皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
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メルカトルさん |
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| 平均点: 6.04点 | 書評数: 1937件 |
| No.1917 | 5点 | 童提灯 - 黒史郎 | 2025/08/27 22:25 |
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| アザコは十(とお)ほどの子供にしか見えなかった。
けれども、貧しい漁村に生まれてから二十年を生きていた。 穢れを知らぬ生娘のように見えたが、アザコは男であり、 とっくに父親に穢されていた。 父に捨てられたアザコは山中を彷徨い不思議な爺と出会う。 やがて爺の後を継ぎ、鬼のための提灯を作るようになる。 子供の身体全てを材料とする「童提灯」を・・・。 Amazon内容紹介より。 全体的にトーンは陰湿で、グロや汚れた要素が満載です。それを平板に描かれている為、それ程嫌悪感は覚えません。単行本で380頁、普通かなと思っていたら二段組みで文字びっしりなので、文庫本相当だと感覚的には600ページを超えています。その上難読漢字や当て字が多く、読み易いとは言い難くかなり苦労しました。 最初の印象はまずまず悪くなく、このままの感じで進んでくれればと思いましたが、そうは問屋が卸しません。折角のキャラを捨て駒にして、ああ勿体ないなあと思ったり、女っ気が全然ないのにも暑苦しさを感じたりしました。所々にこれは、と思う様なエピソードがありましたが、描写に情感が不足しているので、あまり面白くは読めませんでした。文体が合わなかったと簡単に言えばそうなります。ただ一部のファンには受けると思います。出来としてはまずまずとしか言いようがありませんね。 |
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| No.1916 | 5点 | 熾火- 東直己 | 2025/08/22 22:42 |
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| 虐待された少女に突然太股にしがみ付かれた私立探偵畝原。そこから物語は転がり始めますが、余計な描写が多くてやや冗長に感じます。少女は保護されますが喋る事が出来ないし、覚醒している時は暴れる為病院のベッドで眠らされます。私としてはこの少女が気になるところですが、そちらにはあまり触れられません。そうこうしているうちに畝原と親しい女性の姉川が拉致され、ヤマダと名乗る男から連絡が入り畝原にある取引を持ち掛けられます。
Amazonのレビューを見てもグロいとの評判があります。確かにその傾向はあると思います。まあこれは好みの別れるところで、それが一つの持ち味にもなっていると考えれば是とするべきと私は考えます。 終盤は結構盛り上がりますが、それまではあまり読みどころがありません。ファンにとっては面白いであろうと思いますが、一般受けはしないんじゃないかなと感じました。勿論ハードボイルドらしさはありますし、畝原の苦悩は伝わってきます。だから余計に横道にそれてそんな事やってる場合じゃないだろうとか思ってしまいます。 |
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| No.1915 | 6点 | 杉森くんを殺すには- 長谷川まりる | 2025/08/18 22:30 |
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| ――「杉森くんを殺すことにしたの」
高校1年生のヒロは、一大決心をして兄のミトさんに電話をかけた。ヒロは友人の杉森くんを殺すことにしたのだ。そんなヒロにミトさんは「今のうちにやりのこしたことをやっておくこと、裁判所で理由を話すために、どうして杉森くんを殺すことにしたのか、きちんと言葉にしておくこと」という2つの助言をする。具体的な助言に納得したヒロは、ミトさんからのアドバイスをあますことなく実践していくことにするが……。 Amazon内容紹介より。 児童書ですが、私の様な心の病んだ大人が読んでも心に響くものがありました。ここではないどこかで半分ネタバレされたんですが、それでも読む価値はあったと思います。ミステリではないのであまり気にしてはいけないかも知れませんが、仕掛けの見せ方をもう少し上手く出来なかったかなという残念な気持ちはあります。 微笑ましさと痛々しさが同居する青春小説です。誰にとっても優しい語り口調で大衆に訴えかける、ある女子高生の物語で、何故彼女は杉森くんを殺そうと計画しているのかといういわゆるホワイダニットと捉える事も出来ます。 尚特に注目したいのが解説で、本編よりもこちらの方がそれぞれの人の生き方の参考になったりします。人の性格も色々で人生も何が起こるか分からない中で、今まさに苦しんだり悩んだりしている人に読んで欲しい作品です。 |
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| No.1914 | 5点 | 流星と吐き気- 金子玲介 | 2025/08/16 22:23 |
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| ・偶然の再会を「運命」と勘違いして、安全圏から告白をしようとするアーティスト。――流星と吐き気
・アニメにもなった作品の主人公のモデルは自分? サイン会で作者が元カレか確かめる高校教師。――リビングデッドの呼び声 ・担当編集者に振られたにもかかわらず、才能は認められていて作品だけで繫がっている人気漫画家。――種 ・昔付き合っていた彼女から独り言のようなLINEが送られてきて、死を仄めかされた編集者。――消えない ・かつて旅行先で意気投合した男性が偶然お客さんとなり舞い上がるレンタル彼女。――プラネリウム Amazon内容紹介より。 私はこれまでの作者の「死んだシリーズ」を全て読みました。全部7点というそれなりの高評価をしてきました。しかし本作は正直いただけません。大人の恋愛小説という事になるんでしょうが、読みどころに欠けるというか、刺激が足りていないんですよね。衝撃とか驚愕と云った要素が一切ありません。そういうものを求めている私にとっては大いに物足りませんでした。 連作短編としてある趣向が施されてはいますが、決して目新しいものではなく、評価の対象とはなり得ません。Amazonでは相変わらず高評価が目立ちますが、私は評価しません。確かに主人公の内面は描かれていると思いますが、だからどうした、としか言えません。読み易いのでプラス1点としました。これが読み難ければ4点でしたね、っていうか気分的には裏切られた感が強いので気持ちとしては4点です。 |
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| No.1913 | 5点 | 希土類少女- 青柳碧人 | 2025/08/14 22:17 |
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| 高純度のレアメタルを生成する能力を持つ冴矢。症状が発見された少女は、産業を潤わせる一方、25歳までしか生きられない。そんな冴矢の絶望的な日常は施設職員・江波との出会いで変わり始める。だが、やがて二人はコミュニティ全体の命運を左右する決断を迫られるのだった――。限られた時間を生き、運命と対峙する少女の、儚くも美しいSF長編。
Amazon内容紹介より。 うーん、何とも言えませんねえ。良いとも悪いとも言えない、何とも・・・。レアメタル生成症候群という発想は悪くないと思いますが、現実味が薄すぎて如何にも作り物めいた感じが拭えません。それともう少し医学的観点からの描写があっても良かった気がします。ただ記憶に残りそうな印象はあって、その意味では捨てがたいものがあったのかも知れません。 で、結局何がやりたかったのかがよく理解出来ませんでした。要するに特異設定に於ける沙矢と江波のラブストーリーだったのでしょう。時折琴線に触れる様な瞬間もありましたが、どこか喰い足りない側面も見られ、高得点とはならなかったのは残念でした。まあSFと言っても人間臭さが漂うちょっと風変わりなファンタジーと云ったところでしょうか。 |
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| No.1912 | 7点 | 嘘つきパズル- 黒田研二 | 2025/08/12 22:17 |
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| 黒田研二らしくない超異色作。変態ミステリというか、変格ミステリというか、しかしバカミスではないと思います。わざわざ人面猿やモンスターを出してまで呪いを演出するという馬鹿馬鹿しさには、そこまでするかとの疑問が湧きますが、必要とあらば何でもするという姿勢が清々しいです。ただそこだけが浮いている気もします。しかし、これは本作の肝となる部分なのでやむを得ません。
それでも土壇場で究極の探偵(確かに)が誕生し、謎が自然に解決されてしまうシーンには唖然とさせられます。トリックらしきものは物語の設定自体だけなのですが、タイトルの通りパズラーであるのは間違いありません。一般的な孤島物とは一線を画し、良くここまでマニアックな作品が書けたなと感心します。作者の抽斗の多さが伺える珍品です。 |
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| No.1911 | 7点 | 祈れ、最後まで サギサワ麻雀- 鷺沢萠 | 2025/08/09 22:53 |
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| この呆れるほど静かで、けれど熱い気持ちは何なのだろう。(小説「祈れ、最後まで」本文より) 鷺沢萠の愛した世界、最初で最後の麻雀作品集。没後に発見された中編小説「祈れ、最後まで」未発表・完全版、笑って泣ける痛快エッセイ「サギサワ麻雀」を収録!!
Amazon内容紹介より。 サギサワ麻雀はエッセイ集。『祈れ、最後まで』は中編麻雀小説。 エッセイの方は自身や他人の麻雀でのミスやチョンボ、フリテンなどの失敗を綴った物が殆どで、これがまた一々面白いのです。小島武夫、藤原伊織くらいしか有名人は出て来ませんが、頻繁に登場するのが小田原ユキという人物です。調べてみたら著者と親交が深かったというだけで、詳細は何も分かりませんでした。ただ、二人ともガメり過ぎてリーチが掛かると途端に捨てる牌が無くなるという不運に見舞われていたようです。安全牌を持たず、目一杯手を広げてしまうクセが牌図によく表れています。この様に自虐ネタがほとんどで、その方が読む側としては笑える事が改めて実感できました。 『祈れ、最後まで』は打って変わって本格麻雀小説ですが、元雀ゴロに見込まれた、雀荘のメンバーである主人公の若者が、それほど強くないのが残念でした。タンピン三色一盃口のイーシャンテンの手に、わざわざ後々危険になりかねないドラ(一盃口の中膨れ)をいつまでも暗刻で抱えたりして、手を広げ過ぎの感が否めません。一般的に言えば安パイを一枚持つ形に構えるのがセオリーですから。 まあしかし、そう云った些事に目を瞑れば麻雀小説として十分楽しめるものでした。著者は35歳の若さで自ら命を絶ち永眠されました。そうした事情を考える上で、カッコいいお姉さん(結構美人)だったと同時に、ある種破滅型の人だったのかなと、何ともやりきれない思いに駆られる私なのでした。 |
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| No.1910 | 7点 | 蜘蛛の牢より落つるもの- 原浩 | 2025/08/06 22:25 |
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| フリーライターの指谷は、オカルト系情報誌『月刊ダミアン』の依頼で21年前に起こった事件の調査記事を書くことに。
六河原村キャンプ場集団生き埋め死事件――キャンプ場に掘られた穴から複数の人間の死体が見つかったもので、集団自殺とされているが不可解な点が多い。 事件の数年後にダムが建設され、現場の村が今では水底に沈んでいるという状況や、村に伝わる「比丘尼」の逸話、そして事件の生き残りである少年の「知らない女性が穴を掘るよう指示した」という証言から、オカルト好きの間では「比丘尼の怨霊」によるものと囁かれ、伝説的な事件となっている。 事件関係者に話を聞くことになった指谷は、現地調査も兼ねて六河原ダム湖の近くでキャンプをすることに。テントの中で取材準備を進める指谷だが、夜が更けるにつれて湖のまわりには異様な気配が―― Amazon内容紹介より。 何と言っても序盤に提示される事件の不可解さ、奇妙さが際立っており、その後のストーリーを支える牽引力になっているのは間違いないと思います。なかなか全容を現さない割にはテンポ良く物語は進み、手を変え品を変え読者を飽きさせません。文章も上手くホラーとしても良く出来ています。 しかしながら本作は実はホラーの皮を被った本格ミステリなのだったというのは、最後まで読んでから判りました。一枚一枚薄皮を剥いでいくように真相が明かされる様は、そうだったのかという意外性を十分発揮していると思います。比丘尼を祓うシーンだけは余計だった気がしますが、ホラー要素として一応あったほうが良かったという作者の判断だったのでしょうから文句は言えませんね。面白かったですよ、いや本当に。 |
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| No.1909 | 5点 | ミノタウロス現象- 潮谷験 | 2025/08/03 22:28 |
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| 目の前には三メートル超えの怪物、背後には震える少年。好感度を何よりも重視する史上最年少市長・利根川翼は、人生最大のピンチに陥っていた。だが、その危機からの脱出直後、「異様な死体」が発見される――。容疑者の一人になってしまった翼は、自身の疑惑を晴らすために謎解きを始める。『スイッチ 悪意の実験』『時空犯』で話題の新鋭が挑む、渾身の本格ミステリ。
Amazon内容紹介より。 これは本格ミステリと言うよりSFかファンタジーの範疇に入る作品だと思います。それにしても主人公の若き市長は何をするでもなく、己の無能さを晒してしまっているのはどうなんでしょうね。冒頭に起きた殺害事件を置き去りにして、政治を絡めてあらぬ方向へ向かって突っ走る姿勢には、読んでいてなんだこれは?作者はどこを目指しているのだろうかという疑問が自然と湧いてきました。 ジョークではなく本物の怪物を登場させてしまって、何故か分からないけれどある事をすると出現するその怪物は一体何なのかが深掘りされておらず、正体不明の無意味さに辟易させられました。 アイディアとしては悪くないかも知れませんが、どうにもうまく料理出来ているとは思えませんでしたねえ。ここまでやるなら、もっと大胆な仮説やミノタウロスの正体に迫る科学的、医学的アプローチが欲しかったところです。 |
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| No.1908 | 7点 | 白夜行- 東野圭吾 | 2025/07/31 22:32 |
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| 愛することは「罪」なのか。それとも愛されることが「罪」なのか。
1973年、大阪の廃墟ビルで質屋を経営する男が一人殺された。容疑者は次々に浮かぶが、結局、事件は迷宮入りしてしまう。被害者の息子・桐原亮司と、「容疑者」の娘・西本雪穂――暗い眼をした少年と、並外れて美しい少女は、その後、全く別々の道を歩んでいくことになるのだが、二人の周囲に見え隠れする、幾つもの恐るべき犯罪の形跡。しかし、何も「証拠」はない。そして十九年の歳月が流れ……。伏線が幾重にも張り巡らされた緻密なストーリー。壮大なスケールで描かれた、ミステリー史に燦然と輝く大人気作家の記念碑的傑作。200万部突破! Amazon内容紹介より。 今更ながら読みました。流石に一流の大人気作家だと素直に思いました。これだけの大作を一章ごとに視点を変え乍ら二人の男女を外側から描く手腕は、やはり只者ではないなと感じます。其々の章が見事に読者を飽きさせることなく読ませ、物語にのめり込ませるのは出来そうで出来ないことでしょう。 ミステリとしてはそれほど複雑なものではありませんが、物語は大河小説の如き変遷を経て、そしてその裏にはそれぞれの男女の愛憎劇があり、非常に読み応えがありました。最後まで主役の内面はスッキリとは描かれないもどかしさはありますが、その幼少期の悲劇が更なる悲劇を生んだ結果にはある種の納得感がありました。最後はこれで良かったのだろうかとの想いもありましたが、この作品に、そしてこのタイトルに相応しいエンディングだったのかなとも思いました。評点は8点か迷いました。がそんなに簡単にその点数をあげる訳にはいかない気がして・・・。 |
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| No.1907 | 6点 | アルラウネの独白- てにをは | 2025/07/24 22:28 |
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| シリーズ累計160万再生超えの大人気ボカロ曲の小説第3弾! 推理小説が好きな高校生・ひばりと、偏屈な推理作家・久堂の事件簿!! 『推理作家は夜走る』『アルラウネの独白』『雪宿りの作法』の3編収録!!
Amazon内容紹介より。 女学生探偵シリーズ第三弾。個人的には『推理作家は夜走る』>『雪宿りの作法』>『アルラウネの独白』。『推理作家は夜走る』は主人公の女学生探偵ひばりが何やら訳ありげな久堂を尾行し、彼の過去を掘り起こしていきます。その間にひばりの同級生達とも同行したりして、誰一人無駄な人物が出て来ないのが好印象でした。相変わらずの微妙な師弟関が付かず離れず描かれて、二人の行方が気になります。 表題作は呪いが掛けられていると噂される演劇『アルラウネの独白』を巡る日常の謎が描かれています。読み物としては面白いですが、ミステリとしては弱いです。シンプルな密室トリックもありますが、他愛のないものであまり誉められたものではありません。 最後の『雪宿りの作法』は少女?幼女?時代のひばりを預かることになった学生時代の若き日の久堂と、幼気なひばりの初めての出会いが、そこはかとない優しさに包まれた雰囲気で描かれています。中編と短編の最後を飾る物語としては、温かい余韻を残す心に沁みる好編に仕上がっていると思います。 |
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| No.1906 | 6点 | 密室黄金時代の殺人 雪の館と六つのトリック- 鴨崎暖炉 | 2025/07/21 22:33 |
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| 「密室の不解証明は、現場の不在証明と同等の価値がある」との判例により、現場が密室である限りは無罪であることが担保された日本では、密室殺人事件が激増していた。
そんななか著名なミステリー作家が遺したホテル「雪白館」で、密室殺人が起きた。館に通じる唯一の橋が落とされ、孤立した状況で凶行が繰り返される。 現場はいずれも密室、死体の傍らには奇妙なトランプが残されていて――。 本シリーズは二作目から読みましたが、本作の方が典型的な陸の孤島と化した館と徹底的に物理トリックを駆使した密室はマンネリ感がありましたね。次から次へと起こる密室殺人、そしてその都度繰り返される真相開示。そこには完全に予期された展開とお約束が横たわっており、どうせこうなるんだろう?といった、又かと思わせる意外性の無さがありややウンザリさせられました。 ただ、それらを数で圧倒する力技で読者をねじ伏せます。また、登場人物をもじった名前で区別する工夫は褒められるべき点だと思いました。一度に全てを登場させるのではなく順序を踏んで紹介している点も良かったです。しかし、ホワイダニット、フーダニットに関して余りにも無神経だったのは、私としては少々不満でありました。まあでも、全体としては密室のアイディアを買って良作と評価するのに吝かではありません。 |
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| No.1905 | 6点 | 赤死病の館の殺人- 芦辺拓 | 2025/07/18 22:18 |
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| 素人探偵・森江春作の助手・新島ともかは、旅先で奇怪な屋敷に迷い込んだ。七色に塗り分けられ、ジグザグに繋がった七つの部屋。深夜に謎の怪人が現れた翌朝、主の老資産家と孫娘が失踪し、あとには使用人の無惨な死体が残されていた……。(表題作)
Amazon内容紹介より。 相変わらずこの人は面白いんだか面白くないんだか判然としません。掴み所のない文体で描かれているし、お世辞にも読み易いとは言えない文章で、何だか読むこちらとしても気合が入りません。そして、記憶に残りそうにない点は過去の芦辺作品と同様と言えるでしょう。私が今まで読んだ作者で多少なりとも印象に残っているのは『明智小五郎対金田一耕助』くらいです。そんな芦辺拓ですが、人並由真さんがおっしゃるように、今回は芦辺流パズラーが並んだって事になるんでしょうか。 まず表題作はメイントリックには一瞬おっと思いましたが、それはいくらなんでも無理じゃないかと考え直しました。『疾走するジョーカー』もトリックが現実味が薄く、解り易すぎる気がします。見取図を見た瞬間にこれはあれか?と思いましたしね。最も良かったのは『深津警部の不吉な赴任』で、これは面白かったです。こういったとんでもない人物が登場するのは如何なものかと言う意見もあると思いますが、私的にはツボでした。最後の『鬼の密室』は解決編がややこしくてどうでも良くなりました。集中力を欠く読書姿勢で申し訳ないですが、もう少し読ませる文章で書いてくれていたらなあと云ったところです。 |
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| No.1904 | 6点 | 本格力 本棚探偵のミステリ・ブックガイド- 事典・ガイド | 2025/07/14 22:29 |
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| 本格ミステリ誕生から180年。歴史がありすぎて古典ミステリって退屈そう、手のつけどころもわからないしと思っているそこのあなた! 本棚探偵があふれる本格愛を胸に、あの手この手で名作をお薦めします。第17回本格ミステリ大賞受賞、遊び心満載のブックガイドが目次・索引を加えた進化版で文庫化。
Amazon内容紹介より。 海外の古典本格ミステリを色んな括りでピックアップし、H-1グランプリと称して坂東善博士と女子高生のりっちゃんが評価を下していくコーナーがメイン。こちらは私の様な初心者にとってはあまり馴染みのない作品が多く、どう評価して良いのか正直分かりません。最初にあらすじが紹介されるのですが、あまり食指が動かないものが多く、魅力が感じられません。多少読んでいるクイーンやカーなどは初心者らしくりっちゃんの意見に共感しました。 一方、国樹由香が描く『本棚探偵の日常』では愛犬たちの話題が多く、泣けるシーンがあったり麻耶雄嵩の何気ない優しさに感銘を受けたり、エッセイ風の内容となっています。喜国雅彦と国樹由香の夫婦の仲の良さも良く伝わってきます。 他にも勝手に挿絵とか、コラム、短い本棚探偵を描いた漫画、相田みつををパクった本格力の詩など盛りだくさんで、長い割りには飽きが来ませんでした。 |
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| No.1903 | 7点 | 異常【アノマリー】- エルベ・ル=テリエ | 2025/07/11 22:24 |
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| 良心の呵責に悩みながら、きな臭い製薬会社の顧問弁護士をつとめる
アフリカ系アメリカ人のジョアンナ。 穏やかな家庭人にして、無数の偽国籍をもつ殺し屋ブレイク。 鳴かず飛ばずの15年を経て、 突如、私生活まで注目される時の人になったフランスの作家ミゼル……。 彼らが乗り合わせたのは、偶然か、誰かの選択か。 エールフランス006便がニューヨークに向けて降下をはじめたとき、 異常な乱気流に巻きこまれる。 Amazon内容紹介より。 全編、訳者あとがきに至るまで文字がびっしりで、活字中毒の方にお薦めです。私にはとても一晩で一気読みできる代物ではありません。これはSFでもミステリでもなく人間ドラマだと思います。SF風に大風呂敷を広げて、どう収束させるのかと思いきや、収束どころか逆に拡散していきます。その中には様々なドラマがありとても印象深いエピソードもありました。その辺り、純文学としての矜持を保っていますので、メタな部分もありつつエンターテインメントとして捉えるのは間違いではないかと云う気がしました。 起こった事象を宗教観からではなく、もっと物理学的見地からアプローチして欲しかったのが本音です。これをどう着地させるのか興味深く読みましたが、非常に微妙でした。結局そうなるのかと、正直ちょっとがっかりしました。傑作とは思いませんが力作だとは思います。 |
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| No.1902 | 7点 | 死んだ山田と教室- 金子玲介 | 2025/07/06 22:05 |
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| 夏休みが終わる直前、山田が死んだ。飲酒運転の車に轢かれたらしい。山田は勉強が出来て、面白くて、誰にでも優しい、二年E組の人気者だった。二学期初日の教室。悲しみに沈むクラスを元気づけようと担任の花浦が席替えを提案したタイミングで教室のスピーカーから山田の声が聞こえてきたーー。教室は騒然となった。山田の魂はどうやらスピーカーに憑依してしまったらしい。〈俺、二年E組が大好きなんで〉。声だけになった山田と、二Eの仲間たちの不思議な日々がはじまったーー。
Amazon内容紹介より。 二年E組の山田が死んで、スピーカーに憑依したという最初の段階を知った上で読みました。別にそれはネタバレでも何でもなく、自然その現象が日常になっていくまでの過程は面白かったです。それと猫を助けようとしたらしい山田が巻き込まれた事故を、新聞部の二人が調査する章はちょっとミステリっぽくて良かったですね。 しかしその後、同じような展開が続いて私のダラダラした読書に拍車がかかりました。その間、何故この小説が本屋大賞の候補に選ばれたのだろうと考えながら、どうにも理解出来ないなあとぼんやりと思ったりしていました。それが最終章で背筋がシャキーンと伸び、そうなのか、これは実は青春ミステリだったんだと納得しました。時々ダラダラの中に鋭いところを見せてはいましたが、そう来たかと思いましたよ。ただ、最初に登場人物が一気に紹介されるので、誰が誰だか区別が付きにくいのは難点かも知れません。それと、男ばかりで暑苦しいです、それはそれで又良いんですけど。 |
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| No.1901 | 7点 | 午前零時の評議室- 衣刀信吾 | 2025/07/01 22:28 |
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| 大学生の美帆に届いた裁判員選任の案内状。記載された被告人の名前に聞き覚えがあったが、それはアルバイト先の羽水弁護士事務所が担当する事件だった。事前オリエンテーションとして担当判事に呼び出された裁判員たちに、通常とは違う異例の事態が訪れる。一方、弁護士の羽水は検察のストーリーに疑問を抱き、見逃された謎に着目する。被害者の靴下が片方だけ持ち去られたのはなぜか? それを元に事件の洗い直しを始めるが……。
現役弁護士が仕掛ける伏線の数々……あなたはいくつ見破れる? Amazon内容紹介より。 第28回日本ミステリー文学大賞新人賞受賞作。 硬質な文体で描かれる、どこかでお見かけした事がある様な展開で、新しさは感じられません。一応、最初に裁判員裁判制度の問題を提議している辺りは、社会派を思わせますが、最終的にゴリゴリの本格ミステリであることがはっきり解ります。数々の伏線を回収し、逆転に次ぐ逆転を見事に演じて見せて、少々胸やけがする思いすらします。 あれこれ盛り過ぎな感もしますが、大きな齟齬は見られず、なかなかの力作だと思います。ただ舞台が固定されているので相当な閉塞感は否めません。それは息苦しくなる程で、緊迫感も半端ではありません。 細かすぎて伝わらない伏線選手権があれば断トツかも。 |
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| No.1900 | 7点 | 52ヘルツのクジラたち- 町田その子 | 2025/06/27 22:22 |
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| 52ヘルツのクジラとは、他のクジラが聞き取れない高い周波数で鳴く世界で一匹だけのクジラ。何も届かない、何も届けられない。そのためこの世で一番孤独だと言われている。
自分の人生を家族に搾取されてきた女性・貴瑚と、母に虐待され「ムシ」と呼ばれる少年。孤独ゆえ愛を欲し、裏切られてきた彼らが出会い、新たな魂の物語が生まれる――。 Amazon内容紹介より。 流石に本屋大賞受賞作だけのことはあります。私に言わせれば広義のミステリですね。ちょっと無理があるかも知れませんが、トリックは確りと仕掛けられています。普通の感性を持っている人なら一回は涙を流す事でしょう。正に良作と言えると思います。物語は色々な形で動きます、その辺りの手腕は確かなものがあり、小説としてちゃんとした体裁を持っています。 そして登場人物もキッチリ書き分けられており、人間ドラマとして極上の時間を提供してくれます。一人きりで悩んだり辛い思いをしている人々に特に読んで欲しい小説です。きっと何かのきっかけになる事と思います。又そう願いたいです。 |
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| No.1899 | 5点 | 入居者全滅事故物件- 晴海水亭 | 2025/06/24 22:10 |
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| 『私、ストロング・ザ・メリーさん……』
深夜二時に東城明子のスマートフォンにかかってきたのは、都市伝説怪談めいた内容だった。 だが、ストロング・ザ・メリーさん……!? 何かがおかしい……。 「その……イタズラですか……?」 『貴様を殺す』 Amazon内容紹介より。 序盤は文句なしに面白かったですし、ラストもまあまあ良かったです。しかし、魅力的な登場人物が多い割りには中弛みが目立ちました。ストーリー的には悪くないものの、描き方が稚拙なせいかどうにも乗り切れません。全体的には結局何が言いたかったのか、何を書きたかったのかよく解りませんでした。 うーん、どうにも勿体ない感じがして仕方ありません。素材を上手く料理出来なかった印象で、実に残念な作品としか言えません。怖さはほとんどなく、アクションシーンも迫力不足で真に迫った、情景が浮かぶような描写がほとんど見られませんでした。個人的にとても消化不良で、何となく終わってしまった感が否めません。B級ホラーと言われても文句は言えないですね。 |
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| No.1898 | 7点 | 殺人事件に巻き込まれて走っている場合ではないメロス- 五条紀夫 | 2025/06/21 22:48 |
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| 自身の身代わりとなった親友・セリヌンティウスを救うため、3日で故郷と首都を往復しなければならないメロス。しかし妹の婚礼前夜、新郎の父が殺された。現場は自分と妹しか開けられない羊小屋。密室殺人である。早く首都へ戻りたいメロスは、急ぎこの事件を解決することに!? その後も道のりに立ちふさがる山賊の死体や、荒れ狂う川の溺死体。そして首都で待ち受ける、衝撃の真実とは? 二度読み必至の傑作ミステリ!
Amazon内容紹介より。 『吾輩は猫である』と並んで日本で最も有名な書き出しの『走れメロス』のパスティッシュです。原作は読んでいないので、どこまでが筋をなぞっているのかよく解りませんが、ミステリならではのガジェットが満載の好篇だと思います。決して色眼鏡で軽んじてはいけない本格ミステリです。勿論現代の話ではありませんので、科学捜査とかとは無縁の世界ですが、基本的には現代物と通底しており様々なトリックを楽しめます。 もじったネーミングセンスも良いので、誰が誰だかすぐに判ります。また、メロスに簡単に感情移入出来ますので、話にもすんなり入って行けます。殺人事件そのものはそれ程謎めいてはいないですが、解決編が一々面白いのでストンと腑に落ちます。文章も紀元前の物語とは思えないほど解りやすく、意外な人物も登場して、最後まで楽しめます。 |
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