皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.02点 | 書評数: 1772件 |
No.472 | 6点 | 18禁日記- 二宮敦人 | 2014/05/18 22:35 |
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ブログや遺書を含む、15の日記から構成されているホラー短編集?と言っていいのだろうか。日記の中身は蚊に刺されやすい体質の男、初体験を待ちわびる少女、絶対音感に取り付かれた女、あらゆる生物の眼球に異常な興味を持つ子供など、どれもこれもある事柄に執着するあまり、悲劇的な結末を迎えてしまう、人間の悲しいさがを描いたものである。
形式が日記だけに、それ程心理描写が深く抉られているわけではないが、着実に人間が狂気に取り付かれていく過程を見せつけられる形になっており、読者自身もそれぞれの擬似体験を強制的にさせられるような静かな圧力を掛けられる。まさにこれまで味わったことのないような奇妙な魅力を持った小説であり、ある意味奇書と考えてもらっても差し支えないと思う。 それぞれのオチは驚くほどのものではないが、全体としてはなかなか良く考えられた着地が待ち受けている。まあそれ以外に落としどころがないとも言えるが。 取り敢えず、私としては十分楽しめたし、読み返すのも楽でいいのではないかと思う。いわゆる「コロンブスの卵」的な作品とも言えるだろう。 |
No.471 | 5点 | 人形は眠れない- 我孫子武丸 | 2014/05/17 23:19 |
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再読です。
これは最早恋愛小説じゃないかな。毬夫の誕生秘話なども盛り込まれていて、本シリーズのファンにはうれしい内容なのかもしれないが、ミステリとしては褒められたものではないと感じる。あとがきにもあるように、短編集の要素を取り入れた長編とのことで、全体の流れがスムースではなく、各エピソードの連結部がしっくりきていない気がする。 本作は完全に主人公が睦月になっており、朝永の影がかなり薄い。なんだか読んでいて、朝永のどこに惚れたんだろうという素朴な疑問を感じる。それくらい魅力的な面が描かれていないのである。 小説としてはまあまあだと思うけれど、ミステリ的要素が薄いのでその意味ではちと辛いかもしれない。 一番のサプライズはライバル関口の母親の正体であった。 |
No.470 | 6点 | 人形はこたつで推理する- 我孫子武丸 | 2014/05/15 22:32 |
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再読です。
我孫子氏初、ユーモアミステリの連作短編集。本作はトリックうんぬんよりも、そのシチュエーションや妙な三角関係、いやむしろ四角関係か?を楽しめばいいのであって、ミステリとしての評価は若干低くならざるを得ないのが正直なところ。ところどころにアラが目立つのと、小説として地味な点が弱みだろうか。 主人公は実は腹話術師の朝永でも人形の毬夫でもなく、おむつこと妹尾睦月なのではないかと、私はひそかに思っている。睦月の朝永を思う気持ちがいじらしく、時には優しく時には叱咤激励しながら、なんとか朝永を盛り立てようとする姿は、まさに男性読者のハートを鷲掴みの感がある。 それに対して肝心の朝永はいささか頼りなく、男としての魅力に欠けているように私には思える。母性本能をくすぐるタイプなのかもしれないが、ややイラッとするシーンが多いように感じる。 よって、私が最も好きなのは最終話である。ミステリ的には全然大した出来ではないけれど、睦月の一生懸命な姿に思わず感動してしまった。つい心の中で「ガンバレ」と応援したくなってしまう。まんまと作者の思惑に嵌ってしまうこと請け合いである。 余談だが、あとがきに「深津絵里は可愛い」との記述があるが、書かれたのが24年前なのを鑑みると驚きである。子役だったのかもしれないが、深津絵里っていつから芸能界にいたんだろう、そして彼女は現在何歳なのであろうか。 |
No.469 | 6点 | 叫びと祈り- 梓崎優 | 2014/05/13 22:28 |
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異色の5篇の短編からなる連作短編集。中でも『砂漠を走る船の道』は傑作で、他も同レベルなら9点を付けるのに吝かではなかっただろうし、当然本屋大賞も受賞していたに違いない。
だがしかし、どの作品も異国の空気感を存分に味わうことができ、その意味では一読の価値はあると思う。そこはかとなく漂う文学の香りを好ましく思いながらも、ミステリ色がやや薄いことに物足りなさを覚えてしまうのは、一ミステリファンとして致し方のないところか。 他の方も指摘されているように、最終話は取ってつけたようなわざとらしさが感じられて、どうにもスッキリしない。別に連作だからと言って、最後でうまくまとめようとしなくてもよかったのにと思ってしまう。 繰り返すが、第一話のような名作を書き上げるだけの手腕の持ち主であるならば、もっと時間を掛けても他の作品に力を注いでほしかった。そうすれば、正真正銘、十年に一度の稀有な短編集が生まれたのではないかと思うと、歯がゆさを禁じ得ない。それでも第一話の『砂漠を走る船の道』は素晴らしく、これだけでも読む価値はあるだろう。 |
No.468 | 5点 | 心霊探偵八雲1/赤い瞳は知っている- 神永学 | 2014/05/10 23:26 |
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再読です。
主人公が死者の霊が見える探偵ということで、オカルト+ミステリ的な感じの作品。最初に刊行された時はあまり評判がよくなく、売れなかったが、タイトルを変えて新たに出したところ、嘘のように売れてしまったという曰くつきのシリーズ第一弾。 非常にテンポがよく軽めの文体なので、サクサク読めて、心霊探偵というわりには明るめのタッチで、あまり深刻な作品を望んでいない一般読者に大いに受けている模様である。しかし、肝心の中身が薄いせいか、インパクトに欠けるというか、奥深さを感じさせない辺りは相当なマイナス要素となるだろう。事件そのものもいたってシンプルで、やはりミステリの読み手にとってはいささか物足りないと思われる。もう少し捻りを加えるなり、人間関係を複雑にするなり、工夫が欲しかったところである。 お手軽なライトノベル的ミステリを所望の方向けの作品と言えるだろう。ただし、昨今の易しい系ミステリと比較すると、見劣りするのは否めない。2以降を読んでいないので偉そうなことは言えないんだけどね。尚、単行本のあとがきにあるように、作者本人がサスペンスと発言しているので、ちょっと違う気もするがジャンルはそちらで投票させていただいた。 |
No.467 | 7点 | 扼殺のロンド- 小島正樹 | 2014/05/08 22:28 |
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これはなかなかの力作ではないだろうか。各章ごとに配された謎は何とも言えない非現実感を伴っており、かなり魅力的ではあるのだが、堅実な文章のせいか、あまり派手な印象は受けない。ストーリー展開もスピード感に溢れているとは言い難く、ゆったりめなので、ドキドキするような迫力も感じない。しかしながら、着実に段階を踏む推理には納得せざるを得ない部分も多々ある。
フーダニットとハウダニットが謎の中心だが、上手くミスリードを挟みながら展開する謎解きは惹きつけられる。また、その陰に隠れて目立たないが、動機もなるほどと頷けるものがある。その動機から誰が真犯人なのかを推測することも可能だ。 全体的には小島氏が尊敬する島田荘司氏を彷彿とさせる作風だと思うが、一見平和そうな家庭の裏側にドロドロとした怨念のようなものが渦巻いているというやや複雑な人間関係は、横溝正史を思わせる。 やや気になるのは、登場人物にあまり魅力が感じられないことだろうか。探偵の海老原も派手さが足りない気がするし、二人の刑事もあまり人間味を感じない。その辺りをもう少しうまく表現できればさらなる傑作が生まれたに違いない。 |
No.466 | 5点 | 5分で読める!ひと駅ストーリー 降車編- アンソロジー(出版社編) | 2014/05/05 22:31 |
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宝島社からデビューした、ミステリー、ライトノベル、恋愛小説の作家たちが、「ひと駅」をテーマに書き下ろした24篇からなるアンソロジー。『このミス』出身作家が最も多く参加しているが、舞台が限定されていることやショートショートという縛りが厳しいため、ミステリ度は低い。
全体的には玉石混交であるが、石のほうが多めだろうか。どれもいまひとつオチがヌルいので、強烈に印象深い作品がない。勿論、これは!というのも中には混在しているので油断はできないが。こうした狭い設定の作品には既視感のあるものが多い気がするが、意外とそういうわけでもなく、各々オリジナリティが見られて、その点では評価されてもいいかもしれない。当然、これだけ並ぶと訳の分からないのや、読者を舐めているのかと思われるものもあるが、全般的にそこそこ面白いのではないだろうか。 一つ確かなのは、水田美意子はデビューからほとんど成長していないということ。相変わらず文章が中学生の作文レベルで、さすがにプロとして食べていくには力量が不足していると思わざるを得ない。私自身も相当酷いが、私は素人だからね。 そして宝島社にも一言いわせてもらうと、なぜ同じようなアンソロジーが、280ページでも360ページでも同じ値段なのよ。普通はページ数によって値段も変わってくるものじゃないのかねえ。それに280ページで税込み700円は高すぎると思うけど。 |
No.465 | 6点 | 幻影館へようこそ 推理バトル・ロワイアル- 伽古屋圭市 | 2014/05/03 22:08 |
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『バトル・ロワイアル』と言っても、中学生が殺し合うわけではない。かの作品よりもずっとまろやかで、緊迫感が薄い。どちらかというと『インシテミル』に近いが、報酬は桁違いに少ないし、危険な香りもしないので、まあ一般読者にも比較的受け入れられやすいのではないだろうか。
ごく普通の女子高生、加奈は友人に、自分の代わりに拡張現実(仮想現実)を利用した新作ゲームのモニターに参加してくれないかと頼まれる。主催するのは「夢こーぼー」が大ヒットしている日本でも有数のゲーム会社で、報酬は参加するだけで3万円、1回勝ち抜けるごとに3万円が加算され、最終的に優勝すると19万円が手に入ることになる。 加奈は参加することを決める。参加者は男女9人で、果たして彼女は優勝できるのか・・・。 途中まで読んで、こりゃ、やっちまったかな?と後悔し始めたが、結局読み終わった時には納得出来る作品に仕上がっていることが認められ、胸をなでおろすのであった。序盤は推理というより思い付きやひらめきで、解決していく感じでちょっとどうかと思ったりもしたが、読み進むにつれ徐々にではあるが引き込まれていく。アッと驚くような展開も胸をすくような快刀乱麻を断つごとき推理もないが、どこかのんびりとした、ほのぼの感がよく伝わってくる。こういったジャンルにありがちな殺伐とした雰囲気がないので、その意味では安心して楽しめるのではないだろうか。 |
No.464 | 6点 | 櫻子さんの足下には死体が埋まっている - 太田紫織 | 2014/05/01 22:39 |
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巷で話題の(ちょっと古いが)櫻子さんシリーズの第一作。
思った以上に軽めの作品であった。そりゃそうだろう、ライトノベルだから、と言うより元々ケータイ小説だし。 で、主人公の櫻子さんは、というと、普段から男物の白いワイシャツにジーンズといういでたちで、ケータイも持っていない。好きなものは一にも二にも骨、である。趣味は小動物や魚の骨格標本を作ること。言葉遣いはまるで男そのもので、語尾に「なの」やら「のよ」などは金輪際付けたりしない。表情豊かとは言えないが、笑顔が天使のように可愛いらしい。それでいて筋金入りのお嬢様と来ているのだから、これはもうラノベ史上最強キャラと言っても過言ではないかもしれない。勿論、その洞察力は群を抜いており、まさに無敵である。 京極作品に例えるなら、京極堂と榎木津を足して二で割ったような、強烈な存在感を持っている。 ただ誠に残念なのは、櫻子さんと記述者の正太郎の二人しか主要キャラが登場しないことである。サブキャラがほとんど出てこない。たまに顔を見せるのは、ばあやと正太郎の母親くらいなのである。二作目以降は今後購読予定なので、そちらで新キャラが登場するかどうか追々明らかになってくると思う。 本作は連作短編の形式をとっており、第一話は密室殺人?、第二話は浜辺での心中事件、最終話は降霊会の謎を扱っている。本サイトの本格ミステリマニア達にはおそらく物足りないだろうし、見向きもされない作品の可能性が高いので、似非マニアのわたくしめが先陣を切って登録させていただいた次第である。 でも、結構面白いよ、いや本当に。 |
No.463 | 6点 | ピース- 樋口有介 | 2014/04/30 22:24 |
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『ピース』洒落たいいタイトルだねえ、まあ誰が考えてもそれ以外ないんだけど。それと装丁(文庫版)も実にいい味出している、読後思わず見返してしまったよ。
肝心の中身は、秩父での連続バラバラ殺人事件を追う刑事と、被害者がピアノを弾いていたスナックのマスターやバーテン、そこに通う常連たちの物語が入り乱れての人間模様が中心に描かれており、若干本格ミステリとは言い難い。しかし社会派ではないと思うね。一応、その中に伏線が張られてはいるのだが、それらを頼りに真相にたどり着くのは無理だろう。なにせ、何の前触れもなしに、いきなりある人物が犯人を指摘し、真相を語りだすのだから。その段になって、やっとあの時のあれはそういうことだったのか、などと考えが至るのみで、さすがにここまではたどり着けないと思う。 そしてラスト、刑事のセリフが回りくどすぎて、なんだか締まりのない終わり方になってしまっている気がする。もう少し、ズバリと切り込まないと、せっかくの作者の狙いがぼやけてしまって、後味の悪さに繋がっているのではないだろうか。 しかしまあ、全般的に重苦しい雰囲気ではあるものの、特にホワイダニットについては、なるほどと首肯させられるだけのものはあった。ただ、いくつかの謎が謎のまま回収されていないものがあり、やや気持ち悪さが残ってしまっている点は残念。 |
No.462 | 7点 | 僕はお父さんを訴えます- 友井羊 | 2014/04/28 22:28 |
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タイトルの通り、13歳の少年が民事訴訟を父親相手に起こす物語。訴えの理由は愛犬を殴り殺されたというもの。子供に何ができるのかと、疑問に思っている方も多いだろうが、周りの大人たちの助けを借りて、立派に書類作成から出廷にいたるまでをこなしている。本作はなんとなく頼りないタイトルとは裏腹に、しっかりとした本格法廷ミステリである。
主人公の光一はごく普通の中学生で、ある日クラスメートの沙紗に愛犬のリクを瀕死の状態で見つけたことを知らされる。急いで駆け付け病院に連れて行くが、犬はやがて死んでしまう。二人は協力してリクを殺した犯人を突き止めようと、探偵の真似事を始め、行き当たったのが光一の実の父親だった・・・という出だしである。 これだけでは、いかにも単純なストーリーに思えるが、実は序盤からは想像もつかない、作者のたくらみが隠されているのである。 やや地味な作風ではあるが、実に面白い。はっきり言ってお薦めだ。まあこんなこと書いても、誰も読まないんだろうけど、読んで後悔することはおそらくないだろう。 登場人物もとてもよく描き込まれていて、キャラが立っているので、飽きるということがまずない。だから安心して読み進められるのも美点の一つだと思う。前述の二人に加え、光一が裁判を始めるに当たっていろいろ相談に乗ってくれる司法浪人の敦や、離婚裁判中の義理の母真季など、個性的な面々が顔を揃えて、作中で生き生きと躍動している。 |
No.461 | 5点 | 編集長連続殺人- 吉村達也 | 2014/04/26 23:29 |
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再読です。
雑誌『週刊A』の編集長が、就任13日目に事故死するという事件が立て続けに起こる。当然次の編集長は気が気ではない。そこで彼はサイコ・セラピストの氷室想介に助けを求め、一方、動き出した警視庁も氷室と共に捜査に乗り出すのだが・・・というストーリー。 比較的登場人物が多く、やや複雑になりそうな人間関係を上手く整理し、プロットの妙でスッキリとした流れを作り出しているのは相変わらずの手練ぶりである。それに対してトリックのほうは、かなり偶然に頼り過ぎの感が強く、そんなにうまくいくのか、という疑問が持たれるのはやむを得ないのではないだろうか。 ラストの氷室による謎解きのシーンは、本作最大の見せ場で、なかなか盛り上がりを見せており、それなりに読み応えもある。 しかし、個人的には推理を披露する氷室よりも、本職のサイコ・セラピストとして活躍するエピソードのほうにより惹かれる。作者としてはそちらはあくまで読者サービスなのかもしれないが、結構力が入っている気がしてならない。 まあ取り敢えず、本作は吉村氏の軽妙さと程々のトリックという持ち味を遺憾なく発揮した作品だと思う。 |
No.460 | 5点 | そして扉が閉ざされた- 岡嶋二人 | 2014/04/23 22:30 |
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再読です。
男女4人が核シェルターに閉じ込められるというシチュエーションには、どうしても緊迫した状況や差し迫った人間のむき出しの感情など、生臭いシーンが期待されるが、そうした要素はこの作品には無関係であった。だからこその本格ミステリということになるのかもしれないが、個人的にはいま一つ臨場感や圧迫感がなく物足りなさを覚えてしまった。 全体的に評価が高いが、私はそれ程までとは思えない。むしろ他にも岡嶋氏の代表作と言える作品はあるので、本作に関してはあまり思い入れとかはないのである。ただ、男女の微妙な恋愛感情やデリケートな言葉の遣り取りに関しては、非常に上手いと感心した。その部分についてはとても共感できるし、特に女性のセリフ回しなど、実際に使われていそうで、なるほどなと感嘆しきりである。そんなところばかりに目が行って、肝心のミステリとしての観点からはあまり感心出来なかったのが自分の情けないところなのかもしれない。 謎解きの論理的な点は評価されるべきだとは思うが、かなり絶望的な閉鎖状況なのに、4人とも比較的平静を保っているのは、私としてはちょっと違うんじゃないかと感じてしまった。だから、みなさんの評価よりは低くせざるを得ないのが、私の偽わざる現実なのである。 |
No.459 | 4点 | 親指さがし- 山田悠介 | 2014/04/21 22:21 |
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再読です。
7年前の「親指さがし」というゲームの最中に突然失踪した由美、20年前山梨で起こったバラバラ殺人事件、この二件の出来事に果たして関係はあるのか、二十歳の武はかつてゲームを一緒に行った3人の仲間と共に山梨の別荘に向かい、事件の真相を探るが・・・というストーリー。 無駄を排した、読みやすい文章はいいが、まるで子供向けのような噛んで含めるような文体は、やや稚拙な感じを与えてしまうので、かなり損をしている気がする。それも手伝ってか、いかにも内容が空疎でスカスカな印象を受ける。プロットやストーリー自体は決して悪くないと思うのだが、何と言うか、濃密さに欠けるため、ホラーなのにあまりにサラッとしすぎていて、怖さが伝わってこないのが残念である。それが作者の持ち味と言ってしまえばそれまでだが。もし書き手がもっと熟練した作家であれば、かなりの傑作になったのかもしれない、そんな素材の良さは伺える。 まあしかし、ホラーやミステリ読みの手練れには受けないだろうが、一般の読者にとってはこれくらいの低刺激が程よくていいのかもしれないとも思う。 |
No.458 | 5点 | 貸しボート十三号- 横溝正史 | 2014/04/20 22:24 |
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再読です。
『湖泥』『貸しボート十三号』『堕ちたる天女』の中編からなる作品集。 『湖泥』は岡山が舞台で、二つの旧家が対立する中、それぞれの家の息子が一人の女性を巡っての諍いを繰り広げ、遂にはその女性の殺害という悲劇を迎える。横溝ワールド全開とまではいかないが、それに近いものが味わえる。また、女性の左目がくり抜かれているという猟奇的な一面も見られ、読者サービスにも余念がない。 個人的に最も気に入っている表題作は、貸しボートの中で男女の死体が発見されるのだが、それぞれ中途半端に首がのこぎり様のもので切られているという、一見意味不明な事件がメインとなっている。しかも男性のほうは下着一枚といういでたちなのだが、それぞれにちゃんとした意味があり、半端な首切りとほぼ全裸状態の理由が犯人を特定する手がかりとなっている。奇妙な事件の割には後味がよく、意外な展開を見せる佳作となっているのではないだろうか。 『堕ちたる天女』はトラックから落下した、石膏の中に塗り込められた女性の死体から端を発して、複雑なストーリーを展開する。ちょっとややこし過ぎて、全体像が掴みにくいのが難点で、多分すぐに忘れてしまうのではないかと思われる。 |
No.457 | 6点 | 砂漠の薔薇- 飛鳥部勝則 | 2014/04/17 22:37 |
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再読です。
これは面白い。登場する人物が皆ネジが一本緩んでいるか、足らないか、それぞれ特異な性格をしているため、なかなか一筋縄では行かない変態的ミステリとなっている。 最初の事件は、二人の体型や顔立ちが似た少女が、一方は首なし死体となって発見され、片方は失踪するという、まるで横溝ワールドのような筋書きである。勿論、アプローチは横溝とは大きくかけ離れたものになっているが、骨組みは意外としっかりとしたミステリと言えそうである。しかしながら、妻が一瞬のうちに消えたり現れたりするなどの経験をする、精神病院に入院歴のある男の挿話が盛り込まれたり、或いは異端的な絵画の薀蓄が語られる等、独自の世界観を表出させる異色の作品でもある。 ラストの二転三転する展開は、個人的に好ましく読ませてもらった。ただ、最初の事件の頭部切断の理由が私にはいま一つ理解できなかったのが気になると言えなくもない。いや、理解できないというより、納得がいかないのであろうか。そんな理由で?って感じでね。だが、違和感を覚えた個所がほとんどが伏線となっている点や、紆余曲折するストーリーも、全体の雰囲気も決して悪くない。なかなかの作品だと思う。 |
No.456 | 5点 | 愛国殺人- アガサ・クリスティー | 2014/04/14 22:38 |
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再読です。
翻訳物独特のしゃちほこばった文体が自分にはやはり合わないと、再認識させられた。とは言うものの、こなれた文章ではないにしても、決して読み難いわけではないと思う。ただ、なんとなく上滑りして、内容が頭の中にすんなりと入ってこない感覚を覚える。相当昔に翻訳されたというのも一つにはあるだろう。これを面白がって、感心しながら読んだ幼少期の自分を褒めてやりたい。既に私の灰色の脳細胞も老化現象が始まっていると思われる。 さて、事件は自殺か他殺か判然としない歯科医師の死体に始まり、かなり複雑な人間模様が繰り広げられる。途中まではさすがのポアロもお手上げ状態だが、ふとしたことから天啓を受け、そこからは一気に事件解決へとなだれ込む。途中顔を潰された死体も登場し、一見単純な入れ替わりかと思わせて実は・・・という、ミステリ読みの達人をも唸らせるようなさすがのトリックを弄したりして、クリスティの名に恥じない作品に仕上がっているとは思う。 やや真相が複雑なだけに、あまりインパクトがなくカタルシスも生まれてこなかったのは心残りだが、犯人の「愛国」心とポアロの信念がもたらす、表裏の心理を上手く表現するラストは印象深いものがある。 |
No.455 | 6点 | 火蛾- 古泉迦十 | 2014/04/12 22:11 |
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再読です。
難解な言語、イスラム世界の宗教観、貧しい修行者の連続殺人、これは激しく読者を選ぶ作品である。また、これほど書評が難しいものも珍しいのではないだろうか。とても気軽に読めるミステリではない、本作を読もうとする者はかなりの覚悟が必要になってくるだろう。 とは言うものの、文体はむしろ明快であり、なんら引っ掛かるような表現はないと思う。ただ、見たことも聞いたこともない単語が散見されるのみである。これがちょっとだけ厄介だが。 まあいずれにしても、これまで誰も読んだことのない類の超異色作ということが言えるのではないだろうか。謎も不可思議だが、謎解きがまた圧巻である。最終章も余韻を残しながら、良い雰囲気で締めくくられている。 |
No.454 | 5点 | 公開処刑人 森のくまさん- 堀内公太郎 | 2014/04/10 22:34 |
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ふざけたタイトルに多くの方は「どうせロクなもんじゃないだろう」と思われているか、或いは無関心かのどちらかだろう。しかし、これが案外悪くない。私自身も、怖いもの見たさで読んでみただけだが、意外な拾い物をした気分である。
ストーリーはB級の匂いがプンプンする、どこか勘違いした正義の味方を気取った殺人鬼が、ネットを通じて「処刑」の対象を選び、次々と残虐な方法で殺害していくというもの。ありがちなパターンで、これといって新味はないものの、まずまずツボを押さえた力作に仕上がっているのではないだろうか。 無論、問題点もある。最も気になるのは、ところどころ三人称の文章なのに、視点が一人称になっている部分である。どちらとも取れる文体は、ややもすればミステリの作法に則っていないとのそしりを免れないのではあるまいか。これが本作最大の瑕疵だと思う。読者によってはルール違反であるとか、アンフェアと言われかねない。他にも、イマイチ登場人物に魅力がないとか、描写が足りないとか、背景などがほとんど無視されている、文章が素人っぽくプロの域に達していないなどが挙げられる。 だが、そんな欠点を考慮しても、一読の価値はあると思う。B級サスペンスがお好きな方は読んで損はないのではないだろうか。 |
No.453 | 6点 | 八ヶ岳「雪密室」の謎- アンソロジー(国内編集者) | 2014/04/09 22:43 |
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再読です。
スキー好きのミステリ作家と編集者を集い、作家の笠井潔が主宰する第4回スキーツアーで遭遇した密室(殺人ではない)事件。 手記によると1998年1月17日、この日は記録的な大雪で都内でも20cm以上積もったそうだ。車3台と列車に分かれて八ケ岳に向かった一行だが、道中ちょっとしたアクシデントに見舞われながらも、何とかロッジに到着。その後鍵を部屋に置いたまま施錠せずに買い物に出かけ、帰ってきたら鍵がかかっていたという。勿論、鍵は部屋に置かれたままだった・・・。 問題編となるメインの手記は笠井潔、二階堂黎人、編集者の布施謙一が、それを補う形で、我孫子武丸、桐野夏生、貫井徳郎がそれぞれの立場で手記を載せている。また回答編に挑んでいるのは、鯨統一郎、柄刀一、霞流一(一が多いな)、斎藤肇、喜国雅彦(漫画家)の錚々たる面々。喜国以外の解答者は、ツアーとは関係ない人々である。 しかし、この問題編がどこまでがノンフィクションで、どこからがフィクションなのか全く分からないのである。上手く読者を煙に巻いている感じだが、それぞれの手記に矛盾はなく、キッチリと整合性は取れている。おそらくは大半が実際に起こったことを元に話は綴られているのだとは思うので、妙にリアリティがある。しかも、ご丁寧に何枚もの現場の写真を掲載しており、とても作り話とは思えない。 気になったのは、回答編の密室トリックが同じようなパターンに偏ってしまったこと。致し方ないとは言え、もう少しいろんなバリエーションがあっても良かったのでは、と思った。って言うか、誰かこれ読んでる?埋もれちゃって。 |