皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2877件 |
No.1857 | 5点 | 特製チリコンカルネの殺人- ナンシー・ピカード | 2017/04/02 23:13 |
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(ネタバレなしです) 本書のハヤカワ文庫版はナンシー・ピカード(1945年生まれ)の単独執筆作品であるかのような表装ですが、ヴァージニア・リッチ(1914-1985)によるミセス・ポッターシリーズ第4作の未完の遺稿をピカードが完成させて1993年に出版した1種の合作というのが正しいです(詳細は作者による「結びの言葉」で説明されてます)。舞台はアリゾナにあるミセス・ポッターが経営者である1万5千エーカーの牧場で、(メキシコとの国境近くの)南部アメリカの雰囲気が濃厚なのが本書の個性でもあります。タイトルにも使われている27種類の材料のチリコンカルネを筆頭にメキシコ料理描写の数々が作品世界を彩ります。もっともスペイン語と(和訳された)英語がごちゃ混ぜになる会話は凝り過ぎで、物語の流れを妨げ気味ですけど。牧場管理人親子の失踪事件、彼が掴んでいた(らしい)秘密とは何かの謎、そして物語後半にエスカレートする悲劇とサスペンスには優れていますがその一方でコージー派ならではの明るいユーモアは犠牲になっています。リッチの「料理上手は殺しの名人」(1982年)と比べて本格派推理小説の謎解き要素が弱いのも個人的には残念。巻末解説では「アガサ・クリスティーの作品にどこか似ている」と持ち上げていますが、個人的にはいくらなんでも過大評価ではと思います。 |
No.1856 | 4点 | 金色の喪章- 佐野洋 | 2017/03/26 02:44 |
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(ネタバレなしです) 1964年発表の本格派推理小説です。妻と別居中の大学助教授の紀原が、髪をブロンドに染め英語と日本語両方を操る謎の女性と一夜を共にする関係となりますが、やがて彼女を殺害した容疑者として警察から事情聴取されるプロットです。私の読んだ角川文庫版の巻末解説では文章のわかりやすさを誉めており、「初心者から読み馴れた読者まで誰が読んでも満足する」とまで持ち上げていますが個人的にはかなり疑問に感じます。主人公の紀原(夢遊病の疑惑あり)のキャラクターが捉えどころがなくて読者の共感を得にくい上に人間関係もわかりづらく、決して読みやすい作品ではありません(私の読解力の低さはまあ置いとくとして)。真相説明も回りくどい上に犯行計画がかなりご都合主義的なのも謎解きの魅力を引き下げています(早い段階から大胆な伏線を張ってあることは評価できますけど)。 |
No.1855 | 6点 | ポッターマック氏の失策- R・オースティン・フリーマン | 2017/03/25 06:50 |
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(ネタバレなしです) 犯人の正体をあらかじめオープンにする倒叙本格派推理小説の創設者として有名なフリーマンですがその種の作品は案外と多くなく、長編2作と短編7作しかありません。1930年発表のソーンダイク博士シリーズ第12作の本書はその希少な長編の1つです。これが倒叙本格派の原典であり、後発のF・W・クロフツやヘンリー・ウエイドがどのような新趣向の倒叙本格派を書いたのかを比較してみるのも面白いかもしれません。長編なので事件が発生するまでをじっくり書くのかと予想していたら意外と早く事件が起き、犯行に至る経緯については中盤での回想シーンで後から語られるという構成を採用しています。事件後のポッターマック氏の犯行隠蔽工作が実に細かく描かれるところはフリーマンならではです。人物描写はどちらかといえば苦手な作者ですが本書では主役であるポッターマック氏の境遇描写に結構力を入れており、読者がどこまで共感できるか(或いは反感を抱くか)によって作品評価が分かれそうです。ソーンダイクのまるで物語を聞かせるかのような終盤の推理説明が不思議なサスペンスを生み出して印象的です。 |
No.1854 | 4点 | 木蓮荘綺譚 伊集院大介の不思議な旅- 栗本薫 | 2017/03/19 22:33 |
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(ネタバレなしです) 栗本薫(1953-2009)が2008年に発表した「伊集院大介の不思議な旅」という副題を持つ伊集院大介シリーズ第25作でシリーズ最終作となった本格派推理小説です。「旅」といっても近所を散歩している大介が木蓮の花咲く古い家に興味を抱き、そこの住人である老婦人と知り合いとなるプロットで一般的なトラベル・ミステリーとは異なります。過去に起きた1件の幼児殺害事件と2件の幼児失踪事件の影がちらつくところがかろうじてミステリーらしさを醸し出していますが、老婦人のとりとめもない長話を聞かされる大介という場面が非常に多くてそこが冗長に感じる読者も少なくないと思います。その長話を謎解き真相と関連づけているのは巧妙と言えなくもないですけど。余談になりますが私の読んだ講談社文庫版の巻末解説でシリーズ作品リストを付けているのはとても親切だと思いますがなぜかシリーズ第4作の「猫目石」(1984年)が脱けていました。 |
No.1853 | 5点 | ラスキン・テラスの亡霊- ハリー・カーマイケル | 2017/03/14 19:23 |
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(ネタバレなしです) 1950年代から1970年代にかけて活躍した英国のハードボイルド作家であるハートリー・ハワード(1908-1979)はハリー・カーマイケルという別名義で本格派推理小説を発表しています。ハワード名義で長編44作、カーマイケル名義で長編41作というかなりの多作家です。本書は1953年発表のジョン・バイパー&クインシリーズ第3作の本格派推理小説です。海外本格派推理小説の黄金時代は1920年に始まり第二次世界大戦の終結と共に終わったという説がありますがなるほどカーマイケルの作品はプロットは地味だし文章表現も抑制が効いていてしかもやや暗めで(論創社版の巻末解説では「内省的でウエット」な作風と評価しています)、黄金時代の派手なミステリーとは対照的です。自殺の可能性も十分ある怪死事件を保険会社の調査員であるバイパーが丹念に調べていきます(新聞記者のクインの出番は案外と少ないです)。秘められた悪意を探り出すようなバイパーの尋問と感情の爆発をぎりぎりこらえているような容疑者たちの態度が不思議なサスペンスを生み出しています。謎解き伏線はそれなりに揃っているようですがバイパーが推理の過程をそれほど詳細には説明しないので、謎解きパズル要素を求める読者は少し消化不良を感じるかもしれません。 |
No.1852 | 6点 | 完全恋愛- 牧薩次 | 2017/03/10 08:44 |
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(ネタバレなしです) 新進作家の2008年発表のデビュー作と紹介しそうになりますが実は1970年代にデビューしたベテラン作家の別名義による作品で、作者の正体については本書の終盤と巻末解説を読めば判明するようになっています。makomakoさんのご講評の通り、私のようなおじさん読者には気恥ずかしくて手を出すのがためらわれるタイトルですが勇気(?)を出して読んでみると、ある画家の人生記と謎解き本格派推理小説を融合させた意欲作でした。恋愛要素もありますがミステリーですから犯罪は発生しますし憎悪描写もそれなりにあって決して甘い内容ではありません。作中時代が1945年から2007年まで続く壮大なプロットですし、人物関係も複雑な上にしばらく退場してかなり後になって再登場というのもあるので人物リストを作りながらじっくり読むことを勧めます。謎解きとしては問題点も多く、特に最後の事件のトリックの「最後の2つの難関」の真相にはがっかりしましたがパズル性だけでなく物語性も重視する読者なら本書は高く評価できるかもしれません。 |
No.1851 | 5点 | 紙片は告発する- D・M・ディヴァイン | 2017/03/04 09:02 |
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(ネタバレなしです) 1970年発表の第9作となる本格派推理小説です。創元推理文庫版の巻末解説で語られているように英語原題の「Illegal Tender」(直訳すれば不正入札)というタイトル、主要舞台は不正疑惑や出世争いの渦巻く町議会、主人公は上司(書記官)と不倫中の女性議員(副書記官)と国内ミステリーならまず社会派推理小説と認識されそうなプロットで、そういうのが好きな読者ならわくわくするでしょうけど本格派好きの私にはちょっと辛い筋運びです(笑)。それでも主人公の探偵役としての行動が活発になる後半は謎解きのサスペンスが盛り返してきますが推理はやや弱く、犯人指摘には有力ではあっても決定的とは思えませんでした(警察も疑惑だけだったと認めています)。 |
No.1850 | 6点 | 歳時記(ダイアリイ)- 依井貴裕 | 2017/03/01 12:25 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の多根井理(たねいさとし)シリーズ第2作の本格派推理小説です。自殺した(らしい)女性が書き遺した推理小説(その中にも理が登場します)を理が読んで謎を解くという作中作の構成を採用し、作中作を読み終えたところで「読者への挑戦状」が待ち構えています。論理の積み重ねが圧巻で一体どれだけの謎解き伏線が張ってあったのか、余裕と根気があるなら手掛かり脚注を作成してみるのも一興かもしれません。「読者への挑戦状」の中で「意外性を追求するあまり、無理な作品になってしまいました」とコメントされていますが、なるほど意外というよりも複雑に過ぎて不自然さが目立った感があります(シーマスターさんや江守森江さんのご講評で紹介されている国内作家Tの某作品を連想させる仕掛けは細部までよく説明されていますけど私の読解力レベルでは漠然としか理解できませんでした)。エピローグの犯人メッセージにも矛盾を感じないわけではありません。しかし作者の謎解きへの熱意が十分以上に伝わってくる作品でもあります。余談ですが作中で作者の依井貴裕や探偵役の多根井理のネーミングの由来が紹介されています。 |
No.1849 | 5点 | お菓子の家- カーリン・イェルハルドセン | 2017/02/26 18:38 |
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(ネタバレなしです) カーリン・イェルハルドセン(1962年生まれ)はスウェーデンの女性作家で、デビュー作は1992年発表の非ミステリー作品ですがこれは失敗に終わったらしいです。しかし2008年発表のハンマルビー署シリーズ第1作の本書以降は順風満帆、もともとは三部作の予定だったそうですがこのシリーズは4作目以降も書き続けられています。本書はどこかアガサ・クリスティーの「ABC殺人事件」(1935年)を連想させます。違うところも沢山あります。クリスティー作品は本格派推理小説ですが本書は警察小説で読者が推理に参加する要素はありません。犯人が探偵に殺人予告を送るなど派手でテンポの早い展開のクリスティー作品と比べると本書は同一犯による連続殺人であることに警察が気がつくのさえも物語の後半ですし、何よりも作品全体が(タイトルはメルヘンチックなのに)殺伐として重苦しい雰囲気を漂わせています。でも(ネタバレになるので詳しく書けませんが)やっぱちょっと似ているところがあるんですよね。 |
No.1848 | 4点 | 殺人二都物語- 矢島誠 | 2017/02/23 09:59 |
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(ネタバレなしです) 1991年発表の犯罪小説と本格派推理小説のジャンルミックス型の作品です。オースティン・フリーマンやF・W・クロフツの倒叙本格派推理小説とは異なり、犯人の正体は明かしても犯人のトリックについては読者に対して謎のままにしています。14年前の学生時代に人を殺してしまった男がその事実を知る何者からの脅迫状を受け取るところから物語は始まります。殺人犯は脅迫者と思われる人物を殺害し、探偵役(男女の記者コンビ)が真相を追究します。第4章や第5章で予期せぬ出来事に殺人犯を巻き込んで物語にアクセントを付けているのが工夫ですが、全般的には平凡な出来の印象です。人物描写に生彩がなく、気の利いた謎解き手掛かりもなく、最後に明かされるアリバイトリックは強引かつあまりにも好都合的な仕掛けでした。何を長所として紹介すればいいのか困ってしまいました。 |
No.1847 | 5点 | 緯度殺人事件- ルーファス・キング | 2017/02/21 16:21 |
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(ネタバレなしです) 米国のルーファス・キング(1893-1966)は1920年代後半から1930年代までは全11作のヴァルクール警部補シリーズの本格派推理小説が創作の中心を占め、1940年代からはサスペンス小説系の非シリーズ作品や短編ミステリーに力を入れたそうです。1930年発表のヴァルクール警部補シリーズ第3作の本書は船員として働いたこともある作者の経験が活かされた船上ミステリーです。正体不明の殺人犯を追って貨客船に乗り込んだヴァルクールですが冷酷な犯人は無線係を殺害してしまいます。本土から捜査情報をヴァルクールに伝えようとするのですが(無線係が死んだため)連絡できない状況が何度も描かれてサスペンスが盛り上がります。同時代のヴァン・ダインやエラリー・クイーンと比べるとやや通俗的な文体ですが読みやすさは抜群で前半から中盤にかけては文句なく面白いのですが、結末の真相説明は本格派推理小説としては推理が不十分で残念レベルです。他の容疑者を犯人として置き換えても問題ないようにさえ感じてしまいました。 |
No.1846 | 5点 | 死を奏でるギター- 大谷羊太郎 | 2017/02/20 01:06 |
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(ネタバレなしです) 大谷羊太郎の出世作は乱歩賞を獲得した「殺意の演奏」(1970年)ですが、それよりも前に書かれて乱歩賞に挑戦した(そして受賞を逃した)本格派推理小説が3作もあります。その1作「美談の報酬」(1967年)に陽の目を見させたいと考えたのか、改訂して「死を運ぶギター」(1968年)として雑誌掲載しました。それをさらにまた改訂して1986年に「死を奏でるギター」として発表しています(私が読んだのはこれです)。作中時代は1985年、主人公の若杉は殺人事件の容疑者となっただけでなく34年前の学生時代に起きたギターの盗難事件の謎解きもしなくてはなりません。ミュージシャン出身の作家だけあって音楽界描写には非常に力がこもっています。謎解きは1960年に起きた密室殺人まで追加される複雑な展開を見せ、盗難トリックに密室トリックさらには通信トリックまで登場します。若杉が自分の無実を証明しようと推理に推理を重ね、その推理が次々に否定される(とまではいかないまでも容疑は晴れない)プロットは独特のサスペンスを生み出しています。粗い印象も受けますが初期作品ならではの力作であることを確かに感じさせます。 |
No.1845 | 5点 | アジアン・ティーは上海の館で- ローラ・チャイルズ | 2017/02/16 08:54 |
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(ネタバレなしです) 英語原題が「Ming Tea Murder」の2015年発表の「お茶と探偵」シリーズ第16作のコージー派ミステリーです。チャールストンにわざわざ移築された18世紀の中国の茶館で起こった殺人事件にセオドシアが巻き込まれます。アジア風を意識した演出はそれほど強くなく、どちらかといえば後半の大人のハロウィーンの雰囲気の方が印象に残りました。コージー派らしく謎解きはあっさり目ですが、それでもセオドシアが動機だけでなく手段(凶器)についても捜査しているのがこのシリーズとしては珍しいです(少々中途半端になってしまいましたが)。サスペンスの盛り上げ方もなかなかで、近作ではおなじみになりましたがセオドシアの犯人追跡シーンも劇的です。最後にちょっと危ない場面がありますが意外な人が助けてくれましたね。 |
No.1844 | 3点 | どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 | 2017/02/13 09:54 |
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(ネタバレなしです) 多彩な作風の東野には実験的と言えるような作品もありますが1996年発表の加賀恭一郎シリーズ第3作の本書はそんな一冊です。あまりにも有名なので私は読む前に問題の箇所をうっすらと知っていました。普通なら先にネタを知ってしまうのは読書の楽しみを減らしてしまうのですが本書の場合はむしろ失望を減らしたと言う点でよかったのかも。もし何の予備知識もなしで読んでいたら私は失望どころか激怒したかもしれません(私は袋綴じ付きの講談社文庫版で読みました)。主要登場人物は1人の被害者と2人の容疑者と2人の探偵役の少数です。探偵役の1人である主人公は同時に犯人への復讐者でもあり、もう1人の探偵役である加賀刑事の捜査を妨害するというプロットは大変充実していて終盤までは十分に楽しめる内容だったのですが結末の仕掛けであーあです(笑)。当然この仕掛けゆえに有名になったので成功作とは言えるでしょうし、高く評価している人が多いのもわからなくもないのですが本格派推理小説としてこれは読者を馬鹿にしてると感じる人もいるのではないでしょうか。 |
No.1843 | 6点 | 摩天楼のクローズドサークル- エラリイ・クイーン | 2017/02/12 01:43 |
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(ネタバレなしです) エラリー・クイーンの代作者たちの中でリチャード・デミング(1915-1983)は10作もクイーン名義の作品を発表しています。その1作である1968年発表の本書は全6作のティム・コリガン警部シリーズ(4作はデミング、2作はタルメッジ・パウエル(1920-2000)の執筆です)の第6作の本格派推理小説です。1965年に実際に起こった北アメリカ大停電と同様の事故を作中で発生させ、しかも高層ビルの高層階での殺人といういかにもアメリカならではの舞台描写が実に魅力的です。ハードボイルド要素など真正クイーン(ダネイとリー)の作品とは異質なところもありますが、ハードボイルドと本格派推理小説の高度な両立という点でJ・C・S・スミスの「摩天楼の密室殺人」(1984年)に匹敵する内容だと思います。 |
No.1842 | 4点 | 毒草師 パンドラの鳥籠- 高田崇史 | 2017/02/09 08:37 |
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(ネタバレなしです) 2012年発表の御名形史紋シリーズ第3作です。本格派推理小説としては「魔女の鳥籠」で起きる前半の不思議な出来事の描写が怪異に満ちて魅力的なだけに真相の腰砕け感が極めて残念です。犯人当て要素はほとんどなく、動機の解明に1番力を入れています。御名形は「その人間にとって何が大切なことか、それは、人によって違うのです」ともっともらしいことを言っていますが、この異常な動機を一般読者がどこまで納得できるかは微妙だと思います。 |
No.1841 | 6点 | 厚かましいアリバイ- C・デイリー・キング | 2017/02/05 06:27 |
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(ネタバレなしです) 1938年に発表されたABC三部作の第2弾で、英語原題は「Arrogant Alibi」です。アリバイ崩しではありますが容疑者全員にアリバイが成立しているので犯人探しの面白さも両立しており終盤のどんでん返しが鮮やかです。このアリバイ、論創社版の巻末解説で紹介されているように「とうてい読者に解明できるとは思えない」のが弱点ではありますが、トリックが「実行不可能では」と思わせた前作の「いい加減な遺骸」(1937年)と比べるとかなり改善されていて、トリック成立のための伏線が(私は十分に理解できませんでしたけど)細か過ぎるぐらいに用意してあります。人並由真さんのご講評で「ほほえましい」と述べられているのに私も賛同します。もし同時代に山村美沙が活躍していたらきっと自作にアイデアを採用しただろうなと想像しました。 |
No.1840 | 5点 | 灰の迷宮- 島田荘司 | 2017/02/04 22:40 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の吉敷竹史シリーズ第7作で本格派推理小説と社会派推理小説のジャンルミックス型ですが事故死した人間の不思議な行動の謎解きという、とらえどころのないプロットで引っ張ります。吉敷の推理は論理的な組み立てが乏しく、「みんなあいつにやられた」の「あいつ」の正体なんかあまりにも飛躍し過ぎの真相にしか感じられませんでした。大胆なトリックを用意してはいるもののトリックの効果がインパクト不足なのも惜しまれます。シリーズ前作の「Yの構図」(1986年)のような社会問題描写の息苦しさがないのは個人的には好みですけど、その分特徴の見えにくい地味な作品になってしまったような気もします。 |
No.1839 | 7点 | 聖エセルドレダ女学院の殺人- ジュリー・ベリー | 2017/02/01 13:27 |
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(ネタバレなしです) 子供向け或いはヤングアダルト向けの作品を得意とする米国の女性作家ジュリー・ベリーが2014年に発表した本格派推理小説です。時代は1890年、舞台は英国の聖エセルドレダ女学院(寄宿学校です)、主人公は7人の女生徒(最年少は12歳)です。彼女たちの目の前で校長先生とその弟が毒死するのですが家に戻りたくない少女たちが死体を隠してしまうことから事件隠蔽と犯人探しが複雑に絡み合う、ユーモアとスリル溢れるプロットになりました。活躍が目立つのは気転のキティ、たくましいアリス、あばたのルイーズですが他の少女たちもなかなかに個性的です。大人読者が読んでも十分楽しめる内容です。 |
No.1838 | 4点 | FBIの殺人- マーガレット・トルーマン | 2017/01/25 13:05 |
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(ネタバレなしです) ドナルド・ベイン代作による1985年発表の警察小説で、FBIで起きた殺人事件(被害者もFBI局員です)をFBI捜査官が調べていくプロットです。捜査担当の男女が実は恋人同士(組織ルールではご法度らしいです)というのが物語としてのアクセントになっており、後半になるとこの関係がややこしくなるのですが主人公に共感できるかは微妙な気がします。読者が推理に参加できる要素はなく、組織の都合に左右される捜査を地味に描いています。結末もやはり組織の論理優先的なところがあってどうもすっきりしませんが、こういうのが現実的なのかなと思わせる結末です。 |