皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
メルカトルさん |
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平均点: 6.04点 | 書評数: 1828件 |
No.1528 | 7点 | 変な絵- 雨穴 | 2022/11/25 22:25 |
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ホラー作家兼YouTuberである雨穴氏による、自身初となる11万字書き下ろし「長編小説」!
タイトルは『変な絵』。 見れば見るほど、何かがおかしい? とあるブログに投稿された『風に立つ女の絵』、消えた男児が描いた『灰色に塗りつぶされたマンションの絵』、山奥で見つかった遺体が残した『震えた線で描かれた山並みの絵』……。 いったい、彼らは何を伝えたかったのか――。9枚の奇妙な絵に秘められた衝撃の真実とは!? その謎が解けたとき、すべての事件が一つに繋がる! 今、最も注目を集めるホラー作家が描く、戦慄のスケッチ・ミステリー! ※前作『変な家』の“キーマン”栗原も登場! ※購入者「全員特典」として、雨穴による第一章「風に立つ女の絵」オモコワ朗読動画(1時間)つき! Amazon内容紹介より。 みなさん、この作品を色眼鏡で見てませんか?良くないですよ、そういうの。取り敢えず先入観無しで読んでみて頂きたい珍品だと思います。意外と本格で結構複雑な話です。嫌と言うほど親切に太字や傍点、かぎ括弧、歪み文字、それにプラスしてタイトル通り絵や表が散りばめられており、時系列のバラけた順序と相俟って、余計に全体像を複雑にしてしまっている印象を受けました。 しかし、もう一度読み直せば多分色々納得出来る面が出てくる気がします。流石に絵を使ったトリックは成程と思わせるだけのものを持っています。前作の事は知りませんが、Amazonなどでこれだけ多くのレビューがある事自体、本作の持つ引力の様なものを感じます。まあ、『変な家』で一気にブレイクした作者の二作目ともなれば当然とも言えるでしょうけどね。兎に角読んでみないと何も分からないって事ですね。普通に面白かったですよ。 |
No.1527 | 8点 | 逆転美人- 藤崎翔 | 2022/11/24 22:38 |
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私はジャンルに関係なく8点以上は余程の事がない限り付けません。それでも本作には8点を献上する以外の選択肢はありませんでした。
読後、15分間衝撃に打ちのめされて、座したまま身動き出来ませんでした。心の中では余韻に浸る余裕もなく、只管反芻していたのです、繰り返しこの本を。 本年のランキングのある意味でダークホースになり得る逸品と思います。 内容に関しては敢えて語りません。それは必要ないと判断しました。以下はネタバレを含みますので、未読の方は絶対読まないで下さい。 【ネタバレ】 「私は報道されている通り、美人に該当する人間です。 でもそれが私の人生に不幸を招き続けているのです」飛び抜けた美人であるせいで不幸ばかりの人生を歩むシングルマザーの香織(仮名)。 娘の学校の教師に襲われた事件が報道されたのを機に、手記『逆転美人』を出版したのだが、それは社会を震撼させる大事件の幕開けだった――。 果たして『逆転美人』の本当の意味とは!? ミステリー史に残る伝説級超絶トリックに驚愕せよ!! Amazon内容紹介より。 厳密に言えばこのトリックは類似したものの前例が存在します。ですので、超絶トリックであるのは間違いありませんが、「ミステリー史に残る」とか「史上初」とかの惹句は当てはまらないと思います。それでも読者にヒントを与えながら本トリックを限りなく完成形まで押し上げたのは、おそらくこれが初めての快挙ではないでしょうか。一言で言うならば奇跡的な作品ですね。これが私の最上級の褒め言葉です。 |
No.1526 | 5点 | 悪魔のようなあたし- 山下定 | 2022/11/22 22:43 |
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私立・久米沢高校の悪夢の一日は、朝礼直後の地下室で始まった。一時間目の授業が始まるまでのわずかな間に、学園一の美少女・宮参里奈はサイボーグに変身し、里奈を恋する諸井京太は女悪魔に乗り移られて、ある時は男を蕩かすニューハーフに、それ以外の時は顔だけ京太の魔物に変身してしまったのだ。すべては、学園を牛耳るマッドサイエンティスト・神近理事長の仕業だった。二人の、独裁者への反乱が始まった。
『BOOK』データベースより。 山下定を読もうと思ったのは、昨年の一月に読んだアンソロジー『暗闇』の中で著者の短編『ブラインドタッチ』が最も面白かったから。本作を選んだのは何故だか今でも思い出せませんが。 で、結果これが終始ドタバタ劇で、主人公の京太は声や口調がオカマになったり、蝙蝠や蠍に変身したりするわ、ヒロインの里奈はサイボーグになって大暴れしたりと何が何だか。中学二年生位の子供が考えそうなチープなストーリーで、げんなりしました。 最終章だけはそれまでと様相が変わり、私好みのシチュエーションを生み出したため、本来4点以下の所を5点に押し上げました。ここで漸く作者がプロの片鱗を見せたので一安心しました。 ラノベと割り切って読めばある程度楽しめるかも知れませんね。表紙や文中のイラストは古臭く時代を感じさせます。 |
No.1525 | 6点 | 丑の刻子、参ります。- 黒史郎 | 2022/11/21 22:16 |
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誰かを呪ってほしければ、摩栖太羅神社の裏の神木に、黒い憎悪の念と、依頼書を収めた藁人形を打ち付けておけばいい。その願いを叶えるために、ひと打ちひと打ち呪いを込めて打ってやろう―私は“呪い姫”丑之刻子。とある会社のOLとして働く馬野時子。「幽霊」と揶揄される佇まいと愛想のなさで、社内でも浮きまくりだがそれは表の姿。彼女の本来の仕事は依頼された恨み事をはらすということなのだ。そんな刻子のもとに、とある頼みごとが持ち込まれるが―。
『BOOK』データベースより。 昼はちょっと変わったOL、しかし退社後は一転呪術により依頼人の恨みを晴らす、裏稼業を持った丑の刻子こと馬野時子。ホラーはホラーでも呪われる側ではなく呪う側が主役という異色作です。しかしながら、怖さという点ではそれ程でもなく、それどころかラブコメの要素まで含まれています。 愛だの恋だのに無関心で経験のない時子は、社内でも女子に人気の賀茂橋(カモノハシ)に猛烈なアプローチを掛けられながら、無表情でやり過ごしてしまいますが、その関係が微妙に発展してく様はまるで恋愛小説のようでもあります。 無機質で誰に対しても愛想のない、しかしある意味無敵な時子に最大のピンチが訪れ、其処をどう切り抜けるのかが最大の見せ場。勿論それだけではなく、様々な依頼にどのような呪術を仕掛けるのかも興味深いですね。 作者の黒史郎ってあまり知らていませんが、私は個人的に割と好きな人で、ホラーだけではなくミステリも書けるのに、余りこちらに寄って来てくれないのがつれないなと思ったりしています。本作も安定の面白さで、怖いの苦手という人でも意外とイケるのではないでしょうか。 |
No.1524 | 5点 | 自殺倶楽部- 谷村志穂 | 2022/11/20 22:30 |
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「私」は高校二年生。ある放課後、図書館で「海の泡同盟」と称する詩を読む会に誘われたが、その集まりは、実は自殺を目的とする集団だった。そこで「私」に課せられた役割は死を見守ること、他人の死を記録することだった―。「ヒカルモノ」である死と、その対照にある「ヨドムモノ」としての生。真っ直ぐに生きようとすればするほど、死に近づき魅了される十代の純粋な魂の軌跡を描く問題作。
『BOOK』データベースより。 自殺願望を持つ高校生男女五人で構成された「海の泡同盟」。目的は勿論集団自殺の決行です。果たしてそれが本当に実行されるのかどうか、文章からは余りに詩的な為その動向がはっきり掴めません。又、メンバーの個性もいまひとつ目立ったものが無く、動機も深掘りされません。ですから、Amazonのレビューにあるような衝撃とは程遠い内容となっています。三十年前なら問題作だったかも知れませんが、今となっては色褪せて見えてしまうのはやむを得ない所でしょう。 ミステリではないので謎等は存在せず、いささか読み進める推進力に欠ける気がします。唯一作中で何度も繰り返される、青木の言う「ヨドム」と云う言葉の意味が終盤まで隠蔽されており、謎と言えば謎ですが。 作者の意図は計り兼ねますが、自殺は良くない事だとの世間一般の常識はこの作品には通用しないと思います。むしろ強い意志を持った若者たちにとって、死が美化されている様にすら感じます。それが自殺にせよ「ヒカルモノ」であれば救われもするでしょうが、現実的とは言い難くその辺りにもう少し焦点を当てて貰えたら、もう少し引き締まった小説になったのではないかと思います。 |
No.1523 | 5点 | 狂乱家族日記 拾壱さつめ- 日日日 | 2022/11/19 22:25 |
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各国の要人を乗せた都市型飛行船マスカレイド号の船内で起こった、衝撃の不解宮ミリオン暗殺事件。その犯人も不明のまま、神聖合衆国に到着した凶華たち乱崎家一同は、得体のしれぬ不安と緊張の中にいた。そして、ついに開催された『世界会議』当日、彼らの眼前で展開される驚愕の出来事とは!?千年の時を経て、歴史の闇に葬られてきた『閻禍伝説』の真実の姿がついに白日のもとに!馬鹿馬鹿しくも温かい愛と絆と狂乱の物語。シリーズ白眉の巻。
『BOOK』データベースより。 壱さつめを読んだ後途中飛ばしてこれを読んだら、どう思うんだろう。きっと何が何だか分からなくて、混乱するのではないでしょうか。そう、本作では最早狂乱家族の手を離れ、見知らぬ世界にまで到達してしまった感があります。 今回のメインは「世界会議」ではあります。しかし、これだけ大規模な会議を開きながら一体何をしたかったのか判然としませんねえ。暗殺されたはずの不解宮ミリオンが復活した時は驚きましたけど。 一方閻禍の物語も並行して語られますが、こちらも一向に面白くなく、なんだかがっかりしました。乱崎一家の面々も今回ばかりはほとんど出番がなく、一話から読んでいる身としては淋しい限りですよ。 結局シリーズを引っ張り過ぎてあらぬ方向へ行ってしまった様な気がしてなりません。 |
No.1522 | 7点 | トナカイはプロ雀士- 古田丈二 | 2022/11/18 22:58 |
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サングラスをかけたトナカイが牌を倒してみせた。「ロン、マンガンだ。これで終わりだな」伝説の雀士“赤鼻のトナカイ”が三星会というヤクザと繰り広げる麻雀戦争。狭い雀荘の一角で、壮絶なバトルが始まった。赤鼻のトナカイは命を失うことなく明日を迎えることができるのか。勝負が終わった時、さびしげな背中を見せ、男は立ち去っていく…。ユーモアを交えつつ本物の強さを問う麻雀小説。
『BOOK』データベースより。 短い、短すぎる。短編一本でたったの71ページ。そして薄い。カバーを外したら本体の厚みが僅か2ミリ位しかありません。私はかつてこんなに薄っぺらい小説を見た事がありません。よくもまあこんなのを出版しようと思ったなあと感心します。因みに出版社は新風舎文庫だそう、知らんけど。本屋で立ち読みされたらそれで終わりじゃないですか。書店の本棚に収まっている光景も想像できませんが。 しかし、ですよ。これが面白い。最強の雀士トナカイとヤクザの山下との命を賭けた戦いが今始まる。牌図もないのにその情景がありありと浮かんできて、手に汗握る攻防が読み応え十分です。 雀荘に客は他におらず、名もないおやじとマスターがなし崩し的に面子に入りますが、この二人を含めた四人の個性もなかなか良く表現されており、麻雀という特殊なゲーム性を遺憾なく発揮させています。ただ、伝説の雀士と呼ばれる割りにトナカイが弱気で、終始山下に圧倒されヒヤヒヤさせます。勝敗は最後まで分かりません。その勝負の行方は・・・これは意外な拾い物でしたね。 |
No.1521 | 6点 | あなたまにあ- 小川勝己 | 2022/11/17 23:10 |
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背徳・妄執・恐怖が渦を巻く異空間の彼方に置き去りにされたあなた…あなた。あなた!愉悦にまみれたあなたの狂気は、どこへたどりつくのか。異能作家・小川勝己があなたに捧げる傑作怪奇小説集。
『BOOK』データベースより。 小川勝己らしいグロいシーンはあるものの、自身の他作品と違いしつこい描写がないのでサラリと読めます。どれもよく考えてみればそれ程面白くないストーリーを、群を抜くリーダビリティで十分に楽しめる作品に仕上げている感がします。しかし、深く印象に残りそうなのは『蘆薈』(アロエ)位のもので、すぐに忘れてしまいそうなものが多く、心に突き刺さる様な刺激が不足している気がします。 一応オチはあるものの、大凡読めてしまい意外性に欠けるものばかりです。結果、押し並べてお薦め出来る短編集とは言い難く、個人的には楽しめたけれど一般受けはしないだろうなとの感想を抱きました。文庫化されていないのも納得ですね。欲を言えば、もう少し気の利いたものか、思い切った奇想を感じさせる作品が欲しかったところです。 |
No.1520 | 6点 | シークレット 綾辻行人ミステリ対談集in京都- 評論・エッセイ | 2022/11/15 23:13 |
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綾辻行人が、それぞれのデビュー時からかかわりを持ってきた後輩作家たち10人と夜な夜な語る、ミステリの魅力と創作の秘密。それは、かけがえのない愉楽。読めば、小説がさらに面白くなる。読書欲に火をつける、極上の対談集!
Amazon内容紹介より。 2014年から2020年まで綾辻行人が携わった後輩ミステリ作家達と、京都で行われた対談を集めたもので、写真入り。 登場する作家は詠坂雄二、宮内悠介、初野晴、一肇、葉真中顕、前川裕、白井智之、織守きょうや、道尾秀介、辻村深月の十人。道尾秀介以外顔を見たことなかったんですけど(検索したこともなかった)、皆さん想像していたのと何か違うって感じでした。道尾秀介はテレビで観た時よりワイルドな印象です。一肇、白井智之、織守きょうやの三人はぼかしてあってはっきり映っていません。織守きょうやは男だと思っていたら女性だったという罠。対談当時は38歳でしたが、目から下を本で顔を隠した全身ショットがあって、それを見る限り前髪ありで若干垂れ目の可愛い感じがして好感度アップでした。前川裕だけは何となく容貌がしっくりきて、ちょっと西川きよしに似ています。 みなさん、それぞれのミステリに対するスタンスみたいなものを中心に発言されています。自作に対しての自身の評価であったり、綾辻作品で印象深い物、影響を受けた作家など多岐に亘り対談しています。一読だけでは何とも言えませんが、それでも少しはその人となりが伝わって来ます。みんな真面目だな~と思いましたねえ。それぞれ執筆スタイルがあって、まあそれが当然なんでしょうが、興味深かったです。 |
No.1519 | 6点 | 脇役スタンド・バイ・ミー- 沢村凜 | 2022/11/14 22:27 |
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日々の暮らしの中で、ふと関わった誰かの悩み。あなたは見てみぬふりをしますか、それとも?アパートの上の階の女性が殺人容疑をかけられたら。尊敬していた先輩が定年後の再雇用を認められなかったら…。一つひとつの事件に隠された意外な真相。そしてすべての謎が解かれた時、いつもそばにいた「あの人」に浮かび上がる、切なくも優しい真実とは!?思わずもう一度読み返したくなる、連作ミステリー。
『BOOK』データベースより。 日常の謎、社会派、サスペンス、本格など様々な作風の短編を集めた連作ミステリ。途中で解説をチラッと見てみたら、連作短編集と書いてあり、何処が?と思いましたが、三作目で漸くその関連性に気付きました。作品は全体的にぼんやりとしてインパクトに欠ける気がしてなりません。その中でも最も印象深いのは第四話の『裏土間』。乱歩っぽい様な、乙一の様な・・・。これは際立った異色作と言えると思います。 最終話ではそれまでの主な登場人物が一堂に会し、脇田と名乗る刑事の事を語り合います。するととんでもない事実が目の前に現れます。このラストをどう解釈するのか、賛否が分かれるところでしょう。私は否の方で、この話は後付けらしいのですが、作者が上手く誤魔化してしまったと言うか、有耶無耶にすることで逃げに走ったとも受け取れるので、どうにも不満が残りました。 しかし、前言と矛盾するようですが、一つ一つ取ってみればそれなりに評価出来るものだと思います。 |
No.1518 | 6点 | ノーゲーム・ノーライフ1 ゲーマー兄妹がファンタジー世界を征服するそうです - 榎谷祐 | 2022/11/12 23:09 |
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ニートでヒキコモリ、だがネット上では都市伝説とまで囁かれる天才ゲーマー兄妹・空と白。世界を「クソゲー」と呼ぶそんな二人は、ある日“神”を名乗る少年に異世界へと召喚される。そこは神により戦争が禁じられ、“全てがゲームで決まる”世界だった―そう、国境線さえも。他種族に追い詰められ、最後の都市を残すのみの『人類種』。空と白、二人のダメ人間兄妹は、異世界では『人類の救世主』となりえるのか?―“さぁ、ゲームをはじめよう”。
『BOOK』データべスより。 ラノベファンに熱狂的な人気を誇っているらしいシリーズ一作目。確かにサクサク読めてそこそこ面白いし、読ませどころを心得ている感じがします。文体にはそれ程クセはないものの、傍点が多すぎます。ほぼ1ページに一か所以上は点が付いていて、そんなに強調したいのかと思ってしまいます。 異世界の神に勝ってしまった為、腹いせに十六の種族が存在しゲームの勝敗で全てが決められる世界に放り込まれてしまった兄妹。二人はそんな中で人類種の国の国王の座を賭けて一風変わったルールのチェスで勝負するが・・・。 作者によるとファンタジーもので、バトルをしない物語を書きたかったそうです。まああまり類のないラノベでちょっと異色かも知れませんね。 前述のチェス勝負が最大の見せ場ですが、意外と細かい所まで神経が行き届いており、設定も骨格もかなり確りとしていると思います。ラノベとしては評価して良い出来でしょう。因みにこの人、元々漫画家である事情から自分の原作を小説として売り出そうとしたのが本シリーズらしく、イラストも兼ねています。次巻を読むかは微妙なところ。 |
No.1517 | 7点 | 君のクイズ- 小川哲 | 2022/11/11 22:47 |
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一作ごとに現代小説の到達点を更新し続ける著者の才気がほとばしる、唯一無二の<クイズ小説>が誕生しました。雑誌掲載時から共同通信や図書新聞の文芸時評等に取り上げられ、またSNSでも盛り上がりを見せる、話題沸騰の一冊です! ストーリー:生放送のTV番組『Q-1グランプリ』決勝戦に出場したクイズプレーヤーの三島玲央は、対戦相手・本庄絆が、まだ一文字も問題が読まれぬうちに回答し正解し、優勝を果たすという不可解な事態をいぶかしむ。いったい彼はなぜ、正答できたのか? 真相を解明しようと彼について調べ、決勝戦を1問ずつ振り返る三島はやがて、自らの記憶も掘り起こしていくことになり――。 読めば、クイズプレーヤーの思考と世界がまるごと体験できる。人生のある瞬間が鮮やかによみがえる。そして読後、あなたの「知る」は更新される! 「不可能犯罪」を解く一気読み必至の卓抜したミステリーにして、エモーショナルなのに知的興奮に満ちた超エンターテインメント!
Amazon内容紹介より。 意外にも深いクイズの世界。 これはテレビの、問題を読んでボタンの早押しを競うクイズ番組に特化した作品です。どうすれば相手に勝つことが出来るのか、早押しの極意などを追及した異色のエンターテインメント小説。根底に何故主人公である三島のライバルで決勝戦の相手本庄が、問題を読み上げる前に正答出来たのかと云う謎が横たわっており、その謎を解くために一問一問振り返っていくのが本筋のストーリーであり、それを補填するために様々な人物が登場します。勿論クイズに詳しい人達ですが、唯一恋人の桐島さんがだけが一般人です。 残念なのは短すぎて、もっと中身を充実させることも出来た筈なのに敢えてそれをしなかった事くらいでしょうか。初出が『小説トリッパ―』なので文字数に制限があったせいか?その為、桐島さんの扱いがクイズ在りきになってしまい、雑だったなと感じました。 クイズ自体はとても難解な、というかあらゆる事柄に通じていなければ正解できない問題が多く、素人の私などはとても答えられないものばかりでしたね。一問だけ私がオランウータンだと思ったら(本庄も同じ答え)違っていたのが惜しかった程度で、これまた残念な香りがしました。まあしかし、それはそれで勉強にもなりますし、関心もさせられましたし、何より読んでいて面白かったのが最大の収穫でした。 |
No.1516 | 6点 | ザリガニの鳴くところ- ディーリア・オーエンズ | 2022/11/10 22:51 |
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ノース・カロライナ州の湿地で男の死体が発見された。人々は「湿地の少女」に疑いの目を向ける。6歳で家族に見捨てられたときから、カイアは湿地の小屋でたったひとり生きなければならなかった。読み書きを教えてくれた少年テイトに恋心を抱くが、彼は大学進学のため彼女のもとを去ってゆく。以来、村の人々に「湿地の少女」と呼ばれ蔑まれながらも、彼女は生き物が自然のままに生きる「ザリガニの鳴くところ」へと思いをはせて静かに暮らしていた。しかしあるとき、村の裕福な青年チェイスが彼女に近づく…みずみずしい自然に抱かれて生きる少女の成長と不審死事件が絡み合い、思いもよらぬ結末へと物語が動き出す。全米500万部突破、感動と驚愕のベストセラー。
『BOOK』データベースより。 本作にミステリを期待する人は読むべきではありません。何故ならミステリとして評価するに値しないからです。一人の少女の成長物語だと思って読めば、それなりに面白いかも知れませんが。まあ私の場合、この湿地の少女と呼ばれたカイアにどうしても感情移入出来なかったので、この程度の点数しか付けられません。評価の分かれ目は彼女に共感するか否かによって決まりそうですね。 所々興味深いシーンはありました。しかしそれは虫の生態であったり、ソフトな性描写などであり、本筋とは関係ありません。読む前はもっと自然に満ち溢れた静謐な雰囲気の物語だと思っていたので、その意味では裏切られた感があります。 一番の見どころはやはり後半の裁判の攻防戦でしょう。確かにここだけ切り取ればかなり面白い。しかし、裁判が始まって直ぐその後の展開が最後まで読めてしまうのが辛いです。ミステリを少しでも読んだ事のある人は、いやそうじゃない人でも大抵はミエミエだと思いますよ。其処に衝撃も意外性も全くありませんでした。ここで素直に驚ける読者は幸せだと思います。 それにしても、本書が全米で500万部売れたんですか?信じられませんね。厳しいかも知れませんが、それが本当なら(勿論本当でしょうけど)、アメリカの文壇も底が知れていますね。 |
No.1515 | 7点 | レフトハンド- 中井拓志 | 2022/11/06 23:00 |
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製薬会社テルンジャパンの埼玉県研究所・三号棟で、ウィルス漏洩事件が発生した。漏れだしたのは通称レフトハンド・ウィルス、LHVと呼ばれる全く未知のウィルスで致死率は100%。しかし、なぜ三号棟がこのウィルスを扱っていたのかなど、確かなことはなにひとつわからない。漏洩事故の直後、主任を務めていた研究者・影山智博が三号棟を乗っ取った。彼は研究活動の続行を要請、受け入れられなければウィルスを外へ垂れ流すと脅かす…。第4回日本ホラー小説大賞長編賞受賞作。
『BOOK』データベースより。 くどくて長い。正直何度もイライラして挫折しそうになりました。ネットを見ると似たような感想の人も多々見られました。それでも意地で読み切り、結果最後まで読んで良かったと、今では強く思っています。タイトルや設定等から想像されるB級ホラー臭はギリギリ回避出来ている感じですね。 本筋では何と言っても、何故未知のウィルスで人間がこんな悲惨な目に遭っいくのか、そしてこのウィルスは何処から来たものなのかが問われるところだと思います。その辺りは中盤に著されています。厚生省(現在の厚生労働省)から派遣された一応主人公の学術調査員である津川と四角い顔の男(せめて名前と役職くらいは明記して欲しかった)との論戦がそれに当たります。 津川はいきなりカンブリアの復活とか言って、屁理屈で捩じ伏せようとします。イマイチ納得は出来ないものの、仮説としては面白いです。人類の新たな進化とでも言うかのように。 物語は遅々として進みませんが、後半に怒涛のような展開が待っています。ここから急に面白くなり、話も進展していきます。そしてラストに待ち受けているのは・・・?でした。ネタバレはないかと検索してみましたが、結局深い意味は無いようで、私の読み落としでもなかったみたいです。 |
No.1514 | 6点 | 姉川の四人 信長の逆切れ- 鈴木輝一郎 | 2022/11/02 22:56 |
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あの屈辱の金ケ崎の敗戦から三ヶ月。復讐に燃える信長は、盟友・家康をこきつかい二倍近い大軍で浅井長政領内奥深くに攻め込む。楽勝かと思いきや、とことん弱い織田勢は…大誤算にキレる信長、一撃で粉砕、弱すぎる秀吉、どこにいる?光秀、またも巻き込まれた家康。のちの天下人・四人の悪戦苦闘をコミカルに描く痛快歴史小説。
『BOOK』データベースより。 信長、秀吉、光秀に振り回される家康と云った構図で姉川の合戦が描かれる歴史小説。兎に角この主役四人の個性がぶつかり合って、様々な軋轢や友情を生み出す辺りが読んでいて飽きが来ず、面白いのです。 中盤の見どころの一つは、信長と家臣の稲葉一鉄との舌戦でしょうね。口下手だけど凄い迫力の信長と一歩も引かない一鉄の対決は、凄まじい緊迫感を醸し出し、戦国時代ならではの命の遣り取りが垣間見えます。 終盤で宿敵浅井長政と朝倉孫三郎の連合軍対信長、家康連合軍の姉川の合戦は熾烈を極め、戦に圧倒的に強い浅井長政に苦戦を強いられながら、果たしてどんな戦略で挑んでいくのかが主眼となっています。 そして勝利を収めた信長が武勲を挙げた一介の足軽達を一堂に集め、一人一人の手を握り「次も頼む」と一言伝えていくシーンには思わず涙が流れてしまいました。 作者の鈴木輝一郎はあまり知られていませんが、日本推理作家協会賞を受賞した事もある人です。ただその後、早々に時代小説にシフトチェンジしていったのである意味残念かも、ですね。 |
No.1513 | 6点 | 救国ゲーム- 結城真一郎 | 2022/10/30 22:38 |
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人質は国民八〇〇〇万人。日本崩壊のカウントダウンが迫るなか、全ての鍵を握るのは、“無傷"の首なし死体。
日本推理作家協会賞受賞後初作品は、堂々たる本格ミステリ長編。 “奇跡"の限界集落で発見された惨殺体。その背後には、狂気のテロリストによる壮絶な陰謀が隠されていた。 否応なく迫られる命の選別、そして国民の分断――。 最悪の結末を阻止すべく、集落の住人・陽菜子は“死神"の異名を持つエリート官僚・雨宮とともに、日本の存亡を賭けた不可能犯罪の謎に挑む。 Amazon内容紹介より。 思った以上に本格度が高かった作品。ある意味社会派の側面もあるものの、そちら方面は薄い印象です。もっと日本中がパニックに襲われたりする描写が有っても良かった気もしますが、飽くまで本格ミステリですので。 序盤から中盤にかけて、謎めいた事件に翻弄され、かなり面白く読ませてもらいました。シチュエーション的には私好みでしたし。しかし、そこから話をあまり膨らませる事が出来ず、やや冗長に感じました。やはり謎が多いとは言え一つの案件でこれだけの長編を引っ張るのは無理があったのではないでしょうか。 そしていよいよ謎解きの段階で、探偵役の雨宮の推理に一々過剰反応して感心する関係者一同には、ちょっと辟易してしまいました。これでは作者の自画自賛になってしまってますよ。肝心のトリックは驚くほどでもなく、どちらかと言えば小粒な印象でした。 更に言えば動機が飛躍し過ぎだろうと感じました。 |
No.1512 | 6点 | あれは子どものための歌- 明神しじま | 2022/10/27 22:50 |
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料理人のキドウは異国の地で、8年前に飢饉に苦しむ祖国を揺るがした、ある事件で出会った因縁の相手・カルマと再会する。彼らが口にするのは、事件解決の際に奇策を弄した、行商人・フェイとの思い出話。しかし、新たな疑問がキドウの中に生まれる。「あのとき祖国で、本当は何が起こっていたのか?」。真実を知ろうとするキドウに、カルマは奇妙な寓話を語り出す。「不思議なナイフで自らの”影”を切り離した男の物語」だ。物語の幕が下りるとき、8年前の事件の驚愕の真実が浮かび上がる、第7回ミステリーズ!新人賞佳作「商人(あきんど)の空誓文(からせいもん)」。どんな賭けにも負けない少女の運命を描く「あれは子どものための歌」や、あらゆる傷を跡形なく消し去る医者の秘密を暴く「対岸の火事」ほか、全5編。魔女との契約で、不思議な力を得た彼らをめぐって起こる殺人や陰謀に、人間が推理の力で立ち向かう! 自在な語り口で本格ミステリの謎解きを描く、連作集。
Amazon内容紹介より。 『ミステリーズ!』に掲載された三作はオチが良いですね。特に表題作は素晴らしく個人的にベスト。しかし、全体的に言える事ですが、文章とプロットに難ありです。難解な文体でもないのに何故か頭にすんなりと入って来ないし、誰と誰が会話しているのか分り難かったり、情景が浮かんで来なかったりが頻繁に起こりました。単に私との相性が悪かったに過ぎないのであれば良いのですが。 書下ろしの二作は何だか全く印象に残りませんでした。特に最終話は締まりのない結末に終わり、余韻も何もあったものではありません。 この様な掲載物と書下ろしの合体は、大抵が書下ろしの方がワンランク落ちると云うのが個人的に思うところで、本書もその例に漏れない感が残りました。素材が良かっただけに色々残念な作品だと思います。 |
No.1511 | 7点 | その殺人、本格ミステリに仕立てます。- 片岡翔 | 2022/10/24 22:42 |
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音更風゛は、ミステリ作家の一家にメイドとして就職した。だが一族は不仲で、殺人計画さえ持ち上がる始末。これを止めるべく、風゛は計画を請け負った男・豺と「フェイク殺人計画」を練るのだが、なんと予想外の人物が殺されてしまい……。
死者を出さない“殺人計画" VS. 孤島のクローズドサークル 胸躍るノンストップ・本格ミステリ! Amazon内容紹介より。 先月この『ひとでちゃんに殺される』の書評で予告した通り、片岡翔の二作目です。どうせならミステリが良いと思い本作に決定。 コーディネーターによるマーダーミステリ(仮想現実)の、飽くまでゲームと云う新しいタイプのミステリ小説かと思わせて、結果定型の枠に嵌ったミステリに収まっています。言ってしまえば孤島ものですね。 最初の事件が呆気なく解決してしまい、一体これからどう物語を作り直すのかと思っていたら、お見事タイトル通り本格ミステリに仕立てております。 主役の一人で探偵役でもある風゛(ぶう)がなかなか個性的で好みの別れるところかもしれませんが、結構いい味を出しています。たまにボケたり鋭く指摘したりと、探偵を夢見る少女としては合格点でしょう。 途中、私の頭が悪いせいで事件と証言が錯綜しやや煩雑になってしまったのは残念でした。これは普通の読者であれば問題ないと思いますが。 クリスティよりは綾辻行人に影響を受けている感じがしましたね。作中に出てくる小説名や舞台となる館などにそれが見られます。真犯人に関しては・・・。 尚、最終章で感動したのとエピローグでの後味の良さを加味してプラス1点としました。 |
No.1510 | 5点 | 可制御の殺人- 松城明 | 2022/10/22 22:43 |
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女子大学院生が自宅の浴室で死亡しているのが発見された。
警察は自殺と判断したが、 その裏には人間も機械と同じように適切な入力(情報)を与えれば、思い通りの出力(行動)をすると主張する謎の人物・鬼界が関わっていた・・・・・・。 小説推理新人賞で選考委員から その才能を高く評価された著者によるデビュー連作短編。 Amazon内容紹介より。 工学を軸とした理系連作ミステリ。短編集と言うより長編と捉えたほうがしっくりきます。最初の小説推理新人賞で最終選考まで残った表題作は、捻りも効いていて好感触でした。一応これはこれで完結している様にも見えますが、そこに登場する性別不明の謎の人物鬼界が後の話にも絡んできます。しかし、第一話以外は何となく煮え切らない印象が強く、結末を迎える前に終わってしまう様なものばかりで、とても不安定な気持ちにさせられます。 異色であり、ある意味新機軸とも言えると思いますが、色んな意味で説明不足な感が否めず、どんどん訳が分からなくなってしまいました。表題作レベルの作品が並んでいれば7点付けたいところですが、どうにも消化不良で私には合いませんでした。工作機械、つまりロボットが頻繁に出てきたり、人間の言動を制御するとか、SFっぽい話にも付いて行けませんでしたね。 こう言ってしまっては身も蓋もないですが、この人は表題作でアイディアが尽きたのではないかとも感じ、果たしてプロとしてやっていけるのか不安が残る出来でした。 |
No.1509 | 9点 | 名探偵のいけにえ 人民教会殺人事件- 白井智之 | 2022/10/20 22:52 |
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病気も怪我も存在せず、失われた四肢さえ蘇る、奇蹟の楽園ジョーデンタウン。
調査に赴いたまま戻らない助手を心配して教団の本拠地に乗り込んだ探偵・大塒は、次々と不審な死に遭遇する。 奇蹟を信じる人々に、現実世界のロジックは通用するのか? Amazon内容紹介より。 どういう心境の変化か、グロを封印した白井智之は正に超人の如き偉業を達成したのでありました。グロから解放された作者はまるで水を得た魚の如く、伸びやかにこの傑作を物しました。全てのミステリファン必読の書と言っても良いでしょう。2022年の本格ミステリは本作無くしては語れません。本年のランキングレースは『方舟』と『名探偵のいけにえ』で1位2位を争ってくれたら嬉しいなと思います。 衝撃度に於いては『方舟』に及びませんが、トリック及びロジックでは圧倒的に凌駕していると思います。又、そんな些細な事も伏線だったのかと、あれもこれも伏線だったのかと、100ページを超える怒涛の解決編を読んで、改めて感心させられました。 内容については敢えて触れませんが、一つだけ気になったのは、信者達がいくら洗脳されているとは言え、そこまで思考回路が捻じ曲げられてしまうものだろうかと疑問に思った事です。まあでも、そんな些末な瑕疵を論うのはこの傑作を前にして失礼に当たるでしょう。 色々述べましたが、畢竟個人の感想であり、批判的な意見もあって当然だと思います。それでも私の信念は揺るぎませんけどね。 |