海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

メルカトルさん
平均点: 6.02点 書評数: 1768件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1748 7点 衣裳戸棚の女- ピーター・アントニイ 2024/02/27 22:40
七月のある朝少し前、長身巨漢の名探偵ヴェリティはけしからぬ光景に遭遇した。町のホテルの二階の一室の窓から男が現われ、隣室の窓へ忍びこんで行ったのだ。支配人にご注進に及んでいると、当の不審人物がおりてきて、人が殺されているとへたりこむ。さらに外では、同じ窓から地上に降りた人物が。問題の部屋に駆けつけてみると、ドアも窓もしっかり鍵がおりていて、中には射殺死体が――戦後最高の密室ミステリと激賞される名編。
Amazon内容紹介より。

本作を読んだのは、ふと『みんな教えて』を見たら、なんとお二方から投稿がありまして、その中で以前購入していたものを選んだといった理由からです。この場をお借りして書かせていただきます、切っ掛けを下さったレッドキングさん、ありがとうございます。『シャム双児の秘密』もどこかにある筈なのでいずれ読みますよ。あとはやはり本命の『くたばれ健康法!』ですね、必ず読みます。そして臣さん、私のささやかな質問にお答えくださり、本当にありがとうございます。参考にさせていただきます。順番は前後しますが、蟷螂の斧さん、『レーン最後の事件』忘れてませんから。いつか読ませていただきます。みりんさんの『双月城の惨劇』もHORNETさん推薦の『鍵の掛かった男』も読まねば。みなさん貴重なご意見誠にありがとうございます。

で、本作ですが、こういう海外の本格ミステリを求めていたんだと声を大にして言いたいです。若干のユーモアを含みつつ、優雅に進行していくストーリーに酔いました。個人的にはバカミスではないと思います。立派な密室ものじゃないですか。そして最後の一撃に打ちのめされた私なのでした。探偵のヴェリティや警部のランブラーも良い味出していますし、各容疑者も個性的でその意味でも楽しめました。

No.1747 5点 夜を歩けば2 ガテラルデイズ- あやめゆう 2024/02/25 22:30
ライブ終了後に集団暴行事件が。2年前も同じ歌手の周辺で異能がらみの事件があったことから、一野たちが調べることになるが……
Amazon内容紹介より。

緩急を付けているのは良いですが、緩の割合が高すぎて退屈な面がありました。シリーズ一作目に見られた様な文章の表現力の豊かさは感じられません。情景描写も少なく、石本花梨の日常が少なめで、私としては前作と比較するとかなり出来がよろしくないと言わざるを得ません。何よりも、一応一話完結ですが、シリーズ物として設定は変わらないのに、各キャラの人格や人間関係が端折られているのがいけません。よって本作を最初に読んだ読者は、いきなりニートで独身男性の部屋で女子高生が勉強しているのはどういう事?ってなると思います。その辺りの説明不足が不親切と言えば不親切でしょう。

今回は連続集団暴行事件の謎を異能で調査するアルバイト探偵達の活躍を描いています。まあ活躍という程でもありませんが。オチはミステリやサスペンスでありがちなもので目新しさはありません。それでも特殊設定を巧みに利用し、真相に意外性を持たせているのは褒められる点かも知れません。

No.1746 6点 虚構推理 スリーピング・マーダー- 城平京 2024/02/23 22:44
「二十三年前、私は妖狐と取引し、妻を殺してもらったのだよ」
妖怪と人間の調停役として怪異事件を解決してきた岩永琴子は、大富豪の老人に告白される。彼の依頼は親族に自身が殺人犯であると認めさせること。だが妖狐の力を借りた老人にはアリバイが!
琴子はいかにして、妖怪の存在を伏せたまま、富豪一族に嘘の真実を推理させるのか!?
虚実が反転する衝撃ミステリ最新長編!
Amazon内容紹介より。

主役が人ならざるモノだとこうなってしまうのでしょうかねえ。シリーズ第一弾もそうだった様に、ここでも色々と「真実」をでっちあげています。最初の高校時代の琴子を描いた、同じ部屋で三人連続で自殺した事件はまあ説得力がありました。なかなか面白い推測でなるほどなと感心させられるものでしたよ。しかし本筋の妖狐による妻殺しに突入してから、急に読み難くなった印象で、私にとっては好ましからざる展開になりました。ダミーの推理はそれなりに真実味がある一方、納得の行かない部分もあり多重推理ものと言う程中身が詰まっているとは言い難いですね。

肝心の真相となると完全に後出しで、伏線回収とかロジックの構築とかとは無縁の世界でかなり拍子抜けです。本格ミステリとしての矜持はどうした、と言いたくなる様な締め方で物足りません。という訳で冒頭で申し上げたように、二人の主人公がアレだとどうしても特殊性に頼らざるを得ない事になってしまう訳ですね。この作者の場合、一般的に見てトリックメーカー的な立場には無い為やむを得ないかも知れませんけれど。
しかし、メインテーマよりも高校生琴子がミステリ研に入部した経緯やその後のちょっとした活躍の方に惹かれたので、その点を鑑みて無難な評価に落ち着きました。

No.1745 3点 奥様は惨殺少女 - 神波裕太 2024/02/21 22:24
フリーホラーゲーム「奥様は惨殺少女」&「料理」が本人の手により、禁断のノベル化!
「みゆき」を選ぶと即BAD END。衝撃の展開の連続。そして、待ち受けるラストとは――!?

俺の名前は大志、商社に勤める将来有望なサラリーマンである。
今日も一日のお勤めを終えて愛する妻のいる我が家に帰る。
妻の名前はさゆり。可愛いさかりの中学生だ。
結婚できるのかとかそういう問題はこの際置いといて、存分に俺と幼妻とのラブっぷりを堪能してくれ――。
Amazon内容紹介より。

同じシーンが何度も何度もしつこく繰り返される、小説の体を成していない駄作。所々に挿入される幕間と閑話がグロくてちょっと良いんですが、それが無ければ最早小説とすら言えない代物です。流石にこれは4点以上は付けられませんね。
ゲームの作者自身が手掛けたノベライズ作品ですが、作家としては褒めるべき部分がありません。ルビに大変な不備があり、すわ叙述トリックかと思ったりもしましたが、只の誤りだと気づき業腹な私なのでした。この人には文章力がなく人間が描変えていないとか以前の問題です。根本的に読むに値せず、時間を無駄にするだけの愚を犯してしまいました。乱読しているとたまにある事なので諦めますが。

まず何を置いても面白くないのが致命的です。登場人物もたったの三人だけで、一向に盛り上がりもせず抑揚もなくストーリー性皆無で、何処が読みどころなのかさっぱり解りません。まあ読む方も読む方ですが、こんなものを出す方も出す方だと思いますよ。Amazonでは俄かには信じられない高評価ですが、これはゲーマー票で普段本を読まない人々のご意見でしょう。だから決して当てにしてはいけなかったのですね。無念、試し読みまでしながらこんなものを読んでしまうとは・・・我ながら不覚でした。

No.1744 6点 小説 ブラック・ジャック- 瀬名秀明 2024/02/19 22:15
「医療ロボット」「iPS細胞」「終末期医療」などの現代医療、さらにはそれを飛び越え近未来をも予感させるテーマで描かれる、ブラック・ジャックの活躍。
そして、それぞれの事情を抱えた患者たち・医師たちと、無免許の天才外科医の邂逅が紡ぎ出すヒューマンドラマ。
もちろんピノコやドクター・キリコといった作品キャラクターは言うに及ばず、思わぬ手塚キャラたちとも再会できる1冊となっています。
誰もが読みたかった、誰もがもう読めないと思っていた、懐かしく新しい『ブラック・ジャック』がここにあります!
Amazon内容紹介より。

手塚治虫原作の漫画のノベライズ短編集。
それぞれ面白かった、特にAIロボットと対決する第一話、悲しい結末と少年の新たな出発が感動を呼ぶ第四話が個人的には好きです。
漫画も読んだ事がなく、キャラもブラック・ジャックとピノコしか知らない私が、これといった思い入れもないまま古本を購入してから随分経ちました。漸く読み始めて思ったのは、上手く先端医療を駆使し現代にB・Jを蘇らせているなという事です。

文章がこなれているとは思いませんし、B・Jにもあまり感情移入出来ませんでした。漫画なら違ったのかも知れませんが、あまりにクールで人間臭さがないと感じられたのが原因でしょうか。もう少し魅力的に描く事は出来なかったのかと思われてなりません。それでも、外科医としての執刀シーンは目を瞠るものがあり、その神業の様なメスの扱いや正確無比であまりのスピードの速さは文章を通してよく伝わってきます。エンターテインメント小説として優れていると思います。B・Jの過去に何があったのかも知れます。

No.1743 7点 決戦!忠臣蔵- アンソロジー(出版社編) 2024/02/16 22:42
夢枕獏が、山本一力が、諸田玲子が……「忠臣蔵」を描く! いままで戦国時代を舞台にすることが多かった「決戦!」シリーズだが、今回の舞台は江戸は元禄、テーマは「忠臣蔵」。当代きっての名手・七人が、日本人が愛し続ける物語に挑む。義挙を前にした人々の悲哀、本懐を遂げた男たちの晴れ晴れとした思い。そして、主君を守れなかった吉良方の無念……。今までにはない、”涙”の「決戦!」シリーズの誕生。
Amazon内容紹介より。

各賞を受賞した手練れの時代作家達がそれぞれの『忠臣蔵』を、思いを込めて書き上げた決戦!シリーズのひとつ。無論、真正面から描くには短編では容量が足りないので、スピンオフではないけれどサイドストーリーとなっています。主人公は大石内蔵助、不破数右衛門、内蔵助の妻りく、神崎与五郎の妻ゆい、吉良側のお抱え武士清水一学ら。勿論他の赤穂浪士の名前も色々出て来ます。その中で目立っているのは堀部安兵衛、小野寺十内、大高源五辺りか。

いずれも史実を基にしたフィクションでありながら、そんな事もあったかも知れないと思わせるだけのリアリティは持っています。全て佳作揃いで、中でもラスト二作は思わず落涙させられてしまいました。ありきたりな忠臣蔵には飽きた方にも珍品として重宝されそうな短編集です。

No.1742 5点 厭な物語- アンソロジー(出版社編) 2024/02/14 22:11
誰にも好かれ、真っ当に生きている自分をさしおいて彼と結婚するなんて。クレアは村の富豪の心を射止めた美女ヴィヴィアンを憎悪していた。だがある日ヴィヴィアンの不貞の証拠が…。巨匠クリスティーが女性の闇を抉る「崖っぷち」他、人間の心の恐ろしさを描いて読む者をひきつける世界の名作を厳選したアンソロジー。夢も希望もなく、救いも光明もない11の物語。パトリシア・ハイスミス、モーリス・ルヴェル、ジョー・R.ランズデール、シャーリ・ジャクスン、フラナリー・オコナーらの珠玉のイヤミス集。翻訳文学未体験者もゾクゾクしながら読める短篇揃い。有名作から、隠れた衝撃作まで、一人では抱えきれない「厭な」ラストを、ぜひ体験してみてほしい。
Amazon内容紹介より。

印象に残ったのはパトリシア・ハイスミスの『すっぽん』(既読)、シャーリィ・ジャクソン『くじ』、ローレンス・ブロック『言えないわけ』位です。『くじ』は有名作で期待していましたが、それ程でもありませんでした。いずれも先が読める作品なので、評価としてはあまり高得点は付けられないですね。他は訳が分からないものとか、退屈さを覚えるもの等、とても褒められたものではありませんでした。

こう云うのを読むにつけ思うのは、やはり日本のミステリは世界一だという事です。あくまで個人の感想ですので、お前が言うなというご意見は甘んじて受けますが、日本を除いた全世界が束になってかかっても日本のミステリには勝てないと思います。特に本格ミステリに関してはレベルが違い過ぎると言っても過言ではないです。古典はその限りではありませんけどね。
本作品集もジャンル的にはイヤミスになるかと思われますが、日本のイヤミスの方が洒落の効いた粋な短編が多いですよ。何度も言いますがあくまで個人の感想です。

No.1741 8点 バールの正しい使い方- 青本雪平 2024/02/12 22:21
転校を繰り返す小学生の礼恩が、行く先々で出会うクラスメイトは噓つきばかりだった。
なぜ彼らは噓をつくのか。

友達に嫌われてもかまわないと少女がつく噓。
海辺の町で一緒にタイムマシンを作った友達の噓。
五人のクラスメイトが集まってついた噓。
お母さんのことが大好きな少年がつかれた噓。
主人公になりたくない女の子がついた噓。

さらにはどの学校でもバールについての噂が出回っているのはなぜなのか。
やがて礼恩は、バールを手にとり――。
Amazon内容紹介より。

その本質が判る人には判る、判らない人には判らない、そんな連作短編集です。
だから、賛否が分かれるのだと思います。肝心なのはこの作品のどこかが琴線に触れるか否か、でしょうね。端的に言えば好みの問題となってしまうかも知れませんが。私のフィーリングにはぴったりとフィットしました。文章は淀みなく流れる様で、情景描写も心に響くものがあり、ミステリとしては意外性を持っていて、そんなトリックを?と驚かされる事があったり、人間が描けている、読み応え十分です。

最後の『ライオンとカメレオン』とエピローグだけは他と毛色が違います。少しだけ混乱したので、ここだけは二度読みました。それまでのストーリ性が見られず、ややぎこちない感じを受けました。読みやすさがなりをひそめ、やや読解力を要するものになっている気がします。もう少しストレートに攻めても良かったのではないか、驚きの一撃を読者に食らわせる事も出来ただろうに、ちょっと勿体なかったかなというのが正直な感想です。
それでも高評価は変わりません。帯にある書店員の絶賛の声を侮ってはいけませんよ。彼らは本を売るプロですからね、それを信用して読んでみるのも一興ではないですかね。

No.1740 6点 でぃすぺる- 今村昌弘 2024/02/10 22:09
残念ながら期待を上回る事はありませんでした。小学生が主役のせいか、ジュブナイル寄りな為か、折角の七不思議という魅力的な題材を上手く料理出来ていない気がしてなりません。もう少し怪談話らしく禍々しさを強調して欲しかったです。その謎に挑む三人の小学六年生の男女は中途半端に謎を残しながら、少しずつ真相に迫りますが、手付かずの疑問を残し過ぎではないでしょうか。結局最後にはその疑問点は全て解明される訳ですが、道中何だかモヤモヤする気分が抜け切れず、あまり乗れませんでした。

そして最大の不思議な点が最後に残った感じでしたね。何故そんな事をしたのか、もっと他に最善手が無かったものかと個人的に思ってしまいます。私の読みが甘いせいかも知れませんが。いずれにせよ、あまりスッキリした読後感ではありませんでした。ただ、なかなかの反転や、ミステリとオカルトの境界線を渡り歩きながら子供たちが協力して過去の事件の謎解きをしていく姿はまずまず描けていたと思います。それとミナの意外な活躍のシーンには感動しました。

No.1739 5点 長く短い呪文- 石崎幸二 2024/02/07 22:13
呪いがテーマとなっている割りに、陰惨な空気がほとんど感じられません。
やはり物足りないのは、事件らしい事件が起こらない事。これでは本格ミステリを読んだ気になりませんね。それを補って余りあるのは、ミリアとユリ、石崎の掛け合いではなく、幼気な双子の姉妹が可愛くて癒されるところですね。この二人の露出度が高く、凄く無邪気で素直な言動に好感を覚えました。

ミステリとしては地味であまり誉められたものではありませんが、伏線を回収し論理的に詰めていく過程が一応読みどころですかね。少々強引な部分がないではないです。まあでも、結果全て丸く収まって、事件を未然に防いだトリオの活躍は、殺人ありきのミステリとは一線を画しているので、その辺りは評価すべきかもしれません。
あまり私の好みではないです。笑えるシーンもそこそこで、本シリーズのらしさは出ていると思いますが、今まで読んだ中では最もつまらなかった作品ですね。

No.1738 8点 暗闇の中で子供- 舞城王太郎 2024/02/05 22:31
あの連続主婦殴打生き埋め事件と三角蔵密室はささやかな序章に過ぎなかった!
「おめえら全員これからどんどん酷い目に遭うんやぞ!」
模倣犯(コピーキャット)/運命の少女(ファム・ファタル)/そして待ち受ける圧倒的救済(カタルシス)……。奈津川家きっての価値なし男(WASTE)にして三文ミステリ作家、奈津川三郎がまっしぐらにダイブする新たな地獄。
――いまもっとも危険な“小説”がここにある!
Amazon内容紹介より。

激しく読者を選ぶ作品だけど、こういう荒唐無稽なの好きだなー。一見破綻している様で破綻していない所がまた良いですね。デビュー作『煙か土か食い物』ではあまりピンと来ず、すっかり忘れ去ってしまっています。20年以上経っていますからね、その間に私も少しは成長したって事でしょうか。家中を捜索して読み返してみますかね。本作はその続編だから、やはり再読してみないと何とも言えませんが、多分作風は変わっていないだろうし、今ならかなり楽しめるかも知れません。

それにしても次から次へと事件が起こり過ぎです。その書きっぷりは殴りつける様な感じで、文字による暴力と言っても過言ではありません。冒頭に『マニトウ』が出てきた時は何故かドキッとしました。その時予感しました、これはただでは済まないと。予想通り、普通の感覚では読み切れない何物かがこの作品には宿っている様です。それはおそらく作者の魂だと思います。改行が極端に少なく独特の福井弁なのか知りませんが、会話文も相当捻くれています。そんなのはまだ生温い方で、何を書くにも過激で特に最大にして最後に解かれる事件の結末には畏怖の念を覚えました。そんな馬鹿な・・・。そしてラストの何とも言い様のない、様々な感情がない交ぜになった主人公三郎の心情や如何に、と、思います。この結末は正直キツイです。

No.1737 6点 完璧な小説ができるまで- 川崎七音 2024/02/02 22:33
レーベルがメディアワークスだけにラノベなのかなと思ったら、ラノベ臭は一切ありませんでした。単行本で出しても問題ない位のレベルです。
序盤はありがちな青春小説ですが、ここである事件が起こりながらも一旦通常運転に戻ります。本当の物語の始まりは中盤、主人公である社会人になった月村のスマホに送られてきた一通のメールだったのです。其処からじりじりとサスペンスが進行していきます。書き方が丁寧な上に、低刺激なので展開としては衝撃的なはずが、あまりそれを感じさせない所が損をしている気がします。

プロットは折原一に似ています、又心理描写は乙一辺りを想起させます。
テーマは作家とは何か小説家とは何か、そして「完璧な小説」とは何なのかというもので、多くの小説家がぶつかるであろう壁に真っ向から取り組んでいます。登場人物は少なくシンプルで、その分頭に入り易い優しい文章に仕立てて、閉塞感を覚えそうなシチュエーションにも拘らず、独特の世界観に読者を誘い魅了します。心情的には7点付けたいところでしたが、柱となるトリックにあまり驚けなかった点を考慮してこの点数にしました。

No.1736 7点 涜神館殺人事件- 手代木正太郎 2024/01/31 21:48
“妖精の淑女”と渾名されるイカサマ霊媒師・グリフィスが招かれたのは、帝国屈指の幽霊屋敷・涜神館。
悪魔崇拝の牙城であったその館には、帝国が誇る本物の霊能力者が集っていた。
交霊会で得た霊の証言から館の謎の解明を試みる彼らを、何者かの魔手が続々と屠り去ってしまう……。
この館で一体何が起こっていたのか?
この事件は論理で解けるものなのか?
殺人と超常現象と伝承とが絡み合う先に、館に眠る忌まわしき真実が浮上するーーーー!!
Amazon内容紹介より。

前半はとにかくオカルトで押しまくります。死体が出てきても殺人が起こっても、ひたすらオカルト。それがインチキとか何らかの仕掛けではなく、本当の超常現象だから我々読者はそれを飲み込むしかありません。その辺を完全に理解してから読めば、結構楽しめます。それに加えてエログロ要素もかなりあるので、先行きが心配になる程です。でも本格なので安心して下さい。

それにしてもこのタイトル、神をも恐れぬ罰当たりなやつじゃないですか。しかし、それに見合った内容ではあります。過激と言えば過激です。まあミステリとしては地道に伏線を回収してロジックで推理を進める様なタイプではありません。反則気味な部分もありますし。それでも真相は一応理に適ったものであり、それなりに納得できます。やや動機が弱いと言うか、在りがちなものななので、その辺は減点材料。
普通のミステリに飽きた方にお薦め。かなり毛色の変わった怪作かと思います。

No.1735 5点 死体は散歩する- クレイグ・ライス 2024/01/28 22:02
「ジェイク、あたし脅迫されてるの」そう言って、ラジオのスター歌手ネルは姿を消した。彼女の元恋人を訪ねてみると、出くわしたのは何と相手の射殺体。おまけに、追い討ちをかけるように当の死体が失踪し、ジェイクの困惑は頂点へ…。1930年代のラジオ界を舞台にお馴染みマローン、ジェイク、ヘレンが活躍するユーモア・ミステリ、待望の文庫化。
『BOOK』データベースより。

コンディション不良のせいか、これまで多くの国内産の手の込んだミステリを読んで来たせいか、本作にはほぼ心が動きませんでした。人並由真さんには申し訳ないですが、とても高評価を下す気にはなれません。一年後には中身をすっぱり忘れている自信がありますね。
第一に謎めいた事件がなく、惹かれる部分がありません。長々と読まされて、推理や議論されるでもなく、最後の最後に僅かなページ数で明かされる真相に意外性が全くありませんし、非常に貧弱に思えました。

探偵のマローンは魅力に乏しく、大した活躍をしていません。ただ何故死体が移動したのか位しかピックアップされず、ミステリとしての骨格が弱々しいです。それを登場人物の関係性で補おうとしている様ですが、そっち方面には興味がないので、私としてはそこを評価する訳にはいきませんし。点数としては5点の最下層に相当すると思っています。
まあ正直どこが面白いのかよく分からないというか、楽しみ方を誰か教えて欲しいと感じた次第です。

No.1734 6点 殺してしまえば判らない- 射逆裕二 2024/01/23 22:33
首藤彪三十四歳、現在無職。妻の彩理は、東伊豆の自宅の書斎出入口で血まみれとなって死んでいた。確たる物証もないまま、妻は自殺として処理される。彪は失意のあまり東伊豆を離れるが、彩理の死の真相を究明するために再びそこで暮らす決意をする。だが、引っ越してきた直後、周囲で発生する陰惨な事件やトラブルに巻き込まれてしまう。その渦中で知り合いとなってしまった奇妙な女装マニアの中年男・狐久保朝志。外見に似合わず頭脳明晰、観察力抜群な彼の活躍で、彪の周囲で起こる事件は次々と解決していき、さらには妻の死の真相まで知ることとなるのだが…。予測不能な展開と軽妙な文体、そしてアクの強い探偵の鮮やかすぎる推理で、読者を超絶&挑発の迷宮へと誘う本格ミステリ。斯界を震撼させる女装探偵・狐久保朝志初登場。横溝正史ミステリ大賞作家が放つ超絶&挑発しまくりの本格迷宮推理。
『BOOK』データベースより。

取り敢えず、人間が描けていません。主要な三人も登場頻度の割にはやはり描けていません。もう少し個性を感じさせてくれないと、感情移入出来ませんね。その他の人物に至っては、誰がどんな役割を担っているのかさっぱり伝わってきません。読んでも読んでもそれが私には判りませんでした。
本筋以外の全く関係ない事件を持ち込んでみても、それはそれで完結している訳で、おまけ程度にしか感じられません。

では何故6点付けているのか。ケチばかり付けましたが、真相が明かされる最終盤に至って、これが又見違えた様に凄みを見せ付け、衝撃を読者に与えます。ここを最大限に評価してこの点数に。意外というか奇想というか、思ってもみなかったカタルシスを齎してくれました。そしてダラダラ読んでいたせいもあって、思いの外そこここに伏線が張られていたのにも驚かされました。

No.1733 7点 好きです、死んでください- 中村あき 2024/01/21 22:04
無人島のコテージに滞在する男女の恋模様を放送する、恋愛リアリティーショー「クローズド・カップル」の撮影が始まった。
俳優、小説家、グラビアアイドルなど、様々な業種から集められた出演者は交流を深めていくが、撮影期間中に出演者である人気女優・松浦花火が死体となって見つかった。
事件現場の部屋は密室状態で、本土と隔絶された島にいたのは出演者とスタッフをあわせて八人のみ。一体誰がどうやって殺したのか?
そして彼女の死は、新たな惨劇を生み出して――。
Amazon内容紹介より。

おそらく多くのミステリファンは、このタイトルと恋愛リアリティーショーと云う若い男女の絡みとの思い込みにより、敬遠されていると思います。が、想像以上に本格派で、読んで損はないと言いたいです。
確かに最初に仕掛けられた事件にはいささか脱力させられました。え~?やっぱりこんなものかと正直がっかりしました。それでもその推理合戦はなかなか読ませるもので、バカに出来ません。

そして本筋では密室殺人や○○死体が本作を彩り、一筋縄では行かない事件の様相を呈します。思ったよりも複雑で意外性もあり、そして数多くの伏線が散りばめられています。決して捨て置いて良い作品ではなく、世間的にももっと読まれるべきものだと思います。作者の実力は確かで、今後の活躍を期待したいですね。全体的にバランスよく過不足のない秀作だと思います。

No.1732 5点 霊界予告殺人- 山村正夫 2024/01/19 22:20
交通事故で臨死体験した探偵作家が、日常生活に戻ると次々に不可思議な体験をする。まばたきをしない人々、唇も動かさないのに聞えてくる話声。そして死んだはずの恋人が姿を現わす。霊界に踏み込んだ男は、コナン・ドイルを名ざした予告殺人に遭遇、クリスティ、乱歩、正史らと霊界殺人の謎解きに挑む。
『BOOK』データベースより。

序盤、主人公の探偵作家が不可解な世界に足を踏み込んでしまっているのを自覚出来ずに、戸惑っている姿を読む限りは、これから起こる事に期待が膨らみます。しかしそれも、事態が明らかになって来るにつれて平常心を取り戻して、通常のミステリと対する姿勢に変わりました。つまりは、まあまあ面白いのですが、それ程テンションが上がらない状態ですね。

霊界のミステリ作家が実在の人物ばかりなので、気を遣い過ぎたのか、あまり個性が感じられません。魅力に乏しいのです。折角の素材の良さが活かされていない様に思えます。そして、霊界のシステムが複雑で真相に至ってもなんとなく腑に落ちない点がありました。
もう少し見せ方というか、描き様があったのではないかと思います。其処に作者の限界を見た気がして、淋しい気持ちになったりしました。うーん、山村正夫、惜しいなあ。

No.1731 5点 憑物語- 西尾維新 2024/01/16 22:50
“頼むからひと思いに―人思いにやってくれ”少しずつ、だがしかし確実に「これまで目を瞑ってきたこと」を清算させられていく阿良々木暦。大学受験も差し迫った2月、ついに彼の身に起こった“見過ごすことのできない”変化とは…。「物語」は終わりへ向けて、憑かれたように走りはじめる―これぞ現代の怪異!怪異!怪異!青春に、別れの言葉はつきものだ。
『BOOK』データベースより。

はっきり言ってこれはロリ好きの為の小説と断言しても間違いではないと思います。まず最初の70ページが暦の妹、月火とのいちゃつきのみで進行し、妄想全開のラノベ風。まあ元々本シリーズはラノベ寄りだから許されますけど。あと、ストーリー性がほとんどありません。場面変換は三回くらいしかないので、凄く単調に感じます。流石に日常の何でもない事を面白おかしく書く西尾維新をもってしても、余りにも変節が無さ過ぎじゃないでしょうか。ラストのオチはちょっと良かったですけど。

まるで何かの付け足しの如き作品で、ついでに書いてみました感満載です。予定では本シリーズ最終盤の筈だったのに、その後も延々続いているのは、読者の要望なのか著者の気まぐれなのか分かりませんが、いずれにせよ書きたかったんでしょうね、続きを。確かに臥煙伊豆湖や忍野メメのその後なんかは気になるところですけどね。その辺りまだまだ語り尽していないところが多々ありそうですし。

No.1730 8点 爆弾- 呉勝浩 2024/01/14 22:24
些細な傷害事件で、とぼけた見た目の中年男が野方署に連行された。
たかが酔っ払いと見くびる警察だが、男は取調べの最中「十時に秋葉原で爆発がある」と予言する。
直後、秋葉原の廃ビルが爆発。まさか、この男“本物”か。さらに男はあっけらかんと告げる。
「ここから三度、次は一時間後に爆発します」。
警察は爆発を止めることができるのか。
爆弾魔の悪意に戦慄する、ノンストップ・ミステリー。
Amazon内容紹介より。

これは又目を瞠る程骨太の力作ですね。
何だか知らないけど、物凄い迫力です。息をも付かせぬとはこう云う事を言うんでしょう。まず何と言ってもスズキのキャラが濃すぎです。どう表現して良いのか分かりませんが、とぼけている様で妙に気が回る、故意に記憶喪失を装い手練れの刑事達を翻弄しまくる異様な雰囲気を持った謎の自称49歳の男。この人物の語りだけでも全く飽きが来ません。1ミリも無駄のない描写で圧巻の400ページ超えもダレることなく読み切れます。

対する警察側も負けてはいません。恫喝等にはまるで屈しないスズキは、自分の言い分を聞き入れる刑事達には対等に接します。刑事は入れ代わり立ち代わり尋問、というよりはスズキの出す遠回しなヒントを基に爆弾が仕掛けられた場所を必死に模索していきます。等々力、清宮、類家、伊勢、鶴久、紅一点の紗良、それぞれの内面がよく描き分けられています。中でも類家対スズキの頭脳戦は読み応え十分です、まあ本作に関しては最初から最後まで全てが読みどころと言えると思いますけど。
これだけ読ませる警察小説は滅多にお目に掛かれないと思います。傑作間違いなし。

No.1729 5点 治療島- セバスチャン・フィツェック 2024/01/10 21:44
目撃者も、手がかりも、そして死体もない。著名な精神科医ヴィクトルの愛娘ヨゼフィーネ(ヨーズィ)が、目の前から姿を消した。死に物狂いで捜索するヴィクトル、しかし娘の行方はようとして知れなかった。4年後、小さな島の別荘に引きこもっていた彼のもとへ、アンナと名乗る謎の女性が訪ねてくる。自らを統合失調症だと言い、治療を求めて妄想を語り始めるアンナ。それは、娘によく似た少女が、親の前から姿を隠す物語だった。話の誘惑に抗し難く、吹き荒れる嵐の中で奇妙な“治療”を開始するヴィクトル、すると失踪の思いもよらぬ真実が…2006年ドイツで発売なるや、たちまち大ベストセラーとなった、スピード感あふれるネオ・サイコスリラー登場。
『BOOK』データベースより。

精神病患者でありながら精神科医と統合失調症患者で謎の女の対決。様々な謎を孕んだストーリーは悪くないですが、もう少し書き様があったのではないかという気がしてなりません。外堀を埋めて少しずつ真実に近づく速度が遅すぎてじれったいったらありゃしない、です。もう少し核心に迫る様な描写があっても良かったんじゃないでしょうかね。遅々として進まない展開にイライラします。

ドイツではこれが大ベストセラーになったと言うんだから、底が知れてますね。日本だったら新人作家である事を考慮しても、それほど話題になった筈がありません。こなれた作家ならもっと上手く料理出来たかも知れませんが、この何とも言えず地に足が付かない据わりの悪さが、本作では裏目に出ていると思います。

キーワードから探す
メルカトルさん
ひとこと
「ミステリの祭典」の異端児、メルカトルです。変人でもあります。色んな意味で嫌われ者です(笑)。
最近では、自分好みの本格ミステリが見当たらず、過去の名作も読み尽した感があり、誰も読まないような作品ばか...
好きな作家
島田荘司 京極夏彦 綾辻行人 麻耶雄嵩 浦賀和宏 他多数
採点傾向
平均点: 6.02点   採点数: 1768件
採点の多い作家(TOP10)
浦賀和宏(33)
島田荘司(25)
西尾維新(25)
アンソロジー(出版社編)(23)
京極夏彦(22)
綾辻行人(22)
折原一(19)
中山七里(19)
日日日(18)
森博嗣(17)