皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1901件 |
No.1521 | 6点 | あなたまにあ- 小川勝己 | 2022/11/17 23:10 |
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背徳・妄執・恐怖が渦を巻く異空間の彼方に置き去りにされたあなた…あなた。あなた!愉悦にまみれたあなたの狂気は、どこへたどりつくのか。異能作家・小川勝己があなたに捧げる傑作怪奇小説集。
『BOOK』データベースより。 小川勝己らしいグロいシーンはあるものの、自身の他作品と違いしつこい描写がないのでサラリと読めます。どれもよく考えてみればそれ程面白くないストーリーを、群を抜くリーダビリティで十分に楽しめる作品に仕上げている感がします。しかし、深く印象に残りそうなのは『蘆薈』(アロエ)位のもので、すぐに忘れてしまいそうなものが多く、心に突き刺さる様な刺激が不足している気がします。 一応オチはあるものの、大凡読めてしまい意外性に欠けるものばかりです。結果、押し並べてお薦め出来る短編集とは言い難く、個人的には楽しめたけれど一般受けはしないだろうなとの感想を抱きました。文庫化されていないのも納得ですね。欲を言えば、もう少し気の利いたものか、思い切った奇想を感じさせる作品が欲しかったところです。 |
No.1520 | 6点 | シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都- 評論・エッセイ | 2022/11/15 23:13 |
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綾辻行人が、それぞれのデビュー時からかかわりを持ってきた後輩作家たち10人と夜な夜な語る、ミステリの魅力と創作の秘密。それは、かけがえのない愉楽。読めば、小説がさらに面白くなる。読書欲に火をつける、極上の対談集!
Amazon内容紹介より。 2014年から2020年まで綾辻行人が携わった後輩ミステリ作家達と、京都で行われた対談を集めたもので、写真入り。 登場する作家は詠坂雄二、宮内悠介、初野晴、一肇、葉真中顕、前川裕、白井智之、織守きょうや、道尾秀介、辻村深月の十人。道尾秀介以外顔を見たことなかったんですけど(検索したこともなかった)、皆さん想像していたのと何か違うって感じでした。道尾秀介はテレビで観た時よりワイルドな印象です。一肇、白井智之、織守きょうやの三人はぼかしてあってはっきり映っていません。織守きょうやは男だと思っていたら女性だったという罠。対談当時は38歳でしたが、目から下を本で顔を隠した全身ショットがあって、それを見る限り前髪ありで若干垂れ目の可愛い感じがして好感度アップでした。前川裕だけは何となく容貌がしっくりきて、ちょっと西川きよしに似ています。 みなさん、それぞれのミステリに対するスタンスみたいなものを中心に発言されています。自作に対しての自身の評価であったり、綾辻作品で印象深い物、影響を受けた作家など多岐に亘り対談しています。一読だけでは何とも言えませんが、それでも少しはその人となりが伝わって来ます。みんな真面目だな~と思いましたねえ。それぞれ執筆スタイルがあって、まあそれが当然なんでしょうが、興味深かったです。 |
No.1519 | 6点 | 脇役スタンド・バイ・ミー- 沢村凜 | 2022/11/14 22:27 |
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日々の暮らしの中で、ふと関わった誰かの悩み。あなたは見てみぬふりをしますか、それとも?アパートの上の階の女性が殺人容疑をかけられたら。尊敬していた先輩が定年後の再雇用を認められなかったら…。一つひとつの事件に隠された意外な真相。そしてすべての謎が解かれた時、いつもそばにいた「あの人」に浮かび上がる、切なくも優しい真実とは!?思わずもう一度読み返したくなる、連作ミステリー。
『BOOK』データベースより。 日常の謎、社会派、サスペンス、本格など様々な作風の短編を集めた連作ミステリ。途中で解説をチラッと見てみたら、連作短編集と書いてあり、何処が?と思いましたが、三作目で漸くその関連性に気付きました。作品は全体的にぼんやりとしてインパクトに欠ける気がしてなりません。その中でも最も印象深いのは第四話の『裏土間』。乱歩っぽい様な、乙一の様な・・・。これは際立った異色作と言えると思います。 最終話ではそれまでの主な登場人物が一堂に会し、脇田と名乗る刑事の事を語り合います。するととんでもない事実が目の前に現れます。このラストをどう解釈するのか、賛否が分かれるところでしょう。私は否の方で、この話は後付けらしいのですが、作者が上手く誤魔化してしまったと言うか、有耶無耶にすることで逃げに走ったとも受け取れるので、どうにも不満が残りました。 しかし、前言と矛盾するようですが、一つ一つ取ってみればそれなりに評価出来るものだと思います。 |
No.1518 | 6点 | ノーゲーム・ノーライフ1 ゲーマー兄妹がファンタジー世界を征服するそうです - 榎谷祐 | 2022/11/12 23:09 |
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ニートでヒキコモリ、だがネット上では都市伝説とまで囁かれる天才ゲーマー兄妹・空と白。世界を「クソゲー」と呼ぶそんな二人は、ある日“神”を名乗る少年に異世界へと召喚される。そこは神により戦争が禁じられ、“全てがゲームで決まる”世界だった―そう、国境線さえも。他種族に追い詰められ、最後の都市を残すのみの『人類種』。空と白、二人のダメ人間兄妹は、異世界では『人類の救世主』となりえるのか?―“さぁ、ゲームをはじめよう”。
『BOOK』データべスより。 ラノベファンに熱狂的な人気を誇っているらしいシリーズ一作目。確かにサクサク読めてそこそこ面白いし、読ませどころを心得ている感じがします。文体にはそれ程クセはないものの、傍点が多すぎます。ほぼ1ページに一か所以上は点が付いていて、そんなに強調したいのかと思ってしまいます。 異世界の神に勝ってしまった為、腹いせに十六の種族が存在しゲームの勝敗で全てが決められる世界に放り込まれてしまった兄妹。二人はそんな中で人類種の国の国王の座を賭けて一風変わったルールのチェスで勝負するが・・・。 作者によるとファンタジーもので、バトルをしない物語を書きたかったそうです。まああまり類のないラノベでちょっと異色かも知れませんね。 前述のチェス勝負が最大の見せ場ですが、意外と細かい所まで神経が行き届いており、設定も骨格もかなり確りとしていると思います。ラノベとしては評価して良い出来でしょう。因みにこの人、元々漫画家である事情から自分の原作を小説として売り出そうとしたのが本シリーズらしく、イラストも兼ねています。次巻を読むかは微妙なところ。 |
No.1517 | 7点 | 君のクイズ- 小川哲 | 2022/11/11 22:47 |
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一作ごとに現代小説の到達点を更新し続ける著者の才気がほとばしる、唯一無二の<クイズ小説>が誕生しました。雑誌掲載時から共同通信や図書新聞の文芸時評等に取り上げられ、またSNSでも盛り上がりを見せる、話題沸騰の一冊です! ストーリー:生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。 読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される! 「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!
Amazon内容紹介より。 意外にも深いクイズの世界。 これはテレビの、問題を読んでボタンの早押しを競うクイズ番組に特化した作品です。どうすれば相手に勝つことが出来るのか、早押しの極意などを追及した異色のエンターテインメント小説。根底に何故主人公である三島のライバルで決勝戦の相手本庄が、問題を読み上げる前に正答出来たのかと云う謎が横たわっており、その謎を解くために一問一問振り返っていくのが本筋のストーリーであり、それを補填するために様々な人物が登場します。勿論クイズに詳しい人達ですが、唯一恋人の桐島さんがだけが一般人です。 残念なのは短すぎて、もっと中身を充実させることも出来た筈なのに敢えてそれをしなかった事くらいでしょうか。初出が『小説トリッパ―』なので文字数に制限があったせいか?その為、桐島さんの扱いがクイズ在りきになってしまい、雑だったなと感じました。 クイズ自体はとても難解な、というかあらゆる事柄に通じていなければ正解できない問題が多く、素人の私などはとても答えられないものばかりでしたね。一問だけ私がオランウータンだと思ったら(本庄も同じ答え)違っていたのが惜しかった程度で、これまた残念な香りがしました。まあしかし、それはそれで勉強にもなりますし、関心もさせられましたし、何より読んでいて面白かったのが最大の収穫でした。 |
No.1516 | 6点 | ザリガニの鳴くところ- ディーリア・オーエンズ | 2022/11/10 22:51 |
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ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。
『BOOK』データベースより。 本作にミステリを期待する人は読むべきではありません。何故ならミステリとして評価するに値しないからです。一人の少女の成長物語だと思って読めば、それなりに面白いかも知れませんが。まあ私の場合、この湿地の少女と呼ばれたカイアにどうしても感情移入出来なかったので、この程度の点数しか付けられません。評価の分かれ目は彼女に共感するか否かによって決まりそうですね。 所々興味深いシーンはありました。しかしそれは虫の生態であったり、ソフトな性描写などであり、本筋とは関係ありません。読む前はもっと自然に満ち溢れた静謐な雰囲気の物語だと思っていたので、その意味では裏切られた感があります。 一番の見どころはやはり後半の裁判の攻防戦でしょう。確かにここだけ切り取ればかなり面白い。しかし、裁判が始まって直ぐその後の展開が最後まで読めてしまうのが辛いです。ミステリを少しでも読んだ事のある人は、いやそうじゃない人でも大抵はミエミエだと思いますよ。其処に衝撃も意外性も全くありませんでした。ここで素直に驚ける読者は幸せだと思います。 それにしても、本書が全米で500万部売れたんですか?信じられませんね。厳しいかも知れませんが、それが本当なら(勿論本当でしょうけど)、アメリカの文壇も底が知れていますね。 |
No.1515 | 7点 | レフトハンド- 中井拓志 | 2022/11/06 23:00 |
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製薬会社テルンジャパンの埼玉県研究所・三号棟で、ウィルス漏洩事件が発生した。漏れだしたのは通称レフトハンド・ウィルス、LHVと呼ばれる全く未知のウィルスで致死率は100%。しかし、なぜ三号棟がこのウィルスを扱っていたのかなど、確かなことはなにひとつわからない。漏洩事故の直後、主任を務めていた研究者・影山智博が三号棟を乗っ取った。彼は研究活動の続行を要請、受け入れられなければウィルスを外へ垂れ流すと脅かす…。第4回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 くどくて長い。正直何度もイライラして挫折しそうになりました。ネットを見ると似たような感想の人も多々見られました。それでも意地で読み切り、結果最後まで読んで良かったと、今では強く思っています。タイトルや設定等から想像されるB級ホラー臭はギリギリ回避出来ている感じですね。 本筋では何と言っても、何故未知のウィルスで人間がこんな悲惨な目に遭っいくのか、そしてこのウィルスは何処から来たものなのかが問われるところだと思います。その辺りは中盤に著されています。厚生省(現在の厚生労働省)から派遣された一応主人公の学術調査員である津川と四角い顔の男(せめて名前と役職くらいは明記して欲しかった)との論戦がそれに当たります。 津川はいきなりカンブリアの復活とか言って、屁理屈で捩じ伏せようとします。イマイチ納得は出来ないものの、仮説としては面白いです。人類の新たな進化とでも言うかのように。 物語は遅々として進みませんが、後半に怒涛のような展開が待っています。ここから急に面白くなり、話も進展していきます。そしてラストに待ち受けているのは・・・?でした。ネタバレはないかと検索してみましたが、結局深い意味は無いようで、私の読み落としでもなかったみたいです。 |
No.1514 | 6点 | 姉川の四人 信長の逆切れ- 鈴木輝一郎 | 2022/11/02 22:56 |
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あの屈辱の金ケ崎の敗戦から三ヶ月。復讐に燃える信長は、盟友・家康をこきつかい二倍近い大軍で浅井長政領内奥深くに攻め込む。楽勝かと思いきや、とことん弱い織田勢は…大誤算にキレる信長、一撃で粉砕、弱すぎる秀吉、どこにいる?光秀、またも巻き込まれた家康。のちの天下人・四人の悪戦苦闘をコミカルに描く痛快歴史小説。
『BOOK』データベースより。 信長、秀吉、光秀に振り回される家康と云った構図で姉川の合戦が描かれる歴史小説。兎に角この主役四人の個性がぶつかり合って、様々な軋轢や友情を生み出す辺りが読んでいて飽きが来ず、面白いのです。 中盤の見どころの一つは、信長と家臣の稲葉一鉄との舌戦でしょうね。口下手だけど凄い迫力の信長と一歩も引かない一鉄の対決は、凄まじい緊迫感を醸し出し、戦国時代ならではの命の遣り取りが垣間見えます。 終盤で宿敵浅井長政と朝倉孫三郎の連合軍対信長、家康連合軍の姉川の合戦は熾烈を極め、戦に圧倒的に強い浅井長政に苦戦を強いられながら、果たしてどんな戦略で挑んでいくのかが主眼となっています。 そして勝利を収めた信長が武勲を挙げた一介の足軽達を一堂に集め、一人一人の手を握り「次も頼む」と一言伝えていくシーンには思わず涙が流れてしまいました。 作者の鈴木輝一郎はあまり知られていませんが、日本推理作家協会賞を受賞した事もある人です。ただその後、早々に時代小説にシフトチェンジしていったのである意味残念かも、ですね。 |
No.1513 | 6点 | 救国ゲーム- 結城真一郎 | 2022/10/30 22:38 |
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人質は国民八〇〇〇万人。日本崩壊のカウントダウンが迫るなか、全ての鍵を握るのは、“無傷"の首なし死体。
日本推理作家協会賞受賞後初作品は、堂々たる本格ミステリ長編。 “奇跡"の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた。 否応なく迫られる命の選別、そして国民の分断――。 最悪の結末を阻止すべく、集落の住人・陽菜子は“死神"の異名を持つエリート官僚・雨宮とともに、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。 Amazon内容紹介より。 思った以上に本格度が高かった作品。ある意味社会派の側面もあるものの、そちら方面は薄い印象です。もっと日本中がパニックに襲われたりする描写が有っても良かった気もしますが、飽くまで本格ミステリですので。 序盤から中盤にかけて、謎めいた事件に翻弄され、かなり面白く読ませてもらいました。シチュエーション的には私好みでしたし。しかし、そこから話をあまり膨らませる事が出来ず、やや冗長に感じました。やはり謎が多いとは言え一つの案件でこれだけの長編を引っ張るのは無理があったのではないでしょうか。 そしていよいよ謎解きの段階で、探偵役の雨宮の推理に一々過剰反応して感心する関係者一同には、ちょっと辟易してしまいました。これでは作者の自画自賛になってしまってますよ。肝心のトリックは驚くほどでもなく、どちらかと言えば小粒な印象でした。 更に言えば動機が飛躍し過ぎだろうと感じました。 |
No.1512 | 6点 | あれは子どものための歌- 明神しじま | 2022/10/27 22:50 |
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料理人のキドウは異国の地で、8年前に飢饉に苦しむ祖国を揺るがした、ある事件で出会った因縁の相手・カルマと再会する。彼らが口にするのは、事件解決の際に奇策を弄した、行商人・フェイとの思い出話。しかし、新たな疑問がキドウの中に生まれる。「あのとき祖国で、本当は何が起こっていたのか?」。真実を知ろうとするキドウに、カルマは奇妙な寓話を語り出す。「不思議なナイフで自らの”影”を切り離した男の物語」だ。物語の幕が下りるとき、8年前の事件の驚愕の真実が浮かび上がる、第7回ミステリーズ!新人賞佳作「商人(あきんど)の空誓文(からせいもん)」。どんな賭けにも負けない少女の運命を描く「あれは子どものための歌」や、あらゆる傷を跡形なく消し去る医者の秘密を暴く「対岸の火事」ほか、全5編。魔女との契約で、不思議な力を得た彼らをめぐって起こる殺人や陰謀に、人間が推理の力で立ち向かう! 自在な語り口で本格ミステリの謎解きを描く、連作集。
Amazon内容紹介より。 『ミステリーズ!』に掲載された三作はオチが良いですね。特に表題作は素晴らしく個人的にベスト。しかし、全体的に言える事ですが、文章とプロットに難ありです。難解な文体でもないのに何故か頭にすんなりと入って来ないし、誰と誰が会話しているのか分り難かったり、情景が浮かんで来なかったりが頻繁に起こりました。単に私との相性が悪かったに過ぎないのであれば良いのですが。 書下ろしの二作は何だか全く印象に残りませんでした。特に最終話は締まりのない結末に終わり、余韻も何もあったものではありません。 この様な掲載物と書下ろしの合体は、大抵が書下ろしの方がワンランク落ちると云うのが個人的に思うところで、本書もその例に漏れない感が残りました。素材が良かっただけに色々残念な作品だと思います。 |
No.1511 | 7点 | その殺人、本格ミステリに仕立てます。- 片岡翔 | 2022/10/24 22:42 |
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音更風゛は、ミステリ作家の一家にメイドとして就職した。だが一族は不仲で、殺人計画さえ持ち上がる始末。これを止めるべく、風゛は計画を請け負った男・豺と「フェイク殺人計画」を練るのだが、なんと予想外の人物が殺されてしまい……。
死者を出さない“殺人計画" VS. 孤島のクローズドサークル 胸躍るノンストップ・本格ミステリ! Amazon内容紹介より。 先月この『ひとでちゃんに殺される』の書評で予告した通り、片岡翔の二作目です。どうせならミステリが良いと思い本作に決定。 コーディネーターによるマーダーミステリ(仮想現実)の、飽くまでゲームと云う新しいタイプのミステリ小説かと思わせて、結果定型の枠に嵌ったミステリに収まっています。言ってしまえば孤島ものですね。 最初の事件が呆気なく解決してしまい、一体これからどう物語を作り直すのかと思っていたら、お見事タイトル通り本格ミステリに仕立てております。 主役の一人で探偵役でもある風゛(ぶう)がなかなか個性的で好みの別れるところかもしれませんが、結構いい味を出しています。たまにボケたり鋭く指摘したりと、探偵を夢見る少女としては合格点でしょう。 途中、私の頭が悪いせいで事件と証言が錯綜しやや煩雑になってしまったのは残念でした。これは普通の読者であれば問題ないと思いますが。 クリスティよりは綾辻行人に影響を受けている感じがしましたね。作中に出てくる小説名や舞台となる館などにそれが見られます。真犯人に関しては・・・。 尚、最終章で感動したのとエピローグでの後味の良さを加味してプラス1点としました。 |
No.1510 | 5点 | 可制御の殺人- 松城明 | 2022/10/22 22:43 |
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女子大学院生が自宅の浴室で死亡しているのが発見された。
警察は自殺と判断したが、 その裏には人間も機械と同じように適切な入力(情報)を与えれば、思い通りの出力(行動)をすると主張する謎の人物・鬼界が関わっていた・・・・・・。 小説推理新人賞で選考委員から その才能を高く評価された著者によるデビュー連作短編。 Amazon内容紹介より。 工学を軸とした理系連作ミステリ。短編集と言うより長編と捉えたほうがしっくりきます。最初の小説推理新人賞で最終選考まで残った表題作は、捻りも効いていて好感触でした。一応これはこれで完結している様にも見えますが、そこに登場する性別不明の謎の人物鬼界が後の話にも絡んできます。しかし、第一話以外は何となく煮え切らない印象が強く、結末を迎える前に終わってしまう様なものばかりで、とても不安定な気持ちにさせられます。 異色であり、ある意味新機軸とも言えると思いますが、色んな意味で説明不足な感が否めず、どんどん訳が分からなくなってしまいました。表題作レベルの作品が並んでいれば7点付けたいところですが、どうにも消化不良で私には合いませんでした。工作機械、つまりロボットが頻繁に出てきたり、人間の言動を制御するとか、SFっぽい話にも付いて行けませんでしたね。 こう言ってしまっては身も蓋もないですが、この人は表題作でアイディアが尽きたのではないかとも感じ、果たしてプロとしてやっていけるのか不安が残る出来でした。 |
No.1509 | 9点 | 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件- 白井智之 | 2022/10/20 22:52 |
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病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。 奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか? Amazon内容紹介より。 どういう心境の変化か、グロを封印した白井智之は正に超人の如き偉業を達成したのでありました。グロから解放された作者はまるで水を得た魚の如く、伸びやかにこの傑作を物しました。全てのミステリファン必読の書と言っても良いでしょう。2022年の本格ミステリは本作無くしては語れません。本年のランキングレースは『方舟』と『名探偵のいけにえ』で1位2位を争ってくれたら嬉しいなと思います。 衝撃度に於いては『方舟』に及びませんが、トリック及びロジックでは圧倒的に凌駕していると思います。又、そんな些細な事も伏線だったのかと、あれもこれも伏線だったのかと、100ページを超える怒涛の解決編を読んで、改めて感心させられました。 内容については敢えて触れませんが、一つだけ気になったのは、信者達がいくら洗脳されているとは言え、そこまで思考回路が捻じ曲げられてしまうものだろうかと疑問に思った事です。まあでも、そんな些末な瑕疵を論うのはこの傑作を前にして失礼に当たるでしょう。 色々述べましたが、畢竟個人の感想であり、批判的な意見もあって当然だと思います。それでも私の信念は揺るぎませんけどね。 |
No.1508 | 6点 | 龍神池の殺人- 篠田秀幸 | 2022/10/17 22:41 |
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精神科医にして名探偵・弥生原公彦宛てに「宮崎勤事件」についての謎を指摘する資料が届く。送り主は長野戸隠村の由緒ある精神病院の御曹子である龍神周二。その仮説を検証すべく龍神家を訪れた一行の眼前で奇々怪々な連続殺人劇が開幕する!人智を遙かに超えた不可能犯罪「龍神家連続殺人事件」は一族に対する龍の呪いなのか?弥生原公彦が難事件に挑む、本格ミステリーの書き下ろし長篇。好評シリーズ第八弾。
『BOOK』データベースより。 本シリーズを読んだのは随分昔の話で、『人形村の殺人』ただ一作。それでも何故か弥生原公彦という探偵が妙に印象に残っているのは、どういう訳なんでしょうか。内容はほぼ忘れましたが、悪く言えば紛い物の様だったという事しか・・・。 で本作ですが、冒頭龍神池の伝説に始まり、宮崎勤事件の概要、横溝正史の某作品を丸パクリしたエピソードと実に濃い幕開けで圧倒されました。これから一体何が始まるのかワクワク感が堪りません。 本題に入ってから事件が起こるまでやや長いですが、その後はテンポよく失踪などの事件が続きます。しかも不可能趣向に溢れ、そこまで風呂敷を広げてしょうもないトリックだったら嫌だなとの思いを強くしました。結果的には可もなく不可もなくで、小振りな印象でした。二度の読者への挑戦状が挟まれていて、私の推測はそこそこ良い所まで行っていたんですが、やはりプロの作家には敵いませんね。 しかし、色々と瑕疵が見られ、それがマイナス点となりました。例えば殺人予告は何の意味があったのか、わざわざ密室を作ったりしたのも徒労としか思えませんし。最も謎に包まれた桃子殺害もトリックの為のトリックみたいに感じました。 尚、宮崎勤事件は飽くまで発端でありながら、その鋭い考察(参考文献によるものかも知れませんが)、は一読に値するものだと思います。 |
No.1507 | 5点 | アルファルファ作戦- 筒井康隆 | 2022/10/13 22:52 |
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若者がみな移住してしまった地球に異星人の襲撃が。最後に残った老人たちはいかにして侵略者に立ち向かったのか!?老人問題への温かい心情を示した表題作はじめ、「人口九千九百億」「懲戒の部屋」「色眼鏡の狂詩曲」など、著者の諷刺魂が見事に発揮されたSF九篇―“永遠の前衛”筒井康隆の原点にして不朽の初期傑作集。
『BOOK』データベースより。 無茶苦茶な話が多い割りにインパクトに欠けると云うか、すぐに忘れてしまいそうな短編が多かった気がします。それぞれ最後にオチが付いてくるんですが、ツボを突いてくるものもあれば、首を捻るようなもの、何となく納得してしまうもの等色々です。主にSFです、中にはジャンル不明なのもあったりします。ほとんどドタバタ劇で、何とも言えない独自の世界を構築しているのは間違いないと思います。 個人的にベストはシンプルながらストレートな、人間の根源的な欲望を描いた『一万二千粒の錠剤』ですね。オチも良いです。『懲戒の部屋』は現実にありそうな話で、ちょっと怖いです。如何にも不条理でやり切れません。『近所迷惑』『人口九千九百億』はまあまあ。 |
No.1506 | 6点 | 147ヘルツの警鐘- 川瀬七緒 | 2022/10/12 22:37 |
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火殺人が疑われるアパート全焼事件で、異様な事実が判明する。炭化した焼死体の腹腔に、大量の蝿の幼虫が蠢いていたのだ。混乱に陥った警視庁は、日本で初めて「法医昆虫学」の導入を決断する。捜査に起用されたのは、赤堀涼子という女性学者である。「虫の声」を聴く彼女は、いったい何を見抜くのか!?
『BOOK』データベースより。 乱歩賞受賞作『よろずのことに気をつけよ』で痛い目に遭ってから、この作者は今まで避けていました。それをこの期に及んで読んだのは、随分前に購入していたのを思い出したからでした。その時の心情を推し量る事は難しいですが、多分Amazonでの評価が高かったに過ぎないのでしょう。 で、読んでみると多少のグロい描写を除けば、非常にリーダビリティに優れた読み易い作品でした。更に主役の二人の個性が際立っており、昆虫学と事件の真相とに密接な関係性が見られ、その意味でも評価できると思いました。又、先に述べたグロ描写に関して言えば、私にとっては丁度良いアクセントとなっていたように思います。 本シリーズのファンも結構多いようで、確かにそれも納得できる内容でしたね。個人的に気になるのは刑事岩楯と昆虫学者の赤堀の今後です。本作であからさまに匂わせたその関係は果たして発展するのかどうなのか、これは誰しも興味を惹かれるところだと思います。 一つ苦言を呈するならば、盛り上がりそうで今一つ盛り上がらない終盤のクライマックスシーンなど、もう少し書き様があったのではないかと云う事です。まあしかし、ミステリ読みならずとも受けそうな作品であるとは思います。 |
No.1505 | 7点 | 戦国自衛隊- 半村良 | 2022/10/08 22:58 |
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日本海側で大演習を展開していた自衛隊を、突如“時震”が襲った。突風が渦を巻きあげた瞬間、彼らの姿は跡形もなく消えてしまったのだ。伊庭三尉を中心とする一団は、いつの間にか群雄が割拠する戦国時代にタイムスリップし、そこでのちに○○○○となる武将とめぐり逢う。“歴史”は、哨戒艇、装甲車、ヘリコプターなどの最新兵器を携えた彼らに、何をさせるつもりなのか。日本SF界に衝撃を与えた傑作が新装版で登場。
『BOOK』データベースより。 皆さんご存じの通り、自衛隊が戦国時代にタイムスリップするという奇想天外な物語。陸上自衛隊の三尉伊庭を含めた三十人の隊員達は突然の事で動揺を隠せない。しかしいち早く立ち直った伊庭三尉はのちに誰もが知る超有名な武将長尾景虎と邂逅します。やがて二人は話し合ううちにお互い認め合い、時と共に友情に発展していきます。 景虎の哨戒艇や戦車、ヘリコプターを初めて見た時の、子供の様に目を輝かせ驚きを隠そうともしない純真さに心打たれました。そして二人は否が応でも共闘せざるを得ない状況に陥り、戦闘に突入します。 前半の数々の戦闘シーンには、これ程血沸き肉躍る体験は滅多にあるものではないと感銘を受けました。戦国の世に自衛隊の兵器が躍動するのですから、面白くない訳がありません。 後半は景虎の配下の戦の模様を淡々と描いているので、折角の興奮が醒めてしまい、勿体ないなと感じました。 ラストは過去に起こった事件の辻褄を合わせるのにかなり無理があった様に思いました。驚いて良いのか、感心して良いのか、それともそんな馬鹿なと詰るべきなのか、何とも言えない結末でしたね。 |
No.1504 | 7点 | 龍神池の小さな死体- 梶龍雄 | 2022/10/07 22:33 |
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「お前の弟は殺されたのだよ」死期迫る母の告白を
受け、疎開先で亡くなった弟の死の真相を追い大学 教授・仲城智一は千葉の寒村・山蔵を訪ねる。村一 番の旧家妙見家の裏、弟の亡くなった龍神池に赤い 槍で突かれた惨殺体が浮かぶ。龍神の呪いか? 座 敷牢に封じられた狂人の霊の仕業か? 怒涛の伏線回収に酔い痴れる伝説のパーフェクトミ ステリ降臨。 Amazon内容紹介より。 事前に予想していたような、呪いとか村の因習等の匂いは余りしませんでした。最終章まではやや冗長で、途中からは事の発端となった弟の死はどうなったんだと思い始めたくらい、そっちのけで地味に殺人が進行していきます。 やはりそれなりの年代を感じさせる雰囲気は持っています。文体自体は古臭さを感じさせませんけどね。 結局最終章で全てうっちゃられた感じがしました。解決編の前半の推理にはなるほどと感心しましたが、その後の展開には十分な意外性があり、一瞬唖然となりました。確かによく読めばそこここに伏線が張られていたことに気付いたでしょう。私の場合は余り読書に集中できなかったこともあり、そうだったのか、という驚きがあまりなかったのが悔やまれます。 まあ、隠れた名作との噂はもっともだとは思いました。ちょっと物足りなかった気もしますが。 |
No.1503 | 8点 | 外天楼- 石黒正数 | 2022/10/04 23:01 |
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外天楼と呼ばれる建物にまつわるヘンな人々。エロ本を探す少年がいて、宇宙刑事がいて、ロボットがいて、殺人事件が起こって……? 謎を秘めた姉弟を追い、刑事・桜場冴子は自分勝手な捜査を開始する。“迷”推理が解き明かすのは、外天楼に隠された驚愕の真実……!? 奇妙にねじれて、愉快に切ない――石黒正数が描く不思議系ミステリ!!
Amazon内容紹介より。 私はほぼ漫画は読みません。更に絵心のない私ですが、シンプルなのにこの作者は本当に絵が上手いと思います。そして本格ミステリとSFの絶妙な結合、正に傑作の名に恥じぬ一巻読み切りの作品と言って良いでしょう。コミックですからね、笑わせるツボを押さえながらも、真面目に本格ミステリに取り組む姿勢は見事の一言です。特にダイイングメッセージの幾通りもの解釈には驚きを禁じ得ませんでした。 一話一話が独立した話でも、最後には全てを収束させます。そしてそのその通底に隠れた真実が悲劇を呼びます。話が進むごとにシリアスになっていき本領を発揮します。 何故もっと早く読まなかったのか、自分にがっかりです。しかし、これ程の名作がコミックで読めるとは、本当に私は幸せです。何度も読み返せる作品ですね。 |
No.1502 | 6点 | 同志少女よ、敵を撃て- 逢坂冬馬 | 2022/10/03 22:36 |
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独ソ戦が激化する1942年、モスクワ近郊の農村に暮らす少女セラフィマの日常は、突如として奪われた。急襲したドイツ軍によって、母親のエカチェリーナほか村人たちが惨殺されたのだ。自らも射殺される寸前、セラフィマは赤軍の女性兵士イリーナに救われる。「戦いたいか、死にたいか」――そう問われた彼女は、イリーナが教官を務める訓練学校で一流の狙撃兵になることを決意する。母を撃ったドイツ人狙撃手と、母の遺体を焼き払ったイリーナに復讐するために。同じ境遇で家族を喪い、戦うことを選んだ女性狙撃兵たちとともに訓練を重ねたセラフィマは、やがて独ソ戦の決定的な転換点となるスターリングラードの前線へと向かう。おびただしい死の果てに、彼女が目にした“真の敵"とは?
Amazon内容紹介より。 凄く良く出来た力作だと思います。が、余りに出来すぎていて、何と言うか優等生的な作品になっており、戦争の生々しさや臨場感がいま一つ伝わってこなかったと云うのが私の感想です。期待度が高かっただけに、嫌な予感がしないでも無かったのです。購入したのは今年の3月頃だったと思います。私が買ったのは2月15日の印刷で、その時点で既に14版ですから凄い勢いで重版されていた訳です。本屋大賞受賞だけではない実力を見せつけられました。それを今まで読まなかった理由は、何となく自分に合わないのではないかとの不安からでしょうか。購入しておいてそれはないだろうと自分でも思いますが。 Amazonでの評価は高く、私は7点にしようかと迷いもしましたが、自分に嘘を吐くわけにはいかないのでやはり6点としました。何がいけなかったとは言い難いものがありますが、主人公に感情移入できない、戦争はそんなに生温いものではない、全体的にやや期待外れだった、戦闘シーンに迫力が足りないなどが挙げられます。 ただ、人間は良く描かれていますし、ストーリー性もあり、心に刺さるシーンもありました。まあ誰が読んでも良作だと思うでしょうし、それなりに内容は充実しています。ですから、これから読もうと思っている方は、私の書評は無視してどうぞ読んで下さい。きっと私が感性の欠けたダメ読者なだけなのであって、多くの人が共感できる作品ではないかと思いますよ。 |