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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2925件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.1925 6点 雪と毒杯- エリス・ピーターズ 2017/10/19 13:21
(ネタバレなしです) 1960年発表のシリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。往年のオペラ名歌手が死去するのを看取った遺産関係者たちが帰途で飛行機事故に会い、雪の山村にたどり着きますがその中の1人が毒殺されます。警察の介入はかなり後半になってからで、それまでは容疑者同士が謎解きに取り組むプロットです。最後のアクション場面以外は派手な場面はありませんが思わぬ証言で緊張感が一気に高まるなどサスペンスは十分あり、人物描写にも配慮されていてなかなかの良作です。後年の修道士カドフェルシリーズの謎解きに物足りなさを感じる読者にもお勧めです。

No.1924 4点 牧場に消える- 佐野洋 2017/10/10 16:11
(ネタバレなしです) 1975年発表の本格派推理小説とサスペンス小説のジャンルミックスタイプですが評価に悩む作品でした。ほれ込んだ競走馬の生涯をフィルムに収めようとしている主人公のフィルムが未使用のフィルムとすり返られる事件、そしてその競走馬を育てている牧場を調査していたらしい記者の失踪事件、この2つを中心にした謎解きプロットですがミステリーの謎としては魅力に欠けます。D・M・ディヴァインの作品のように地味な謎でも読み応えのある本格派はあるのですが、本書は残念ながらその域に達していないように思います。動機、トリック、人間ドラマなどそれぞれの要素で最低限の仕事はしていますが、逆に最低限以上のものを感じられず個人的には退屈でした。

No.1923 6点 死者はふたたび- アメリア・レイノルズ・ロング 2017/10/05 10:01
(ネタバレなしです) シリーズ探偵の登場しない、1949年発表の本格派推理小説です。論創社版の巻末解説で「ハードボイルド風の異色作」と紹介されていますが、周到に用意された謎解き伏線に推理に次ぐ推理と本格派推理小説としての基本はしっかりしています。確かに古典的ハードボイルド作品に登場しそうな私立探偵を主人公にしていて「探偵が何者かに後頭部を殴られて気絶」する常套的な場面までありますけど。死んだと思われた夫が生きていたらしいが果たして本物なのか、という謎で始まるプロットは地味過ぎの感もありますが妻が本物だと証言しても本物か偽者か容易には決着しません。本物なら今までどうしていたのか、偽者ならどんな目的があるのか、偽者なら妻は巧妙に騙されたのかそれとも偽者に脅されて偽証したのかそれとも偽者と知りつつ自ら嘘をついているのかと謎はどんどん膨れ上がり、殺人が中盤まで起きない展開であっても退屈しませんでした。

No.1922 5点 QED 諏訪の神霊- 高田崇史 2017/10/04 19:01
(ネタバレなしです) 2008年発表の桑原崇シリーズの第14作の本格派推理小説です。このシリーズは歴史ミステリーと評価できますが史実の謎解き、文学作品の謎解き、伝説の謎解きなどなかなかバラエティーに富んでおり、後期作品になると神事の謎解きが増えてきます。本書は諏訪大社と祭り(御柱祭や御頭祭)に関する謎解きがメインで、現実の殺人事件(しかも連続殺人事件)の謎解きは扱いが小さいのですがそれもこのシリーズならですね。崇以外に諏訪の人間も議論に加わってなかなか盛り上がりますが崇をもってしてもかなりの難題だったようです(そもそも私は何が謎なのかさえも理解できてないのですが)。しかしその謎が解けると同時に現実の事件も一気に解明されるという展開がなかなか印象的です。俗人の私は十分に理解も納得もできなかったのですが、神事の謎解きと事件の謎解きの絡ませ方は巧妙だと思います。ところで酒を飲みながらの議論場面が多いのですが、最初こそ日本酒でしたが途中からリキュールやカクテルなど洋酒系に走っているのは和風の謎解きにそぐわないと思うのは考え過ぎでしょうか?(笑)

No.1921 6点 隅の老人 完全版- バロネス・オルツィ 2017/09/30 23:29
(ネタバレなしです) シリーズ全作品(38短編)を収めて国内で独自に出版された作品社版の「隅の老人」がありますが、ここで感想を書くのは英国で1909年に出版された第2短編集です。このシリーズはデビュー作である「フェンチャーチ街駅の謎」(1901年)から最後の事件を扱った「パーシー街の怪死」(1901年)までの「ロンドンの謎」6作が雑誌連載され、好評だったためか続けて新シリーズとして「グラスゴーの謎」(1901年)から「バーミンガムの謎」(1902年)までの「大都市の謎」が7作発表されましたが、第2短編集はこの初期作品を(なぜか「グラスゴーの謎」を除いて)12作収めています。当時はコナン・ドイルのシャーロック・ホームズシリーズの世界的成功を受けて多くの作家が活躍していましたが、その中でこのシリーズは名前のない探偵役を(実はある作品で正体についてのヒントがありますが)採用したことが特徴です。また事件の紹介から真相説明まで喫茶店の片隅での探偵役の語りに終始しているというパターンのため、安楽椅子探偵の先駆けと紹介されたこともあります。もっとも直接描写はないものの結構足を使って情報収集していることから、今では安楽椅子探偵としては評価されないようですけど。事件の発生から捜査の進展、いよいよ犯人特定かと思わせて強力な反証により迷宮化(最初のどんでん返し)、そこで隅の老人の推理による更なるどんでん返しというプロットが多く、当時としては非常に緻密な本格派推理小説だと思います。ただ構成がしっかりしているという強みは一方で類似パターンに陥りやすい弱点でもあります。動きの描写がほとんどないのでサスペンスは求めようもなく、何作も続けて読むと少々もたれてくるのも確か。しかし作品間の出来栄えにバラツキは少なく、個人的な好みは「地下鉄怪死事件」と「ダブリンの謎」ですが他もなかなか読ませます。

No.1920 4点 ぼくらの世界- 栗本薫 2017/09/23 23:36
(ネタバレなしです) 1984年発表の「ぼくらの」三部作の最終作となった本格派推理小説です。「ぼくらの気持」(1979年)から5年の空白がありますが主人公の栗本薫の登場するシリーズ作品としてはこの間に秘境冒険小説の「魔境遊撃隊」(1984年)があります。軽妙な雰囲気の本格派という点では他の三部作作品と共通してはいますが主人公の栗本薫以外の2人の仲間、石森信と加藤泰彦がほとんど目立たずこれでは「ぼくらの世界」というより「ぼくの世界」ではないでしょうか。そして過去2作品にみなぎっていた情熱のようなものが失われているのも残念です。エラリー・クイーン作品のネタバレを謎解きに絡めているのも読者の評価が分かれそうに思います。

No.1919 5点 忘却のパズル- アリス・ラプラント 2017/09/23 12:43
(ネタバレなしです) アメリカのアリス・ラプラントが2011年に発表した小説デビュー作の本書はミステリーとして評価されただけでなく、医療や健康を扱った作品に与えられるウエルカム・ブック・プライズを受賞したことが特色でもあります。主人公のジェニファーを認知症患者に設定し、創元推理文庫版で550ページ近い物語は彼女の視点とあやふやな記憶の描写に終始します。どこかで例えば警察による捜査描写でも挿入されていれば読者は落ち着くことも可能だったでしょうが、ひたすらジェニファーと作品世界を共有することになるので頭の中がもやもや感で一杯になり謎解きを忘れてしまいそうになります。但し同じように「信用できない語り手」を扱った夢野久作の「ドグラ・マグラ」(1935年)や京極夏彦の「姑獲鳥の夏」(1994年」のようなしつこさやくどさをそれほど感じないのは、創元推理文庫版の巻末解説で述べられているようにひとつひとつの場面を短く切り上げているのが功を奏しているからだと思います。本格派推理小説としては論理的な推理による王道的な謎解きではなく、むしろ異色の結末で真相を明かしているのも本書のプロットでは有効に感じます。

No.1918 5点 恍惚病棟- 山田正紀 2017/09/18 23:27
(ネタバレなしです) 1992年発表の本書のハルキ文庫版の「あとがき」で発表当時「新・社会派」と評価されたことに対して作者が憮然としているのが興味深いです(そもそも作者のミステリー分類の中には「社会派」というジャンルがなかったようですが)。しかし(メルカトルさんのご講評で指摘されているように)用語が時代の古さを感じさせるところはあるものの、作中の「痴呆症」(現在用語では「認知症」)の描写や犯行の背景にはある種の社会性を感じさせます。同じ「あとがき」の中で作者は「現実がそのまま幻想に転化し、幻想が現実を強固に裏打ちする本格ミステリー」を模索していた時期の作品と本書を位置づけていますが、主人公の視点や思考描写には一点の曖昧さもないのに終盤になって(やや唐突に)もやもや感が増してくるのはその試行錯誤の表れなのでしょう。

No.1917 5点 貴族屋敷の嘘つきなお茶会- ロビン・スティーヴンス 2017/09/17 00:48
(ネタバレなしです) 2015年発表の英国少女探偵の事件簿シリーズ第2作です。今回は主人公の1人であるデイジーの実家で起きた殺人事件の謎解きです。シリーズ探偵の家族が容疑者になるという設定はドロシー・L・セイヤーズの「雲なす証言」(1926年)という前例があるものの非常に珍しいです。探偵の立場と家族の立場の両方の立場の中でデイジーがどう動くかが見ものです。デイジーが容疑者リストからこの人は犯人でない、この人は怪しいと早い段階から結論を急ぎ、ワトソン役のヘイゼルがそれを諌めるというどんでん返しの図式は前作と共通しています。謎解きとしては大詰めの第6部の4章で登場する証拠や第6部の7章の自白が後出し説明に感じられてしまうのが残念です。

No.1916 5点 出雲3号0713の殺意- 池田雄一 2017/09/11 01:01
(ネタバレなしです) 長編ミステリー第7作である1987年発表の伊夫伎警部シリーズ第1作の本格派推理小説です。本書以降の作品が西村京太郎のトラベル・ミステリー風なタイトルになったことは賛否両論あるとは思いますが、作者にとってはターニング・ポイントになった作品かもしれません。婚約者のカメラマン片岡を実家に招待して両親に紹介しようとする小林みさき。しかし片岡は現れるどころか殺人容疑者として警察に追われる身となり、彼の無実を信じるみさきも新たな殺人に巻き込まれるという典型的なサスペンス小説の展開を見せます。片岡が無実なら犯人はあの人間しかいないとみさきが疑う人物はしかし、強固なアリバイに守られています。アリバイ崩しを何度失敗してもめげないみさきの推理と行動力には執念さえ感じさせ、捜査のプロである伊夫伎警部の舌を巻かせるものがあります。犯人当ての面白さはほとんどありませんがそれぞれの事件に様々なトリックをぜいたくに注ぎ込んだ力作です。

No.1915 6点 月明かりの男- ヘレン・マクロイ 2017/09/06 10:47
(ネタバレなしです) 1940年発表のベイジル・ウィリングシリーズ 第2作の本格派推理小説です。創元推理文庫版の粗筋紹介では月明かりの中を逃げる不審人物に関する3人の目撃証言がそれぞれ食い違っている謎(レオ・ブルースの「骨と髪」(1961年)をちょっと連想しました)をハイライトしていますが、銃弾の見つからない射殺とか、警官が見張っている犯行現場に何者かが何度も侵入を試みるのはなぜかとか他にも謎が沢山用意されています。被害者や容疑者たちに学者を揃えたためか難解な用語が時々登場しますし、手掛かりには時代の古さを感じさせるものもあります。動機に関する議論で学術的な理由、経済的な理由、そして政治的な理由までが可能性として登場するところが当時の本格派としては結構モダンだと思いますが、なじみにくくて読者の好き嫌いが分かれるかもしれません。しかしながら有罪を立証することは不可能だと自信満々な犯人をベイジルが推理で追い詰めていく最終章はなかなか印象的です。

No.1914 5点 ホテル・カリフォルニアの殺人- 村上暢 2017/08/27 01:39
(ネタバレなしです) 村上暢(むらかみのぶ)(1980年生まれ)の2017年出版のデビュー作の本格派推理小説です。タイトルはアメリカのロック・バンド「イーグルス」の名曲に由来しており、主人公トミー(日本人です)の設定をアメリカ横断を目指すミュージシャンにして随所で音楽知識を披露させているのが特色です。内容はモハーベ砂漠の奥にあるホテル・カリフォルニアで起こった密室殺人事件の謎解きです。直接描写されるホテルの客はわずか1人(刑事を含めても3人)、ホテル経営者や支配人も登場しません。そもそもわざわざ飛行機やヘリコプターで砂漠の中のホテルにセレブ客が集まる理由も明確ではありません(最終章である年中行事が理由として説明されますが自身が直接行事に参加するのではないのだから理由として弱いと思います)。小説として設定が不自然なところが一杯ですが、そこを謎また謎のオンパレードで押し切ってます。綱渡り的なトリックは好き嫌いが分かれそうですが作者の気合を感じさせます。但し作中でヴァン・ダインの二十則(1928年)やノックスの十戒(1928年)を引用しているのは失敗だと思います。これらの規則を律儀に守る必要はないというのが現代ミステリーの趨勢ではありますけれど、わざわざ引用までするのならば遵守してほしかったです。

No.1913 5点 連続殺人ドラマ- サイモン・ブレット 2017/08/27 00:45
(ネタバレなしです) 1989年発表のチャールズ・パリスシリーズ第13作の本格派推理小説です。英語原題は「A Series of Murders」ですが大量殺人を期待してはいけません。TVドラマ撮影の最中に起こった怪死事件、死んだのは演技が下手なのを周囲から疎まれている女優です。チャールズは早い段階でこれを殺人と判断して調べていきますが、他のシリーズ作品に比べると彼が探偵役となる理由が弱いように思います(まあそれを咎めるとミステリープロットが成立しなくなってしまいますが)。殺人動機はかなり大胆で印象的ですが、ここまでとてつもない動機ならもっと人物描写を掘り下げないと説得力に欠けるように思います。

No.1912 5点 スラム・ダンク・マーダー その他- 平石貴樹 2017/08/24 05:36
(ネタバレなしです) 中編3作とエピローグを収めて1997年に発表された本書は更科ニッキシリーズとしては「誰もがポオを知っている」(1985年)以来となるものです。この間には新本格派推理小説のブームが起こっており、作者も刺激を受けたのでしょうか?3作全てに「読者への挑戦状」が導入されており論理的推理による解決を試みているところはエラリー・クイーン風と言えなくはありませんが、「誰の指紋か知ってるもん」での容疑者の誰のでもない指紋が殺人現場に残されていた真相はアガサ・クリスティーの某作品のトリックを連想しますし、「スラム・ダンク・マーダー」の毒針殺人のトリックを巡って様々な可能性を検討しているのはクリスティーの「雲をつかむ死」(1935年)が頭に浮かびました。人物の描き分けがうまくないという弱点は初期クイーンに通じるものがありますけど(笑)。3作全てに登場する車椅子の女性弁護士ヤマザキ千鶴はニッキにひけをとらないエキセントリックぶりが印象的でした。エピローグで明かされる「三重底」はなかなかの衝撃ですが同時に後味の悪さも感じます。

No.1911 6点 雲をつかむ死- アガサ・クリスティー 2017/08/21 00:03
(ネタバレなしです) 1935年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第10作の本格派推理小説で飛行機内で起こった殺人事件の謎解きが特色です。もっとも飛行機の場面はわずかに序盤のみで、捜査は他の作品と同様に地上で行われているのが少々物足りなくも感じます。本書と同年発表でほとんどの描写が機内だったC・デイリー・キングの「空のオベリスト」(1935年)はその点ではずっと意欲的でしたね(但しキングは語り口がぎごちなくて読みやすさではクリスティーの圧勝)。犯人当てと同時にいかにして被害者を殺したかの謎解きにも力を入れています(結構綱渡りトリックですけど)。ポアロの説明で犯人に気づかれないように馬脚を現すよう巧妙に誘導していたのがわかります。それにしても当時の飛行機って機内から乗客が物を外に捨てられたのですね(ネタバレではありません)。

No.1910 5点 金紅樹の秘密- 城昌幸 2017/08/20 03:32
(ネタバレなしです) 城昌幸(じょうまさゆき)(1904-1976)は1920年代から活躍していますが1955年発表の本書は作者コメントによれば第3のデビュー作とのことです。それまでの彼の著作は第1に怪奇性短編、第2に捕物帖が中心を占めていましたが新たに長編現代探偵小説というジャンルに取り組もうとしたようです。しかしこのジャンルに関しては本書と「死者の殺人」(1960年)しか書かなかったようです。さて本書は小説家の主人公へ妻がこれから夫を殺す計画を予告する手紙が次々に送られます。主人公は探偵能力をもつ友人の力を借りて手紙の書き手と思われる女性をつきとめ、殺人を防止しようとする手紙を送りますが時既に遅く殺人が起きてしまいます。最後は探偵役が事件関係者を一堂に集めて殺人犯を指摘します。こう紹介すると典型的な本格派推理小説みたいですが、実は物語の後半になると秘境冒険スリラー風に展開するのです。いくらでも作者の都合のいい(そして読者は後追いするしかない)設定が可能な秘境(隠れ里)の登場は本格派の謎解きを期待する読者にはつらいところ。謎解きに過度に期待しなければそれなりの面白さがありますが。

No.1909 5点 脅迫された継娘- E・S・ガードナー 2017/08/20 01:57
(ネタバレなしです) 1963年発表のペリイ・メイスンシリーズ第70作です。脅迫事件に巻き込まれた夫、妻、そして継娘がある時は協力、ある時は(メイスンのアドバイスも無視して)独自に行動します。一方でメイスンが1人ではないとにらんだ脅迫者側もメイスンの策略で足並みが乱れながらも反撃し、先の読めないプロットに読者ははらはらします。これまでのシリーズ作品でも脅迫者との対決場面はありますが、今回は詐術師王と呼ばれる男と法廷で正面激突です。犯人当てとしての推理はそれほど緻密なものではありませんが、告発を立証する証拠についてはきっちり用意してあったところはさすがです。

No.1908 5点 動く屍体- 九鬼紫郎 2017/08/19 23:21
(ネタバレなしです) 九鬼紫郎(くきしろう)(1910-1997)は甲賀三郎に弟子入りして(1年半ほど甲賀宅に下宿)九鬼澹(くきたん)というペンネームで1930年代にデビュー、戦前は短編ミステリー中心でしたが戦後は長編作品を書くようになり、本格派推理小説やハードボイルド、そして非ミステリーの時代小説を残しています。本書は九鬼澹名義で1950年に発表された短めの長編本格派推理小説です。密室状態の部屋で2人の男の死体が発見され、警察は銃を握っていた男がもう一方の男を殺して自殺したと考えます。ところが2人の死亡推定時刻に2時間の開きがあり、しかも銃を持っていた男の方が先に死んでいたことが判明、事件関係者の証言も微妙に怪しいなど謎が深まります。推理はあまり論理的でなく犯人当てとしてはいまひとつの出来ですが、死亡時刻の謎解きはなかなか印象的な真相です。もっともこの仕掛けは作者の創作ではなく、実際の犯罪記録からトリック借用しているところはヴァン・ダインの「グリーン家殺人事件」(1928年)を連想させます。

No.1907 5点 人間掛軸- 輪堂寺耀 2017/08/19 22:36
(ネタバレなしです) 尾久木弾歩名義で1952年に雑誌連載された江良利久一シリーズ第3作の本格派推理小説です(「十二人の抹殺者」(1960年)と一緒にやっと2013年に単行本化されました)。舞台は5つの家が建っている広大な私立庭園の「光風園」。住人の1人が掛軸の釘から吊り下がった死体となって発見され、江良利久一や警察たちが現場へ向かいます。しかし彼らの到着を待ってたかのように事件は過激なまでにエスカレート。行方不明になって死体となって発見される者がいるかと思えば死体が消えてしまったりと無能な捜査陣は翻弄され続け、犠牲者の数はとどまることを知りません。サスペンス溢れる展開に比べて江良利の推理がやや小ぢんまりしていますが退屈はしません。意外なロマンスも印象的です。

No.1906 5点 猫は殺人事件がお好き- サム・ガッソン 2017/08/13 07:32
(ネタバレなしです) 英国のサム・ガッソンの2016年発表のデビュー作ですが初出版がドイツだった(もちろんドイツ語版)というのが珍しいです。フィリップ・マーロウを敬愛するもと私立探偵のジム(54歳)を父にもち、猫を愛する少年ブルーノ(11歳)が主人公です。少年探偵ものですがハーパーBOOKS版の巻末解説で説明されているように子供向けの軽いミステリーではなく、むしろ暗く重苦しい部分の多い大人向け本格派推理小説です。ブルーノは随所で鋭い推理を披露して探偵として将来有望ですが、自力で事件を解決しようとする気持ちが強すぎて大事な情報を隠してジムや警察から叱られたり、単独で容疑者を訪問してはったりをかましたりと読者をはらはらさせます。母のヘレンの心配ぶりも丁寧に描かれ、家族ドラマとしても読ませます。容疑が二転三転する充実の謎解きプロットですが、最後はビデオ画像で犯人が判明するという推理に拠らない解決なのが物足りなさを感じました。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2925件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(84)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(33)
レックス・スタウト(29)
A・A・フェア(28)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)