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メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1768件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.17 7点 有限と微小のパン- 森博嗣 2023/08/08 22:43
日本最大のソフトメーカが経営するテーマパークを訪れた西之園萌絵と友人・牧野洋子、反町愛。パークでは過去に「シードラゴン事件」と呼ばれる死体消失事件があったという。萌絵たちを待ち受ける新たな事件、そして謎。核心に存在する、偉大な知性の正体は…。S&Mシリーズの金字塔となる傑作長編。
『BOOK』データベースより。

そもそもこのシリーズを過去3作しか読んでいない私が語れる作品ではないでしょう。でもまあ楽しめましたよ。長かったけど、それなりの内容なので冗長とは思いません。取り敢えず、惜しみなくキャラを出してくるサービス精神は良しとすべきでしょう。
それにしても、相変わらず森博嗣の文体は無機質ですねえ。いくら理系ミステリと言っても少しくらい情緒というものを見せてもいいんじゃないですかね。ただ終盤のあるシーンは、確かに情景が浮かんできて美しいとさえ思えましたが。

第一第二の事件はなかなか興味を惹かれました。しかし、それに比して真相はかなり貧弱な気はしました。まあ天才が多すぎて、彼らの考える事に付いて行けなかったのも情けないですが、この無難な評点を付けてしまう己の凡才ぶりに嫌気が差します。

No.16 7点 オメガ城の惨劇 SAIKAWA Sohei’s Last Case- 森博嗣 2023/01/13 22:30
「F」の衝撃、再び
孤島に聳えるオメガ城への招待に応じた六人の天才と一人の雑誌記者。
そこには、サイカワ・ソウヘイも含まれていた。彼らが城へやってきた
理由は、ただ一つ。招待状に記された「マガタ・シキ」の名前だった。
島へ渡るには、一日一便の連絡船を使用。帰りは、あらかじめ船を呼ぶ
必要がある閉じた空間。執事すら主催者の顔を知らず、招待の意図は
誰にもわからない。謎が多い中の晩餐をしかし七人は大いに楽しんだ。
そして、深夜。高い叫び声のような音が響き、城は惨劇の場と化した。
Amazon内容紹介より。

森フリークはどこにでも一定数存在すると思っているので、世間の評価はその分差し引いて考慮する様に努めていますが、余りにAmazonの高評価ぶりに欲求を抑えきれなくなり購入しました。まあそんな事は置いといて、本作は最低でも『すべてがFになる』とVシリーズのいずれか、あと出来れば四季シリーズを読んでおかないと、どういう事?となり兼ねません。逆に森作品は全作読んでいるぞと云う猛者は必読でしょうね。

ストーリーは所謂孤島物ですが、ちょっと異色です。其処に関してはあまり語らないほうが良いと思いますので割愛しますが。途中までは典型的な型に嵌った孤島ものではあります。途中からね・・・。
まあ私なんぞは真賀田四季に遭えるのかとワクワクしながら読んだクチで、ミーハーなんですが、その期待は果たして叶うのか?乞うご期待。それにしても、犀川創平ってこんな感じだったかなと、ちょっとばかり違和感を覚えましたね。年月が経っているので仕方ないのかと思いましたけど。
最後残り少ないページ数になっても、一向に解決編が見えて来ないのに焦りましたが、杞憂に終わりました。見事に着地を決めて見せましたよ。

No.15 6点 四季 冬- 森博嗣 2021/01/09 22:35
  四季  <冬>

「それでも、人は、類型の中に夢を見ることが可能です」四季はそう言った。生も死も、時間という概念をも自らの中で解体し再構築し、新たな価値を与える彼女。超然とありつづけながら、成熟する天才の内面を、ある殺人事件を通して描く。作者の一つの到達点であり新たな作品世界の入口ともなる、四部作完結編。
『BOOK』データベースより。

今回は完結編とあって真賀田四季を前面に押し出しています。それだけに難解で、私としてはある意味四季の思考が何となく解る部分もあるような気もしましたが、それはおそらく単なる勘違いで、凡人というかダメ人間である私と四季の思考回路の間には一億光年くらいの距離があるだろうと思います。
ミステリよりもSFの領域まで幅を広げ、その辺りは面白く読めました。が結局訳分かりません。ただ、真の天才であるが故の、或いは欠けるものがなくパーフェクトであるが故の四季の絶望感や虚無感は伝わってきます。

そして、あの時孤島の事件の裏で何が起こっていたのかが、四季の口から語られます。それでも、私は本シリーズの全容が把握しているとは到底言い難く、これで完結してしまったのかという儚さが残りましたね。少なくともこれだけは言えます。これを読む前に、まずは『すべてがFになる』を読めと。

No.14 6点 四季 秋- 森博嗣 2021/01/08 22:33
  四季  <秋>

妃真加島で再び起きた殺人事件。その後、姿を消した四季を人は様々に噂した。現場に居合わせた西之園萌絵は、不在の四季の存在を、意識せずにはいられなかった…。犀川助教授が読み解いたメッセージに導かれ、二人は今一度、彼女との接触を試みる。四季の知られざる一面を鮮やかに描く、感動の第三弾。
『BOOK』データベースより。

シリーズの中では外伝的な作品という位置づけだと思います。真賀田四季はチラッとしか出番がありません。犀川と萌絵のS&Mチームと保呂草潤平と各務亜樹良のVチームが共に四季の痕跡を追い、遂には彼ら四人がイタリアで邂逅します。読み所はその辺りで、何も結論らしきものは得られません。ですから、何となくですが最終巻である『冬』への繋ぎの役割を果たしているだけのような気がしますね。

やはり本シリーズでは真賀田四季の存在感が絶大で、『すべてがFになる』で探偵役を務めた犀川でさえ霞んでしまいます。まあ犀川と萌絵の関係がかなり進展するのには驚きましたが、こんなところで何やってるんだとも思えなくもありません。そして、二つのシリーズが混然一体となって展開する目論見は面白いと感じました。ああ、『夏』で出てきたあの人物はあの人だったんだなと、鈍感な私は妙に腑に落ちました。

No.13 7点 四季 夏- 森博嗣 2021/01/07 22:25
  四季  <夏> 

十三歳。四季はプリンストン大学でマスタの称号を得、MITで博士号も取得し真の天才と讃えられた。青い瞳に知性を湛えた美しい少女に成長した彼女は、叔父・新藤清二と出掛けた遊園地で何者かに誘拐される。彼女が望んだもの、望んだこととは?孤島の研究所で起こった殺人事件の真相が明かされる第二弾。
『BOOK』データベースより。

四季十三歳の物語。美しいです、ロマンティックと言っても良い。おそらくシリーズ最高傑作ではないかと思います。まだ秋冬が残っていますが。
前作と違い四季が思春期を迎えて、人間らしさ或いは女の本能を晒して、読者は天才のこれまでに見られなかった一面を目の当たりにする事になります。天才少女の誘拐事件や叔父とのあれやこれなどの大冒険ののちに、やがて訪れるカタストロフィ。ストーリー性も申し分なく、森博嗣にしては透明感が感じられる、それでいて人間味あふれる逸品に仕上がっていると思います。

『春』を飛ばして本作から入っても大きな問題はありませんが、やはりこの人誰?となる可能性は否定できませんので、順序を守って読むのが正解でしょう。コスパが決して良くないので、出来れば古書店で税込み110円で入手するのが吉かと思います。ノベルス版にはない読者の感想が載っているので、ちょっぴり文庫のほうがお得です。

No.12 6点 四季 春- 森博嗣 2020/12/21 22:26
  四季  <春>

天才科学者・真賀田四季。彼女は五歳になるまでに語学を、六歳には数学と物理をマスタ、一流のエンジニアになった。すべてを一瞬にして理解し、把握し、思考するその能力に人々は魅了される。あらゆる概念にとらわれぬ知性が遭遇した殺人事件は、彼女にどんな影響を与えたのか。圧倒的人気の四部作、第一弾。
『BOOK』データベースより。

何と言ってもこの作品は各読者の感性に合うかどうかで評価が変わってくるものと思われます。一応ストーリーらしきものはあるし、密室殺人事件も起こります。しかし、それらは二次的な副産物に過ぎず、あくまで本質は真賀田四季の天才ぶりを如何に我々凡人に理解させるかに重点を置いているものと思います。まあしかし天才にも様々なタイプがあるでしょう、四季の場合は人格を非人格として捉える、というか、極論すれば人間としてのあらゆる感情を取り除いて、残った知性のみに支えられた非人間性の極致ではないかと思うのです。だからと言って感情がない訳ではなく、表面的には非情な血も涙もない人間にしか見えませんが、勿論そんな事はありません。ですが、読み手には四季の人間性が伝わってきません。まるで精密機械のようで。

その代わりに「僕」の存在がある訳ですね、言ってみれば。あまりに天才的過ぎて副作用としての「僕」のありよう。それで中和しているのではないかと。
まあ私ごときがあれこれ書いても何も伝わらないし、瀬在丸紅子や西之園教授との邂逅を含めて楽しめばそれで十分じゃないでしょうかね。

No.11 6点 捩れ屋敷の利鈍- 森博嗣 2020/11/05 23:04
エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣が眠る“メビウスの帯”構造の巨大なオブジェの捩れ屋敷。密室状態の建物内部で死体が発見され、宝剣も消えた。そして発見される第二の死体。屋敷に招待されていた保呂草潤平と西之園萌絵が、事件の真相に至る。S&MシリーズとVシリーズがリンクする密室ミステリィ。
『BOOK』データベースより。

『密室本』の一つですかね。
あれこれ考えると森ミステリの全てを読んでいないとダメみたいになるので、何も考えずに頭を空っぽにして楽しめば良いと思います。解説にあるようにマジンガーZ対デビルマンみたいな感じで。もっと言えばルパン対ホームズのように。
色々詰め込まれている割に短いので、すんなり終わってしまいその意味では物足りなさを感じないでもありません。ただ、意味深なエピローグは気になりますねえ。イマイチメビウスの輪を準えた巨大な捩じれ屋敷の意味が解りませんでした、密室にそれほど寄与しているとも思えないですし。

メインの密室のほうは力技というか、バカミス的トリックで笑わせてくれます。まあ森ファンにそんな事を言う人はいないでしょうけどね。Vシリーズも一作目から読んでいないし、S&Mシリーズも半端にしか読んでいない私でもそれなりに楽しめたので、森博嗣を読み込んでいる人には願ってもない一粒で二度美味しい作品なのではないかと想像します。

No.10 6点 魔剣天翔- 森博嗣 2020/09/24 22:32
アクロバット飛行中の二人乗り航空機。高空に浮ぶその完全密室で起こった殺人。エンジェル・マヌーヴァと呼ばれる宝剣をめぐって、会場を訪れた保呂草と無料招待券につられた阿漕荘の面々は不可思議な事件に巻き込まれてしまう。悲劇の宝剣と最高難度の密室トリックの謎を瀬在丸紅子が鮮やかに触き明かす。
『BOOK』データベースより。

本シリーズは初ですので、誰が探偵なのかすら知らないまま読み始めました。正直全体的に冗長な感が否めません。特に伏線となる描写もないまま、余分とも思えるエピソードがあったりして、水増し感が感じられます。その割に解決編がいかにも呆気なさ過ぎてなんだか盛り上がらないですね。終盤のある人物の独白が島荘ばりで最も読み応えがありました。それにしても動機はどうなってるんでしょう。単なる読み落としですか。トリックとしては面白いと思いましたけど、わざわざそんな突飛で派手なシチュエーションで殺人を犯すかなという気もします。

これまでも再三書いてきましたが、どうも森博嗣の文章には感情が篭っていないというか、血が通っていない感じがして仕方ありません。だからグッと来るものが無いんじゃないでしょうかね。誰にも感情移入できませんでしたしね。ファンにとってはそこが良いんじゃないか、って事になるのかも知れませんけど。

No.9 6点 神様が殺してくれる- 森博嗣 2020/07/07 22:40
パリの女優殺害に端を発する連続殺人。両手を縛られ現場で拘束されていた重要参考人リオンは「神が殺した」と証言。容疑者も手がかりもないまま、ほどなくミラノで起きたピアニスト絞殺事件。またも現場にはリオンが。手がかりは彼の異常な美しさだけだった。舞台をフランクフルト、東京へと移し国際刑事警察機構の僕は独自に捜査を開始した―。
『BOOK』データベースより。

本作に限らず森博嗣の文体は無機質な作品が多いなというのが第一印象です。まあ相変わらずですが、そこが良くも悪くも氏の特徴でしょうけど。
決して悪くはないと思いましたが、諸々疑問点が残る結末ではありました。各事件へのアプローチの仕方からして普通のミステリとは違う感触で、思わず身構えて読みました。予想通りと言うべきか、とんでもない事になっています。その意味で伏線があったかどうか考えてみても、やはり後出しっぽく、本格ミステリの概念からはやや外れた異色の作品と言えるかもしれません。

しかし、犯人は何故最初から本命を狙わなかったのか、単なる嫌がらせにしては大胆すぎる犯行じゃないかと思いますね。
途中やや退屈でしたが、ラストは目を瞠るものがありました。尚文庫本の解説を読む限り、ちょっと想像の翼を広げ過ぎな感が否めませんでした。果たしてそこまで深読みするべきものかと、疑問に思われてなりません。確かに、主人公の「私」に関わる不可思議さや秘密はこの手の作品にありがちですが、本作は細部に至るまで親切に噛み砕いて書いてくれていません。若干アンフェアとも取れる不親切さは感じますね。

No.8 4点 少し変わった子あります- 森博嗣 2020/04/16 22:46
失踪した後輩が通っていたお店は、毎回訪れるたびに場所がかわり、違った女性が相伴してくれる、いっぷう変わったレストラン。都会の片隅で心地よい孤独に浸りながら、そこで出会った“少し変わった子”に私は惹かれていくのだが…。人気ミステリィ作家・森博嗣がおくる甘美な幻想。著者の新境地をひらいた一冊。
『BOOK』データベースより。

理系の作家が非ミステリを書くとこうなってしまうという典型的な悪い例。無論、理系が文学に向いていないという訳ではありません。しかし、森博嗣の場合は、以前読んだ『喜嶋先生の静かな世界』同様に、どうも情緒に欠けるし、文章に面白味がないので、自身の狙いが上手く表現出来ていない気がします。
Amazonでは相変わらず氏の作品の評価は高いのですが、納得いきませんね。みなさん、本当に面白がっているんでしょうか。

毎回場所を変えて、もてなされる二人だけの晩餐。食事の相手は毎回変わり、十代から三十代の女性で、彼女たちは自身についての何かしらを「私」に語ってくれる。ただそれだけ。中には心の中心に暖かい燈が灯ったような微かな感覚を覚えるような不思議な境地へ誘ってくれるシーンもありますが、それは一瞬だけで長くは続きません。同じ小説を京極夏彦が書いたら、少なくとも三倍程度は面白くなったと思います。

No.7 7点 迷宮百年の睡魔- 森博嗣 2019/12/02 22:24
百年の間、外部に様子が伝えられたことのない宮殿より取材許可を得て、伝説の島を訪れたミチルとウォーカロンのロイディ。一夜にして海に囲まれたと言い伝えられる島には、座標システムも機能しない迷宮の街が広がり、かつて会った女性に酷似した女王がいた。あらゆる前提を覆す、至高の百年シリーズ第二作!
『BOOK』データベースより。

順番間違えたかなあ。でもまあ、前作を読んでいなくても十分楽しめました。
しかし、首なし死体を二つ転がしておいてSFはないだろうとも思いますが、本格じゃない訳で。その辺り、ミステリと勘違いして読んだ人はそれは違うだろうと、憤慨した方もおられるかもしれませんね。そもそもおよそ百年後の物語なので、色々齟齬は起きます。例えばウォーカロンって何?ってなりませんか。ロボットなのかアンドロイドなのか、詳細は明らかになっていませんし。

途中ドタバタがあったり、なんとなくどうでも良いような描写があり、冗長さは感じます。そして、残り僅かになってもなかなか事件の様相が見えて来なくて、大丈夫かと不安になる私。勿論そんな心配は無用ですが、真相はあらぬ方向へ向かいます。それは現代においてはとても通用しない解法、だからこそのSFだったんですね。
多産作家に見られるような「書き慣れ過ぎて深みが感じられない」傾向がないとは言えないです、私だけかもしれませんし、偏見かもしれませんが。でも、これだけの作品を短期間で書き上げられるだけでも凄い才能だとは思いますね。

No.6 7点 今はもうない- 森博嗣 2016/12/18 21:50
このような変化球は私の好むところである。導入部の爽やかさも非常に印象深く、感銘を受けた。だが美点ばかりというわけではない。みなさんご指摘されているように、シンプルな謎のわりにページ数を割きすぎなのは否めないであろう。こんな解決法がありますよと小出しにするのはいいが、どれも驚くようなものではなく、正直予測の範疇に収まるといえる。さらに最後に萌絵と犀川による謎解きがおこなわれるが、あまりにあっさりしすぎていて何かこう物足りなさを感じる。
密室の謎はさして珍しいものではないが、メイントリックはかなりいい。森博嗣がこんなものを?といった意外性は見逃せないものがある。
それにしても西之園の気性の荒さばかりが目立つ作品ではあった。それも魅力なのかもしれないが、私は御免こうむりたい。

No.5 7点 封印再度- 森博嗣 2015/07/03 21:22
再読です。
好きか嫌いかと問われたら、好きな部類。これはワン・アイディアを骨として肉付けし、ストーリーの最後まで引っ張っていく作品である。しかもその肝となるトリックが骨太なため、最終章まで興味を持って読み終えることができる。
事件そのものは、再現性も含めて意外に単純だが、意表を突くトリックによって後味の良いものとなっていると思う。ただ動機だけは、相変わらず理解しづらい。
萌絵のある行動で意見が分かれているようだが、確かにちょっとやりすぎの感はあるが、これも作者のサービス精神からくるものと考えられなくもない。個人的には鼻持ちならないと感じるが、まあこういった強引な駆け引きをもって、二人の心理状態を明らかにする意味はあったのではないだろうか。
タイトルに関しては、大方の意見通り秀逸だと素直に思う。

No.4 5点 地球儀のスライス- 森博嗣 2015/05/03 21:27
『まどろみ消去』の時も思ったが、どうも森博嗣の短編集はらしくない。こちらの期待しているというか、想像しているものとは全く別の代物である。ジャンルはともかく面白ければそれでもいいが、正直面白みに欠けるため、どう考えても高評価は出来ない。
かろうじて『気さくなお人形、19歳』と『僕は秋子に借りがある』がなんとなくではあるが、心惹かれる部分がある以外、どれもこれも森博嗣にしか書けない作品とは程遠いと言わざるを得ない。残念ながら、私には凡作が並んでいるようにしか思えない。少なくとも、本書を高く評価するほどの読解力は持ち合わせていないのである。
勝手な意見だが、名前で高評価を得ているとすら感じてしまう。森氏のカリスマ性に惹かれる読者も少なくないだろうが、正当に見てこれはいただけない。

No.3 5点 まどろみ消去- 森博嗣 2015/02/02 22:07
想像していたよりも砕けた印象の短編集だった。もっとこう、堅苦しいのかと思っていたが、意外とふんわりと柔らかい感じの作品が多く、正直拍子抜け。と同時に、森博嗣もこんなのが書けるのだという認識を新たにした感じ。
まともなミステリと呼べるものは一作としてなく、中には意味不明なのも混じっており、一般受けはしないだろうなと思う。だが、それぞれが味のあるものであり、それなりに面白かった。
個人的に一番好みなのは『やさしい恋人へ僕から』。これと言って特徴のある作品ではないが、何と言うか読んでいてとにかく楽しかった。独特の語り口調も心地よく、特に大阪に関する描写はなるほどと感心した。じっくり読めばミエミエなんだけど、オチもちょっと意外だった。
他は楽屋落ち的なものが多く、まああまり感心はしないが、肩ひじ張らずに楽しんで書いている作者の姿が見え隠れしており、微笑ましく思う。

No.2 4点 喜嶋先生の静かな世界- 森博嗣 2014/03/23 22:06
本作は、森博嗣をこよなく愛する人に捧げられるべき作品であって、私のように大学生活をパチンコと麻雀に明け暮れていた下衆が読む小説ではないね。まあ真面目で真っ当な学生生活を過ごしている人、或いは過ごした人にとっては有意義な読書体験になるかもしれないけれど。特に理系の人間にはね。要するにこれは内容こそ難解ではないが、それだけ私にとって敷居の高い作品なのだ。
そして敢えて苦言を呈するならば、森博嗣という作家は執筆作業から得られる代償を単なる労働の対価と考えており、それを公言してはばからない人だ。ならば尚のこと、読者を裏切るような作品を書いてはいけないだろう。また、私はすべての小説は広義でのエンターテインメントでなければならないという持論ももっていて、その意味で本作は全くその条件を満たしていないのも不満の一つである。これを読まれた多くの方は「何を寝ぼけたことを言っているんだ」と憤慨されるかもしれないが、あくまで個人の意見なので大目に見てもらいたい。
ただ、終盤の数ページだけは少しばかり意外性もあり、考えさせられるものではあった。
蛇足だが、中学生の頃、近所の女子大だか女子短大だかの学園祭に、友人に誘われて遊びに行ったことがあるが、招いてくれた女子大生たちは一様に楽しそうだった。大学というのはそんなに楽しいところなのかとその時思ったものだが、それが幻想だと気付くのにはまだ数年の時を必要とするのであった。

No.1 8点 すべてがFになる- 森博嗣 2013/12/11 22:23
再読です。
全く素晴らしい出来栄えの一言に尽きる。
花嫁姿の死体が登場するシーンは圧巻で、それこそ度肝を抜かれたし、密室のトリックもおそらく前例のない斬新なものだと思う。冒頭の西之園と真賀田教授との邂逅も、最終章の余韻を残す締めくくりなども見事だ。
しかし、褒めてばかりもいられないのが人情というものである。ここからは本作の、私なりの気になる点を列挙していこうと思う。
まず、犀川と萌絵ばかりでなく他の登場人物のほとんどに、人間味が感じられないこと。よって、誰にも感情移入する余地がない。
第二に若干読み難いこと、これはまあ私の責任によるところも大きいので、一概には断言できないが。
第三に肝心の密室トリックに関してだが、その状況はかなり無理があるのではないかとの疑問。共犯者でもいるのなら別だが、一人では○○をこなすのは難しい。
最後に、動機の問題。作者が敢えてぼかしたとは思えないので、作者自身にもはっきりとした動機が思い浮かばなかったのではないかとも思える。ただし、これは私の読解力が足らないせいかもしれないので、あまり大きな声では言えない。
これだけの欠点がありながらも、やはりこの作品は本格ミステリの本髄と言っても決して言い過ぎではないだろう。稀有な傑作であるのは間違いないと思う。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1768件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)