皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1448 | 8点 | 夜行堂奇譚- 嗣人 | 2022/05/28 23:07 |
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外道箱と血に狂う赤黒い犬、ないはずの右腕を掴む手、皮袋を引きずり徘徊する童殺し、化粧箱を泳ぎ回る異形の魚、ループする隧道(すいどう)…
隻腕の見鬼(けんき)・千早と、オカルト嫌いな県庁生安課・大野木は、骨董屋「夜行堂」店主によって引き合わされ、多発する怪異の解決に挑む。人の情念や想いが、人ならざるものとなり引き起こす、数々の呪いと悲劇。その様を静かに眺める、夜行堂店主の真の目的とは…。SNSで話題の怪異譚、待望の書籍化! Amazon内容紹介より。 今現在Amazonの評点、138の内5点満点が94%、4点が4%です。これはなかなか見ないグラフですよ。因みに私が本書を購入した時は読者が100に僅かに満たない時でしたが、5点が96%でした。この評価をサクラも含めたとして全面的に信用する訳ではありませんが、やはり気になって購読に至りました。確かに面白い。それほど複雑な話はありません、しかし怪異の数々の因縁を暴きそれを解決として一件落着するパターンがほとんどで、不快さが残らない読後感が持ち味です。そして何と言っても人間が描けているのもポイントが高いですね。特に主人公の千早と大野木、そして夜行堂店主の三人の個性が際立っており、その人間模様が一つの読みどころとなっていると思います。 敢えて苦言を呈するなら、各話によって一人称の語り手が変わる為、どこか据わりの悪さを覚えました。そこは全て三人称にした方が良かったのではないかと。ただ、その分心理描写がおろそかになる可能性は否定できませんが。 そして、時系列がバラバラで頭の中で整理する必要が生じること。普通に順序を踏んで進行しても問題なかったのではないかと思いますね。 あとは個人的な感想ですが、結末が呆気なくてあまり印象に残らなかった点でしょうか。私の予感では本作の中で最も象徴的なエピソードを除いて、幻の様に儚く私の記憶から徐々に消え去っていき、その時はまた読まなければいけなくなりそうです。それはそれで幸せな事かも知れませんけどね。 |
No.1447 | 7点 | 三月は深き紅の淵を- 恩田陸 | 2022/05/25 23:02 |
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鮫島巧一は趣味が読書という理由で、会社の会長の別宅に二泊三日の招待を受けた。彼を待ち受けていた好事家たちから聞かされたのは、その屋敷内にあるはずだが、十年以上探しても見つからない稀覯本『三月は深き紅の淵を』の話。たった一人にたった一晩だけ貸すことが許された本をめぐる珠玉のミステリー。
『BOOK』データベースより。 本書を読む切っ掛けとなったのは、先日読んだ『本格ミステリ・ディケイド300』でした。実は『黒と茶の幻想』を読もうと思ったんですが、順序としてこちらを先に読んでおいた方が賢明だと考えた訳です。恩田陸、思えば二作読んだだけで何故か見切りを付けていました。自分にはあまり合わないとのちょっとした誤解からですが、私は間違っていました。やはり読まず嫌いはいけませんね。 兎に角流れるような筆致にグイグイ惹き込まれました。第一章ではミステリのマニア心をくすぐる趣向にやられ、第二章では作者の底知れぬ才能に畏怖を覚え、更にそこはかとない旅情をとことん堪能しました。第三章では生々しい人間関係と悲惨な青春の物語に悲嘆し、第四章ではメタミステリ要素を未完のまま見せつけられました。 これは幻想小説とアンチミステリを掛け合わせたような、異形の作品だと私は思います。確かに中途半端な部分もありますし、次作に繋げるための序章に過ぎないという意見も見逃せません。しかし、プロローグだけでこれだけの作品を描いてしまう恩田陸の底力を本書に見た気がします。確かな実力を持った作家であるのは間違いないと思いました。 |
No.1446 | 6点 | 数字を一つ思い浮かべろ- ジョン・ヴァードン | 2022/05/22 22:31 |
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数字を一つ思い浮かべろ。その奇妙な封書にはそう記されていた。658という数字を思い浮かべた男が同封されていた封筒を開くと、そこにあった数字は「658」!数々の難事件を解決してきた退職刑事に持ち込まれた怪事は、手品めいた謎と奇怪な暗示に彩られた連続殺人に発展する。眩惑的な奇術趣味と謎解きの興趣あふれる華麗なミステリ。
『BOOK』データベースより。 第一部は静、第二部は動、そして第三部は進展と云った具合に明確に色分けされています。それにしてもこれ程の大作とは思いませんでした。勿論それに見合った内容である訳ですが、主人公で元刑事のガーニーとその妻マデリンの、心の交流が結構な分量を占めており、それは要らなかったかなと個人的には思います。数々の謎は物語の進行に従って徐々に解されていき、本格ミステリのお約束の様な最後の最後に関係者を集めて謎解きが行われるというものではありません。その中でもメインとなる658という数字の関するトリックは、納得はいくもののアッと驚く程ではありませんでした。理論的には成立しますが、若干疑問に思う部分も無きにしも非ずです。 本作を読んでいて、いかにもアメリカらしいミステリだなと感じました。映像化すれば、と云うかした方が面白くなりそうです。主にハウダニットに重きを置いている感じもしますが、ホワイもフーもおろそかにされている訳ではありません。全体として良く出来ているとは思いますが、名作傑作の部類に入るとは言い切れませんね。文体もこなれていない印象を受けましたし。 |
No.1445 | 6点 | 真珠郎- 横溝正史 | 2022/05/18 22:32 |
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鬼気せまるような美少年「真珠郎」の持つ鋭い刃物がひらめいた!浅間山麓に謎が霧のように渦巻く。無気味な迫力で描く、怪奇ミステリーの最高傑作。他1編収録。
Amazon内容紹介より。 短めのページ数の中に色々詰め込み過ぎて、あまりスッキリしない読後感と置いてけぼりを喰らった様な孤独感が後に残りました。やや説明不足の感が否めないと思うのは私だけでしょうか。それでも金田一耕助シリーズには見られない幻想味には見るべきものがありそうです。所謂首なし死体ものとはちょっと違う趣向が凝らされており、その意味でも意外性を感じました。 探偵由利麟太郎が登場して初めて、あっと思いました。ノンシリーズだと疑わず読んでいましたので。しかし、折角の名探偵が一向に活躍しないのは如何にも残念です。ラストの真相判明の手法は個人的にあまり好みではありませんし、正直カタルシスも得られませんでした。勝手にハードルを上げてしまい期待外れに終わったのは悔やまれます。横溝の傑作群と比較してしまった私のせいでもありますが。 しかし、思ったよりも本格ミステリ度が高かったのは間違いありません。 |
No.1444 | 8点 | 三人の名探偵のための事件- レオ・ブルース | 2022/05/15 23:07 |
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サーストン家で開かれたウィークエンド・パーティーの夜、突如として起こった密室殺人事件。扉には二重の施錠がなされ、窓から犯人が逃げ出す時間はなかった。早速、村の警官ビーフ巡査部長が捜査を開始するが、翌朝、ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父を彷彿とさせる名探偵たちが次々に登場して…華麗なる名探偵どうしの推理合戦と意外な結末。練り上げられたトリックとパロディ精神、骨太なロジックに支えられた巨匠レオ・ブルースの第一作にして代表作、ついに文庫化!
『BOOK』データベースより。 読み始め、原文を直訳している感じで、文章が硬いと感じました。読み難い訳ではありませんが、もう少し平明で分かり易い翻訳を心掛けて欲しいものだと思いました。ただ、話としては悪くありません。丁度良いタイミングで事件が起こり、窓は一つ開いているものの密室殺人だと判明します。まあ、現在となってはありきたり過ぎる位で、むしろ地味と言えるとは思います。 依頼されてもいないのに三人もの名探偵が次々と現れ、警察を尻目にめいめいに捜査を開始するのを傍観している巡査部長という図式は、余りにも非現実的過ぎてなんだかなあって感じです。しかし、いよいよ探偵達の謎解きが始まると俄かに面白くなります。この趣向、この解決編、この真相、正に良く出来た新本格を読んでいる様な錯覚さえ覚えます。ウィムジイ卿、ポアロ、ブラウン神父をパロった探偵の果たして誰が真相を言い当てるのか、興味津々で読み進められました。しかも三人が三人とも遜色ない推理を披露し、伏線を回収しまくります。所謂多重解決ものの白眉と言っても過言ではないでしょう。 |
No.1443 | 7点 | 本格ミステリ・ディケイド300- 事典・ガイド | 2022/05/12 23:09 |
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ゼロ年代デビュー作家による書き下ろしミニエッセイ。映像からアニメ・コミック、ゲームのゼロ年代を俯瞰するコラム。作家ガイド付き索引。
『BOOK』データベースより。 大変良く出来ました。花丸をあげましょうね。2001年から2010年までの十年間の国内本格ミステリ総決算。 数えてみたら300冊中既読だったのは114冊でした。如何にも中途半端な読者の私でも、タイトルを知っているけれど中身は知らないものや、中には全く聞いたこともないものもあり参考になりました。しかし、だからと言って即これは読みたいと思うような作品はそれ程ありませんでしたね。やはり自分好みの作品にはある程度手を付けていたという事になりそうです。或いは入手困難で読みたいけれど、諦めている作品とかですね。 内容としてはあらすじ半分解説半分って感じでしょうか。これだけの数ですから、どうしても微に入り細を窺つ訳には行かないのはやむを得ないです。それでも十分言いたいことは伝わってきました。勿論ネタバレは皆無です。私は最近になって、例えば「この作品は叙述トリックを使用しています」と書いただけで既にネタバレだと思うようになりました。その意味でも細心の注意が払われています。 これは本格ミステリではないだろうとか、何故これが入っていてあれが入っていないのかとか、あの作家の作品はネームバリューに比して取り上げられすぎじゃないかとか、色々疑問に思うところもありましたが、飽くまで私見ですので仕方ないんでしょう。万人に認められる300冊にするのは至難の業でしょうから。 |
No.1442 | 6点 | 高速ばぁば- 福谷修 | 2022/05/08 23:00 |
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アイドルグループ、ジャージガールのアヤネ、ナナミ、マユコの3人は、ある番組の撮影で廃墟となった老人ホームを訪れる。廃墟に持ち込んだカメラには、とても人間とは思えない速さで走る老婆の姿が映っていた。撮影後、帰宅した3人の周りでは奇怪な現象が続き、身体にも不気味な症状が次々と現れる。恐怖の連鎖を食い止めるため、再び老人ホームを訪れた彼女らを待ち受けていたのは、怨霊の跋扈する想像を絶した地獄だった―。凄惨なる都市伝説ノベル!!
『BOOK』データベースより。 三人のアイドルが廃墟で肝試しをし、そこで怪異に襲われその後も不可解な出来事が連続するという、王道ホラーです。映画のノベライズにしては良く出来ている方だと思います。そこそこ怖くてグロも適度に含有しているし、それなりに臨場感も備えています。また、終始七海目線で描かれていますが、その時々の心情が事細かに描写されていて、三人組の微妙な位置関係も良く分かるように出来ています。 都市伝説を上手く絡めて、実はこの怪異の発端はこんな感じだったのではないかという解釈の元に、過去の事件を要領よく纏めて、程良く奥行きを感じさせる作品となっています。コンパクトながら内容はグッと詰まっている感じで好感が持てます。タイトルから色物扱いされがちかも知れませんが、色眼鏡を外して読んでみるのも一興かと思います。アイドルも色々と大変だなと云うのも分かります。 |
No.1441 | 5点 | 自由研究には向かない殺人- ホリー・ジャクソン | 2022/05/07 22:54 |
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イギリスの小さな町に住むピップは、大学受験の勉強と並行して“自由研究で得られる資格(EPQ)"に取り組んでいた。題材は5年前の少女失踪事件。交際相手の少年が遺体で発見され、警察は彼が少女を殺害して自殺したと発表した。少年と親交があったピップは彼の無実を証明するため、自由研究を隠れ蓑に真相を探る。調査と推理で次々に判明する新事実、二転三転する展開、そして驚きの結末。ひたむきな主人公の姿が胸を打つ、イギリスで大ベストセラーとなった謎解き青春ミステリ!
Amazon内容紹介より。 読み終わった達成感より、やっと終わったかという徒労感の方が強いですね。手を変え品を変えての凝った構成は認めるものの、どうにも面白味がないです。最も惹かれたのはインタビューでの受け答えですが、その度に容疑者に加えていくのが単なる憶測に近いものがあり、所詮素人の調査でそれほどまで真相に迫れるものかと云う疑念も抱かざるを得ませんでした。警察の捜査も杜撰な気がしますしね。過去の事件として描かれているので、詳細は不明ですが。 更に言うと人間が描けていない為、主役の二人以外誰が誰だか分からなくなり、何度も冒頭の登場人物一覧を見返すことになりました。没個性で人間ドラマとしてはまるで機能していないと感じました。最後の真犯人の指摘は非常に唐突な感が強く、何を根拠に判明したのかが理解出来ませんでした。ラストは良い雰囲気の締め方でそこはまあ褒められても良いかなと思います。しかし、これがベストセラーで各ランキングを席巻したとは、私には俄かには信じがたいものがありました。タイトルに惹かれた私が悪かったのでしょうか。どちらかと言うとジュブナイルに近い作風だと思います、いずれにしても私には肌が合いませんでした。 |
No.1440 | 7点 | こなもん屋馬子- 田中啓文 | 2022/05/02 23:04 |
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その店は、大阪のどこかの町にある。仕事に、人生に、さまざまな悩みを抱える人びとが、いかにも「大阪のおばはん」の女店主・蘇我家馬子がつくるたこ焼き、お好み焼き、うどん、ピザ、焼きそば、豚まんなど、絶品「こなもん」料理を口にした途端…神出鬼没の店「馬子屋」を舞台に繰り広げられる、爆笑につぐ爆笑、そして感動と満腹(!?)のB級グルメミステリー!
『BOOK』データベースより。 気分が落ち込んだらこれを読め!必ず笑える事をお約束します。日常の謎から怪奇現象まで大阪のおばはん馬子が、サクッと事件と悩みを解決する連作短編集。と言ってもミステリはほんの味付け程度で、様々な粉もんを通じて客と馬子との心の触れ合いを描くのが本筋。彼女は大阪のどこにでも居そうな肥えて爆発したような頭をし、虎の顔のTシャツなんかを着こなした大阪文化の象徴のような女で、暴言や暴力も遠慮しません。しかし、彼女の作る料理の数々は一見の客を唸らせる逸品ばかりなのに、作り方は至ってシンプルという不思議かつ神秘的な腕の持ち主であります。それぞれの登場人物の心の呟きで、どれ程馬子の料理が素晴らしいかを語り尽くします。 流石に大阪出身の田中啓文、ギャグのセンスも抜群で中でも大阪では『ありがとう 浜村淳です』で有名な浜村淳ならぬ『おめでとう 浜崎純です』の浜崎純も登場したり、大笑いさせてもらいました。特に第一話は必見で何度笑った事か。勿論駄洒落も健在ですよ。それだけではありません、各短編の完成度が異様に高く人情話としても十分楽しめます。 個人的に特にお気に入りは『焼きそばのケン』で、流しとラッパーの対決が素晴らしいです。 |
No.1439 | 5点 | 流行作家殺人事件- 赤川次郎 | 2022/04/30 23:01 |
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超ベストセラー作家・牛田竜介は本当に実在するのか。原稿の受け渡しも、常に秘書の久江を介してのみ行なわれ、編集者の誰一人として彼の姿を見た者はいないのだ。その仕事場で起きた殺人事件。犯人は姿を消した牛田なのか。捜査に乗り出した大貫警部と井上刑事のコンビが突き止めた思いも寄らぬ真相とは。
『BOOK』データベースより。 ユーモアミステリだと思いますが、肝心の大貫警部は大して活躍しません。ただその言動が一般人と異なると云うだけで、推理もしなければ捜査もしないという、階級に相応しくない人物で、あまり笑えません。結構長く続いているシリーズで人気もあるそうですが、何処が面白いのかイマイチ理解できませんでした。プロットなどは成程こなれているのは認めます、しかし色々説明不足な点が多く、何だか内容があまり頭に入って来ません。これじゃあ別に文庫化する必要性ないじゃんと思ってしまいました。まあ、気軽に読みたい、あまり頭を使いたくないという読者には良いのかも知れませんが、逆に読み難くないかなという気がしてなりません。 表題作はそれらしい謎や意外性がありプロットも確りしていて、最もミステリらしい作品です。トリックはショボいですけどね。それ以外の二編は語る価値もない程度と考えて頂ければ、と思います。正直個人的にはやはりもっと骨のある作品が読みたかったですし、シリーズ全体のAmazonでの評価が高いだけに期待していたのですが、残念でした。 |
No.1438 | 6点 | ハイエナの微睡(まどろみ)- 椙本孝思 | 2022/04/29 22:53 |
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宗教都市・深石市で、奇妙なバラバラ死体と、冷蔵庫に圧し潰された変死体が発見された。被害者はともに警官。捜査一課の佐築勝道は、両現場で見つかった不気味な意匠の社章から、ある地元企業の関与を疑う。しかし理不尽な組織の力学と謎の圧力が捜査を阻み、無邪気な女が勝道を悩ませる―サバンナを彷徨うような果てなき猟奇殺人捜査。刑事がたどり着く驚愕の真相とは?ラスト40ページで世界が一変する衝撃の警察小説。
『BOOK』データベースより。 サイコサスペンス的なのかと思っていたら、全然違いました。出だしこそバラバラ死体で始まり、猟奇的な雰囲気溢れるスリラーの様ですが、結構ガチガチの警察小説です。物語が進むと次第に私の願っていない方向へ滑り出し、巨大企業や新興宗教が絡んでかなり硬質な作品だと判ってきます。そんな中、金髪で言葉遣いの荒っぽい都と名乗る女が登場してから、主役の佐築よりも彼女に感情移入している自分に気付きました。殺伐とした話の中で唯一都の存在が私を癒してくれ、彼女の出番を心待ちにしたりしていました。 売れていないとは言え流石にプロの作家、これまでのミステリとは一線を画す作風に、一寸した畏怖を覚えました。なぜ死体をバラバラにし、頭部を電子レンジで加熱したり胴体をテーブルに置きナイフとフォークを並べたのかなどの動機に期待してはいけません。ただ、作品全体に仕掛けれたトリックには唖然とさせられました。これは新機軸だと思いますよ。 |
No.1437 | 5点 | しにがみのバラッド。- ハセガワケイスケ | 2022/04/27 22:49 |
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目を覚ますと、少女は死神でした。その少女は、死神でありながら、その真っ白な容姿ゆえに仲間から「変わり者」と呼ばれていました。しかし、少女の持つ巨大な鈍色の鎌は、まさしく死の番人のものです。少女の使命は人間の命を運ぶこと。死を司る黒き使者である少女は、仕え魔のダニエルと共に、人の魂を奪いにいくのです。死を司る少女は、様々な人と出会い、そして別れていきます。哀しくて、やさしいお話。
『BOOK』データベースより。 優しさゆえについつい人間に余計なお節介を焼いてしまう死神モモと、その相棒で黒猫のダニエルの淡い物語。この作品が嫌いと云う人は少ないと思いますが、インパクトに欠ける、心に突き刺さるものが足りないなどの理由であまり評価しない読者もおられるでしょう。私もその一人です。所謂いい話ではあります、でもそこまでで、死という概念に憑りつかれた人々特に少年少女達の心の奥底まで掘り下げられている様には思えません。 文体は飽くまで詩的で、普通に読めば何処か食い足りないものを感じてしまう部分があります。ストーリーに起承転結はあるものの、先の展開が読めてしまったり、オチが見え見えだったりして、その意味では期待を裏切られました。 まあ、連作短編集でありシリーズを通しての秘められた真実などはなさそうなので、一巻ずつ安心して読めるとは思います。その分、次を読み進める推進力には欠ける気がしますが。 |
No.1436 | 7点 | 凶鳥の如き忌むもの - 三津田信三 | 2022/04/25 22:48 |
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瀬戸内海の兜離の浦沖に浮かぶ鳥坏島。鵺敷神社の祭壇“大鳥様の間”で巫女、朱音は神事“鳥人の儀”を執り行う。怪異譚蒐集の為、この地を訪ねた刀城言耶の目前で、謎の人間消失は起きた。大鳥様の奇跡か?鳥女と呼ばれる化け物の仕業か?『厭魅の如き憑くもの』に続く“刀城言耶”シリーズ第二長編待望の刊行。
『BOOK』データベースより。 何か、悪い意味ではなく嫌な小説を読んでしまった、みたいな読後感です。前半は耳慣れないワードが結構出てきて、やや理解が追い付かない面がありました。が、その雰囲気はやはりシリーズを通しての独特のものであり、良い具合にストーリーやトリックに絡んでくるので、我慢して読むしかありません。ここを飛ばし読みすると解決編で得られるカタルシスが減じる可能性があります。 物語の舞台は固定されていて、それだけ濃縮された世界であるのは間違いないですが、その分スケールの大きさは感じられません。その反面密度は濃いですね。 人間消失のトリックに関しては、もう何も申しますまい。ただ、巫女の心情がもう少し深掘りされていれば更に素晴らしい小説になったのではないかと思います。いずれにせよ、普通のミステリに飽きてしまった読者向けとは言えるでしょう。それだけ尋常ではない代物ってことで。評価が割れるのはやむを得ない所も納得です。 一つ残念なのは拝殿の見取り図がなかった事。これは是非とも挿して欲しかったですね。 |
No.1435 | 6点 | 妖琦庵夜話 人魚を喰らう者- 榎田ユウリ | 2022/04/21 23:04 |
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都内某所にひっそりと佇む茶屋『妖〓(き)庵』。その主、洗足伊織は目を見張る美貌の持ち主だが、非常に偏屈な毒舌家でもある。『人間』と『妖人』を見分ける能力を持つ伊織のもとへ、正月早々、警視庁の新米刑事・脇坂がやってくる。『人魚』として妖人の登録をされている女性が、誘拐されたというのだ。人魚の肉は不老長寿の妙薬―?人魚を巡る過去と現在の事件が交錯するとき、あの男の影が…。人気作第3弾、文庫書き下ろし!
『BOOK』データベースより。 二つの事件が入り乱れて、更に独白なども挿入されており、かなり複雑になってしまっています。読み難いという訳ではありませんが、これまでのシリーズと比較すると若干纏まりに欠け、ストレートに話が伝わって来なかった印象を受けます。どこに主題を置いて読んで良いのか迷いました。それと、今回はマメの登場シーンが少なく残念な香りがします。 それでも終わってみれば納得の出来。誘拐事件の方は、まあ考えてみればそれしかないよなと思わされます。思えば解決までにこれでもかと伏線が張られていて、それに気づかなかった自分につくづく嫌気が差しました。溺死事件の方はありきたりな感じで、あまり感心しませんね。しかし、ラストで意外過ぎる事実が明らかになり、増々本シリーズに目が離せなくなりそうです。 |
No.1434 | 6点 | 蒼穹のファフナー- 冲方丁 | 2022/04/18 22:55 |
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あなたはそこにいますか―謎の問いかけとともに襲来した敵フェストゥムによって、竜宮島の偽りの平和は破られた。島の真実が明かされるとき、真壁一騎は人型巨大兵器ファフナーに乗る―。シリーズ構成、脚本を手がけた人気テレビアニメを、冲方丁自らがノベライズ。一騎、総士、真矢、翔子それぞれの無垢なる“青春”の終わりを描く。さらにスペシャル版「蒼穹のファフナー RIGHT OF LEFT」のシナリオを完全収録。
『BOOK』データベースより。 いきなり戦闘シーンから始まります。主人公一騎が搭乗するファフナー11番機は未知(ほとんどその正体は明らかにされていない)の敵、スフィンクス型と呼ばれる、己の中に相手を取り込んでしまう生物?を相手に迫力の戦いを繰り広げます。おお、アニメや映画化もされた『ファフナー』とはこの様な凄まじい戦闘を描いた物語だったのか、と思いました。すると一転、学園ものの青春ストーリーへと様変わりしていきます。 青春の一ページを切り取ったような、憧憬、淡い恋、嫉妬、償い切れない過去、友情などの青臭い登場人物のそれぞれの想いを思い切り読者にぶつけています。其処には言葉に言い表せない様な魅力が詰まっています。一つ私が何故か惹かれたのが、一騎の感じる真矢の声だったりします。甘い声でも甘えた様な声でもなく、甘いような声。何となく想像力を掻き立ててくれる気がしませんか?まあ感じ方は人それぞれなので、私だけかもしれませんが、それはそれで良いんですよ。そして突然エピローグに突入。えっ、もう終わりなのと思ってしまいました。 巻末のシナリオは正直要らなかったなあ。 |
No.1433 | 6点 | なめくじに聞いてみろ- 都筑道夫 | 2022/04/15 23:05 |
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天才科学者・桔梗信輔が発明した奇抜な殺人方法を闇に葬れ! 息子の信治は父の死後、出羽の山中から東京へと向かった。目指すは父から技術を伝授された十人を超える殺し屋たちの抹殺。奇想天外な武器を操る者たちに、悪事に無縁の青年はどう立ち向かうのか? 国産アクション小説の金字塔、ついに復刊!
Amazon内容紹介より。 殺し屋同士の戦いが沢山楽しめる、エンターテインメント小説。子供の玩具や身体的なハンディを逆に利用したりしての、とても殺し屋とは思えない様な奇矯な殺人方法が見どころ。でも、結局それだけ。それ以外の要素に期待してはいけません。バトルシーンに関しては呆気なく勝負がつくものが目立ち、もう少し白熱した戦いにしても良かったのではないかと思います。これ程世評が高いのが正直理解出来ないけれど、この点数にしたのは多分後々まで記憶に残りそうな変な小説だからです。都築道夫は他の作品を読んだ事がないので何とも言えませんが、氏の中でも異色作なんだろうなと思います。 ただ、文章はいけません。サクサク読めるのは良いですが、余りにも淡白で心に刺さるものがありません。しかも、読点が多すぎて箇条書きのようで、文章の流れがブツブツと細切れになってしまっているのが、気になって仕方ありませんでした。特に地の文がね。 あとがき二つ載っていますが、その後者の方を読む限りは特に気にならなかったんですけどねえ。 |
No.1432 | 5点 | 狂乱家族日記 七さつめ- 日日日 | 2022/04/11 23:20 |
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2063年11月21日。宇宙より無数の「卵」が落下した。宇宙人襲来が現実のものとなる中、買い出し中の凰火の眼前に落ちてきたのは「恋とはなんぞや?」と問いかけるヘンテコな女の子、OASISだった。彼女を連れ、我が家へ戻った凰火は、凶華とともに家族の避難を決定するが、三女・月香だけはなぜか忽然と姿を消してしまう。そして、そのころ死神三番と花山は、最強宇宙人「強欲王」と対峙していた―。前後編構成で贈る『来るべき災厄』の幕開け。
『BOOK』データベースより。 新キャラが続々登場し、狂乱と言うより混乱、って言うか混沌としております。あまりにも色々事件が起こり過ぎて、少々頭の中で整理して読まないとダメな本だと思います。新たな登場人物の中で最も重要と思われるoasisの全体像のイラストがないのが残念です。まあそれは良いとして、遂にこれまで語られながら正体が掴めなかった『来るべき災厄』が起こりつつあるのか、後編に続くって感じで終わっていて何とも言えませんが、物語が大きく動き出したことは確かです。 今回は宇宙クラゲで十二単の美女に変身する存在として、謎のベールに包まれていた月香の正真正銘の本性が現れます。今後どんな役割を果たしていくのか非常に注目されるところです。狂乱家族の母親である主役の凶華の秘められた過去も明かされ、とにかく内容がびっしり詰まった一冊になっています。これまで出ていた脇役達も出番がなくなる程の急展開に唖然とさせられました。取り敢えず次巻の前に番外編そのいちが先に刊行されているので、そちらから先に読まねばなるまいと思っているところです。 |
No.1431 | 7点 | 安達ヶ原の鬼密室- 歌野晶午 | 2022/04/10 22:35 |
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太平洋戦争中、疎開先で家出した梶原兵吾少年は疲れ果て倒れたところをある屋敷に運び込まれる。その夜、少年は窓から忍び入る“鬼”に遭遇してしまう。翌日から、虎の像の口にくわえられた死体をはじめ、屋敷内には七人もの死体が残された。五十年の時を経て、「直観」探偵・八神一彦が真相を解明する。
『BOOK』データベースより。 これはなかなかの力作ではないでしょうか。どうせならナノレンジャーやメキシコ湾の話を思い切って取っ払って、本編だけをもう少し膨らませて一冊にしたほうが良かった気もします。全体の構成がやや歪になっている感じがして仕方ありません。それらが伏線となっているのは間違いないですけどね。予備知識なしで読んだ私は、最初何だこりゃ?と思いましたよ。随分タイトルからかけ離れているじゃないかって。 さて、肝心の密室トリックですが、前例がありそれをアレンジしているだけなので、真相が明らかになってもそれほどの驚きはありませんでした。ただ、不可解な怪奇現象の連続を少年の目から見た事実として語られる事件の内容は、一見あり得ない事の様に上手く描かれていると思います。しかし、この件の第一幕から何となくバタバタしている印象なので、もっとじっくり腰を据えて、更に奇怪な雰囲気で盛り上げてもらえたら評価はもっと高くなったと思いますね。 |
No.1430 | 7点 | 復讐者の棺- 石崎幸二 | 2022/04/06 23:04 |
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大手スーパーKONO堂は、伊豆沖の孤島にある、経営破綻したテーマパークを買収。その再建のため、本社から島に派遣されたスタッフが惨殺された!死体は棺に入れられ、そこには一通の封筒が。手紙の主は、10年前にKONO堂で起きた殺人事件の復讐者を名乗る。孤島を舞台に巻き起こる連続不可能殺人!事件の背後にある深い闇とは。
『BOOK』データベースより。 えー、結構面白かったけどなあ。私が単純だからでしょうか。まあマンネリ化しているのは確かです。ミリア、ユリ、仁美、石崎のボケとツッコミぶりは相変わらずだし、どうしても孤島へ向かってしまうのもお約束ですし。事件がテンポよく起こるのは良いけれど、ワンパターンなのが何とかならないものかとも思います。またトリックとしては見破りやすいし、動機もありきたり、それでも謎を一つ一つ挙げて行き、石崎とミリア、ユリの三人で検討するのは本格魂を感じさせます。そして何より読者に対して親切だと思いますよ。 本シリーズはミリアとユリに責められる石崎が自虐的なのがまた良いんですね。決して自分が目立とうとせず、しかし最後には美味しいところをさりげなく持って行く感じが、読んでいて気持ちいいです。それにしても、何だかんだで孤島物である必然性として、ケータイが使えなくなるのを苦心して現実のものにするところも涙ぐましいですね。シンプルだけどサクサク読めて面白いものが好きな人向けの作品だと思います。 |
No.1429 | 5点 | 僕は僕の書いた小説を知らない- 喜友名トト | 2022/04/04 22:53 |
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「失ってしまう記憶の代わりに、最高の物語を残したい」小説家の岸本アキラは、ある朝目覚めると“昨日”の記憶がないことに気付く。実は彼は二年前の事故により、記憶が毎日リセットされてしまうのだ。そしてそんな困難な状況でも、アキラは小説を書き進めていた。絶望的な不安と闘い葛藤しながら、決して“明日”を諦めまいともがく感動ストーリー。
『BOOK』データベースより。 何故買ったのか、今思えばよく分からない作品。多分その時の気分と評価の高さに惹かれたのだと思います。前向性健忘という脳の病気を交通事故で背負ってしまった主人公の、悪戦苦闘ぶりが読み所です。過去の例としては西尾維新の『掟上今日子シリーズ』がありますね。一晩寝ると前日の記憶が無くなっているというものです。 小説家岸本アキラの一人称で書かれている為、その時々の心の揺れ様が手に取るように分かります。本人はややハードボイルドを気取っているので、感情移入はし難いと思われます。まあしかし、あまり深刻になり過ぎずそれなりに前向きに生きようとする姿には、多少の共感は覚えます。 それにしても、カフェに勤め、何かとアキラに接触してくる翼の存在が大きいですね。彼女なくしてこの物語は成立しえないでしょう。ストーリーはアキラと翼の付かず離れずの付き合いと、小説の締め切りが迫る中障碍を負い乍ら何とか試行錯誤して、完成に漕ぎ着けようと奮闘するアキラの頑張りを軸に進行していきます。 どちらかと言うと感性で読む作品なので派手な展開などはありませんが、最後にちょっとしたサプライズが読者へのプレゼントとして用意されています。若い世代により受けそうな作風ですね。あと、ある意味メタな部分もあります。 |