海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

メルカトルさん
平均点: 6.04点 書評数: 2006件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1986 6点 をんごく- 北沢陶 2026/03/09 22:22
大正時代末期、大阪船場。画家の壮一郎は、妻・倭子の死を受け入れられずにいた。
未練から巫女に降霊を頼んだがうまくいかず、「奥さんは普通の霊とは違う」と警告を受ける。
巫女の懸念は現実となり、壮一郎のもとに倭子が現われるが、その声や気配は歪なものであった。
倭子の霊について探る壮一郎は、顔のない存在「エリマキ」と出会う。
エリマキは死を自覚していない霊を喰って生きていると言い、
倭子の霊を狙うが、大勢の“何か”に阻まれてしまう。
壮一郎とエリマキは怪現象の謎を追ううち、忌まわしい事実に直面する――。
Amazon内容紹介より。

かなり評価の高い作品ですが、それ程でもありませんでした。第一幕で横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞として合格かなと思いました。しかし第二から第三幕ではあまり盛り上がらないし怖くない、ホラーと言うより文芸作品に近い感触で読みました。文章が上手いとか美しいとか言われていますが、特別優れているとは感じません。クライマックスの第四幕は結構面白かったですけど。

壮一郎は語り手だし、巫女はなかなか良い味出していたりしますが、何と言ってもこの小説を大きく支えているのは、人の姿をした人ならざる存在のエリマキによるところが大きく、物語の半分は彼の魅力でもっていると思います。
それにしてもこの賞、受賞作も最終選考に残った作品もホラーばかりでミステリの敷居がそれほど高いのかと疑わざるを得ません。まあミステリの新人賞は他に沢山あるので、そちらに流れているのだとは思いますけどね。
蛇足ですが、最後に掲載されているホラー大賞受賞作をよく見ると結構読んでいるなと、私はそれ程ホラーが好きなのかと思い知らされました。

No.1985 6点 百年文通- 伴名練 2026/03/07 22:34
扉の向こうに、永遠を見つけた。
女子中学生の小櫛一琉は、引き出しに入れたものが百年前に送られる不思議な机を発見する。そうして机を通じて手紙を送ってきた大正時代の少女・日向静と文通をすることになるが、仲を深める二人の間に時代の荒波が立ちはだかる――ふたつの時を越えて描かれる感動作。
Amazon内容紹介より。

惜しむらくはその短さ。折角の好編なのに、あまりにも纏めすぎてちょっと窮屈な感じになっている気がしてやや残念です。まだページが残っていると思っていたら、あっさり終わってしまいました。その分あとがきが長い、そんなSF作品の紹介なんていらないからもう少し本編を読みたかったなと言うのが正直なところです。

最初は些細な――と言っても実際は大事件なのですが――事柄が次第に時代を揺るがす、スケールの大きなストーリーに発展していきます。SFファンには勿論、例えばラノベ読者なんかにも読んでいただきたい作品に仕上がっていると思います。しかし主人公の一琉の妹美頼の性格の悪さには嫌悪感を覚えますねえ。それにしても時折訪れる高揚感は何なのでしょう、見知らぬ少女同士の時代を超えたやり取りに心を揺さぶられる何かがあったのかも知れません。感動したというのとはちょっと違う感情ですが、自分でも上手く表現できません。

No.1984 6点 さよならダイノサウルス- ロバート・J・ソウヤー 2026/03/05 22:49
あの『イリーガル・エイリアン』の作者ですからね、期待しない訳にはいきません。が、期待通りとは言い難く、面白い部分とそうでもない部分がはっきりしています。大半を占める私ことブランディの説明文はな難解ではないものの、恐竜好きには堪らないのかも知れませんが、普通の知識しか持ち合わせていない私の様な読者にとっては、拍手を持って迎えられるほどではありませんでした。しかしこの小説の設定上、永く記憶に残りそうな気はします。

特異な物語(SFとしてはありがち)ながら、何故恐竜は滅んだのか、又恐竜はどうしてあれ程巨大になり得たのか、等の謎が問いかけられています。そしてそれを意外な形で答えを出しているのには成程と思わされました。
登場人物は極端に少なく、ほぼ二人に限定されていますが、私が密かに注目していたある人物の行く末が余りにも悲惨で想定外だったのが痛々しく、残念でなりません。もう少し露出度を上げて欲しかったですね。結構重要な人物だし、もっと活躍するかと思っていたのになあ。

No.1983 6点 幻影城の奇術師- 吉村達也 2026/03/02 22:11
氷室想介の求愛を虚しく待ちつづけ、ついに彼のもとを去ったアシスタントの川井舞。
失意の彼女は国際的マジシャンとして活躍するノブ・オダと婚約した。
だが、その彼に突然浮上した22年前の一家惨殺事件の犯人疑惑。
しかも唯一の生き残りである女性カウンセラーが、ノブの訪問を受けた直後に変死体 で発見!
Amazon内容紹介より。

読み易く面白いけれど、ミステリ的強さメーターはやや弱目な感じですかね。
アメリカに本拠地を持つ希代のイリュージョニスト、22年前の惨劇、探偵と助手の恋、双子、怪しげな教団、謎めいたQAZの正体等、これでもかとガジェットを盛り込んだ本格ミステリです。普通に読めばそれなりの出来だとは思いますが、もう一歩突き抜けたものが無いのがちょっと物足りません。でもこの人の作品でこれだけグロいシーンがあるのは初めてかも。

しかし、シリーズ物としても単独でもかなり楽しめます。途中でもやし炒めのくだりが出てきた時は、おおこれかと思いましたね。そこだけはよく覚えていました、いやシリーズ第一弾の話です。私が読んだ限りでは平均点の多い吉村達也、今回もそれを上回る事なく終わってしまいました。
それにしても、氷室京介の最初の推理はどこから来るものだったのかと思ってしまう程、伏線が張られていません。結局推理ではなく推測だったのですが、あまりに唐突で何故そんなことが解るのと疑問に感じました。

No.1982 6点 ひとりかくれんぼ- TAKAKO 2026/02/28 22:32
真夜中、ちょっとした細工を施したぬいぐるみを相手に一人でかくれんぼをすると、何かが起こる?と言う都市伝説を実行した高校生達を襲う怪異とは。
読み始めてすぐに、ああこれはよくあるB級ホラーの典型的なやつだなと思いましたが、一味も二味も違いました。かなり本格的なホラー小説です。起承転結が確りしており、途中で『月刊ホラーミステリー』の編集者が登場する辺りから過去の事件との関連が見え始め、物語は大きく動き出します。

都市伝説と過去との因縁、意外な人間関係、ミステリ的仕掛けなど見どころが多く読み応えもあります。心理描写も良く出来ているし、それぞれのキャラも個性的であり、またリーダビリティも優れているのでノンストップで読むのも可能です。何より面白いのが一番ですね、怖さもそれなりでプロットもなかなかよく練り込まれた佳作だと思います。

No.1981 5点 その血は瞳に映らない- 天祢涼 2026/02/26 22:18
正直に書きます。まぁ楽しめた、その通り採点は5点です。基本短編用の話を無理やり引き延ばして長編に仕立てた感じがします。そのせいか、同じような事柄を何度も繰り返したり、余計な描写が目立ったりします。しかもこの作者に関してこれまで感じたことの無い文章の拙さが読み難さを増長させている様に思いました。あくまで個人の感想ですので、本稿はあまり参考にしないで下さい。

登場人物は少なくないですが、中身が薄いと感じました。事件は至ってシンプルで最後までそこ一辺倒で押しまくり、ストーリーの広がりはありません。折角の逆転劇もあまり効果的とも劇的とも言えず、カタルシスは得られませんでした。Amazonの評価でも意見は割れているようですので、中には私の様なへそ曲がりな読者がいても可笑しくはないと思います。本作に関しては作者の実力が十分に発揮されているとは思いませんでした。

No.1980 7点 我孫子武丸犯人当て全集- 我孫子武丸 2026/02/23 22:35
「犯人当て」とは、問題編と解決編に分かれた、「読者が犯人を当てるべく読む小説」。
“読み手がフェアに謎解きができるよう、
地の文に嘘があってはならず、手掛かりや論理の瑕疵も許されないーー”
新本格ミステリの名手・我孫子武丸が犯人当ての腕を磨いた、京都大学推理小説研究会の厳格な掟がそれだった。
犯人当ては、「必ず」論理的に謎が解けるようにつくられている!
問題編を読み、推理をしてから、解決編のページを開いてください。
Amazon内容紹介より。

作者自身の解説付きと言うのが親切ですね。星海社としては書下ろしを要望していたようですが、残念ながら作者の意向でそれは通らず。その代わりこれまでにアンソロジーで編まれた作品(一作以外)から、フーダニットに特化した短編を集めたものならという事で、本作品集が刊行された経緯があるようです。

アリバイを扱ったものが二作ありますが、個人的な好みから言うとこれらはいまひとつでした。しかし、他の三作品はいずれも秀逸の出来だと思います。特にお気に入りは『幼すぎる目撃者』です。我孫子武丸自身が偏愛するだけあって異色すぎる唯一のホワイダニットもの。凝りに凝ったというのとは違いますが、真相はかなり意表を突かれました。問題編もスマートでぜい肉をそぎ落とし、必要最低限のヒントで解けるように上手く出来ていると思いました。次点は『漂流者』。犯人当て以外に、記憶喪失に陥った「私」は誰かも問題として付随しており、同時に解ける快感を味わえそう。解けた人にはね。

No.1979 6点 小説王- 早見和真 2026/02/22 22:34
大手出版社の文芸編集者・俊太郎と、華々しいデビューを飾ったものの鳴かず飛ばずの作家・豊隆は幼馴染みだった。いつか仕事を。そう約束したが、編集長の交代などで、企画すら具体的にならないまま時間だけが過ぎていく。やがて、俊太郎の所属する文芸誌は存続を危ぶまれ、豊隆は生活すら危うい状況に追い込まれる。そんな中、俊太郎は起死回生の一手を思いつく。三流編集者と売れない作家が、出版界にしかけた壮大なケンカの行方は!?
Amazon内容紹介より。

作家と編集者のそれぞれの立場から描かれた、出版業界の光と闇。更に大袈裟に言えばその裏舞台や内幕を暴くと云った内容の文芸作品であり、エンターテインメント小説であります。主役の二人は勿論、その他の登場人物がその人なりの役割をキッチリ果たしているところにこの作品の面白さがあります。又人間ドラマとしても相当出来の良い方だと思います。とにかく人間がよく描けていますね。

さして派手なな展開がある訳ではありませんが、作者の持つ文章力で自然に物語に惹き込まれました。人生色々あるものだなとつくづく感じさせます。いや、実際この人を見直しました。『イノセント・デイズ』では散々こき下ろしした私ですが、本作ではこんなのも書けるんだという感慨を抱きました。他の作品も読んでみようかと思わせるのに十分な力作でした。

No.1978 7点 キャンプをしたいだけなのに- 山翠夏人 2026/02/18 22:37
無気力系【ソロキャンプ】女子 VS 殺人鬼【サイコパス】!
無気力系【ソロキャンプ】女子 VS 殺人鬼【サイコパス】!
怪異より恐ろしい夜が始まる時、無気力系女子が覚醒する、新感覚サバイバルホラー!
Amazon内容紹介より。

ホラーなのかサスペンスなのか、はたまたミステリなのか、なかなかジャンル分けの難しい作品です。無気力系と言うより心臓強すぎじゃないのと思わせる主人公、斉藤ナツは敢えて感情移入しづらいキャラに仕立てられています。こんな女いないだろうと云う位冷酷と言うか、メンタル最強の女子ですね。その彼女がソロキャンプを楽しみたいだけなのに、何故か二度も殺人鬼に遭遇しながら、知力と鉄の心で立ち向かいます。

本格ミステリ並みの伏線回収はお見事で、テンポ良く読めて後味も最高。これは一般読者にも広く受け入れられる良作だと思いました。登場人物は多くないけれど、それでもこれだけ人間の心理を揺さぶられる事に感銘を受けました。気軽に読めてちょっとした驚きと感動を体験したい人にお薦めです。

No.1977 5点 虎よ、虎よ!- アルフレッド・ベスター 2026/02/16 22:07
“ジョウント”と呼ばれるテレポーテイションにより、世界は大きく変貌した。一瞬のうちに、人びとが自由にどこへでも行けるようになったとき、それは富と窃盗、収奪と劫略、怖るべき惑星間戦争をもたらしたのだ! この物情騒然たる25世紀を背景として、顔に異様な虎の刺青をされた野生の男ガリヴァー・フォイルの、無限の時空をまたにかけた絢爛たる〈ヴォーガ〉復讐の物語が、ここに始まる……鬼才が放つ不朽の名作!
Amazon内容紹介より。

本サイトでの評価が高かったので読んでみましたが、正直期待通りとは行きませんでした。解説にある様な十年に一度の傑作とはとても思えません。私には合わなかったとしか言えないですね。「これだから素人は」という声があちらこちらから聞こえてきそうですねえ。そうです、私は本を読む事に関しては元々素人だと思っていますので、どうしようもありません。

本作はジョウントありきの作品なので、冒頭でジョウントが詳細に説明され、その時点ではかなり高得点が期待できると感じました。なかなか面白い発想だと思いました。その後もメインストーリーに関しては楽しめましたが、所々で説明不足で情景が浮かんできません。冗長だったのも気になるところ。ラストははっきり言って訳が分かりませんでしたね。残念な結果に終わりましたが、これはひとえに私の読解力の無さから来るものだと思いますので、この感想は気にせず他の方の書評を参考にされますようお願いします。

No.1976 6点 ゾンビ3.0- 石川智健 2026/02/14 22:23
香月百合は新宿区戸山の予防感染研究所に休日出勤する。研究熱心で優秀な下村翔太や、医学博士で女性所員憧れの加瀬祐司も出勤していた。日曜なのに全所員の8%ほどの計40人が研究所にいるようだ。席に着いてWHOのサイトに接続すると、気になる報告があった。アフガニスタンやシリアなどの紛争地域で人が突然気絶し、1分前後経つと狂暴になって人を襲い始めるという。しばらくすると研究所内の大型テレビに、現実とは思えないニュース映像が映った。人が人を襲う暴動が日本各地で起こっているというのだ。いや、世界中で。WHOの報告と関係があるのだろうか。研究所は2メートルの塀で囲われているが、外が騒がしくなってきた。テレビ画面に向かって所員が呟いた。「これゾンビでしょ」。
Amazon内容紹介より。

まあ面白かったけれど、終盤までテレビ越しにゾンビが増殖しているのを目の当たりにしているのに、イマイチ切迫した空気が感じられなかったのが残念。それと最後まで、何故世界中で同時多発的にゾンビが現れたのかが描かれていなかったのも、スッキリしませんでした。しかし、終盤になってゾンビが出現した原因を突き止めていく過程は、目を瞠るものがあり、それまでと打って変わって生き生きとしてきます。
予防感染研究所の面々も、途中で参戦した現役警察官の一条やゾンビオタクの城田もそれぞれ個性的で良かったと思います。終盤ではゾンビと無関係の意外な展開が待っており、その意味でも楽しめます。





【ネタバレ】





結局そもそもの原因はモジホコリという粘菌であり、脳がないにも拘らず記憶能力を持っているというものだった訳ですが、これは実在します。読み終わってから気になって検索せずにはいられませんでした。興味のある方はググってみて下さい。尚コロナに関する記述はほんの僅かでした。同じ感染症と云う事でもっとスポットが当てられるかと思いましたけどね。まあゾンビとは関係ないから仕方ないでしょうか。

No.1975 7点 うたかたの娘- 綿原芹 2026/02/10 22:44
道に佇む不気味な人物をきっかけにしてナンパに成功した「僕」。相手の女性と雑談をするうちに故郷の話になる。そこは若狭のとある港町で、奇妙な人魚伝説があるのだ。そのまま「僕」は高校時代を思い出し、並外れた美しさで目立っていた水嶋という女子生徒のことを語る。彼女はある日、秘密を「僕」に明かした。「私、人魚かもしれん」幼い頃に〈何か〉の血を飲んだことで、大病が治り、さらには顔の造りが美しく変化したのだと――。
Amazon内容紹介より。

第45回横溝正史ミステリ&ホラー大賞受賞作。
連作短編形式の長編小説で、大作ではないものの、読み応えは十分ありました。読後、これは綾辻行人のホラーに通じるものがあるなと思ったら、選考委員の一人である綾辻氏は本作を推していたと書いていて、ああやっぱりなと思いました。

四作の短編はそれぞれ少しずつテイストを変えていますが、特に人物像を鋭い刃物で抉る様に描いている点は共通しています。中でも男に関しては誰も彼もろくでなしばかりで、読んでいて男ってのは駄目だよなあと思わせられました。この作者はその他にも構成やストーリーの流れ、控えめながら時にハッとさせられるグロいシーンなどに見られる様に、天賦の才を与えらえた逸材なのではないかと思います。書けそうで書けない、誰にも真似できない自身の確固としたスタイルを貫いていて好感が持てました。ただし読んで気持ちの良いものではありません、逆に気持ち悪いのが癖になるのです。ホラーですから、これくらいで丁度良いのではないですかね。

No.1974 7点 消失村の殺戮理論- 森晶麿 2026/02/08 22:19
帝旺大学人文学部文化人類学科の若き准教授・岩井戸泰巳率いる岩井戸研が赴いたのは、噂として存在が囁かれる地図にない村ーー網花村。
文科省が隠匿するその村では、双頭の鯢(はんざき)ーー巨大な大山椒魚の神に生贄を捧げる〈花匣の儀〉を執り行っていた。
捧げた生贄の消失を受け入れている彼らの閉鎖世界で発生する人々の大量消失……これは人間の策謀か、人智を超えた神の仕業か?
尋常の推理は体を成さず、異形の真実が剥き出しにされるーー!
Amazon内容紹介より。

特殊設定の複雑系トンデモミステリ。私は本作を本格と言い切る事が出来ません。ジャンルミックス的な、根幹は本格ミステリですが、ホラー、SF、ファンタジーなどの要素が入り混じった新感覚のミステリだと考えます。前作程の衝撃はないものの、入り組んだ人間関係や一見単純に見える大量人間消失事件の数々の裏に隠された○○には、唸るしかありません。

本作にはトリックと言うより様々な絡繰りが潜んでおり、最早ハチャメチャとしか思えない何でもアリの特異なミステリになってしまっています。私の様な荒唐無稽な話が好きな読者には持って来いの小説だと思います。多分それ程多くないファンの中でも賛否両論を呼びそうな内容だけに、私は勿論是としますが、今後の評価を待ちたいと思います。一応ミステリとしての体裁は取れていますし、破綻している訳ではありませんので、それだけは念のため申し上げておきます。

No.1973 7点 阿佐田哲也麻雀小説自選集- 阿佐田哲也 2026/02/04 22:08
『麻雀放浪記 青春編』と自選の短編16作を収録。阿佐田哲也の麻雀小説の短編にハズレがないのは解っていましたから安心して読めました。何作かは角川文庫に収められているので重複していますが、取り敢えず全部読みました。『麻雀放浪記』は読みたいところだけ抜粋して。過去に五回ほど読んでいますので、今更全編読む気にはなれませんでした。

流石に阿佐田哲也、何を書いても凄みが違いますね。主人公の私(著者自身を投影したもの)が強敵のバイニン達と対決するという話が殆どですが、迫力とちょっとしたユーモアと人情とがない交ぜになった、独自の文学を披露しています。個人的には、麻雀劇画『哲也』に登場していたダンチというオヒキ(相棒)とガン牌の印南の二人の正体が判明したのが嬉しい誤算でした。それこそ今更ですがね。再読作品も結末を忘れていたりして、改めてそんな話だったんだと腑に落ちる場面もあり、全作楽しめました。

No.1972 7点 狼少年ABC- 梓崎優 2026/02/02 22:25
「俺、昔、喋る狼に会ったことがあるんだよ」カナダの温帯雨林にやってきた三人の日本人大学生。狼の生態に関するフィールドワークのかたわら、ひとりが不思議なことを言い出して──(表題作)。
大人になる前の特別な時間を鮮やかに切り出した、四つの中編を収録。『叫びと祈り』『リバーサイド・チルドレン』の著者が贈る、ミステリ仕立てのエモーショナルな青春小説。
Amazon内容紹介より。

『放課後探偵団』を読んだのが12年前の事。その最後に載っていたのが本作品集の掉尾に収録されている『スプリング・ハズ・カム』でした。それを知ったのは第三話を読んでいた途中で、あれ?読んだっけとなりました。そしてそれを読み始めても内容が全く思い出せませんでした。いけませんね、年のせいでしょうか、一昔前の短編を忘れてしまっているとは情けない。

しかしながら再読して良かったと心から思いました。これは間違いなく傑作です。他の作品も水準をクリアしており、第一話の『美しい雪の物語』はミステリ色が薄いです。『重力と飛翔』に似たトリックは読んだ事があります。それでも表題作と共に佳作だと思います。これだけの実力を持っているのなら、もっと書けば良いのにと勝手な願望を抱く私なのでした。

No.1971 4点 BOXBOXBOXBOX- 坂本湾 2026/01/30 22:18
デビュー作にして第174回芥川賞候補作! 第62回文藝賞受賞作。
宅配所に流れる箱を仕分ける安(あん)。ある箱の中身を見た瞬間から次々に箱が消えていって――顔なき作業員たちの倦怠と衝動を描き、新時代の〈労働〉を暴くベルトコンベア・サスペンス。
「私」であることを必要とされない労働において、「私」を保ち続けることはいかにして可能か?時代の閉塞感をこれでもかと執拗に抉りだす圧巻のデビュー作。
Amazon内容紹介より。

確かに窃盗という犯罪を描いていますが、サスペンスでもなければミステリでもありません。文藝賞受賞だか芥川賞候補だかか知りませんが、どこが面白いんだろうと言うのが私の率直な感想です。舞台は宅配所に固定されており、ストーリー性等は全くありません。起承転結的なものはありますが、紆余曲折もなく一向に盛り上がらないですね。粘着質な文章でそこは独特ですが、慣れないとどうにも馴染めません。

人間が描かれていないとは言いませんが、個性が足りない為折角の人物描写も中途半端で、褒められたものではありません。どういう感性を持っていればこれを十全に理解できるのでしょうかね。後味も悪く、一体自分は何を読まされたのかさえ曖昧になってきます。興味本位や好奇心で読む小説ではありませんね。

No.1970 5点 吾輩が猫ですか!?- 小山洋典 2026/01/28 22:17
度重なる激務に耐えかね、ついに倒れてしまったアラサーのサラリーマン・明智正五郎は、『神』による理不尽な気まぐれ(?)によって、一匹の猫に憑依させられてしまう。
そして、突如として始まった、猫の飼い主のひきこもり女子高生・柊との共同生活。
猫になった明智には、神から次々と柊を救うための試練が与えられ……?
Amazon内容紹介より。

ファンタジーで登録しようかと思いましたが、テーマは其処ではないのでその他にしました。ミステリでもないのに何故明智正五郎なのかは不明。別に作者がミステリファンという訳ではなさそうです。とにもかくにも猫に憑依された明智は悪戦苦闘の連続です。そりゃそうでしょう、猫には言葉が話せないし、ニャーとかフニャンとか鳴くか、誰かに纏わり付くとか、ドアをカリカリと爪で引っ掻くくらいしかコミュニケーションを取る方法がないですから。

しかし、ししゃも(猫の名前)になってしまった明智は神からの試練を達成しない限り人間には戻れないのですから必死です。何とか柊が抱える問題を少しずつ解決していきます。その過程は女子高生柊の成長物語でもあります。そう、当事者は柊の方であり、明智はそれを支えながら、時に人間に戻ってアドバイスを与える脇役なのです。ストーリーとしては当然ながらあくまで予定調和的であり、意外性はありません。しかし、引き籠っていた柊が登校を始め、人間関係を構築していきながら過去のトラウマを克服していく姿を描いた本作は王道の青春小説と言えるでしょう。心が汚れていない純粋な人ほど感動しやすい作品だと思います。

No.1969 5点 爬虫館事件 新青年傑作選- アンソロジー(ミステリー文学資料館編) 2026/01/26 22:15
19篇の短編から成る『新青年』の傑作選。という事でどれだけ探偵小説を楽しめるかと思ったら、殆どがホラーで、他は純文学だったりギャンブル小説であったり様々。大体名前くらいは知っている作家でしたが、お初にお目に掛かるのは瀬下耽、南沢十七、三橋一夫、橘外男の四人でした。新青年と言っても色々書かれていたんですね。考えてみれば角川ホラー文庫なのでホラー主体なのは事前に確認できた訳ですが、全然頭になかったですね。

やはり最も印象に残るのは横溝正史の『面影双紙』で、これは別格です。怪しい雰囲気の中にもミステリ要素があり、さすがの面目躍如と云ったところです。他に良かったのは、大阪圭吉の奇想が光る『灯台鬼』、海野十三のシリーズ探偵帆村壮六が出て来る『爬虫館事件』、角田喜久雄の『狂水病患者』、三橋一夫の『猫柳の下にて』、橘外男の名作『逗子物語』辺りですかねえ。流石に戦前の作品なので、どれも時代を感じさせるのはやむを得ませんが、今読んでみて現在のミステリシーンの作品群と比較してしまうとやはりレベル的に劣る感は否めませんね。

No.1968 8点 放課後にはうってつけの殺人- 佐藤友哉 2026/01/23 22:34
1988年北海道千歳市。クリスマスイブの夜、13歳の浅葉悟は、父の机から「血のついたコート」を発見する。テレビは白いワゴン車が絡む女児殺害事件を報じ、警察は町を巡回していた。父の乗る車もまた白いワゴン車だったのだ。平穏な日常を守るために、悟は少し離れた林に行き、「血のついたコート」を焼くのだが、その一部始終をクラスメイトの見船美和に見られてしまう。見船は悟に「私といっしょに、犯人をさがしませんか?」と意外な提案を持ちかけるのだった。
Amazon内容紹介より。

私は本作が大好きです。本来なら人に薦められる様な作品ではないでしょうが、個人的に非常に気に入っています。青春ミステリと言うより思春期ミステリと言うべきかなと感じます。所謂中二病的な要素をたっぷりと含んだ、異形の小説であり、主人公の浅葉悟に対するアンチテーゼ的存在として探偵が立ちはだかる歪さが特徴であります。

中盤までは不穏な空気と平和な雰囲気が混在した、仄かにメフィスト臭が匂う青春小説ですが、第四章で様相が一変します。一体何が起こっているのか、小説として破綻しているのではないかとさえ思いました。勿論それも作者の計算通り。
尚Amazonのレビューには若干ネタバレが含まれている部分がありますので、読まれる方は注意していただきたいと思います。一部には気持ち悪いとの感想もあるようですが、それを承知の上で私はこの作品を愛して止みません。コスパも悪いし図書館ででも借りて読むのも良いかなと思いますよ。ただし、これを許容できるかどうかの責任は持てませんので悪しからず。

No.1967 5点 謀殺のチェス・ゲーム- 山田正紀 2026/01/19 22:29
プロローグで男女二人がある事件を起こしたことに始まるこの物語には、かなり期待していました。これは面白そうだと思っていたら、本筋は全く違ったものであったのでややテンションが下がりました。本作は作者が27歳の時に書かれたもので、若書きにありがちなぎこちなさが感じられます。ここは表現を変えたほうが良いのではないかと思える箇所が幾度か見られたり、くどい程同じ単語が頻出するのにもちょっと疲れました。

物語自体は面白い場面もあり、特に佐伯絡みの戦闘シーンなどはなかなか迫力もので、佐伯自身の魅力も相まってストーリー全体を支える重要なパーツになっていると思われます。主に対決する立花の方ももう少し人物像が描かれていると、もっと映えたのにねえ。
私はハルキ文庫で読みました。解説の西澤保彦は山田正紀LOVEを前面に押し出して、自分は山田正紀になりたかったと書いています。その西澤氏も亡くなり、時の無常を感じずにはいられません。思えばデビュー作の『解体諸因』にときめき、『神のロジック人のマジック』で唸らされたものでしたが。

キーワードから探す
メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 白井智之 他多数
採点傾向
平均点: 6.04点   採点数: 2006件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
アンソロジー(出版社編)(29)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(20)
日日日(20)
中山七里(19)
森博嗣(18)