皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2879件 |
No.1039 | 6点 | 青いリボンの誘惑- 飛鳥高 | 2016/02/02 18:59 |
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(ネタバレなしです) 本業である建築学者としての仕事が忙しくなった飛鳥高(1921-2021)は「ガラスの檻」(1964年)を最後にミステリー執筆をやめてしまいましたが1990年、実に26年ぶりに本書を発表したのには驚いた人も多かったでしょう。久しぶりといっても文章に硬さは見られず、プロットもしっかり練り上げられています。難を言うなら登場人物の関係が案外と複雑で整理が大変なので、登場人物リストを作りながら読むことを勧めます。アリバイトリックに本格派推理小説らしさを、過去の事件に関わる企業進出と地元との利害関係に社会派推理小説らしさを感じ取ることもできますが、本書で一番力を入れているのは人間ドラマの部分でしょう。それぞれの思惑がからみあって悲劇が生まれ、その悲劇がまたそれぞれの人生に影を落とすという、重苦しいドラマが読者に突きつけられます。謎解きよりも小説部分の方に力を入れているように感じました。 |
No.1038 | 5点 | 東京ー盛岡双影殺人- 山村正夫 | 2016/02/01 00:05 |
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(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない1988年発表の本格派推理小説です。アリバイ崩しをメインにしたプロットですがこのアリバイが大変ユニークです。2つの殺人と1人の有力容疑者、しかしどちらか片方で殺人犯だった場合、もう片方の殺人に関してはアリバイが成立してしまうというものです。とりあえず片方の事件で逮捕すればという単純な話にはならず、東京と盛岡の警察が面子を争って自分側の事件だけ解決しようとしてうまくいかないという奇妙な展開を見せます。ユーモア本格派として書かれた作品ではありませんが、一方が証拠を集めれば集めるほどライバル(?)にとっては自分の捜査の足を引っ張られるという皮肉が何とも言えません。トリックは感心するほどのものではありませんが、設定の妙で退屈させません。 |
No.1037 | 5点 | 二人道成寺- 近藤史恵 | 2016/01/31 23:57 |
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(ネタバレなしです) 2004年発表の今泉文吾シリーズ第5作(歌舞伎シリーズ第4作)です。複雑な心理を掘り下げていく作品としてはよくできた作品ではありますが、ミステリーとしては三角関係があるのかないのかという謎をメインに据えたプロットでは物足りなさを感じてしまいます。殺人でなくてはいけないとまでは言いませんが、やはり魅力ある謎は提供してもらいたいです。今泉の登場場面も非常に少なく、存在感が希薄です。謎は解けるけど未解決という不思議な結末が残ります。 |
No.1036 | 6点 | 殺人予告状- 大谷羊太郎 | 2016/01/31 23:51 |
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(ネタバレなしです) 大谷は初期には芸能界を題材にした本格派推理小説をいくつか書いたそうですが、1972年発表の本書もその一つです。巡業殺人シリーズ第1作と紹介されていますが、確かに東北巡業が描かれていますけど旅情はほとんど感じられません。このあたりは後年にトラベルミステリーブームを巻き起こした西村京太郎とは比べ物にはなりません。しかし芸能界描写という点では大谷らしい個性が発揮されており、特に第2章での戦後の音楽バンド活動についての語りは現代とは全く違う時代背景を感じさせて新鮮でした。謎解きプロットはやや変わっており、2つの出入口のある部屋での準密室殺人を扱っています。1つの出入口は施錠されて衆人監視状態なので普通に考えればもう1つの出入口が使われているはずなのですが、普段はそちらが施錠されているので犯人が侵入路として目を付けるとは考えにくいというのが準密室を成立させています。一応は両構えでの捜査となりますがバランスはかなり偏っていて、この辺はもう少し改善すれば謎解きがもっと複雑になって読者に色々と考えさせるのでしょうけど、徳間文庫版で300ページに満たない短い作品なのでそこまで望むのは贅沢でしょうか? |
No.1035 | 5点 | ガラス瓶のなかの依頼人- シャロン・フィファー | 2016/01/31 23:42 |
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(ネタバレなしです) ハウス・セールで購入した品物からホルマリン漬けの指が入った瓶が出てくる、2002年発表のジェーン・ウィールシリーズ第2作は結構読みづらいコージー派ミステリーでした。第18章でのジェーンによる事件の振り返りが本書の問題点をずばりと当てているのですが、細切れの情報が多すぎるのです。文章自体が難解なわけではありませんが、様々な謎が互いの接点を見出せない状態で読者に投げられる展開には手こずりました。ジェーンの説明もそれほど論理的な推理でなく、すっきりした謎解きではありません。第15章の電話の混乱場面が楽しめた以外はあまり私の印象に残りませんでした(単に私のもの覚えが悪いというのもありますけど)。 |
No.1034 | 5点 | キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン | 2016/01/31 23:33 |
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(ネタバレなしです) 1923年発表のソーダイク博士シリーズ第6作の本格派推理小説ですが、ROM叢書版の巻末解説で「スリラーや冒険ものと見なす向きも少なくない」と指摘されているような特徴も持っています。このシリーズは謎解きに科学知識が使われていても一般読者にわかりやすいよう工夫された説明になっているのですが、本書の場合は科学知識以外に一族に伝わる歴史や宗教などもからむため、プロットも真相説明も非常に難解な作品となっています。理解力の弱い私には少々敷居の高い作品でした。 |
No.1033 | 6点 | 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 | 2016/01/31 23:23 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表の吉敷竹史シリーズ第3作の本格派推理小説で重要作と評価されています。吉敷の元妻である加納通子が初登場する作品で、吉敷の私生活がハイライトされ、単なる探偵役に留まらない行動をとります。これが強力なサスペンスを生み出すことにもつながっています。犯人当ての要素はありませんが(早い段階でわかります)、奇怪としか言いようのない事件のトリックの大胆さに驚かされます。島田はこのトリックがよほどお気に入りだったらしく、後の作品のいくつかでこのトリックのバリエーションを使っています。ですので本書のトリックがお気に召さない読者は他の島田作品とも相性がよくない可能性が高いと思います。 |
No.1032 | 5点 | 悪魔と警視庁- E・C・R・ロラック | 2016/01/31 23:11 |
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(ネタバレなしです) 序盤が非常に魅力的ですがその後が地味過ぎて盛り上がらないという点でヘンリー・ウエイドの「警察官よ汝を守れ」(1935年)といい勝負の(と言っていいのかな)、1938年発表のロバート・マクドナルドシリーズ第14作の本格派推理小説です。マクドナルド首席警部の車から発見された死体、しかもそれは悪魔の扮装をしていたという出だしは文句なく面白いです。しかしマクドナルドの捜査が非常に地味な描写ですし、登場人物の個性が弱いところは同時代のF・W・クロフツといい勝負です。犯人の正体が早い段階でわかってしまうことの多いクロフツと違って犯人当ての興味を最後まで維持しているところは好感を持てますが、やはりもっと謎解きを盛り上げる演出がほしいところです。 |
No.1031 | 6点 | 光と影- 三好徹 | 2016/01/31 21:22 |
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(ネタバレなしです) 多作家の三好徹(1931-2021)は一般的には社会派推理小説家として知られていると思いますが、その作品はハードボイルドなら「天使」シリーズ、スパイ小説なら「風」四部作、犯罪小説なら「身代金」シリーズなど実に多岐多彩に渡っており、また非ミステリー作品でも「チェ・ゲバラ伝」(1971年)などが評価が高く、まさにマルチ作家です。残念ながら本格派推理小説には関心が低かったようですが1960年発表のデビュー作である本書は本格派推理小説と社会派推理小説の両方の要素を持ち合わせています。アパートの一室で大物政治家が殺され、非常階段の下で新聞記者が頭を殴られて昏倒しているのを発見された事件を警察と新聞記者がそれぞれ追いかけますが、対立や競争はそれほど際立っておらず政治色も強くありません。ドライな文章で良くも悪くも手堅く生真面目にまとめた作品ですが、使われているトリックが子供のいたずらみたいなものだったのには意表を突かれました。 |
No.1030 | 5点 | 人形パズル- パトリック・クェンティン | 2016/01/31 21:01 |
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(ネタバレなしです) 1944年発表のダルース夫妻シリーズ第3作です。休暇中のピーター・ダルースが軍服を盗まれた上に軍服を盗んだ男が殺人を犯したらしいというプロットの本書は過去2作以上にサスペンスが濃厚、いや完全にサスペンス小説と言っていいと思います。じわじわと真綿で首を絞めるように盛り上がるサスペンスは一級品、ところが創元推理文庫版の巻末解説でも指摘されているように、終盤で挿入された「現代の犯罪」という論文がストーリーの流れをせき止めてしまったような印象を受けました。謎解きは行き当たりばったりで推理要素があまりありません。 |
No.1029 | 6点 | グラン・ギニョール城- 芦辺拓 | 2016/01/31 20:38 |
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(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第10作の本格派推理小説で、何と名探偵レジナルド・ナイジェルソープが登場する海外古典本格派推理小説的な世界と森江の登場する現代世界が描かれる風変わりなプロットです。前者を単なるノスタルジーに留めていないのがこの作者ならではで、現実世界との意外な絡ませ方には驚きました。ただこの斬新な仕掛けの提示がやや性急過ぎて頭の回転の鈍い私は整理がなかなか追いつけませんでしたけど。トリックとしては中身が空っぽのはずの甲冑が被害者を抱きしめて墜落した事件のトリックが無茶苦茶ではあるけれど大変面白いアイデアだと思います。 |
No.1028 | 6点 | ゴッホ殺人事件- 長井彬 | 2016/01/31 20:20 |
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(ネタバレなしです) 「パリに消えた花嫁」(1989年)以来となる1993年発表の本格派推理小説ですが、結局本書が長井彬(1924-2002)の遺作となりました。本格派推理小説といっても一般的な本格派推理小説のプロットではありません。ゴッホの幻の名画を巡って様々な人間が思惑げに行動する描写が多く、どちらかといえば陰謀の臭いが漂うスリラー小説に近い印象を受けるかもしれませんが最後はちゃんと本格派推理小説として着地しています。作家デビューが1981年と遅かったとはいえこの作者が長編14作に短編集3作しか残さなかったのは惜しまれます。 |
No.1027 | 6点 | 胡蝶の鏡- 篠田真由美 | 2016/01/30 23:49 |
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(ネタバレなしです) 2005年発表の桜井京介シリーズ第11作で第三部のトップを飾る本格派推理小説で、桜井京介と栗山深春がヴェトナムで活躍します。事件の謎解きよりも家族問題をどう決着させるのかに主眼を置いた物語となっているのは「未明の家」(1994年)を連想しました。それぞれの求める幸せが対立関係になった家族に桜井京介がどのように介入するのかというプロットを上手くまとめ上げています。その分、特に前半はミステリーらしさが薄い印象を受けますが、後半には不可思議な毒殺事件で盛り上げます。ところで本筋からは少し外れますが、作品名を明記はしていませんけど綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)で使われたトリックの一つを完全否定してますね。 |
No.1026 | 5点 | ベベ・ベネット、秘密諜報員になりきる- ローズマリー・マーティン | 2016/01/28 17:11 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表のベベ・ベネット三部作の最終作で、今度はニューヨーカーに人気のおもちゃ店の経営者となったブラッドリーとその秘書室長のベベがまたまた犯罪に巻き込まれます。本書でも恋と謎解きに大忙しのベベが楽しく描かれていますが、波乱万丈ではあるけれど恋の結末についてはさすがに大方の読者には予想がつくでしょう。ブラッドリーの忠告など完全無視で突き進むベベの捜査描写は読みどころ満載ですが、推理はそれほどでもなく犬も歩けば犯人に当たるといった解決です(まあシリーズ3作目ともなれば謎解き重視派の作風でないことはこちらも承知ですが)。あと、創元推理文庫版の巻末解説の「少し不満もある」には私も賛同します。 |
No.1025 | 5点 | ルーン・レイクの惨劇- ケネス・デュアン・ウィップル | 2016/01/28 08:51 |
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(ネタバレなしです) 1930年代にミステリー長編わずか3作(その他も8作のみ)を発表した米国のケネス・デュアン・ウィップル(1894-1973)の1933年出版の第1作です。本格派推理小説ではありますが同時代のエラリー・クイーンのような緻密な推理はなく、謎解きとしてはむしろ粗いです(事件が解決した後でも探偵役が「いまだに解明されていない事実がある」と述べています)。論創社版の巻末解説の通り、ミステリーを読み慣れた読者なら犯人は比較的見当がつきやすいと思いますし、トリックはかなり強引です。代わりにスリラー色が非常に濃く、主人公の目前でいきなり湖上の射殺事件が置き、さらに霧の湖上でカヌーに乗った主人公たちが襲撃され、夜のコテージの窓に謎の人物の顔が浮かび上がり、貯蔵庫から食料が盗まれたりと次から次へと事件が起こります。都会風なクイーンと比べると古臭さがにじみ出ていますが、サスペンスに富んで退屈はしません。 |
No.1024 | 4点 | フラワークッキーと春の秘密- ヴァージニア・ローウェル | 2016/01/27 18:48 |
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(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ヴァージニア・ローウェルが2011年に発表したオリヴィア・グレイソン(クッキー用品店を経営しています)シリーズ第1作のコージー派ミステリーです。かなり早い段階で事件が起こるのですが謎解きを盛り上げる工夫に乏しく前半は少々退屈でした。人物描写も全般的に地味だし、物語を彩るかと思われたクッキーカッター(クッキー型)やクッキーも十分に活かされたとはいえないように思います。はったりで押し切ったような解決も強引さが目立つばかりです。まあこの終盤はそこそこ盛り上がるのですけど。 |
No.1023 | 5点 | 人形村の殺人- 篠田秀幸 | 2016/01/27 18:32 |
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(ネタバレなしです) 2001年発表の弥生原公彦シリーズ第3作の本格派推理小説です。作者が「私の『八つ墓村』です」と述べているように横溝正史の大傑作「八つ墓村」(1949年)の影響が強い作品です。登場人物が様々な形で感情をむき出しにしていた横溝作品と比べると、本書は冷静沈着かつ丁寧に謎解きに取り組む場面が多く、怖くもなければどきどきもしませんがこれはこれでありでしょう。中途半端なコピー作品になるよりはるかにましだと思います。物語の3分の2ほどで早くも「読者への挑戦状」が叩きつけられ、3つの謎が読者に突きつけられますが、この真相がいずれもすっきり感がないのが残念。特に1番目の謎解きは随分ページを費やして説明しているのですが結局は消化不良気味に幕引きしています。現実の事件を下敷きにした謎だけに解決の落としどころが難しいのは理解できるのですが、これでは「読者への挑戦状」が看板倒れではないでしょうか。 |
No.1022 | 6点 | 硝子の家- 島久平 | 2016/01/27 18:20 |
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(ネタバレなしです) 島久平(1911-1983)は1948年から伝法義太郎(私立探偵)を主役にした本格派推理小説を発表し、1960年代になると通俗サスペンス小説を書くようになりましたがどちらも大きな成功を得られなかったようで、ほとんど忘れ去られてしまいました。しかし1950年発表の長編第1作である本書を読むと、同時代の高木彬光に遜色ない実力の持ち主ではと思われます。これでもかと詰め込まれた不可能性の高い謎の数々が本格派好き読者にはたまらない魅力で、多少ご都合主義的なところもありますがトリックはアイデア豊かです。文章もこの時代の作家としては洗練されており、伝法の個性も高木の神津恭介より人間らしさを感じさせます。 |
No.1021 | 7点 | 夜想曲(ノクターン)- 依井貴裕 | 2016/01/27 17:57 |
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(ネタバレなしです) 1999年発表の多根井理シリーズ第4作で、期待に違わず「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説です。相変わらずミステリーらしからぬロマンチックなタイトルと、叙情性をまるで感じさせない文章のミスマッチが気になります。特に本書のプロットなら人物描写をもう少ししっかりしてくれたらと思わずにはいられません。手掛かりの中に時代の古さを感じさせる物があるのもちょっと残念です。とはいえこの大胆な真相はなかなかの衝撃を与えます。いかに緻密に考えられた仕掛けなのかを再読して確認したくなる磁力を持った作品です。これだけのアイデアを持っている作者が本書の後、長い沈黙期に入ってしまったのが大変残念です。 |
No.1020 | 6点 | 青雷の光る秋- アン・クリーヴス | 2016/01/27 17:38 |
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(ネタバレなしです) 2010年発表のシェトランド四重奏最後の作品となった本格派推理小説で、ジミー・ペレス警部が婚約者のフランを連れて故郷のフェア島へ戻って事件に巻き込まれます。何と前半は嵐の孤島状態となりペレス以外にプロの捜査官がいないのですが、その割にはのんびりしているとは言わないまでも緊急事態という切迫感が乏しく、手ぬるい捜査に感じました。しかし最後には衝撃的な結末が待っています。ちなみにジミー・ペレスシリーズはこの後も続いて書かれます。 |