皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.1394 | 8点 | 十角館の殺人- 綾辻行人 | 2016/07/04 08:58 |
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(ネタバレなしです) 綾辻行人(1960年生まれ)は時代遅れとされていた本格派推理小説を復活させた「新本格派」の代表的作家として日本ミステリーの歴史を語る時にその名を外すことは考えられないほどの存在です。綾辻以前にも島田荘司や笠井潔などが本格派の力作を書いていたことも事実ですが、ムーヴメントを起こしたと評価されるほど1987年発表のデビュー作である本書の歴史的意義は大きいです。謎解きの面白さを再認識してくれ、という作者の熱い思いがひしひしと伝わってくるのに本格派好きの私としては大いに共感でき、アガサ・クリスティーの「そして誰もいなくなった」(1939年)を連想させるプロットも大歓迎です。惜しまれるのは存在感ある名探偵を描けなかったことで、おかげでこのシリーズは探偵の名前ではなく「館シリーズ」と呼ばれるようになってしまいました(笑)。 |
No.1393 | 5点 | なぜ、エヴァンズに頼まなかったのか?- アガサ・クリスティー | 2016/07/04 08:38 |
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(ネタバレなしです) 1934年発表の本書(シリーズ探偵は登場しません)は推理もあるし犯人を終盤まで伏せているプロットではありますが冒険スリラーに属する作品です。特にエヴァンズの正体に本格派推理小説の謎解きを期待するとがっかりするでしょう。江守森江さんのご講評の通り、そこについては読者が推理する余地がありませんので。とはいえアマチュア探偵コンビの活躍は楽しく、難しく考えずに気軽に楽しめる作品としてはよくできています。 |
No.1392 | 5点 | 検事方向転換す- E・S・ガードナー | 2016/07/03 06:53 |
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(ネタバレなしです) 1943年発表のダグラス・セルビイシリーズ第6作です。被害者が2つの素性を持っていたらしいことが判り、どちらの人物として殺されたのかというややこしい謎が読者を悩ませます。身を隠す容疑者たちをいかにして見つけて事情聴取するか、宿敵弁護士のカーとの駆け引きも読ませどころです。本格派推理小説としては犯人の方がぺらぺら説明していてセルビイの推理がほとんど楽しめないのが物足りませんでした。 |
No.1391 | 5点 | 眩暈- 島田荘司 | 2016/07/03 06:37 |
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(ネタバレなしです) 1992年に発表された御手洗潔シリーズ第6作で講談社文庫版で650ページを超える本格派推理小説です。大作の割に読みやすいのはさすがですがグロテスクな描写にはちょっとげんなりしました。「暗闇坂の人喰いの木」(1990年)のグロテスクな場面はそれほど気にならなかったのになぜ本書の場合は肌が合わないのか自分でも明快な理由を見つけられないのですが。大掛かりなトリックを用意しているのがこの作者らしいですが「斜め屋敷の犯罪」(1982年)や「水晶のピラミッド」(1991年)のトリックほどの破天荒さは感じません。かえってトリック成立に無理があるのが気になってしまいました。 |
No.1390 | 5点 | 猿島館の殺人~モンキー・パズル~- 折原一 | 2016/07/03 06:33 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の黒星警部シリーズ第2作の本格派推理小説でシリーズ前作の「鬼面村の殺人」(1989年)と同じく古今のミステリーのパロディーを意識した作品です。パロディーにされた作品を読んでいなくても十分に楽しめる内容だった「鬼面村の殺人」と比べると本書は謎もトリックも魅力に欠け、パロディーとユーモアへの依存度が高くなってしまったのがやや苦しいです。パロディーであっても謎と謎解きはしっかりしたものであってほしいところで、「どくしゃへの挑戦」も空回り気味に感じました。 |
No.1389 | 4点 | 玉嶺よふたたび- 陳舜臣 | 2016/07/03 06:21 |
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(ネタバレなしです) 1969年に発表された本書は小説としてのプロットは非常にしっかり作られており、日中戦争時代の中国という時代背景描写も巧みです。派手な個性表現はありませんが人物の描き分けも見事です。しかし波乱があるとはいえ内容的には恋愛を絡めた旅行記といってよく、あまりミステリーらしくありません。終盤になってやっと犯罪小説風な展開を見せますがミステリーとしては物足りなく感じる人がいるかもしれません。小説要素と謎解き要素のバランスが絶妙だった「枯草の根」(1961年)や「炎に絵を」(1966年)とは全く異質に感じられた作品でした。 |
No.1388 | 8点 | 人形はなぜ殺される- 高木彬光 | 2016/07/03 06:18 |
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(ネタバレなしです) 1955年発表の神津恭介シリーズ第6作で個人的には高木彬光の最高傑作と思っています。派手な演出と素晴らしいトリックの絡ませ方が絶妙で「読者への挑戦状」を2回も挿入していることからも作者の自信がうかがえますが、確かに謎解き好き読者のわくわく感に応えるだけの内容を持った本格派推理小説です。松下研三のあまりにも滑稽で大袈裟なワトソン役ぶりは少々鼻につきますが。 |
No.1387 | 5点 | 検事封を切る- E・S・ガードナー | 2016/07/02 09:39 |
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(ネタバレなしです) 1946年発表のダグラス・セルビイシリーズ第7作ですが本書のセルビイは軍務に就いているため地方検事ではないところが珍しいです。もっとも保安官ブランドンのセルビイへの忠誠心は全く変わらず、殺人現場でもどこでもセルビイを案内しています。問題ないのか、それで(笑)?今回セルビイは検事ではなく弁護人として宿敵カーと対決です(随分簡単に弁護人になっていますが多分資格があるのでしょうね)。ちゃんと法廷場面も用意されており互いに持ち味を発揮してなかなかの見ものです。謎解きはものすごい駆け足気味な上にセルビイはあっという間に汽車に乗って行ってしまいましたね(笑)。 |
No.1386 | 4点 | 偽りの名画- アーロン・エルキンズ | 2016/07/02 09:23 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本書は新しい名探偵役として美術館員クリス・ノーグレンを主人公にしたシリーズ第1作です。ギデオン・オリヴァー教授シリーズと違ってクリスを語り手にした1人称形式が特徴となっています。絵画に関する専門知識が散りばめられていますが贋作候補がいくつもあることもあって絵画の説明や真贋鑑定場面のページが結構多く、美術に全く興味のない読者にはちょっと辛い作品かもしれません。贋作探しに加えて犯人当て要素もありますがごろつきを雇っての犯行があるのは本格派推理小説としてはあまり好ましくないように感じます。 |
No.1385 | 6点 | 殺人への扉- エリザベス・デイリー | 2016/07/02 09:10 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のヘンリー・ガーメッジシリーズ第4作です。既に怪死事件が1件、手紙事件3件、疑惑の事故4件と結構色々あったらしいことが序盤で提示されますが怪死事件以外はミステリー読者の興味を惹きそうなネタでなく、怪死事件にしても過去の出来事扱いのため前半の展開がやや退屈に感じました。しかし中盤で新たな事件が起きてからはようやく本格派推理小説として目覚めたかのように物語のテンポが上がり、結末もなかなか劇的に描かれています。 |
No.1384 | 5点 | ブラッドオレンジ・ティーと秘密の小部屋- ローラ・チャイルズ | 2016/07/02 09:07 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表の「お茶と探偵」シリーズ第7作です。このシリーズはどうもミステリーとしての感想が書きにくく、今回はお茶よりも料理の描写の方が印象的だったとかセオドシアが激昂しているのが珍しいとかティドウェル刑事が(口調は相変わらずぶっきらぼうだが)粋な計らいを見せたとか謎解き以外の部分ばかり記憶に残っています。ほんと、これでもう少し謎解きがちゃんとしていればねえ...(笑)。 |
No.1383 | 6点 | 猟犬クラブ- ピーター・ラヴゼイ | 2016/07/02 08:59 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第4作はミステリ談義がたっぷりと盛り込まれ、ミステリに思い入れの強い読者ほど楽しめます(ダイヤモンドをミステリ音痴に設定しているのも巧妙)。ミステリ・ビギナーの読者も大丈夫、本格派推理小説としてのプロットがしっかりした作品でもあります。珍しくも密室殺人事件を扱っており、特別すごいトリックが使われているわけではありませんが非常に丁寧な推理で謎解きしています。犯人当てとしては手掛かりを出し惜しみして逮捕後にダイヤモンドが犯人に尋ねて初めてわかる部分があるのがちょっと残念ですが、ハヤカワ文庫版で600ページ近い大作ながらストーリーテリングが冴え渡って読みやすいです。 |
No.1382 | 6点 | 原始の骨- アーロン・エルキンズ | 2016/07/01 16:56 |
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(ネタバレなしです) 2008年発表のギデオン・オリヴァーシリーズ第15作の本格派推理小説です。シリーズ作品として変わらぬ安定感があり、専門知識と軽妙な会話の絶妙なバランス、謎解きの面白さ、押しつけがましくない旅情(本書の舞台はジブラルタル)などが楽しめます。ただ自分の場合、思考力が衰えてまともな会話ができず食欲だけが旺盛な高齢者の描写が自分の亡き父親の姿とあまりにぴったりと重なってしまい、楽しむというよりは感傷にひたりながら読んでしまいました(個人的な思い出話ですみません)。 |
No.1381 | 4点 | レッド・ゲート農場の秘密- キャロリン・キーン | 2016/07/01 16:45 |
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(ネタバレなしです) 1931年発表のナンシー・ドルーシリーズ第6作です。創元推理文庫版の巻末でこのシリーズは本格ミステリよりはハードボイルドに近いという(個人的には驚きの)解説が書かれていますがそもそも本格かハードボイルドかの二者択一というのは強引な感もします。本書のナンシーが行動派探偵なのは確かですが、今回は活躍よりも助けられている印象の方が強かったです。もっとも最後の一行で述べられているように事件解決後のちゃっかりぶりの方で目立っていたような(笑)。 |
No.1380 | 5点 | 牝牛は鈴を鳴らす- E・S・ガードナー | 2016/07/01 16:39 |
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(ネタバレなしです) 1950年発表の本書はシリーズ探偵の登場しない冒険スリラーですが後半には法廷場面が用意されているのがガードナーらしいです。明確な探偵役を置かず、それなりに意外性のある結末ながらも謎解き伏線は十分とはいえないように感じられます。(古い翻訳のハヤカワポケットブック版ながら)テンポのいいストーリーテリングでぐいぐいと読ませます。 |
No.1379 | 5点 | おいしいワインに殺意をそえて - ミシェル・スコット | 2016/07/01 16:28 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家ミシェル・スコットが2004年に発表したコージー派ミステリーのデビュー作です。ワインに合う料理レシピが紹介されているのが特徴ですがそれ以上に印象に残るのが人物描写のうまさです。端役的な人物までしっかり書き込まれており子供の描写も卓抜で、コージー派作家の中でも上位に来るのではないでしょうか。行動型探偵が手掛かりにぶつかってそのまま真相が明らかになるという、コージー派によくありがちな謎解きプロットで推理要素が少ないのが物足りないですが筆力は確かです。 |
No.1378 | 5点 | 踊るドルイド- グラディス・ミッチェル | 2016/07/01 16:19 |
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(ネタバレなしです) 1948年発表のミセス・ブラッドリーシリーズ第21作です。クロスカントリーの最中に道に迷った男がたどり着いた家から病人を運ぶのを手伝う羽目になります。その病人は頭まで毛布で何重にもぐるぐる巻きにされていて、病人ではなく死人ではないかと不安になった男は途中で逃げ出しすのですが自分の身体に血のようなものが付いているのに気がつくという、本格派推理小説というよりはスリラー小説みたいな展開です。ほとんど回り道なしで物語が進むのでミッチェル作品としては読みやすく感じましたが読みやすかったのは前半まで。メインの謎がはっきりしないままに捜査が何となく進み何となく謎が解けてしまった、そんな読後感が残りました。ミセス・ブラッドリーよりも秘書のローラの方が目立っていたような印象を受けました。 |
No.1377 | 6点 | ベベ・ベネット、死体を発見- ローズマリー・マーティン | 2016/06/30 16:52 |
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(ネタバレなしです) 2005年発表の本書は歴史ロマンスや歴史ミステリーを書いている米国の女性作家ローズマリー・スティーブンスがマーティン名義で発表した、ベベ・ベネット三部作(本国では「Murder A-go-go Mystery」)の第1作です。作中時代を1960年代にして当時の音楽ファンには懐かしいアーティスト名が登場し、女性作家ならではの細やかなファション描写も印象的です。ユーモアとどたばたに満ち溢れたスピーディーな展開はページをめくる手が止まりません。解決が場当たり的になっているのがちょっと惜しいですが、それでもコージー派ミステリーとしては謎解きをおろそかにしないプロットに仕上がっています。 |
No.1376 | 3点 | 猫はペントハウスに住む- リリアン・J・ブラウン | 2016/06/30 16:42 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表のシャム猫ココシリーズ第11作で、「猫はスイッチを入れる」(1968年)の舞台だったジャンクタウンが再登場します。もっとも本書では高層アパートメント「カサブランカ」がメインに描かれていてあまり街中の描写はありませんけど。個性的な住人描写やグルメ猫のココが意外なものを食べたりしている場面はそれなりに楽しめますが、ココのスクラブルゲームにほとんど頼ったような謎解きは推理気分が味わえませんでした。 |
No.1375 | 6点 | 殺人をしてみますか?- ハリイ・オルズカー | 2016/06/30 16:39 |
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(ネタバレなしです) 米国のハリイ・オルズカー(1923頃ー1969)は1958年発表の本書がミステリー第1作となりますがもともとテレビやラジオの作家としての実績があるためか文章は手馴れた感があり、とても読みやすい作品です。面白いのはフェルダー警部シリーズの第1作であるにもかかわらず主人公は別におり、登場場面の少ないフェルダー警部は要領のいい脇役といったところでしょうか。ユーモアに満ちた軽いタッチの作品ですが本格派推理小説としてしっかり謎解き伏線を張ってあるのが好ましく感じられます。 |