皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1835件 |
No.535 | 7点 | 人間の顔は食べづらい- 白井智之 | 2014/11/19 22:40 |
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疫病のため肉食が不可能となった日本で、公に人のクローンを工場で培養し、首を切断し出荷するという産業が興された。無論、食用である。当然他人のそれではなく、購入した本人のクローンだ。
そんな荒唐無稽な舞台設定のなか、その計画を押し進めた国会議員のもとに、本来梱包されないはずの生首が紛れ込むという事件が発生した・・・ 本作は、第34回横溝正史ミステリ大賞最終候補作であり、白井氏のデビュー作である。多少荒削りで全体的にまとまりに欠ける面もあるが、個人的には大変気に入った。なぜこれが大賞に選出されなかったのか、それは他にもっと相応しい作品が応募された、受賞作としての品位というか品格に欠ける、或いはその両方が挙げられる。おそらく二番目の理由だと思うが、大賞を受賞しても決しておかしくない傑作だと私は考える。 これは大変な大型新人が現れたものである。次回作も大いに期待したいところだし、本作を上回るような作品に出会えることを願ってやまない。 |
No.534 | 6点 | Another- 綾辻行人 | 2014/11/16 22:21 |
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少なくともあとがきにあるような、新たな代表作とは言えないだろう。さらには、本作は本格ミステリではなくホラーだと私は思う。確かにミステリ的な要素もあるにはあるが、体裁としては完全なホラーだ。
全体的にどうもテンポが悪く、特に前半はもたもたしてややイラッとくるシーンもあったりする。それと、文末が・・・でや・・・てで終わる文章が目立ち、据わりが悪い感じがしてならない。読みやすいので忘れられがちかもしれないが、何か氏らしからぬ印象を受けるのである。 唯一ミステリらしさを発揮しているのがメインとなるトリックで、これは綾辻氏らしいと言えるだろう。ただ、伏線があからさま過ぎて見抜かれやすいという意見もあるようだが、私は騙された。まあそれで良かったのだと思っているけれど。 色々難癖をつける感じになってしまったが、ミステリではなく読み物として面白かったとは思う。しかし期待を上回ったかと問われると否と答えざるを得ない。 |
No.533 | 5点 | 幻視時代- 西澤保彦 | 2014/11/12 22:30 |
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なんだか読みやすくて軽い。まるでらしくない作風だと感じる。西澤保彦というより、プロットやストーリーは折原一テイスト。
で、肝心の、死んだはずの少女が映っていた写真のトリックがおろそかになっていて、ぞんざいな扱いを受けているのはどうも気に入らない。まあそれでも、ミステリとしての側面よりも青春小説として充実しているので、まずまず評価できるとは思う。商品としての小説を執筆するという苦行が、どこまでも若者たちを追い込むという実態は、我々素人では理解不能であるが、西澤氏は作家として身に詰まされる面もあったことだろう。だからこそ書けた作品と言うことで、どこか悲劇の匂いがそこはかとなく漂っているようだ。 なかなかよく考えられた小説だと思うが、かなり地味で読んでいて気分が高揚するような代物ではないのは確かである。ただし、お得意の推理合戦は本作でも健在だ。 |
No.532 | 7点 | 天久鷹央の推理カルテ- 知念実希人 | 2014/11/08 22:23 |
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天医会総合病院の副院長にして、統括診断部部長、天久鷹央が天才的な頭脳を駆使して病院内の事件を解決する、メディカル・ミステリの連作短編集。鷹央は女性である、念のため。
タイトルに「推理カルテ」とあるように、医学、医療と院内で起こる様々な事件が有機的に繋がりを持っており、単に現場が病院であるというだけではないところが異色である。作者は現役の医者であり、持てる医学的知識を駆使して見事に事件を解決に導いている。それと同時に、まるでベテランの推理作家と見紛うばかりの文章力を見せつけており、読者を引き付けて離さない魅力を遺憾なく発揮しているのはさすが島田荘司氏に見いだされた実力者と言わざるを得ない。 探偵役の鷹央は細かいディテールまで描き込まれており、実に個性的な人物像を確立していると言える。例えば ・いつも薄緑色の手術着の上にぶかぶかの白衣を羽織っている ・小柄で幼く見えるため、実年齢は27歳だが高校生と間違えられる ・猫のような丸い目をしており、たまにその目を細めるくせがある ・事務長の姉がおり、彼女を恐れている ・運動神経が弱いため、何もない廊下でよく転ぶ ・目上、初対面、患者に対しても敬語は一切使わない(お前呼ばわりする) 等々、枚挙にいとまがない。 そして、この作品の読後感の爽やかさはどうだろう。とにかく後味が素晴らしく良い。一度読んでみていただきたいものである。 当然、シリーズ化されるものと期待しているが、こうした隠れた良作は、もっと多くの人に読まれるべきだと声を大にして言いたい。 |
No.531 | 5点 | 私を知らないで- 白河三兎 | 2014/11/06 22:35 |
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これはミステリというより青春小説そのものじゃないかな。
主要登場人物は中学生男子の転校生二人と、クラス中に無視されている美少女「キヨコ」。それにクラスのボス的存在のミータン(女子)とそのグループの№3であるアヤ。この五人がそれぞれの役割を担って、ストーリーを押し進める。冒頭でミステリ的要素はないと書いたが、本作の最重要テーマにキヨコの人物像を掘り下げるというものがあり、これが謎解きの代替の役目をしているとは言えるだろう。 それにしても、彼らは中学生でありながら全然らしくなく、それぞれが違った意味で超越した存在であるため、リアル感は全くない。だからと言って絵空事なのかと問われると、答えに詰まる。これはそうした、一風変わった中学生の実態を思いっきり膨らませて、デフォルメした青春物語なのだろう。だが、それぞれの個性的な言動や一生懸命さは十分に伝わってきて、それが痛々しかったり、感動を呼んだりとある種独特の雰囲気を醸し出している。それがこの作者の特徴なのかもしれないし、時にたどたどしい文章が逆に印象深く心に突き刺さったりもするのである。 個人的には、文化祭のシーンが一番好きだし、最も盛り上がるのはやはりそこだと思う。それとキヨコの作るおにぎりは実に美味しそうで、多分極上の味がするんだろうなと思う。 |
No.530 | 7点 | 二重螺旋の誘拐- 喜多喜久 | 2014/11/02 22:16 |
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帯の「二度読み必至」の文字に惹かれて購入してみた、どうせハッタリだろうと舐めていたが、本当に読み返すことになろうとは思ってもいなかった。勿論、最初から最後まで通して二度読みしたわけではない。私とてそれ程暇ではない。だが、要所をかいつまんで読んでみると、上手く仕掛けが隠蔽されていると同時に、かなりあからさまな伏線が張られていることに驚かされる。慎重に注意深く読み進めれば、作者の企みに気づくことも十分可能であると思う。が、やはり綺麗に騙される快感を味わうべき作品なのかなとも考える。
本作は二つのストーリーが並行して進行し、その両サイドがともに誘拐が絡んでくるという特殊な構成になっており、実はそこに作者の企みが潜んでいるわけである。無論、両者は有機的に繋がりを持っており、入り乱れる人間関係や事件をドキュメンタリータッチで追うサスペンスフルな構造は見事と言ってもよいだろう。 ただ気になるのは、誘拐をテーマにしているわりには全体的に小ぢんまりとまとまり過ぎて、スケール感が物足りない点である。だが、小品ながら気合の入った力作なのは認めざるを得ないと思う。 |
No.529 | 7点 | 掟上今日子の備忘録- 西尾維新 | 2014/10/31 22:34 |
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遂に西尾維新が本格ミステリの世界に帰ってきた。この時をどれだけ待っていたことか。続編も刊行予定のようだし、私としては出来ればこのまま本格の道を邁進していただきたいと願う次第である。
さて本作だが、名探偵ジャパンさんがおっしゃっているように、余計な情報をできる限り排除して、さらには登場人物も最低限に抑えることにより、読者をストーリーの中へ無理なく入り込めるように細やかな配慮がなされている。なので、非常にスッキリとスマートな仕上がり具合となっていると思う。この辺りはこれまでの西尾氏と一線を画するところだろうし、新境地と言えなくもない。 探偵の今日子さんは、前向性健忘の一種で、一度寝てしまうと前日の記憶がなくなってしまう。だから彼女は病気に罹って以降の記憶が全くないのである。よって探偵という職業を選ばざるを得なかったし、事件をその日のうちに解決してしまう「最速の探偵」なのである。 おそらく治る見込みのない病気を抱えて、さぞ辛い思いをしているだろうと推測されるが、悲壮感は全く感じさせない。作者はそうした湿った作品を望んではいなかったのだろう。しかし・・・ 「私は掟上今日子。25歳。置手紙探偵事務所所長。白髪。眼鏡。記憶が一日ごとにリセットされる」これにはじんわりと涙腺が緩んでしまった私であった。 とにかく、西尾氏のファンは勿論だが、いつものクセのある文体に敬遠気味の読者のみなさんにも、この作品は一読の価値があると言いたい。 |
No.528 | 7点 | きみとぼくの壊れた世界- 西尾維新 | 2014/10/26 22:19 |
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シスコンの兄とブラコンの妹と、その兄妹を取り巻く学友たちの青春ストーリー。ミステリの要素もあるが、とても本格とは呼べない、言ってみればエンターテインメント作品であろう。
それにしても相思相愛の兄妹は、読んでいて正直気持ち悪い。いわゆる妹萌えなのだろうが、あまりにもいちゃつき過ぎで、これは誰もが引き気味になるのではと思う。私には一人妹がいるが、勿論女として意識したことなど一度たりとてないし、大体「お兄ちゃん」などと呼ばれた記憶もない。まあ出来の悪い兄貴なのでさもありなんと言ったところだ。すまぬ妹よ、やくざな兄を許せ・・・ これだけ貶してなぜこの点数なのか、それは各キャラが立っているのと、かいとう編のクイーンばりの推理の構築が余りに見事だったからという理由である。もんだい編では、死体の状況すら分からず、これだけの材料でどうやって犯人にたどり着くのか不思議だったが、それを難なくクリアしている手腕が素晴らしい。作者自身が予防線を張っているように、容疑者を限定してしまっているが故に新たな問題が生じているのは間違いないが、可能性の拡張はどのミステリにも共通するものとして排除されている。よって、本作の欠陥とはなり得ないと判断してもよいだろう。 尚、各章に挿入されているイラストにもいくらか点数を差し上げたいくらい、作風とマッチしている。 しかし、様刻、夜月、箱彦、黒猫、六人と妙な名前を付けるのは、作者の趣味なのか。普通の名前でいいじゃんと思うけど。 |
No.527 | 6点 | 午前零時のサンドリヨン- 相沢沙呼 | 2014/10/21 23:16 |
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リズミカルな文章が心地よい、片想い+マジック+日常の謎的な内容の学園ミステリの連作短編集。とは言っても、ほとんど長編と言っても良いような構成である。
主人公の須川君はどことなく不器用な雰囲気だが、意外と積極的に片思いの相手である酉乃初にアタックしていて、その辺りがこの手の青春物とは一線を画しているところだろう。だがやはり若さゆえか、相手の気持ちを汲み取ろうと努力はしているものの、細かい心理状態にまでは気付かないのはよくあるパターン。それにしてもこの酉乃初という少女は個性的過ぎて、普通の男子には荷が重いんじゃないのかね。 まあそれはそれとして、真冬の誰もいない水を抜いたプールサイドに腰かけて、足をブラブラさせながらお弁当を広げている少女の孤独感と、その光景の寂寥感といったら、そりゃもう中年のおっさんの心をも捉えて離さない魅力いっぱいである。このシーンはもしかしたら一生忘れないかもしれない。 ミステリとしても良く出来ていると思う。細かいところまで神経が行き届いている感じで、派手さはないが堅実なロジックを繰り広げている。ただ、若干こじつけっぽいのと、想像が多分に混じっている気がしないでもない。 |
No.526 | 7点 | とむらい機関車- 大阪圭吉 | 2014/10/18 22:09 |
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噂にたがわぬ名作揃いの短編集。
好みから言うと表題作と『石塀幽霊』である。『とむらい機関車』はホワイダニットとして大変優れた作品だと思うし、ミステリとしてのみでなく文芸としても十分評価に値する。また、真相は人間の哀れを誘う悲哀に満ちたもので、独自の作風にマッチした名作だろう。『石塀幽霊』は不可思議な自然現象を扱ったもので、正直真偽のほどは怪しい気もするが、その奇想には一目置かれてしかるべきではないかと思う。 評判の高い『抗鬼』だが、個人的にはあまり面白いとは思わなかった。名作と呼ばれているらしいが、なんとなく全体的に煩雑な印象を受け、ストーリーがややこしい気がするのが原因。文体もやや合わなかった。 余談だが、巻末の随筆の中の『お玉杓子の話』は一読に値する。約60年前に書かれているにもかかわらず、内容が先鋭的で現代でも十分通用するものとなっているのには驚きを隠せない。 |
No.525 | 6点 | リカ- 五十嵐貴久 | 2014/10/14 22:14 |
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第2回ホラーサスペンス大賞受賞のデビュー作。
妻子ある主人公のたかおは後輩の手引きにより、出会い系サイトに次第にハマっていく。そこでターゲットに選んだのがリカだった。彼はリカに少しずつサイトを通じて接近していき、次第に自分に依存するように仕向けていくことに成功したかに見えたが、そこからが真の恐怖の始まりだった。内心、こんな女いないだろうと思いながらも、嫉妬に狂った女の恐ろしさは私も身に染みているので、一口にに絵空事では済まされない面もある。 概略は非常にありふれた、どこにでもあるようなストーリーだが、細かいディテールに拘っていることや、こなれた文章、恐怖を徐々に盛り上げていく手腕などが際立っており、なかなかの仕上がりになっている。 ただ、いくつかの謎がそのまま残されており、特に娘の亜矢に関するいくつかの疑問が有耶無耶なのは、もしかしたらいつか続編が書かれることを意識しているのかもしれない。が、やはり一つの小説として、完結すべきところはちゃんとケリをつけるべきだろう。 尚、エピローグは加筆されたらしいが、これは怖い。実に凄みのある印象深い結末となっている。 |
No.524 | 6点 | 家日和- 奥田英朗 | 2014/10/11 22:07 |
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さすがに奥田氏は期待を裏切らない。いずれもごく平凡な人物の、誰にでも起こり得る少しだけ日常から逸脱したエピソードを綴った短編集。
ネット・オークションの出品に燃える主婦、会社が倒産し初めての主夫を経験することになる中年男性などを、何とも軽妙なタッチで描いている。どの短編も主人公は勿論、その伴侶や子供までが生き生きしており、いかにもありそうな家族の生身の姿を描写することに成功している。慣れてしまえばどうということもない日常を、これだけ面白おかしく書けるのは、氏をおいて他に考えられない。 心が疲れた時や、ふと会社や家庭に嫌気がさした時などには持って来いの一冊。『我が家の問題』と双璧を成す、夫婦や家族の絆をさりげないタッチで描いた佳作だと思う。 |
No.523 | 6点 | COVERED M博士の島- 森晶麿 | 2014/10/08 22:29 |
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どことなくよそよそしい文章が好みではないが、孤島物としてはまずまず合格点ではないかと思う。構造は本格ミステリだが、サスペンスの要素も多分に含まれている。その割には緊迫感が感じられず、考えてみればかなりの苦境に立たされているにもかかわらず、意外と平常心を保っている登場人物たちが異様に思える。
通常のミステリであれば、首なし死体や生首が現れたのだから、推理合戦とまではいかなくても、犯人は誰かとか、動機は何なのかなどの論戦が繰り広げられるものだと思うが、本作においては一向にその気配もなく、議論は明後日のほうに終始しているのが訝しい。それもそのはず、この作品の白眉は、実は孤島を脱出してからなのだから。 正直、島での殺人事件が起こるまでは勿論、それ以降もなんとなく展開がもたついてスッキリしない気分だが、終盤に来てようやく本来のキレを取り戻している感がある。そこにいたって初めて本書の良さが理解できるだろう。まあ、はっきり言ってお薦めとは言えないが、孤島物が好きな人は一応読む価値はあるかもしれないね。 |
No.522 | 6点 | ○○○○○○○○殺人事件- 早坂吝 | 2014/10/05 22:12 |
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この採点はひとえに一発勝負の大仕掛けに捧げられるものである。よって、それを除けばせいぜい4点程度の平凡な作品と思われる。それにしても、これは史上まれに見る下品というか、お下劣な作品だ。それはチープな表紙によく表現されている。人によっては、そういった低俗な作風が許せないという方もおられるかもしれない。かく言う私も、エログロは決して苦手ではないが、本作に対してはあまり好感を持ってはいない。だが、あのバカミス的大トリックがいかにもインパクトが強く、一概に貶すわけにもいかないわけである。
私もやはり、前半のごたごたが冗長に感じられて、せめて島に到着するまでのシーン全体を、半分以下にカットしていただきたく思った。それと、大袈裟にタイトル当てみたいなお遊びをさも凄いことのように喧伝しているが、大した意味はなかったと感じる。 さて、この作者、果たして私が予想するような一発屋なのか、それともさらに一皮むけた大物に化けるのか、いずれにしても次回作を楽しみにしたいと思う。 |
No.521 | 7点 | 放課後探偵団- アンソロジー(出版社編) | 2014/10/01 22:13 |
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これこそ粒ぞろいと呼ぶにふさわしい学園ミステリ珠玉の短編集。しかし、みなさんタイトルで敬遠されてはいないでしょうか?読んでみればそれが杞憂に終わると思うので、どのジャンルが好みとかに拘わらず、多くの方に読まれることをお勧めしたい。
それぞれが他愛無い、或いは些細な日常の謎を扱っているが、それを端正なロジックで攻めて、スッキリと解決に導いている辺りはとても好感が持てる。似鳥氏のトリックだけはちょっとややこしいが、まあ私の頭脳がついていけなかっただけで、問題ない。 各キャラもふとしたしぐさや言葉に個性が出ていて、よく描かれているので、ライトな読み物としても合格だろう。特に、それぞれの物語に登場する女子は魅力に溢れていて、読んでいてほのぼのとした気分にさせてくれる。 各短編が際立った特徴を持っていて、違った色の光を放っているが、最後の最後で梓崎氏にもっていかれた感が半端ない。掉尾を飾るに相応しい作品だと感じる。途中まではあまり好みではなかったが、見事な反転でやられた、いや本当に参りました。 |
No.520 | 4点 | ハーモニー- 伊藤計劃 | 2014/09/26 22:06 |
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面白いか面白くないかと言う基準ならば、断然面白くない。どれだけの賞を受賞し、読者から絶大な支持を得たか知らないが、私にしてみれば、所詮SFなんてこんなものかとしか思えなかった。ただし、私はすこぶる頭が悪いし、IQも低いので、その点を考慮に入れるとこの評価はいささか怪しいとも言えるかもしれない。
しかしながら、この観念小説のようでもあり、とてもエキサイティングとは言えない小説を褒め称える気にはなれない。例えば、一生懸命読んでいても、途中誰と誰の会話か分からなくなったり、今誰が話しているのか判然としなかったりすることはないだろうか。或いは、相当クセの強い文章が読みづらかったりはしないだろうか。 そして、一体なぜミャハはあのようなとんでもない犯罪を実行しようとしたのか、その動機があまりに抽象的過ぎて私には理解できなかった。 それにしても、SFファンというか読者は、こういった難解な小説が大好きな人種なのだろうか。本作が面白い、または素晴らしいと言えるのであれば、ミステリファンに転向すればどれだけ興奮を抑えきれないような体験ができるか分からないと私は思う。 この経験を戒めとして、私は当分SFを読まないだろう。もしかしたら一生読まないかもしれない。最早SFの世界に私の求めているものはないのだから。 |
No.519 | 5点 | 配達あかずきん- 大崎梢 | 2014/09/22 22:13 |
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何と言っても、表紙のイラストがとても雰囲気が出ていて好ましい。ずらりと並んだ書籍は白一色で統一されており、ところどころに使われているワンポイントの色彩が印象的である。見ているだけで、思わず書店へ行きたくなってしまう。
肝心の中身は、帯に謳ってあるように、本格書店ミステリの名に恥じないものであると思う。第一話の『パンダは囁く』が出色の出来だろう。他はまあどれも平均的に面白いが、あまりピンとくるほどのものではなかった。シリーズ化する気持ちも分かるが、書店の店員やそれに準ずる仕事をされている方以外の一般人、つまり我々からすると、それ程深い興味を持って読まれないのが普通の感覚ではないだろうか。とは言うものの、書店員の日常がうっすらと想像できて、少しは勉強になる面もある。 キャラ設定に関しては、確かにあまり魅力的とは言えない。主役の二人、杏子と多絵からしてこれといった特徴が見られないので、その意味では若干損をしていると思う。以後のシリーズではその辺り改善されていると良いのだが、この作者の淡々とした書きっぷりを見ていると、あまり期待できない気がするが。 |
No.518 | 4点 | よろず占い処 陰陽屋へようこそ- 天野頌子 | 2014/09/18 21:43 |
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占い、失せ物探し、加持祈祷、霊障相談などを看板に掲げる、インチキ陰陽師が店主の陰陽屋。その店主こそ、元カリスマホストの眉目秀麗、腰まで届きそうな長髪の安陪祥明である。本作は彼と陰陽屋のアルバイトで、妖狐の中学生沢崎瞬太のコンビが活躍する、いわゆる日常の謎を扱った、極めて薄味のミステリだ。
ミステリと言っても、どちらかというとライトノベルの要素が強く、二人の人間関係のほうに重きを置いているので、若年層向けの軽い読み物となっているようだ。しかし、老若男女を問わず広く読まれているようだし、ドラマ化までされているわけで、世間的には思いのほか好意をもって受入れられている作品の模様である。一般読者にとってはディープな本格ミステリよりも、こういったライトで低刺激な物語のほうが喜ばれるのは確かなことだろう。 だが無論、本格ファンが読むべき作品ではない。私のような悪食ならば、話のタネに読んでみても良いかもしれないが、当然、強烈な印象は残らない。畢竟、本作はほのぼの系のごく軽量級ミステリだと考えられる。 それにしても、やはりミステリ読みから見ると、これだけシリーズが何作も上梓されているのは、首を傾げざるを得ない。これだけ人気を博しているにもかかわらず、私にはそれ程魅力は感じられなかった。ミステリ作家ならこんな書き方はしないだろうみたいな箇所が、いくつも散見されるのももどかしい。 |
No.517 | 5点 | 楽園都市- 本堂圭一 | 2014/09/13 21:48 |
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典型的なサバイバルゲーム。しかし、残虐な殺戮シーンや民衆パニックなどは皆無である。
ある日主人公の少年の元に、楽園都市と名付けれたユートピアへの招待状が届く。誘われるように楽園都市へと向かうのだが、そこで少年のクラスこそ違うが同級生の少女と出会う。そしてもう一人、少年の幼馴染で剣豪の少女と三人で、このサバイバルゲームに立ち向かうのだが・・・。 中盤で山場を迎えるが、ここはなかなか読み応えがあって雰囲気を出している。意外な事実を知らされたりもして、ちょっといい感じである。終盤でもう一山あると想像していたが、トーンダウンしてラストを迎える。消化不良気味であるのは否めない。 全体的に設定が安直で、いかにもお手軽感が満載といった感じもする。要するに深みが足りないのである。文体も平板で、逆に読みづらいというか、頭を素通りするような感覚であった。面白くないかと言えばそうとも思わないが、インパクトに欠けるのは間違いないであろう。 |
No.516 | 6点 | 僕と『彼女』の首なし死体- 白石かおる | 2014/09/08 21:50 |
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愚かなことに、最近まで私はこの作品の存在を知らなかった。だが知ってしまったからには、そしてそのタイトルを目にしたからには読まない選択肢はなくなった。
本作は第二十九回横溝正史賞優秀賞受賞作である。意外なことに、選考委員の中で最も評価が高かったのは北村薫氏だったそうだ。読んでみれば分かるが、この作風やストーリーから氏の称賛を受けるとは考えにくいのである。私は少しだけ北村氏を見直した、と同時にちょっぴり好きになった。 物語は「ぼく」こと白石かおるが女性の生首を、ハチ公の銅像の前にひっそりと置き去るところから始まる。実にセンセーショナルな出だしで、その後の展開を期待させるが、全くミステリらしいところはなく、「ぼく」の会社での活躍ぶりや人間関係が乾いた筆致で描かれるばかりである。これは果たしてミステリなのか、という疑問が頭をよぎる頃、ようやくらしさを発揮し始める。 「ぼく」は実に冷静で物に動じない、浮世離れした人間性を持っており、そこに違和感や嫌悪感を覚える人は読まないほうが賢明だ。逆にそれが許容できるのであれば、一度読んでみるのも面白いと思う。 取り敢えず、終始一貫して興味の的はなぜ彼は冒頭のような異様な行為を行ったかというホワイダニットである。それは、あっと驚くような理由ではなく、うーむと思わず唸ってしまうようなものであり、それだけに余計に腹に響く感がある。 いずれにしても、本作は他のどの作品にも全く似ていない、独自のオリジナリティを持った作品と言えそうだ。少なくとも、私の乏しい読書経験からは本作を彷彿とさせるようなものは見当たらないと言ってよいだろう。なかなか面白い作家となりそうな予感もする。 |