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E-BANKERさん
平均点: 6.00点 書評数: 1845件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1125 6点 浅草偏奇館の殺人- 西村京太郎 2015/04/06 21:14
1996年発表の長編ミステリー。
十津川警部をはじめ作者のキャラクターが全く登場しない異色の作品。

~戦争の足音が忍び寄る昭和七年。エロ・グロ・ナンセンスが一世を風靡した浅草六区の劇場、偏奇館で三人の踊り子がつぎつぎに殺された。京子十八歳、早苗十九歳、節子十八歳。ひとりは川に浮かび、ひとりは乳房を切り裂かれ、ひとりは公園の茂みの中に・・・。事件の真相を尋ねて、私は五十年ぶりに浅草を訪れたのだが・・・~

作者らしくない筆致&プロット。
これまでトラベルミステリーや初期の本格或いは社会派ミステリーを何冊も読んできたが、いずれとも違う感覚・・・なのだ。
十津川警部や亀井刑事、左文字進のテンポ良い会話を中心に、高いリーダビリティで読ませる作品ではなく、止められない連続殺人事件を切々と描写する、何とも言えない哀愁感の漂う作品。

それもこれも事件の舞台設定のためだろう。
軍部が日本全体に徐々に侵食し、戦争に突き進んでいく暗い世相。
そんな中で唯一、民衆のための娯楽の街となった浅草六区。エノケンをはじめとして大衆娯楽の世界に力の限りを尽くす若者たち・・・
これが何とも言えない“哀愁感”を生んでいる。

本筋の殺人事件の謎自体はまぁたいしたことはない。
入れ子構造になって、過去の事件を振り返るというようなプロットの場合、普通ならもう少し「サプライズ的な仕掛け」があって然りなのだが、本作にはそこまでの仕掛けは込められてない。
でもいいのだ。
本作はそういう作品ではない。きっと作者は書きたかったのだろう。
この時代の浅草を。
確かに暗くつらい時代だったのかもしれないが、みんなが一生懸命生きていた時代・・・
たまにはノスタルジーに浸ってみるのもいいのではないか?
(当時からの店が今まだあるのが浅草のスゴイところ・・・)

No.1124 8点 ホロー荘の殺人- アガサ・クリスティー 2015/04/06 21:12
1946年発表の長編ミステリー。
もちろんエルキュール・ポワロ物の長編だが、本国で特に評価の高い作品として知られている。

~アンカテル卿の午餐に招かれたエルキュール・ポワロは少なからず不快になった。ホロー荘のプールの端でひとりの男が血を流し、傍らにピストルを手に持った女が虚ろな表情で立っていたのだ。だがそれは風変わりな歓迎の芝居でもゲームでもなく、本物の殺人事件だったのだ! 恋愛心理の奥底に踏み込みながら、ポワロは創造的な犯人に挑むが・・・~

「小説」としてなら尋常ではないほど高いクオリティと言えるのではないか?
読後まずそんな風に感じてしまった。
多くの人が書いているとおり、確かに純粋なミステリーとしての評価なら、他の有名作の方が数段出来はいいだろう。
ただし、「小説」としてならもしかするとコレがNO.1なのかもしれない。
(小説というよりも舞台劇と言う方が似つかわしいが・・・)

とにかく登場するひとりひとりの人物描写がスゴイ。
どこか少しずつマトモでない、捻れた感情を持つホロー荘に集う人々。
そして、ひとりの男性を巡って複雑に絡み合う感情の末に起こってしまう殺人事件。
ごく単純だったはずの殺人事件が、少しずつ複雑な様相を示していく・・・

今回のポワロはいわゆる名探偵としての役割は果たしてない。
最終的にはひとりの女性の命を救い、事件を丸く収める役目を果たしているのだが、自身の推理を披露する機会はほぼ皆無。
(途中ではグレンジ警部から最有力容疑者という扱いまで受けてしまう・・・)
プロットそのものも既視感はある。

それでもこれはやっぱりスゴイ作品だと思う。
人間の心理こそがミステリー。そういう思いが投影された作品なのだろうし、女流作家ならではの細やかな筆致は男性には真似できない。
・・・ということで決して低い評価はできない。
(ヘンリエッタの感情は「優越感」という奴ではないのか?)

No.1123 6点 犯罪ホロスコープⅡ 三人の女神の問題- 法月綸太郎 2015/04/06 21:11
~Ⅰ(「六人の女王の問題」)に続き、黄道十二宮の後半戦が描かれる本作。
というわけで、天秤座、蠍座、射手座、山羊座、水瓶座、魚座・・・それぞれに纏わる事件がテーマとなっている。

①「宿命の交わる城で」=天秤座。作者あとがきにも触れられているが、「あるキング」のパイロット版とも言えそうな作品。つまりは“交換殺人”がテーマとなっているのだが、そこは策士らしくひと捻りもふた捻りも仕掛けてある。でもこれって「策士、策に溺れる」の典型だな。
②「三人の女神の問題」=蠍座。オリオンと毒蠍の逸話はギリシャ神話で有名だが、それをモチーフにうまく取り込んだ作品。プロットとしては、ラストに事件の構図をきれいに反転させるのが旨い。携帯の通話記録もこんなふうに使えばフーダニットの材料になるんだねぇ・・・。サブタイトルとして使われているだけある作品。
③「オーキュロエの死」=射手座。ギリシャ神話に因んだ名前のアナグラム(駄洒落?)は本作の特徴だが、何か無理矢理感はある。これもラストでひっくり返されるが、②よりは唐突。
④「錯乱のシランクス」=山羊座。ダイイングメッセージを扱った作品なのだが、これはかなり強引というか無理矢理。こんなメッセージに気付く奴いるか? 楽譜の薀蓄はなかなか面白かったが・・・
⑤「ガニュメデスの骸」=水瓶座。やり手の女性実業家が一千万円の身代金を用意した相手は何と「亀」・・・。長年飼っていた“愛亀”とは言うが、そこには大きな秘密が隠されていた・・・ラストにタイトルの意味が明かされて納得。
⑥「引き裂かれた双魚」=魚座。④~⑥は“よろずジャーナリスト”飯田才蔵がサブキャラとして登場し、事件を賑わしている。いかにも怪しいオカルト専門家の変死が主題なのだが、ちょっとごちゃごちゃしたプロット。

以上6編。
さすがに短編職人(個人的に勝手に命名しているだけですが・・・)法月綸太郎!
という感じ。
星座に因んだ作品を十二もひねり出すだけでも大変なのに、どれも水準級若しくは水準以上の作品に仕上げているのは賞賛に値する。

もちろん“縛り”がある分、無理矢理感のある作品もあるのだが、それは致し方ないかな・・・
まぁできれば、なんの縛りもなく伸び伸び書いてもらった方が、面白い作品になるのかもしれないけど、そこはそこ。こんな凝った連作短編集も面白いとは思った。
(ベストは他の方と同様②で決まり。後は①③の順。)

No.1122 7点 ブラックスワン- 山田正紀 2015/03/28 17:39
1992年発表の長編ミステリー。
SFがホームテリトリーである作者が書いた本格ミステリー。

~世田谷の閑静な住宅街にあるテニス・クラブで、白昼、女性の焼死事件が発生した。ところが、捜査を進めていくうちに焼死した橋淵亜矢子は十八年前に行方不明になっていたことが判明。当時女子大生だった彼女にいったい何が起こったのか? 焼死事件とのつながりは何なのか? 雪の瓢湖に舞う「ブラックスワン」をキーに、青春時代の謎を追う本格ミステリーの傑作~

「さすがに旨い!」・・・そんな読後感。
ハルキ文庫版の巻末解説は折原一氏なのだが、氏曰く「本作はバリンジャーの『歯と爪』を完全に意識した作品」とのこと。
言われてみればそのとおりかな・・・
ということはつまり、折原一の作風にも似ているわけで、個人的に何となく感じていた既視感にも納得がいった。

いわゆる叙述トリックの衝撃度という意味では「そこそこ」というレベルなのだが、本作の良さはそんなところにはない。
“雪の瓢湖(白鳥の飛来地で有名)”という荘厳な舞台装置、いかにも謎めいた複数の手記・・・
これはもうプロットの勝利というほかない。
(元新聞記者の男が過去の事件を追うというスタイルも折原の「・・・者」シリーズっぽい)

これは先日「人喰いの時代」を読んだときにも感じたことだが、とにかく読者の「気を惹く」技に長けているのだ。
つぎにどのような展開が待っているのか・・・
こう思わすことのできる作者、作品はやはり魅力的だというしかない。
そして何より「嫌らしさのない」「上質感」のある文章、筆致。
これも一流の証だろうと思う次第。
ちょっと褒めすぎのようにも思うが、一読の価値はある。
(西村京太郎を思わせる冒頭のアリバイトリックっぽいシーンって、結局何だったのか・・・)

No.1121 6点 盲目の鴉- 土屋隆夫 2015/03/28 17:38
1980年発表の千草検事シリーズ作品。
前作(「妻に捧げる犯罪」)から八年ぶりに発表された作者の第八長編に当たる。

~評論家・真木英介が小諸駅前から姿を消した。数日後、千曲川河畔で真木の小指の入った背広と「鴉」の文字が見える紙片が発見された。一方、世田谷の喫茶店では、劇作家の水戸大助が『白い鴉』と言い残して死んだ。何者かに毒殺されたのだ。ふたつの事件の間を飛び交う「鴉」につながりはあるのか? 千草検事の推理が真相を抉る傑作文芸ミステリー~

作者らしい“地味”だが“丹念”な本格ミステリーに仕上がっている。
ひと言で表すとそんな印象。
紹介文にもあるとおり、当初は二つの事件が別々に進行し警察は手をこまねくのだが、千草検事が「鴉」という共通項を発見するに及び、二つの事件が密接に絡まってくる。
この辺りのストーリー展開は巧みで安定感十分。
序盤~中盤は事件の背景、「鴉」の意味など、いわば「動機探し」がプロットの中心。

終盤に差し掛かるまでに真犯人はおおよそ目星がつくのだが、捜査陣の前に鉄壁のアリバイが立ち塞がる。
というわけで終盤はこの「アリバイ崩し」がプロットの中心。
電話がトリックの鍵となるのだが、時代背景とはいえ、いかにも「作り物めいた」ところがちょっと頂けない気はした。
(犯人が実質これだけでアリバイを構築したというところに納得性が薄い)
とはいえ、作品全体には何とも言えない寂寥感や悲哀感が漂い、格調高い作品に仕上がっているのは間違いない。

千草検事と野本刑事の頭脳派・体力派コンビは紋切型といえば紋切型で、ともすると二時間サスペンスのような雰囲気になりやすいのが玉に瑕。
本作も堅実な作風好きの方には良いが、冗長さがあるのも否めないかな・・・
他の佳作よりは評価は落ちる。
(本作は、短編「泥の文学碑」をベースに長編に焼き直した作品)

No.1120 5点 大渦巻への落下・灯台 -ポー短編集Ⅲ SF&ファンタジー編-- エドガー・アラン・ポー 2015/03/28 17:36
新潮社の編集によるE.A.ポーの短編集第三弾。
今回はSF、ファンタジー系作品を中心とした作品集となっている。

①「大渦巻への落下」=舞台は北欧・ノルウェー沖。中型の漁船クラスの船が伝説の“大渦巻”に呑み込まれてしまう・・・のか? ラストは江戸川乱歩の某作品を思い出してしまった。
②「使い切った男」=原住民との戦場で大活躍をした伝説の戦士。彼はいったいどんな男なのか・・・ということで話は進むのだが、ラストにはシニカルな結果が待ち受けている。
③「タール博士とフェザー博士の療法」=タイトルはこうなっているのだが、話中にタール博士もフェザー博士も登場しない不思議なストーリー。とある精神病院を舞台に「鎮静療法」なる謎の療法が語られるのだが・・・
④「メルチェルのチェス・プレイヤー」=“自動人形”と呼ばれ、対戦相手とチェスを指すことができる人形。要はからくり人形っていうことなのだろうが、本作はその「からくり=仕掛け」を延々と解説してくれる・・・。巻末解説によると、本作が後世のSF作品に与えた影響は小さくないとのことだが・・・
⑤「メロンタ・タウタ」=作者の天文学への憧憬や興味が反映された作品。つまりはSF的な作品ではあるのだが、結局タイトルの意味はよく分からなかった。
⑥「アルンハイムの地所」=これが一番よく分からなかった。主人公である詩人的造園家エリソンが、実はポー自身の投影になっているとのことだが・・・
⑦「灯台」=実は未完の作品。ただし、舞台は北欧の海辺であり、①につながる作品ではないかという“いわく”があるとのこと。確かに魅力的な書き出しではある。

以上7編。
さすがジャンルを越え、多方面に才能を発揮した作者ならではの作品集。
正直、私のチンケな頭では理解できないものもあるのだが、脂の乗った時期に当たり、筆が乗っていることを思わせる作品が多い。

文庫巻末解説では、後世のSF作品への影響についても触れているので、SF好きの方は一読してみてもいいのでは?
本格しか読まないという方にはややキツイかも・・・
(個人的には、やたら自動人形の仕掛けに拘った④が一番印象に残ったのだが・・・)

No.1119 8点 ジェノサイド- 高野和明 2015/03/19 21:10
2010年4月~2011年4月、『野生時代』誌にて連載された後に発表。大きな話題となった作品。
日本推理作家協会賞、山田風太郎賞受賞。その年の各種ランキングでもトップに推された超大作。

~イラクで闘うアメリカ人傭兵と日本で薬学を専攻する大学院生。まったく無関係だったふたりの運命が交錯するとき、全世界を舞台にした大冒険の幕が開く。アメリカの情報機関が察知した人類絶滅の危機とは何か。そして合衆国大統領が発動させた機密作戦の行方は? 人類の未来を賭けた戦いを緻密なリアリティと圧倒的なスケールで描ききり、その衝撃的なストーリーで出版界を震撼させた超ド級エンタテイメント!~

やはり評判はダテではなかった。
その圧倒的なスケールと緻密なプロットには素直に敬意を表したい。
日本、アメリカ、コンゴという三つの舞台で別々に進行するストーリー。
やがてそれは「進化した超人類」というキーワードで結び付けられていく・・・
特にコンゴでの現地兵士たちとの戦いは圧巻の一言。
「まさかここまで酷いのか・・・」と絶句せざるをえない世界が容赦なく描かれている。

個人的には古賀研人というキャラクターに惹かれた。
科学者である父親を軽蔑しながら、自身も薬学の世界に身を置く矛盾。死んだ後も父親の業績を軽んじてきたが、ふたりの子供の命を救うべく命を賭けた新薬開発に心血を注ぐことになる・・・
(父親への捻れた思いって何か分かるよなぁー)
ラストはご都合主義的な展開なのだが、そんな感想は超越してとにかく「手に汗握る」という感覚を久し振りに味わった。

本作を評価しない方は、「まるでハリウッド映画のような娯楽志向的作品」と思われるのだろう。
確かにそれはある。
多分に映像的でビジュアルを意識したプロットなんだろうと思う。
まぁでもそれこそが作者の目指す方向性なのだろう。
とにかく時間を忘れて作品世界に没頭させた筆力や展開力は賞賛に値する。
未読の方は時間のあるときに一気読みしてはいかがでしょうか。

No.1118 6点 七色の毒- 中山七里 2015/03/19 21:09
警視庁捜査一課所属・犬養刑事を探偵役に据えた連作短編集。
タイトルどおり「色」をモチーフとした七つの事件が犬養を待ち受ける・・・

①「赤い水」=一時期世間で物議を醸した“高速バスの事故”がテーマ。といっても、本作に登場する運転手は過剰労働をしていたわけではなく、死者も僅かにひとり済んだのだが、犬養の推理は事件の様相を反転させる。
②「黒いハト」=イジメが原因で発生したある生徒の飛び降り自殺。ひたすら責任逃れをする学校側に世間の非難は集中し、イジメた生徒にもついには司直の手が伸びる。一件落着と思った矢先に飛び出す、犬養の鋭い推理!
③「白い原稿」=こりゃ思いっきり「水嶋○ロ」のアノ件がモチーフだな。作家はともかく出版社までもかなり批判していて作者は大丈夫なのだろうか? (実際「か○ろ○」は読んでないけど、そんなにヒドイのか??)
④「青い魚」=四十代にして独身の男の家に転がり込んだ若く美しい女性とその兄(!)。三人で海釣りへ出掛けたとき、事件は起こった! この「毒」と「魚」は事実なのだろうか?
⑤「緑園の主」=ホームレス襲撃事件とある少年の殺人事件。近接して起こった二つの事件には当然つながりがあった。事件の鍵は「緑園の主」であるアルツハイマー病の老婆なのだが・・・
⑥「黄色いリボン」=“性同一性障害”がテーマの本作。女装の似合う細面の少年は自分の中にあった人格が、実は別に存在しているのではないかと疑いだす・・・。そこには思いもよらぬ「悪意」が潜んでいた!
⑦「紫の供花」=①の後日談的な作品。①で黒幕的な役割を果たした男性が今度は殺されることになるのだが、人格者として慕われた男性がなぜ殺されたのか? 岐阜県の田舎町にまで登場する犬養刑事・・・って神出鬼没。

以上7編。
「毒」っていうタイトルどおりのプロット。
どの作品にも直接の犯罪者以外に、裏で糸をひく黒幕が最後に明らかにされるのだが、その過程で読者は何とも言えない「悪意」を感じる仕掛けになっている。
特別派手なトリックがあるわけではないのだが、作者の“旨さ”は十分に発揮されていると思う。

超ハイペースで作品を量産できる作者って・・・やっぱ懐が深いってことだろう。
本作も水準級には仕上がっている。

No.1117 7点 第四の扉- ポール・アルテ 2015/03/19 21:08
1987年発表の長編作品。
作者のメインキャラクターとなるツイスト博士が登場し、フランスのミステリー賞も受賞したデビュー作。

~オックスフォード近郊の村に建つダーンリー家の屋敷には奇妙な噂があった。数年前に密室状態の屋根裏部屋で、全身を切り刻まれて死んだダーンリー夫人の幽霊が出るというのだ。その屋敷に霊能力を持つと称するラティマー夫妻が引っ越してくると、さらに不思議な事件が続発する。隣人の作家アーサーが襲われると同時にその息子ヘンリーが失踪。しかもヘンリーは数日後、同時刻に別々の場所で目撃される。そして呪われた屋根裏部屋での交霊実験のさなか、またしても密室殺人が・・・~

噂に違わぬ“意欲作”とでも言えばいいのだろうか。
何しろ本格ミステリー風のガジェットがてんこ盛り。
密室殺人はかなり堅牢なやつだし、交霊会や幽霊などの怪奇趣味が溢れ、“フランスのディクスン・カー”という形容詞はやはり的を得ていると思う。
ただし、黄金世代の本格ミステリーとは“似て非なるもの”には仕上がっている。

密室トリックについてはひと言物申したい方もいるだろう。
一応合理的な解決はなされているが、視覚的にかなり無理があるのは自明。
(歌○晶○氏のあのトリックと被るけど、規模的にみてこちらの方が難しいと感じる)
何より、不可能趣味以外に密室を構築した理由に欠けるのが弱点。
その他の謎についても割とアッサリ片付けられるものが多くて、マニアはちょっと食い足りない気にさせられるかもしれない。

本作の肝はそんなことより、作品全体に仕掛けられたトリックということになる。
読者は第三部を読み始めた途端、唖然とさせられるに違いない。
「これって、どういうこと??」って感じだ・・・
世界観がひっくり返される展開というのは、最近の作品では珍しくないが、ここまで見事に“嵌められる”感覚というのは久し振り。
ラストには追い打ちのような一撃まで炸裂するという念の入れよう・・・いや、参りましたと思う読者も多いだろう。

まぁ惜しむらくは、詰め込みすぎでガチャガチャしていて、頭の中にスッと落ちてこないことか。
それでも、デビュー作としては十分合格点。
こういう作品を書こうという心意気だけでも買いたい。

No.1116 5点 密室殺人ゲーム・マニアックス- 歌野晶午 2015/03/07 14:48
『密室殺人ゲーム王手飛車取り』『密室殺人ゲーム2.0』に続くシリーズ第三弾。
またもや“あの”レギュラーメンバー5名が推理ゲームで競い合う!
(これが最終作品になるのだろうか?)

①「六人目の探偵士」=<aXe>が出題者となる本編は密室+アリバイがテーマ。ただし「アリバイ」については出題者が途中で放棄しすることに・・・。密室トリックについてはなぁー・・・リアリティはともかく、まぁ本作ならではの解法だろう。(アリバイトリックを放棄した理由は③で明らかになる!)
②「本当に見えない男」=「見えない男」といえば当然G.Kチェスタトンの名短編だが、本編は「本当に見えない」男なのだ。ということは透明人間か?? ってこれも本作らしいトリック。二段構えの出題になっていたのは別に関係ないような気がするけど・・・
③「そして誰もいなかった」=これはいわゆる「ネタばらし」の章。まさにタイトルどおり、「誰も」いなかったのだ!(いやっ一人はいたってことだよな) これは正直脱力もの。

以上3編の構成。
一応①~③まで個別に書評したけど、本作に関しては個別の作品はあまり関係ない。
あくまで全体に仕掛けられた「企み」をどう捉えるか次第で評価は大きく変わる。

まぁシリーズも三作目となると、当然今までと同じプロットは通用しないわけで、作者なりの「捻り」は十分に効いているんじゃないかなぁとは感じる。
(こんなブッ飛んだプロットをシリーズもので実現させるのは至難の業ではないか?)
ただし、③のネタバレトリックは安易だし、わざわざ五人の「外」の人間を登場させた割にはそこの仕掛けが浅すぎだし、今回はちょっと練り込み不足があったのも事実。
これ以上シリーズを続けていくなら、設定自体を一度見直す必要があるだろう。

でもまぁ個人的にはまずまず面白かったんだけど・・・
(「王手飛車取り」の頃はチャットそのものが斬新だったけど、さすがに今となってはねぇー)

No.1115 5点 長野殺人事件- 内田康夫 2015/03/07 14:46
2004年発表の旅情ミステリー。
光文社から発表されている作者の「地名+殺人事件」とタイトルものは、「旅情ミステリー」と銘打たれている(らしい)。
本作は、浅見光彦と「信濃のコロンボ」こと竹村警部の共演も魅力。

~品川区役所で働く宇都宮直子は税金の督促で訪ねた男から、彼女が長野県出身者なのを理由にある書類を渡される。一ヶ月後、その男・岡根は長野県内で遺体で発見された。周囲に怪しい男も出現し、不安に駆られた直子は夫の友人である浅見光彦に相談する。一方、長野で岡根殺人事件を担当するのは「信濃のコロンボ」こと竹村警部だった。不正支出と知事選を巡る巨悪にふたりが挑む~

久し振りの内田康夫である。
内田康夫ならば浅見光彦シリーズよりも「信濃のコロンボ」シリーズの方が好みなのだが、最近は殆ど発表されない。
その代わり、ふたりの共演作品というのが本作を含めて短い期間に二作出された。
(もう一作は『沃野の大地』。これも贋コメ事件をテーマとした社会派要素の強い作品)

しかし、本作でもあくまで主役は浅見光彦である。
事件の大筋を解き明かすのも浅見だし、最後は竹村警部もほぼ浅見の指示で動くことになる。
相変わらず浅見は高級車「ソアラ」を運転してるし、母親に頭が上がらないし、旅先で美女と遭遇するけど結局深い仲には発展しないのである。
ここまで安定したシリーズキャラクターも珍しい。(これはやっぱり「水戸○○」をついつい見てしまうのと同じ心理なのだろうか?)
個人的には「長野」という地域限定探偵である竹村警部に本作だけでも主役を譲って欲しかったのだが・・・
(しかも「死者の木霊」以来の飯田署管内の事件だったのに!)

で、本筋ですか?
まぁいつものように連続殺人事件が起きて、まずまず意外な真犯人が判明するやつです。
今回は南信濃の名所旧跡紹介も満載ですので、旅のお供にもよろしいかと・・・
(「田中康夫」と「内田康夫」かぁ・・・まさか間違えて投票する奴がいたとは!)

No.1114 6点 魔術師- ジェフリー・ディーヴァー 2015/03/07 14:45
2003年発表。
「石の猿」に続くリンカーン=ライムシリーズの五作目に当たる本作。
ジェットコースターサスペンスの代名詞ともいえる本シリーズもいよいよ佳境に突入!

~NYの音楽学校で殺人事件が発生。犯人は人質をとってホールに立てこもる。警官隊が出入り口を封鎖するなか、ホールから銃声が! しかし、ドアを破って踏み込むと、犯人も人質も消えていた・・・。ライムとサックスは犯人にマジックの修業経験があることを察知して、イリュージョニスト見習いの女性に協力を養成するのだが・・・~

“シリーズの原点に立ち返った”とでも評したらいいだろうか。
いくら人気シリーズとはいえ、回を重ねていくと当然「マンネリズム」という陥穽に嵌まりがちになる。
作者はその辺りは当然わきまえていて、三作目「エンプティ・チェア」では舞台をNYから南部の田舎町へシフト。四作目「石の猿」では相手を中国人の“蛇頭”というストレンジャーへシフトしてきた。
いずれもシリーズの保守本流からやや外すことで、読者の「飽き」を防ごうとする工夫が窺えるだろう。

しかし、本作はこれぞリンカーン=ライムシリーズと言うべき作品に仕上がっている。
舞台はNYはセントラルパーク周辺という大都会。ライムの相手は「魔術師(イリュージョニスト)」の異名を持つ殺人鬼!
ふたりの頭脳戦をスピーディに描くプロットは、「ボーン・コレクター」や「コフィン・ダンサー」とシンクロする。
(やっぱり魅力的な犯人役が必要不可欠だな)

そしてもうひとつの代名詞といえば「ドンデン返しの連続」なのだが、シリーズ最高峰のドンデン返しという作者の触れ込みに期待しすぎるとやや肩透かしを食うことになる。
そもそも今回の犯人役=「魔術師」の得意技自体が「誤導」、いわゆる「ミスリード」なのだ。
ってことは、そもそものところでミスリードがふんだんに仕掛けられているわけで、この上作品全体にドンデン返しが加わるとプロット的に混乱してしまうのかもしれない。
そういう意味では、「盛りすぎ」ということなのだろう。

原点に帰ったという点では好感触なのだが、やはり「コフィン・ダンサー」と比べると一枚も二枚も落ちるという印象。
次作に期待というところだ。
(法月綸太郎の文庫版解説は秀逸。実に的を得た解説だと思う。)

No.1113 7点 犯罪カレンダー (7月~12月)- エラリイ・クイーン 2015/02/26 22:20
早川文庫版の上巻とも言える『犯罪カレンダー(1月~6月)』に続き、下巻である本書を読了。
その月に因んだ事件を扱うというのが大前提であるが、あまり関係のないような話も混じっているような気もする・・・
それはさておき、エラリーとニッキー・ポーターのコンビが何とも微笑ましい。

①「墜落した天使」=7月。とある館で起こる殺人未遂事件を扱っているが、誰も撃てるはずのない空間で銃撃された不可能趣味が謎の本筋。いかにも犯人らしい疑似餌を取り除いていけば、真犯人に迫るのは容易だろう。
②「針の目」=8月。冒頭に“海賊と略奪された財産の物語である”と書かれている本作。これもいかにも怪しい人物が登場しているので・・・こうなるよなぁー。
③「三つのR」=9月。他の方も上巻に出てきた短編との類似性を指摘されているが、言われてみれば確かに・・・という感じ。でも個人的には好きな作品。ある人物の書いた筋書きどおりに殺人事件が起きるなんて、あの名作(「○の悲劇」)を想像させるではないですか??
④「殺された猫」=10月。10月31日の復活祭の夜、ある建物の13階に集まる男女。照明の落とされた部屋に突然上がる悲鳴。明るくなった奥の部屋から発見される刺殺死体・・・っていう魅力的な謎を扱う本作。シンプル・イズ・ベストとでも言うべきエラリーの解法が見事に決まるラスト! ということで短編の良さが詰まった佳作。
⑤「ものをいう壜」=11月。作中にチェスタトンの「見えない男」が引き合いに出されるなど、プロットに類似性が見られる本作。
⑥「クリスマスと人形」=当然12月。貴重なダイヤモンドを散りばめた人形。その人形がクリスマスイブの当日NYのデパートで展示されることに。しかしあろうことか大怪盗“コーマス”がその人形を強奪することを宣言した・・・って、まさかクイーンがルパンばりの怪盗ものを書くなんて! コーマスにしてやられたはずのエラリーが余裕たっぷりなのが「なぜ?」って気がした。

以上6編。
突っ込みどころは結構あるのだが、短編集としてトータルで評価するなら十分水準以上だと思った。
上巻から通しで読むと同種のプロットに飽きがくるのかもしれないので、上下分けて読む方がベターかもしれない。

エラリーとポーター、そしてクイーン警視のやり取りはやっぱり魅力的だな。
時折登場するヴェリー部長刑事がすっかり道化役となっているのも面白い・・・(笑える)
(個人的ベストは④だが、③や⑥も好み。あとはイマイチかな。)

No.1112 6点 ビブリア古書堂の事件手帖6- 三上延 2015/02/26 22:19
大人気ビブリオ・ミステリーもついに第六作に突入。
五浦と栞子さんの仲も進展し、そろそろシリーズも佳境に入ってきた様子だが・・・
果たしてどこまで続くのか?

~太宰治の『晩年』を奪うため、美しき女店主に危害を加えた青年。ビブリア古書堂のふたりの前に彼が再び現れる。今度は依頼者として・・・。違う『晩年』を捜しているという奇妙な依頼。署名ではないのに、太宰自筆と分かる珍しい書き込みがあるらしい。本を追ううちに、ふたりは驚くべき事実に辿り着く。四十七年前にあった太宰の稀覯本を巡る盗難事件。それにはふたりの祖父が母が関わっていた。過去を再現するかのような奇妙な巡り合わせ。深い謎の先に待つのは偶然か必然か?~

「太宰」「太宰」「太宰」づくしの六作目。
前々作の「乱歩づくし」に続く長編スタイルだが、太宰の『晩年』については一作目に登場するエピソードの続編。
・・・というわけで、太宰に対しては特別の「想い」がありそう。

章立てでいうと、第一章『走れメロス』はともかく、第二章の『駆込み訴へ』は初めて聞いた。
作中では栞子さんから太宰についての蘊蓄がいろいろと語られているが、想像していた以上に繊細で神経質な性格だったことが推察される。
それよりも本作一番の収穫は、太宰がミステリーを書いていたということ!
(あまり書くと未読の方の興味を削ぎそうなので敢えて触れないが、今でも読むことはできるのだろうか?)

で、本筋についてだが、長編に変わった分、いつもより腰の座ったプロットになっている印象は持った。
特に終盤はドンデン返しの連続という、まるで本格ミステリーのような展開まで繰り出されており、作者の懐の深さを窺うことができる。
シリーズを通じての謎や伏線もまだまだ読者を引き込むことに成功している、って感じだ。
ただそろそろマンネリ感が出てきたのも事実。
作者あとがきによると、シリーズもあと一作か二作で完結ということで、その辺は作者も思惑どおりなんだろう。

しかし、古書マニアも大変だねぇー
古書ひとつで命まで狙われるわけだから・・・
(相変わらず栞子さん・・・萌えるわー)

No.1111 3点 ローウェル城の密室- 小森健太朗 2015/02/26 22:17
1995年発表。
江戸川乱歩賞の最終候補にも残った作者の処女長編作品。

~「三次元物体二次元変換器・・・」。森に迷い込んでしまった丹崎恵と笹岡保理の前に現れた不気味な老人は確かにそう言った。訳のわからない二人だったが、次に気付いたときには、二次元の世界へと入り込んでいたのだ・・・。少女漫画『ローウェル城の密室』の登場人物、メグとホーリーとして。漫画の世界の中で二人は恐るべき密室殺人に巻き込まれる・・・。驚天動地のトリックで乱歩賞最終候補作となった超本格ミステリー~

これ、よく出版したなぁー
って思うはず。普通の感覚なら。
弱冠十八歳で本作を発表した作者に罪はない。何せ高校生だもの。
それをあろうことか乱歩賞の最終候補に祭り上げ、出版までしてしまった大人たちの罪だろう。

ということで中味の批評をしても仕方ないのだけど、少しだけ書くと・・・
この密室トリックはないよ!
なぜ「密室講義」まで入れてしまったのか理解に苦しむ。
(こんな解法なら全く関係ない)

密室殺人が起こるまで読まされる世界観の説明も長すぎだろう。
長い割には全く頭に入ってこないし、この描写では男女の別さえはっきり書き分けていない。
(もしかして叙述トリックかと身構えてしまった)

まぁ仕方ない。
あくまでも「習作」だということで理解しておこう。
(メタがやりたかったのは分かるけどねぇ・・・)

No.1110 8点 八百万の死にざま- ローレンス・ブロック 2015/02/19 23:20
ゾロ目1,111番目の書評は、マット・スカダーシリーズの最高傑作との呼び声高い本作で。
シリーズ五作目となる本作だが、“飲酒”との戦いに挑む(?)スカダーは果たして・・・?
1982年発表。

~新聞の見出しを見ると、胸が苦しくなり、苦痛がこみ上げてきた。コールガール惨殺さる・・・その女性キムは足を洗うため、ヒモと話をつけてくれと私に頼んできたのだ。ヒモの男・チャンスは意外にもあっさりと彼女の願いを受け入れたのだが、キムの死はその直後だった。やがてチャンスが真犯人を探して欲しいと依頼してくる・・・。マット・スカダー登場。巨匠がアメリカ私立探偵作家クラブフェイマス賞を受賞した代表作!~

このタイトルは実に深く、素晴らしい。
八百万とはNYに住む人々の数(つまりは人口)だが、この街には「八百万もの死にざま」があるということ・・・
「死にざま」なんだな。あくまでも「死にざま」! 「死に方」ではないのだ!
本作の被害者はナタで惨殺された死体で発見される。
もちろんその「死にざま」も酷いのだが、アルコールに毒され、アルコールにより「死」を迎えるかもしれないスカダーもまた自分の「死にざま」を頭に浮かべる。

ヒモのチャンスもしかり、達観した刑事ダーキンもしかり、スカダーが関係していく人物すべてがこの街NYに翻弄されていく。
連続惨殺事件の行方ももちろんなのだが、本作では街VS人という構図がどうしても頭の中に残った。
ラストにようやく判明する事件の真相や背景にしても、まさにNYならではというもので、真犯人は「誰それ」というよりは、NYという魔物に取り憑かれた何か、という存在のように思える。
とにかく最上級のハードボイルドを味わうことができ、さすがにブロック!のひとこと。

まぁでも読む順番はやっぱり間違えたな。
「倒錯三部作」から先に読み、本作に遡ったわけだが、他の方も書いているとおり、やはりシリーズものは最初から読むのがベスト。
緩やかだが、当然シリーズの世界観も進行しているわけで、その通りに読む方が絶対いいに違いないと感じた次第。
評価はこんなものかなぁー。個人的には倒錯三部作の方が好き。(分かりやすいからね)

No.1109 7点 無理- 奥田英朗 2015/02/19 23:18
2009年発表の長編作品。
「最悪」「邪魔」の続編的位置付けで、今回は五人の男女がまるでジェットコースターのように、世間という名の荒波に翻弄されるノンストップ・サスペンス(?)

~合併で生まれた地方都市「ゆめの市」で、鬱屈を抱えながら暮らす五人の男女。人間不信の地方公務員、東京に憧れる女子高生、暴走族あがりのセールスマン、新興宗教にすがる中年女性、もっと大きな仕事がしたい市会議員・・・。縁もゆかりもなかった五人の人生がひょんなことから交錯し、思いもよらない事態を引き起こす~

相変わらずというか、どの作品を読んでも達者だよなぁ・・・と思わされる。
人間の本性というかエゴイズムを“これでもかっ!”というくらい描ききっている本作。
(ラストシーンですべてがいきなり集束される大技がスゴイ!)
地方公務員も女子高生も族あがりのセールスマンも中年女性も市会議員も・・・どこにでもいるような小市民なのだ。
それが、ほんの少しの悪意や嫉妬や保身、油断を抱いた刹那、抗うことのできない大きな濁流に呑み込まれていく。
その転落ぶりが悲しすぎて、読みながら「正視に耐えない」というか、作者への恐ろしさすら感じてしまった。

「ゆめの市」という舞台設定がまた秀逸。
三つの町が合併してできた人口12万人で、恐らく北関東にある架空の小都市。
誰もが田舎の閉塞感や近すぎる人間関係を嫌い、大都会(東京)に憧れを抱く。
でも考えてみれば、それがこの町の良さだったのだ・・・
郊外の国道沿いにできた大型SCは中心部の活気をすべて奪い、町の工場で雇われた外国人労働者は秩序を壊していく。
独居老人や定職につけない若者はどんどん増えていく・・・
人も町も少しずつ少しずつ壊れていく様が容赦なく描写されているのだ。

何だか読んでて怖くなってきた。
確かにそうなんだよなぁって思う。日本という国は毎日ほんのちょっとずつ、でも確実に転落しているに違いない。
「揺るぎない価値観」-それこそが唯一の防御策だろう。
でも難しいんだよなぁ・・・人間の本性なんて他人への妬みや自分の保身だらけだからなぁー
まっ、自分の「本分」って奴を知るしかないかな。
(あまり参考にならない書評でスミマセン)

No.1108 8点 PK- 伊坂幸太郎 2015/02/19 23:17
2012年発表。
連作形式を取っているが、世界観は緩やかにつながっており長編として捉えることも可能な作品に仕上がっている。

①「PK」=タイトルはもちろんサッカーの“ペナルティ・キック”の意味で、主役のひとりとしてサッカー日本代表のストライカーが登場する。しかし、話中には複数の異なった時代のストーリーが並行して書かれており、読者は惑わされること必至。他にも視点人物として、若き大臣やその秘書官、謎の作家なども登場し、彼ら(彼女ら)が一体どのような関係なのかにも頭を捻ることに・・・
②「超人」=スーパーマン(米映画のあのヒーローね)登場シーンから始まる作品。いったいどういう展開?って思ってると、ある超能力を持ったひとりの男が登場する。男の携帯メールに未来の犯罪者のプロフィールが送られてくるというのだが、それは本当なのか? ①で登場した人物や場面が挿入される場面もあり、①⇔②がどういう関係を持っているのかにも惹かれるのだが・・・
③「密使」=『私』の章と『僕』の章が交互に語られる展開。『私』は謎の組織に捕らえられ、時空を超えた「密使」の存在を明かされる。そして『僕』はある特殊能力を手に入れ、ある任務のためにこの能力を使うことを強要される・・・。そして唐突に終わるラスト!!

以上3編。
文庫版の帯に書かれた解説者(大森望氏)のことば~『古今東西の小説を見渡しても、似た例がちょっと思い浮かばないくらい、極めて野心的にして大胆不敵。一筋縄ではいかない傑作』~
そのとおりかもしれない。
とにかく作者の才能には改めて脱帽・・・ということで書評終了でもいいのだが、もう少しだけ感想。

ちょうど東北大震災の時期に発表された本作。仙台在住の作者なら、当然それを意識していると思いきや、実は大震災の前には書き上がっていたことが作者あとがきで明らかにされている。
作中では、「ヒーロー」や「勇気」というフレーズも頻繁に登場し、閉塞した時代への作者なりのメッセージが込められていることが想像できる。
それにも増して、作品全体に張り巡らされたこの仕掛けはどうだ!
結局最後まで作者の口(?)から解答は明らかにされないのだが、パラレルワールドなどSF要素も取り入れた本作は、作者の力量・キャパシティを十分に示した作品だと思う。
高評価したい。

No.1107 6点 失踪当時の服装は- ヒラリー・ウォー 2015/02/10 23:07
1952年に発表された作者の代表作。
各種ミステリーランキングにも必ずといっていいほど入ってくる「警察小説の嚆矢」的作品。
今回は創元文庫より最近出された新訳版にて読了。

~1950年3月。アメリカ・マサチューセッツ州にあるカレッジの一年生ローウェル・ミッチェルが失踪した。彼女は美しく成績優秀な学生で、男性との浮ついた噂もなかった。地元の警察署長フォードが、部下とともに搜索に当たるが、姿を消さねばならぬ理由も彼女の行方も全くつかめない。事故か、他殺か、自殺か? 雲をつかむような事件を地道な聞き込みと鋭い推理・尋問で見事に解き明かしていく。巨匠が捜査の実態をこの上なくリアルに描いた警察小説の里程標的傑作!~

ミステリー史上では価値のある作品・・・ということになる(のだろう)。
何となく歯切れが悪いのは、素直に「面白い!」とは思えないということ。

もちろん「警察小説」とは本来こういうもので、警察官の地道な捜査過程を綴っていくジャンル。
本作でもフォード警察署長を中心に、刑事たちの“あーでもない、こーでもない”という捜査がコミカルに描かれている。
とにかくフォードたちのやり方は徹底していて、たったひとつの物証をきっかけに、湖の水をすべて抜いてしまうほどなのだ。
(「そこまでやるか?」というこの行動が最後になって効いてくるのはさすがだが・・・)
ただ、意外な犯人や巧妙なトリックといった派手な展開は最後まで登場せず、サプライズ感も皆無に等しい。
やっぱり丁寧な捜査過程をじっくり楽しむというのが正しい読み方なのだろう。

昨今の国内警察小説は、今野敏や横山秀夫、佐々木譲など多士彩彩で、作者の熟練したプロットや筆使いを堪能できる。
それもこれも、本作の登場により「警察小説」というジャンルが確立されたお陰なんだろうなぁと感じた次第。
そういう意味では、やはりミステリーランキングに必ず登場するというのも頷ける話ではある。
でも、「中盤はちょっとダルい・・・」ていうのが素直な感想にはなるし、評価は・・・こんなもんかなぁー
(フォード署長の強引な捜査に毎回付き合わされるキャメロン巡査部長・・・大変だわ!)

No.1106 7点 よもつひらさか- 今邑彩 2015/02/10 23:06
昨年急逝した作者。
その作者が得意としたホラー風味のミステリー作品集のひとつ。

①「見知らぬあなた」=大人しい少女の文通相手は性格異常者なのか? その文通相手の周りで次々と起こる不可思議な事件。だが、最後には思わぬ事実が明らかにされる! よくある手なのだが、ウマイ!
②「ささやく鏡」=未来を映す鏡に纏わる一編。鏡の“予言”で結婚相手を選んだ主人公なのだが、それが後々恐ろしい事態を引き起こす・・・「未来なんて見なければよかった・・・」ってことだな。
③「茉莉花(まりか)」=いわゆる「ジャスミン」の和名。父親がお気に入りの「茉莉花」という名前を付けられた娘。ある一葉の手紙が長年の父親の秘密を明らかにすることに・・・
④「時を重ねて」=妻に男の影を感じ取り、私立探偵に尾行調査を依頼した男。探偵は軽井沢へ妻を尾行するのだが、妻がとった行動には明らかに異常性が! ラストにはその行動に一応の解決がつけられる。
⑤「ハーフ・アンド・ハーフ」=偽装結婚に応じた美貌の妻。自分以上に収入のある妻は、何でも折半にしないと気の済まない性格なのだが、まさかアレまでも折半すしてくるとは・・・あり得ない! けどコワっ!
⑥「双頭の影」=ある骨董屋においてある「双頭の影」という箱。購入者には骨董屋の主人から、その箱に纏わる話が聞けるという・・・。道ならぬ恋ということだろう。
⑦「家に着くまで」=たまたま乗ったタクシーで交わされる運転手との会話。しゃべりすぎる運転手が実は・・・という展開。これも既視感のあるプロットなのだが、作者なりの味付けがうまい。
⑧「夢の中へ・・・」=井上陽水の名曲をモチーフとした作品。プールへ飛び込み頭を強打した少年。意識を失った少年のその後が描かれるのだが、そこには大きな○○が!
⑨「穴二つ」=パソコン通信(古っ!)で女性を装ってメールしていた男。相手の女性も実は男だったと明らかにされ、それを妻殺しに利用しようと画策したのだが・・・
⑩「遠い窓」=子供の無邪気さが恐ろしい結末を招く・・・という一編。その無邪気さは本当の無邪気なのか“邪気”なのか?
⑪「生まれ変わり」=あまり印象に残らず。
⑫「よもつひらさか」=古事記にも登場する「黄泉比良坂(よもつひらさか)」。ひとりでこの坂を歩いていると死者に出会うことがあるという不気味な言い伝えが・・・かなり幻想的な一編。

以上12編。
玉石混交といえばそうなのだが、全体的に非常によくできた作品集に仕上がっていると思う。
長編、短編問わずどれも実に丁寧に作りこまれていると改めて認識した次第。
“早すぎる死”が惜しまれる作家のひとりだ。
(個人的ベストは⑤かな。①や⑧もブラックさ加減が好き)

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E-BANKERさん
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