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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 1829件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1049 4点 SPEEDBOY!- 舞城王太郎 2020/01/08 22:35
孤独だからいいんだ。孤独だからこそ速くなれる」。友人、家族、町、世界、そして愛―すべてを置き去りにして鬣の生えた少年スプリンター成雄は速さの果てを追う。そこに何があった?何が見えた??―誰がいた???疾風怒涛、音速も超え、すべての枠を壊しマイジョウオウタロウの世界は、限界の向こう側へ。
『BOOK』データべ―より。

何となく読み始め何となく読み終わりました。途中まで長編と思い込んで読んでいましたが、違和感を覚えAmazonを見てみたら連作短編集とのこと。どおりで主人公がとにかく足が速いことを除いて、登場人物の設定や物語の背景などが異なっているはず。訳が分かったような分からないような、オチがあったりなかったりして、結局深読みは出来なかったですね。

部分的に面白いところもありますが、果たして作者が何を意図して描いたのか、理解が及ばないことが多すぎてどう評価して良いのか見当が付きません。これも舞城王太郎の世界なのでしょう。しかし、少なからず読者に対して不親切じゃないですかね。ミステリじゃないのだから余計な説明は不要とでも考えたのかな。だとしても、もっとページを割いていいから色々な「その理由」を書けよと思います。

No.1048 7点 厭魅の如き憑くもの - 三津田信三 2020/01/07 22:19
神々櫛村。谺呀治家と神櫛家、二つの旧家が微妙な関係で並び立ち、神隠しを始めとする無数の怪異に彩られた場所である。戦争からそう遠くない昭和の年、ある怪奇幻想作家がこの地を訪れてまもなく、最初の怪死事件が起こる。本格ミステリーとホラーの魅力が圧倒的世界観で迫る「刀城言耶」シリーズ第1長編。
『BOOK』データベースより。

横溝正史と雰囲気は似ているかも知れませんが、それとは一線を画すものだと思います。ホラーとは言ってもホラー小説ではありませんので、それ程怖い恐ろしいってことはなくて、少しだけゾッとする程度です。特に冒頭の憑き物落としのシーンなどは興味深いと同時に、後々の伏線であったり本書の特徴を印象付けることに成功しています。しかし、あくまで本線は本格ミステリですので、あまりそちらにばかり目を向けると、肝心な布石を見逃すことになりますよ。因習や伝説などをそのまま殺人装置として具現化させている点もポイントが高いです。

正直『首無の如き祟るもの』程完成度は高くないと思います。しかし、シリーズ第一作としてその方向性を位置付けた点に於いて評価されるべき作品ではないかと思います。その造りは重厚で、何と言っても七章とおわりには圧巻です。多重推理と言えば聞こえがいいですが、刀城はわざとなのか読者を迷わせるようないくつもの仮説を繰り出します。結局最後は落ち着くところに落ち着くわけですが、なら最初からそう言えよとか言ったりしてはいけないんでしょうね。まあ一人推理合戦とでも解釈すれば問題ないかもしれません。

No.1047 4点 前代未聞の推理小説集- アンソロジー(出版社編) 2020/01/05 22:18
歴史学者・芥川賞・直木賞・天才バカボン、元文化庁長官など短編の名手11人集。
『BOOK』データベースより。

雑誌『小説推理』1979年1月号から12月号までの「推理小説に挑戦」欄掲載。
『ある殺人』『古墳殺人事件』『若葉照る』以外はほぼ凡作か駄作です。中にはどこが推理小説なのってのもあり、やはり非推理作家による推理小説なんてものはこの程度なのかと思いますね。
赤塚不二夫以外全く知らない作家ばかりなので、思い入れも先入観もなしに読めました。因みに、最も興味が惹かれた赤塚不二夫は俳句を扱ったダジャレ連発の、くだらない作品でした。同じ俳句をあしらった『若葉照る』は密室物で、これは面白かったですね。キャラもよく練られていて好感が持てました。同じトリックを使用した作品がありましたが、どちらが先だったのか曖昧なので何とも言えませんが、当時としては意外と斬新だったのかも知れません。

世間的に見てミステリは文芸作品より低く見られがちな気がしますが、この短編集を読んでみるといかにミステリ作家が優れたアイディアを提供しているかが良く分かります。そして推理小説を書く事の難しさが身に沁みますね。11作も並んで目を引くのが3作だけというのはちょっと淋し過ぎます。ミステリ作家としてデビューしながら次第に他ジャンルへ流れていった幾多の作家の気持ちがなんとなく想像できますね。

No.1046 6点 Jの神話- 乾くるみ 2020/01/03 22:09
全寮制の名門女子高を次々と襲う怪事件。一年生が塔から墜死し、生徒会長は「胎児なき流産」で失血死をとげる。その正体を追う女探偵「黒猫」と新入生の優子に追る魔手。背後に暗躍する「ジャック」とは何者なのか?「イニシエーション・ラブ」の著者が、女性に潜む“闇”を妖しく描く衝撃のデビュー作。
『BOOK』データベースより。

読み始めて暫くして、何か既視感があるなあ、もしかして既読?やっちまったのか自分と思いましたが、そうではありませんでした。典型的というか定型的な本格ものの学園ミステリの世界が広がり、一方ではハードボイルドな女探偵が謎を追う。これはどう考えても本格ミステリではありませんか。しかも、その事件が見事なまでに魅力的で、一体これをどう収束させるのかが当然注目されますね。
途中の受精と胎児の蘊蓄には引き込まれます。エピソードにもそれに類するさらに詳しい解説がなされており、そこは評価されるべきだと思います。しかし、誰がこの結末を予想できたでしょうか。そんな馬鹿なと憤りすら覚える読者も多いのではないかと思います。でも、よく考えれば破綻はしていませんし、整合性は取れています。もうそれ以外に真相はないだろうと無理やりにでも納得するしかないではないですか。だから評者はどれほど破天荒でもそれを認めざるを得ないのです。

本作は乾くるみのデビュー作で、メフィスト賞受賞作ですが、自身二作目だったようです。最初に描いたのは『匣の中の失楽』のオマージュである『匣の中』らしいですね。確かに『匣の中』ではメフィスト賞は獲れなかったと思います。
まあとにかく怪作ですよ。果たしてこれを本格と見なして良いのか疑問ですが、スクールカーストや受胎の神秘、人工授精、体外受精、SF、ホラーなど楽しめる要素が満載なのは間違いないでしょう。

No.1045 5点 私が大好きな小説家を殺すまで- 斜線堂有紀 2020/01/01 22:23
突如失踪した人気小説家・遙川悠真。その背景には、彼が今まで誰にも明かさなかった一人の少女の存在があった。遙川悠真の小説を愛する少女・幕居梓は、偶然彼に命を救われたことから奇妙な共生関係を結ぶことになる。しかし、遙川が小説を書けなくなったことで二人の関係は一変する。梓は遙川を救うため彼のゴーストライターになることを決意するが…。才能を失った天才小説家と彼を救いたかった少女―なぜ彼女は最愛の人を殺さなければならなかったのか?
『BOOK』データベースより。

Amazonでの異様な評価の高さは何なのでしょう。
主人公の梓に同情の余地はあるものの、遙川も含めた登場人物の誰にも感情移入することが出来ませんでした。エゴとエゴのぶつかり合いでもって、終始一貫して暗いトーンでストーリーは進行していきます。詰まる所愛憎劇なんですね。
梓からすれば 自殺しようとしているところを大好きな小説家が救ってくれた⇒小説家に依存していく⇒彼がスランプに陥る⇒やがて彼は自己崩壊してく⇒彼を救いたいと願う⇒しかし状況は悪化する⇒梓がゴーストライターに仕立てられる⇒現状に疑問を抱く⇒決定的な間違いが起こり二人の間に亀裂が生じる⇒殺すことを決意する という流れです。
こうして見ると色々あったように感じるかもしれませんが(実際色々あった)、どうにも安直で短絡的な結論だった気がします。

愛が憎しみに変わる典型的な男と女の救いのない物語。面白い訳でもなく詰まらない訳でもないですが、梓、遙川双方の心情が私にはイマイチ理解できませんでした。正直期待を裏切られた気分がします。作風としては乙一に近い気もしますが、遠く及びませんでしたね。

No.1044 6点 青酸クリームソーダ- 佐藤友哉 2019/12/31 22:22
普通の大学生、鏡公彦18歳。ごくごく平均的な、何気なくコンビニエンスストアに行こうと思って出かけただけの夜。運悪く、最悪なことに目下殺人中の灰掛めじかに出会ってしまう。それを「見て」しまった責任を取らされる公彦。それは、めじかの「殺人の動機」を1週間の期限で探ることだった―。―ここから始める。ここから始まる―。「鏡家サーガ」入門編、遂に幕開け。
『BOOK』データベースより。

以前『フリッカー式』の書評でも述べましたが、相変わらずリアリティは欠片もありません。小説なんて所詮絵空事とは言え、そういう事もあるかもなと思わせるのもある意味必要であるのは事実です。その点、本作は徹底して現実性を排斥しており、言ってみれば劇画のようであります。色々無茶苦茶です。本格志向の読者は読むべきではないと断言できます。
ホワイダニットに特化していますが、その真相は明らかに想定内で、意外性は全くありません。ただ、長兄の潤一郎のフェイクの推理はなかなか面白かったと思います。まあ、本格の体を成してはいます。しかし、これは鏡家の兄弟の物語であり、特に潤一郎、稜子にスポットライトが当てられていて、公彦はあくまで語り手なのでしょう。佐藤友哉式が描く兄弟愛は捻じれていて、普通の感覚では理解が及ばないのではないかと思いますね。
余談ですが、本書には浦賀和宏をリスペクトしているような記述が見られます。というか好きなんですね?


【ネタバレ】


公彦は連続殺人鬼のめじかによって、胸に小型爆弾を埋め込まれますが、いくらでも解除できるチャンスがあったのに、なぜそれをしないのか。潤一郎の腕を持ってすれば、取り除くのに一時間もかからなかったはず。それを言っちゃお終いよって事なんでしょうけどね。
兄弟なのに、なぜ弟を突き放すのか、もっと親身になって弟の身を案じるのが一般的な家族のあり方のはず。その辺の感覚のズレが作品を異形の物語にしている気がします。

No.1043 6点 東京二十三区女 あの女は誰?- 長江俊和 2019/12/29 23:01
「東京の隠された怪異」の取材で二十三区の都市伝説の現場を巡るライターの原田璃々子。霊を信じない先輩・島野と取材を続けるが起こるのは奇妙なことばかり。“池袋の女”のポルターガイスト伝説、東向島の“迷路”に消えた小説家、願いを叶える「立石様」の奇跡…。そして「将門の首塚」の取材中、璃々子は二十三区最大の禁忌に触れ―。
『BOOK』データベースより。

前作同様、東京二十三区の心霊スポットを取材、都市伝説を絡めたホラーテイストのルポとそれぞれの区の物語。

『豊島区の女』 巣鴨プリズンと帝銀事件。シンシャイン60は実は巨大な○○だった。
これが最もミステリに近い内容となっています。情緒溢れる悲恋物語と思いきや・・・。

『墨田区の女』 永井荷風の『濹東綺譚』。浮世絵師歌川国芳の『東京三ツ又の図』には当時では考えられないものが描かれていた。
奇妙なアルバイトで、見知らぬ母娘の父親役として雇われた男の顛末とは?

『葛飾区の女』 首無ライダーの由来と、立石熊野神社の謎。
所謂下町の人情話。何故かほろりとさせられる、不思議な魅力に満ちたある家族の物語。

『千代田区の女』 京都で打ち首になり獄門台に晒された平将門の首が、東京まで身体を求めて飛んできたという伝説の将門塚。
ここでは、主人公の原田璃々子と島野の関係が明らかになり、衝撃の展開が待っている。

という訳で、今回も十分に楽しめました。内容が濃くギュッと詰まっている割にはコンパクトでライトな文体で描かれており、非常に好感が持てます。やや微妙な終わり方だけに、続編が気になるところです。まだ続くとは思いますが、今後どの視点でどういう形になるのか不透明ではあると思います。
本当は7点にしたかったんですが、涙を飲んで6点で。

No.1042 5点 痩せゆく男- スティーヴン・キング 2019/12/27 22:25
痩せてゆく。食べても食べても痩せてゆく。老婆を轢き殺した男とその裁判の担当判事と警察署長の3人に、ジプシーの呪いがつきまとう。痩せるばかりではない、鱗、吹出物、膿…じわじわと人体を襲い蝕む想像を絶した恐怖を、モダン・ホラーの第一人者スティーヴン・キングが別名義のもとに、驚嘆すべき筆力で描きつくした傑作。
『BOOK』データベースより。

物語の大筋が単純な割りに460ページは長いでのではないでしょうか。無駄な描写を省けば300くらいで十分収まる内容だと思います。評者としては心理サスペンス的なものを期待していましたが、ダイレクトに伝わってくる恐怖感がなく、解説にもあるように多分に読者の想像力を必要とする小説となっています。
それにしても、これが名義こそ違え世界のスティーヴン・キングかと思うとかなり拍子抜けです。私は『キャリー』が好きでした、映画しか観ていませんが。DVDも持っています。そういった作品に比べると、映像的に優れた描写が足りないせいか、情景が浮かんでこないし、第一に読みづらいのが厄介でした。これは原作者のせいでもあり、訳者のせいでもあると思いますね。本音を言えば、キングは文章が下手なのかと勘繰りたくもなります。何しろ他作品を読んでいないので何とも言えませんが、こんなものではないと信じたいというか、希いたいです。

終盤の疾走感や落としどころは良かったと思います。特に呪いを掛けたジプシーの長老と主人公の邂逅は、これこそ映像的だったのではないかと。しかし何度も言いますが、日に日に痩せていく恐怖と向き合う主人公の心理状態を掘り下げていく描写がもっと欲しかったですね。そこが物足りなさを生んだ原因となっている気がします。それさえクリアしていれば更なる傑作になったと思いますね。

No.1041 6点 あなたがいない島- 石崎幸二 2019/12/26 22:30
古離津島へようこそ。これから五日間、心理学研究のため無人島で精神的サバイバル生活が始まります。持ち込める物はひとつだけ。しかし考えた末に持参したパソコンは壊され、携帯電話は紛失。なぜかCDやK談社ノベルスも消えた。奇抜なミステリィ談義と意匠を凝らした周到な事件。ここは本格の“約束の地”だったのです。
『BOOK』データベースより。

章題に第一の殺人?第二の殺人?とある割りには、殺人どころかそれらしい気配もなく、なんだかなあと思っていましたが、それを相殺するのが石崎とミリア、ユリのボケとツッコミ。これに大笑いさせてもらいました。誰がボケで誰がツッコミという訳でもなく、それぞれがボケをかましそれにツッコミが入ります。まるでトリオ漫才の様相を呈しています。前作よりさらにパワーアップしている気がしますね。そんな中粛々と伏線が張られていきます。なかなか全体像が見えて来ず、それと気づかせないテクニックを駆使しています。

島に到着後、漸く紛失事件が起こります。その後失踪事件、殺人事件と立て続けに発生し、やっと本格ミステリらしさが姿を現します。
しかしねえ、それまで天然ボケを連発していた三人が突如名探偵よろしく事件を解明していく様は、若干違和感を覚えないでもありませんね。こんなに切れ味の鋭い推理を見せるのに、それまでの阿保ぶりは何だったんだってなりますよ。まあそれがこのシリーズの持ち味と言えばそれまでですけど。
見切り発車で他の作品も入手済みなので、これがコケたらどうしようと思っていましたが、取り敢えず合格点でしたのでほっと安堵しているような次第であります。些細な事ですが、コンビニ弁当の蓋は良いのかよ、と思いました。

No.1040 6点 病の世紀- 牧野修 2019/12/24 22:43
人体を発火させる黴、口腔に寄生し人を人肉喰いに走らせる蠕虫、そして性交渉で感染し、人を殺人鬼に変える「666」に似た形体の謎のウイルス。街に解き放たれた病原体は、黙示録が預言した終末へのカウントダウンなのか―。人々を恐怖に陥れる巨大な陰謀とは?そして立ち向かう孤独な医師の決断とは?バイオテロをも予見した、牧野ホラーこれぞ最高傑作。
『BOOK』データベースより。

おいおい、クリスマスイブという聖なる夜に豪く不気味なタイトルだなあ、縁起が悪いぜ。
ちょっとお待ちください。クリスマスイブって単なる降誕祭の前夜ってことでしょ。私には関係ないですね、私はクリスマスだろうが正月だろうが、ガンガン人が殺される小説の書評を書きますよ。

とまあ、水増し感満載なわけですが、本作なかなか良く出来てはいます。ホラー、サスペンス、アクション申し分ありません。文章も上手で人間も描けています。しかし、どこか吹っ切れない印象ですぐに内容を忘れてしまいそうな予感がするんですよね。そういう小説って結構ありませんか。
まあそれはそれとして、この作品はクリスマスに全く無関係という訳でもありません。ある陰謀により、日本に様々な病原菌による疫病が発生し、次々と奇怪な事件が起こる物語ですが、そこに通底しているのが○○なんですね。読めば分かります。でも牧野修って誰?という方も多いと思いますので、このサイトでは私だけ読んでいれば良いですよ。そこまでお薦めはしません。

No.1039 5点 少女は踊る暗い腹の中踊る- 岡崎隼人 2019/12/22 22:14
連続乳児誘拐事件に震撼する岡山市内で、コインランドリー管理の仕事をしながら、無為な日々を消化する北原結平・19歳。自らが犯した過去の“罪”に囚われ続け、後悔に塗れていた。だが、深夜のコンビニで出会ったセーラー服の少女・蒼以によって、孤独な日常が一変する。正体不明のシリアルキラー“ウサガワ”の出現。過去の出来事のフラッシュバック。暴走する感情。溢れ出す抑圧。一連の事件の奥に潜む更なる闇。結平も蒼以もあなたも、もう後戻りはできない!!第34回メフィスト賞受賞!子供たちのダークサイドを抉る青春ノワールの進化型デビュー。
『BOOK』データベースより。

話自体は悪くないと思いますが、何とも纏まりに欠ける印象を受けます。
粗削りな文章、味気ない文体、全く見られない心理描写、プロットのこなれなさなど欠点を挙げればキリがありません。まあノワールですよ、真っ黒です。でも青春じゃありませんね。こういうのが一般受けするようではまさに世も末、末世です。舞城王太郎に作風が近いとする意見もありますが、似て非なるものだと私は思います。

連続幼児誘拐事件の動機は意表を突いていて、なかなか面白いです。かなり呪われていますけどね。しかし、四番目の事件の両足切断の理由はどうにも納得がいかないです。納得がいかないという点では、もう総てに対して言えますね。そもそも幼児の死体を発見した時点で、何故主人公の結平は真っ先に警察に連絡しないのか、そこに拘ってしまった私はおそらく読者失格なのかも知れません。本書に関しては。又、ウサガワは何故無意味な虐殺を行うのかも不透明ですし。ただ派手な事件で賑わわせようとの目論見にしか見えません。そして誰も彼もイカれてる、小説としては破綻していなくても、物語として破綻している気がしてなりません。
もう少し上手く書き上げていたら、もっと評価は上がったと思いますがね。でも所詮メフィスト賞なんてこの程度でしょう。

No.1038 7点 アイの物語- 山本弘 2019/12/20 22:30
人類が衰退し、マシンが君臨する未来。食糧を盗んで逃げる途中、僕は美しい女性型アンドロイドと出会う。戦いの末に捕えられた僕に、アイビスと名乗るそのアンドロイドは、ロボットや人工知能を題材にした6つの物語を、毎日読んで聞かせた。アイビスの真意は何か?なぜマシンは地球を支配するのか?彼女が語る7番目の物語に、僕の知らなかった真実は隠されていた―機械とヒトの新たな関係を描く、未来の千夜一夜物語。
『BOOK』データベースより。

短編を無理やり繋げて長編の体裁を取ったSF。なので各短編に関連性はなく、独立した物語として楽しめます。長編としてはどうなんでしょう、やはり継ぎ接ぎな感は否めません。
AI(アンドロイド)は人類にどこまで近づけるのか、或いは人類を凌駕し超越した存在になり得るのかという普遍的なテーマに挑んだ、意欲的な作品だと思います。

夫々の作品が水準をクリアしており面白いんですが、『詩音が来た日』に根こそぎ持っていかれましたね。久しぶりに涙と鼻水を流しながら読みました。感動しました。名作だと思いますよ、マジで。簡単に言えば介護アンドロイドが介護老人保健施設に赴任して、様々なことを学びながら成長していく物語です。アンドロイド詩音が老人と接していく中で、次第に感情の翼を広げ心を持つに至るまでの、心温まるSFというジャンルを超えた必読の書です。これだけでも読む価値ありだと声を大にして言いたいですね。
表題作を最後に持ってきていますが、カタカナの造語が多すぎて正直半分も理解できなかった気がします。それでもまあ何とか作者の意図は伝わっては来ます。
SFファンだけじゃなく、すべての読者に読んでほしいなあと思いますねえ。

No.1037 7点 奇想小説集- 山田風太郎 2019/12/17 22:28
戦後の東京で、青年と、神宮の森の樟をねぐらとする骨の軟かい美少女との愛欲を描いた「蝋人」、主人公の男のシンボルの形をした「鼻」を見て、女性が群がる「陰茎人」。グロテスクな表現の中に風刺とユーモアと哀愁を込め、医学的知識をも駆使して人間の“性”を描いた山田風太郎の初期短編集。全9編を収録。
『BOOK』データベースより。

ハチャメチャで女性蔑視が多々目に付く日本を、医学的見地や科学的立場から鋭くアプローチした作品が目立つ稀有な短編集。医師を目指していた風太郎流石です。
世間ではスケールの大きい『満員島』が受けているようですが、私的には『蝋人』がミステリ的にもストーリーとしても最も優れていると思いますし、一番好きですね。不可解な殺人事件を論理的に解決するのは本格ミステリにはまあ普通にあるパターンですが、実に奇妙な密室殺人を奇想で解決に導く力技は素晴らしいですよ。時代背景も生々しく、犯人に感情移入し同情を禁じ得ないという滅多にお目に掛かれない作品だと思います。

掉尾を飾るのはホームズを皮肉った『黄色い下宿人』。ロンドンに留学していた謎の東洋人が、ホームズの推理をバッサリ切り捨て事件を解決します。その人の正体とは一体?そこにも注目です。
他にも『陰茎人』『自動射精機』『ハカリン』(ハカとは破瓜のこと)など、誰が見てもすぐそれと気づくようなエロを、真面目に取り扱った作品が目白押しです。夫々ちゃんとオチも付いていますし、馬鹿馬鹿しいと一蹴できない何かを含んでいると思いますね。特に『自動射精機』の落とし方が個人的にはお気に入り。

No.1036 5点 眩暈を愛して夢を見よ- 小川勝己 2019/12/15 22:15
大学卒業後、AV制作会社に就職した須山隆治は、撮影現場で高校時代の憧れの先輩・柏木美南と再会してしまう。その後、会社が倒産し、アルバイトをして日々を送る須山だったが、美南が失踪したと聞き、彼女の行方を追い始める。調査が進むにつれ明らかになる美南の悲惨な過去。同時に彼女の過去に関わる人物が次々と殺されていく。やがて事件は一応の解決を見せるが…。横溝賞受賞作家が放つ驚天動地の大傑作ミステリ。
『BOOK』データベースより。

多重構造、多視点、作中作など私の好むところの範疇に完全に入っています。その複雑な構成にはタイトル通り眩暈を起こしそうになりました。嘘ですけど。特に作中の合評会にて散々こき下ろされていますが、作中作は三篇共面白かったですね。その辺り中盤になるとかなりメタな展開が目立ってきます。これをどう着地させるかで、本作の評価ががらりと変わってくるものと思いながら読みましたが、結局最後は何がなんだか訳が分からない結果に終わり、凄く勿体ないと感じました。ここが綺麗に決まっていれば十分な傑作になったと思いますが、残念でした。

一人称で書かれた「僕」「おれ」「わたし」がそれぞれ一体誰だったのか、どこまでが虚構でどこからが現実なのか、書き切れていないのが何とも悔やまれます。最終的には読者に委ねられる形になっているようです。何かと未完成な印象が免れませんし、色々惜しい怪作という気がします。
が、果たして角川が新潮から版権を買ってまで文庫化するような作品なのか、疑問に思わずにはいられません。

No.1035 7点 “文学少女”と飢え渇く幽霊(ゴースト)- 野村美月 2019/12/13 22:12
文芸部部長・天野遠子。物語を食べちゃうくらい愛しているこの自称“文学少女”に、後輩の井上心葉は振り回されっぱなしの毎日を送っている。そんなある日、文芸部の「恋の相談ポスト」に「憎い」「幽霊が」という文字や、謎の数字を書き連ねた紙片が投げ込まれる。文芸部への挑戦だわ!と、心葉を巻き込み調査をはじめる遠子だが、見つけた“犯人”は「わたし、もう死んでるの」と笑う少女で―!?コメディ風味のビターテイスト学園ミステリー、第2弾。
『BOOK』データベースより。

今回は『嵐が丘』。私は未読ですし映画も観ていません。
前作に続き小説を書かれた紙を食べてしまう天野遠子先輩には違和感を覚えます。食べたらもう読めなくなるのに、とまるで凡人丸出しの感想しか持てない私です。身体にも良くないでしょう、消化できるんでしょうか?
本作、結構残酷な話なんですが、作者はそれを暗黒系一辺倒にならず切なさに変換するテクニックを持っていますね。暗い物語を遠子先輩や心葉のキャラで中和し、丁度良い塩梅のライトな読み物として完成させています。かなりの完成度の高さだと思います。
挿絵も良い感じです。欲しいところで欲しいイメージのイラストがポッと現れると、憎いねえと感心します。

それにしても、相変わらずキャラが立っていますね。全ての登場人物が生きています。中でも琴吹さんが私のお気に入り。自分の気持ちを素直に表現できず、つい憎まれ口を叩いてしまったり、じーっと睨んだりして何か可愛らしいですよね。全てを見透かしたような、女王様で尊大な麻貴先輩もいい味出してます。
まだまだ明かされていない心葉の秘密も気になるところです、最終巻まではまだ遠い道のりではありますが、忘れた頃にまた読みたいと思います。

No.1034 6点 記号を喰う魔女- 浦賀和宏 2019/12/11 22:38
「僕が死んだ時、居合わせた人間達を僕が生まれたあの島に向かわせてください」そう遺言を残し中学生が自殺した。孤島を訪れた5人の同級生を襲う殺戮劇。死体には、全て「逆さV」の記号が残されていた。犯人は、そして生き残れるのは誰?最終ページまで気を抜くことを許さぬ、狂気の連続と逆転する真相。
『BOOK』データベースより。

この作品は孤島、カニバリズム、難解熟語に要約され、それ以上でもそれ以下でもないと思います。ミステリですから殺人は起きますし、二つの死体には胸が逆Vの字に切り裂かれていますし、電話線も切断されます。他にもどんどん死人が出ます。一見典型的な孤島物に見まがうかもしれませんが、そうではありません。では本質は奈辺にあるのか、それはカニバリズムそのものなんですね。ネタバレになってしまうかも知れませんが、中盤でカニバリズムに対する論考が語られるので、ギリギリセーフでしょう。

安藤直樹シリーズ第五弾なわけですが、直樹は登場しません。もっと時代は前ですし、言わば番外編になろうかと思います。では本作の安藤とは誰か、小林は誰なのか、それはシリーズを通して読んでいる人は多分分かるでしょう。
本格ミステリのようで本格ミステリじゃない、なかなかにジャンル分けが難しい作品です。読後はスッキリはしませんが、印象深いのは間違いないと思いますよ。

No.1033 6点 黄金の腕- 阿佐田哲也 2019/12/09 22:21
麻雀は一般的に言えば遊びであるし、レートもその範囲で決められる。だがその域を抜けると、賭ける金額を自分の経済力ではなく自分の技量で決めるようになる。当然上のクラスへいくほどその闘いは熾烈を極める「レートは?」「金なんか賭けていないよ。でもラスを喰うと、金より多少重たい」遊び人川島に誘われて行った麻雀は、金を賭けた麻雀以上の異様な雰囲気が漂っていた。逃げ場のない喰うか喰われるかの本当の勝負が始まった。
『BOOK』データベースより。

麻雀小説ですが、スリリングでサスペンスフルな短編集。無論ミステリではありませんがピカレスクロマンというか、犯罪小説には違いないですからね。
何と言っても表題作が良いです。「金より多少重たい」の台詞が怖いですね。他の短編もそうですが、すんなり入り込めて自然にのめり込めるタイプの娯楽作となっています。『国士無双のあがりかた』には、新撰組の小島武夫、古川凱章が匿名(一文字変えただけ)で出てきて、二人の対照的な個性が光っていますね。『北国麻雀急行』は他の作品集で読んだような。
相変わらず虚々実々と言いますか、全くのフィクションなのかそれとも実話を脚色したのか判然としないような書きっぷりで、読者を魅了している感じがします。

本来7点ですが、何故かラスト二作に色川武大名義の凡作が混じっているので減点しました。氏の小説はほぼ読んでいると思っていましたが、探せばあるもんですね。やはり阿佐田哲也は面白い。

No.1032 5点 JC科学捜査官 雛菊こまりと“くねくね”殺人事件- 上甲宣之 2019/12/08 22:21
「“くねくね”を見た者は精神に異常をきたす」「トイレから聞こえてくる『赤いはんてん、着せましょかぁ』という童唄に応えると、喉を切られ殺される」など、オカルト現象になぞらえた殺人事件の数々。FBIから、祖父の勤務する兵庫県警科学捜査研究所に派遣されてきた14歳の科学捜査官・雛菊こまりが、多彩な科学捜査と天才的なひらめきによって、事件を鮮やかに解決していく!
『BOOK』データベースより。

都市伝説を絡めた殺人事件に対して、科学捜査で立ち向かう女子中学生こまりの活躍を描く連作短編集。
オカルト色が強いかと思いきや、意外と専門的で本格的な科学捜査からアプローチしています。逆に私にとってはそれが物足りなかったですね。専門知識よりももっとねちっこい不可思議性を重んじて欲しかったのが本音です。まあラノベ系ですから致し方ないでしょうか。

しかし、刑事と科捜研が聞き込みなどを共にすることに疑問を感じました。それもまるでコンビの様に。普通あり得ないのではないでしょうかね、部署が全く違う訳ですから。それはそれとして、キャラがあまり立っていないし魅力を感じないのも気になりました。こまりを始め科捜研のメンバーや刑事達はそれぞれ個性的ではあるものの、それが際立っていない印象なんですよね。シリーズが二作で終わってしまった原因の一つではないでしょうか。
いずれにせよ、もう少し上手く都市伝説を生かしたミステリに仕上げていれば、もっと読み応えのある作品に成り得たと思いますね。残念です。あと、トイレの密室の謎が未解決のまま、これはいけませんね。

No.1031 4点 いつかの人質- 芦沢央 2019/12/06 22:11
宮下愛子は幼い頃、偶発的に起きた誘拐事件に巻きこまれ失明してしまう。そして12年後、彼女は再び何者かに連れ去られる。いったい誰が、何の目的で?一方、人気慢画家の江間礼遠は突然失踪した妻、優奈の行方を必死に捜していた。優奈は誘拐事件の加害者の娘だった。長い歳月を経て再び起きた「被害者」と「加害者」の事件。偶然か、それとも…!?急展開する圧巻のラスト。大注目作家のサスペンス・ミステリー。
『BOOK』データベースより。

どうです、上記の内容紹介で興味を惹かれませんか?そう、私もそんな罠に嵌った一人です。プロット、ストーリーなどはそれほど悪いとは思いませんが、この小説には致命的な欠点が・・・。
誘拐物にしては、あまりそれらしい雰囲気が感じられません。誘拐事件自体よりも他に焦点を合わせている為、何か期待していてたものと違うと思われてなりません。二度も誘拐された少女、しかも失明しているという状況は当然サスペンス要素満載で、緊迫し盛り上がるものと信じていると裏切られますね。真犯人が途中で分かってしまうのも減点対象でしょう。もうこの人の小説は二度と読まないと思います。


【ネタバレ】


疑問其の一
いかなる手段で誘拐犯は被害者家族のプライベートを盗み聞きしていたのか。盗聴器でも仕掛けなければ無理ではないのか。詳細が書かれていません。

疑問其の二
失踪した妻を警察が本気で探してくれないからと言って、わざわざ誘拐犯に仕立て上げるでしょうか。そんなもの探偵でも雇えば速攻で解決するのに。夫であり誘拐犯のあまりに短絡的な思考に開いた口が塞がりません。

No.1030 6点 NO推理、NO探偵?- 柾木政宗 2019/12/04 22:43
私はユウ。女子高生探偵・アイちゃんの助手兼熱烈な応援団だ。けれど、我らがアイドルは推理とかいうしちめんどくさい小話が大好きで飛び道具、掟破り上等の今の本格ミステリ界ではいまいちパッとしない。決めた!私がアイちゃんをサポートして超メジャーな名探偵に育て上げる!そのためには…ねえ。「推理って、別にいらなくない―?」NO推理探偵VS.絶対予測不可能な真犯人、本格ミステリの未来を賭けた死闘の幕が上がる!
『BOOK』データベースより。

巷ではメタ、メタ言われているようだけど、そういうことね。
探偵が傀儡で助手が探偵を操る、なるほどそのパターンね。
問題作らしいけど、私から見れば全然。NO問題。

とまあこんな感じで最終話までは読んでいました。そして最終話でひっくり返されるというお約束。決して嫌いじゃないです。あ、でもネタバレじゃありませんよ、どんでん返しとかではないので(本当か?)。
それにしても最後に二つも「読者への挑戦状」を挟んでくる辺り、本格愛に満ち溢れているじゃありませんか。本格ミステリの小ネタもチラ見せしてますし。結局、推理不要論はあくまで方便であって、話題作りやメフィスト賞を狙ったあざとい作戦だったんでしょうねえ。各短編に対しては色々意見はあると思いますが、なかなかの良作だったのではないかと思います。それぞれに仕掛けが施してあり、うっかり読み流していると足を掬われたりします。色物と笑いたくば笑えと作者の声が聞こえてきそうです。

この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 1829件
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浦賀和宏(33)
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