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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.255 8点 時計館の殺人- 綾辻行人 2011/09/06 16:50
(ネタバレなしです) 館シリーズ前作の「人形館の殺人」(1989年)が本格派推理小説でありながらサイコ・サスペンス路線に踏み出しかけていたのでその種のジャンルが苦手な私は心配しましたが、1991年発表のシリーズ第5作である本書は推理をメインにした本格派推理小説だったので安心かつ満足することができました。派手な殺人場面の直接描写(もちろん犯人の正体は隠してます)が多いですけど残虐性や気味悪さを強調していないのもいいですね。好都合過ぎな部分もありますが思い切った大トリックに挑戦しており、作者が1つのピークを迎えたことを納得させる出来ばえです。

No.254 6点 死が二人をわかつまで- ジョン・ディクスン・カー 2011/09/06 16:26
(ネタバレなしです) 1944年発表のフェル博士シリーズ第15作の本書は愛情と疑惑の狭間で揺れ動く若者を物語の中心に据えた心理サスペンス小説風な作品です。密室の毒殺事件というと普通の密室に比べると大した謎でないように思えるでしょうが本書の場合は注射による毒殺のため不可能性は勝るとも劣らないのがポイント高いです。本格派推理小説としての謎解きもしっかり組み立てられており密室トリックは古いトリックの流用ながらそこにある工夫を加えることによって新鮮味を出すことに成功しています。一方で意味のない巻き添え的な事件を起こしているのは蛇足としか思えず、ここはマイナスポイントです。

No.253 7点 悪霊の館- 二階堂黎人 2011/09/06 15:58
(ネタバレなしです) 1996年発表の二階堂蘭子シリーズ第4作の本格派推理小説です。今では全4巻の巨大作「人狼城の恐怖」(1998年)への過渡的作品という位置づけになってしまった感もありますが、講談社文庫版で全26章850ページを超すボリュームと50人を超す登場人物リストは今読んでも圧倒的存在感があります。トリックが期待はずれという指摘があり、ごもっともと共感するところもありますがむしろこれだけの演出効果をあげていることを評価したいです。独特の重苦しい雰囲気は好き嫌いが分かれるでしょう。E-BANKERさんのご講評の通り、「古きよき探偵小説」を見事に再現しています。ええ、個人的にはこの雰囲気、大好きです。

No.252 6点 聖女が死んだ- キャサリン・エアード 2011/09/06 15:36
(ネタバレなしです) 1966年に本書でデビューしたキャサリン・エアード(1930年生まれ)は昔ながらの本格派推理小説の伝統を引き継ぐ作家の1人と評価されています。修道院という独特の舞台にしたためでしょうか、修道女たちを意図的に個性を表さない人物として描こうとしておりそれは成功しているのですが、結果として誰が誰だかよくわからない...(笑)。16章の事情聴取なんか笑ってしまいそうになるほど空回りしています。女性刑事を登場させてちょっとアクセントを付けたのはいいアイデアです。盛り上がりに乏しいプロットですが、絶対に恨みなど買いそうにないシスター殺害事件の真相は動機といい、さりげなく隠された凶器といい、なかなかよく出来た謎解きだと思います。

No.251 6点 アトポス- 島田荘司 2011/09/06 15:24
(ネタバレなしです) 1993年発表の御手洗潔シリーズ第7作の本書は講談社文庫版で900ページを超えますが、その長大さを感じさせない読みすさは驚異的でさえあります。ヒロイン役としてレオナが登場しますが個人的にはあまり共感できない描写でした。グロテスク描写や大トリック炸裂には島田らしさが十分発揮されているのですが、そろそろマンネリ気味に感じてしまったのは私のわがままでしょうか?御手洗潔の出番が非常に少ないのも気になりますが、本書の後は彼の登場しない番外編作品が続くことになってしまいます。

No.250 5点 甘美なる危険- マージェリー・アリンガム 2011/09/06 11:55
(ネタバレなしです) 1933年発表のアルバート・キャンピオンシリーズ第5作ですが、冒険スリラー小説に分類できる作品です。アリンガムの作品は導入部がとても難解な作品がありますが本書もその一つです。キャンピオンがなぜ事件に巻き込まれているのかの十分な説明がないまま話がどんどん進む展開は、私のように読解力に難ありの読者にとっては厳しいです。消えた死体という魅力的な謎が中途半端な扱いなのも不満です。後半になると劇的に盛り上がって冒険スリラーらしさを堪能できます。キャンピオンのパートナーとなるアマンダ初登場ということでシリーズファンには重要作です。なお新樹社版にはキャンピオンものショート・ショート「クリスマスの言葉」が一緒に収められており、こちらは非ミステリー作品ですが幻想的な雰囲気が印象的でアリンガムの文学性の一端を覗かせています。

No.249 5点 蜜の森の凍える女神- 関田涙 2011/09/06 10:15
(ネタバレなしです) 関田涙(1967年生まれ)が2003年に発表したデビュー作で、ファンタジー小説みたいなタイトルが印象的ですが内容は「読者への挑戦状」付きの王道的な本格派推理小説でした。文章について厳しい評価を受けているようですが(「読者への挑戦状」の中で自虐的に「中学生の作文みたいな文章」と言い訳しているのが可笑しい)語り口はスムースで、個人的には悪文とまでは思いません。ただ挑戦状を付けるからにはフェアな謎解きかどうかは気になるところで、あの仕掛けは(一応理由も用意してありますが)ちょっとアンフェアではという気もしました。とはいえ個人的には真っ向勝負の謎解きは大好きなので、全体としては満足しています。

No.248 5点 カーテンの陰の死- ポール・アルテ 2011/09/05 17:36
(ネタバレなしです) 1つの作品に盛り沢山の謎を詰め込むことが多い作者なのでたまに感心できないようなトリックが使われても他でリカバリーできるので総合的には満足するのですが、1989年のツイスト博士シリーズ第3作の本書の場合は比較的シンプルな謎解きになっているため、メイントリックがひどいと弁護の余地がありません(笑)。まあそれでも某古典ミステリーを下敷きにしたエピローグの演出などは光っていますが。犯行の残虐性を強調していない描写は人によっては物足らなく感じるかもしれませんが、個人的にはこれくらいで十分だと思います。

No.247 5点 結婚って何さ- 笹沢左保 2011/09/04 15:57
(ネタバレなしです) 笹沢左保はデビューした年の1960年に一気に4作品も発表していますが、その中でも恋愛コメディーみたいなタイトルの本書は異色の存在です。ちなみに恋愛要素もコメディー要素もほとんどなく、巻き込まれ型サスペンス風のプロットを特徴としています。密室殺人事件を扱っているところは本格派推理小説らしさもありますが、徹底して謎解きにこだわった名作「霧に溶ける」(1960年)の次作としては軽量級に感じられるのもやむなしでしょうか。意外と細部までしっかり書かれており、密室トリックはいかにしてだけでなく密室にした理由まで説明されています。

No.246 10点 Xの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/09/04 15:07
(ネタバレなしです) 発表当時は覆面作家だったエラリー・クイーンがバーナビー・ロスという別名義で1932年に発表したドルリー・レーン四部作の第1作である本格派推理小説です。文章には無駄も不足もなくプロット構成もすっきりして非常に読みやすくてクイーン名義の作品(同時期の国名シリーズ)とは全く雰囲気が違っており、クイーンとロスが同一作家と見破られなかったのももっともです。「Yの悲劇」(1932年)と最高傑作の座を常に争っていまる傑作ですが名探偵の華麗なる推理を純粋に楽しみたい読者にはこちらを推奨します。まあこの比較は山と海とどちらが好きなのかを比べるようなもので、どちらも本格派推理小説の最高峰的存在であることに間違いありません。

No.245 7点 水琴館の惨劇- 岩崎るりは 2011/09/04 14:48
(ネタバレなしです) 猫のブリーダー出身という女性作家の岩崎るりはの2002年発表のミステリーデビュー作です。耽美ミステリーと紹介されていますが、美の演出という点では綾辻行人の「霧越邸殺人事件」(1990年)や佐々木丸美の「崖の館」(1977年)の方が個人的には上回るように感じました。むしろエキセントリックな登場人物たちの間で繰り広げられるとんちんかんなやりとりが醸し出すユーモアの方が印象的でした。時に相手を侮辱していますが不思議と後味は悪くありません。プロットが錯綜気味になってしまうところもありますが、終盤のたたみかけるような謎解きはなかなか読ませる力を持っており、本格派推理小説として十分楽しめました。

No.244 6点 死への夜行フェリー- パトリシア・モイーズ 2011/09/04 14:33
(ネタバレなしです) 1985年のヘンリ・ティベットシリーズ第17作です。犯罪組織がらみの宝石盗難事件をテーマにしたスリラー小説風なプロットですが、しっかりした謎解きの本格派推理小説として楽しむこともできるジャンルミックス型ミステリーとして成功作だと思います。派手な演出はありませんが大胆などんでん返しが印象的な謎解きでした。

No.243 6点 悪意- 東野圭吾 2011/08/23 22:31
(ネタバレなしです) 1996年発表の加賀恭一郎シリーズ第4作です。犯人当て本格派推理小説としては物語の3分の1ぐらいで完了しています。本書の真価が発揮されるのはむしろここからで、犯人がかたくなに明かそうとしない秘密に加賀刑事がじわじわと迫っていきます。単なる犯行動機だけでなく犯人の人間性までもが明かされるプロットは、地味ながらぐいぐいと読者を引きつけます。なお講談社文庫版の巻末解説では犯人の正体を明かしているので事前には読まないよう注意下さい。

No.242 5点 フレンチ警視最初の事件- F・W・クロフツ 2011/08/23 22:07
(ネタバレなしです) 1948年発表のフレンチシリーズ第27作で、フレンチが警視に昇進して最初の事件という位置づけです(英語原題は「Silence for the Murderer」)。驚いたことに全18章の物語の第9章を終えた時点で、「手掛かりは全て読者に提示されている」という「読者への挑戦状」が挿入されています。とはいえそこから解決に至るまで物語の半分がまだ残っているというのは、プロット構成としては冗長になってしまった感は否めません。犯人当てとしてはやや容易な展開ですが、ぎりぎり土壇場でどんでん返しを用意したのが一工夫になっています。

No.241 5点 獄門島- 横溝正史 2011/08/23 21:50
(ネタバレなしです) 金田一耕助シリーズ第2長編にして最高傑作と評価する人も多い、1947年発表の本格派推理小説です。作中時代は1946年、自分が帰らないと3人の妹たちが殺されると言い残して復員船の中で死んだ獄門島出身の戦友のことを伝えるために金田一が島へ渡ったのをきっかけになったかのように連続殺人が起きるプロットです。なるほど優れた部分も数多く、舞台描写や死体演出は際立っているし、第一の殺人事件の金田一の説明は戦慄を覚えるほどの凄みがあります。動機も私の想像できる範囲を越えていました。もっともそのためか一般読者には真相を当てようがないアンフェアな謎解きに感じてしまったのですが。

No.240 7点 白夫人の幻- ロバート・ファン・ヒューリック 2011/08/23 18:18
(ネタバレなしです) 地元民が「白夫人」と呼ぶ河の女神の伝説が今なお残る蒲陽で九艘の龍船による渡河(ボートレース)が行われていた。しかし見物しているディー判事らの眼前でトップ争いをしていた龍船の選手が倒れて死んでしまう1963年発表のディー判事シリーズ第9作は、シリーズ全作品でも最も本格派推理小説らしい作品です。サイドストーリーによる回り道が少なく、連続殺人事件の犯人探しに集中しています。ディー判事が容疑者の名前を1人ずつ挙げながら犯人である可能性について吟味している場面は謎解き好き読者には受け入れやすいでしょう。容疑者を一堂に集めての結末のサスペンスも出色です。

No.239 5点 奥能登呪い絵馬- 山村正夫 2011/08/23 17:58
(ネタバレなしです) 1988年発表の滝連太郎シリーズ第4作で、当時の作者が力を入れていた伝奇本格派推理小説です。能登の義経伝説が作中で取り上げられていますが伝奇本格派の要素はそれほど強くなく、普通の本格派推理小説の印象を受けました。人間消失や密室といった不可能犯罪を扱っていますが最終章で滝が開設している通り、「推理小説ファンが聞いたらさぞかし怒るに違いないちゃちなトリック」頼みです。全体として展開が遅く、登場人物関係が非常に複雑で読みにくいのも辛かったです(自分で登場人物リストを作ることを勧めます)。それでも安直なハッピーエンドで終わらせず、余韻の残るエンディングにしているところはさすがです。

No.238 10点 そして誰もいなくなった- アガサ・クリスティー 2011/08/23 17:41
(ネタバレなしです) 1939年発表のクリスティーの傑作中の傑作。何度も映画化されています。孤島ミステリーの先駆としてはアントニイ・バークリーの「パニック・パーティ」(1934年)よりも後発ですけどそんなことは本書の評価に影響しません。全員が探偵で、全員が容疑者で、全員が被害者(になるかも)という大胆極まりない設定を見事に描いています。推理物としては伏線が十分でないとか粗(あら)もいくつかありますが完成度を超越した面白さがあります。後世への影響も大きく、まさに古典的名作です。

No.237 5点 学ばない探偵たちの学園- 東川篤哉 2011/08/17 19:37
(ネタバレなしです) 2004年発表の鯉ヶ窪学園シリーズ第1作です。強烈な個性の登場人物によるユーモア豊かな展開、それでいて本格派推理小説としては正統派と烏賊川市シリーズとテイストは共通しています。ユーモアという点では時事ネタが多いのが辛いと思います。ミステリー作品を揶揄したギャグはまだしも、プロ野球選手の名前を羅列しているのはそれなりに通の人しか理解できないだろうし、時間が経過すると風化してしまうのではないでしょうか。密室トリックもユニークではありますが、知る人ぞ知る小道具を使っているのがマイナスポイントでは。少なくとも海外のミステリー読者には紹介しづらい作品だと思います。ただ被害者が無抵抗だった理由など、よく考えられた部分もあります。

No.236 8点 黄泉の国へまっしぐら- サラ・コードウェル 2011/08/17 16:33
(ネタバレなしです) 1984年に発表されたティマー教授シリーズ第2作の本格派推理小説で個人的にはこの作者の最高傑作だと思います。序盤は遺言書の内容把握、遺族の人間関係、どの弁護士が誰の代理人かを頭の中で整理するのに大変でしたがそれをくぐり抜けると俄然読みやすくなります。謎解き伏線の張り方が実に巧妙で、単なるサイドストーリーネタと思わせて実は重要な手掛かりだったという仕掛けは感心するばかりです。どんでん返しも鮮やかだしティマー教授と弁護士たちの会話もユーモアとウイットに富んでいます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)