイルドミステリーの傑作~

これぞ“伊織流ハードボイルド”とでも言いたくなる・・・そんな作品。
「テロリストのパラソル」にしても「てのひらの闇」にしても「シリウスの道」にしても、作者の作品には何とも言えない“匂い”があるのだ。
どの作品にも、必ず過去を背負った影のある主人公(男性)が登場する。
主人公は表の世界に背を向けたような生活を送っているのだが、ちょっとしたことから事件に遭遇し、徐々にその大きな渦に巻き込まれていく・・・

これを「ワンパターン」と呼ぶのはたやすいのだが、それでも引き込まれてしまう。
まるで花の蜜に誘われるミツバチのように・・・
本作の主人公は高校時代、天才的な絵の才能を見せていたグラフィックデザイナー。
彼が、ゴッホの幻の「ひまわり」を軸とした事件に巻き込まれていく。
過去に触れ合っていた知人たち、そして事件の渦中で知り合った人たち・・・
その登場人物ひとりひとりが魅力的な役割を与えられているかのように、ドラマを彩っていくのだ。

なんだかミステリーの書評っぽくないけど、こんな感想になってしまった。
とにかく早逝が惜しまれる作者。これで、長編作品はすべて読んだことになるのが・・・それが何とも切ない。
まだまだ新作が読みたくなる、そんな作者&作品だった。
(確かに「テロリストの・・・」よりこちらの方が良いと思う・・・)

No.3 9点 北浦透 2004/09/08 16:49
「ひまわりの祝祭」
自分だけのブランドを持っている作家は強い。藤原伊織の場合は抜群の文章力と魅力的な登場人物。この二つが揺るがないので、この作家の場合、どんな作品を書いても水準以上の出来になる。
そのなかでも本作は出色の傑作。最後までスリリングな作品であり、そのなかでユーモアも光る。とても面白かった。

No.2 9点 ガッチョン 2003/07/14 19:39
私も「ひまわりの祝祭」で、
相変わらずの驚異的な文章力の会話にさらに個性バリバリの登場人物でさらに驚嘆すべき事件の展開による驚異的なテクニックを上乗せした作品。前回の「テロパラ」は多少わかり難い所もあったのだが、今回はやたら膨大な量の伏線であるにもかかわらず、十分すぎる位のこのわかりやすさ。最高です。
減点1はラストのシーン、コレ、納得いかないかも。

No.1 9点 小湊 2003/07/14 02:07
「ひまわりの祝祭」
個人的には「テロリストのパラソルより、こちらの作品の方が印象に残っている。甘党の主人公に妙に共感
するところがあったせいか。ミステリーともハードボイルドともつかない微妙なラインを行く独特の作風が
好き。キャラクターも一人一人魅力に溢れている。
それにしてもこの方は、文章がうまい。
無駄がなくそれでいて言葉が足りないことがない。
「9」という評価の中には、この卓越した文章力が
かなりのウェイトを占めている。お見事。


藤原伊織
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てのひらの闇
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