皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1141 | 6点 | 鬼- 高橋克彦 | 2020/07/03 22:19 |
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げに、人の心は恐ろしきもの―平安の都を揺るがす鬼や悪霊、怪異に立ち向かうのは滋丘川人、弓削是雄、賀茂忠行、賀茂保憲、安倍晴明ら陰陽師たち。“応天門の変”の真相を暴く「髑髏鬼」など五篇を収録した妖かしの物語集。鬼と陰陽師の壮大なストーリーが今、始まる。
『BOOK』データベースより。 平安時代に活躍した、陰陽寮に籍を置いていた安倍晴明を始め、その師となる賀茂忠行、息子保憲、弓削是雄ら陰陽師が鬼と対峙するファンタジー。とは言え、激しいバトルなどはほとんどなく、人形(ひとがた)や式神を駆使して魔を祓うといったシーンが中心になります。 有名な平将門の首級が都から空を飛んだという言い伝えの、新しい解釈とも言える逸話や、菅原道真の怨霊の力がどれほど強力だったのかなど、裏歴史的に興味深い物語もあります。何より、時代小説らしく会話文は「~にござる」的な感じなのでちょっと取っ付き難さもありますが、空想なのにまるで自分がその場にいるような臨場感を覚えるのが、この人の文章力の素晴らしさではないかと思います。 鬼よりも恐ろしいのは人の心というテーマは、現代のホラー作品に通じるものがあり、今も昔もその辺りは変わらないのかも知れないと感じたりもします。又、ミステリの要素もありながら、実在の人物たちの恨み辛みや思惑などが錯綜する、人間ドラマとしても読みごたえがあります。短いながらも充実した内容の短編集ではないかと思います。 |
No.1140 | 4点 | 奇術師のパズル- 釣巻礼公 | 2020/07/01 22:54 |
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中学校のカウンセラー・棟谷志保子あてに、“大石和哉を知っているか?”という謎のメッセージ。発信人は、死んだはずの女生徒・新庄朋恵。大石は志保子の婚約者だったが、生徒に刺殺された。やがて、文化祭に出品する立体モザイク『隧道の中の悪魔』の傍に、“新庄朋恵は私が殺した”という遺書を持つ大河原杏子の死体が…。モザイクに描かれていた五個の人面図が、奇妙なことに四個に…。死体が発見された体育館は、完全な密室状態。志保子を襲う三人の男子生徒。MGの小部屋とは?消えた人面の謎が解き明かされたとき、戦慄の事実が…。奇想天外、新機軸の密室ミステリー傑作長編。
『BOOK』データベースより。 最後まですっきりしませんでしたね。何が何だか分からないうちに解決し、様々真相が明らかになっていました。トリックは大仕掛けな割に、効果が絶大とは言えず、そうだったんだくらいにしか思いませんでした。密室と言っても、なんだかなあって感じです。まあ私の頭が悪いことや読解力がないことを認めたとしても、これは凄いとはならないと思います。 一体どこを軸に置いて、物語を進めたかったのかも判然とせず。そして人間が描かれていない、まあこれはよくある事ですけど。文体も合わなかったですね、個人的に。そして警察の捜査がどうなっているのか、全く描かれていないのにも違和感を覚えました。 いじめ問題に関しては、生々しさが感じられず、これほどまでの参考文献が全然生かされていないのではないかと勘繰りたくなりました。 あくまでマイノリティの意見として、この書評はあまり参考にしないでいただきたいと思います。でもAmazonの評価が一つもないのには、何かしらの意味がある気もします。 |
No.1139 | 6点 | 名も知らぬ夫- 新章文子 | 2020/06/29 22:34 |
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婚期を過ぎて母とつましく暮らす市子のもとに、二十五年前に音信を絶った徒兄の圭吉が訪ねて来た。市子に昔の記憶はないが、目の前の中年男は優しく魅力的だった。ほどなく二人は一つ屋根の下で暮らし、結ばれるが、日を追って男の正体が明らかに―。巧みなプロットで読む者を引き込む表題作など、女性ならではの繊細な心理描写が光るサスペンス推理八編を収録!
『BOOK』データベースより。 目茶苦茶読みやすいです。が、ほとんどが平均点レベルの作品で、これは凄いと唸らされるようなものは見当たりません。1959年から1964年に書かれた短編で、表現に古さは全く感じられません。逆に言うと昭和テイストがあまり味わえないとも言えますね。 『年下の亭主』は一捻りしてあり、好みの範囲ではあります。心理サスペンスとしてもミステリとしても引き込まれます。 『不安の庭』は展開が読めず、途中ハッとさせられるようなシーンもあり、なかなかの逸品だと思います。 上記二作がツートップですね。しかし、最初に書いた様にそれぞれが平均的な出来なので、読者によって各短編の評価はまちまちになってくるでしょう。決して悪くはないのですが、何か突き抜けた部分があるのかと問われると、残念ながら否と言わざるを得ません。この年代の表立っていない作家の珍しい作品をと思われる方だけ読めば良いんじゃないですかね。 どうも個人的に光文社はイマイチなんですよね。編集者が悪いのか、作家があまり乗り気でないのか、これといった傑作名作が少ないと思われてなりません。 |
No.1138 | 6点 | 1000の小説とバックベアード- 佐藤友哉 | 2020/06/27 22:20 |
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二十七歳の誕生日に仕事をクビになるのは悲劇だ。僕は四年間勤めた片説家集団を離れ、途方に暮れていた。(片説は特定の依頼人を恢復させるための文章で小説とは異なる。)おまけに解雇された途端、読み書きの能力を失う始末だ。謎めく配川姉妹、地下に広がる異界、全身黒ずくめの男・バックベアード。古今東西の物語をめぐるアドヴェンチャーが、ここに始まる。三島由紀夫賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 何だかよく分からないという意見もありますが、片説という個人の為に書かれた小説を通して、小説とは何か、小説を書くとは一体どういう事なのかというテーマが根底にあるので、そこを理解すれば読み解くことは難しくないと思います。破天荒な物語ではあるものの、文学として心に染み入るものがあります。作者の小説に対するどうしようもない衝動のようなものが迸り、情熱を感じます。 バックベアード、『日本文学』といった得体の知れない人物や、地下の図書館に閉じ込められた人々、探偵の一ノ瀬、謎多き配川姉妹、片説家たちが複雑に絡み合い、人間模様が凄いことになっています。 日本の文豪たちへの鎮魂歌の意味合いもあり、また全ての小説家に対する憧憬やその存在の意味など、様々な作者の想いが詰まった作品となっています。ファンにとっては裏切られた感はないと思いますが、佐藤友哉を初めて読む人にはどうなのかなと微妙な感じがしますね。 |
No.1137 | 4点 | トップラン 第3話 身代金ローン- 清涼院流水 | 2020/06/25 22:47 |
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謎の人物から誘拐予告電話がかかってきた。標的は音羽恋子の姉・銀子。相手が要求する身代金は3億7529万9500円。しかも支払いはローンで!?無気味な電話を恋子は逆に利用し、「よろず鑑定師」貴船天使を罠へと誘い出す秘策を練る。恋子の奇襲は成功するものの、敵にも予想外の切り札が…。緊迫する書き下ろし文庫シリーズ第3話。
『BOOK』データベースより。 前作から1ミリも話が進んでいない、これでは評価のしようがありません。前回誘拐されたと書きましたが、誘拐予告電話の間違いでした。しかし、それもまるで想定の範囲内の様な恋子の落ち着きぶりはどうしたことでしょうか。誰が何の為にという謎が何だかおざなりにされているような気がしてなりません。2000年当時の時事ネタとか、カラオケで誰がどんな曲を歌ったとか、どうでもいいです。本当にストーリーが前進したとするなら、ラストだけです。正直中身のない空虚な小説を読まされた感が半端ないです。 清涼院流水は『コズミック』で燃え尽きてしまったのでしょうかね。残りの作品は燃え滓だけ。大体、この作品を分冊にした意味が分かりません。せめて上下巻程度にすれば、もう少し濃密な内容になっていたのではないかと思います。相変わらず水増し感が大いに感じられ、第6話まで一気に読むつもりでしたが、飽きました。なので、一旦インターバルを置きたいと思います。 |
No.1136 | 5点 | トップラン 第2話 恋人は誘拐犯- 清涼院流水 | 2020/06/24 22:48 |
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「よろず鑑定師」と名乗る貴船天使が課したトップラン・テスト第1問をクリアした音羽恋子。第2の課題は、『明日届ける7500万円入りのアタッシェケースを自宅で2カ月間隠し通すこと』。しかし届いたのは「104」と書かれた1枚のハガキだった。またもや謎謎!?テン(10)・シ(4)―天使?さらに謎が深まる書き下ろし文庫シリーズ第2話。
『BOOK』データベースより。 第1話の次回予告通り、トップラン・テストの答え合わせがメイン。まあ、予想通りと言いますか、当然と言いますか、要するに模範解答、必ずしも優等生的ではありませんが、が高得点となっています。裏があるのかも知れないとは言え、出題者の目論見を読み取れば、それほど難解な問題ではありませんね。つまり、己を貫く信念を持っていて、尚且つ周囲と孤立しない順応性が求められている訳で、通底する問題の解答に矛盾があってはなりません。それにしても、やはり少量の情報を無理やり引き延ばした感は否めず、余計な描写が見られるのは減点材料です。 そして、ラストに漸く話が動きます。これはかなり急展開と言ってもよく、意外な人物が登場し、更に恋子の姉の銀子が誘拐されるという怒涛の結末を迎えます。この先どうなるかが気になるように工夫されていますが、もう少しテンポよく話を進めて欲しいものですね。 |
No.1135 | 7点 | 妖琦庵夜話 その探偵、人にあらず- 榎田ユウリ | 2020/06/23 22:32 |
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突如発見された妖怪のDNA。それを持つものを「妖人」と呼ぶ。お茶室「妖〓(き)庵」の主である洗足伊織は、明晰な頭脳を持つ隻眼の美青年。口が悪くてヒネクレ気味だが、人間に溶け込んで暮らす「妖人」を見抜く力を持つ。その力のせいで、伊織のもとには厄介な依頼が絶えない。今日のお客は、警視庁妖人対策本部、略して“Y対”の、やたら乙女な新人刑事、脇坂。彼に「油取り」という妖怪が絡む、女子大生殺人事件の捜査協力を依頼された伊織は…。
『BOOK』データベースより。 別名義でBL物を書いている作者。世評が高いので興味本位で読んでみましたが、さすがの私も生理的に受け付けませんでした。そこで、本格ミステリ風のこちらはどうかと思って試してみたら、これが面白い。妖人とか妖怪とかが出てきて、京極の世界観に近いのかと期待しましたが、それはありませんでした。。しかし、これはこれで確固とした独自のワールドを確立しており、特に個々のキャラが鮮明に立っていて、その意味では文句なしの出来だと思います。強さ、優しさ、癒し、可愛さ、幼気、残酷さなどの要素が入り混じって、凄く良い味を出しています。これは広く一般読者にも受けるでしょうね。 ミステリとしては他愛もないものではありますが、それを補って余りある魅力的な探偵像。和装の似合う茶道の師範でありながら、物語で語られる妖人として生きていかなくてはならない宿命を背負っています。更に、まだまだ明かされない秘密を隠し持っており、それがまた本シリーズを牽引している要素の一つでもあると言えそうです。これまで全八巻刊行されていて、どれも好評なのが理解できる気がします。次回作にも十分期待できると思います。 |
No.1134 | 5点 | トップラン 第1話 ここが最前線- 清涼院流水 | 2020/06/21 22:39 |
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2000年1月1日。新しい千年紀と同時にハタチを迎えた音羽恋子の眼前に現れた「よろず鑑定師 貴船天使」と名乗る男は、札束を取り出して言った。「このテストに回答したら99万円あげるよ」。突如渡された33問のトップラン・テスト―回答者に値段をつけるための人間鑑定試験??奇妙な謎が謎を呼ぶ、書き下ろし文庫シリーズ第1話。
『BOOK』データベースより。 主人公の恋子がマクドナルドで偶然会った、貴船天使と名乗る男の胡散臭い取引に乗り、人間鑑定試験を受けるという内容。試験と言っても単なるアンケートのようなもので、少なくとも怪しげな裏がある様には思われません。ごく普通の性格診断のようなもので、誰でもが分かる、これを選べば相手に喜ばれるであろう模範解答を繰り返し選択するのみです。他にもホームドラマのような一面もありつつ、果たしてこのよろず鑑定師は何者なのか、何が目的なのかがはっきりしない分、不安を煽ってきます。その意味ではサスペンス小説なのかも知れません。 そして、その鑑定結果は果たして巨額を手にするものであって、これは予想通り。期間内に貴船を探し出さなければならない条件をどうやってクリアするのかも、予想通りです。何の捻りもありません。ですが、まだ物語は始まったばかりなので、今後の展開が読めません。取り敢えず次回は鑑定試験の答え合わせが明かされるそうです。自分の身に照らし合わせて、どんな結果が出るのか気になるところではありますね。 |
No.1133 | 6点 | 奇術探偵 曾我佳城全集 秘の巻- 泡坂妻夫 | 2020/06/19 22:14 |
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曾我佳城。若くして引退した美貌の奇術師。華麗なる舞台は今も奇術ファンの語り草である。もう一つの貌は名探偵。弾丸受止め術が自慢の奇術師がパートナーを撃ち殺してしまった。舞台に注目する観客の前で弾や銃を掏り替えた者は誰か。佳城は真相を見抜けるか?―など究極の奇術トリック満載の「秘の巻」。
『BOOK』データベースより。 単行本の方では絶賛されていますが、それ程とは思いませんでした。確かに、マジックとミステリを上手く融合させている手腕は素晴らしいです。しかし、途中でちょっと飽きてきます。何故ですかね。事件そのものの魅力がいまひとつだからでしょうか。それに、あまり余韻が残りません、いきなり解決編が始まり、それで終了みたいな感じで。尻切れトンボとまでは言いませんが、真相の意外性を感じるまでもなく唐突に切り捨てられたような感覚を覚えます。 『ジグザグ』辺りは個人的に好みではありました。途中で裏が読めてしまいますが。あとは『剣の舞』とか。動機が良かったですね、そこまでするのは逆恨みじゃないかとも思いますけど。 読んでいて何度も思ったのは、例えば山田風太郎だったらもう少し被害者の悲哀や、ストーリー性、ミステリ的趣向を充実させていたのではないだろうかというものでした。本書の場合はあまりに奇術に傾き過ぎたせいで、他がおろそかになってしまっているのではないかと思いましたね。 |
No.1132 | 6点 | 幽式- 一肇 | 2020/06/16 22:05 |
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いるのかいないのか誰もが定義できない幽かな存在―亡霊。皇鳴学園高等学校一年、渡崎トキオはヘタレなうえに霊体験皆無のオカルトマニア。そんな彼の呑気な日常は、奇人にして美貌の転校生・神野江ユイと出逢ったことから揺らぎ始める!神野江は言う―「すべてが、逆なのだわ」。赤く染められた部屋、口にすると憑かれる言葉…この世にひそむ“霊かなもの”を次々と暴く神野江ユイに圧倒されながら、トキオが最後に辿り着いた彼岸の真実とは―?新感覚学園オカルティックホラーここに登場。
『BOOK』データベースより。 ホラーと言うよりオカルトですね。誰も彼も常軌を逸しているのに、物語として破綻していません。所謂情緒不安定な主人公の一人称で、それに対応するトリックも用意されています。と言っても、決してミステリではありませんので。 派手さはありませんが、神野江ユイがたまに暴走し、時ににオカルトサイト「異界ヶ淵」の管理人クリシュナ先輩がトキオを諫めるといった図式で物語は進行していきます。勿論、トキオにもユイにも重い過去という十字架を背負わされており、トーンは終始暗いです。それにしても、神野江はゲロ吐き過ぎ。 ラストは意外にも爽やかで救いがあります。どこがどうとは言えませんが、何か面白かったですね。リーダビリティも優れていて、オカルト好きな人にはお薦めです。装画、挿絵は好みではなかった、ちょっと酷いですね。 |
No.1131 | 5点 | 時計を忘れて森へいこう- 光原百合 | 2020/06/14 22:10 |
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同級生の謎めいた言葉に翻弄され、担任教師の不可解な態度に胸を痛める翠は、憂いを抱いて清海の森を訪れる。さわやかな風が渡るここには、心の機微を自然のままに見て取る森の護り人が住んでいる。一連の話を材料にその人が丁寧に織りあげた物語を聞いていると、頭上の黒雲にくっきり切れ目が入ったように感じられた。その向こうには、哀しくなるほど美しい青空が覗いていた…。
『BOOK』データベースより。 日常の謎1割、癒し5割、優しさ4割な感じ。でも、その癒しと優しさは私には突き刺さりませんでした。何故だろうと考えるに、そもそも文章が青臭すぎるし、未熟過ぎて心に入り込ないからだろうと思います。全体的にぼんやりとした印象で、溢れる自然に囲まれた環境のはずなのに、あまりイメージすることが出来ませんでしたね。それに、一体何がしたかったのかが私には理解しかねます。作者は一応ミステリを意識して描いたようですが、第一話などは推理する程の謎でもなく、誰が考えても真相は同じでしょう。 Amazonなどで評判が良かったので思わず買ってしまいましたが、多くは女性或いは若年層の支持を受けたものと推察します。ミステリの鬼が揃った本サイトでは登録されていないだろうと思っていたのですが、流石に一票入っていましたね。まあ、ミステリ読みは読まなくて良い作品ですね。読み難いとかではないけれど、私の読解力以前の問題のような気がします。一冊の小説としての魅力があまり感じられないのは、残念な限りです。 |
No.1130 | 6点 | 星空の16進数- 逸木裕 | 2020/06/12 22:32 |
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「私を誘拐したあの人に、もう一度だけ会いたい」それは“色彩”だけを友とする少女の願い。すべての謎がとけたとき―私のいる世界は、こんなにも美しかった。
『BOOK』データベースより。 残念ながらデビュー作『虹を待つ少女』の名曲『ムーンリバ―』のような衝撃や感動は味わえませんでした。 誘拐された過去を持つ少女藍葉のパートと、藍葉に依頼された探偵みどりのパートの両面から描かれます。しかし、藍葉の大方は必要なかったと思います。無理矢理話を膨らませてページを稼いでいるだけにしか思えませんでした。それだけに冗長さはどうしても否定できないですね。 この作者特有の、多角的な視点から物語を紡ぐという美点は今回は見られません。ですから単調になりがちで、登場人物たちにもあまり個性が感じられません。一寸コミュ障気味の主人公藍葉と、私立探偵の資質を十分に持ったみどりの他は、探偵を陰のように支える浅川くらいですかね、それなりに人物が描けているのは。 真相はちょっとだけ意表を突かれましたが、そこに至るまでがあまりに長くて、それだけの為に読まされたような気がしたのは、いささか不本意ではありました。この作者に対する期待は個人的に高いものがありますので、それを考えるとやや期待を裏切られた感じがします。「色」に関する拘りなどは、正直興味を持てませんでしたね。 |
No.1129 | 7点 | 多々良島ふたたび ウルトラ怪獣アンソロジー- アンソロジー(出版社編) | 2020/06/10 22:59 |
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レッドキング、チャンドラー、そしてマグラーが相争った「怪獣無法地帯」の真相に迫る―山本弘の表題作「多々良島ふたたび」。希少生物としての怪獣の保護を図る戦闘的環境団体とウルトラマンが対峙する―小林泰三「マウンテンピーナッツ」。生命の危険を顧みない、怪獣類足型採取士の死闘―田中啓文「怪獣ルクスビグラの足型を取った男」など、SF的想像力でウルトラ怪獣とウルトラマンの世界を生き生きと描く7篇。
『BOOK』データベースより。 SF、ホラー作家が真面目にウルトラ怪獣を描いた短編集。幼い頃、ウルトラQ、ウルトラマン、ウルトラセブンが再放送される度に観たという人は楽しめるはず。 作家陣は山本弘、北野勇作、小林泰三、三津田信三、藤崎真悟、田中啓文、酉島伝法の七人。これは錚々たる顔ぶれですね。ほとんどが変化球で、まともにウルトラマンと怪獣が対決するのは小林泰三の『マウンテンピーナッツ』くらいです。山本弘は多々良島のあの雰囲気を壊すことなく、新たな試みに挑戦しています。ピグモンとガラモンの意外な関係も創造していたりします。最も好感度が高かったのは未読作家の藤崎真悟で、メトロン星人を始め、チブル星人、イカルス星人などを登場させ、ウルトラセブンの世界観を見事に再現し、それでいてオリジナリティを持った逸品に仕上げていています。 田中啓文は結局ダジャレかよって感じ。三津田信三は己のスタイルを貫き、別にウルトラじゃなくてもよかったと思います。まあらしいと言えばそうなんですが。酉島伝法はいらなかったかな。怪獣が死んだ後始末を描いていますが、読みづらく、どう頑張っても情景が浮かんできませんでした。 |
No.1128 | 6点 | 赤と白- 櫛木理宇 | 2020/06/08 22:38 |
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冬はどこまでも白い雪が降り積もり、重い灰白色の雲に覆われる町に暮らす高校生の小柚子と弥子。同級生たちの前では明るく振舞う陰で、二人はそれぞれが周囲には打ち明けられない家庭の事情を抱えていた。そんな折、小学生の頃に転校していった友人の京香が現れ、日常がより一層の閉塞感を帯びていく…。絶望的な日々を過ごす少女たちの心の闇を抉り出す第25回小説すばる新人賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 初期の作品ながらこの作者の文章の完成度は見事なものです。小柚子と弥子の二人の主人公は歪んだ母親との関係性を持っています。又、その二人と最も関係の深い京香と苺実も含めて、青春と呼ぶにはあまりにねっとりとした女子高生たちのリアルを描いていると思います。日常的に酒に溺れたり、人に言えないトラウマや悩みを抱えていたりと、爽やかな青春小説とは対極に位置するブラックでダークな青春小説です。 冒頭にある事件の顛末が語られていて、そのホワイとフーに向かって、毎日のように降り続ける雪に閉ざされた閉塞感の中、物語は疾走を続けます。終わってみれば、何という事もない結末ではありますが、そこに救いはありません。 しかし、終章に於いて漸く光が僅かに差し込んでいき、それまでのやりきれないストーリーが少しだけ報われたような感覚に陥ります。これは作者の計算通りでしょう。まあ、一般受けはしないと思いますが、決して中身のない作品ではないですね。でもホラーじゃないと思います。怖いと言えば等身大の女子高生の真の姿が怖いですけど。 |
No.1127 | 5点 | 下町の迷宮、昭和の幻- 倉阪鬼一郎 | 2020/06/06 22:30 |
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田端にある古い銭湯の「昭和湯」の主人が旧式の柱時計を見るうちに…。飛鳥山公園の坂を上るたびに、母親の顔から「癒しの天使」となる女は…。かつての人気漫才師が、古巣の浅草にある蕎麦屋で聴いた歌謡曲は…。三十年ぶりに谷中を訪れた紙芝居屋が、千代紙を買った後に向かうのは…。現代の下町を舞台に、郷愁と恐怖が横溢する昭和レトロホラー。
『BOOK』データベースより。 倉坂鬼一郎がバカミス以前に描いた作品。作風の違いが如実に表れています。これはホラーと言うより幻想小説集でしょうか。ですから怖くはないです、ちょっと不思議でちょっと切ない、そんな雰囲気がそこはかとなく漂っている感じです。因みに昭和の匂いはあまりしません。個人的には郷愁も感じ取れませんでした。 詩的な文章でまさに行間を読むべき作品集と言えると思います。多分普段から純文学を読み慣れた人にとっては、比較的読み解きやすいのかも知れません。ミステリばかり読んでいる読者は、理論優先ではないのでどこをどう楽しめばよいのか理解できない可能性も否定できません。 巻末に作品一覧が載っていますが、あまり読んでないなと。まあミステリの人ではないので、そこまで固執する必要もないですね。 |
No.1126 | 5点 | 捕まえたもん勝ち! 七夕菊乃の捜査報告書- 加藤元浩 | 2020/06/04 22:37 |
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念願叶って捜査一課の刑事に抜擢された七夕菊乃。しかし元アイドルという経歴のせいでお飾り扱いされてしまい、おまけに、驚異的な洞察力を持つ天才心理学者・草辻蓮蔵と、FBI出身で報告書の書き方に異様な執念を燃やす鬼才、「アンコウ」こと深海安公が繰り広げる頭脳戦に巻き込まれることに!初めて挑む密室殺人事件の捜査は、一体どうなってしまうのか!?「小説でしかできないことをやりました」と著者自ら語る、傑作長編ミステリ!
『BOOK』データベースより。 ちょっと期待外れです。今後このシリーズを読むかは微妙ですね。ライトというか、なんとなくジュブナイルのような感覚で読みました。三つの事件は小ネタを寄せ集めたような感じで、あっと驚くようなものではありません。この辺りは漫画家の限界を感じます。 そして何と言っても致命的なのは、早い段階で大筋が読めてしまうことでしょう。それは主人公菊乃の勘違い的な雰囲気が色濃く作品に表出してしまっている為で、もう誰にでも見抜かれてしまうレベルですね。 まあね、草辻蓮蔵と深海安公の敵対などは面白かったですよ。でもねえ、警察小説としての完成度は低いし、警視庁捜査一課に広告塔として新人の菊乃を抜擢するなどあり得ないことから、リアリティにも問題ありです。それと、わざわざ菊乃をアイドルになる前からご丁寧に描く必要性が感じられません。「黒い奴」ってなんですか?これもあまり意味がないように思いますが。 |
No.1125 | 3点 | まどろむベイビーキッス- 小川勝己 | 2020/06/02 22:15 |
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みんなと仲良くしたかった。いじめられたくなかった。邪険にされたり、疎んじられたりするのはもうたくさんだった。だから、だから…。キャバクラ「ベイビーキッス」で働く風間みちる。家ではSHIHOという名前でホームページを作り、訪れる人たちとのやり取りを楽しんでいた。ところが彼女の一言が「荒らし」を呼んでしまう。また仕事上でも他のキャバクラ嬢との関係が悪化し―。哀しい狂気が暴発する究極のエンタテインメント。
『BOOK』データベースより。 これは誰が見ても駄作でしょう、と思ったらそうでもなかったようです。108円じゃなかったら買わなかったとは言え、こういうのを読んだ自分が情けなくなります。いえ、作者が悪い訳ではありません、作家でも調子の悪い時もありますから。あくまで購買者の自己責任ですね。 一応ジャンルとしては倒叙物だと思いますが、虐められて、それが原因でアリバイトリックを考案し、殺害する。それだけで、そこに至るまでのプロセスが完全に排斥されており、どう言った心理状態で殺しに傾いたのかが全然語られていません。短絡的というか、どうにも解せないことが多すぎます。 イジメられたから殺す、誰にも愛されないから皆殺しにする、あまりにもいい加減過ぎませんかね。ネットでのやり取りや荒らしの実態、キャバクラ嬢同士の心理戦といったありきたりなテーマもうんざりですし、メイントリックもミステリ読みには驚きに値しないチャチなものでしょう。 |
No.1124 | 6点 | 都会のエデン 天才刑事 姉崎サリオ- 高橋由太 | 2020/06/01 22:34 |
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夕刻の池袋。一人の男がビルの屋上から突き落とされて死んだ。その妻をさらなる悲劇が襲う。三歳の息子が突然姿を消したのだ!父親の死と関係が?女装の巨漢で毒舌―捜査一課きっての名物刑事・姉崎サリオと相棒の孝太郎が捜査に乗り出す。その背後には、引退した「伝説の警察官」の姿が見え隠れするのだが…。あまりにも切ない「家族の事件」の真相とは?
『BOOK』データベースより。 前作『赤き虚空の下で』の鋭いナイフのような切れ味はないですが、姉崎警部のキャラの強烈さがそれを補って余りある魅力を醸し出しています。マツコ・デラックスにそっくりの姉崎はオネエ言葉も同様で、彼の台詞は私の頭の中でマツコ・デラックスの声に変換されるのでした。それが全く違和感響いてくるので、まるで本物のマツコが演じている錯覚すら覚えます。 事件は一見何気ない、大した謎もないように思えますが、人間関係が複雑に絡み合って悲劇を繰り広げます。それは家族の物語であり、悲しい境遇の人達の心の叫びでもあります。血縁とは何か、絆とは何かを読者の問い掛けているように思えますね。 しかし、この作品はシリーズ化はされないのでしょうか。一部のコアなファンはひそかに待っているのではないかと思うのですが。元々ミステリを書く人ではないので、あまり引き出しがないかも知れませんが、書こうと思えば書けるはずですよ。 読後、無性にポンデリングが食べたくなります。 |
No.1123 | 6点 | 人間じゃない- 綾辻行人 | 2020/05/30 22:24 |
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読んでいて何だか淋しい気持ちになりました。綾辻行人は館シリーズも久しく出ていないし、もう本格ミステリに対する情熱が薄れてしまっているような気がします。ホラーとかはポツポツ出ている訳ですが、もう叙述トリックを駆使した本格物を書き下ろしてくれはしないのではないかと不安に感じます。
さてこの中短編集ですが、それなりにらしさは出ているものの、イマイチ物足りなさを覚えますね。表題作は切れ味が鈍い感じがあり、捻りも効いているようないないような、中途半端な気がします。『赤いマント』は、大体の予測は付きますし、結末はやや拍子抜け。ホラーとミステリの融合は上手く出来ていると思いますが。 個人的に最も評価したいのは中編の『洗礼』でしょうかね。作者の思い入れが一番強そうだし、これが本当に京大ミステリ研時代に書かれた犯人当ての習作だとすれば、私にしてみればはなかなか良く書けていると思いました。そしてその結末が本当だとすれば、京大ミステリ研のメンバーがどれだけレベルの高い人間が揃っているんだと、驚きを隠せません。まあ私でも犯人は指摘できましたが、ダインングメッセージの本当の意味は推理できませんでしたね。 まだ老ける歳ではないと思いますし、綾辻氏にはもっと新作を期待したいと思います。エールを送ります。 |
No.1122 | 5点 | ダブ(エ)ストン街道- 浅暮三文 | 2020/05/29 22:07 |
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あの、すみません。ちょっと道をお尋ねしたいんですが。ダブ(エ)ストンって、どっちですか?実は恋人が迷い込んじゃって…。世界中の図書館で調べても、よく分からないんです。どうも謎の土地らしくて。彼女、ひどい夢遊病だから、早くなんとかしないと。え?この本に書いてある?!あ、申し遅れました、私、ケンといいます。後の詳しい事情は本を読んどいてください。それじゃ、サンキュ、グラッチェ、謝々。「今、行くよ、タニヤ!」。キッチュでポップな迷宮譚。第8回メフィスト賞受賞。
『BOOK』データベースより。 うーん、微妙だなあ。そして評価が難しいです。少なくともメフィスト賞として相応しい作品でないことは間違いないですね。 まずダブ(エ)ストンという土地が茫洋として掴み所がなく、正直何がどうなっているのかが把握しきれません。そんなことは多分どうでも良いんでしょう。この不思議な世界観に浸って楽しめればそれでOKって事なんだと思いますが、作風が合わなかった読者にとっては退屈で仕方ないのではないかと。 異国情緒はやや感じるものの、そこに重点は置いていなくて、旅の途中で次々と現れる風変わりな人間たち、人外の者たちがやりたい放題で、そのユーモアな言動と主人公ケンとアップルの友情のあり様が読みどころになっています。 どこか西洋の童話風な感じで、それを無理やり大人の読み物に仕立て上げたような作品です。ファンタジーなのかエンターテインメントなのか、それすらも判然としない異色作ですかね。 しかし、この人は大成はしないなと思いますね、なんとなくですが。またしてもAmazonや読書メーターは高評価なんですが、そんなに面白いとは思いませんでした。やはり私がマイノリティなのでしょうかね。まあ後味は悪くはありませんでしたけど。 |