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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1034 5点 キャッツ・アイ- R・オースティン・フリーマン 2016/01/31 23:33
(ネタバレなしです) 1923年発表のソーダイク博士シリーズ第6作の本格派推理小説ですが、ROM叢書版の巻末解説で「スリラーや冒険ものと見なす向きも少なくない」と指摘されているような特徴も持っています。このシリーズは謎解きに科学知識が使われていても一般読者にわかりやすいよう工夫された説明になっているのですが、本書の場合は科学知識以外に一族に伝わる歴史や宗教などもからむため、プロットも真相説明も非常に難解な作品となっています。理解力の弱い私には少々敷居の高い作品でした。

No.1033 6点 北の夕鶴2/3の殺人- 島田荘司 2016/01/31 23:23
(ネタバレなしです) 1985年発表の吉敷竹史シリーズ第3作の本格派推理小説で重要作と評価されています。吉敷の元妻である加納通子が初登場する作品で、吉敷の私生活がハイライトされ、単なる探偵役に留まらない行動をとります。これが強力なサスペンスを生み出すことにもつながっています。犯人当ての要素はありませんが(早い段階でわかります)、奇怪としか言いようのない事件のトリックの大胆さに驚かされます。島田はこのトリックがよほどお気に入りだったらしく、後の作品のいくつかでこのトリックのバリエーションを使っています。ですので本書のトリックがお気に召さない読者は他の島田作品とも相性がよくない可能性が高いと思います。

No.1032 5点 悪魔と警視庁- E・C・R・ロラック 2016/01/31 23:11
(ネタバレなしです) 序盤が非常に魅力的ですがその後が地味過ぎて盛り上がらないという点でヘンリー・ウエイドの「警察官よ汝を守れ」(1935年)といい勝負の(と言っていいのかな)、1938年発表のロバート・マクドナルドシリーズ第14作です。マクドナルド首席警部の車から発見された死体、しかもそれは悪魔の扮装をしていたという出だしは文句なく面白いです。しかしマクドナルドの捜査が非常に地味な描写ですし、登場人物の個性が弱いところは同時代のF・W・クロフツといい勝負です。犯人の正体が早い段階でわかってしまうことの多いクロフツと違って犯人当ての興味を最後まで維持しているところは好感を持てますが、やはりもっと謎解きを盛り上げる演出がほしいところです。

No.1031 6点 光と影- 三好徹 2016/01/31 21:22
(ネタバレなしです) 多作家の三好徹(1931-2021)は一般的には社会派推理小説家として知られていると思いますが、その作品はハードボイルドなら「天使」シリーズ、スパイ小説なら「風」四部作、犯罪小説なら「身代金」シリーズなど実に多岐多彩に渡っており、また非ミステリー作品でも「チェ・ゲバラ伝」(1971年)などが評価が高く、まさにマルチ作家です。残念ながら本格派推理小説には関心が低かったようですが1960年発表のデビュー作である本書は本格派推理小説と社会派推理小説の両方の要素を持ち合わせています。アパートの一室で大物政治家が殺され、非常階段の下で新聞記者が頭を殴られて昏倒しているのを発見された事件を警察と新聞記者がそれぞれ追いかけますが、対立や競争はそれほど際立っておらず政治色も強くありません。ドライな文章で良くも悪くも手堅く生真面目にまとめた作品ですが、使われているトリックが子供のいたずらみたいなものだったのには意表を突かれました。

No.1030 5点 人形パズル- パトリック・クェンティン 2016/01/31 21:01
(ネタバレなしです) 1944年発表のダルース夫妻シリーズ第3作です。休暇中のピーター・ダルースが軍服を盗まれた上に軍服を盗んだ男が殺人を犯したらしいというプロットの本書は過去2作以上にサスペンスが濃厚、いや完全にサスペンス小説と言っていいと思います。じわじわと真綿で首を絞めるように盛り上がるサスペンスは一級品、ところが創元推理文庫版の巻末解説でも指摘されているように、終盤で挿入された「現代の犯罪」という論文がストーリーの流れをせき止めてしまったような印象を受けました。謎解きは行き当たりばったりで推理要素があまりありません。

No.1029 6点 グラン・ギニョール城- 芦辺拓 2016/01/31 20:38
(ネタバレなしです) 2001年発表の森江春策シリーズ第10作の本格派推理小説で、何と名探偵レジナルド・ナイジェルソープが登場する海外古典本格派推理小説的な世界と森江の登場する現代世界が描かれる風変わりなプロットです。前者を単なるノスタルジーに留めていないのがこの作者ならではで、現実世界との意外な絡ませ方には驚きました。ただこの斬新な仕掛けの提示がやや性急過ぎて頭の回転の鈍い私は整理がなかなか追いつけませんでしたけど。トリックとしては中身が空っぽのはずの甲冑が被害者を抱きしめて墜落した事件のトリックが無茶苦茶ではあるけれど大変面白いアイデアだと思います。

No.1028 6点 ゴッホ殺人事件- 長井彬 2016/01/31 20:20
(ネタバレなしです) 「パリに消えた花嫁」(1989年)以来となる1993年発表の本格派推理小説ですが、結局本書が長井彬(1924-2002)の遺作となりました。本格派推理小説といっても一般的な本格派推理小説のプロットではありません。ゴッホの幻の名画を巡って様々な人間が思惑げに行動する描写が多く、どちらかといえば陰謀の臭いが漂うスリラー小説に近い印象を受けるかもしれませんが最後はちゃんと本格派推理小説として着地しています。作家デビューが1981年と遅かったとはいえこの作者が長編14作に短編集3作しか残さなかったのは惜しまれます。

No.1027 6点 胡蝶の鏡- 篠田真由美 2016/01/30 23:49
(ネタバレなしです) 2005年発表の桜井京介シリーズ第11作で第三部のトップを飾る本格派推理小説で、桜井京介と栗山深春がヴェトナムで活躍します。事件の謎解きよりも家族問題をどう決着させるのかに主眼を置いた物語となっているのは「未明の家」(1994年)を連想しました。それぞれの求める幸せが対立関係になった家族に桜井京介がどのように介入するのかというプロットを上手くまとめ上げています。その分、特に前半はミステリーらしさが薄い印象を受けますが、後半には不可思議な毒殺事件で盛り上げます。ところで本筋からは少し外れますが、作品名を明記はしていませんけど綾辻行人の「十角館の殺人」(1987年)で使われたトリックの一つを完全否定してますね。

No.1026 5点 ベベ・ベネット、秘密諜報員になりきる- ローズマリー・マーティン 2016/01/28 17:11
(ネタバレなしです) 2007年発表のベベ・ベネット三部作の最終作で、今度はニューヨーカーに人気のおもちゃ店の経営者となったブラッドリーとその秘書室長のベベがまたまた犯罪に巻き込まれます。本書でも恋と謎解きに大忙しのベベが楽しく描かれていますが、波乱万丈ではあるけれど恋の結末についてはさすがに大方の読者には予想がつくでしょう。ブラッドリーの忠告など完全無視で突き進むベベの捜査描写は読みどころ満載ですが、推理はそれほどでもなく犬も歩けば犯人に当たるといった解決です(まあシリーズ3作目ともなれば謎解き重視派の作風でないことはこちらも承知ですが)。あと、創元推理文庫版の巻末解説の「少し不満もある」には私も賛同します。

No.1025 5点 ルーン・レイクの惨劇- ケネス・デュアン・ウィップル 2016/01/28 08:51
(ネタバレなしです) 1930年代にミステリー長編わずか3作(その他も8作のみ)を発表した米国のケネス・デュアン・ウィップル(1894-1973)の1933年出版の第1作です。本格派推理小説ではありますが同時代のエラリー・クイーンのような緻密な推理はなく、謎解きとしてはむしろ粗いです(事件が解決した後でも探偵役が「いまだに解明されていない事実がある」と述べています)。論創社版の巻末解説の通り、ミステリーを読み慣れた読者なら犯人は比較的見当がつきやすいと思いますし、トリックはかなり強引です。代わりにスリラー色が非常に濃く、主人公の目前でいきなり湖上の射殺事件が置き、さらに霧の湖上でカヌーに乗った主人公たちが襲撃され、夜のコテージの窓に謎の人物の顔が浮かび上がり、貯蔵庫から食料が盗まれたりと次から次へと事件が起こります。都会風なクイーンと比べると古臭さがにじみ出ていますが、サスペンスに富んで退屈はしません。

No.1024 4点 フラワークッキーと春の秘密- ヴァージニア・ローウェル 2016/01/27 18:48
(ネタバレなしです) アメリカの女性作家ヴァージニア・ローウェルが2011年に発表したオリヴィア・グレイソン(クッキー用品店を経営しています)シリーズ第1作のコージー派ミステリーです。かなり早い段階で事件が起こるのですが謎解きを盛り上げる工夫に乏しく前半は少々退屈でした。人物描写も全般的に地味だし、物語を彩るかと思われたクッキーカッター(クッキー型)やクッキーも十分に活かされたとはいえないように思います。はったりで押し切ったような解決も強引さが目立つばかりです。まあこの終盤はそこそこ盛り上がるのですけど。

No.1023 5点 人形村の殺人- 篠田秀幸 2016/01/27 18:32
(ネタバレなしです) 2001年発表の弥生原公彦シリーズ第3作の本格派推理小説です。作者が「私の『八つ墓村』です」と述べているように横溝正史の大傑作「八つ墓村」(1949年)の影響が強い作品です。登場人物が様々な形で感情をむき出しにしていた横溝作品と比べると、本書は冷静沈着かつ丁寧に謎解きに取り組む場面が多く、怖くもなければどきどきもしませんがこれはこれでありでしょう。中途半端なコピー作品になるよりはるかにましだと思います。物語の3分の2ほどで早くも「読者への挑戦状」が叩きつけられ、3つの謎が読者に突きつけられますが、この真相がいずれもすっきり感がないのが残念。特に1番目の謎解きは随分ページを費やして説明しているのですが結局は消化不良気味に幕引きしています。現実の事件を下敷きにした謎だけに解決の落としどころが難しいのは理解できるのですが、これでは「読者への挑戦状」が看板倒れではないでしょうか。

No.1022 6点 硝子の家- 島久平 2016/01/27 18:20
(ネタバレなしです) 島久平(1911-1983)は1948年から伝法義太郎(私立探偵)を主役にした本格派推理小説を発表し、1960年代になると通俗サスペンス小説を書くようになりましたがどちらも大きな成功を得られなかったようで、ほとんど忘れ去られてしまいました。しかし1950年発表の長編第1作である本書を読むと、同時代の高木彬光に遜色ない実力の持ち主ではと思われます。これでもかと詰め込まれた不可能性の高い謎の数々が本格派好き読者にはたまらない魅力で、多少ご都合主義的なところもありますがトリックはアイデア豊かです。文章もこの時代の作家としては洗練されており、伝法の個性も高木の神津恭介より人間らしさを感じさせます。

No.1021 7点 夜想曲(ノクターン)- 依井貴裕 2016/01/27 17:57
(ネタバレなしです) 1999年発表の多根井理シリーズ第4作で、期待に違わず「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説です。相変わらずミステリーらしからぬロマンチックなタイトルと、叙情性をまるで感じさせない文章のミスマッチが気になります。特に本書のプロットなら人物描写をもう少ししっかりしてくれたらと思わずにはいられません。手掛かりの中に時代の古さを感じさせる物があるのもちょっと残念です。とはいえこの大胆な真相はなかなかの衝撃を与えます。いかに緻密に考えられた仕掛けなのかを再読して確認したくなる磁力を持った作品です。これだけのアイデアを持っている作者が本書の後、長い沈黙期に入ってしまったのが大変残念です。

No.1020 6点 青雷の光る秋- アン・クリーヴス 2016/01/27 17:38
(ネタバレなしです) 2010年発表のシェトランド四重奏最後の作品となった本格派推理小説で、ジミー・ペレス警部が婚約者のフランを連れて故郷のフェア島へ戻って事件に巻き込まれます。何と前半は嵐の孤島状態となりペレス以外にプロの捜査官がいないのですが、その割にはのんびりしているとは言わないまでも緊急事態という切迫感が乏しく、手ぬるい捜査に感じました。しかし最後には衝撃的な結末が待っています。ちなみにジミー・ペレスシリーズはこの後も続いて書かれます。

No.1019 5点 死にぞこない- 飛鳥高 2016/01/27 17:24
(ネタバレなしです) 失踪した社長の足跡が砂の真ん中にぽつんと建っている石碑の前まで続き、そこからどこへも足跡は続かず、波打ち際は石碑から10メートル近く先だったという謎が魅力的な1960年発表の第4長編です。しかし失踪人探しがメインプロットで、殺人事件も起きるのですが犯人当てとしては推理の要素はほとんどないのが本格派推理小説としては中途半端感が残ります。中盤で主人公が自分の行動を「失踪者の周囲に何か黒雲のようにもやもや漂っているものを取り払う」と振り返っていますが、その目的からしてどこかもやもやしているように感じます。もっともつまらない作品では決してなく、足跡トリックはトリックメーカーと評されている作者ならではの巧妙なものだし、主人公を微妙に捜査に消極的な役柄に設定しているのも物語的には成功しています。余韻を残す結末も選出効果が高いです。

No.1018 4点 クレオパトラの黒い溜息- 小峰元 2016/01/27 16:22
(ネタバレなしです) それほど著名な作品ではありませんが1984年に発表された本書は小峰作品のみならず全てのミステリー作品の中でもユニークな試みがあることで知られます。それは横書きで書かれたことです(小説としては日本初らしいです)。電子メールが日常ツールとなっている現代ではこの横書き形式もそれほど苦労せずに読めると思います(従来の縦書きより有利だとも思いませんが)。このタイトルで「プラトンは赤いガウンがお好き」(1977年)に登場したパトラというニックネームの女子高生の再登場を期待した人、残念でした。全く関連のない作品です。成績優秀であっても大人にいいようにあしらわれてしまう主人公(男子高校生)の物語ですが、低俗に走り過ぎなストーリー展開が私の好みに合わず主人公にも共感できません。各章の最後で「振出へ戻る」という設定なのがこれまたユニークですが、捜査や推理が進んでいるというより行き詰まり気味なので「戻る」感じの演出が弱く趣向倒れの印象が残ります。但し最終章での推理説明にはインパクトがあり、「振出へ戻る」も上手くはまっています。

No.1017 5点 夏油温泉殺人事件- 中町信 2016/01/25 20:40
(ネタバレなしです) 1990年発表当時は「不倫の代償」というタイトルだった氏家周一郎シリーズ第8作の本格派推理小説です。乗用車とマイクロバスが接触事故を起こして両方とも崖下に転落して10名もの死者を出した事故が起こり、記憶喪失を起こした生き残りの乗客が犠牲者の一人が殺されるのを見た気がすると発言したことから謎が深まります。読みにくくはないのですが人間関係が意外と複雑な上に、バスにいたはずの乗客が乗用車に乗っていたのではとか乗用車に乗っていたはずの乗客がバスに乗っていたのではとか話がどんどんややこしくなります。動機の探求やアリバイ調査もありますが最後の決め手は第10章で図解入りで説明されるある証拠。しかしこれは何とでも解釈できそうな弱い証拠だと思います。何とでも解釈と言えばダイイング・メッセージの謎解きも同じで、私には真相の説得力が「そうかもしれない」という程度でした。

No.1016 5点 マジシャンは騙りを破る- ジョン・ガスパード 2016/01/24 18:59
(ネタバレなしです) 低予算映画の監督で映画製作関連本も書いている米国のジョン・ガスパードが最初に書いたミステリーが2012年に発表したマジシャン探偵イーライ・マークスシリーズ第1作の本書です。創元推理文庫版の巻末解説で実在のマジシャンであるハワード・サーストンの三原則という、「事前に説明しないこと」「同じマジックを繰り返し見せないこと」「種明かしをしないこと」というマジシャン間の暗黙のルールがあることを紹介し、作中でもイーライはこのルールを遵守してマジックのネタバラシはしないようにしています。犯罪の謎解きだけでなくマジックの種明かしにも積極的だったクレイトン・ロースンのマジシャン探偵グレート・マーリニとは大違いですが、もしかするとロースンの方が業界マナー違反だったのかもしれませんね。さて本書ではマジシャンが何人も登場してその中から被害者も出るのですが、不可能犯罪が起きるわけではありませんのでトリック破りを期待してはいけません。犯人をカモフラージュするミスディレクションの方が目を引きます。但し推理説明による謎解きを期待してるとこれまた肩透かしをくらってしまうところが本格派推理小説としては個人的にちょっと不満です。

No.1015 5点 死のある風景- 鮎川哲也 2016/01/24 00:15
(ネタバレなしです) 創元推理文庫版の作品紹介で「鮎川ミステリ屈指の傑作」と評価の高い1965年発表の鬼貫警部シリーズ第8作の本格派推理小説です。事件関係図や時刻表が豊富に揃えられ、(部分的には時代の古さを感じさせるものの)緻密に考えられたアリバイトリックなど鮎川らしさはよく発揮されていると思います。ところで創元推理文庫版の巻末解説(ネタバレありなので作品を読み終えてからどうぞ)では鬼貫をクイーンの流派の天才探偵として位置づけ、「アリバイ崩しにクイーンの作法を持ち込んだ」と絶賛していますが、本書の場合はどうでしょう?全13章の内、鬼貫の登場はわずか1章のみ、おまけに真相説明しているのは別人なのです。これでは鬼貫の天才ぶりがまるで伝わらないのでは。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)