海外/国内ミステリ小説の投稿型書評サイト
皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止 していません。ご注意を!

nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.314 6点 海を見ないで陸を見よう- 梶龍雄 2012/07/12 20:22
(ネタバレなしです) 1978年発表の長編第2作の本格派推理小説です。第1作の「透明な季節」(1977年)から作中時代が4年が経過した設定で同じ主人公(芦川高志)が登場していますが、前作のことに全く触れていないのでどちらを先に読んでも支障はありません。青春小説要素が濃いのは前作と共通していますが前作が後半になるとミステリー要素が薄くなるのとは対照に、本書は後半になるほど本格派推理小説として充実したものとなり、最終章では豊富な伏線に基づく推理が披露されています。容疑者の中に進駐軍所属の外国人が登場するためか英語交じりの会話が多いですが、現在の日常会話には定着しなかった単語が結構多いですね。

No.313 5点 罪深き眺め- ピーター・ロビンスン 2012/07/12 20:17
(ネタバレなしです) 英国に生まれ、カナダに在住しているミステリー作家ピーター・ロビンスン(1950-2022)の1987年発表のデビュー作です。殺人事件、のぞき事件、盗難事件の3つの事件を同時並行的に扱いながら混乱させない筆づかいはお見事です。人物描写に秀でており、バンクス首席警部が妻サンドラと心理学者ジェニーとの間で気持ちが揺れ動く様子を繊細に描き、それが捜査にも微妙に影響するところも巧妙なプロットづくりが光ります。推理が弱いのと、メインとなるべき殺人事件があっさりした扱いなのが少々惜しまれますが。

No.312 5点 アルキメデスは手を汚さない- 小峰元 2012/07/11 14:19
(ネタバレなしです) 小峰元(こみねはじめ)(1921-1994)は鮎川哲也や高木彬光に近い世代で、1940年代後半から活動しているのですが短編作品が中心だったためか長らく知る人ぞ知る存在でした。有名になったのは長編第1作である本書を1973年に発表してからで、某出版業界サイト情報によると1974年のベストセラートップ10にランクイン(ミステリー作品としては珍しい)したほどの成功作です。この成功に自信を得た作者は青春ミステリーの書き手として東野圭吾に影響を与えるほどの存在になりました。本書は本格派推理小説ではありますが本格派としての評価は難しく、色々と謎はあるのですがメインの謎が何かについてはやや焦点が定まっていないこと、読者が推理に参加する余地があまりないこともあって謎解きとしてはそれほど楽しめませんでした。やはり青春小説要素の方がこの作品の価値を高めているのでしょう。某サイトの感想で「ふてぶてしい」と表現していましたがまさにその通りで、本書の高校生は「大人になろうと背伸び」しているのでも「大人を拒絶」しているのでもなく、今の自分が人生のピークであるかのように堂々としています。こういう高校生にリアリティを感じるかは意見が分かれるでしょうし、読者にあれこれ考えさせているところに人気の秘密があったのではと思います。

No.311 10点 五匹の子豚- アガサ・クリスティー 2012/06/17 11:25
(ネタバレなしです) 1942年発表のエルキュール・ポアロシリーズ第21作の本格派推理小説です。既に有罪判決まで出た16年前の事件の再調査という難題にポアロが挑みます。ポアロはそれぞれの事件関係者(容疑者でもある)に事件の再構成をさせているのですが、ある意味繰り返しの連続です。しかしこれが全く退屈しないのですからすごい筆力です。味気のない証言ではなく、登場人物の心理状態もたっぷり織り込まれた物語となっているので読者が感情移入しやすくなっているのが成功の理由の一つでしょう。プロット、人物描写、謎解きと三拍子が揃った完成度の高い大傑作で、最後の一行も何とも言えぬ余韻を残して印象的でした。

No.310 4点 出雲伝説7/8の殺人- 島田荘司 2012/06/17 10:04
(ネタバレなしです) バラバラにされた女性の死体が7つの駅で発見されるという衝撃的な事件の起きる、1984年発表の吉敷竹史シリーズ第2作です。犯人の正体は中盤頃には判明しており(推理としては粗いと思いますが他に有力容疑者がいません)、アリバイ崩しの本格派推理小説となっています。複数の駅と路線が登場し、時刻表、路線図、駅や車両の配置図なども豊富に揃えており、いかにも「鉄道ミステリ」の雰囲気が濃厚な作品です。推理は丁寧だしトリックも細かいレベルまで考えてはいますが、そもそも犯人がここまでする必要があったのかという点に関しては疑問が残りました(結構綱渡り的なトリックだと思います)。

No.309 8点 花面祭- 山田正紀 2012/06/07 20:12
(ネタバレなしです) 元々は1990年に発表された主人公の異なる4つの短編で、それらを合体させて加筆して1995年に長編化したそうですがつぎはぎ感は全くなく、実に完成度の高い本格派推理小説に仕上がっています。戦時中の密室からの人間消失トリックには驚きました。このトリック自体はアガサ・クリスティーの作品に前例があります。クリスティーは密室でない用途でこのアイデアを使い、それも結構巧妙でしたがこれを密室トリックに流用した山田のアイデアもすごいと思います。この作者ならではの幻想的雰囲気も女性と花との組み合わせにマッチしていると思います。

No.308 6点 迷走パズル- パトリック・クェンティン 2012/06/07 18:11
(ネタバレなしです) リチャード・ウエッブ(1901-没年不詳)とヒュー・ウィーラー(1912-1987)の黄金コンビ時代の幕開けを飾る、1936年発表のダルース夫妻シリーズ第1作(但し本書ではまだ夫妻ではない)の本格派推理小説です。このシリーズは主人公が名探偵役とは限らなかったり、ダルース夫妻の関係が山あり谷ありだったり、後期作品ではサスペンス小説要素が濃くなってきたりと実に変化に富んでいます。精神病院を舞台にしていますが、舞台や人物の特殊性をそれほど強調しておらず謎解きの面白さを損ねない範囲で留まっているのがいいですね。リアリティを重視する読者にはそこのところの評価が微妙かもしれませんが。終盤のどんでん返しが鮮やかです。

No.307 6点 殺人配線図- 仁木悦子 2012/06/07 17:51
(ネタバレなしです) 1960年発表の長編第3作の本格派推理小説で、ちょっと理系要素がありますが(実際に配線図も2つ登場)、そういうのが苦手な読者(私もそうです)でもそれほど抵抗なく読めると思います。主人公が謎解きする理由が自分の不注意で父親が死んだと思い込んでいる従姉妹の心の重荷を取り除くというのがユニークで、こういうハッピーエンド狙いのミステリーを(しかもわざとらしさを感じさせずに)書ける作家は案外そうはいないでしょう。探偵役の吉村俊作は本書以外に短編4作に登場するそうです(仁木兄妹や三影潤に比べると地味ですが)。

No.306 6点 エドウィン・ドルードの謎- チャールズ・ディケンズ 2012/04/29 15:33
(ネタバレなしです) 19世紀英国を代表する作家チャールズ・ディケンズ(1812-1870)は友人でもあったウィルキー・コリンズから「月長石」(1868年)を献呈されたことに刺激を受けたか自らもミステリーを書こうとしました。しかし残念なことに全体の40%程度を発表したところで1870年に作者が死去してしまい、未完の作となってしまいました。20分冊予定の6分冊までしか書かれなかったのですが、この6分冊分だけで創元推理文庫版で23章400ページ以上あるのですからもし完成したらコリンズの「月長石」(1868年)を上回る(当時としては)「世界最長のミステリー」になったかもしれません。物語としては14章でようやく事件(それも失踪)が起きるというゆっくりした展開で、23章で謎解きの雰囲気が盛り上がり始めたところで絶筆。うーん、消化不良だ(笑)。ちなみに創元推理文庫版の巻末解説では、ディケンズの友人の伝記作家の証言(ディケンズから聞いたという伝聞証拠)に基づいて完成したらこういう謎解きになっていたはずだと紹介しています。物語中の伏線と整合がとれており説得力はそれなりに高いですが、まだ物語は40%程度の段階ですからここから(新証拠や新容疑者が登場して)二転三転する予定ではと期待もしたくなります。いずれにしても全ては永遠の謎になってしまいましたが。

No.305 4点 海のある奈良に死す- 有栖川有栖 2012/04/29 15:09
(ネタバレなしです) サラリーマン作家だった有栖川が専業になって初めて書いた、1995年発表の火村英生シリーズ第3作の本格派推理小説で、「行ってくる。『海のある奈良』へ」と言い残して去っていった男の死を扱っています。派手な演出を排したプロットで、トリックは色々と用意してあるのですがあまりにも全体が地味で謎自体の焦点が定まっていません。そのためか最後にトリック説明されてもインパクトに欠けてしまうのが惜しいところです。トリックも成功するのかおぼつかないようなところがあって説得力も弱いような気がします。

No.304 6点 ドーヴァー10/昇進- ジョイス・ポーター 2012/04/29 14:52
(ネタバレなしです) シリーズ第10作の本書は結果としてドーヴァー主任警部シリーズの最後の長編作品となった本格派推理小説で、1980年に発表されました(但し短編はこの後も書かれ、ポーター(1924-1990)の死後の1996年にはシリーズ短編集が出版されています)。シリーズ前期に比べるとどたばたは影を潜め、ドーヴァーのやる気のなさが目立つ程度です。とはいえ本格派推理小説としてはしっかり作られていて、ドーヴァーの推理はマグレガーがびっくりするほど冴えています。ドーヴァーのどたばたを期待する読者には物足りなく映るかもしれませんが。

No.303 5点 運命交響曲殺人事件- 由良三郎 2012/04/24 16:38
(ネタバレなしです) 由良三郎(1921-2004)が本書でミステリーデビューしたのは1984年です。もともとは医学者で、引退してミステリー作家に転身しました。世代的には高木彬光(1920-1995)と同年代で、高木が作家生活の晩年を迎えていた時期に作家キャリアをスタートさせたのですからびっくりです。クラシック音楽が好きでない読者はタイトルだけで敬遠しそうですけど、それほど音楽趣味べったりの作品ではありませんのでその点はご安心下さい。爆殺トリックは非常に細かいレベルで分析しているし、それ以外の謎解きも丁寧な本格派推理小説なんですが、語り口が単調に過ぎて物語としてのメリハリに乏しく、読みやすいかというと微妙です。

No.302 7点 顔に傷のある男- イェジイ・エディゲイ 2012/04/23 17:56
(ネタバレなしです) 1970年発表の本書はジャンル的には警察小説のミステリーですが謎解き伏線もしっかり張ってあって犯人当て本格派推理小説としても楽しめる内容です。同時代の英米の本格派と比べると古い作風(つまり黄金時代の作品の雰囲気を持っている)に感じられますが、この種の作品が好きな私にとっては全く問題ありません(むしろ大歓迎)。なじみのないポーランド人の名前には苦労しますが丁寧な推理説明は読みやすいです。大変ユニークなのが犯人が2人組であることを最初から提示して容疑者もほとんどが何らかのペアになるようにしてあること。最後になって実は共犯者がいましたという、往々にして不満を覚える謎解きとは違います。

No.301 6点 支笏湖殺人事件- 草野唯雄 2012/04/23 16:19
(ネタバレなしです) それまでシリーズ探偵物に重きを置いていなかった草野は1980年に発表した本書で私立探偵の尾高一幸シリーズをスタートさせます(これより前の1970年代にはハラハラ刑事シリーズが先に発表されていますが)。まだ本格派推理小説にとって厳しい時代の作品だからでしょうか。私の読んだ徳間文庫版の裏表紙では「殺人犯の夫の汚名を晴らす長編復讐劇」などと紹介されています。特にお仕置きシーンがあるわけでもなく(笑)、尾高の丹念な捜査と推理を描いた本格派推理小説です。犯人当てとしては通常だと私にとってはアンフェア気味にさえ感じてしまう真相なのですが、本書の場合は尾高が早い段階から可能性として明快に示唆しており、そういう不満を感じさせませんでした。地味ながら退屈させない語り口、叙情性を感じさせる結末など一読の価値は十分にあります。

No.300 6点 土曜日ラビは空腹だった- ハリイ・ケメルマン 2012/03/11 15:21
(ネタバレなしです) 1966年発表のラビ・スモールシリーズ第2作です。自殺かもしれない死者をユダヤ教の葬儀で埋葬するかどうかでラビと教会理事会が対立します。これだけなら宗教物語で終わりますが、ちゃんと謎解きプロットと密接な関係を保っており、本格派推理小説の良作に仕上がっています。宗教色が濃いといっても決して神がかったような内容ではなく、どうすればみんなが納得できるのかという問題として扱っており、とてもわかりやすく共感しやすいです。

No.299 6点 深夜の訪問者- 大谷羊太郎 2012/03/08 20:17
(ネタバレなしです) サスペンス小説風なタイトルですが、密室に芸能界描写とこの作者らしさが楽しめる1975年発表の本格派推理小説です。密室トリックは綱渡り的なところもありますがアイデアとしては面白いです。中盤で「自白」(のようなもの)があるのにびっくりしました。その後この自白ははったりではという疑惑が生じたり、別の人物の自白があったりと色々やっていますが犯人当てとして楽しめるかどうかは微妙な出来栄えに感じました。無用な登場人物の多さと通俗的な語り口が気になりますが、締めくくりは人情味があって読後感は悪くありません。

No.298 5点 二流小説家- デイヴィッド・ゴードン 2012/03/02 21:13
(ネタバレなしです) 米国のデイヴィド・ゴードンはコピーライター、スクリーンライター、ゴーストライター(!!)など執筆に関わる様々な職業を経験しています。ミステリー作家としては2010年発表の本書でデビューしますが、複雑なプロットながら文章はさすがに手慣れた感があります。ジャンル・ミックス型のミステリーで、この種の作品は大概が2種類かせいぜい3種類のミックスですけど本書は作中作として織り込まれている小説断片も含めれば本格派推理小説、SF小説、ホラー小説、冒険小説、サイコサスペンス、ハードボイルドなど実に様々な要素が楽しめます(案外とSF小説の部分が面白い)。エログロあり、ユーモアあり、悲劇調ありと実に多彩、それでいて詰め込み感はなく意外と読みやすいですし、文章が洗練されているのでエログロが過激でも後味は悪くありません。もっとも特定ジャンルにしばられないことは一方でとらえどころのない作品という印象も残しており、私のように本格派推理小説ばかり選ぶようにしている偏愛型読者だと「読者への挑戦状」的メッセージがあって主人公による推理場面があっても(謎解き以外の要素が非常に多いため)謎解きをたっぷり堪能できたという読後感がありませんでした。

No.297 6点 双月城の惨劇- 加賀美雅之 2012/03/02 20:48
(ネタバレなしです) 急死が惜しまれる加賀美雅之(1959-2013)が2002年に発表したデビュー作で、細部までよく考えられた本格派推理小説です。探偵役の名前がシャルル・ベルトラン予審判事ということからも予測しやすいでしょうが、あのジョン・ディクスン・カーのアンリ・バンコランシリーズを強く意識した作品です。もっともヴァン・ダインの二十則をいくつか破っているので、読者に対してフェアプレーかというと微妙な気もします(二十則が絶対的なものではないとはいえ)。しかしながら大小さまざまなトリックと縦横無尽に張り巡らされた手掛かりに基づく推理は圧巻です。物語性とか登場人物描写とかはほとんど無視されていますので、本格派嫌いの読者には絶対受けない作品でしょうけど、ここまで謎解きに徹していると個人的には天晴れと褒めてあげたいです。

No.296 5点 裏返しの男- フレッド・ヴァルガス 2012/03/02 20:39
(ネテバレなしです) ヴァルガスの書くプロットは非常に個性的ですが、1999年発表のアダムスベルグシリーズ第2作もまた独特の味わいがあります。本格派推理小説としては欠点の方が目立ちます。犯人はまあこの人しかいないだろうというものだし動機に関しては完全に後付け説明で、しかもアダムスベルグだけが前もって知っていたというのでは謎解き派の読者に対してアンフェアと批判されても仕方ないでしょう。一方通行的な会話が多くて読みにくい部分も多いです。とはいえ不思議な因縁で結成されたトリオ(後で人数は増えます)による狼(または狼人間)の追跡劇は読者を退屈させません。全編不気味な雰囲気で覆われていますが読後感は意外と爽やかです。

No.295 5点 原子炉の蟹- 長井彬 2012/02/27 16:24
(ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の長井彬(1924-2002)は定年退職後にミステリー作家になった遅咲き型で、デビュー作である本書は1981年の発表です。社会派推理小説と本格派推理小説、両方の要素を持っていますが謎の魅力よりも原発開発にからむ社会事情描写の方が目立つプロットであることから個人的には社会派に分類される作品だと思います。(広義の意味での)密室、(拡大解釈気味ですが)見立て殺人、謎めいたメッセージなど本格派好きにアピールするネタも揃ってはいますが扱い方はかなり地味だし、探偵役の曾我の推理で全ての謎が解明されるわけではなく犯人の自白で解明される謎があるのも謎解き好き読者の評価は分かれそうです。前半はややドライに過ぎる物語ですが、事件関係者の諸事情が明らかになる後半は感情に訴える場面も増えます。

キーワードから探す
nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)