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メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2008件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1628 7点 まだ出会っていないあなたへ- 柾木政宗 2023/05/15 22:35
孤独で、後悔ばかりで、将来が見えない。周りが皆敵に見えてしまい、誰も信用できない。自助が声高に叫ばれ、助けを求めることができない。
ーーでもきっと、あなたを見つけてくれる人がいる。

1.経験者採用面接での不合格者が自殺をしてしまった人事課長。
2.デビューしたものの2作目が出ずブラック企業で働く小説家。
3.SNSで「死にたい」と呟き続けるコンビニ店員。
4.取り立て先の子どもに好かれてしまったヤクザ者。
Amazon内容紹介より。

プロローグでまずは惹き込まれました。きっと期待できる作品に違いないとの予感がしました。四つのそれぞれ毛色の違うストーリーは取り立てて物珍しいものではありません。何時か何処かで読んだような気がする物語ばかりです。そして文章も決して上手いとは思えません。しかし、それぞれの登場人物が悩み苦しみ、人間の弱さや脆さ危うさをこれでもかと描き出しています。その意味で、ある種の群像劇と言えるでしょう。どこにでもいる、ヒーローでもヒロインでもない等身大の一人の人間として、当たり前の生活でありながら当たり前ではない物語を紡いています。

私は途中何度も何故わざわざ長編にしたのだろうかと疑問に思いました。これなら短編集で良かったのではないかと。しかし、それが大いなる間違いだと気づくのがあまりに遅かったのです。
第四章でえー!?となり、前に遡って読み返すことになろうとは思ってもいませんでしたよ。するとやはり・・・これ以上はネタバレになりそうなので控えましょう。

メフィスト賞受賞作でデビューし、本サイトでも散々こき下ろされた作者ですが、私は書評の最後に「この人は将来大成するかもしれませんね。それだけの力量を持った人だと思いますよ。」と書きましたが、もしかしたら本作がそれに当たるのかもなんて勝手に思ったりしています。いや、更なる傑作を期待しても良いんじゃないですかね。

No.1627 7点 隠蔽人類- 鳥飼否宇 2023/05/12 22:23
アマゾンの奥地に調査に向かった日本の研究者たちが、未知の民族を発見した。驚くことに、彼らのDNAはホモ・サピエンスとは大きく異なるものだった!別種の人類発見に沸く調査団だったが、研究者の一人が殺される。犯人はどうやら仲間の中にいるようで―!アッと驚く怒涛の展開で読者を翻弄するノンストップ・ミステリーの驚愕の結末とは!?
『BOOK』データベースより。

これは評が割れるでしょうね。相当な異色作な気がします。章ごとに本格ミステリであったりSFであったりファンタジーであったりします。そんな変幻自在な本作、私はかなり楽しませてもらいました。ただ賛否両論あってしかるべき作品だとは思います。一章目が終わり、次に行く段階でもう既に先が読めません。どんどん話が進展して思わぬ方向へと読者を誘います。一体最後にはどこに着地するのかも全く想像できません。

物語の根底には隠蔽人類(新人類)がテーマとして常にあり、そこだけは全くぶれません。次々に視点が変わり、だからと言って混乱するかと思えばさにあらず。一連の流れの様なものが確りしているので、例え作風が変遷して行っても読者を置き去りにすることはありません。
そしてラストは、これまた評価が分かれるところですね。それまでが一体何だったのかと云う位スケールが大きくなり、ある種のカタストロフィが唐突に訪れます。果たしてこれで良かったのかと大いに疑問に思いますが、オチとしてはそれしかなかったのかも知れません。

No.1626 6点 美しき殺人法100- 桐生操 2023/05/10 22:52
奇想天外な殺人法から、残虐きわまりない殺人法まで、人が人を殺すために様々な手法を編み出してきた。この本は、古今東西の殺人史を彩った殺人法の数々をサンプルした、怖るべき百選である。
Amazon内容紹介より。

古代ギリシャ、古代ローマ帝国から始まり、1900年代の主にヨーロッパ、後半は日本の新旧の殺人方法を収集した実話。タイトルは美しきとありますが、殺人に美しいものなどあるはずもなく、残酷な殺人法や拷問がズラリと並んでいます。ただ、毒薬にやや偏っているので、又かとの思いはありました。しかし、中には奇想天外なものもあり、凄まじい人間の変態性や残虐性が浮き彫りになります。

有名どころではエリザベート・バートリや石川五右衛門、阿部定、そして戦国時代の三英傑も登場。家康などは温厚なイメージが強いですが、意外な殺害方法を行っていたらしいです。
私がやられて一番嫌だと思うのはヒル、ですね。これはいけません。それにしてもありとあらゆる酷い殺人法を考え付く人間のさがって一体・・・。

No.1625 5点 魔法少女育成計画 episodes - 遠藤浅蜊 2023/05/08 22:45
『魔法少女育成計画』『魔法少女育成計画restart』で、過酷な死のゲームを繰り広げた魔法少女たち。そんな彼女たちに魅せられた読者の声に応えて、本シリーズの短編集がついに登場! 少女たちのほんわかした日常や、不思議な縁や、やっぱり殺伐とした事件などなど、エピソード山盛りでお届けします! 本編と合わせて楽しんでいただきたい一冊ですが、この本からシリーズを読み始めるというのもアリ、かも!?
Amazon内容紹介より。

前三作に登場した魔法少女に変身する前のありのままの少女達の日常を切り取ったスピンオフ作品集。ちなみに私の一推しのラ・ピュセルの元の姿は少年です。たった一人の男性なので貴重な存在ですが、ただ単に三頭身のイラストが一番可愛いからに過ぎません。三十三人全員登場しています。ただ、チョイ役で出演の魔法少女も多いので、全員と言ってもメインは半数程度ですね。

気になるのはAmazonの異様な評価の高さ。普通に考えればそれ程面白いとは言えないと思います。評価しているのがシリーズのファンのみだと考えるとあり得ない事ではないでしょうが。上にある様に、この本から読み始めるのはやはり無謀だと思います。何故なら本編の肝であるバトルや殺戮が殆どないので物足りない為。
色々なタイプの少女達、ごくごく普通の日常、可愛い女の子が牛丼を好んでいたりして意外な一面を見せる、そんなのほほんとした雰囲気に癒されたい方向けの作品と言えるかも知れません。取り敢えず肩の凝らない短編集です。

No.1624 3点 八百万の死にざま- ローレンス・ブロック 2023/05/06 22:38
アームストロングの店に彼女が入ってきた。キムというコールガールで、足を洗いたいので、代わりにヒモと話をつけてくれないかというのだった。わたしが会ってみると、その男は意外にも優雅な物腰の教養もある黒人で、あっさりとキムの願いを受け入れてくれた。だが、その直後、キムがめった切りにされて殺されているのが見つかった。容疑のかかるヒモの男から、わたしは真犯人探しを依頼されるが…。マンハッタンのアル中探偵マット・スカダー登場。大都会の感傷と虚無を鮮やかな筆致で浮かび上がらせ、私立探偵小説大賞を受賞した話題の大作。
『BOOK』データベースより。

以下はあくまで個人の感想です。これから酷い事を書きますので、気分を害したくない方は御遠慮下さい。
まず無駄に長い割りに肝心の事が描かれていない。この内容ならば真面に書けば半分以下の枚数で収められた筈です。次に文章が下手、訳も下手。これは色々受け止め方があると思いますが、私には中身が頭にすんなり入ってこなかったし、情景も浮かばず、心にささるものもありませんでした。そしてマットと誰かしらの会話文も、相手の人称が彼、彼女で通しているので、最初に注意深く読まないと誰と話しているのか分からなくなりそうです。また主人公が只のアル中。私立探偵マットに魅力が感じれず、ああだこうだと言いながら結局アルコールを断ち切れない情けなさ。ハードボイルド、これでいいのか?と思いますね。更に余計な要素やエピソード(特に禁酒断酒の集会)に多くのページが割かれており、事件そのものがそれらに埋没してしまっています。事件も地味で最後に取って付けた様な解決編がいきなり始まり、何処でどう調べたのか疑問。

まあ気になった点だけでこれだけあります。まだまだ書きたいことはありますが、嫌味になりますのでこの辺でやめます。最後にこれだけは言いたい、例えばこれを国内の無名の作家が書いたとして、日本の読者に果たして受け入れられるのでしょうか、否だと思いますよ。その前に編集者がストップを掛けるでしょう。こんなの読むのだったら、そこら辺に転がっているラノベを読んだ方がまだましです、少なくとも私は。少しだけ人生の無駄遣いをしましたね、そんな気分です。ああ、行き過ぎた感想をお許しください。決して他の高評価の方をどうこう思ってませんから。タイトルだけは良いです。

No.1623 7点 月灯館殺人事件- 北山猛邦 2023/05/01 22:46
「本格ミステリの神」と謳われる作家・天神人(てんじん・ひとし)が統べる館、「月灯館(げっとうかん)」。その館に集いし本格ミステリ作家たちの間で繰り広げられる連続殺人! 悩める作家たちはなぜ/誰に/何のために殺されるのか?
絢爛たる物理トリックの乱舞(パレード)とともに読者を待ち受ける驚愕のラストの一文(フィナーレ)に刮目せよ!!
Amazon内容紹介より。

外連味たっぷりの殺害状況は余りにも人工的過ぎて、これだけ盛り込んで大丈夫なのだろうかと心配しましたが、大丈夫なのでした。実際密室+首なし死体という本格ミステリの王道とも言える状況に加えて舞台がクローズドサークルで、館ものとして大いに作者の本領を発揮していると思います。つまり、得意の物理トリックを幾つも駆使して綱渡りの様な芸当を仕掛けるというもの。現時点でこの人の最高傑作ではないですかね。

ただ特に終盤十分に説明されていない部分があり、その辺りモヤモヤした感じが残りました。更に最終局面での「アレ」は一体何だったのだろうと・・・まさか、そんな馬鹿な事が、いやある筈がないと思いましたが、ネタバレ感想で検索したらやはり私の考えは間違っていませんでした。
これから読む人は細かな伏線や違和感に注意して読み進める事をお勧めします。兎に角悪魔的な作品であり、ある意味アンチミステリと呼んでも良いでしょう。やや不満なのは探偵役が弱いというか、名探偵と言い難いのは確かだと思います。

No.1622 6点 キン肉マン 四次元殺法殺人事件- おぎぬまX 2023/04/29 22:57
『キン肉マン』がミステリ小説になって登場
キン肉マンが失踪した! 重臣・ミートはキン肉マンへのリベンジに燃えるキン骨マンを相棒に捜索へ繰り出す。
しかし、二人は行く先々で超人による殺人事件――すなわち“超人殺人”――に遭遇するのであった!
変形、分身できるのは当たり前で、身体が機械の者、顔面がブラックホールに繋がっている者、時間を止めることができる者、体に付いたトイレに全てを流し込める者……!
様々な異能力を持つ容疑者たちに、物理法則を無視したトリック……!
犯人は誰だ!? そして、キン肉マンはどこだ!?
Amazon内容紹介より。

子供騙しと侮る事なかれ。探偵役はキン肉マンの重臣アレキサンドリア・ミート君。そしておまけでキン骨マンが活躍する超人殺人事件に迫る連作短編集。
本格ミステリとしてはツッコミどころ満載ではありますが、キン肉マンファンにとっては大満足の出来だと思います。登場する超人は有名どころでバッファローマン、ウォーズマン、ペンタゴン、ブラックホール辺り。他にバイクマン、タイルマン、ベンキマン、カナディアンマン、スペシャルマン等。トリックは各超人の特徴を生かしたものばかりで、通常のミステリとは一味違います。原作を読んでいない人には何のことか理解できないケースもあるかも知れません。しかし一応この超人にはこんな能力があるという最低限の説明がなされている為、混乱する事態にはならないでしょう。

まあ数え上げればキリがない程細かい瑕疵はありますが、そこに目を瞑れば本格ミステリとしても十分楽しめます。意外性もありますし、少ない登場人物で完結させている手腕もお見事。決してお薦めはしませんが、暇な方は読んでみるのも一興かと。でも責任は負いかねますのであしからず。

No.1621 6点 成瀬は天下を取りにいく- 宮島未奈 2023/04/28 22:57
2020年、中2の夏休みの始まりに、幼馴染の成瀬がまた変なことを言い出した。
コロナ禍に閉店を控える西武大津店に毎日通い、中継に映るというのだが……。
今日も全力で我が道を突き進む成瀬あかりから、きっと誰もが目を離せない。
発売前から超話題沸騰! 圧巻のデビュー作。
Amazon内容紹介より。

世間で評判になっているので読んでみました。確かに面白いんですが、浅いんだよなあ。はっきり言って成瀬あかりの個性で持っているだけな気もします。無論周りを取り囲む仲間や同級生達にも焦点は当てられています、特に相方とも言える島崎は成瀬の人間離れした性格に引けを取らない対等の立場として描かれています。でもやはり主役は成瀬で、常識に囚われないその個性の強さには誰も付いて行けません。

普通真面目に二百歳まで生きると宣言する少女はいないでしょう。誰も昔は人間が百歳まで生きる事が出来るなんて思っていなかったのだから、二百歳まで生きてもおかしくない。何百人もの人間が二百歳まで生きると言えばそのうち一人くらい生きるかも知れないと、真剣に考えているのが成瀬なのです。
一話目で毎日テレビ番組の『ぐるりんワイド』で閉店を迎える西武大津店にて、中継に映り込むのが夏休みの目標という奇矯な行動で、少しずつ周りに反響を起こしていく過程はなかなかワクワクしました。しかし、それ以降は何だかよく出来たラノベを読んでいる感覚でしたね。
残念ながら私にはそこまで心に刺さる要素がなく、この冒険小説を称賛する程感銘を受けたとは言えませんでした。あ、でも見開きの成瀬あかりのイラストは可愛くはないものの目と眉毛に意志の強さを見た気がしました。マスクをしているから余計にそう思うのかも知れませんが、こんな娘がいたら確かに目立つだろうなと。
余談ですが、大津という土地は何度か訪れましたが、県庁があるだけで他に何もない印象なのは小説にある通りだと思いました。大津市民のみなさん、ごめんなさい。

No.1620 7点 一九三四年冬―乱歩- 久世光彦 2023/04/26 22:43
執筆に行き詰まり、衝動に任せて麻布の長期滞在用ホテルに身を隠した探偵小説界の巨匠・江戸川乱歩。だが、初期の作風に立ち戻った「梔子姫」に着手したとたん、嘘のように筆は走りはじめる。しかし小説に書いた人物が真夜中に姿を現し、無人の隣室からは人の気配が…。耽美的な作風で読書人を虜にした名文家による、虚実入り乱れる妖の迷宮的探偵小説。山本周五郎賞受賞作。
『BOOK』データベースより。

大袈裟に言えば乱歩の全てを知った気になれる作品です。勿論そんな訳はないんですが、少なくとも乱歩に関する人となりや氏の残した業績、人間関係などはよく調べて描かれているのではないかと思います。知り合いでも研究者でもない私がこう書くのもおこがましいですが。禿にコンプレックスを抱くあまり、ある作品の登場人物秀ちゃんを誤植で禿ちゃんとなっていたのに激怒したり、異国の人妻にエロスを感じたりする乱歩は物凄く人間臭く、巨人としての乱歩ではなくあくまで一個人として生々しく描写されているのは評価できる点だと思います。また、渡辺温、小酒井不木、水谷準、横溝正史、永井荷風らの名前が出て来るのもオールドファンには嬉しい所じゃないでしょうか。

そしてそれよりも何よりも作中作の『梔子姫』が素晴らしい。本当に乱歩が描いたようのではないかと錯覚する程、筆致も似ておりこれだけでも高評価を捧げるのに吝かではないと感じます。ここに登場する口の利けない娘に主人公がのめり込んでいく過程はとても共感できますし、エロが苦手な方でも甘美な白昼夢を見る事必至でしょう。憐れで悲しく辛い境遇におかれても、生きたいと願う梔子姫が健気過ぎて泣けてきます。

No.1619 6点 ぢるぢる日記- ねこぢる 2023/04/23 23:11
1998年5月10日、漫画家ちるぢる(本名 橋口千代美)は自宅のトイレのドアノブに巻いたタオルで首を吊っているところを、夫に発見された。ちるぢる31歳の時だったという。若くして自ら命を絶った漫画家は以前からうつ病に冒されていた・・・。

さて本作は本来エッセーに分類されるべき作品だと思いますが、それにしては余りにもその内容が現実離れしたものが多いので、私にはすべてが実際に起こったことだとは思えない、という訳で一応その他にしました。体裁としては子供の絵日記と考えて頂ければよいかと。ただし、絵の方は流石に漫画家だけあって俗に言うへたうまなタッチで、素人には描けそうで描けない感じでしょうか。
ほとんどが作者が体験又は遭遇した出来事を斜め目線で観察しており、その文章は活字ではなく手書きの文字で書かれていて、上手くはないけれど端的ではあります。敢えて感情を抑えて淡々と見たままを描写している気がしました。

とてもではないけれど現実とは思えない一例以下に挙げておきます。
・自宅の前の歩道でピンクのスーツを着たおばさんが、いきなりパンツをおろしてう○こをし始め、旦那を呼びに行っている間にいなくなっていたが、そこには証拠品が残されていた。
・ある日、周りに誰もいない時、空を逆L字型の物体が光りながら浮かんでいた。その何ヵ月か後今度はI字型の物体を目撃した。
・インド製のストロベリーティーを飲んだら、何故か松茸味だった。
・深夜3時ファミレスで、会社員が商談をしていた。彼らはいつ寝ているのだろうと思うが、自分も商談していたという話。

色々あり過ぎな人生だぜ・・・。

No.1618 6点 イリヤの空、UFOの夏 その1- 秋山瑞人 2023/04/22 22:59
「6月24日は全世界的にUFOの日」新聞部部長・水前寺邦博の発言から浅羽直之の「UFOの夏」は始まった。当然のように夏休みはUFOが出るという裏山での張り込みに消費され、その最後の夜、浅羽はせめてもの想い出に学校のプールに忍び込んだ。驚いたことにプールには先客がいて、手首に金属の球体を埋め込んだその少女は「伊里野可奈」と名乗った…。おかしくて切なくて、どこか懐かしい…。ちょっと“変”な現代を舞台に、鬼才・秋山瑞人が描くボーイ・ミーツ・ガールストーリー、登場。
『BOOK』データベースより。

冒頭、主人公の中学二年生浅羽直之とヒロイン伊里野可奈との出会いは非常に幻想的で、初っ端から心を持って行かれます。シリーズ一作目という事で、これは主な登場人物紹介を兼ねた序章という立ち位置と考えて良さそうです。それぞれが個性的でキャラ立ちは万全と考えて間違いないでしょう。これだけ描き分けられる作者の実力は本物で、Amazonでも大変高い評価を得ています。ただ、本作を読んだだけでは、ここから一体何が始まるのか、物語がどう転ぶのか全く読めません。どう考えても次巻へと読者の思考を誘う様に仕向けられているとしか思えませんね。

浅羽はまあどこにでも居そうな役どころではありますが、長身で女にモテるけれど思考回路が常人と違う園原電波新聞部部長の水前寺邦博に引っ張り回されて悪戦苦闘するし、同じ部の特派員(部員)の晶葉は常に強気だが密かに浅羽に恋している様だし、浅羽の妹の夕子はブラコンだし、保健の先生の椎名真由美は曰くありげで怪しい存在だし、ヒロイン伊里野可奈は異星人との関連が見え隠れしているし、伊里野を付け狙う存在も気になるところだし、色々人間関係がややこしいことになっています。これらのキャラの挙動だけで十分面白く、今後の展開に期待していずれ第二弾も読んでみたい気持ちになりました。

No.1617 7点 正義の段階 ヤメ検弁護士・一坊寺陽子- 田村和大 2023/04/20 22:43
ヤメ検弁護士の一坊寺陽子のもとに、同期で同じ福岡で開業している桐生晴仁から依頼が届く。
それは桐生が起こされた懲戒請求の代理人だった。
「桐生晴仁が佐藤昇を殺した」。
懲戒請求の理由に書かれていた人物は桐生の従兄弟で16年前、両親を殺害した罪で収監されている人物だった。
陽子は依頼を引き受けるが・・・・・・。
Amazon内容紹介より。

まず言いたいのはタイトルのネーミングセンスの無さ。『正義の段階』って意味分からんし、一坊寺陽子って・・・。確かに舞台である福岡には一坊寺麻希という現役弁護士がいます。作者も弁護士なので知己かも知れませんし、許可を得て名前を借りたのかも知れません。別に雨宮麻衣でも神凪瞳でも(テキトー)良かったけれど、一坊寺だけは駄目でしょう(ご本人には失礼ですが)。このタイトルを見てよし!これを買って読んでみようと思う人は少ないんじゃないですかね。はっきり言ってダサいもん。

前置きが長くなりましたが、正直私は作者に振り回されましたね。二つの親殺し事件を扱っていますが、二件目の案件がややおざなりにされている気がしました。意外と早い段階で真相が明かされて、その後は一体どこに向かって物語が進んでいるのか判然としません。謎らしきものも少ないし、何だかなあと思っていたら、ラストで見事に背負い投げを喰らいました。まさかこんな事になっていたとはねえ。ここに来て初めて作者の凄みを見せつけられた気分です。ただ細かい事を言うと、そんなに上手く思惑通りに事が運ぶだろうかとは思いました。しかしとにかく読んで良かったですよ。

No.1616 6点 シンデレラ城の殺人- 紺野天龍 2023/04/17 22:44
童話×ミステリ!容疑者は、シンデレラ!?

幼い頃に父親を亡くし、継母や義理の姉たちとともに暮らすシンデレラ。

ある日、シンデレラは怪しい魔法使いに「ガラスの靴」を渡され、言葉巧みに王城で開かれる舞踏会へと誘われる。

お城に到着するやいなや、美しいシンデレラはさっそく王子様の目にとまる。「ガラスの靴では踊りにくかろう」と王子様から靴を借り、シンデレラは王子様とダンスを踊る。

ダンスが終わり、ガラスの靴を返してもらうため王子様の私室へと赴くシンデレラ。
Amazon内容紹介より。

あのシンデレラの一人称で語られる本格ミステリ。地の文も会話文も丁寧語な為、慣れるまでに時間がかかります。会話文かと思いきやシンデレラの心の声だったという現象が、漫然と読んでいたせいか何度も起こりました。
王子殺害事件が城内で起こり、シンデレラにしか成し得なかったと考えられ、即座に法廷劇に移行していきます。裁判には弁護人が存在せず身の潔白を証明するには、シンデレラ自らが推理し犯人を指摘するしかない状況に追い込まれます。

一見単純そうに考えられた事件が、裁判が進むにつれどんどん複雑になっていきます。其処は魔法すら可能な童話の世界なので、それじゃ何でもアリじゃんとか思い始め鼻白んでいましたが、そこはそれアンフェアにならない工夫が凝らされてやや安堵しました。
真相に至る過程はなかなか考えられており、地味ながら合理的解決に持ち込もうとしますが、その都度謎が立ちはだかります。そして、追い詰められたシンデレラは遂に事件の核心を突いて真犯人に迫ります。
手を変え品を変え様々なギミックを駆使して、読者を飽きさせないよう努力している姿勢は伝わってきますが、残念ながらカタルシスを得られるとまではいきませんでした、個人的に、ですよ。読む人が読めばもっと高得点だったかも知れませんね。

No.1615 6点 ジウ 警視庁特殊犯捜査係- 誉田哲也 2023/04/15 22:55
〈ジウ〉サーガ、ここに開幕――。都内の住宅地で人質籠城事件が発生。所轄署や捜査一課をはじめ、門倉美咲、伊崎基子両巡査が所属する警視庁捜査一課特殊犯捜査係も出動した。人質解放へ進展がない中、美咲は差し入れ役として、犯人と人質のもとへ向かうが……!? 籠城事件と未解決児童誘拐事件を結ぶ謎の少年、その背後に蠢く巨大な闇とは?
Amazon内容紹介より。

私は2005年発行のノベルスで読みましたので、その後二度出版された文庫本に記されているⅠの文字はありません。つまり最初の時点ではシリーズ化される予定はなかったのかも知れないとも思えます。しかし、それにしては余りに続編を匂わせる終わり方だったので何とも言えないところですね。

本作は門倉美咲と伊崎基子という二人のヒロインが活躍する警察小説で、まだほんの始まりに過ぎない序章のような小説と言っても良いでしょう。読みどころはフワフワして何を考えているか分からない美咲、怖いもの知らずで向こう見ずな男勝りの基子の対照的な二人のそれぞれのドラマにあるので、言わばお仕事ミステリと捉える事も出来ます。同僚だった美咲は誘拐事件に携わり、基子はSATに招聘されてそれぞれに道を歩みだし、物語はその軌跡を追う様に語られます。個人的にどちらにも感情移入出来ず、それでも面白く読む事は出来ました。グロ描写もそこそこでらしさを見せています。
因みにドラマでは多部未華子と黒木メイサ主演で2011年にテレビ朝日で放映されていました。

No.1614 4点 千葉千波の怪奇日記 化けて出る- 高田崇史 2023/04/12 22:46
永遠の浪人生と思われたぴいくんと慎之介が、大学に合格。学校帰りに居酒屋「ちの利」に通う日々が始まった。ところが、二人が通う国際江戸川大学には恐怖の七不思議、通称「江戸七」と呼ばれる言い伝えが。解決を依頼された、ぴいくんの従弟で、天才高校生の千波くんが怪奇現象に立ち向かう。全5編を収録。
『BOOK』データベースより。

端的ではあるものの、主要登場人物の個性はよく書けていると思います。だからと言って面白くなるとは限らない見本の様な作品。『怪奇日記』とあるように語り手のぴいくんが見聞きした摩訶不思議な現象を従弟の千波くんが合理的に解決して見せるもので、最早パズルとは無関係です。そしてラストには一捻りしてあり、その意味ではまあ面白くない訳ではないけれど・・・と云ったところです。

三話目まではそれなりに納得出来ますが、『箸が転ぶ』はさてここからと云うところで終わり何それって感じで、尻切れトンボも甚だしいし、最後の書下ろし作品『立って飲む』は内容が全然頭に入ってこない凡作だし、これは低評価もやむを得ないですね。
随分前に買ったと記憶している本作、過去に戻って自分に何故買った?と問い掛けたくなりました。

No.1613 6点 UMAハンター馬子〈1〉湖の秘密 - 田中啓文 2023/04/10 22:57
日本でも珍しい「おんびき祭文」の語り部、蘇我家馬子。芸は一流だが、性格、素行に問題あり。弟子のイルカを筆頭に辺りかまわず大阪弁で毒を吐き、傍若無人なことこの上ない「最悪なおばはん」である。そんな馬子がえり好む地方巡業先には、何故かUMAの噂と不老不死の伝説がつきまとう。イルカにも明かされぬ馬子が探る秘密とは何なのか?そして、二人の行く手に必ず現れる謎の男・山野千太郎の目的は?本格伝奇ギャグミステリ、ここに誕生。
『BOOK』データベースより。

本シリーズ2篇の後6年の時を経て復活することになる蘇我家馬子。その際は何故か弟子のイルカとともにこなもん屋をしています。どの様な心境の変化があったのか分かりませんが、作風はまるで違います。しかし、大阪のおばはん馬子のキャラは相変わらずで、その個性の強さで本作の半分は成り立っている感じがします。『こなもんや馬子』では弟子のイルカはあまり目立ちませんでしたが、ここではイルカ目線で描かれていて、馬子の行き過ぎた待遇に耐えながらも師弟の絆を思わせる叙述と少々のギャグが冴えています。

さて本作で取り上げられるUMAはネッシーならぬリュッシー、誰もが知っていて幾多の目撃情報がありながら捕獲されなかったツチノコ、そして狐、と言ってもただのキツネではなく人を化かすと言われる天狐。
どれもいまいちテンポが悪く話が前に進まないのが難点ではありますが、馬子が時折見せるどうでも良い蘊蓄で各UMAを分かり易く解説しており、その意味ではこれまたどうでも良い感じで勉強になります。多くの文献を参考にしたと想像されますし、このジャンルは作者の得意分野なので所謂色物とは一線を画す作品だと思います。
また、それぞれのイラストがあまりにリアルで本格的で、特にツチノコなどは実物を見て描いたのかと目を疑う様な出色な出来でした。

No.1612 7点 止まりだしたら走らない- 品田遊 2023/04/07 23:00
都心から武蔵野の台地を横切り東京を横断する中央線車内を舞台に、
さまざまなヒトたちの個人的な問題をあぶり出す連作短編集。
現代人の共感を呼ぶ、あの人の、私の、誰かの、車内事情。
Amazon内容紹介より。

乾くるみの『イニシエーションラブ』が青春ミステリで登録されているなら、これも同じジャンルで問題ないだろうと考え登録しました。どうせ今後誰も読まないだろうし、少々のことなら見逃されると思うし。
さて本作は中央線車内にて描かれる本筋の間に、同じく電車内や駅のホームを舞台にした短編が挟まれるという、巧妙な構成になっています。短編の方はかなり突っ込んだぶっ飛びな内容のものもあれば、小学生の遠足で動物園に行った時の感想文の幾つかをそのまま載せた他愛のないものや、列車の飛び込み、つまり人身事故、露出狂の機縁など様々な人間模様を描き出しています。

そして肝心の本編で語られるのは、主に東京駅から高尾までの中央線内で交わされる大学生の先輩と後輩の交流。短編も良いけれどこちらの方がやはり長編としてきちんと纏まっていて好感が持てます。特に新渡戸先輩の風変わりな性格や考え方が面白く、かなり楽しませてもらいました。例えば電車内で飲食を許されるのはどこまでなのかという問題。ミンティアはOK、飲料水は人による、おにぎりはどうなのか?ところてんは勿論駄目だが、先輩にはそのボーダーラインが分からないらしい、という妙な感覚の持ち主だったりしてね。
ここで問題になるのは、この作品のどこがミステリなのか、でしょう。それは秘密ですよ、勿論。長編と短編を交互に並べる事によって、ある仕掛けを煙に巻く効果があるのではないのかと、いらぬ邪推をしてしまいました。そこまで計算していたのなら大した作者だと言わざるを得ません。本筋だけ最初から読み返したくなります。

No.1611 6点 生者のポエトリー- 岩井圭也 2023/04/06 22:49
“詩”は人をつよくする――。
トラウマを抱え言葉をうまく発することができない青年・悠平が、急きょ舞台で詩を披露することになり……。(「テレパスくそくらえ」)
最愛の妻を亡くした元気象庁技官・公伸は、喪失の日々のなかで一編の詩に出会う。(「幻の月」)
学習支援教室の指導員・聡美と、ブラジル出身の少女・ジュリアの心を繋いだのは、初めて日本語で挑戦した詩だった。(「あしたになったら」)
……ほか、人生の大切な一歩を踏み出す、その一瞬を鮮やかに描いた全6編。逆境のなかで紡がれた詩が明日を切り拓く、心震わす連作短編集。
Amazon内容紹介より。

老若男女が詩によって何かを掴んだり、救われたりする連作短編集。作風に比してその文章は意外にも淡々としています。その分読み易くはあったのですが、作者の力量からすればもっと情感豊かに描くことも出来たのではないかと思います。それだけが残念でした。

物語としてはどれもさして抑揚がある訳ではないのに、時として急に心揺さぶるシーンが出現したりして、なかなか評価が難しい作品だと言えるでしょう。しかし主人公の心情がよく描かれており、その意味では秀作なのかも知れません。私は詩に関してあまり理解が及ばない事もあり、いまいちピンと来ませんでしたが、上記にある『あしたになったら』の作中の詩にはああ・・・と思わず目が霞む感覚を覚えました。それはジュリアの境遇に同情してしまう己の未だ消えぬ感受性に戸惑う瞬間でもありました。

No.1610 6点 ABO殺人事件- 清水義範 2023/04/04 22:38
表題作が長編で、他短編二作の連作作品集。
いずれも途中までは本格ミステリだけど、最後にSFになるという変わり種です。その中でも特筆すべきはやはり表題作で、様々な趣向がてんこ盛りの読者サービス溢れる佳作だと思います。二人の探偵の推理対決とそれを見守る警部補という図式がなかなか興味深く読めます。所謂多重推理であり、その後のミステリに与えた影響は結構強い気がします。又、警部補も意外にもなかなかの切れ者で、警察の捜査にも一応敬意を表しているのが好ましく感じました。

作中で宇宙のプリンセス的な存在だという探偵事務所の女性と、語り手の探偵との出会いがどんなものだったか分からないのが気になりました。当然シリーズ一作目から読みなさいって事ですが、彼女の不可解さがどうにも頭にこびりついて離れないのが難点でした。
まあ全体的に面白かったと言えるでしょう。合格点です。
尚、クリスティの『ABC殺人事件』のネタバレをしていますので、念のためご承知置きを。

No.1609 8点 忌名の如き贄るもの- 三津田信三 2023/04/01 23:03
「この忌名は、決して他人に教えてはならん……もしも何処かで、何者かに、この忌名で呼ばれても、決して振り向いてはならん」
生名鳴(いななぎ)地方の虫くびり村に伝わる「忌名の儀礼」の最中に起きた殺人事件に名(迷)探偵刀城言耶が挑む。
Amazon内容紹介より。

こういうのに弱いんだよなあ、だからやや甘めの8点でお願いします。
まず第三章までのインパクトが強すぎて、それ以降が霞んでしまうのが何とも悲しいやら嬉しいやら。それまで夢を見ていたのが突然夢から醒めて現実に引き戻される様な感覚とでも言いますか。いずれにせよ妙味に酔い痴れる事が出来ました。
そして第十二章で数々の奇妙な地名や怪異の由来を解き明かす刀城言耶の、本来の姿、第十五章の真相解明と終章は大変読み応えがあり、作者の本領発揮と云ったところでしょう。これぞ本シリーズの面目躍如だと思います。

流石に『首無の如き祟るもの』には及ばないものの、それ以来と言って良い衝撃を受ける作品でした。恒例の迷走する推理も存分に発揮され、翻弄される事必至。そして明かされる真実とは・・・なんとまあ。あ、これ以上は書けませんねえ。

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メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2008件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(30)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
綾辻行人(22)
京極夏彦(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(19)