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臣さん
平均点: 5.90点 書評数: 652件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.632 6点 てとろどときしん- 黒川博行 2021/08/25 10:40
大阪府警・捜査一課モノ6編。
黒マメコンビ以外の作品も含まれている。

まず大阪弁の漫才風の会話によるおもろさに魅かれるが、それだけではない。
『てとろどときしん』『指環が言った』の2作は、短編ミステリーとして上等なクラス。
他の4作品(『飛び降りた男』『帰り道は遠かった』『爪の垢、赤い』『ドリーム・ボート』)も平均以上。

オモロイ系で共通化しているように見えるが、作りとしてはパターン化せず、それぞれに趣向が凝らしてあり、読者を飽きさせない工夫がある。
若い頃の著者のミステリー性を重視した意欲がうかがい知れる作品群である。

No.631 7点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2021/08/16 09:53
バラバラ殺人を扱った、抒情1/8トラベルミステリー超大作。
吉敷竹史シリーズの第2作です。
読者にとっては、犯人探しはほどほどですが、仕掛けを存分に楽しむことができます。
冒頭で、バラバラにされた人体各部が7つの駅で発見されます。なぜ頭部は見つからないか、犯人はどうやってばらまいたか、その謎解きがメインです。

吉敷は地道で現実的な捜査をやっているようにも思えるが、よく読めば、それほどでもない。堅実そうな鉄道ミステリー要素も、超ド派手事件に引っ張られ、現実感はほとんどないといってもいい。
でも、社会派と本格派とがこんなふうに滅茶苦茶に融合すれば、なぜかひっかかりなく読めてしまう。島田氏のストーリー運びのうまさによるものでしょう。
突っ込みどころは多々ありそうですが、そんなことは忘れさせるほどの花も実もある作品にはちがいありません。

最後にひとこと。
時刻表、地図、簡略路線図など図面が豊富なのは個人的には好みですが、残念ながら謎解きには全く生かされませんでした。

No.630 5点 ドイル傑作集1 ミステリー編- アーサー・コナン・ドイル 2021/08/06 09:50
「消えた臨急」「甲虫採集家」「時計だらけの男」「漆器の箱」「膚黒医師」「ユダヤの胸牌」「悪夢の部屋」「五十年後」の全8作。
ホームズが登場しない短編ミステリー集。
ホームズ物でなくても、謎の提起にはホームズ物らしい、わくわく感を覚える。

『消えた臨急』は、ミステリー編のトップバッターとして申し分なし。
タイトルどおりの列車モノで、意外に凝っている。
ホームズがいなくても十分にミステリーを構成しているだろう、とドイルが威張っているようにも想像できる。

最終編の『五十年後』は、他とはずいぶんと趣向の違いが感じられる。
解説を読むと、訳者が気に入って勝手に加えたとある。
冒頭の1文に「惑星」という語句が出てくるから、てっきりSFかと思っていたが・・・。
80年ぐらい前の有名なロマンス小説・映画作品を思い起こさせる。
この映画ほど恋愛風味はないのだが。
この作品も悪くなかった。

No.629 6点 許されようとは思いません- 芦沢央 2021/06/19 14:15
比較的似たような趣向の5編ではあるが、じつは少しずつ違っていて種々楽しめる。
だからこそ好みも分かれそうで、本サイトや他のサイトのレビューを見ても、どれが一番なのか読む前には想像はできない。
解説の池上冬樹氏によれば、『姉のように』が傑作とのことだが、個人的には全くそうとは思わなかった。
読後感もいろいろだが表題作をラストに据えて、最後に気持ちよく終わらせてくれたのはよかった。

個別具体的には、
『許されようとは思いません』が一番、『目撃者はいなかった』『ありがとう、ばあば』が次点クラス、『絵の中の男』『姉のように』がその次、というところか。
点にこそ差はあれ、共通する持ち味は、読者を惹きつける中途の展開。
読書中はこの中途段階だけで、ラストなんてどうでもいい、と思えてしまった。

No.628 6点 犯罪- フェルディナント・フォン・シーラッハ 2021/05/26 12:06
弁護士でもある著者が扱った事件がモデルになっている短編小説集。
「このミス」で上位にランクインしているのを記憶していた。
だから当然、どんでん返しやオチがあるものと期待していたが、2,3話読んでまったくなしなので、愕然とした。こういう事前の読書姿勢は失敗だった。
もちろんトリックも、推理も、ロジックもなし。明るさもない。
ジェフリー・アーチャーの実話にもとづく短編とは、面白さの次元がまったく異なっていた。

読み進むうちに、端正な文章も手伝って、ドキュメンタリータッチの犯罪小説群に慣れてきた。
「エチオピアの男」がベストか。ちょっとほっこりする。ある意味俗っぽいかな。
「正当防衛」も気になる。いくつかリドルっぽいのもあり、それらは再読が必要かも。

No.627 6点 ゴメスの名はゴメス- 結城昌治 2021/03/22 13:47
本編自体ももちろんよかったが、光文社文庫版の解説やあとがきなどのオマケもよかった。
著者の「ノート」は、スパイ小説を書くに至る経緯や、舞台をサイゴンとして書き始めた苦労話など、わずか4ページだが、普段あまり目にしない作家ノートを興味深く読むことができた。

肝心の本編についてだが、以下、少しネタバレ。

巻き込まれ型スパイ小説というジャンルか。
舞台を1960年代のベトナムとしたわりに、意外に現代風なのがよい。
ストーリー運びもよい。というかプロットの単純さが読みやすくしているのかも。
たしかにミステリー性はある。でも、ご都合主義的に事件の関係者となりそうな人物が次々に登場するのは、ミステリー小説としてはいただけない。
スパイ小説としては、スパイの非情な日常の中に、わずかな男の友情や恋愛が心地よく描いてあればいいが、中途半端な感があり、B級好きには物足りない。
ラストがあっさりとしすぎているところも拍子抜け。そこがいいところなのかもしれないが、この点もB級好きには物足りない。
みなさんがおっしゃるようなハードボイルドっぽさは、とてもよかった。

No.626 6点 どんぐり民話館- 星新一 2021/02/15 10:28
表題作は著者の1001編目のショートショート作品らしい。
この作品のタイトルが示すように民話、童話、寓話の類が大集合。全31編。
時代設定、舞台設定などは種々雑多。
少年少女向けというよりは、やや大人向けか。

短編集『ボッコちゃん』のように、オチに切れ味の鋭さはない。
でも、どんでん返しなどのミステリー性はなくても、わずか5ページほどのストーリーの全体を楽しむだけで、星作品の読書目的が達成できてしまう。
これが新しい発見だった。

No.625 5点 涼宮ハルヒの憂鬱- 谷川流 2021/01/28 14:30
途中の突然のSF展開にはビックリ。だからこそ、このサイトに登録されているのだが、それにしても意外すぎた。
初めは学園モノを書きたかったのかな。それだと当たり前すぎるから途中で方針変更したとか。だからプロットが練られてなかったのか。とにかく話の流れがわからなかった。
文章、文体は比較的好みだった。

じつはこの著者が通ったとされる、ちょっと懐かしい感じの喫茶店に、ときどき足を運んでいた。本作にまつわる記事のスクラップが置いてあり、そこで本書の知識を得た。
その喫茶店は今では場所を移し、古臭さはなくなり、小さくもなり、長居はしづらく、ちょっと残念。
でも、コロナ下で、なんとかがんばってほしい。

身近な作家、作品なので、だいぶ前に購入し、本棚を温めていたが、このたびようやく読了した。シリーズ物なので続きを読みたい気もするが、どうしようか?

No.624 6点 三体- 劉慈欣 2020/11/27 09:49
話題の作品や、新聞に書評が載ったものを、うれしがって図書館にすぐに(といっても、たいてい100人超待ちレベルにはなっているが)予約を入れるほうなので、忘れたころに通知があり、そのときには気持ちが乗っていない状態のことが多く、読むべきか断るべきか迷ってしまう。
本書の場合、いちおう借りてみたが、けっこうな部厚さにすこし戸惑う。SFを読み慣れないということもあって、腰が引けた。でも、なんとかがんばって読んだ。
なんせオバマ元大統領も読んだとのことなので。

スケールのでかさ、というか歴史(文革)あり、宇宙あり、ゲームありの、とんでもなさが感じられた。肝心のSFとしては、宇宙へのメッセージというのがありがちな気がした。

ひとことで言えば、歴史小説風・謎解きサスペンスタッチSFって感じかな。米国が好んで映画化しそうなタイプだ。
ジャンルはさておき、巻き込まれ型探偵のような主人公や、ガラが悪く強引な刑事、そして文革絡みの謎の人物などが登場し、ミステリーとしては十分に体をなし、ミステリー好きとして身近な印象を持てたのはよかった。どんな小説でもむりやりミステリーにしてしまうのが、悪い癖なのかもしれないが・・・

それと、VRゲーム『三体』の話の中に始皇帝、ニュートン、フォンノイマンが登場するのが面白い。ゲームならよくあることかもしれないが、ゲームをやらないので、こんなめちゃくちゃな組み合わせにはとても魅かれる。いちおうテーマには合ってはいる。
とにかく、いろんな箇所で楽しめたことはよかった。ただ全体としてまとまりが欠如していることが気になった。連載小説だったらしいので、それも仕方ないのかもしれない。

三部作なので続編も絶対に読みたい。
ただ、その前に本作を今度こそは購入して、復習をしておきたい。もったいないから文庫版が出てからかもしれないが。

No.623 6点 灰色の動機- 鮎川哲也 2020/11/10 13:20
ちょっと変わった鮎川短編集。
表題作は、他の短編にくらべ最も長く、登場人物も多い。
長編にもできそうなところを、ぜい肉を削ぎ落してスリムにしたという感じ。
物足らないともいえるが、上手いと評価すべきだろう。

いちばんの好みは、処女作品の超掌編「ポロさん」。
本格推理小説とはいいがたいが、オー・ヘンリー的ミステリーっぽさがあり、読み終わって、真相にじーんとくるところが良い。
斎藤警部さんがおっしゃるように、ホヮットダニットでもあるし、どのようにして調達したのかというハウダニットでもあり、なぜ○○したのかというホワイダニットでもある。
これはもしかして鮎川本格推理の原点なのかもw

「人買い伊平治」「死に急ぐもの」「蝶を盗んだ女」は、まずまずの出来。
「結婚」は、なんとSF設定だった。

「ポロさん」が秀逸、「灰色の動機」が次点、「結婚」「蝶を盗んだ女」がまあまあ、といったところか。
ミステリーとしてはまずまずだが、個人的にはかなり嗜好にマッチした短編集だった。

No.622 5点 探偵を捜せ!- パット・マガー 2020/10/25 15:47
犯人を探るのではなく、探偵を見つけるミステリーなので、いちおう本格派推理小説といっていいだろう。
主人公のマーゴットの心境描写には半ばお笑いのような怖さがあるから、変格サスペンスといってもいい。
主人公はいち早く探偵を見つけ出し始末したいと考えている、とんでもない悪女。でも、どうやって探偵を探し出すのか、どうやって犯人とばれないようにふるまうのか、そのあたりの行動が読んでいて楽しいところなので、探偵を推理するよりも、主人公がどうなるのか、どんな結末を迎えるのか、そっちのほうの期待が膨らんでいった。
ということで謎解きに関しては不参加だった。
登場人物は少ないし、しかもどんどん減っていくから、推理はしやすいはずではある。

それと、ちょっと気になる点、というか興味深い点がある。
(若干のネタバレあり)

三人称の小説で、主人公のマーゴットは、「マーゴット」か「彼女」と表現されているのに、なぜか「私」も登場する。この「私」はマーゴットのはずだが、かならずしも独白ということでもない。主人公視点だと考えてスルーすればいいが、すこし違和感を覚えた。
でも最後の章の「私」は、独白みたいなもの。このアイデアはすごいと思った。

No.621 7点 殺人交叉点- フレッド・カサック 2020/10/07 12:44
『殺人交叉点』
どのような最後の一撃なのか、と待ちかまえながら読んだが、待ちかまえること自体が受ける衝撃を小さくしてしまったようで、ちょっと損をした。
それに、いまでは叙述トリックの数ある態様のうちの1つだから、どこかで読んだスタイルだなと思ってしまう。
とはいえ名作であることにはちがいなしだろう。

『連鎖反応』
フランス流・会社派サスペンス。
個人的には新しいスタイルのミステリーだった。
会社が舞台で身近に感じられたのもいいし、本当は恐ろしいことなのに、ユーモアたっぷりに明るく描いてあるのもいい。
それでいてサスペンスも十分にある。
アランドロンの映画作品も観てみたい。

No.620 6点 ベルリンは晴れているか- 深緑野分 2020/09/16 15:13
人間ドラマ付き歴史ミステリ超大作

「・・・1945年7月。ナチス・ドイツが戦争に敗れ米ソ英仏の4カ国統治下におかれたベルリン。ソ連と西側諸国が対立しつつある状況下で、ドイツ人少女アウグステの恩人にあたる男が、ソ連領域で米国製の歯磨き粉に含まれた毒により不審な死を遂げる。米国の兵員食堂で働くアウグステは疑いの目を向けられつつ、彼の甥に訃報を伝えるべく旅立つ。しかしなぜか陽気な泥棒を道連れにする羽目になり―ふたりはそれぞれの思惑を胸に、荒廃した街を歩きはじめる。・・・」(ブックデータベースより)

被害者の甥を捜索する現在パートと、戦時中の幕間パートとが交互に語られ、それらがミステリ的にうまくつながってゆく。
幕間Ⅲの終盤(たぶん2/3~3/4あたり)はクライマックスだろう。このあたりで現在パートにつながりそうで、なんとなく読めてきてもいいはずだが、真相まではたどり着けなかった。
真相の開示場面はあっけないが、最後の最後におまけもあるので、まずまずのサプライズ感あり、というところだろう。
種々の書評を見るとミステリとして弱いという意見もあるが、上等ではないか。
またミステリ要素を持ち込んだのが失敗、という直木賞の選評もあったが、はたしてそうなのか。ミステリファンとしては反論したい。

物語の進行とともに少女、アウグステの思いがじわじわ、じわじわと伝わってくるのには快感を覚える。
徐々に、徐々に盛り上がってくる高揚感は、じつに気持ちいい。
これは人物描写のせいだろうか、構成(テクニック)によるものだろうか。

ミステリ要素はよし、文章もよし、登場人物もよし、テーマもよし、テクニックもよし。
著者の取材力への努力もすごいはず。これにも敬服したい。

(さんざん褒めまくりましたが・・・)

でも、ちょっとだけ物足らない気もする。
わずか2日のできごとなのにスピード感がないからか。
それとも真相が気に入らないからか(あの真相は大好きなはずなのだが)。
とにかく理由はよくわからないが、不満はあり。

本作は直木賞の候補作となった。そのとき受賞したのは真藤順丈氏の『宝島』。
両方とも戦争が背景にある大河小説で、共通する部分はある。
どちらがいいか。個人的には、『宝島』かな。

No.619 8点 ボッコちゃん- 星新一 2020/09/02 17:54
10年ほど前に表題作と『親善キッス』は本屋で立ち読みしたが、それ以外はほんとうに、ほんとうに久しぶりの再読である。

マイベストは、古い記憶にもとづけば、『親善キッス』『暑さ』『ボッコちゃん』の3作だったが、今回の再読では、これら以外に、『マネーエイジ』『雄大な計画』『ゆきとどいた生活』もランクインした。いやあ、もっとあるかも。
とにかく、もうひとつだなと思うような作品がわずかしかない。

ほとんどの作品にミステリー的なオチがあることが特徴。
少年時代に、SFとしてよりも、どんでん返し付きショート・ミステリーとして楽しんでいたことが思い出される。

No.618 6点 老ヴォールの惑星- 小川一水 2020/08/24 17:18
本著者の初期短編集。4編収録。
なんらかの共通テーマがあると思っていたが、何もない。みな全く異なるところが面白い。

『ギャルナフカの迷宮』と最後の『漂った男』は人間が主人公で、読みやすい。いずれも時間軸は長い。
前者は投獄地での話。まあSF設定の島流しモノのようなものか。ハッピーエンドというか、あまりにもきれいにカッコよく作られたラストなので、個人的には興ざめ感あり。でも中途はよかった。5点ぐらい。
後者は、これもある意味、島流しのようなものか。よくがんばった、という感じか。映画『オデッセイ』が連想される。これは6点。

『老ヴォールの惑星』と『幸せになる箱庭』はいずれも宇宙モノ。ハードSFと呼んでもいいかも。これらは時間軸がさらに長い。
前者は、とにかく壮大でロマンあふれる超大作(中編ではあるが)。こんな発想ができることに驚かされる。ただ、『ギャルナフカの迷宮』の後の2編目だったせいで、そのギャップからか、登場人物が変転していくせいか、内容や設定がすぐには頭に入って来ず、結局2度読みした。でもこれは貴重な作品。6.5点。
後者は前者と同様、知的生命体が登場するし、人類も登場する作品。読み始めから期待は膨らんでいったが、イマイチ乗り切れなかった。4.5点。

全体としては、きれいにまとめすぎるところが大いに気になる。やはり、ミステリーファンだから、ちょっとひねったラストを期待してしまう。
個人的には、国内SFでは、星新一や小松左京、筒井康隆ぐらいしか読んだことがなく、SF慣れしていないため、もうちょっと、どんでん返しのようなものがあればなぁ、と思ってしまった。
きれいにまとめるのがこの著者の特徴なのだろうか。

めずらしい作品を読めたという喜びはある。そういう意味では7,8点級。
でも本サイトはミステリーサイトなので、点数としてはこんなところか。

No.617 6点 地球から来た男- 星新一 2020/07/27 11:27
著者お得意のショート・ショート集。全17作。
ボッコちゃんなどにくらべれば、かなり長め。どの作品も20ページもある。

主人公の男たちは超常現象を体験し、中途では良い思いをするが、最後には・・・。
みなこのパターンかと思っていたら、すこし違うようなものもある。
でも、なんとなく似通っている。
しかもラストの驚愕度は、それほどでもない。
いろんな点でボッコちゃんとは異なる。

いままで読んできた中では、やや落ちるかな、という感じでしょうか。
子どものころ以来の星作品なので、ほかの作品集も、今読めばこんな感覚なのかもしれません。

No.616 6点 空白の時- エド・マクベイン 2020/07/06 10:19
87分署シリーズ、中編3編物。
黒澤の『天国と地獄』のアイデアが、本シリーズの『キングの身代金』にあることぐらいは知っていたが、本シリーズも本著者も読むのは初めてです。
手始めにまずは中短編から。

それぞれの作品にはスティーブ・キャレラ、マイヤー・マイヤー、コットン・ホース・・・などの刑事たちが登場します。
ただ、87分署の刑事たちがひっきりなしに登場し、刑事ごとに場面が変わり捜査をする、といったキャラの目立たない警察組織物の代表格なのかと想像していましたが、予想に反し、中編集ということもあって、それほど警察臭は感じませんでした。

特に3作目の『雪山の殺人』は、ただ一人の87分署の刑事・ホースが休暇中、スキー場で巻き込まれ探偵のように活躍するというスタイルなので、これはまったくの想定外でした。もしかして本作は番外編的な位置づけなのでしょうか?
この作品でホースがまさに事件に遭遇する場面はサスペンスがたっぷりです。この冒頭部分には魅かれました。

<他2作品>
『空白の時』 アパートでの若い女性の謎の死。これに最後まで引っ張られる。全体の構図、構成は悪くない。
『J』 ダイイングメッセージ物。超本格、ということは絶対にない。まずまずか、いやイマイチかな。

No.615 5点 シバ 謀略の神殿- ジャック・ヒギンズ 2020/06/19 10:08
第二次大戦前夜、アラビア半島を舞台にした冒険大活劇。
冒頭、ヒトラーが登場し、どんな話になるのかと期待は膨らんだが、ミステリー的な捻りがほとんどなくシンプルでお手軽なストーリーだった。
逃走、追跡場面は結構楽しめたが、お宝さがしみたいなのがないのは残念だった。シバの女王の神殿なんだから、そのぐらいあってもよさそうなのに。
映像化しても、インディージョーンズみたいにはならないだろうなぁ。

でも、軽く読めるのは本当にすばらしい。
それと、考古学者が主人公であるのもいい。学者がスーパーヒーローという、いかにも欧米の冒険モノという感じがして個人的には好き。

No.614 6点 深夜プラス1- ギャビン・ライアル 2020/05/30 19:43
名作といわれる作品なのでぜひ読んでおきたいと手にとったが・・・

筋が単純という評が多く、シンプルすぎるロードノベルを想像していたが、予想以上にプロットに変化があった。
単純なストーリーにも飽きさせない工夫が凝らしてある。
でも真相は読まなくてもわかるレベルかもしれない。

それと、主人公たち2人の男、ケインとハーヴェイの生きざまにファンは魅かれるのだろうと想像できる。たしかにケインの戦いが終わって吐く言葉は重みがある。
ただ彼ら以外の人物たちが、あまりにもパッとしない。

冒険小説なのに株の話が出てくるのもちょっと意外だった。
社会派冒険小説。いや「会社派」といったほうがいいか。
このアンマッチな感覚が読みづらくさせ停滞しがちであった。でも、何度も読めばだんだん気に入ってくるような気もする。噛めば噛むほどといった感じか。
とりあえず初読では後半の銃撃戦がいちばん楽しめた。


在宅が多くなって、ひそかな楽しみである移動時間での読書が減ってしまった。

No.613 7点 鬼畜 松本清張映画化作品集2- 松本清張 2020/04/25 18:54
双葉文庫版の清張短編集。映画化作品を集めたらしい。
目次を見たら、新潮文庫の短編集「黒い画集」「張込み」「共犯者」からピックアップした寄せ集め集だった。
『潜在光景』『共犯者』は「共犯者」に所収。
『顔』『鬼畜』は「張込み」に所収。
『寒流』は「黒い画集」に所収。
『潜在光景』『共犯者』は未読だった。『寒流』は内容を覚えていなかったので再読。『顔』『鬼畜』は記憶がしっかりと残っているので再読せず。

潜在光景・・・最後のオチは、タイトルや途中の回想で想像できそう。でもページを繰る手は止まらなかった。
顔・・・なんでそんな行動をとるの、とハラハラドキドキ。なぜか主人公の肩を持ってしまう。それだけ夢中になれる作品。
鬼畜・・・おそろしいとしか言いようがない。ふつうの小市民なんだけどなぁ。貧しさゆえか?
寒流・・・気の毒すぎる。なんでそこまで主人公をいじめるの、清張さん。最後の一発逆転はあるのか?
共犯者・・・犯罪者は繊細さが必要だが、すぎるのはダメ。もっと堂々としてなきゃ。それと、そもそも共犯は絶対ダメ。馬鹿げてはいるけどおもしろい。

本短編集にかぎらず、多くの清張短編の根底には、人の心の奥底に潜む欲望や悪意がある。
小市民だろうが善人だろうが、清張にかかればみな、狡くて気が小さいコメディリリーフ(それでいて主人公)を演じさせられる。
さらに本短編集作品の主人公たちは、悲惨な末路が待ち受けている。

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臣さん
ひとこと
あいかわらず読書のペースが遅い。かといってじっくり読んでいるわけではない。
好きな作家
採点傾向
平均点: 5.90点   採点数: 652件
採点の多い作家(TOP10)
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