皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.02点 | 書評数: 1782件 |
No.1722 | 5点 | 救済 SAVE- 長岡弘樹 | 2023/01/07 15:06 |
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現在、最も短編を量産している作家といえば、長岡弘樹の名前を思い浮かべる・・・。そんな作家に育った(?)作者が贈る比較的初期作品が並ぶノンシリーズ短編集。
「教場」シリーズがついに木村拓哉主演で連続地上波ドラマ化するなど話題の作者だけに期待できるのか? 単行本は2018年発表。 ①「三色の貌」=随分と回りくどい方法を取るものだ。こういう病(症状?)があるとは知らなかったけど・・・。 ②「最期の晩餐」=これもなんていうか変わった状況だねぇー。こんなややこしいことをしなくても、はっきり言えばいいのに! ③「ガラスの向こう側」=やや安直かな。設定は凝っているのにね。 ④「空目虫」=これはラストの一行でびっくりさせられる。そうだったのかぁー。 ⑤「焦げた食パン」=”焦げた食パン”のある変わった使い方は何でしょう? その答えは・・・(書くとネタバレ) ⑥「夏の終わりの時間割」=これもちょっと変わった設定でなかなか呑み込めなかった。で、オチもこれまでと同一の方向である。 以上6編。 いかにも、作者の初期作品っぽい作品、っていうのが並んでいる印象。どれもラスト当りにひと捻りしてあるんだけど、設定に無理矢理感がある分、読者に察しやすくなっているのが玉に瑕。 収録の全編が「メフィスト」誌で発表されているということだけど、あまりそぐわないように思ってしまう。 最近はだいぶ手馴れてきて、深みのある作品も書いている印象だけど、本作はまだまだ読み応えという点では見劣りするかなという評価。 (ベストはどれかな・・・。敢えていえば④か⑥だけど) |
No.1721 | 6点 | スケアクロウ- マイクル・コナリー | 2023/01/07 15:04 |
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今回の主役はジャック・マカヴォイ。そう、あの「ザ・ポエット(詩人)」事件以来の登場となる。ロサンジェルス・タイムズ誌の記者でありながらFBIやハリー・ボッシュ顔負けの行動力を持つ男。
前回の事件以降、離れてしまった恋人でFBI捜査官であるレイチェルとともに連続猟奇殺人事件の後を追う。 2009年の発表。 ~人員整理のため二週間後に解雇されることになったLAタイムズ誌の記者マカヴォイは、LA南部の貧困地区で起こった「ストリッパートランク詰め殺人」で逮捕された少年が冤罪である可能性に気付く。スクープを予感して取材する彼を「農場(ファーム)」から監視するのは案山子(スケアクロウ)。コナリー史上最も(?)不気味な殺人犯が登場~ 今回の相手は「詩人」に負けず劣らず強力な奴。何しろネットワークを自由自在に操れるという現代社会において最も強力な武器を有しているからだ。コナリーにしろ、ディーヴァーにしろ、ネット社会を背景にした事件、犯人を最近は手掛けることが増えてきたように思うけど、それも時代の流れなのと同時に、読者にとっても身に迫る危機感を感じやすいのだろう。 で、今回疑問に感じるのが、マカヴォイの相方であるヒロイン役のレイチェル。今回もFBI捜査官として凛々しい姿を見せるとともに犯人の策略にかかってピンチに陥るなど、実にヒロインらしい役どころ。それはいいんだけど、レイチェルといえばハリー・ボッシュの愛しい相手としてもシリーズに再三登場する女性のはず・・・ってことは二股? と同時に、ボッシュとマカヴォイは同一の世界観を共有している存在ということになる、当然。じゃあボッシュとマカヴォイは裏と表で存在していることになる。なんかゾクゾクしてきた。まぁコナリー作品の各世界観は共有しているし、登場人物が重複しているのもファンならば自明のことではある。 (そういえば過去作「天使と罪の街」でもふたりはクロスしてたような・・・) 本作はマカヴォイが事件の裏の構図に気付いた経緯がちょっと安易かなとは思ったけど、後はいつものコナリー節というか抜群の安定感だった。 敵役の「スケアクロウ」。うーん、最強というほどではなかったのが残念。もう少しブッ飛んだキャラでも良かった気はするが・・・。 いずれにしても次作も楽しみ。 |
No.1720 | 7点 | それまでの明日- 原尞 | 2023/01/07 15:02 |
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遅くなりましたが、新年あけましておめでとうございます。
毎年恒例(?)となりましたが、どの作品を新年一発目にセレクトするかということで・・・2023年の“読み始め”はコレでした。 2018年の「このミス」第1位にも輝き、作者が発表まで14年も暖めた(?)「探偵沢崎シリーズ」の最新作。恐らく読み応えのある作品のはず。 単行本は2018年の発表(当たり前!)。 ~11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の沢崎のもとに望月晧一と名乗る紳士が現れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、内々のことなので決して会社や自宅へは連絡しないようにと言い残して去っていった。沢崎が調べるとすでに女将は癌で亡くなっていた。顔立ちのよく似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのかそれとも妹か?しかし当の依頼人が忽然と姿を消し、いつしか沢崎は金融絡みの事件の渦中に。14年もの歳月を費やして遂に完成したチャンドラーの『長いお別れ』に比肩する渾身の一作~ 本作を読んでいて驚かされたのは主につぎの2つ。 1つめが単行本241頁で主要登場人物のひとりである海津一樹が沢崎に向かって放ったひとこと。まさかの展開!って思ったけど、これは次章で肩透かしのように否定されてしまう。いやぁービックリした。これが真実だったらもうドラマのような展開だったんだけど・・・(どっちもフィクションだから「ドラマのような」は変かな?) そして2つめは当然ラスト。どなたかが書かれているとおり、オンボロビルにあった探偵事務所から移転した沢崎が、記念すべき移転オープンの日にかの東日本大震災に遭遇してしまう! これこそまさか、だろ。「生きている」というセリフどおり、命に別状はないようだが、物語はここで唐突に終わりを迎える。 こんなサプライズを用意するなんて憎らしい!っていう感じなのが、どうにもこれは過去作に比べて随分と「薄味」に思える中身に作者がスパイスとして「敢えて」加えたものなのではと邪推してしまう。 「薄味」と書いてしまったけど、言い換えるなら「迷走」なのかもしれない。紹介文のとおり、事件の発端はハードボイルドではお馴染みの「人探し」或いは「身辺調査」に過ぎなかった。それが、偶然が偶然を呼ぶ形でどんどん繋がり、ついには作者ですら制御不可能なほど広がってしまった・・・と思えるのだ。それを「迷走」と評してしまうのだけど、最終的に広がっていった事件は実は単なる竜頭蛇尾、取るに足りないチンケな事件だったということになる。結果として残ったのは、最初の依頼=「人探し」或いは「身辺調査」なのだ。 ここが、どうにも過去作に比べて緊張感の欠如という作品の雰囲気になってしまっているような気がする。物語の終章。ついに件の「望月某」の正体も判明するのだが、正直なところ、その素性も経緯も謎も、そこまで引っ張ることだったのか、という疑問が湧いてきた。 本作は完成まで14年の歳月を費やした作品である。ワインなら14年のうちに熟成するが、本作は14年のうちに迷走してしまった。そして14年もの間、緊張感を保つのは無理なのは道理である。 本作の裏テーマは「父と息子」ではないかと思うのだが、沢崎も齢50を超え、いい意味で熟成され、悪い意味で衰えた。そんな印象を強く持った。 もちろん秀作である。こんな大作、書ける人なんてそうはいない。読み応え十分だし、シリーズファンなら尚更、発表が待ち遠しかったに違いない。かくいう私もその一人。 でも如何せん。ハードボイルドに老いは禁物なのかもしれない。人は誰でも年をとる。体も精神も熟成され、そして同時に衰え始める。仕方ないこと。作品だって同じだろう。そうだ、やっぱり「熟成」なのだ。そう思って「熟成」に対する評点にしたいと思う。 (今年も訳のわからない書評になってしまいそう・・・) |
No.1719 | 7点 | 招かれざる客たちのビュッフェ- クリスチアナ・ブランド | 2022/12/17 14:25 |
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クリスチアナ・ブランドの短編集として、創元文庫のなかでも特に著名な作品だろう本作。
ただ、これまで読了した作者の長編は、「世評ほど面白くない」というのが個人的な感想だけに、本作もどうなのか気になるところ。 1983年に編まれ、発表されたもの。 ①「事件のあとに」=ひとりの老刑事が解決した事件の顛末を後にコックリル警部の前で語る、という形式。ある劇団が舞台となるのが作者らしい。トリックは実に単純。 ②「血兄弟」=""乳兄弟”ではなく”血兄弟”なのがミソ。仲の良い兄弟が犯罪に手を染めると・・・ ③「婚姻飛翔」=最初の四作はコックリル警部ものとなるが、中ではやはりこれがベスト。「女王蜂」を地でいく美しくかよわき女性。女王蜂に関わった四人の男の運命は?ってことで、ドンデン返しが見事に嵌っている。 ④「カップの中の毒」=こんな女、バチが当たればいいと思っていた矢先、やってくれました。コックリル警部が! ⑤「ジェミニー・クリケット事件」=さすがに名作という評価に相応しい作品だった。目くるめく推理の果てに辿り着いた真相はなかなかの破壊力を持っていた。2022年の現在目線では既視感はあるけど。読者の予想の斜め上を行ってやろうとする心意気が良い。佳作。 ⑥「スケープゴート」=この話ってタイトルと合っているのだろうか?途中までは魅力的な謎に引っ張られていたけど、だんだんよく分からなくなっていった。 ⑦「もう山査子摘みもおしまい」=何とも言えない雰囲気。なんかゴニョゴニョした展開とでも言えばいいのか・・・ ⑧「スコットランドの姪」=正直よく分らんし、頭にスッと入ってこなかった。 ⑨「ジャケット」=ひとことで言えば、ズバリ「因果応報」だ。以上。 ⑩「メリーゴーランド」=要は、巡り巡るというお話(だと思う)。 ⑪「目撃」=?? 何が言いたい? ⑫「バルコニーからの眺め」=最後の一撃が読みどころ。単に女の妄想か? ⑬「この家に祝福あれ」=これも⑫同様、最後の一撃をくらってからが勝負。 ⑭「ごくふつうの男」=「ごくふつう」ではない。 ⑮「囁き」=いわゆる「悪女」。しかもまだ16歳。身内を殺人犯にまで仕立てた結果は・・・ ⑯「神の御業」=そういうことにしておこう、というタイトル。 以上16編・ いやいや、さすがに読みごたえがあった。16もの短編ということで、単刀直入に言うなら「玉石混交」のところはある。ジャンルにしてもド本格からよく分からん話までバラエティーに富んでいるし、作者の力量の高さは伺える内容だ。 やはり、世評の高い③や⑤はすばらしい作品で、さすがに先人たちの評価は正しかったということ。ただ、その他の作品も作中に尋常ではないほどの仕掛けが施されていて、短編の見本のような作品も多い。 全部読むと長いが、「読んでよかった」と思えるのは確か。 (⑤は相当スゴイし面白い。③も負けず劣らず。後半は割とワンアイデア勝負の作品が目立つかな) |
No.1718 | 5点 | θは遊んでくれたよ- 森博嗣 | 2022/12/17 14:22 |
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Gシリーズの二作目。Φの次はθか・・・。
本シリーズになってますます混沌としてきた印象なのだが実際はどうなのか? 2005年の発表。 ~25歳の誕生日にマンションから転落死した男性の額には、「θ」という文字が書かれていた。半月後、今度は手のひらに赤い「θ」が書かれた女性の死体が。その後も「θ」がマーキングされた事件が続く。N大の旧友・反町愛から事件について聞き及んだ西之園萌絵は、山吹ら学生三人組、探偵の赤柳らと推理を展開する~ 今回は・・・なんともフワフワした事件と展開。 飛び降り自殺にしか見えない事件が連続して起こるのだが、死者の体(靴の中の場合もあったけど)のどこかに必ず「θ」の文字が残されている。 つまりは「ミッシング・リンク」が本作のメインテーマになると思われる。 のだが、そこは森ミステリー。当然一筋縄ではいかない。 ロジックの核となるのは「同じ口紅」(→これで「θ」が書かれた)。 今回も一応探偵役は海月(くらげ)が務めるのだが、海月の推理に関して、犀川はとっくに気付いていた模様。(犀川を通じて萌絵も分かっていたという流れ) それにしても、前作でも感じたことだが、読者をまるで突き放したように見えるのは勘違いなのだろうか? 前作の密室といい、本作の不可解な連続自殺といい、提示される謎は魅力的なのだが、実に静か~に進行していく。そして、真犯人も恐らくコイツという程度だし、動機なんか「多分・・・」で終わってしまう。 本作一番のサプライズは、「保呂草」と「真賀田四季」の名前が登場したこと!やはり本シリーズも森サーガの中にガッチリ組み込まれていることが分かったことで次作以降の展開に注目。 |
No.1717 | 5点 | 首挽村の殺人- 大村友貴美 | 2022/12/17 14:21 |
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2007年(第27回)横溝正史ミステリ大賞の大賞受賞作であり、作者のデビュー長編。
改めて調べてみると、個人的に大賞受賞作で読了したのは、長沢樹の「消失グラデーション」だけということが判明・・・ ということで単行本も2007年の発表。 ~秋田県との県境に程近い岩手県の山奥にある鷲尻村。長く無医村状態が続いた当地に待望の医師が赴任した。その直後、彼は何者かに襲われ帰らぬ人となった。巨熊に襲われたと噂される彼の代わりに新たに赴任した医師・滝本。だが、着任早々彼は連続殺人事件に遭遇することとなる。先祖の祟りに縛られたこの村で、彼らを襲うのは伝説の「赤熊」なのか、それとも・・・?~ いやいや、なんて重苦しいストーリーなんだ。約15年前とはいえ、世の中はとっくにIT化が進み、電化製品(死語?)に囲まれた生活が当たり前となっていた時代なのに、「巨大な熊」が登場するわ、「江戸時代の飢饉に纏わる恨みつらみ」が事件の根にあるわ・・・ いくら岩手県の山奥とはいえ、時代錯誤も甚だしいのでは?という感覚で読み進めた。 当然これは「それらしい」雰囲気づくりであるし、横溝ファンを公言していた作者ならではなのかもしれない。 事件は途中で村に伝わる昔ばなしのとおり起こっているという、いわゆる「見立て殺人」の様相を呈してくる。それと同時に、件の「赤熊」の襲来による悲劇も加わり、寒村は大混乱に陥ってしまう。 ここまで未曽有の事態なのに、村民は割と冷静なのが何ともアンバランス。(熊に襲われるシーンなどは、もっとサスペンスフルにできたのではなどと思ってしまう) そう、何とも「アンバランス」なのだ。 事件の真相も、実はここまで散々語ってきた寒村の歴史や「見立て」とは別の次元の要素で解決を見てしまう。 そこはミステリーとしてはサプライズというか、作者なりの「仕掛け」なのかもしれないが、個人的には異なる「要素」がうまく混じり合わないまま終盤までもつれ込み、結局読者の推理などとは別次元の要素で解決してしまっているではないかという感覚になってしまっている。(表現が拙くてスミマセン) 確かに、そこは序盤から「いかにも何かありそう・・・」という伏線らしきものは置かれてはいたんだけどなぁー。「いかにもコイツでは」という真犯人を読者に想起させる手法などとともに、やはりデビュー作という「粗っぽさ」は目についた。 でも、まぁ仕方ないよね。デビュー作だし。単行本巻末には選考委員のコメントがあるけれど、割と厳しい選評が多くて「よく受賞出来たなあ」という感じがしないでもない。 当然ながら個人的にはこういう本格ミステリーは大好物だし、時代錯誤も大歓迎だし、ガジェット満載なのもウェルカムなのだが、本作はそういう部分とは別のところで、高評価はしにくいなという印象になった。 (探偵役となる藤田警部補はその後シリーズ探偵になるんだね。読んでみようか・・・微妙) |
No.1716 | 7点 | 虎の首- ポール・アルテ | 2022/11/17 14:18 |
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アラン・ツイスト博士を探偵役とするシリーズの五作目。
相変わらず本家カーを意識(し過ぎ)てるかのような作品世界なのだが、今回は如何でしょうか? 1991年の発表。 ~休暇から戻ったツイスト博士を出迎えたのは、事件の捜査で疲れ切ったハースト警部。郊外のレドンナム村で、次いでロンドンの駅で、切断されスーツケースに詰め込まれた女性の腕と足が見つかったのだ。警部の依頼を待つまでもなく事件に興味を持った博士だったが、すぐにその顔色が変わった。駅から戻って蓋を開いた博士のスーツケースから出てきたものは・・・。一方事件の発端となったレドンナム村では、密室でインド帰りの元軍人が殺される怪事件が起きていた。なんと犯人は杖から出現した「魔神」だというのだが・・・~ 今回はいつにもまして「不可能趣味てんこ盛り」・・・という雰囲気。あと、割と「ミスリード」がいつもよりも旨く仕掛けられているように思えたのだが、他の皆さんは結構辛口な評価なんだねぇー 本作は、紹介文にもあるとおり①「バラバラ死体が複数のスーツケースから発見された事件」②「レドンナム村で頻発した盗難事件」③「同じ村で発生した密室殺人事件」(by「虎の首」というインドの魔杖)、の三つの筋が同時に走っている。となると、当然にこの三つがどのように絡んでいるのか?というのがプロットの軸になるはず。 タイトルからして③がメインになるのかと思いきや、中心となるのは①の方。 まず③に関しては「密室」が当然にクローズアップされるのだが、そこは「抜け穴」がかなり大胆に用意されていて正直腰砕けでしかない。「虎の首」に関してはある特徴がカギにはなるのだが・・・。フーダニットも動機からすれば自明とも言える程度のもので、ここにサプライズはない。 で③なのだが、終盤に判明する「ある仕掛け」についてが本作一番のサプライズというか、騙しの構図となる。なるほど・・・。これについては伏線も結構あったし、動機についてのアプローチからも旨いと感じた。ただし、これを「連続殺人」としたのは明らかにやりすぎだし、作品全体としても効果は薄かったのではないか? ②は①につながる「偶然」を演出するためのいわば材料とでも言えばいいのか。この偶然があったからこそ、真犯人は複雑な仕掛けを用意しなければならなくなったのだ、という傍証としてあるのだろうけど、うーん。あまり有機的につながっているとは言えない(ただし、作品のオカルト感や不可能趣味を煽るという役割は果たしたかも)。 ということで、いつもどおり「ツッコミどころ」はあちこちにあるんだけど、全体的なバランスやサプライズの大きさという意味では、シリーズでも1,2を争う出来ではないかと思えた。ラストのツイスト博士のとった行動に反感を覚える読者が多そうなのだが、まぁそこはフィクションだしね。 最初に戻るけど、これこそ「カーらしさ」全開で、全然知らずに読んで「カーの作品」って言われれば「そうかな」と思ってしまいそうだった。(これは作者の本意なのかな?) (トランク+死体+列車っていうと「黒いトランク」とそれに類した作品群が思い浮かぶけど、日欧でこんなにテイストが違ってくるのは、ある意味興味深いし面白い) |
No.1715 | 5点 | インド倶楽部の謎- 有栖川有栖 | 2022/11/17 14:14 |
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作者のシリーズでは最も著名な「国名シリーズ」。「モロッコ水晶の謎(2005)」以来長らくの中断があっての九作目となる本作。
この作品名は本家エラリー・クイーンも執筆を企図していたといういわく付きのタイトルということが作者あとがきにも記されている。 結構なボリュームの長編。2018年の発表。 ~前世から自分が死ぬ日まで・・・。すべての運命が予言され記されているというインドに伝わる「アガスティアの葉」。この神秘に触れようと、神戸の異人館街のはずれにある屋敷に「インド倶楽部」のメンバー七人が集まった。その数日後、イベントに立ち会った者が相次いで殺される。まさかその死は予言されていたのか? 捜査をはじめた臨床犯罪学者の火村英生と推理作家の有栖川有栖は、謎に包まれた例会と連続殺人事件の関係に迫っていく!~ うーん。思ったより評価は高いんだねぇ・・・ 今や特殊設定下でしか成立しなくなったかのような本格ミステリーに敢然と立ち向かっている感さえある作者。決して「日常の謎」などという手軽な(?)謎には陥らず、本格ミステリーの王道をひとり背負っているかのような状態(言い過ぎですか?)。 それは分かるのだが、個人的に本作は「いただけない点」が多いように思えた。列記するならば、 (1)長すぎる これは「無駄に」という言葉をつけてもよいように思う。もちろん長編なんだから、登場人物たちの人となりを十分に記す必要はあるのだが、それを勘案してもなぁー。ミステリーとしての「謎」や「仕掛け」の大きさと分量がマッチしてないと思えた。 (2)動機 これは他の方も書かれてるし、作者も「敢えて」「分かっていて」というところだろうから、多くは書かない。けど、突拍子もないことは明らかだし、読者の推理の材料としても弱い。 (3)フーダニット 犯人特定のロジックがあまりに弱過ぎでは? ある場所でのある偶然が真犯人特定のカギとなっているが、とてもではないが犯人特定の材料にはなっていない。(結局、犯人が簡単に自供を始めることで解決につながってしまった) あたりだろうか。 ただ、作者もそんなことを思われるのは百も承知で書いていることが「作者あとがき」に書かれていて、「それは好みの問題では?」ということらしい。 作者としてはあらゆるタイプの本格ミステリーを書きたいし、読者の評価が分かれることは全然かまわない、というスタンスのようだ。まぁそれは確かにそうだし、事実本作の評価は悪くない(らしい)。 前々から書いているとおり、個人的に「火村・アリス」シリーズとは相性が悪くて、「面白い」と思える作品に殆ど出会えていない。本作ではそのことをやはり痛感した次第。 でも、やはり作者は現在の本格ミステリーにおいては、並ぶところのない第一人者であるということは間違いないのだろうとは思う。 そんな信頼感、安定感を感じさせてはもらった。 でも、つぎは仲間たちに囲まれた関西圏ではなく、アウトサイダー的な環境に置かれる火村の姿を書いてほしいかな。 (本作は神戸の観光案内書的な役割もあり。いいよね、神戸の街は) |
No.1714 | 6点 | コロナと潜水服- 奥田英朗 | 2022/11/17 14:12 |
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もう、絶対に面白い奥田英朗の短編集。(敢えて「絶対」と言ってみる)
今回も、ちょっと笑って、ちょっとほっこりして、ちょっとキュンとする、そんな短編集となっていて欲しい。 2020年の発表。 ①「海の家」=時折登場する、作者の分身ともいえる登場人物。今回は、そんな彼が妻の不貞に怒り、一人暮らしを始めるところから始まる。存在感が強すぎる「幽霊」なども出てくるけど、個人的には「やっぱり娘はいいよなぁー」「羨ましい!」と、ふたりの「息子」しかいない私は強く思ってしまった。 ②「ファイトクラブ」=むかし、ブラッド・ピット主演の同名映画があったよね(古いな)。ただし全く関係なし。リストラで閑職に追い込まれた中年男性たちがボクシングにはまっていく物語。なぜか毎日神出鬼没に現れる老年のコーチの正体は? 男は本気で殴り合いをすると一皮むけるというコーチの主張はなぜか身に染みた。 ➂「占い師」=やっぱり女性って占いにはまりやすいんだねぇ・・・ということを改めて実感させてくれる作品。結婚相手はできるだけグレードの高い相手がいいけど、釣り合いが取れてないと結局しんどいっていう物語。昔からそんなこと変わらんよ。 ④「コロナと潜水服」=これはごく初期のコロナ禍の頃のお話。この頃は感染者が何百人になっただけで大騒ぎしてたんだよなぁー。あの頃なら笑えない話だけど今になってみると笑える話。未だに続いているなんて、想像つかなかったなぁー。 ⑤「パンダに乗って」=パンダは動物園の人気者の方ではなくて、70年代に一世を風靡した自動車。それにしても「いい話だ!」。で、どことなく村上春樹テイストのような気がする。こんなナビが開発されないものかと思っていたけど、AIが進化していけば夢ではないのかもしれない。「甘酸っぱくて切ない大人の物語」。これが間違いなく本作ベスト。 以上5編。 相変わらず「うまい」ですなぁー、奥田英朗は。 シリーズ前作っぽい作品集(「わが家のヒミツ」)では、作者の老成(?)ぶりに嘆いた書評を書いたんだけけど、本作はいい意味で吹っ切れてる感じ。で、キーワードは「ノスタルジー」なのかな。 そして、全作品に通じるのは、「幽霊」っていうか、本来いるはずのない「人物」に影響された物語、ということ。 これが実にいい味を出している。 主人公たちも「オカシイ?」とは思いながらも、そのことを受け入れ、最終的にはちょっとしたハッピーエンドを迎える。 だんだん自分も「あの頃はよかったなぁ・・・」と思う機会が増えてきた今日この頃。時代の移り変わりは早すぎて、ついていけないことを「ついていかない」ということに無理やり置き換えようとしている。 もちろん、「ついていかなくても」いいんだけど、そこまで強くはなりきれない自分もいたりする。 そんな自分に、「まぁそんなんでもいいんじゃない」って思わせてくれる作品。そんな感想もありでは? |
No.1713 | 6点 | マギンティ夫人は死んだ- アガサ・クリスティー | 2022/10/29 12:22 |
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エルキュール・ポワロ24作目の長編。(未読のポワロ物のあと僅か)
今回は英国の田舎で発生したごく普通の殺人事件をポワロが旧知の警官に頼まれて再調査するというもの。 1952年の発表。 ~ポワロの旧友であるスペンス警視は、マギンテイ夫人を撲殺した容疑で間借り人の男を逮捕した。服についた血という動かしがたい証拠で死刑も確定した。だが、事件の顛末に納得のいかない警視はポワロに再調査を要請する。未発見の凶器と手掛りを求め、現場に急行するポワロ。だが、死刑執行の時は刻々と迫っていた!~ 紹介文を読むと、タイムリミットまで差し迫った緊迫感ある展開なのか?と想像してしまうけど、実際は田園風景が広がる英国の田舎で、かなりのんびりした展開が続いていく。 ポワロも要請を受けたはいいけど、関係者に話を聞きながらも、なかなかこれという手掛りがつかめないまま時は過ぎていくというまだるっこしい展開。 ただ、被害者が気にしていた「新聞日曜版に出ていた4枚の写真」という1つの手掛りをもとに、事件は大きく動いていく。そして判明する意外な真犯人・・・ まぁさすがの旨さですな。 緻密に計算された作者の「老獪な技法」が堪能できます。 他の方も書かれてますが、今回は割と登場人物が多くて、そういう意味ではフーダニットの興味は強い。どうせ、作者のことだからミスリードや「いかにも」という疑似餌が撒かれてんだろうな、という感覚で読み進めていくことになる。 で、この真犯人なのだが・・・。確かに、数多い登場人物の中では、派手めというかキャラが立っていた人物だったなぁーという読後感。この当りは、あまりに地味すぎるヤツを犯人にはできないしなぁーっていう苦しさも窺える。 今回、ポワロが自分が事件の再調査のためにやってきており、真犯人は別にいるということを敢えて喧伝して回り、真犯人の動きを炙り出すという捜査法を行っているのが斬新。自分が名探偵であるということも併せて伝えるのだが、その反応が薄いことに一喜一憂するポワロ、というところに作者のサービス精神というか、ユーモア精神(死語?)が出てて、ほほえましかったりする。 いずれにしても、よくいえば円熟期の作品。多少悪く言えば「晩年っぽい」作品、っていうことかな。決してつまらなくはないし、水準以上の面白さはあると思う。 |
No.1712 | 6点 | グラスバードは還らない- 市川憂人 | 2022/10/29 12:20 |
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「ジェリーフィッシュ」「ブルーローズ」に続く、マリア&漣シリーズの第三弾。
『硝子鳥』=グラスバードの正体とは?NYの摩天楼のど真ん中で起こるど派手な超高層ビル崩落と連続殺人事件。二人が事件に関係するとき、事件は思わぬ方向に進んでしまう。 2018年の発表。 ~マリアと漣は大規模な希少生物密売ルートの捜査中、取引先に不動産王ヒューがいることを掴む。彼には所有する高層ビル最上階の邸宅で秘蔵の硝子鳥や希少動物を飼っているという噂があった。ビルを訪れた二人だったが、そこで爆破テロに巻き込まれてしまう。同じ頃、ヒューの所有するガラス製造会社の関係者四人は、知らぬ間に軟禁されたことに気付く。「答えはお前たちが知っているはずだ」という伝言に怯えて過ごしていると、突然壁が透明に変わり、血だまりに倒れている男の姿が!~ なるほど。他の方々が指摘されている点・・・確かにアンフェアなのかもしれない。 ただ、個人的にそこはあまり気にならなかった。というより、気付かなかった。トリックとは関係ないけど、ジェリーフィッシュだって架空の技術&存在だしな・・・ 過去三作の中ではやや評価が落ちるようだけど、決してそんなことはないと思う。相変わらずデカイ規模で作者の企みは炸裂しているしね。 本作の謎は大きく三つ。(作中でマリア&漣も指摘してます) ①犯人の正体と動機、➁犯人の侵入経路と脱出経路、③超高層ビルが爆破された理由 まぁ前二作を読んでいる身としては、場〇に関する仕掛けはなんとなく察することができたし、それが分かればある程度真相に手が届くことにはなっている。➁についても、隔絶された超高層ビルの最上階というとびっきりの密室なんだけど、その解法は本シリーズならではのもの(当然アレだよね。伏線は十分あったし) ただ、爆破というのは正直必要性は薄いし、それがせいで〇れ〇〇りを疑われる結果を招いてしまっている。 あと、真犯人が企図したシナリオに偶然アレが重なったというのは、本格ミステリーのプロットとしてはやむを得ないとフォローしておく。 あとはグラスバードの正体だが、これも自明とまではいわないけど、それほど複雑なものではない。作者もそこを掘り下げてはいないので、なんとなくスッキリしないところはあるのだが・・・ これでシリーズ三作を読破したわけだが、ミステリーとしてのレベルは高いと思う。プロットは割と同系列なんだけど、見せ方が旨いというか、本格ファンの心の「くすぐり方」を熟知しているという感じだ。 今のところ、あと一作短編集が出ているようだが、できるだけ続けてほしいシリーズ。 |
No.1711 | 5点 | 金田一耕助の帰還- 横溝正史 | 2022/10/29 12:19 |
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金田一を探偵役とする短編のうち、後で長編化されるなど手を加えられた作品を集め、光文社が編んだ短編集。
角川文庫など別の版元で読まれた方も多いのではないか? 本作は1996年に刊行されたもの。 ①「毒の矢」=都内の新興住宅地で住人の醜聞をバラすぞという脅迫状が届く事件が頻発する。隣の奥さんとのレズ関係をバラと脅された関係者たちが集まった舞台で起こる殺人事件。しかも被害者の背中にはトランプ柄の刺青が・・・。トリックとしてはかなりラフというか大雑把なもの。脅迫状の使い方も、わざわざそんな遠回しなことしなくても・・・という気がした。 ②「トランプ台上の首」=隅田川沿いのマンションの住人へ総菜を船で売りまわる男が発見した生首。被害者はストリップダンサーだった、といういかにもの時代設定。このトリックも、まぁいかにも昭和初期だなぁーというもの。都合よく腹違いの〇〇なんかが登場すると、ちょっとげんなりするよなぁ。 ③「貸しボート13号」=ボートの上で発見された男女の死体。二人とも首がちぎれかかっているほか、絞殺と刺殺の両方が加えられていた。この真犯人は不憫だな、というかこの動機はなかなか首肯し難い気がするし、なぜ死体に手を加えたのかに関してもリアリティに欠ける。 ④「支那扇の女」=警官の前で自殺未遂を企てた女。彼女は自身が夢遊病に犯されていると告げ、更に自分は「毒婦・八木克子」の生まれ変わりだと言った。トリックというか事件の構図としては単純なもの。金田一が告げたある齟齬については、「そりゃ分らんよ」という気がする。 ⑤「壺の中の女」=都内の高級住宅地で起こった惨殺事件。事件の直前、被害者はある壺を譲り受けていた。その中には、曲芸師の女が潜んでいたのか? これもプロットは単純。曲芸を目くらましに使い、真相は単純な愛憎劇。 ⑥「渦の中の女」=高島平団地を思わせる新興団地で起こった殺人事件。そしてまたも横行する暴露手紙。その内容はまたもレズ関係の告発!(①と一緒じゃん) この真相は正直つまらん。 ⑦「扉の中の女」=壺。渦の次は「扉」か・・・。銀座の裏通りで発生した殺人事件。凶器はピンで首筋をブスっ! ただこれも小品かつ地味。 ⑧「迷路荘の怪人」=もちろん「迷路荘の惨劇」の短編版、というか2回改稿されているということでは原型と言った方がいい。正直、原型版は何の面白味もない駄作である。ただ、片腕の男や鍾乳洞の冒険というエッセンスの萌芽は見受けられる。 以上8編。 割と著名な作品が並んでいる印象はあるけど、どれも改稿前のせいか、どうもピンボケ気味で面白味に欠ける印象が強い。 作者の「改稿癖」はやはり本物ということなんだろう。 どれも改稿を繰り返すことで、作品が熟成され、名作に昇華していく(当然しないものもあるけど)。 ということかな。 プロットとしては似たようなベクトルの作品が多く、逆に言えば「作者のくせ」というのがよく分かる。つまりは「美女には気をつけろ!」ということだ。 |
No.1710 | 6点 | 希望の糸- 東野圭吾 | 2022/10/02 13:45 |
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「祈りの幕が下りる時」に続く、加賀恭一郎シリーズ作品。当シリーズも数えて十作目に突入。随分と長いシリーズとなったものだ。
それだけ作者の思い入れも強いシリーズだろうし、「ガリレオ」シリーズと並ぶ作者の代表的シリーズとなった。 2019年発表。 ~小さな喫茶店を営む女性が殺された。警視庁捜査一課の加賀警部補と松宮が捜査しても、被害者に関する手掛かりは「善い人」というだけ。彼女の不可解な行動を調べるうち、ある少女の存在が浮かび上がる。一方、金沢の地でひとりの男性が息を引き取ろうとしていた・・・。彼の遺言書には意外な人物の名前があった。彼女や彼が追い求めた「希望」とは何だったのか?~ 前作で、追い続けていた家族の問題に一応のケリをつけた加賀に代わり、本作では松宮が自身の「家族」の問題に直面するとともに、「家族」そして「血」にまつわる殺人事件に深くのめり込むこととなる。 本作、本格ミステリーとしては語るところは少なく、特に見るべき個所もない。真犯人は中盤から終盤に差し掛かる辺りで確定してしまうし、何かしらのトリックや仕掛けがあるわけでもない。 なので、他の方も書かれているとおり、そこら辺に期待してはダメだ。 本作のキーワードはやはり「親子」ということになるのだろう。特に、「親」が「子」にかける想い。 世の中には「子」を追い求めても叶わない人もいる。苦労して手に入れた「親子関係」に苦悩し、傷つけあい、壊れていく「親子」もある。 それは人それぞれ、様々なケースがあると言ってしまえばそれまでなのだが、作者は「親子の絆」こそ永遠であり、特別なものなのだと言いたいに違いない。 私も2人の子を持つ親なのだが、同時に「子」でもある。そんなの当たり前だろっ!って思っていたのだが、それは決して当たり前ではなく、決して得難い存在であり、ある意味「奇跡」なのだ。物語の終盤、金沢で息を引き取る寸前の男「芳原真次」が、かつて1度しか話したことのない息子に対して「それでも、長くても、切れさえしなければ糸がつながっている。」と話していたという場面がある。まさに本作のタイトルにつながるシーンなのだが、うーん「糸」かぁ・・・ そうなんだろうな。われわれは親から子へ、そして子が親となり、親から子へと、切れない糸をつないでいるということなんだろう。 ラストシーンを迎え、本作の登場人物たちは殺人事件という荒波を潜り抜け、「希望の光」「希望の糸」を見つける。捜査にのめり込んでいた松宮もまた、「希望の糸」の存在に気付くのだ。 東野圭吾氏も60歳をこえ、作家として円熟期を迎えたということじゃないかな。もはや、トリックメーカーや斬新なプロットではなく、「人間」というものを深く洞察していく、心の琴線に訴える作品を紡ぐ、そんな年齢になったということと感じる。 「新参者」から第二シーズンに入った本シリーズも本作で何となくすべての片がついたような雰囲気。次作からは新たなシーズン、新展開が待っている予感もしてきた。(違うかな?) |
No.1709 | 5点 | 二重の悲劇- F・W・クロフツ | 2022/10/02 13:43 |
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フレンチ警部シリーズ二十四作目となる本作(だいぶ後半になってきた)。
今回は倒叙形式ということで、「クロイドン発12時30分」という倒叙の名作を持つ作者だからこその作品なのか? 原題は“The Affair at Little Wokeham”。1943年の発表。 ~リトル・ウオーカムの小村に引退した富裕な老人を殺害し、その遺産を手に入れるために綿密周到な計画を立てて、ついに成功した犯人を追及するフレンチ警部の卓抜な推理力に脱帽! あらゆる仮説を克明に実験し、追及の輪を次第に狭めていくフレンチの努力が実り、まさに逮捕寸前犯人は国外に逃亡してフレンチは地団駄を踏む。それは果たして失敗だっただろうか?~ 倒叙形式であることを除けば、いつものフレンチ警部ものである。 いや、倒叙形式だからこそ、いつもよりも更に丁寧になっているともとれる。だからこそ、「いつもよりも冗長で退屈」という評価も出てくるのだろうと推察する。 殺人事件そのものは実に単純で、それほど工夫のあるプロットとは言い難い。他の方が書かれているとおり、こんな古臭いアリバイトリック!って感じだし、それにまずまず翻弄されるフレンチ警部もどうかとは思う。 でも、クロフツ好きの身としては、「そこそこの満足感」を感じられた作品ではあった。 当然倒叙なんだから、フレンチというよりは真犯人の心の動きや猜疑心、バレるかもという強烈な不安心、徐々に追い込まれていく恐怖etcが十分に堪能できた。 本作は「真犯人」視点だけでなく、事件関係者や「やむなく真犯人に協力せざるを得なくなった人物」視点なども織り交ぜることで、単純でない物語に膨らみを与える工夫もなされている。 特に、事件に巻き込まれることとなる村の医師などの小市民的感情や”恋する中年独身男性の悲哀”などは、なかなか身につまされる(ように思えた)。 今回、割と目についたのは、フレンチ警部のユーモア感覚(死語?) 部下の警官たちのやり取りのなかで、まるで「ノリツッコミ」のような会話を披露している。ここら辺も、長くシリーズを続けてきた作者の余裕というか、変化・工夫の跡かもしれない。 まぁ、でも「アイデアの枯渇」というのは確かにその通りだとは感じる。長く続けすぎることのデメリットも当然あるわけで、晩年の作品はどうしても苦しくなってくるね。 決して高い評価はできないんだけど、安定した面白さはあるという評価にしておきたい。 |
No.1708 | 5点 | 月輪先生の犯罪捜査学教室- 岡田秀文 | 2022/10/02 13:42 |
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名探偵・月輪龍之介が、帝大(いわゆる東京大学)の学生を相手に犯罪捜査学の講義を行い、実際の事件を教材として推理・犯罪捜査を教えていくという趣向。生徒役となる三人の学生も一癖ある奴ばかりで・・・
2016年発表の連作短編集。 ①「月輪先生と高楼閣の失踪」=最初の事件は、架空の高層ビル(といっても6階建てだが)からひとりの人物が失踪し、まったく別の場所で死体としてみつかるというもの。三人の学生が順番に推理を披露するが、すべて月輪からの厳しいツッコミで瓦解し、月輪が先生らしく正解となる推理を披露する、という形式。つまり、作者は3つのダミー推理を用意しないといけないわけで、それはそれで苦労しそうだなと感じる。で、真相は「消失」ものでよくあるトリックに少し手を入れたもの、というレベル。まぁ、でも初っ端の作品としては合格点。 ②「月輪先生と「湖畔の女」事件」=今回は誘拐事件げメイン。世間嫌いの偏屈な有名画家の息子が誘拐されるのだが、不自然な個所がかなりある。例によって三人が推理を披露→すべて月輪に否定され、真相が月輪の口から語られる。①も②も「〇れか〇〇」がトリックの鍵となっているが、それもまぁこの時代設定だからこそ許されるのかな。個人的には好きではないが・・・ ③「月輪先生と異人館の怪談」=部隊は大磯ロングビーチ、ではなく、明治時代の大磯村。そこにある異人館を舞台に起こる殺人事件。月輪先生が急遽予定をキャンセルするなか、生徒役の三人が自分たちで解決を図ろうとするのだが・・・最後に意外な真相が月輪の口から語られる。 ④「月輪先生と舞踏会の密室」=伊藤博文も招待されたダンスパーティーに参加する月輪と3人の生徒たち。衆人環視の中で銃殺事件が起こる。しかも舞台は密室・・・。この密室トリックはよくある手なのだが、真犯人がやや意外。結局、3人の生徒は一度も月輪先生の推理を超えられず終了。 以上4編。 「まずまず」というのが全体的な評価としては的を得ているのでは? 四編とも、「事件の発生」→「3人の生徒が順に推理を披露」→「月輪が推理の講評をしつつも正解ではないと言う」→「結局、月輪の推理が正しくて解決」、というフォーマットを踏襲している。 どれも短編らしい小品のネタなのだが、きれいにまとめているのは作者の力量だろう。 ただ、作者の筆致は長編でも「やや平板」という感じなので、短編になるとさらにその特徴が際立ってしまう(ように思う)。 シンプルな謎解きを楽しみたいのならそれもいいけど、どことなく物足りなさも感じてしまうんだよなぁ・・・ 「正しい(?)」短編集を読みたいという方には適していると思われるので、そういう作品をお求めなら是非! (個人的ベストは・・・うーんどれかな? 敢えて言えば④かな) |
No.1707 | 7点 | 死の命題- 門前典之 | 2022/09/11 14:29 |
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原書房のミステリーリークでの配本の一作。当初は「死の命題」として刊行されたものを、改稿のうえ改題までして再度発表したもの。(それだけ本作への愛着が分かろうというもの・・・)
蜘蛛手啓司を探偵役とするシリーズの一作目でもある。 改題前のものは1997年の発表。今回は改題後の「屍の命題」にて読了。 ~信州の山奥のとある湖畔の別荘。そこに集められた6人は、やがて全員が死体となって発見された。なぜか死亡時刻も死因もバラバラだった・・・。「犯人」はなにを意図していたのか。究極の「雪の山荘」ミステリー、ついに刊行!~ 前々から気になっていた作者、作品を今回無事読了。 本作の「メイン・プロット」って、本格作家なら誰もが書きたい、読者なら誰もが読みたい、って思うものではないかと推察する。 ただ、如何せん困難。この「メイン・プロット」を破綻なく表現することは、恐らく非常にハードルが高いんだと思う。 (CCでなければ、我孫子武丸氏のあの作品が思い出されるのだが・・・) で、本作なのだが、確かに破綻はしてない。してないけど、他の方もご指摘のとおり、大変無理のある箇所が目立つつくりになってしまっている。 「偶然の連続」というのは、恐らくそう来るんだろうな、というのが冒頭からある程度分かってしまったのでそうは気にならなかった。 だから、「京華」殺しのあの解法も、恐らくそういう筋なんだろうなぁーという予想が薄っすら付いていた。 ただ、いくらなんでも。あの「断頭台」はなぁー これ、作者がどうしても入れたかったのかなぁ? 直後の死を予想した人間が、いくら恨みがあるからとはいえ、断頭台に向かって一直線とは、あまりにもえげつなさすぎる。(その後の死体の動きもスゴイが・・・) それと最後の死となる「篠原」殺し(?)。これも相当なプロバビリティではないか? 「メイン・プロット」を成立させるうえで、この当りの齟齬がどうしても目に付いた。 そして、大方の謎の解明が終わった後の、「影の黒幕」指摘。これは、非常に分かりやすいものになってしまった。(ただ、これはそもそも無理があるでしょ!) まぁ、「メイン・プロット」成立の条件だとは思うので、こういう筋を入れなければならないのだろうけど、あまりにも特殊性が強調されすぎたため、大方の読者が察してしまうことになったのかな。 「ある特異な建物に閉じ込められたグループ」→「順番に殺害されていく」→「手記が残されていて、警察や探偵が手記を元に過去の事件を捜査」→「密室をはじめとするトリックの解明」→「真犯人とともに影の黒幕を指摘」 この流れって、個人的にどうしても二階堂氏の「人狼城の恐怖」を思い出してしまう。もちろんメイン・プロットは違ってるけど、この形式って、本格ミステリーの王道なんだということが改めて分かる。(確かに「手記」は仕掛けが施しやすいからね) いずれにしても、本格ファンなら一度は読むべき、ということだけは言えると思う。もちろん、評価はそれぞれでしょうけど・・・ 私は・・・やっぱり好きだな。 |
No.1706 | 6点 | 死者はよみがえる- ジョン・ディクスン・カー | 2022/09/11 14:28 |
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フェル博士を探偵役とするシリーズ第八作目の作品。
他の方の評価を見てますと、なかなかのバラバラぶり・・・。「あり」か「なし」かで二分されてるようですね。 1938年の発表。 ~南アフリカからロンドンへ無銭旅行ができるか? 友人と賭けをした作家のケントは大冒険の末にロンドンに辿り着いた。しかし、空腹に苦しむ彼は些細なきっかけでホテルでの無銭飲食に及ぶ。食べ終えた彼に近づいてくるスタッフ。だが、観念した彼に告げられたのは予想外の言葉だった。残虐な殺人、殺人現場で目撃された青い制服の男・・・名探偵フェル博士が指摘した12の謎がすべて解かれるとき、途方もない真相が明らかになる~ 確かに・・・。この真相、特に真犯人は想像の右斜め45度から来るようなもの・・・だった。 「無理筋ではないか?」と主張する読者の声も分かる気がする。特に真犯人のアリバイ。このアリバイが提示されるなら、普通はもう真犯人ではないと同義だろ!って思う。(いったいどんな建物なんだ・・・) ただ、そんな無理筋を認めても魅力のある作品には違いない。 特に冒頭。無銭飲食場面を読んでると、一体どんな話が始まるんだ?っと思わされるけど、これが見事に連続殺人事件につながっていく。 ただ、フェル博士の言動を読んでると、最初からある程度真相に気づいていたような振る舞いのように思える。 ホテル内の準密室、なんていうと実に魅力的な謎のはず。それを物理的だとか、心理的などというような堅苦しい解法ではなく、よもやの偶然の連続で片付けていくとは・・・ かの有名な「12の謎の提示」についても、あまり評価されてないようですね・・・ うーん。それもむべなるかな。 でもまぁ、この「謎」こそが本作のプロットそのもの。「大量のタオル」や「青いホテル制服の男」など、読者を惹きつける謎には事欠かないし、それぞれの謎に対して一応の解答が用意されている。 評価としては、うーん。迷うなぁ。 こういう場合は仕方ないので、間をとってということになってしまう。でも、面白いと感じる人も絶対多いはず。逆に玄人筋にはウケが悪いのかもね。 |
No.1705 | 5点 | 逆ソクラテス- 伊坂幸太郎 | 2022/09/11 14:27 |
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本作はすべて子供を主人公に書かれた内容となっている。
単行本の作者あとがきで、作者自身が子供を主人公とするのは難しくて、こういう作品ができたことが自分の作家としての経験値の賜物というような表現をされている。そういやー今までなかったかなぁ? 2020年の発表。 ①「逆ソクラテス」=確かに! 声の大きい人の評価に引っ張られやすいのが俗世間というもの。それに反する奴はエライ! ②「スロウではない」=運動オンチの大抵が嫌いなもの。それは運動会! 分かるやつは分かる。 ③「非オプティマス」=トランスフォーマーのことだよ! 先生も大変だわ! ④「アンスポーツマンライク」=これが本作ベストだな。再度登場する「磯憲」がまるで安西先生のように見える! ⑤「逆ワシントン」=最後の場面でニヤッ!っとさせられる。こいつは絶対にアイツだ!因みに、この「ワシントン」は偉人の方です。 以上5編。 冒頭で「子供主役ってなかったかなぁ?」って書いたけど、今までも伊坂作品にはよく「親子」、特に「父子」が登場していて、実際ふたりの息子を持つ身にとっては実に身につまされる場面に出くわしたりする。 本作もそうだった。 別に「こうありたい」とかいうんじゃないけれど、父-子ってこうだよな、とか、こういうことってあったなぁーっていう何だか懐かしい気分にさせてくれる。 大人は当然大人目線で子供を見るけど、子供は子供なりに十分考えてるんだ、というのが今更ながら分かる(思い出される?)本作。 きっと、読者のなかでも過去の自分自身の姿を投影したりするんだろう。 いつもの伊坂作品ほど緻密な伏線やら、軽快な会話群はないけれど、それはそれで実に味わいのある作品ではあった。 |
No.1704 | 7点 | メインテーマは殺人- アンソニー・ホロヴィッツ | 2022/08/21 14:28 |
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近年の翻訳ミステリーでは稀にみるヒットとなった「カササギ殺人事件」。それに気をよくしたのか、つぎつぎと発表される作者の作品なのだが・・・(まぁ当然だよね)
元刑事のホーソーンと作者自身(ホロヴィッツ)がコンビを組む本格ミステリー。2017年の発表。 ~自らの葬儀の手配をしたまさにその日、資産家の老婦人は殺害された。彼女は、自分が殺されると知っていたのか? 作家のわたし=ホロヴィッツはドラマの脚本執筆で知り合った元刑事ホーソーンから、この奇妙な事件を調査する自分を本にしないかと誘われる・・・。自らをワトスン役に配した謎解きの魅力全開の犯人当てミステリー~ まさか、こんな正調な本格ミステリーとは・・・ これが読後の感想。いまや、特殊設定下でしか書けなくなったのかと思わせる我が国の「本格ミステリー事情」なのだが、かのミステリー発祥の地では、特殊設定に頼らない「ミステリー黄金期」を思わせる作品。 まずはこのことに驚かされた。 ギミックとしては、正直なところたいしたことはない。昔ながらの手法の焼き直しというか、味付けを変えたという程度には思える。 特に、動機&背景として重要と思われる過去の事件を目くらましに使う手法。これなんて、クリスティの十八番的やり方だし、これがものの見事に嵌っている。(伏線が微妙だし、後出しじゃないかと言われるとそういう気もするけど) なので、「大技」=Bestという読者にとっては、やや物足りなく感じられるかもしれない。 個人的には一人称形式というところで、何かしらの仕掛けがあるのか?という目線で読んでいたただけに、そこのところではちょっと残念だったかな。「カササギ」のような作中作を大胆に使ったものを先に読んでいたための期待感なのだが、本作の志向はそんなところではなかったのだろう。 探偵役となるホーソーンの造形についても、いかにも「謎」を含んでいそうな書きっぷり。この辺りは続編での「含み」を持たせたのかもしれないし、いかにも楽しみな感じだ。 全体としては、この「正調さ」に好印象&高評価。 もちろん、密室やら双子やら、嵐の山荘といった「コテコテ」の本格も大好物なのだが、そればっかりだとどうしても「胃もたれ」するので、こういう作品も折に触れ接しておかないと、健康的にも良くない! そんなことを思った次第・・・ |
No.1703 | 6点 | 龍の寺の晒し首- 小島正樹 | 2022/08/21 14:27 |
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しばらく読まないでいると、また読みたくなってくる・・・そんな中毒性のある作家、小島正樹。
それはまぁ冗談ではありますが、「詰め込みすぎミステリー」の第一人者としての地位を確立したと思われるのが本作辺り(らしい)。 単行本は2011年の発表。 ~群馬県北部の寒村「首ノ原」。村の名家「神月家」の長女・彩が結婚式の前日に首を切られて殺害され、首は近くの寺に置かれていた。その後、彩の幼馴染がつぎつぎと殺害される連続殺人へと発展していく。僻地の交番勤務を望みながら度重なる不運に見舞われ県警捜査一課の刑事となった浜中康平と彩の祖母から事件の解決を依頼された名探偵・海老原浩一のふたりが捜査を進める・・・ なかなか“そそる”紹介文ではありませんか・・・ 今回のメインテーマは連続殺人犯というフーダニットはもちろんのこと、タイトルどおり「首切り」。 「首切り」というと、読者はどうしても「入れ替わり」を想起するわけですが、その可能性を誘引するかのような「双子」まで登場し、序盤から「顔つきが似ている幼馴染たち」や「髪の長さ」に言及する表記が多数。つまりは、最初から真犯人や被害者のミスリードを誘う展開ということで、まさに横溝や高木の作風を意識したミステリーになってます。 ただ、今回の「首切り」の理由は弱すぎでは? 「首切り」に限らず、バラバラ殺人の場合、その理由は「アリバイトリックとの連携」というものが多いけれど、今回は必然性がまったく感じられない。まぁ過去の因縁から生じた「動機」が理由にはなっているんだろうけど、ここまでのリスクと回りくどい方法をとってまでやることか!という感は拭えない。 とりわけ、第一の殺人での首の隠し場所には驚いた。まさかの・・・。誰かがちょっと上を見てしまえば間違いなく違和感を持つに違いない!(他の方もこういうところが強引だとか、絵空事という評価につながっているのだろうな・・・) いやいや、こんなことを言ってはいけない。相手は「詰め込みすぎミステリー」なのだ。とにかく「詰め込まなければ」ならないのだ。 多少の無理矢理や違和感なんて関係ないのだ。「偶然の連続」なんて当たり前ではないか? たいがいの事件なんてちょっとした偶然が引き起こすものなのだから・・・ そういう意味では、とにかく本格ファンを楽しませようとするサービス精神に対しては賞賛を贈りたい。現代(多少遡ってはいるが)にこんな舞台設定を持ち込むこと自体多少の違和感はやむなしということだ。他の作家はこれを忌避した結果、「特殊設定」というアナザーワールドを創造する道を選んだのだから。 ただ、フーダニットはあまりに分かりやすかったかな・・・(まぁCCでの連続殺人の宿命というやつではあるけど)。最後の最後にまさかの協力者(ネタバレ?)を登場させたのは作者の意地ではないか。 海老原浩一シリーズの新作も出なくなって久しくなるけど、さすがにネタ切れなのか。いろいろと辛口を批評をしても、やはりこの「詰め込みすぎミステリー」を渇望している自分がいるのは間違いない(らしい)。 |