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皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1767件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1727 5点 やっとかめ探偵団とゴミ袋の死体- 清水義範 2024/01/05 22:14
分別・無分別の複雑なゴミ分類に踏みきった名古屋の街は、ゴミの話題でもちきり。分類方法をめぐって侃侃諤々の大騒動が繰り返されていた。仲良しおばあちゃん六人組「やっとかめ探偵団」にとっても、ゴミ問題は重大な関心事。ある日、ゴミ袋に入れられて市内各地のゴミ集積場に捨てられた死体が見つかった!バラバラにされた死体を巡り、探偵団の推理が冴える。
『BOOK』データベースより。

第一部は大部分がごみ処理問題にページが割かれており、短いし内容が薄いのでミステリとしてはいささか物足りなさを感じます。何故死体をバラバラにしたのかには重きを置かれず、フーダニットやホワイダニットがどうこうの問題でもなく、ルミノール反応とアリバイが主題です。容疑者は一人で、アリバイをどう崩すのか、何処からもルミノール反応が出ないのは何故なのか、その二点に焦点は絞られます。

それにしてもゴリゴリの名古屋弁には閉口します。私はある程度慣れていますが、他の地方の方には耳慣れない訛りが続々。しかも会話文が多いので気になる方はストレスが溜まるかも知れません。
まあしかし、元気な婆ちゃんたちがユーモラスに話し合うのは、なかなか面白味があります。探偵役のまつ野婆ちゃんはそれなりに鋭さを持っており、巷では名探偵の名で通っています。事件を解決までに漕ぎ着ける過程は?な面もありますが、最後にはそういう事だったのかと納得させられます。全体的に可もなく不可もなくって感じでした。

No.1726 6点 豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件- 倉知淳 2024/01/04 22:25
戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が頭から血を流して倒れていた。屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。どう見てもこの兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだようにしか見えないないのだが……前代未聞の密室殺人の真相は!? ユーモア&本格満載、おなじみ猫丸先輩シリーズ作品も収録のぜいたくなミステリ・バラエティ!
Amazon内容紹介より。

平均的に面白い短編が続きます。それほど驚くようなトリックはないものの、ユーモアを交えたお手軽にサラッと読める物が多いです。例えば表題作や『薬味と甘味の殺人現場』はかなり風変わりな殺害方法と猟奇的とも言えない、訳の分からない装飾が施されており、謎めいた印象を植え付けます。しかし、真相はシンプルでやや物足りなさを覚えます。因みに私は表題作のダミーの推理は想定していた通りでしたので、おっ?と思いましたが、やはりそんな筈はありませんでした。

最後に猫丸先輩が登場します。ねこめろんくんが可愛い。やはり猫丸先輩が出ると和みますね、癒されます。風貌に似合わず頼もしい存在で話しぶりも楽しいし、久しぶりに短編集でも出したらどうですかね。
で本作品集、ファンは必読でしょうが、それ程思い入れのない読者にとっては読んでも読まなくてもいいんじゃないか程度。タイトルに惹かれて読むと拍子抜けするかも知れません。

No.1725 8点 地雷グリコ- 青崎有吾 2024/01/01 22:28
射守矢真兎(いもりや・まと)。女子高生。勝負事に、やたらと強い。
平穏を望む彼女が日常の中で巻き込まれる、風変わりなゲームの数々。罠の位置を読み合いながら階段を上ったり(「地雷グリコ」)、百人一首の絵札を用いた神経衰弱に挑んだり(「坊主衰弱」)。次々と強者を打ち破る真兎の、勝負の先に待ち受けるものとは――ミステリ界の旗手が仕掛ける本格頭脳バトル小説、全5篇。
Amazon内容紹介より。

誰もが一度はやったことのあるであろう「じゃんけんグリコ」(地域によって呼び名が異なるらしい)。じゃんけんをしてグーで勝てばグリコと言って三歩進み、チョキで勝ったらチヨコレイトで六歩進む、あの遊び。これを応用して、階段の途中に三ヶ所地雷を仕掛ける事が出来るというルールで勝負するのが表題作。これがトップに配されています。

他にも坊主めくりと神経衰弱をミックスした『坊主衰弱』等のゲームを、主人公で滅法勝負ごとに強い射守矢真兎が強敵を相手に飄々と勝負していく連作短編集。そして最後に最強の敵であり、昔仲間だった因縁の相手との変則ポーカーの大勝負に挑みます。
いずれもルールの盲点を突いて、意外過ぎる妙手を打ち続ける真兎。相手の心理を読み尽し、その裏をかいてどんな場面でも冷静な判断を怠らないこの主人公には、正直憧れすら抱いてしまう魅力があります。サブキャラもそれぞれ個性的で読んで良かったとつくづく実感出来る作品です。特に驚いたのは『だるまさんがかぞえた』で見せた反則スレスレの大技で、誰も予想だにしない結末を演じて見せます。これだけでも必読と言えるでしょうね。
ミステリ作家ならではの奇想が読者を魅了します。優れたギャンブル小説であり、素晴らしい頭脳戦と心理戦を堪能できること請け合いです。

No.1724 6点 エコール・ド・パリ殺人事件- 深水黎一郎 2023/12/29 22:39
エコール・ド・パリ―第二次大戦前のパリで、悲劇的な生涯を送った画家たち。彼らの絵に心を奪われ続けた有名画商が、密室で殺された。死の謎を解く鍵は、被害者の遺した美術書の中に潜んでいる!?芸術とミステリを融合させ知的興奮を呼び起こす、メフィスト賞受賞作家の芸術ミステリシリーズ第一作。
『BOOK』データベースより。

私だけかも知れませんが、『金田一少年の事件簿』を想起させられました。ちょっと期待外れでしたね。完璧な密室殺人だと思っていたのに、そう来たのかという変化球だったので。もっとストレートだったら評点も上がったでしょう。
途中のガセ推理もあまり誉められたものではありませんね。穴が多すぎます。まあ刑事の考える事はその程度で良いのかも知れませんけれど。

そして真相は私の思っていたのとは違い、斜め上に。確かにそれなら色んな意味で納得が行くとは思います。しかし、「読者への挑戦状」を差し挟む程ではありません。それにエコール・ド・パリの画家達の蘊蓄は余計ではなかったのかとの疑問も起こります。興味が持てたのはレオナルドフジタのくだりくらいでした。本格ミステリよりも人間ドラマと言うか、人情物として評価したい作品。ユーモアも思いの外多分に含まれています。

No.1723 6点 バベル消滅- 飛鳥部勝則 2023/12/26 22:46
島での連続殺人、各現場に残された『バベルの塔』の絵―。鮎川哲也賞受賞の著者が、独自のスタイルで構築する、目眩く豊饒の世界。本格ミステリのゴシック・リヴァイヴァル。
『BOOK』データベースより。

うーん、難しいですね。面白くない訳ではないです。しかし、どうも納得が行かない部分があるんですよね。最後の事件のアレとか、どうしてそんなにバベルの塔に拘るのかとか、業務上過失致死じゃないのか?とか。
そして、ラストの推理は成程と思わせるものの、真相自体が結局そっちかとなってしまいます。メイントリックは諸々の要素に埋没して全く気付きませんでした。再読すれば頷ける部分があったのではないかと思いますが。

前作よりも作中に挟まれる絵画の意味が感じられず、その点では残念でした。それにサプライズ感がある筈の所で驚けず、カタルシスが得られません。それにしても重要人物の一人である少女の、死に際の謎の行動が不思議です。余りにも異質で存在感が強かったのが伏線だったのか、まあそうとしか考えられませんね。私はあまり好きなタイプではないですが・・・あ、そういう問題じゃないですね。

No.1722 6点 麻雀人国記- 灘麻太郎 2023/12/24 23:03
明石屋さんま、赤塚不二夫、井上陽水、ジャイアント馬場、ビートたけし、美空ひばり、丹波哲郎、黒澤明、長嶋茂雄、夏目漱石…。カモられ、ツモられ、あがられても……麻雀に魅せられた人々。各界の有名人の麻雀放浪記、伝説のエピソード集。
Amazon内容紹介より。

著者は、その昔阿佐田哲也、小島武夫、古川凱章らが麻雀新撰組として麻雀界を席巻していた頃、カミソリ灘として名を馳せたプロ雀士灘麻太郎。芸能界、スポーツ界、文壇など各界の著名人の人となりや雀風、彼らが起こした出来事や事件を簡潔に纏めたコラムを全て収録したもので、ご丁寧に注釈も入っています。
上記の他に、石橋貴明、萩原欣一、加賀まりこ、都はるみ、桂三枝、三遊亭圓楽、鶴田浩二ら多数登場。推理作家では山田風太郎、西村京太郎、綾辻行人、大沢在昌、佐野洋、アガサ・クリスティーが出て来ます。

麻雀はその人の性格や癖が顕著に出てなかなか面白いものですが、中には想像を絶するエピソードも含まれており楽しめます。又、芥川賞、直木賞を創設したのは菊池寛だったとか、日本で最初に麻雀に関する大まかなゲーム性を著したのは夏目漱石だった、映画『麻雀放浪記』のドサ健役は当初の予定では松田優作だったなど、学びも多かったです。
その道で名を成した大物たちが、意外と短命だった人が多かったのには、何だかやるせない気持ちにさせられました。それが今では日本が長寿国世界一というのも感慨深いものがありますね。

No.1721 6点 邪馬台国と黄泉の森 醍醐真司の博覧推理ファイル- 長崎尚志 2023/12/21 23:14
創作中に姿を消したホラーの鬼才を捜してほしい。その依頼が全ての始まりだった。邪馬台国最大の謎に挑み、最後の“女帝”漫画家を復活させる。映画マニアの少年を救い、忌まわしき過去の事件を陽光のもとに―。傍若無人にして博覧強記、編集者醍醐真司が迫りくる難題を知識と推理で怒涛のように解決してゆく。漫画界のカリスマにしか描けない、唯一無二のミステリ。
『BOOK』データベースより。

漫画の編集者が探偵役という事もあり、何とも言い表せない雰囲気を持った連作短編集。第一話はホラー漫画家の失踪を幾つかの謎を残しながら、その行方を推理しその気にさせるのが命題。第二話は傲慢な女漫画家との対決であり、彼女を懐柔していく心憎さも醍醐は見せています。そして、諸説ある邪馬台国はどこかを独自の視点で推理し指摘する、博識ぶりを発揮します。第三話は少年安蘭との交流の中で、マニアックな映画の蘊蓄を披露。第四話では第一話の謎の部分にスポットを当て、ホラー漫画家椋(むく)の少年時代の事件を鮮やかに解決します。

という訳で、多様な分野に造詣の深い異色の探偵像をここでは築き上げています。タイトルにもある様に、一応邪馬台国の謎と11歳の少年少女が絡む事件がメインで、ややどっちつかずで中途半端な印象が無きにしも非ずです。
それでもミステリとして又エンターテインメントとして、一定の評価が出来る作品だと思います。強烈なインパクトを残すかと言われると否と答えるしかありませんが、まずまずの佳作ではないでしょうか。

No.1720 5点 僕の殺人計画- やがみ 2023/12/18 22:22
これまで何冊もの大ヒット小説を生み出してきた
編集者・立花のもとに届いた奇妙な原稿。
そこに書かれていたのは、
自身が完全犯罪の被害者として殺されるという衝撃の内容だった!

「命は惜しい。でも、続きを読まずにはいられない」
一人の人間として恐怖心を抱きながらも、
編集者としての圧倒的な好奇心が、立花を死のループへと誘う。
Amazon内容紹介より。

Amazonのレビューと高評価に騙されてはいけません。おそらく多くの人がユーチューバーやがみのファンでしょうから。流石にこのミスにも掠りもしていませんし。正直ホッとしています。本作がランキングしていたら、増々このミスを疑って掛からねばならないところでしたからね。
読みやすいのと時折うん?と思わせる箇所があったので5点としましたが、ミステリとしては3点以下です。これの新品を買うなどもっての外、図書館ででも借りて暇潰しすればそれで十分でしょう。

本格ミステリと言うより倒叙物として評価すべき作品だと思います。最後に何かサプライズがあると信じて読み進めました。しかし無論期待は裏切られ、何の捻りのないままエンディング。とてもではないけれど、ミステリ作家としてのスタートとして褒められたものではありません、ファン以外はね。
プロットの練り方も不十分だし、コロコロと変わる一人称、トリックも全然ダメ、意外性もなく、はっきり言って凡作の域を出ていないです。
蛇足ですが、痴漢のくだりはTVで観たそっくりそのままで、パクリかと思いました。

No.1719 4点 エヴァが目ざめるとき- ピーター・ディキンスン 2023/12/17 22:33
地上百数十階の都市に人々がひしめき、野生動物のほとんどが絶滅した近未来。チンパンジーを保護・研究する学者であるパパとでかけ、事故にあったとき、エヴァは十三歳の、黒く長い髪と青い目の女の子だった。だが二百日を越える昏睡からようやく目ざめたとき、エヴァが鏡のなかに見たものは…。人類衰亡の時代に、ただ一人の「新しい存在」として目ざめてゆく少女を描く、実力派作家の異色のSF。
『BOOK』データベースより。

第三部以外は平坦で退屈。第一に肝心のエヴァの事故の模様と、どのような経緯でチンパンジーにエヴァの脳を移植したのか、そしてその手術の全容が殆ど記されていないのはどういう訳でしょうか。日本の作家ならまずその辺りを入念に記述し、主人公に感情移入し易いようにするはずです。いきなり目覚めた時にはチンパンジーになっていたところから始まるのは問題ないですが、前述の様にその前の段階を説明する必要があると、個人的には思いますね。その事に付いてはAmazonのレビューを見てもどなたも触れられていないのは、禁忌だからですかね。それとも面倒だったから端折ったとか?

まあそれにしても、全体的に何の盛り上がりもなく、さりとてエヴァの心情に鋭く切り込む事もなく、私の感情を揺さぶる要素が全くありませんでした。おそらく私の読み込みが足りないせいもあるとは思いますが、名作と言われる所以がイマイチ理解できません。どう考えてもそんなに凄い作品だとは思いません。エンターテインメントとしても中途半端だし、学術的に見ても深掘りされていない、子供が読んで喜ぶとはとても思えませんね。

No.1718 7点 夜を歩けば1 ザクロビジョン- あやめゆう 2023/12/16 22:53
地方都市七枷市に暮らす宮村一野は、人の雰囲気を視覚化する異能を持ち、異能者トラブルを処理する事務所で働いている。ある日、ビルから人が落ちるのを目撃。事務所が調査を進めている連続飛び降り事件と関連するとされ、担当することになってしまうが…。現代異能ファンタジー堂々開幕!
『BOOK』データベースより。

まずタイトルが良いですね。夜を歩けば・・・何かが起こるって事なのかな。私自身はお酒を飲まないので、夜街中を歩く機会はあまりないのですが、それでもその空気感は好きなのです。
言ってしまえば、これラノベによくある異能もので、特段風変わりな訳ではないですが、ミステリ寄りなのが異色なのかも知れません。何しろ連続飛び降り事件ですからね。そして主人公を始めその仲間達がアルバイト探偵と云うのもちょっとばかり変わり種です。
私と感性が合っているのか、文章が上手いとかではなく、その表現力が豊かで心理描写も情景もありありと目の前に浮かんでくるのです。

派手なアクションやバトルはありません。しかし、プロットの妙や伏線の張り方、犯人を追い詰めていく緊迫感など見どころ満載です。個人的には、女子高生石本さん、石本花梨(いしもとかりん)が可愛いんですが、普通っぽいところが何とも言えず好感が持てました。本作の魅力の半分位を背負っていると言っても過言ではありますまい。

No.1717 5点 パパはビリー・ズ・キックを捕まえられない- ジャン・ヴォートラン 2023/12/12 22:50
パリ効外の団地で、結婚式をあげたばかりの花嫁が射殺される。純白のウエディングトレスの胸を真っ赤に染めた花嫁が握りしめていたのは一枚の紙切れ。そこにはこう書かれてあった。「ネエちゃん、おまえの命はもらったぜ」。シャポー刑事はその下に記された署名を見て愕然とする。ビリー・ズ・キック。それは彼が娘のために作った「おはなし」の主人公ではないか。続けてまた一人、女性が殺される。そして死体のそばにはビリー・ズ・キックの文字が…。スーパー刑事を夢見るシャポー、売春をするその妻、覗き魔の少女、精神分裂病の元教師。息のつまるような団地生活を呪う住人たちは、動機なき連続殺人に興奮するが、やがて事件は驚くべき展開を見せはじめ、衝撃的な結末へ向かって突き進んでゆく。
『BOOK』データベースより。

うーん、面白いとも詰まらないとも言えない、微妙なところ。読み終えた時点で3点にしようかと思いました。次から次へと現れる登場人物、数人を除いて没個性で誰が誰だか分からない、まるで脚本の様な淡々として抑揚のない文章、衝撃の展開でも結末でもないストーリー、フランス式のロマンノワール。全てが自分には合わないと感じました。
しかし、訳者あとがきを読んで少し考え直しました。悔しいけれど言いたい事は良く分かる、そう思えば確かにそんな気もするというね。

原文は何だか起こった事象のみを描写している様にしか思えませんが、翻訳は悪くないです。それにプラスして誰も彼もがイカレている、頭のねじが緩んでいる感じで、ロマンと言うよりダメな大人達の色んなタイプを描いており、ちょっと変わった意味での脱力系とでも形容させる点が、まあ評価出来るかなと。

No.1716 7点 しおかぜ市一家殺害事件あるいは迷宮牢の殺人- 早坂吝 2023/12/09 22:43
  女名探偵の死宮遊歩は迷宮牢で目を覚ます。姿を見せないゲームマスターは「六つの迷宮入り凶悪事件の犯人を集めた。各人に与えられた武器で殺し合い、生き残った一人のみが解放される」と言うが、ここにいるのは七人の男女。全員が「自分は潔白だ」と言い張るなか、一人また一人と殺害されてゆく。生きてここを出られるのは誰なのか? そしてゲームマスターの目的は?
Amazon内容紹介より。

しおかぜ市一家殺害事件が7、5点。迷宮牢の殺人が5点で、均して6、25点。ですが、終盤の怒涛の急展開が見事過ぎて、評点を大きく押し上げました。とは言え、8点はちょっとと躊躇する気持ちが何となくあり、7点に抑えました。それにしても、あるサイトによると『このミス』では37位だそうじゃないですか、あり得ませんね。これだから『このミス』のランクは当てになりません。何しろいくら久しぶりだとは言っても『鵼の碑』が2位ですからねえ。私も一応7点付けましたけどシリーズ初期の五作目までと比較すると、その出来の差は歴然としていますし。いくら何でも2位は上位過ぎでしょう。

前置きが長くなりましたが、本作は鬼畜の如き所業から始まり、緻密な論理展開と地道な警察の捜査の結晶での解決で幕を閉じるという、まさに本格の名に恥じない傑作と思います。ただ、迷宮牢の件がやや緊迫感に欠け、何が目的なのか理解しづらいのが難点ですかね。女名探偵死宮遊歩と合気道の達人武智玄才の対決は読み応えがありましたけど。このシーンは好きですね、個人的に。

No.1715 6点 ステーションの奥の奥- 山口雅也 2023/12/07 22:49
小学六年生の陽太は吸血鬼に憧れていること以外はごく普通の小学生。そんな陽太には一風変わった叔父がいる。名前は夜之介。陽太の家の屋根裏部屋に居候している物書きだ。そんな叔父と甥が、ある日テレビで「東京駅」が大改築されることを知り、夏休みの自由研究のテーマに選ぶことになる。取材のためさっそく「東京駅」に向かったふたりだったが、迷宮のような駅構内の霊安室で無残な死体を発見してしまう!さらに、その日の夜中、宿泊していた東京ステーション・ホテルの夜之介叔父の部屋で密室殺人事件が発生!しかも叔父の姿は消失していた。連続殺人事件なのだろうか?夜之介叔父はいったい?陽太は名探偵志望の級友留美花と、事件の謎を解くべく奔走する…。
『BOOK』データベースより。

面白かったですよ。ミステリーランド叢書の一冊ですが、それにしては小学六年生の男女二人が大人びて見えますが。ジュブナイルとは言え、そこは「キッド・ピストルズシリーズ」の作者だけあって、一筋縄では行きません。猟奇殺人に密室と、大人が読んでも十分納得の行く内容だと思います。まあ、ガチガチの本格ミステリを期待すると、拍子抜けするかもしれませんが。

それにしても、流石に伏線は張り巡らされていて、後で考えるとああそうだったのかと思わず膝を叩く場面も多くありました。しかし、真っ当なミステリではないので、好き嫌いが分かれる作品ではあるでしょうね。何だか歯切れの悪い感想になってしまいましたが、読めばその訳も分かると思います。何か書こうにも即ネタバレになる可能性が高いですからね。

No.1714 6点 深泥丘奇談・続々- 綾辻行人 2023/12/04 22:32
さまざまな怪異が日常に潜む、“もうひとつの京都”―妖しい神社の「奇面祭」、「減らない謎」の不可解、自宅に見つかる秘密の地下室、深夜のプールで迫りくる異形の影、十二年に一度の「ねこしずめ」の日…恐怖と忘却の繰り返しの果てに、何が「私」を待ち受けるのか?本格ミステリの旗手が新境地に挑んだ無類の奇想怪談連作、ここに終幕。
『BOOK』データベースより。

ホラーと言うか独特な世界観を持った、不可思議な怪談に近い連作短編集。
前二作同様、所謂信頼できない語り手であるミステリ作家の「私」が主人公で、頻繁に眩暈を起こしたり、「のような気がする」が決まり文句となっていることからも分かるように、記憶にいささかの問題を抱えた「私」。この人は綾辻の分身であるようにも思えるし、全くの別人のようにも思えます。その辺りを曖昧にする事で現実と非現実の狭間を行き交う物語に仕上げています。ですので、一般的なホラーとは一線を画している気がします。それに加えて、京都という「架空」の土地、土壌がそれらしい雰囲気を醸し出すのに一役買っています。

今回もちょっと怪しげなうぐいす色の眼帯を左目に付けた精神科医の石倉と、同じく深泥ヶ丘病院に勤め、左手首に分厚い包帯を巻いた看護師の咲谷も健在で、怪しさに拍車を掛けています。そして最後に咲谷の秘密が・・・。
印象深いのは本格推理作家としての一面を見せる『猫密室』。本格ミステリの短編を依頼された主人公が、そのプロットやトリック、犯人像等を練るシーンはこれまでにない種類のものです。そして最後の『ねこしずめ』は言ってみれば言葉遊びの趣向で驚かせてくれます。その凄まじい猫の姿は読者の想像力を逞しくさせて、まるで目の前で起こっている様な感覚を呼び覚まします。

No.1713 7点 冬のスフィンクス- 飛鳥部勝則 2023/12/02 22:27
眠りに就く前に絵画を見ると、その中の世界に入り込める男が、夢の中で遭遇した連続殺人の顛末は。これは夢か現か――幾重もの〈夢〉と〈探偵小説〉とがせめぎ合い、読者を幻惑する異端の書。鮎川賞作家の書き下ろし。
Amazon内容紹介より。

私は本作を幻想ミステリとは捉えておらず、「まとも」な本格ミステリだと思っています。それは著者が所詮ミステリとは飽くまでフィクションであり作り物だし、全ての鍵はその作者が握っているというスタンスを、ここでは取っていると思うからです。結局、夢も現実も同じ事で、書かれてしまえばどこまでも小説なのです。
とは言え、この物語に関しては、例えば竹本健治の『匣の中の失楽』の様な酩酊感は存在しません。夢と現実が交錯するのは確かですが、どちらも足が地に付いているので、浮遊する様な感覚はありません。

そんな中で亜久直人の扱いが気の毒に思います。折角の探偵役が犯罪を際立たせる存在として機能しているに過ぎないのは、何とも惜しまれます。探偵さえも絶対ではないとする飛鳥部の異端的な思考が、アリかナシか、難しいところですね。それは夢の中だから良いんじゃないのかと断定してしまえば、先に述べた私の意見は却下されることになりますが。

それはそうと、飛鳥部勝則は今のところ私にとってハズレがありません。長編を全制覇したいと考えています。なかなか入手し難い作品が多いですが、何とかしたいですね。ハマっていますので、いつかプロフィールの好きな作家欄に名を連ねられると良いなと思っています。

No.1712 7点 仮面幻双曲- 大山誠一郎 2023/11/29 22:33
時は戦後まもなく。ある地方都市での出来事。占部製糸は紡績会社としては名の売れた企業だった。占部製糸では、双子がトップにつくと栄えるという歴史があり、社長は、かつて仲違いをした弟の双子の息子たちに会社を継がせた。しかし、その双子の兄弟は、あることから諍いを起こし、弟は家を出た。弟は東京で整形手術を受け、行方をくらませた。そして、その弟から兄への殺人予告が届く。社長である兄からボディーガードを依頼された川宮兄妹だったが、寝ずの番に就いたその夜に兄は殺されてしまった。弟が殺したのか……。容疑者にはアリバイがあり、捜査は遅々として進まない。そして、第二の殺人が起こった。
Amazon内容紹介より。

双子トリックを限界まで駆使した、パズラーの傑作だと思います。一方で疵の多い、それでいて面白ポイントも多いという厄介な作品でもあります。
第一第二の事件が起こって、過去にも何やら遺恨が色々ありそうな雰囲気があり、なかなか謎めいている割りには、読み進める程に何だか単純そうな事件という印象が残るのは、小説としてはかなり損をしている気がします。書き様によってはもっとサスペンスフルに描けたのになあと、そこは残念に思いました。

その辺りと特に第二の殺人事件に於ける瑕疵を改稿された文庫版で修正されていれば、更に輝きを増したのではないでしょうか。自分が読んだのは単行本の方だったので、文庫本を読むべきだったかと、若干後悔しています。それでも素材としては一級品だと思うので、この点数にしました。ハウダニット、フーダニットとしては完璧だけに、大きな傷が目立ってしまい、読み手によってはあり得ないと思わせてしまうところが、如何にも悔やまれますね。

No.1711 6点 牛の首- 小松左京 2023/11/28 22:47
「あんな恐ろしい話はきいたことがない」と皆が口々に言いながらも、誰も肝心の内容を教えてくれない怪談「牛の首」。一体何がそんなに恐ろしいのかと躍起になって尋ね回った私は、話の出所である作家を突き止めるが――。話を聞くと必ず不幸が訪れると言われ、都市伝説としても未だ語り継がれる名作「牛の首」のほか、「白い部屋」「安置所の碁打ち」など、恐ろしくも味わい深い作品を厳選して収録した珠玉のホラー短編集。
Amazon内容紹介より。

SF小説の巨匠小松左京のホラー短編集。
一概にホラーと言っても、ジャンルは多岐に亘ります。怪談、不条理、SF、都市伝説、寓話、パニック等々。作者の抽斗の多さがこれだけでも分かります。まだまだ他にも書籍に纏められていないものもあるらしく、SF作家のイメージを払拭されます。『日本沈没』や『復活の日』すら読んでいないと言うか、そもそも初小松左京な訳で、私の感想など当てにはなりませんけどね。

収められている短編、ショートショート全て佳作の範疇に入るもので、どれが頭抜けて素晴らしいとも言えません。敢えて挙げれば、最初の『ツウ・ペア』が手が込んでいて、ミステリ的趣向もあり一番好みですかね。他に表題作はそう来たかと思いました。『空飛ぶ窓』は牧歌的で何とも言えない後味が良いですね。
全体的に衝撃の結末とはならず、どちらかと言うと洒落の効いたオチの付いた作品がほとんどで、怖さの点ではそれ程でもなかったのがやや拍子抜け、しかしそれが持ち味とも言えそうです。

No.1710 5点 赤き死の炎馬- 霞流一 2023/11/25 22:34
奇蹟や怪奇現象が真実であるか否かを鑑定する「奇蹟鑑定人」魚間岳士のもとへ、ある依頼がきた。「はぐれ平家と首のない馬」という不気味な伝説の残された岡山県のとある田舎町の旅館で、テレポーテーション(瞬間移動)としか考えられない怪異現象が起きたのだ。ところが調査をつづける彼は、不可思議な連続殺人に巻き込まれてしまう。密室のポルターガイスト現象、足跡のない全裸死体…。
『BOOK』データベースより。

相変わらず読み難い。相性が悪いのか文章が下手なのか分かりませんが、油断すると内容が全く頭に入ってこない現象が度々起こりました。冒頭のテレポーテーションの謎は結構いい感じでしたし、その後の展開に期待が持てるなとは思いました。結局その期待は儚く消えましたが。

リアリティのなさはバカミスの特徴でしょう。しかし、本作は余りにツッコミどころが多すぎて本当に馬鹿馬鹿しくなりました。発想としてはアリかも知れませんが、どうしてもそんな訳ないだろうと思えてきます。度が過ぎたバカトリックは白けるだけで、苦笑しか生まれません。そんな作品ながら、事件の背後には色んな裏事情が絡み合っており、その辺りの因果関係はよく描かれていると思います。その点を考慮して若干の評価がアップした私の心情を察していただきたい。

No.1709 7点 狂乱家族日記 拾弐さつめ- 日日日 2023/11/22 22:26
驚愕の展開となった「世界会議」が終了し、大日本帝国は新たに帝位に就いた不解宮の「正義」の下、急激に変わりつつあった。乱崎家も、凰火が超常現象対策局に復帰し、凶華様も働き始める!?など、家族それぞれが新しい世の中での生き方を模索していた。そんな中、蘇った黄桜乱命は、排除されていく「悪」を結集し帝都の正夢町に巨大カジノを作りあげ、不解宮の「正義」に対して真っ向から反旗を翻すのだった!!新エピソード「裏社会編」開幕。
『BOOK』データベースより。

約一年ぶりの拾弐さつめ。記憶の問題といつもより長尺の為、若干の不安を抱きながらの読書となりました。新たな出発点となるので、これまでのキャラを交えつつ新キャラも少々登場しますが、読み進めるのに支障はありませんでした。と言うか、すぐに物語にのめり込んでいく事が出来、久しぶりに血沸き肉躍る戦いの連続に好感触です。かつて勝負の世界に身を置いていた私(今ではただのおっさん)としては、この様な命懸けの博打は願ってもない展開となりました。

今回は実直で誰にでも丁寧語で話す、メガネが特徴的(それしかない)な父親凰火と、あまり目立たなかった感のある長男でオカマの銀夏が主役です。
中盤で活躍するのは凰火で、どこまであるのかイマイチ掴めなかった戦闘力を遺憾なく発揮し、囚われた凶華を取り戻すため本気を出します。今までで一番カッコよかった、そして見たかった父親の戦いを存分に堪能出来ます。
そして終盤は銀夏の出番で、あとがきにも書かれている様に、これまで持て余していた彼の扱い方を漸く見出すことが出来たらしく、こちらは頭脳を駆使した作戦で、カジノ最大の敵に挑みます。千花との微妙な関係性や銀夏の出自も見逃せません。

No.1708 4点 町でいちばんの美女- チャールズ・ブコウスキー 2023/11/19 22:30
酔っぱらうのが私の仕事だった。救いのない日々、私は悲しみの中に溺れながら性愛に耽っていた。倦怠や愚劣さから免れるために。私にとっての生とは、なにものも求めないことなのだ。卑猥で好色で下品な売女どもと酒を飲んで○○○○する、カリフォルニア1の狂人作家……それが私である。バーで、路地で、競馬場で絡まる淫靡な視線と刹那的な愛。伝説となったカルト作家の名短編集!
Amazon内容紹介より。

酒と女と競馬が大好きなアメリカの無頼派作家ブコウスキーの自伝的短編集。
半分以上が自身が主人公の自伝的短編であり、作風はほぼ同じでストーリー性の全くないのが特徴です。内容は先に挙げた、酒に溺れ女と行為に及び、たまに競馬場での馬券の買い方等を扱った作品ばかりです。遠慮会釈なく描くというより書く、書きたい事を兎に角書くのがこの人のスタイルと言えるでしょう。特に下ネタのストレートな表現多し。どこが面白いのかAmazonでは結構好評で、満点を付けているレビュアーの心境がよく理解できませんね。まあマンネリズムが好きな人もいますから・・・世の中分からないものです。

個人的に『15センチ』は凄いと思いました。これは昭和初期の変格探偵小説と呼ばれたものに属する短編で、ひと際目立っており、これだけでちょっと救われた気がしたものです。それと『卍』は奇想とオチがこの作品群の中で毛色が全く違ったものとして印象に残りました。あと『気力調整機』辺りが発想が面白かったですかね。それ位です。
こんなの読むのは余程の物好きだと思いますよ、本当に。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1767件
採点の多い作家(TOP10)
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