皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1361 | 7点 | イリーガル・エイリアン- ロバート・J・ソウヤー | 2021/10/06 23:21 |
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人類は初めてエイリアンと遭遇した。四光年あまり彼方のアルファケンタウリに住むトソク族が地球に飛来したのである。ファーストコンタクトは順調に進むが、思いもよらぬ事件が起きた。トソク族の滞在する施設で、地球人の惨殺死体が発見されたのだ。片脚を切断し、胴体を切り裂き、死体の一部を持ち去るという残虐な手口だった。しかも、逮捕された容疑者はエイリアン…世界が注目するなか、前代未聞の裁判が始まる。
『BOOK』データベースより。 エイリアンとのファースト・コンタクトというSFと猟奇的な殺人事件の法廷小説の両方を兼ね備えた、贅沢な一冊。エイリアンが友好的で、それ程ハードではありませんし、トーンは明るめで緊迫感がやや欠如している気もします。しかしその裁判の様子は本格的であり、色物感は全く感じません。検事補と弁護士との対決は本作の最大の見せ場でかなりの盛り上がりを見せます。 一方殺人事件に関してはフーダニットとホワイダニットが謎の中心で、一捻りしています。ただ残念なのはその動機ですかね。これに関しては想定外と云うほどではありませんでした。 トソク族の外見や各器官に関する記述にはなるほどと思いました。そこにはエイリアンと人間との共通点と相違点に対する作者の捉え方が垣間見えて、興味深く読めました。そして時折SF小説的で鋭い考察を覗かせている辺りは流石です。 優れたSFでありミステリでもあります。 |
No.1360 | 6点 | 張り込み姫- 垣根涼介 | 2021/10/03 22:58 |
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「一生の仕事なんて、ありえないんじゃないんですか?」変わり続ける時代の中で、リストラ面接官の村上真介が新たにターゲットとするのは―英会話スクール講師、旅行代理店の営業マン、自動車の整備士、そして老舗出版社のゴシップ誌記者。ぎりぎりの心で働く人たちの本音と向き合ううちに、初めて真介自身の気持ちにも変化が訪れ…仕事の意味を再構築する、大人気お仕事小説シリーズ第3弾。
『BOOK』データベースより。 正にプロの仕事ですね。そつがないです。適度な感動と人間ドラマ、キャラの親しみやすさなどは流石の一言です。表題作よりも個人的に『みんなの力』や『やどかりの人生』の方が面白かったですね。仕事に対する被面接者のスタンスや様々な業種の在りようを通して、社会問題にも触れたりして勉強にもなります。 何と言っても本シリーズは面接官の村上と被面接者との対決が見どころなのですが、それよりもそれぞれの人生を背負って己の進路をどう選択していくのかという、社会の片隅で生きている被面接者のリストラに対する真摯な姿勢が生々しく描かれて好感が持てました。 又、全編ちょっとしたサプライズがあり、物語にスパイスを加えていてその意味でも期待を裏切りません。ワンパターンになりがちな素材を上手く料理して、読者を飽きさせないサービス精神に溢れた良作ではないかと思います。とにかく読ませますが、どうしても予定調和に終わってしまう点はやむを得ないでしょう。 |
No.1359 | 7点 | 第八の探偵- アレックス・パヴェージ | 2021/09/30 23:31 |
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独自の理論に基づいて、探偵小説黄金時代に一冊の短篇集『ホワイトの殺人事件集』を刊行し、その後、故郷から離れて小島に隠棲する作家グラント・マカリスター。彼のもとを訪れた編集者ジュリアは短篇集の復刊を持ちかける。ふたりは収録作をひとつひとつ読み返し、議論を交わしていくのだが……
フーダニット、不可能犯罪、孤島で発見された十人の死体──七つの短篇推理小説が作中作として織り込まれた、破格のミステリ Amazon内容紹介より。 突出した傑作ではなくてもかなりの力作であることは間違いないと思います。解説の千街晶之が書いているように、日本の新本格を想起される方もおられるはず。新本格ファンには持って来いの一冊かも知れません。シンプルなのに凝った構成が光る作品です。作中作という響きに思わず反応してしまう私などは、かなり楽しめました。 ジュリアが七つの短編の矛盾をついて行くにつれ、グラントの秘密が薄皮を剥ぐ様に暴かれて最後には遂に驚愕の事実に辿り着くという物語。 作中作は出来不出来があり、ちょっとどうかなと思うものも含まれていますが、それぞれ何とも後味の悪い余韻を残したり反転があったり、良い意味で唸らされます。海外の作品でこれだけ本格らしい本格物は久しぶりに読んだ気がします。 |
No.1358 | 7点 | 男爵最後の事件- 太田忠司 | 2021/09/26 23:25 |
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〈この中の誰かが私を殺す——〉天才的推理で知られる“男爵”こと桐原は主催の晩餐会でそう宣告した。招かれた客は作家探偵霞田志郎をはじめとする六人の男女。彼らには男爵を殺す「動機」があった。翌日、招待客の一人が毒物で急死。他殺なのか?冷徹な頭脳が何かを企んでいるのか? やがて、数日前に霞田に持ち込まれた不審な火災と桐原を繋ぐ線が浮上した時、悪魔のごとき計画が明らかに……。事件と探偵がいかに関わるべきか、対立し続けた男爵と霞田。二人の対決に、驚愕の結末が!
Amazon内容紹介より。 太田作品はそこそこ面白く安心して読める反面、突き抜けたものが無いのがいつものパターン。しかし本作はかなりキテます。序盤は典型的な館ミステリかと思わせておいて、実はそうでもなかったみたいな感じです。シリーズを通して読んでいないので何とも言えませんが、兎に角男爵と呼ばれる桐原がなかなか魅力的な存在です。彼は元刑事であり名探偵で、言わば霞田志郎のライバル的存在のようですね。 刑事と共に探偵が行動すると云うのはまだしも、その妹まで捜査に参加するのは如何なものかと思ったりもします。まあしかし、そこは妹の千鶴目線で描かれているので致し方なしでしょうか。 驚くような凄いといったトリックとかはありません。それでもそれを補うストーリーテラーぶりを発揮し、優れたプロットで読ませ、特に最終盤に明かされる真実が読む者の心を揺さぶります。少なくとも私はこの結末と作者の底力には平伏するしかありませんでした。本格ミステリとしてとても良作だと思います。シリーズ最終作としてエピローグにもなるほどと感じ入りました。 |
No.1357 | 5点 | 天を映す早瀬- S・J・ローザン | 2021/09/24 23:00 |
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ニューヨークの私立探偵リディアと相棒のビルは、仕事で香港を訪れていた。依頼されたのは、形見の宝石を故人の孫である少年に渡すだけの簡単な仕事。初めての海外に、リディアは興奮を隠せない。だが、たどり着いた少年の家は何者かに荒らされ、少年は誘拐されていた。銃も持てず、探偵免許も通用しない異国の地で、ふたりが巻きこまれた事件の結末は?人気シリーズ第7弾。
『BOOK』データベースより。 チャーハンが食べたくなります。それにしても何故家で作るチャーハンはどう料理しても店の味が出せないんでしょう。冷凍食品も色々試しましたが、どれも本格的なものではなく。「家でも喰えます」ってCMで言ってるのもやっぱり店とは違います。という訳で、本作余計な情景描写や説明文が多すぎて、いささか間延びした感が否めません。それらの描写が私の心には響かず、印象に残っているのは先に述べた食事シーンのみでした。 さてこれは一般的な誘拐物とは違って、緊迫感が圧倒的に足りない感じがします。そして明らかになる真相には拍子抜けでした。最初はなかなか面白そうな謎が提示されていて、良い感じかと思いきや先細りしていくストーリーにはがっかりです。 一応ハードボイルドに属するらしいですが、かなりソフトですね。今回はリディアが主役の為余計そう感じるのかも知れませんが。もうこのシリーズはいいかな。でも『チャイナタウン』だけは購入済み、どうしましょう。このまま読まずにブックオフ行きですかね。 |
No.1356 | 6点 | 読んではいけない殺人事件- 椙本孝思 | 2021/09/19 23:07 |
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他人の心が読める「読心スマホ」の力を持った美島冬華は、勤務先の後輩で学生時代から仲の良い阿南十萌からストーカー被害の相談を受けた。犯人は社員の瓜野道貴課長だという。同期の沖田悠人の協力もあり、一度は解決の兆しを見た事件だが、冬華が覗いた瓜野の心の中には、決して見逃すことのできない驚愕の「記憶」が映し出されており―!?傑作サイコミステリー!
『BOOK』データベースより。 何ですかこの吸引力満点のタイトルは。禁断の書が出てくるとか、この小説自体を読んだら何かが起こるみたいなメタなやつかと思いましたが、全然違いました。いずれにしても興味を惹かれる事は間違いないですね。 事件のきっかけはストーカーに悩む主人公冬華の後輩。そこから連鎖的に殺人事件が冬華を襲い、何が起こっているのかさっぱり読めません。犯人の意図は?被害者のミッシングリンクはあるのか?など、様々な問題が読者の前に提出され、なかなか事件の全容が掴めずもどかしさで一杯になります。 本格というよりサスペンスの様相を呈していますが、中身はミステリですね。人の心が読めるという設定はありがちですが、ファンタジーに逃げず真面な推理小説にまで持って行ったのは作者の力量だと思います。 ただ終盤どうにも腑に落ちない箇所がありました。書き手の都合でそうなってしまったのか、単なるケアレスミスなのか分かりませんが、それはないんじゃないのと大いに疑問に感じました。まあそれも含めてこの点数なので、十分楽しめたとは言えるでしょう。 |
No.1355 | 4点 | 古本屋探偵の事件簿- 紀田順一郎 | 2021/09/16 23:03 |
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「本の探偵――何でも見つけます」という奇妙な広告を掲げた神田の古書店「書肆・蔵書一代」主人須藤康平。彼の許に持ち込まれる珍書、奇書探求の依頼は、やがて不可思議な事件へと発展していく。著者ならではのユニークな発想で貫かれた本書は、「殺意の収集」等これまで書かれた須藤康平もののすべてを収録した。解説対談=瀬戸川猛資
Amazon内容紹介より。 無味乾燥な文体で面白みのないストーリーが描かれる、古書探偵のビブリオミステリ。冒頭は多少興味を惹かれる部分もありますが、話が進むにつれどんどん煩雑になって行き、無個性の登場人物も誰が誰だか分からないような状況で、内容がちんぷんかんぷんになる作品が多いです。中には意外な真相なのもあります。しかし全体として人間が描けていないし、そもそも主人公の須藤に魅力が感じられません。 プロットも上手くないですね。情景も全く浮かんできませんし。 稀覯本に関しては明治から大正のものがほとんどで、素養のない私には何が何だかって感じでした。文章が下手という訳ではないと思いますが、自然と頭に沁み込んでくる感覚が全然なく、私にとって苦行の連続でした。古本や古書店に興味があるからと言って安易に読むと火傷しますよ。 |
No.1354 | 8点 | 男は旗- 稲見一良 | 2021/09/14 22:48 |
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大海原を制覇し、その優雅な姿は“七つの海の白い女王”と嘔われたシリウス号も今は海に浮かぶホテルとして第二の人生を送っていた。ところが折からの経営難で悪辣なギャングに買収されてしまう羽目に。しかし!シリウス号に集う心優しきアウトローどもが唯々諾々と従う筈はない。買収の当日、朝まだきの海を密かに船は出航した。謎の古地図に記された黄金の在り処を求めて…。
『BOOK』データベースより。 とにかく理屈抜きに面白い。最初から最後まで全てが見どころと言って差し支えありません。冒頭からテンポ良く話が進み、次から次へと新たな登場人物と共にエピソードが生まれ、その度にワクワク感が増幅していきます。短い中にもぎっしりと詰まった充実の内容、時折ハッとさせられるような情感溢れる描写、魅力的なキャラ達の拮抗した活躍ぶりなど、全てに好感が持てました。 ギャングたちとのバトルも盛り上がりますが、一人として死者が出ないところも心優しい作者の姿勢がよく表れていると思います。そしてラスト、オチをきっちり決めてくれています。なるほどそういう事だったのかと、思わず納得です。まだまだ冒険は終わらない、けれど・・・続編が読みたかったですねえ、本当に。 |
No.1353 | 7点 | 六人の嘘つきな大学生- 浅倉秋成 | 2021/09/11 23:07 |
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「犯人」が死んだ時、すべての動機が明かされる――新世代の青春ミステリ!
ここにいる六人全員、とんでもないクズだった。 成長著しいIT企業「スピラリンクス」が初めて行う新卒採用。最終選考に残った六人の就活生に与えられた課題は、一カ月後までにチームを作り上げ、ディスカッションをするというものだった。全員で内定を 得るため、波多野祥吾は五人の学生と交流を深めていくが、本番直前に課題の変更が通達される。それは、「六人の中から一人の内定者を決める」こと。仲間だったはずの六人は、ひとつの席を奪い合うライバルになった。内定を賭けた議論が進む中、六通の封筒が発見される。個人名が書かれた封筒を空けると「●●は人殺し」だという告発文が入っていた。彼ら六人の嘘と罪とは。そして「犯人」の目的とは――。 『教室が、ひとりになるまで』でミステリ界の話題をさらった浅倉秋成が仕掛ける、究極の心理戦。 Amazon内容紹介より。 これは評価が難しいですねえ。そもそもジャンル的にどの範疇に入るのかが分かりません。本格かサスペンスか青春ミステリか、個人的にはイヤミスが最も近いのではないかと思いますが。 序盤は六人の就活生達が最終選考に全員残る為、一致団結してグループディスカッションに臨む辺りまでは、読み易い文章も相まって青春っていいなあとか思いながら呑気に読んでいました。それが突如暗転するのには驚きを隠せませんでしたよ。 就職活動、入社試験、面接、これらのワードは私が世の中で最も嫌いな単語です。そりゃ私だってかつては就活生でしたし、面接も少なからず受けました。孤独な戦いでしたね、思い出すだけでも気分が下がります。それをパワーに変えて事に当たる若者たちには好感を抱きました。 しかし、六人の知られざる過去を暴かれて以降、終始嫌な気分が抜けず不安感を煽られました。ただ少なからず心を揺さぶられた時点で作者の勝ちだったのだと思います。 「犯人」の正体はある理由から推測できました。なのでそれが誰なのかを明かされても驚きませんでした。けれどそれだけで終わらないのが本作の魅力。これ以上は未読の方の興を削ぐことになりそうなので割愛します。 |
No.1352 | 7点 | あと十五秒で死ぬ- 榊林銘 | 2021/09/08 22:59 |
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死神から与えられた余命十五秒をどう使えば、私は自分を撃った犯人を告発し、かつ反撃ができるのか? 一風変わった被害者と犯人の攻防を描く、第12回ミステリーズ! 新人賞佳作入選「十五秒」。犯人当てドラマの最終回、目を離していたラスト十五秒で登場人物が急死した。一体何が起こったのか? 姉からクイズ形式で挑まれた弟の推理を描く「このあと衝撃の結末が」。〈十五秒後に死ぬ〉というトリッキーな状況で起きる四つの事件の真相を、あなたは見破れるか? 期待の新鋭が贈る、デビュー作品集。
Amazon内容紹介より。 お世辞にもリーダビリティが優れているとは言い難いけれど、その突飛な発想には見るべきところがあります。四作とも毛色の違う作品で作者の引き出しの多さを思い知らされました。特に中編の『首が取れても死なない僕らの首無殺人事件』はこれ一作で長編でも書ける充実の内容となっています。白井智之も真っ青なその特異設定は奇妙奇天烈で、しかし適度なユーモアも含んでおり、更に解決編ではこれでもかと本格スピリットに基づいた緻密な推理を披露してくれます。これは文句なく面白い、よくこんなものを考え付いたなと感服します。まあ受け付けない人も居るんでしょうけどね。 『このあと衝撃の結末が』もちょっと煩雑な気もしますが、なるほどの結末で納得。TV番組の推理ドラマの謎に挑戦する視聴者と云う図式で姉が活躍し、なかなかの名探偵ぶりを見せてくれました。 他二編もそれなりの出来で高水準、好感が持てる作品集でした。 |
No.1351 | 8点 | ボーン・コレクター- ジェフリー・ディーヴァー | 2021/09/05 22:50 |
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骨の折れる音に耳を澄ますボーン・コレクター。すぐには殺さない。受けてたつは元刑事ライム、四肢麻痺―首から下は左手の薬指一本しかうごかない。だが、彼の研ぎ澄まされた洞察力がハヤブサのごとく、ニューヨークの街へはばたき、ボーン・コレクターを追いつめる。今世紀最高の“鳥肌本”ついに登場!ユニヴァーサル映画化!「リンカーン・ライム」シリーズ第一弾。
『BOOK』データベースより。 かなり長いですが、一分の隙も無いと言って良い程濃密な世界を構築していると思います。それでいて、よく言われるようにジェットコースターの様にうねりを伴って疾走します。テンポもよく後から考えれば、これだけの短い時間での出来事だったのだという思いと、1ミリも無駄のない実によく練られたミステリではないかという驚きに駆られます。やや都合良く行き過ぎな感は否めませんが、欠点らしきものはそれくらいでしょう。 個人的にはどちらかと言うと主役のライムより刑事ですらないサックス巡査の方に感情移入しました。しかし、ライムは40歳と言う年齢よりもずっと老練しているような印象を受けますね。むしろ老人の域に達している感覚で常に読んでいた気がします。 当初シリーズ化の予定はなかったらしいですが、これだけ連綿と続いているのに人気が落ちないのももっともだと思いますね。まあ今言えるのは、何故もっと早く読まなかったのかという事と、出来る限り本シリーズを読みたいとの思いを強くした事でしょうか。平均評価はあまり高くないですが、取り敢えず一読してみる価値はあると思います。 また、ちょっとしたロマンス要素もあり、本書に花を添えている辺りも憎いですね。 |
No.1350 | 7点 | 腸詰小僧 曽根圭介短編集- 曽根圭介 | 2021/08/31 23:08 |
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シリアルキラー“腸詰小僧”の独占インタビューを成功させた西嶋の元を、被害者の父・楢崎が訪ねてきた。楢崎はすでに社会復帰している腸詰小僧に会わせろと迫る。一方、警察官の弟・敏哉が、妻以外の女性を妊娠させてしまったと泣きついてきた。女は子どもを産んで敏哉と一緒になるの一点張りで言うことを聞かない。追い詰められていく西嶋は――。(表題作)胸くそが悪くなるようなロクデナシだらけ。でも不思議と痛快な全7編!!
Amazon内容紹介より。 『留守番』を除いてどれも二つのストーリーが交差することなく進行し、最後に収束するという構成を採っています。どんでん返しあり反転ありと切れ味鋭いナイフの様なエッジを効かせて、驚かせてくれます。しかし後味はすこぶる悪いです。登場人物のほぼ全員が碌でもない人間ばかりで、良い意味で作者特有の嫌らしさを存分に発揮していると思います。 ただ惜しまれるのは乾いた文体のせいか、必要最小限の情報量のためか、それ程の印象深さを感じない事ですね。何年も内容を覚えている自信がありません、私だけかも知れませんが。その代わり、いつか再読してもある程度の新鮮さを味わえると思います。いずれにしても曽根ワールドを堪能できるのは間違いないですね。 |
No.1349 | 5点 | ミザリー- スティーヴン・キング | 2021/08/29 22:55 |
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雪道の自動車事故で半身不随になった流行作家ポール・シェルダン、元看護婦の愛読者に助けられて一安心したのが大間違い、監禁されて「自分ひとりのために」小説を書けと脅迫されるのだ。キング自身の恐怖心に根ざすファン心理のおぞましさと狂気の極限を描き、作中に別の恐怖小説を挿入した力作。ロブ・ライナー監督で映画化。
『BOOK』データベースより。 読んでも読んでも終わらない、冬の話なのにエンドレスサマーって感じです。やっと読み終わって確かなカタルシスが得られたかと問われれば、否としか言いようがありません。決して面白くない訳でも冗長な事もないですが、あまりに抑揚がなく盛り上がりに欠けるのが致命的ですかね。所々残酷シーンもあったりします、しかしそこをもっと強調しリアルに描いてくれないと。グロさに迫力が無さ過ぎます。それと舞台が固定されている為変化に乏しく、途中で若干ダレますね。ただ、主人公のポールの内面は良く描かれていますし、アニーのサイコパスぶりもねっとりと伝わっては来ます。しかし、例えば『黒い家』と比較するとまだまだ物足りないって気がします。 それでも、これはいつまでも自分の記憶に残りそうな予感はします。キングってそんな感じのばっかなのでしょうかねえ。原作は読んでいませんが、映画『キャリー』があまりに素晴らしかったので、期待ばかりが先走ってしまって辛口の点数になってしまうのは致し方ないかなと思います。 |
No.1348 | 6点 | 狂乱家族日記 四さつめ- 日日日 | 2021/08/24 22:50 |
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凶華が遊園地で大騒動を繰り広げる少し前のこと、雹霞はパチンコ屋の娘さんに「恋」をした。そして、そんなこととは少しも関係なく凶華は母親?に目覚め、千花は転校した学園で番長?となった。乱崎家のそんな平和?な日々の中、死んだはずのDr.ゲボックが現れ、周辺にはしだいに不穏な空気が漂ってくる―。千花の学校が麻薬汚染!?現象対策局に新局長就任!?新展開だった前巻を超える予測不能の『四さつめ』!怒涛のボリュームで登場。
『BOOK』データベースより。 今回の主役は殺人を目的に造られた生物兵器の雹霞であり、準主役が最後に乱崎家に参入した千花です。それぞれ独立したストーリーが微妙に関連を持ってきて、相乗効果を生み大いに盛り上がります。更に新キャラが続々登場し、物語の根幹に関わる案件が勃発します。そんな中凶華だけは相変わらずのマイペースで己を貫き、何事にも動じることはありません。 他にも遂に宇宙クラゲの月香の変身後の姿もさりげなく明かされたり、最も影の薄い感のある銀夏がやはりあまり活躍しなかったり、とにかく内容盛り沢山の乱れぶりであります。 新たな展開を迎えようとしている本シリーズ、次は何をやらかしてくれるのか楽しみでもあり不安でもあります。おそらく次作ではまた違った物語が始まるのだと思われます。 |
No.1347 | 5点 | アンドロイドは電気羊の夢を見るか?- フィリップ・K・ディック | 2021/08/21 22:57 |
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第三次大戦後、放射能灰に汚された地球では生きた動物を持っているかどうかが地位の象徴になっていた。人工の電気羊しかもっていないリックは、本物の動物を手に入れるため、火星から逃亡してきた〈奴隷〉アンドロイド8人の首にかけられた莫大な懸賞金を狙って、決死の狩りをはじめた! 現代SFの旗手ディックが、斬新な着想と華麗な筆致をもちいて描きあげためくるめく白昼夢の世界!
リドリー・スコット監督の名作映画『ブレードランナー』原作。 35年の年を経て描かれる正統続篇『ブレードランナー2049』キャラクター原案。 Amazon内容紹介より。 正直100頁位まで私の心は1ミリも動きませんでした。それ以降漸く脈動し始めたはずの心も激しく興奮することはありませんでした。Amazonでも本サイトでも高評価で名作の名高い本作ですが、それ程までとは思えませんねえ。 色々説明不足な点が多いのがまず気になります。例えば如何に何故アンドロイドが造られたのか、動物を飼う事に何ゆえ人間は夢中になるのか、マーサー教とは何か、特殊者とは?など。そうしたバックボーンが作者の頭の中に存在しているにも拘らず、読者には十全に開示されていない様に思われて仕方ありません。いささか不親切ではないでしょうか。 で、派手な賞金稼ぎの主人公とアンドロイドの戦闘なども見られず、ストーリーに抑揚もあまりなく、何だか読み進める事に対して私の気持ちは拒否反応を示す始末。 まあ私がマイノリティなのは分かっています。そして読解力がないのだという自覚もあります。どうにもハードSFというやつと相性が悪くていけません。この名作を楽しめなかった自分が情けないです。 |
No.1346 | 7点 | 特別編集版 魔法少女育成計画- 遠藤浅蜊 | 2021/08/17 22:44 |
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奇跡のソーシャルゲーム『魔法少女育成計画』によって魔法の力を与えられた十六人の少女たち。ある日、彼女たちに「増えすぎた魔法少女を半分に減らす」という一方的な通告が届き、無慈悲な生き残りレースが幕を開けた……。話題沸騰中の作品が特別編集版となって登場! シリーズ第一作『魔法少女育成計画』に加え、書籍未収録だった中編『スノーホワイト育成計画』を収録。さらに描き下ろしミニポスター、イラストギャラリーなど、お楽しみ要素満載でお届けします!
Amazon内容紹介より。 やや拙い文章を除けば、文句の付け様がないだけに惜しいなと思います。ラノベかくあるべきという見本のような作品と言っても良いでしょう。只管リアル魔法少女達がバトルロワイアルを繰り広げる物語ですが、構成力やそれぞれの個性を生かしたストーリー性は見るべきものがあります。 意外過ぎる展開やその後に訪れる驚きを十分に堪能出来ました。仲間同士の結束、裏切り、反転、必殺技の炸裂など見どころは満載で、単なる戦闘ものに留まらず、ファンタジー要素も有り、決して単調になることなく楽しめます。 文庫本で収録されていなかった2短編はおまけ程度ですが、『スノーホワイト育成計画』はスノーホワイトが武闘派に成長した過程が描かれており、その意味では貴重な作品らしいです、ファンによると。 又、3頭身で描かれたイラストが滅茶可愛くて萌え要素もたっぷり備えています。十六人もの魔法少女達が登場する本作で混乱せずに済む一因ともなっています。楽しみなシリーズがまた一つ増えました。 |
No.1345 | 6点 | 卵をめぐる祖父の戦争- デイヴィッド・ベニオフ | 2021/08/14 23:17 |
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「ナイフの使い手だった私の祖父は十八歳になるまえにドイツ人をふたり殺している」作家のデイヴィッドは、祖父レフの戦時中の体験を取材していた。ナチス包囲下のレニングラードに暮らしていた十七歳のレフは、軍の大佐の娘の結婚式のために卵の調達を命令された。饒舌な青年兵コーリャを相棒に探索を始めることになるが、飢餓のさなか、一体どこに卵が?逆境に抗って逞しく生きる若者達の友情と冒険を描く、傑作長篇。
『BOOK』データベースより。 タイトルがあざといです。読者の目を嫌でも惹きつける、第二次世界大戦中のロシアを舞台に卵1ダースを数日中に持ち帰らなければ、二人の青年が処刑されるという奇妙な物語。そりゃ誰でも興味を惹かれるでしょうよ。しかし、残念ながらこれは戦争の悲惨さを訴えた青春小説であり、決して卵を如何に入手するかというものがメインテーマではありません。又戦争を扱った小説としては残酷なシーンや、生活の為ドイツ兵に身を捧げる少女たちの実態も描かれていますが、そこに生々しさは存在しません。あくまで客観的に物事を捉えつつ冷静に淡々とした筆致で描写されています。ですから、過激さや派手さは持ち合わせていませんね。 一方で主人公レフの女性に対する揺れ動く心情を描いたみたり、下ネタをかなり多用したり、レフとコ―リャの掛け合いがまるで漫才のようであったりと、明るいトーンで物語を進行させています。それでいて、いかに戦争が馬鹿気たものであるかという、訴えるべきツボはきっちり押さえています。 まあどちらかと言えば若者向けで、もう少し早く読めばもっと共感することが出来たかもしれません。とは言え、高々十一年前の作品だから若い頃に読む事は不可能でしたけど。 |
No.1344 | 6点 | 他人の顔- 安部公房 | 2021/08/10 23:03 |
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液体空気の爆発で受けた顔一面の蛭のようなケロイド瘢痕によって自分の顔を喪失してしまった男…失われた妻の愛をとりもどすために“他人の顔”をプラスチック製の仮面に仕立てて、妻を誘惑する男の自己回復のあがき…。特異な着想の中に執拗なまでに精緻な科学的記載をも交えて、“顔”というものに関わって生きている人間という存在の不安定さ、あいまいさを描く長編。
『BOOK』データベースより。 事故で顔を失った男の欝々とした一人語り。文章が回りくどい、そして文学を気取ったラノベの様に比喩表現が如何にも多いです。登場人物が少なく、ストーリー性も殆ど無し、読めば読むほど気分が落ち込みます。最初、「おまえ」とは読者に向けて書かれたものかと思っていましたが、途中でその相手が誰かが分かります。 これだけ自分の顔に固執するのならば、もう少しケロイド状の顔の描写があっても良いのではと思います。矢鱈と蛭の巣という表現が出てきますが、想像力が足りないのかイマイチその顔貌が頭に浮かんできませんでした。仮面がいくら精巧に仕上がっていたとしても、何もかもがそう上手く思い通りになるはずがないと突っ込みたくなる部分が大いにあります。 一般受けするとは思えませんが、Amazonの評価は結構高いです。それでも人に薦めるには勇気がいりますね、これは。最後の映画のシーンでプラス1点。主人公の心情は手に取るように分かりますが、あまりに暗くて底が見えず感情移入しようにもとてもではないけれど無理でした。 |
No.1343 | 6点 | しらみつぶしの時計- 法月綸太郎 | 2021/08/07 23:01 |
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無数の時計が配置された不思議な回廊。その閉ざされた施設の中の時計はすべて、たった一つの例外もなく異なった時を刻んでいた。すなわち、一分ずつ違った、一日二四時間の時を示す一四四〇個の時計―。正確な時間を示すのは、その中のただ一つ。夜とも昼とも知れぬ異様な空間から脱出する条件は、六時間以内にその“正しい時計”を見つけ出すことだった!?神の下すがごとき命題に挑む唯一の武器は論理。奇跡の解答にはいかにして辿り着けるのか。極限まで磨かれた宝石のような謎、謎、謎、!名手が放つ本格ミステリ・コレクション。
『BOOK』データベースより。 表題作以外はこれと言って特筆すべき作品はありません。特に舞台が海外になると、途端に面白くなくなります。翻訳物に造詣が深くハードボイルドも好きな作者ならではとも思いますが、もっと端正なパズラーを書いて欲しいですね。表題作ですが、大体予想通りの展開でした、しかし最後にやってくれました、これには驚きましたね。そっちかよって感じで。 あと印象に残ったのはショートショートの『イン・メモリアル』で、この短さでこの内容、濃厚さ、心に刺さるものがありました。『猫の巡礼』はオチがなくてちょっとがっかりでしたね。平均的な作品が多いしあまり法月の特徴が出ていなかったのは残念です。期待を上回ることはありませんでした。 |
No.1342 | 7点 | 百鬼夜行 陽- 京極夏彦 | 2021/08/04 23:05 |
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悪しきものに取り憑かれてしまった人間たちの現実が崩壊していく…。百鬼夜行長編シリーズのサイドストーリーでもある妖しき作品集、十三年目の第二弾。京極夏彦・画、書下ろし特別附録「百鬼図」収録。
『BOOK』データベースより。 京極堂シリーズのサイドストーリー。痛快とか面白いとかの要素はありません。むしろ全般に暗くジメジメしている感じです。それにしても凄まじい程人間が描かれています。それは言動は勿論、細かな仕草や言葉遣いや心理描写によく表れています。特に駄目な人間の心情がこれでもかと描かれていて、ああ、自分も似たようなものだなと思わせられました。それも様々なタイプの人間像を具に描いており、ある意味厭になって来る位京極らしさを前面に押し出しているので、「あの頃」を思い出しながら読めました。駄目人間を描かせたらこの人の右に出る人はいないのではと思います。 シリーズ本編を読んでいなくても楽しめますが、読んでいれば更に楽しめることは間違いないと思います。しかし、出来る事ならもっと早く読むべきでした。 最終話では若き日の京極堂、榎木津、関口が揃ってほのぼのしています。榎木津の「視える」ようになった幼少期の経緯も知れますよ。 |