皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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E-BANKERさん |
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平均点: 6.00点 | 書評数: 1836件 |
No.1356 | 4点 | サイモン・アークの事件簿〈Ⅳ〉- エドワード・D・ホック | 2017/06/22 21:03 |
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~まだ見ぬ人知を超えた存在と巡り合うため、二千年の歳月を生きる謎の男サイモン・アークの旅は続く~
ということで、シリーズ四作目となる本作。 四作目ともなると、二番煎じやネタの焼き直しが気になるところですが・・・ ①「悪魔の蹄跡」=いわゆる“雪密室もの”かと思いきや、別段たいしたトリックがあるわけではなかった。まさにタイトル倒れの一編。 ②「黄泉の国の判事たち」=どちらかというと“Why done it”(動機)がテーマとなるのだが、それってここまでの事件を引き起こすほどのことか?っていう気はした。 ③「悪魔がやって来るまでの時間」=そんなこと!?っていうようなトリック。やっぱり欧米人にとっての中国人ってそういう存在なんだねぇ・・・。 ④「ドラゴンに殺された女」=“ドラゴン”が住むという湖で起こる殺人事件。“ドラゴン”も正体は脱力ものだし、何より作品に切れ味が感じられない。動機もマンネリだしね。 ⑤「切り裂きジャックの秘宝」=英国伝説の殺人鬼「切り裂きジャック」にまつわる一編なんだけど、これもなぁー正直よく分からないままラストを迎えてしまった。 ⑥「一角獣の娘」=これが個人的ベストかな。高層ビルから飛び降り自殺を図るという衝撃的な冒頭シーンから始まる一編。前フリで出てきた人物が実はすべて関係者っていうのはホックの短編ではよくある手。 ⑦「ロビン・フッドの幽霊」=“ロビン・フッド”といえば、当然弓矢の名手ということで、弓で射殺される事件が発生する本作。弓とアレではだいぶ違うと思うんだけどね・・・。 ⑧「死なないボクサー」=年齢百歳とも二百歳とも噂される謎のボクサー”ムーア”。彼は本当に“死なない”ボクサーなのか、というのがメインテーマのはずだが、かなりアッサリ片付けられてしまう。殺人事件の方も相当アッサリ・・・ 以上8編。 これは・・・シリーズものの典型的な「末期症状」。 平たく言えば“ネタぎれ”ということだろう。 “オカルト探偵”サイモン・アークという惹句も、看板倒れが甚だしい。 もともとシリーズ当初から、「サム・ホーソーン医師」シリーズに比べるとかなり落ちるという感想だったのだが、版を重ねるごとにレベルダウンしてしまったということだろう。 短編の名手としては、かなり寂しい中身&レベルに思えた。 |
No.1355 | 5点 | 春から夏、やがて冬- 歌野晶午 | 2017/06/22 21:02 |
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2011年発表のノンシリーズ長編。
他の方の書評を見ても、「叙述」がどうしても気になる作品のようだが・・・ ~スーパーの保安責任者・平田誠は万引き犯の末永ますみを捕まえた。いつもは容赦なく警察に突き出すのだが、ますみの免許証を見て気が変わった。昭和60年生まれ。それは平田にとって特別な意味があったのだ・・・。偶然の出会いは神の導きか、悪魔の罠か? 動き始めた運命の歯車がふたりを究極の結末へと導く!~ 冒頭で触れたとおり、既読の皆さんは「葉桜・・・」的な叙述トリックではないかと身構えていたようである。 私も「もしかして・・・」と考えないではなかった。 でもまぁ、さすがに二番煎じはしないよねぇ。 どちらかというと、「葉桜・・・」よりは、「世界の終わり、あるいははじまり」に近いテイストの作品だった。 ただ、このトリックというか、仕掛けは既視感あるなぁー 「ミステリー寄りの文学」というジャンルならこれでいいのかもしれないけど、やっぱり歌野だもんなー 当然「文学寄りのミステリー」を書こうとしていたんだろうし、だとしたら決して成功とは言えないように思う。 この「仕掛けの拙さ」は、ある登場人物自身の「拙さ」とリンクしているのは分かるんだけど、これが本作のメインテーマなのだとしたら、膨らませがいのないテーマだったのではないか? そんなことを感じてしまった。 平田とまゆみをめぐる人々とのやり取り、会話もどこかの地上波ドラマに出てきそうで、正直「パッとしない」と思う。 小瀬木医師もなぁー、結局傍観者だしなぁー ・・・なんてことを考えた次第。 まぁ今回は小品ってことだな。 (なんだか偉そうな書評になってスミマセン。まっ、期待の大きさの裏返しということで・・・) |
No.1354 | 7点 | ささやく真実- ヘレン・マクロイ | 2017/06/12 21:39 |
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1941年発表。
精神科医ベイジル・ウィリング博士シリーズでいうと第三長編に当たる作品。 原題“The Deadly Truth” ~奇抜なパーティーや悪趣味ないたずらで常に周囲に騒動をもたらす美女クローディア。彼女が知人の研究室から盗み出した開発中の新薬は、“真実の血清”なる仮称を持つ強力な自白剤だった。その晩、自宅で主催したパーティーでクローディアは飲み物に薬を混入させ、宴を暴露大会に変えてしまう。そしてついに、悪ふざけが過ぎたのか、彼女は何者かに殺害された! 発見者として事件に関わった精神科医ウィリング博士が意外な手がかりから指摘する真犯人とは?~ ウィリング博士シリーズもそれなりの作品を読んできたけど、その中でも1、2を争う傑作ではないかと思う。 巻末解説の若林氏もご指摘のとおり、フーダニットへの拘りはシリーズ中でも最右翼。 マクロイというと、「暗い鏡の中に」や「幽霊の2/3」といったサスペンス色の強い作品の評価が高いし、私もどちらかというとそういう目線で見ていた作家だった。 ところがどっこい(←古い表現!)、これまた名作と評される「家蝿とカナリア」に負けず劣らずのド本格ミステリーが本作、というわけだ。 ストーリーは序盤から魅力的な展開を見せる。 毒婦クローディアに招待された5名の男女。自白剤により本心の暴露が始まり騒然となるパーティー。そして、ついに起こってしまう殺人事件。当然真犯人はパーティーの参加者のひとりと見られる・・・ 冒頭から丹念に撒かれた伏線の数々も旨いし、作中に仕掛けられるレッド・ヘリングも読者を迷わせる。 特に今回は『耳』にスポットライトが当てられるのがポイント。 (ネタバレっぽいけど)てっきり「聞こえない」のが鍵なのかと思いきや、それを見事なまでに反転させるプロットの妙! 若干後出し気味の要素はあるものの、とにかく「端正」で「上品」なミステリーに仕上がっている。 さすがの完成度という評価で良いのではないか。 (サスペンス調より、こういう作品を評価してしまうのは好みかな・・・) |
No.1353 | 6点 | 偽名- 結城昌治 | 2017/06/12 21:38 |
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表題作をはじめ、都会の片隅で何かしら暗い影を背負って生きる人間を描いたミステリー短篇集。
『喪中につき』など別の作品集からの転載もある模様。 ①「偽名」=過去殺人を犯し逃亡した男。偽名を使って、ひっそりと生きてきた男が、時効寸前に昔の部下に秘密を嗅ぎつけられそうになったとき・・・。よくある手ではあるけど、味わい深い一編。 ②「蜜の終わり」=タクシー運転手に浮気を嗅ぎつけられた男。ゆすりを続けられるうちに・・・。まぁ「因果応報」っていうか、男の方が自分勝手ってことかな。 ③「影の歳月」=戦争時代の上下関係。暗い時代が後々まで人間関係に響いてくる・・・。そういう時代だったんだなぁーっていう感想。暗いし重い話。 ④「夏の記憶」=電車で刑事に連行される冒頭シーンから始まる一編。カットバック手法で徐々に話の中身が顕になってくる・・・。よくまとまってる。 ⑤「失踪」=これが個人的ベストかな。あちこちに借金を作ったどうしようもない男。事故死で得た保険金で借財のすべてをきれいにしたのだが、実は・・・。なんか・・・悲しいっていうか、オスの“さが”を感じる。 ⑥「寒い夜明け」=これはラストが切ない・・・。昔の刑事ドラマでよく見たストーリーではあるけど。 ⑦「雪の降る夜」=これもラストが切ない・・・。昔の刑事ドラマでよく見たストーリーではあるけど(×2) 以上7編。 実にしぶい、シブイ、渋~い作品集。 ひと昔もふた昔の前の日本、っていう舞台設定なのだが、時代を超えて人の心に訴えてくる何かがある。 やっぱりいつの時代でも、男は女を好きになるし、けど女は結婚すると人が変わるし、結局は金がものを言うし・・・っていうことなのかな。 読んでて暗く、重い気持ちになってしまったけど、軽い作品ばかり読んでると、こういう作品もたまにはいいかもしれない。 作者の力量は十分に発揮されている作品集でしょう。 評価はこんなもの。 (⑤→①→④かな。あとは一線) |
No.1352 | 7点 | 長い長い殺人- 宮部みゆき | 2017/06/12 21:37 |
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1992年発表の長編。
連作形式をとりながらも、作者の企みに満ちた技巧が光る作品。 ~金は天下の回りもの。財布のなかで現金はきれいな金も汚い金も、みな同じ顔をして収まっている。しかし、財布の気持ちになれば話は別だ。刑事の財布、ゆすり屋の財布、死者の財布から犯人の財布まで、十個の財布が物語る持ち主の行動、現金の動きが、意表を突いた重大事件をあぶり出す。読者を驚嘆させずにはおかない、前代未聞、驚天動地の話題作~ 本作の特徴といえば、もちろん「財布視点」でしょう。 デビュー長編となる「パーフェクトブルー」では、「犬」が視点人物(?)という変化球を出してきたが、本作では更にその上をいく超変化球で挑戦!ということだ。 これが成功しているかどうかというと、他の方も触れられているとおり「やや微妙」ではある。 でも、考えてみると確かに、「財布」ほど誰もが肌身離さず身に付けているものはないわけで(衣服だったら毎日同じもの、っていう訳にはいかないからね)、そういう意味では持ち主の心情を一番分かっている存在っていうことになるんだろうな・・・。 で、本筋なんだけど、これはよくできてると思う。 さすがのストーリテラーというか、こういうプロットを思い付けるだけでも、作者の力量が分かろうというものだ。 複数の登場人物たちの目(財布だけど)を通して、必然的にスポットが当てられるひとりの男。 その男の周りでつぎつぎと毒牙にかかってしまう被害者たち・・・ これは・・・何がプロットの軸なんだろう?って考えてるうち、第九章「部下の財布」で物語は急展開を見せる。 そして終章。やや唐突にやって来る刹那。なるほど、こういうオチだったのか・・・という具合。 もちろん、純粋な謎解きミステリーではないし、そういうものを求める読者には合わない(だろう)。 でも、これはこれで、実によくできたミステリーだと思う。 もともと連作形式好きのせいかもしれないけど、こういう「企み」の深い作品にこそ、ミステリーの真髄があると感じてしまう。 まっ、いろいろ突っ込みどころはあるし、評点としてはこの程度になるんだけどね。 (雅樹少年をラストに再び登場させる辺りが、女流作家らしい愛情を感じさせる) |
No.1351 | 5点 | 消失グラデーション- 長沢樹 | 2017/06/03 22:00 |
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第三十一回横溝正史ミステリ大賞の受賞作。
もちろん作者のデビュー作品。2011年発表。 ~私立藤野学院高校のバスケ部員・椎名康は、ある日、校舎の屋上から転落し、痛々しく横たわる“少女”に遭遇する。康は血を流すその少女を助けようとするが、何者かに襲われ、一瞬意識を失ってしまう。ほどなくして目を覚ますと、少女は現場から跡形もなく消えていた! 開かれた空間で起こった目撃者不在の被害者消失事件。複雑に絡み合う青春の傷と謎に多感な若き探偵たちが挑む~ これは・・・中年のオッサンが読むものじゃないな。 高校のバスケ部員たちが巻き込まれる消失事件と、複雑な恋愛模様!(←表現が古い) しかも、出てくる奴がいちいち美少女か美少年ってどういうこと? そんなのありえる? などと邪念たっぷりに読み進めていった・・・ 紹介文のとおり、謎の焦点は「(ほぼ)密室状態からの被害者消失」。 ただ、これについては他の方々もご指摘のとおり、決して褒められた解法ではない。 (ほぼ)密室状態を成立させるピースがあまりにも偶然すぎるということは明らかだし、トリックがラフすぎる。正直、途中までは「これで横溝正史賞?」っていうレベルと思っていた。 で、終章近くになって炸裂するのが「例のミスリード」だ! こりゃ確かに大技なんだけど・・・強引すぎないか? これを成立させるため、作者が冒頭から相当気を使っているのは分かる。伏線もそこかしこに撒かれているのも後で気付いた。 でも、アンフェアな表現が結構多いように思うし、それ以上に、これをプロットの軸に据えること自体、作者のセンスっていうか方向性に相容れないものを感じた。 まぁこういう切り口もないではないんだろうけど、それよりは消失事件のトリックを煮詰めて欲しかったなというのが偽らざる感想。 そうは言いながらも、普通に騙されていた自分がいたりして・・・ (こんなドロドロした複雑な学園&部活なんて嫌だ!) |
No.1350 | 2点 | 迷宮課事件簿Ⅰ- ロイ・ヴィカーズ | 2017/06/03 21:58 |
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紹介文によると、『倒叙ミステリーの伝統を守る短篇集』と書かれている。
スコットランドヤードが誇る(?)迷宮課の活躍を描く作品集。 ①「ゴムのラッパ」、②「笑った夫人」、③ボートの青髭、④「失われた二個のダイヤ」、⑤「オックスフォード街のカウボーイ」、⑥「赤いカーネーション」、⑦「黄色いジャンパー」、⑧「社交界の野心家」、⑨「恐妻家の殺人」、⑩「盲人の妄執」 以上10編。 ということで・・・ 実に退屈な読書だった。 もしかしたら、私の読解力が足りないのだろうか? はたまた古めかしい訳のせいなのだろうか? 序文で本作(特に①「ゴムのラッパ」)を激賞されているE.クイーンには申し訳ないけど、これは・・・2017年の現在からすると、どうにもこうにも・・・ね? 倒叙ものはどちらかというと好きなジャンルなんだけど、ただ只管に事件の顛末を犯人目線で書かれても、「それで?」という感想にしかならない。 当時はこういうジャンル、切り口自体が目新しかったのかもしれないけど、これはもう陳腐化したということだろう。 途中まで我慢して読んでたけど、ラスト前でギブアップ! ギブアップは久しぶりだな・・・ そういう意味では貴重かも。 |
No.1349 | 5点 | 星籠の海- 島田荘司 | 2017/06/03 21:57 |
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単行本として2013年に発表された本作。文庫版上下分冊にて読了。
作品の時代設定としては、『ロシア幽霊軍艦事件』の後に位置するとのことで、御手洗が海外に旅立ってしまうちょっと前という記念碑的作品(らしい) ~瀬戸内海に浮かぶ小島に、死体がつぎつぎと流れ着く。奇怪な相談を受けた御手洗潔は石岡和己とともに現地・興居島へ赴き、事件の鍵がいにしえから栄えた港町・鞆の浦にあることを見抜く。その鞆では、運命の糸に操られるように一見無関係な複数の事件が同時進行で発生していた! 伝説の名探偵が複雑に絡み合った難事件に挑む~ 福山市かぁー 実際に数年間住んでいた街だけに思いもひとしお、っていう感覚。作中で福山の刑事たちがしゃべる方言も今では新鮮に感じる。(「・・・しちゃった」とか) 特に鞆の町は名所や建物(「鴎風亭」などなど)がそのまま登場していて、潮の香りまでも思い出してしまうようだった。 福山市が島田荘司の故郷ということは、「福山ばらの街ミステリー文学新人賞」を持ち出すまでもなく、いまや有名な話。 本作は「映画化」ありきで始まった企画のようで、それを意識したプロットなのだろう。 ただし、そのため何とも居心地が悪いというか、ムズムズしたような読後感になった。 それは多分に御手洗に対する違和感に違いない。 過去の著名作では、常に“人を喰ったような”、それでいて、底辺には博愛心を感じるような、最後には心が温かくなる・・・そんな存在だったはず。 対して本作の御手洗はどうだ? 冷徹な探偵ロボットのような存在として書かれているようにしか見えない。悪くいえば「血が通ってない」ように思える。 ミステリー書評としてこんなこと書くのもどうかとは思うけど、特別な存在であるだけにどうにも首肯できないというか、「昔がよかった!」という感覚になってしまう。 まぁ、私自身も島田氏も年を取ったということなのかな? とっくに円熟期に入った作者だし、今さら若き頃の作風にしろと言われても困るよねぇ・・・ 今回は脇筋の視点人物多すぎだし、御手洗・石岡の捜査行(?)的なシーンが少なすぎたのも原因なのだろう。 これだけの大作なのに心躍る読書には遠かったかな。 (まさか常石造船の会長がこんな大活躍をするとは・・・。当然本人も公認なんだろうな) |
No.1348 | 7点 | 自覚- 今野敏 | 2017/05/22 21:24 |
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「隠蔽捜査5.5」というサブタイトルが付いているとおり、竜崎伸也署長を取り巻く“名脇役”たちにスポットライトを当てたスピンオフ短篇集。
同じく「隠蔽捜査3.5」と名付けられた作品集『初陣』は、盟友(?)伊丹刑事部長が主役だったが、本作は一編ごとに主役が変わっていくスタイル。 ①「漏洩」=大森署の貝沼副署長が主役。竜崎赴任までは影の署長として辣腕を振るっていた貝沼が竜崎赴任後は一変、竜崎へ報告できない自分に不安になりイライラする姿が微笑ましい。まさに「組織」だねぇ・・・ ②「訓練」=パート3『疑心』で、あの竜崎に恋心を抱かせた畠山警視が主役。男だらけのスカイマーシャルの訓練で自信を失ってしまった彼女に、竜崎の「檄(?)」が心に染みる。でもこれって、あくまで男目線からの女性心理なわけで、本当の女性からするとどうなんだろう? ③「人事」=“憎まれ役”野間崎管理官が主役。まぁ、まさに「中間管理職」ってやつだね。偉そうに振る舞いたいんだけど、あっち立てれば、こっちが立たず、とでも言うべきなのか・・・。組織内にはこんな奴多いんだけどね・・・。気が小さいだけなんだろう。 ④「自覚」=大森署・関本刑事課長が主役。これまた名物キャラクターの戸高刑事が起こした発砲事件。それを問題視して右往左往する関本と、一刀両断する竜崎。「器の違い」といえばそれまでだが・・・ ⑤「実地」=大森署・久米地域課長が主役。交番に配属された新配(新入社員のこと)が引き起こした大きなミス! 野間崎も巻き込んで大騒ぎとなるが、竜崎の英断により一変! ⑥「検挙」=大森署・小松強行犯係長が主役。検挙率を上げろという「上」からのお達し。この「お達し」ってやつは、どこの世界でもやっかりなのは同じ、ってことだろう。これはもう竜崎の言うとおり。「無視」するに限る。 ⑦「送検」=ラストはお馴染み、伊丹刑事部長が主役を張る。相変わらず、竜崎に頼り切る(?)伊丹は優秀なのか愚鈍なのか? いずれにしても、こういう奴が組織では生き残る。 以上7編。 もう、これは、安定感たっぷりの作品集。 シリーズファンなら必読でしょう。 これまでのシリーズで馴染みとなった脇役たちが、ここぞとばかり大活躍! みんなが組織の中で、誰かに気を使って右往左往する中、竜崎だけは微動だにしない。そんな竜崎の言動にみんなが惹かれてしまう・・・。 誰もがこんな上司になりたい、って思うんだけど、なかなかそうはいかないよねぇ・・・ ついつい余計なことを考えてしまうし、これってやっぱり「器」なのかな? まっ、自分は自分で頑張るしかないってことで・・・ |
No.1347 | 5点 | ハイキャッスル屋敷の死- レオ・ブルース | 2017/05/22 21:22 |
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キャロラス・ディーンシリーズの第五長編となる本作。
1958年発表。 ~キャロラス・ディーンはゴリンジャー校長から直々に事件捜査の依頼を受ける。校長の友人である貴族のロード・ベンジが謎の脅迫者に命を狙われているというのだ。さらに数日後の夜、ロード・ベンジの住むハイキャッスル屋敷で、主人のオーヴァーを着けて森を歩いていた秘書が射殺される事件が発生。不承不承、現地に赴くキャロラスだったが・・・。捜査の進捗につれて次第に懊悩を深める探偵がやがて指摘する事件の驚くべき真相とは?~ このシリーズも「死の扉」「ミンコット荘に死す」に続いて三冊目。 他の方も書かれているとおり、端正な英国本格の香りを残したシリーズとして好ましいことは好ましい。 それは確かだろう。 本作は、「お屋敷」を舞台に、不穏な空気感や“間違い殺人”、外部にいる謎の人物など、いかにもというレッド・ヘリングがそこかしこに撒かれている。 終章では、犯人足り得る「十三の条件」なるものまで登場し、消去法による鮮やかな真犯人解明! これぞ本格ファン垂涎のミステリー! となるはずなのだが・・・ そうはいかなかった。 クイーンを意識したかどうかよく分からないけど、真犯人特定のプロセスはロジックというよりは直感に頼ったものっぽい。 その辺りは、巻末解説の真田氏も「ミステリーとしての出来栄えを手放しで賞賛するわけにはいかない」と指摘されているとおりだろう。 (手放しで褒める解説者が多いけど、なかなか正直なお方!) 意外な真犯人を狙ったであろうフーダニットについても、中盤あたりからその臭いがプンプンしていたと感じる読者も多いに違いない。 というわけで、やや肩透かしという読後感になってしまったけど、雰囲気自体は決して嫌いではない。 キャロラスが真相解明を渋った理由が今ひとつ分からないけど、この頃の探偵役ってもったいぶる奴が多かったからね。 英国人らしい奥ゆかしさっていうことかも。 |
No.1346 | 6点 | 邪馬台国の秘密- 高木彬光 | 2017/05/22 21:21 |
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ノベルズ版は1973年の発表。
「成吉思汗の秘密」と並び、作者の歴史ミステリーの双璧とも言える大作。 ~邪馬台国はどこにあったのか? 君臨した女王・卑弥呼とは何者か? この日本史最大の謎に入院加療中の名探偵・神津恭介と友人の推理作家・松下研三が挑戦する。いっさいの詭弁、妥協を許さず、ふたりが辿りつく「真の邪馬台国」とは? 発表当時、さまざまな論争を巻き起こした歴史推理の一大野心作!~ 歴史ミステリーとしては、もはや語り尽くされた感のあるテーマ。 それが「邪馬台国」の謎・・・ということ。 私が中高生の頃から、畿内説と九州説があって、東大VS京大で・・・と教えられてきた。 結局は「魏志倭人伝」の解釈に帰結する問題で、これが100%正解ということが難しいテーマなのだろう。 だからこそ、専門家だけに限らず素人も巻き込んで喧々諤々の説が飛び交うことになる。 ということで、神津恭介=作者の推理なのだが・・・ 学問的に正しいかどうかという点は置いといて、なかなか面白いアプローチだとは思った。 確かに、あの場所に意味ありげにあの建物がたっているわけだしね・・・ ただ、個人的には、邪馬台国がどこにあったかという問題よりは、「卑弥呼」という存在そのものの謎、その方が断然興味を惹かれるし、応神天皇や神功皇后について、古事記や日本書紀の記述などから深く掘り下げて分析している内容は、割と新鮮に読めた。 (歴史好きの方には今さらなのかもしれませんが・・・) まぁ、作者の説が正しいのかどうかは神のみぞ知るということだろうけど、 読み物としてなら、「成吉思汗の秘密」の方が好みかな。 今回は、神津も完全に安楽椅子探偵に徹していて、作品のすべてが病室内での会話で終始している点もやや割引。 いくら神津恭介とはいえ、わずか3~4日で何十年も論争を続ける大いなる謎が解かれてしまっては、本職の方もつらいだろうね。 評価としては水準級+α。 (結局、最新の説ではどうなっているのか? ネットで調べてもよく分からないのだが・・・) |
No.1345 | 5点 | 今夜はパラシュート博物館へ- 森博嗣 | 2017/05/12 23:39 |
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「まどろみ消去」「地球儀のスライス」につづく第三短篇集。
2001年発表。 ①「どちらかが魔女」=久々のS&Mシリーズというだけで心が弾む(?)。やっぱり、犀川先生のクールさは群を抜いているし、物事の捉え方はもはや職人芸だ。あと、諏訪野も職人芸? ②「双頭の鷲の旗の下に」=犀川&喜多が母校の文化祭に招かれて・・・という一編。そして、同時に進行する謎の事件・・・。現実と過去が入り混じってよく分からなくなってくる。 ③「ぶるぶる人形にうってつけの夜」=とにかく“二倍男”がツボ! 途中まで「ぶるぶる」じゃなくて「ぷるぷる」だと思ってた。平面図の件は指摘されるまで気付かなかったな・・・ ④「ゲームの国」=アンチ・ミステリ、ということでよいのでしょうか? アナグラムか・・・まっ、どうでもいいって言うか・・・ ⑤「私の崖はこの夏のアウトライン」=ファンタジー? イメージの世界 ⑥「卒業文集」=小学校の卒業文集をそのまま載せ、そこにミステリーのスパイスを盛り込むというセンスの高い作品。そんな仕掛けが?と思ってると、最後の最後で「うーん」となる。 ⑦「恋之坂ナイトグライド」=一応、最後にオチがある。 ⑧「素敵な模型屋さん」=児童文学のような、大人向けのような、ラストには心が温まる・・・そんなストーリー 以上8編。 いやいや・・・読んでて、途中あまりの「分からなさ」に投げ出したくなった。 「いったい何がいいたいのだろう?」って多くの読者は思うのではないか? (特に私のような拙い読者は) そこはさすがに森氏で、もちろん企みや仕掛けがそこかしこに用意されている。 普段のシリーズ長編とは違って、よい意味では「前衛的」で「遊び心たっぷり」。 でも分かりにくいよネ・・・それが狙いなのかもしれないけど、「分かる人には分かる」っていうのは罪だという気もした。 評価はちょっと辛め。 ところで「パラシュート博物館」とはどういう意味なんでしょうか? |
No.1344 | 4点 | 大はずれ殺人事件- クレイグ・ライス | 2017/05/12 23:38 |
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1940年発表。
姉妹篇である「大あたり殺人事件」とともに、作者の代表作と言える長編。 原題は“The Wrong Murder”、小泉喜美子訳。 ~ようやくの思いでジェークがヘレンと結婚したパーティの席上、社交界の花形であるモーナが「絶対捕まらない方法で人を殺してみせる」と公言した。よせばいいのにジェークはその賭けにのった・・・。なにしろ彼女が失敗したらナイトクラブがそっくり手に入るのだ。そして翌日、群衆の中でひとりの男が殺された・・・。弁護士マローンとジェーク、ヘレンのトリオが織り成す第一級のユーモア・ミステリー~ なぜか「大あたり・・・」の方を先に読んでしまった後の本作。 まぁ別に関係なかったといえばなかった。 (ジェークとヘレンが新婚旅行へなかなか行けなかった訳が分かったくらいか・・・) 「大あたり・・・」の時にも感じたけど、どうもライスとは相性が悪いようだ。 まず“ユーモア・ミステリー”という惹句。これがいけない! 本作も三人のドタバタ劇に割かれてるページ数が多すぎないか? 本筋としてはそれほど複雑とは思わないんだけど、寄り道や行ったり来たりのせいで、何とも締まらない読書になってしまう。 (これがもし映像化されたら、昔のドリフのコントみたいに、会場からの笑いが挿入されそうな雰囲気・・・) 本筋もどうかなぁー 途中でちょっとゲンナリしてきて、あまり身が入ってなかったんだけど、どうもプロットの核っていうか、肝がよく分からなかった。 解説等を読んでると、動機もプロットの中心というふうに書かれているけど、ピンとこなかったなー フーダニットも「ふーん」としか感じられない。 ということで、どうにも煮え切らない感想になってしまった。 GWの比較的ヒマな時間に読んでしまったのが、逆にいけなかったのかな? これ以上、作者の作品を手にしようとは思えない。 |
No.1343 | 6点 | ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 | 2017/05/12 23:37 |
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2014年発表の第五十回メフィスト賞受賞作。
いろんな意味で物議を醸したろう(?)作品を、今回文庫落ちに当たってようやく読了。 ~アウトドアが趣味の公務員・沖健太郎らは、仮面の男・黒沼が所有する孤島での夏休み恒例のオフ会へ参加することに。赤毛の女子高生が初参加するなか、孤島に着いた翌日、メンバーのふたりが失踪、続いて殺人事件が起こる。さらには意図不明の密室が連続し・・・。果たして犯人は? そしてこの作品のタイトルとは?~ 早坂吝(やぶさか)、1988年生まれかぁ・・・ 若いとか、老いたとか、年齢のことをとやかく言うのはあまり好きではないけど、作家生活ウン十年という人には逆立ちしても書けないミステリーだろう。 文庫版の解説はあの麻耶雄嵩氏が書かれているのだが(後輩だしね)、氏の処女作であり問題作(?)「翼ある闇」が発表されてから、はや二十年以上が経つんだよね・・・ 「翼・・・」初読時の際、作品全体に漂う“作り物感”や生意気な筆致(!)に何とも言えない妙な感覚に陥ったんだけど、今回、その麻耶氏から『世の中を舐めきった作品』と表現されてしまう本作。 本作がそれほどブッ飛んだ作品であると同時に、麻耶氏も『丸くなったもんだな・・・』という別の感慨も湧いてきてしまった。 しかし、とにもかくにも、京大推理研恐るべしだ。 綾辻氏から連綿とつながる、この新進気鋭の系譜。 どんな頭してたら、こんなプロットが思いつくのか? 興味はつきない。 因みに、文庫化に当たって、本作は大幅に改稿されていて、あろうことか○人○○までひとつ追加されている(とのこと)!! (理由についても「作者あとがき」に触れられているのでご参照ください。) で、本筋は?・・・って、まアいいじゃないですか。 他の方が的確な書評をすでに残されていますので、そちらをご参照ください。 まっ、敢えて書くとすれば、いくら○者とはいえ、自分で自分の○ン○の○○をするなんて、無理だろ! あと、いくら何でも○イ○○ツ○が○○やお○の○に入るわけないだろう!(まさか、いないよね) あと、そういう状況下だったら、男性の○ン○は常時○○してるのかな? というくらいかな。 (作者に倣って、○○多めの書評にしてみました) |
No.1342 | 8点 | 猟犬探偵- 稲見一良 | 2017/05/03 22:56 |
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名作「セント・メリーのリボン」に登場した猟犬探偵こと竜門卓を主人公とした作品集。
1994年、作者の死後すぐに発表されたのが本作であり、作者最後の作品となる。 ①「トカチン、カラチン」=“猟犬”の探偵であるはずの竜門が、クリスマスイブに探すことになったのは何と「トナカイ」と少年だった・・・。一年前のクリスマスイブには盲導犬を探していて(「セント・メリーのリボン」)、作中で竜門は何度も「なぜクリスマスイブに・・・」と嘆くことになる。とにかくラストが幻想的。何とファンタジックな光景なんだ! ②「ギターと猟犬」=今度はちゃんとした“猟犬”探しなのだが、探す場所が大阪のミナミ~キタというド繁華街! その猟犬は、なぜか「流しの艶歌師」と行動をともにしているのだ。猟犬を探し終えた竜門に待っていたのは、ひと組の心温まる家族の絆だった・・・。(ミナミの街中を狼連れて歩いてる男って・・・コワイよ!) ③「サイド・キック」=今回探すのは犬(シェパード)と「馬」、とおっさん!! しかも、この妙なトリオを追って、千葉~青森まで車を走らせることになる。この「おっさん」の行動が鍵となるのだけど、「そこまでするか!」という気にさせられる。あと、気になるのは赤いポルシェで竜門を追いかけてきた謎の美女。(因みにタイトルは「相棒」という意味だそうです) ④「悪役と鳩」=ラストは連続して発生した猟犬の“誘拐(盗難?)”事件がテーマ。竜門に捜索を依頼した大男・天童の男気にも惹かれるけど、やっぱり竜門のストイックさには脱帽! ラストの「詩」は染みるねぇ・・・ 以上4編。 前作(「セント・メリーのリボン」)があまりにも良かったため、続編的な位置付けである本作にも手を伸ばすことに。 いやいや、このただならぬ香気は何だ! 他の作家、他の作品では決して味わうことのできない、唯一無二の作品世界。 とにかく、登場人物のひとりひとりが何とも言えないキャラクターというか、「匂い」を発しているのだ。 現代日本という国に、こんな「ハードボイルド真っ只中」みたいな奴なんているか? っていうことを思わないでもないけど、それは野暮というもの。 とにかく夜更けの読書にはうってつけのシリーズ。世評の高さも十分に頷ける。そんな評価。 (どれがベストかな・・・? 敢えていえば②、いや④か・・・) |
No.1341 | 6点 | 黒衣の花嫁- コーネル・ウールリッチ | 2017/05/03 22:55 |
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早川文庫版の訳者あとがきによると、「幻の女」「暁の死線」と並ぶ、アイリッシュ=ウールリッチの三大傑作のひとつ・・・とのこと。
1940年の発表。 原題は“The Bride Wore Black”で、いわゆる作者の「黒」シリーズの第一作目。 ~ジュリーと呼ばれた女は、見送りの友人にシカゴへ行くと言いながら、途中で列車を降りてニューヨークへ舞い戻った。そして、ホテルに着くと自分の持ち物からイニシャルをすべて消していった。ジュリーはこの世から姿を消し、新しい女が生まれたのだ・・・。やがて、彼女はつぎつぎと五人の男の花嫁になった・・・。結婚式も挙げぬうちに喪服に身を包む冷酷な殺人鬼! 黒衣の花嫁。巨匠ウールリッチの黒のシリーズ冒頭を飾る名作~ 独特のいい雰囲気を持つ作品。 時代性を勘案すれば、このプロットは斬新だし、当時の読者の心を惹きつけたに違いない。 五人の男が、黒の衣装をまとった謎の女に殺害されていく。ひとり、またひとりと・・・ なぜ、女は男たちを殺していくのか? 単なる殺人鬼なのか? それとも? というわけで、一種のミッシング・リンクをテーマとした作品ともなっている本作。 第四部(四人目の男)=ファーガスンの章で、大凡の筋道は見えてくるのだが、このまま終了すると思いきや、ラストではなかなかの捻りが待ち構えている。 ここら辺は、ウールリッチ(アイリッシュ)らしいところなのだろう。 実に皮肉っていうか、悲劇的っていうか、因果応報っていうか・・・ 結局、作者はこれが書きたかったのかな? 確かに、そのまま終わってたら、「結構単調だったなぁー」っていう感想になったと思う。 ただ、「幻の女」や「暁の死線」にしても、本作にしても、21世紀の現在からすると、「もうワンパンチあればなあー」っていう印象にはなるんだよねぇ。 もちろんオリジナルとしての希少性はあるにしても、どうしても「高すぎる」評価に対しては違和感を覚えてしまう。 あまり要領を得てないですが、作者の作品に対してはいつもそんな感じになる。 |
No.1340 | 6点 | 悪いうさぎ- 若竹七海 | 2017/05/03 22:53 |
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2001年発表。
葉村晶シリーズの二作目は長編。最近妙に人気を獲得した(?)同シリーズということで、どうなのでしょうか? ~女探偵・葉村晶は、家出中の女子高生ミチルを連れ戻す仕事で大怪我を負う。一か月後、行方不明のミチルの友人、美和探しを依頼されることに。調査を進めると、ほかにも姿を消した少女がいた。彼女たちはどこに消えたのか? 真相を追う晶は、何者かに拉致・監禁される。飢餓と暗闇が晶を追い詰める・・・。好評の葉村晶シリーズ待望の長編~ 最近、個人的に気になる「葉村晶」である。 (乃南アサの女刑事「音道貴子」でも同じことを書いてるけど・・・) 四作目の「静かな炎天」を先に読んでしまって、彼女の年齢が若返っているのが逆に新鮮。 本作では、依頼人やら関係者やらに巻き込まれ続け、怪我&疲れでボロボロになった体を酷使することになる晶。 でもまあ、まだ三十代前半だからこそ、それができたわけで、四十代となった最新作ではとても無理だったに違いない。 ハードボイルドというと、どうしても男臭さや暴力溢れた世界観になってしまうのだが、女探偵を主人公とする本シリーズでは、どうしても読者へのアプローチ方法が違ってくる。 犯罪への怒りはもちろんだけど、暴力や裏社会への恐怖、恋愛や俗世間へ背を向けることへの諦観、それでも探偵であることの矜持etc・・・ この辺りが幅広いファン獲得の要因になっているのではないか? 確かに、本作も尺の割にはクイクイと読ませられる感じがした。 本筋については・・・どうかなぁー? 長編らしく、脇筋も結構書かれているんだけど、登場人物の多さと相俟って、どうも混乱気味のように思えた。 プロットそのものは単純極まりないんだけど、そこにたどり着くまでにエライ遠回りした感が強いのだ。 一番簡単に言えば、タイトルそのものだもんね。 やっぱり、本シリーズ&葉村晶はどちらかというと短編向きかな。 もちろん個人的な好みだし、晶とシンクロして読んでる方は断然長編というだろうけど・・・ (結局、晶の友人はどうなったのか?) |
No.1339 | 7点 | ウォッチメイカー- ジェフリー・ディーヴァー | 2017/04/24 21:10 |
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大好評(!)リンカーン・ライムシリーズも七作目となる本作。
今回は新キャラクターも登場! 2006年の発表。 ~“ウォッチメイカー”と名乗る殺人者あらわる! 手口は残忍でいずれの現場にもアンティークの時計が残されていた。やがて犯人が同じ時計を十個買っていることが判明、被害者候補はあと八人いる(?)・・・。尋問の天才・キャサリン・ダンスとともにライムはウォッチメイカー阻止に奔走する。2007年度のミステリー各賞を総なめにしたシリーズ第七弾~ 実にサスペンスフルで、実によくできた一級のエンターテイメント作品! と言って差し支えないだろう。 文庫版ではいつものように上下分冊なのだが、これまでのシリーズ作品と比べて、割と静かに流れた上巻から一変! 下巻に入るやいなや、怒涛のように押し寄せるドンデン返しの連続! 事件の様相がつぎつぎに入れ替わり、裏の裏ではなく、裏の裏の裏までひっくり返されることになる。 まさに「ジェットコースター・サスペンス」という言葉がピッタリ! 文庫版解説で、今は亡き児玉清氏も書かれているけど、今回犯人役を務める“ウォッチメーカー”はこれまで登場したなかでも最強クラスの敵となる。 ライム&アメリア、そして新登場のキャサリン・ダンスの超強力トリオをもってしても、ついに捕らえることができなかったわけで、それだけでもいかに狡智に長けていたか分かるというもの。 ここ二作(「魔術師」と「十二番目のカード」)がやや低調気味だったので、尚更本作の原点回帰ぶりが好ましくは映る。 ただ・・・ここまで褒めてきたけど、他の方も触れているとおり、「策士、策に溺れる」感が拭えないのも事実。 シリーズも七作目となると、もはや「ドンデン返し」は予定調和になっているわけで、それを超越したプロットが求められる。 今回は「ドンデン返しの連続技」で読者の期待に応えようとしたように思えるけど、それが余りにも無理筋に見える(または作り物めいて見える)ということなのだろう。 その辺りは難しいよなぁ・・・ でもまぁ、この安定感はやはり大したもの! キャサリン・ダンスもスピンオフに十分耐えうるキャラなのは本作で十二分に分かった。 ということで、次作以降も必ずや手に取るだろうな。 |
No.1338 | 5点 | 黒の貴婦人- 西澤保彦 | 2017/04/24 21:09 |
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”タック&タカチ”シリーズの三番目に当たる短篇集(とのこと)。
このシリーズの「迷走ぶり」(版元がいくつもに別れるやら時間軸の飛び具合etc)が作者あとがきに書かれてあるのが興味深い(?) 2003年発表。 ①「招かれざる死者」=本シリーズの特徴とも言える「タックの飛躍した想像」が発揮される作品。そもそもこういう舞台で殺人まで犯そうかという奴なんているのか、甚だ疑問。 ②「黒の貴婦人」=物語に出てくるのは「白の貴婦人」。いつも同じ居酒屋に決まった時間に現れる「貴婦人」の謎に迫る・・・ということなのだが、いつの間にかタカチのキャラクター解析のような話になっていた。 ③「スプリット・イメージまたは避暑地の出来心」=中編といっていい分量の作品。かといって特に力が入ったようには見えない。殺人事件云々よりもタックの料理の腕前の方が気になる・・・ ④「ジャケットの地図」=名前も明かされないまま登場する人物は、当然○○○。特段どうということもない作品。 ⑤「夜空の向こう側」=何だかsmapの曲名みたいだけど、全然関係なし。小ネタのような作品。 以上5編。 ミステリー的にどうだというよりは、タックとタカチをはじめとする登場人物たちのその後が描かれたシリーズ作品という側面が大きい。 それだけ、シリーズファンにとっては堪らないのかもしれないけど、そうでもない私のような人にとっては「ふーん」という感想になる。 でもまぁ、シリーズ化するなら、タカチのような美女は必須なんだろうね。 男性としてはどうしても気になってしまう。 (ついつい登場人物を自分と置き換えて読んじゃうから尚更だけど・・・) そこは、やはり作者の勝利なんだろう。 ミステリーとしての本筋は特段語るべきところはない。 短編らしいアイデアもないし、見るべきところはなし。 でもやっぱり気になる、タックとタカチのその後・・・って完全に作者の術中に嵌っている・・・ |
No.1337 | 5点 | プラチナタウン- 楡周平 | 2017/04/24 21:07 |
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2008年発表。
作者は元々米国系企業(コダック社の日本法人とのこと)に勤務していたバリバリのビジネスマン。 そんな作者が描く「介護ビジネス」に纏るエンタメ小説。 ~出世街道を外された総合商社部長の山崎鉄郎は、やけ酒を煽り泥酔。気が付いたときには膨大な負債を抱えた故郷・緑原町の町長を引き受けることに・・・。だが、就任して分かったことは、想像以上に酷い実情だった。私腹を肥やそうとする町議会のドンや、田舎ゆえの非常識。そんな困難にくじけず鉄郎が採った財政再建の道は、老人向けテーマパークタウンの誘致だったのだが・・・~ 作者のプロフィールからすると、今回の話はフィクションとはいえ、相当デフォルメされてるなと感じた。 どこかで聞いたような話を二つ三つつなげて、お手軽なエンタメ小説に仕上げた・・・ そんな感覚は拭えない。 ビジネスを題材としたエンタメ小説というと、昨今ならどうしても“池井戸潤”が思い浮かんでしまうのだが、プロットこそ共通している部分はあるとはいえ、ふたりの間で大きく違うのは、ずばり「熱量」の差! 池井戸なら、理想に燃えた主人公が、幾多の試練に揉まれながらも、仲間の協力を得て、最終的には勝利を勝ち取る・・・そんなプロットに仕上げるはず。 しかし、楡氏はそこまで熱くはならない。 それが「冷静」ということか、或いは「リアリティ」ということなのかもしれない。 でもなぁー、この話、明らかに「起承転結」がないんだよねぇ・・・ 普通は「転」のところで、逆境や困難に陥る主人公が描かれるはずで、そこがプロットの鍵になるんだけど・・・ 本作では割とスムーズに成功しちゃってるし・・・ そういう意味では作者の創作姿勢に疑問符を抱かせる作品かもしれない。 (読者を楽しませるかどうかという観点でね) あと、介護関連の薀蓄は2017年の現在からすると、若干古くてズレがあるので注意が必要。 |