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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2008件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.548 7点 出版禁止- 長江俊和 2014/12/24 22:25
以前から気になっていた一冊。行きつけの二軒の書店双方に平積みされているのを横目で見ながら、なかなか踏ん切りがつかなかったが、ついに購読に至った。なんと言っても、そのいかがわしそうなタイトルに惹かれての読了だったが、面白かった。
読者を選ぶのかもしれないが、読んでいてとても引きつけられるものを感じた、その吸引力は本物と言ってもよいだろう。
ストーリーの本筋はいたってシンプルで、ルポライターの私こと若橋呉成(仮名)がある有名人男性とその不倫相手の心中事件に疑問を抱き、死にきれなかった不倫相手に取材を行っていく。それを原稿化しまとめ上げたものがルポルタージュとして丸ごと作品に取り込まれている。そのルポが本作の大部分を占めているのである。言わば作中作の形式を取っているわけだ。
前半はすんなり読める代わりに、それほどの盛り上がりはない。終盤に至って本編の真骨頂とも呼べるような、いかがわしく不気味な本性を現す。これ以上はこれから読もうとする方のために控えるが、読者によっては怖いとか気持ち悪いとかの感想を抱くことだろう。その辺りが許容できる人にとっては、至福のひと時を過ごせるのではないかと思う。
後味はよくないが、問題作なのは間違いないだろう。年間ベスト10入りしてもおかしくないような充実した内容の傑作だと、個人的には感じる。

No.547 5点 大正二十九年の乙女たち- 牧野修 2014/12/22 22:44
時は大正二十九年、舞台は逢坂女子美術専門学校。逢坂は勿論大阪のことである。心斎橋、松虫など実際の地名がはっきりと描かれているにもかかわらず、なぜか大阪だけが逢坂となっている。いずれにしても、時も大正二十九年という架空の時代となっているので、逢坂でも違和感はないが。
主人公は専門学校に通う四人の女学生たちで、それぞれ個性と特徴を持った彼女たちのリアルな青春模様と、彼女たちを襲う猟奇事件を描いた時代青春ミステリである。
青春小説としてはまずまずの出来だとは思うし、牧野氏がこんな小説も書けるのだという意外な一面を見せた貴重な作品とも言える。一方ミステリとしては決して褒められた出来とは言えない。フーダニットとかトリックとかとは無縁のいかにも表層的な形ばかりのミステリだ。だから、猟奇事件もひっくるめての青春小説ととらえるのが正しいのかもしれない。そう考えれば、それなりに楽しめるのではないかと思う。
陽子が見つけて飼っている炭鉱馬のクルミが可愛らしく、時に重要な役割を果たしているのが、好ましい。偉丈夫の逸子は強すぎて、真式道の試合がいまいち盛り上がらないのが残念。

No.546 4点 楽園の知恵 あるいはヒステリーの歴史- 牧野修 2014/12/19 22:26
若干の面白さと大部分のわけの分からなさに溢れた短編集。
様々なジャンルが入り混じったような作品が目立つが、暗めのファンタジーとSFが主体になっているだろうか。多少エログロも見られるが、さして気にはならない程度にとどめている。
個人的に牧野氏は嫌いではないが、これはコアなファン以外は受け付けないかもしれない。なんと言うか、独特の美学のようなものは肌で感じるが、それよりも意味不明さのほうが上回ってしまって、残念な感じに終わっている。おそらく私だけではなく、多くの一般的な読者にとっても同様な印象を受けるのではなかろうか。しかしながら、これが牧野氏本来の姿なのだろう。真っ当なホラーやSFも書ける人だが、ファンに言わせればそれでは〝らしさ”が出ないということなのだと思う。

No.545 5点 仮面病棟- 知念実希人 2014/12/16 22:30
元精神病院である田所病院に、コンビニ強盗が傷ついた人質とともに押し入った。主人公である当直バイト医師の速水と田所医院長、そして看護師二人、人質の若い女性とピエロの仮面をかぶった強盗の、閉鎖状況での恐怖の一夜が始まる・・・。
帯に「怒涛のどんでん返し!一気読み注意!!」との謳い文句が堂々と載せられているが、これは過大広告というものだろう。どんでん返しを期待すると拍子抜けするので注意が必要。ただ、一気読みできるだけのリーダビリティは確かに備えていると思う。
細かい点に誤謬があるのが気になるところだが、まあそれほど傷にはなっていない。内容的にはそこそこ面白いが、あまり新味はなくあっと驚くような意外性もない。どう贔屓目に見てもまずまずとしか言えない。
勘のいい読者はどことなく違和感のある、芝居じみたやり取りの中にヒントを見出し、真相を看破することも十分可能と思われる。ただし、たとえ真相を見破ったとしても、大したカタルシスは得られない気がする。見破れなかった人もあまり騙された感は覚えないだろう。

No.544 6点 失はれる物語- 乙一 2014/12/14 22:34
なかなか乙一らしい作品が揃えられているなという印象だ。出来にばらつきはあるものの、平均すればそれなりに評価できると思う。
表題作は起伏とオチがないので、いまいち。ダークさは好きなタイプなんだが、もっと生々しさが欲しかった気がする。『しあわせは子猫のかたち』が最もミステリ色が濃く、個人的には頭一つ抜きん出ていた。繰り返し短編集に掲載されているのも納得の出来だ。次点は『マリアの指』で、これもミステリ的要素が強い作品だが、犯人を断定する決め手に欠けている。よくよく考えてみれば非常にドライな主人公だと思うが、これもまた乙一の持ち味なのだろうか。他についてはまずまずではあるが、ファンにとってはこれぞ粒揃いと言ってもよい作品が並んでいるのではないかという気がする。
乙一は本格ミステリを書こうと思えば書けるし、しかもかなり優れた作品をものにすることも十分可能なはずなので、出来ることならば短編集でも連作でもいいのでもっとミステリに挑戦してほしいと私は強く願っている。

No.543 6点 砂糖菓子の弾丸は撃ちぬけない- 桜庭一樹 2014/12/11 22:38
これはミステリというより文学やね。うん、ラノベっぽいけど、やっぱり文芸作品だと思う。
それにしても票が割れてるねえ、まあ確かに好き嫌いがはっきりしやすい作品かもしれない。ミステリ性を求める読者にはかなり物足りないだろうし、一方そうではなく青春小説と割り切っての評価が許容できる読者には、むしろ好感度は高いと考えられる。
冒頭、いきなり二人のヒロインのうちの一人の末路が詳らかにされるが、これはどうなんだろうか。ミステリ的流儀では「なし」だね。だから、作者は最初からミステリを書くつもりはなかったのだろう。よって私はこれを文学作品と判じることになるわけだ。
ひとつ気になったのは、中学で飼っているウサギが惨殺された理由が推測でしか書かれていないこと。これがはっきりしていればもう1点評価が上がったかもしれないのに。全体の流れを損なってはいないと思うが、どうにも犯人の心情が掴めないのは気持ち悪い。
しかし、そうした瑕疵を些細なものにする美点が本作には息づいている。それはそこはかとない抒情性であろう。全編を覆う美しい抒情を読み取れるかどうかによって、評価は分かれることになるはずだ。強烈な印象はないものの、相当な佳作であるのは間違いないと感じる。決して少年少女向けのジュブナイルではない。

No.542 7点 読み出したら止まらない!国内ミステリーマストリード100- 事典・ガイド 2014/12/09 22:31
書評家、千街晶之氏が選ぶ国内ミステリの必読書100冊。とは言え、いくつかの縛りを設けているため、各作家の代表作とは限らない、いわば裏ベストと言っても良いような作品が並んでいる。その並びを見ると、やはりいまいちピンとこない感は否めない。例えば島田荘司氏の『摩天楼の怪人』、京極夏彦氏の『嗤う伊右衛門』、麻耶雄嵩氏の『メルカトルかく語りき』など、選出に首を傾げざるを得ないのもかなり含まれている。それと、安孫子武丸氏が選出されていないのも疑問だ。
しかしながら、千街氏なりに吟味を尽くして精選しているのも、その苦心の末の選択もその心情は何となく理解できる。本格ばかりでなく、ハードボイルド、ホラー、SF、サスペンス、警察小説からイヤミスに至るまで、およそ考えうるすべてのジャンルを網羅しながら、選別しまとめ上げられた第二部では、ほとんどのミステリ関係の作家が挙げられているのには感心させられる。よくこれだけの作品を読破しているものである。
書評家として個人的に好きな千街氏のガイド本でもあるし、私としては好みの範疇から取りこぼしている作品を発見できただけでも購入した価値があったと思う。

No.541 3点 〔少女庭国〕- 矢部嵩 2014/12/07 22:01
内容はともかく、まず非常に読みづらい。難読漢字にはふりがなをうつべき。例えば、肉刺をなんと読むか、フォークと読める人は多くないのでは。ところが本書にはただの一つもかなを振っていない。こんな小説読んだことがない。それと、会話文はともかく、地の文に読点が欠損しすぎており、一瞬どう読んでよいのかわからない文章がかなりある。これも不親切ではないだろうか。
前半は若干面白い部分もあったが、後半はまるでつまらない。どれほどつまらないかと言うと、『経済原論』と肩を並べるくらいつまらない。後者はとりあえずためにはなるが、この小説はためにもならないし。
SF的な展開なのは別に文句はないが、説明されていない事柄が多すぎるだろう。石でできた部屋に少女が一人ずつ閉じ込められて、それがドアを通じて延々と続いている、特別問題ない。さらに開拓が進められて一つの国が出来上がる、それもいいだろう。だが、自転車はどうやって作られたのだろう、或は種は誰かのポケットに入っていたとしても、畑の土はどこから調達したのだろう。何より、閉じ込められた目的は?誰が?どうやって?SFとはそういった様々な疑問点を無視して、投げ出してもいいものなのか。奇想だ奇書だと称賛する声もあるようだが、私には理解できない。
ミステリなら1点だよね。

No.540 6点 拝み屋郷内 怪談始末- 郷内心瞳 2014/12/04 22:20
現役の拝み屋郷内氏が見聞きした怪談を、これでもかと詰め込んだ短編集。ショートショート的なものが多いが、結構な長尺もあり、それは自身の体験した物語がほとんどである。視えてしまう者の辛さ、拝み屋という職業の苦しみがよく伝わってくる。私は霊感というものが全くないので半信半疑だが、やはり霊とか魂など視える人には視えるらしい。
タイトルに「始末」とあるが、怪談を自らが始末する、つまり切って捨てるように終結させるわけではなく、あらゆる怪異を読者に開示することによって、供養になるという想いからこのデビュー作を書き始めたらしい。だから、我々読者がこの一つ一つの短編を読むことによって、初めて始末がなされると解釈するわけである。
肝心の中身はありとあらゆる怪異を集めた実話なので、巷に溢れる怪談集と何ら変わりはない。だが、その独特の語り口調は一読に値するものであろう。世間の評価が高いのも頷けるはなしではある。

No.539 4点 探偵の探偵- 松岡圭祐 2014/11/30 22:41
硬質な文章、乾いた筆致、容赦ない描写、どれを取ってもハードボイルド以外の何物でもない。この手のミステリが好きな読者には堪らない小説だろう。
高校を出たばかりの玲奈はスマPIスクールという、探偵養成学校に入学するが、彼女は普通の探偵になりたいわけではなく、探偵そのもの、すべてを知りたいのだった。常に冷静だが、我が強く時に語気荒く目上の者にも意見する。というより、文句をつける。笑わないヒロイン、望まず孤独な立場に居座り続ける彼女。新たな女性探偵像の登場である。
一見魅力的なヒロインのようだが、どうにも感情移入しづらいきらいがある。他のキャラもそれぞれ個性的だし、よく描きこまれているが、どれも人間味に欠けるので、乾いた印象しか受けない。
ストーリーとしては、対探偵課という部署に新人の琴葉とともに所属し、悪徳探偵と命を懸けて戦うというものである。相手も相手だが、ちょっとやりすぎじゃないかと思うくらい、暴力的な探偵ではある。
ハードボイルド好きな読者は一度読んでみる価値はあるだろう。続編も来月に刊行予定だし、玲奈の活躍に乞うご期待といったところか。

No.538 4点 四段式狂気- 二宮敦人 2014/11/27 22:26
「必ず4度ダマされる」と謳っているが、最初だけだった。あとはもうミエミエでほとんどの読者が想像している通りなんじゃないかな。意外な展開とは程遠い、完全なる予定調和的四段。それと、帯にはホラーミステリーとあるが、これはサスペンスだろう。視点が目まぐるしく変わることもあり、心理サスペンスと言えるのではないか。
今や、「狂気」を描かせれば当代髄一の作家である二宮氏なので、その観点からすれば確かに心理描写は優れていると思うが、最終的に破綻してしまうのはいつもの悪いクセのようだ。
ストーカーから始まる物語はいかにも安易で、安っぽいB級の匂いが漂う。ストーリーもいたって単純で、登場人物も少なく、ミステリ中毒者としてはかなり物足りない。やや辛めの採点でこの点数に落ち着いた。

No.537 7点 拝み屋郷内 花嫁の家- 郷内心瞳 2014/11/25 22:34
拝み屋とは一体どんな職業なのだろう。家内安全、交通安全、合格祈願、安産祈願、地鎮祭、屋敷祓い、先祖供養、ペット供養などを行うらしい。だが、その中のごく稀にとんでもない、およそ彼らの手に負えない代物が混じっていることがあるそうだ。この作品に収められている中編二作は、現役の拝み屋である作者が経験した、とてつもないまるで怪談のような実話である。
だが、これらは本当に実話なのであろうか。だとしたら、あまりにも非現実的すぎる。かといって、まるっきりのフィクションならば、これまた荒唐無稽すぎてわざわざ小説にはしないと思われるのである。いずれにしても、この二つの物語は怪談というより、ジャパニーズ・ホラーと呼ぶ方が相応しい。
最初の『母様の家 あるいは罪作りの家』のほうが私の好みである。ただし、物語のスケールが大きすぎて、人間関係が複雑なので、すべてを把握するのは一読しただけでは難しいと思われる。
中身に関しては読んでいただくしかない。とてもここで紹介できるものではないし、あまり書きたくないのである。なぜなら本気で障りがあるのではないかと心配するゆえだ。はっきり言えるのは、実話であるかないかに拘わらず、大変しっかりした小説であり、感動の物語であり、恐ろしい話でもあるということである。

No.536 5点 ON 猟奇犯罪捜査班・藤堂比奈子- 内藤了 2014/11/22 21:56
過去に猟奇犯罪を犯した犯人が次々と同じ手口で自殺する。しかも二件目は死刑囚で、独居房の中。果たして本当に自死なのか、殺人だとすると一体どんな方法で行われたのか。そんな中、幼女の猟奇殺人事件が浮かび上がる・・・
ある意味での真犯人も、トリックも目を瞠るようなものではない。よって、本格物を読み慣れた読者には物足りないだろう。なのにAmazonでのレビューが高評価なのは、おそらく個性的なキャラが目白押しなのと、主人公の比奈子に感情移入しやすいという理由が挙げられると思う。個人的には、ところどころ落涙ポイントが散りばめられているのが嬉しい点であった。他にはこれといって美点は見られないが、全体を通してまずまずうまく纏められている感じで、新人としては合格なのではないだろうか。
本作はシリーズ化される予定らしいので、次回作では期待を上回るような、斬新なトリックやさらなる猟奇的な殺人事件に真正面から取り組んでもらいたいと心から思う。

No.535 7点 人間の顔は食べづらい- 白井智之 2014/11/19 22:40
疫病のため肉食が不可能となった日本で、公に人のクローンを工場で培養し、首を切断し出荷するという産業が興された。無論、食用である。当然他人のそれではなく、購入した本人のクローンだ。
そんな荒唐無稽な舞台設定のなか、その計画を押し進めた国会議員のもとに、本来梱包されないはずの生首が紛れ込むという事件が発生した・・・
本作は、第34回横溝正史ミステリ大賞最終候補作であり、白井氏のデビュー作である。多少荒削りで全体的にまとまりに欠ける面もあるが、個人的には大変気に入った。なぜこれが大賞に選出されなかったのか、それは他にもっと相応しい作品が応募された、受賞作としての品位というか品格に欠ける、或いはその両方が挙げられる。おそらく二番目の理由だと思うが、大賞を受賞しても決しておかしくない傑作だと私は考える。
これは大変な大型新人が現れたものである。次回作も大いに期待したいところだし、本作を上回るような作品に出会えることを願ってやまない。

No.534 6点 Another- 綾辻行人 2014/11/16 22:21
少なくともあとがきにあるような、新たな代表作とは言えないだろう。さらには、本作は本格ミステリではなくホラーだと私は思う。確かにミステリ的な要素もあるにはあるが、体裁としては完全なホラーだ。
全体的にどうもテンポが悪く、特に前半はもたもたしてややイラッとくるシーンもあったりする。それと、文末が・・・でや・・・てで終わる文章が目立ち、据わりが悪い感じがしてならない。読みやすいので忘れられがちかもしれないが、何か氏らしからぬ印象を受けるのである。
唯一ミステリらしさを発揮しているのがメインとなるトリックで、これは綾辻氏らしいと言えるだろう。ただ、伏線があからさま過ぎて見抜かれやすいという意見もあるようだが、私は騙された。まあそれで良かったのだと思っているけれど。
色々難癖をつける感じになってしまったが、ミステリではなく読み物として面白かったとは思う。しかし期待を上回ったかと問われると否と答えざるを得ない。

No.533 5点 幻視時代- 西澤保彦 2014/11/12 22:30
なんだか読みやすくて軽い。まるでらしくない作風だと感じる。西澤保彦というより、プロットやストーリーは折原一テイスト。
で、肝心の、死んだはずの少女が映っていた写真のトリックがおろそかになっていて、ぞんざいな扱いを受けているのはどうも気に入らない。まあそれでも、ミステリとしての側面よりも青春小説として充実しているので、まずまず評価できるとは思う。商品としての小説を執筆するという苦行が、どこまでも若者たちを追い込むという実態は、我々素人では理解不能であるが、西澤氏は作家として身に詰まされる面もあったことだろう。だからこそ書けた作品と言うことで、どこか悲劇の匂いがそこはかとなく漂っているようだ。
なかなかよく考えられた小説だと思うが、かなり地味で読んでいて気分が高揚するような代物ではないのは確かである。ただし、お得意の推理合戦は本作でも健在だ。

No.532 7点 天久鷹央の推理カルテ- 知念実希人 2014/11/08 22:23
天医会総合病院の副院長にして、統括診断部部長、天久鷹央が天才的な頭脳を駆使して病院内の事件を解決する、メディカル・ミステリの連作短編集。鷹央は女性である、念のため。
タイトルに「推理カルテ」とあるように、医学、医療と院内で起こる様々な事件が有機的に繋がりを持っており、単に現場が病院であるというだけではないところが異色である。作者は現役の医者であり、持てる医学的知識を駆使して見事に事件を解決に導いている。それと同時に、まるでベテランの推理作家と見紛うばかりの文章力を見せつけており、読者を引き付けて離さない魅力を遺憾なく発揮しているのはさすが島田荘司氏に見いだされた実力者と言わざるを得ない。
探偵役の鷹央は細かいディテールまで描き込まれており、実に個性的な人物像を確立していると言える。例えば
・いつも薄緑色の手術着の上にぶかぶかの白衣を羽織っている
・小柄で幼く見えるため、実年齢は27歳だが高校生と間違えられる
・猫のような丸い目をしており、たまにその目を細めるくせがある
・事務長の姉がおり、彼女を恐れている
・運動神経が弱いため、何もない廊下でよく転ぶ
・目上、初対面、患者に対しても敬語は一切使わない(お前呼ばわりする)
等々、枚挙にいとまがない。
そして、この作品の読後感の爽やかさはどうだろう。とにかく後味が素晴らしく良い。一度読んでみていただきたいものである。
当然、シリーズ化されるものと期待しているが、こうした隠れた良作は、もっと多くの人に読まれるべきだと声を大にして言いたい。

No.531 5点 私を知らないで- 白河三兎 2014/11/06 22:35
これはミステリというより青春小説そのものじゃないかな。
主要登場人物は中学生男子の転校生二人と、クラス中に無視されている美少女「キヨコ」。それにクラスのボス的存在のミータン(女子)とそのグループの№3であるアヤ。この五人がそれぞれの役割を担って、ストーリーを押し進める。冒頭でミステリ的要素はないと書いたが、本作の最重要テーマにキヨコの人物像を掘り下げるというものがあり、これが謎解きの代替の役目をしているとは言えるだろう。
それにしても、彼らは中学生でありながら全然らしくなく、それぞれが違った意味で超越した存在であるため、リアル感は全くない。だからと言って絵空事なのかと問われると、答えに詰まる。これはそうした、一風変わった中学生の実態を思いっきり膨らませて、デフォルメした青春物語なのだろう。だが、それぞれの個性的な言動や一生懸命さは十分に伝わってきて、それが痛々しかったり、感動を呼んだりとある種独特の雰囲気を醸し出している。それがこの作者の特徴なのかもしれないし、時にたどたどしい文章が逆に印象深く心に突き刺さったりもするのである。
個人的には、文化祭のシーンが一番好きだし、最も盛り上がるのはやはりそこだと思う。それとキヨコの作るおにぎりは実に美味しそうで、多分極上の味がするんだろうなと思う。

No.530 7点 二重螺旋の誘拐- 喜多喜久 2014/11/02 22:16
帯の「二度読み必至」の文字に惹かれて購入してみた、どうせハッタリだろうと舐めていたが、本当に読み返すことになろうとは思ってもいなかった。勿論、最初から最後まで通して二度読みしたわけではない。私とてそれ程暇ではない。だが、要所をかいつまんで読んでみると、上手く仕掛けが隠蔽されていると同時に、かなりあからさまな伏線が張られていることに驚かされる。慎重に注意深く読み進めれば、作者の企みに気づくことも十分可能であると思う。が、やはり綺麗に騙される快感を味わうべき作品なのかなとも考える。
本作は二つのストーリーが並行して進行し、その両サイドがともに誘拐が絡んでくるという特殊な構成になっており、実はそこに作者の企みが潜んでいるわけである。無論、両者は有機的に繋がりを持っており、入り乱れる人間関係や事件をドキュメンタリータッチで追うサスペンスフルな構造は見事と言ってもよいだろう。
ただ気になるのは、誘拐をテーマにしているわりには全体的に小ぢんまりとまとまり過ぎて、スケール感が物足りない点である。だが、小品ながら気合の入った力作なのは認めざるを得ないと思う。

No.529 7点 掟上今日子の備忘録- 西尾維新 2014/10/31 22:34
遂に西尾維新が本格ミステリの世界に帰ってきた。この時をどれだけ待っていたことか。続編も刊行予定のようだし、私としては出来ればこのまま本格の道を邁進していただきたいと願う次第である。
さて本作だが、名探偵ジャパンさんがおっしゃっているように、余計な情報をできる限り排除して、さらには登場人物も最低限に抑えることにより、読者をストーリーの中へ無理なく入り込めるように細やかな配慮がなされている。なので、非常にスッキリとスマートな仕上がり具合となっていると思う。この辺りはこれまでの西尾氏と一線を画するところだろうし、新境地と言えなくもない。
探偵の今日子さんは、前向性健忘の一種で、一度寝てしまうと前日の記憶がなくなってしまう。だから彼女は病気に罹って以降の記憶が全くないのである。よって探偵という職業を選ばざるを得なかったし、事件をその日のうちに解決してしまう「最速の探偵」なのである。
おそらく治る見込みのない病気を抱えて、さぞ辛い思いをしているだろうと推測されるが、悲壮感は全く感じさせない。作者はそうした湿った作品を望んではいなかったのだろう。しかし・・・
「私は掟上今日子。25歳。置手紙探偵事務所所長。白髪。眼鏡。記憶が一日ごとにリセットされる」これにはじんわりと涙腺が緩んでしまった私であった。
とにかく、西尾氏のファンは勿論だが、いつものクセのある文体に敬遠気味の読者のみなさんにも、この作品は一読の価値があると言いたい。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2008件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(30)
西尾維新(25)
島田荘司(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
日日日(20)
折原一(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)