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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2865件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.385 5点 パニック・パーティ- アントニイ・バークリー 2014/08/12 19:05
(ネタバレなしです) アガサ・クリスティーの名作「そして誰もいなくなった」(1939年)より5年も前の1934年に発表された孤島ミステリーという紹介は間違いではないのですがかなり性格の異なる作品で、本書がクリスティ-に影響を与えたとは思えません。「ルールをことごとく破って」という冒頭の作者コメントが気になりますが、推理の説得力が弱い印象は受けたもののルール破りとまでは感じませんでした。他のバークリー作品と異なるのは冒険スリラー小説の要素が強いことで、特に終盤では謎解きよりもどう混乱を収めるかについて多くのページを費やしています。その点で本書のタイトルは適切だと思いますが犯人当ての面白さが犠牲になっていることも否めません。特に最終作的な演出的はありませんがロジャー・シェリンガム第10作の本書がシリーズ最後の作品となりました。

No.384 5点 見えない精霊- 林泰広 2014/07/23 18:04
(ネタバレなしです) 林泰広(1965年生まれ)の2002年発表のデビュー作で好き嫌いが大きく分かれそうな本格派推理小説です。嘘を見抜く能力を持った人間など超能力ぎりぎりの設定があるのはフェアな謎解きのために必要なのは理解しますが、あまりにも異世界風に感じられます。トリックもシンプルでわかりやすいのはいいのですが、これを成立させるための前提があまりにも好都合すぎるという気もします。そこに目をつぶれば真相はこれしかないという説得力はそれなりにありますけど。

No.383 6点 五枚目のエース- スチュアート・パーマー 2014/07/22 13:05
(ネタバレなしです) 1950年発表のヒルデガード・ウィザーズシリーズ第11作の本書はシリーズ最大の異色作と原書房版の巻末解説で紹介されていますが、本書以前に翻訳出版されたシリーズ作品が「ペンギンは知っていた」(1931年)の1作のみでは、どれほど本書が異色なのか読者には伝わりにくいのではと思います。その解説では死刑執行日をデッドラインにしてサスペンス濃厚なこと、ユーモアやどたばたが抑えられておることが異色の理由と書いてありますが、パイパー警部とミス・ウィザーズのどこか噛み合わない会話はユーモアたっぷりだし、一方でデッドラインサスペンスの方はさほど効果的とも思えず、やはりこの作者の本領はユーモア本格派推理小説だと思います。

No.382 5点 秘められた傷- ニコラス・ブレイク 2014/07/17 15:39
(ネタバレなしです) 1968年発表の非シリーズ作品でニコラス・ブレイク(1904-1972)の最後の作品となりました。ハヤカワポケットブック版の裏表紙解説では「本格ミステリの醍醐味」と紹介されていますが、結局自白頼みで真相が明らかになるのでは本格ミステリとしては高い評価を与えられないと思います(論理的な説明にもなっていません)。サスペンス小説として読むべき作品で、派手な展開ではありませんがじわじわとサスペンスを盛り上げていく手法は手堅さを感じさせます。謎めいたエピローグの意味するところを自分は理解できなかったのが少し心残りです。

No.381 5点 本格ミステリ館焼失- 早見江堂 2014/07/17 12:28
(ネタバレなしです) 矢口敦子(1953年生まれ)が早見江堂名義で発表した三部作の2007年出版の第1作ですがうーん、途中までは文句なく楽しめたのですが本格派推理小説としてこの結末はどうなんでしょう?大胆かつ衝撃的であることは間違いないのですが、これを納得できる読者はよほど許容力が強い読者か、ありきたりの真相ではもう物足りないという末期的症状の(笑)読者しかいないのでは。私はそういう読者ではないので悪夢を見ているかのような結末に打ちのめされました。でも(この三部作の範囲内では)まだましな方だったかも(笑)。

No.380 10点 「跳ね鹿」亭のひそかな誘惑- マーサ・グライムズ 2014/07/03 16:56
(ネタバレなしです) 1985年発表のリチャード・ジュリーシリーズ第7作はエリザベス・ジョージの「隠れ家の死」(1994年)ほどは深刻な書き方でないにしろ動物虐待という社会問題を取り上げているのがこのシリーズとしては珍しいです。しかし本書の特徴は何といってもあまりにも劇的な結末でしょう。「あんまりだ」と感じる読者もいるでしょうが、それだけいつまでも忘れられそうにない結末になっています。個性派揃いの登場人物、サスペンス豊かな展開と中盤も充実しており、個人的には名作だと思います。

No.379 5点 扼殺のロンド- 小島正樹 2014/06/25 08:25
(ネタバレなしです) 2010年発表の海老原浩一シリーズ第2作の本格派推理小説です(島田荘司との共著「天に還る舟」(2005年)はカウントせず)。私は海外本格派を中心に読んでいて、国内本格派を読む時にはぜひ海外にも紹介できるような作品であって欲しいなと常々思っているのですが本書に関しては残念ながら海外の読者にはまずぴんと来ないような箇所がありました。次から次に不思議な謎が提供されるプロットは魅力十分で、詰め込みすぎという意見もあるとは思いますがやたら大作主義に走るよりはよいかと思います。

No.378 5点 生れながらの犠牲者- ヒラリー・ウォー 2014/05/16 14:55
(ネタバレなしです) 1962年発表のフェローズ署長シリーズ第5作ですが、警察小説と本格派推理小説のジャンルミックス型を予想すると肩透かしを食らいます。最後に明かされる真相は自白頼りになっており、推理による謎解きを期待する読者には不満が残るかもしれません。但し別の視点で鑑賞すればなかなかの作品だと思います。仮にフェローズの代わりに私立探偵を探偵役にしていたら同時代のロス・マクドナルドにも通じる、事件の悲劇性を強調したハードボイルド小説として評価できたのでは。もともとウォーはハードボイルド作家としてデビューしており、ドライな文章が救いのない結末を巧みに演出しています。

No.377 7点 サンタクロースは雪のなか- アラン・ブラッドリー 2014/05/16 13:25
(ネタバレなしです) 2011年発表のフレーヴィア・ド・ルースシリーズ第4作の本格派推理小説です。化学知識が豊富で思考が理詰めなフレーヴィアですが、本書ではサンタクロースを捕まえようとあれこれ画策するところに11歳らしさが感じられ、これまでの作品では1番キャラクターに共感できました。華やかさはあまりありませんがクリスマスの雰囲気はそれなりに演出されており、謎解きの面白さと相乗効果を出すことに成功しています。終章もクリスマスらしい締めくくりが用意されています。作中に「人形遣いと絞首台」(2010年)のネタバレが若干ありますので未読の方はご注意下さい。

No.376 6点 服用禁止- アントニイ・バークリー 2014/05/14 13:18
(ネタバレなしです) 1938年発表の本書は意外にも「読者への挑戦状」付きの本格派推理小説でした(シリーズ探偵は登場しません)。ただ最終章の謎解きはそれほど証拠に基づく推理が披露されているわけではなく(犯人からも「推理と証拠は違う」と反論されています)、しかも最後は罪と罰の議論に話がすり替わって微妙に不条理な締め括りとなります。このあたりがバークリーらしいといえばらしいのですが、そうなると何のための「読者への挑戦状」だったのだろうというという疑問が残ります。

No.375 2点 水曜日のジゴロ 伊集院大介の探求- 栗本薫 2014/05/14 12:32
(ネタバレなしです) 2002年発表の本書は伊集大介シリーズ作品ですが本格派推理小説でなくサスペンス小説ですね。無理に本格派として鑑賞しようとすると、あの真相はあまりにも読者に対してアンフェアという印象しか残りません(伊集院は全然活躍せず、ただ結果報告しているだけ)。セックス描写(同性愛もあり)も好き嫌いは分かれそうだし、心理描写におけるセックスへの関心度が非常に高いです。個人的にはそこが1番なじめませんでした。

No.374 4点 アール・グレイと消えた首飾り- ローラ・チャイルズ 2014/04/29 17:52
(ネタバレなしです) 2003年発表の「お茶と探偵」シリーズ第3作は謎解きに関してはシリーズ作品中でも異色のプロットです。殺人事件は発生しますが実質的には怪盗探しなのです。殺人の場合なら一応は動機のありそうな容疑者に的を絞って捜査することに不自然さを感じないのですが今回の場合はそれさえなしの行き当たりばったりの捜査に無理があり、誰が犯人でもどうでもいいように感じてしまいました。文章のセンスのよさは相変わらずでコーヒー派の私でもこのシリーズを読むと紅茶に浮気したくなります。アール・グレイ(紅茶ではなくセオドシアの飼い犬の名前です)が介護犬と番犬の両面で大活躍(スーパー過ぎ!)しているのもなかなか見ものです。

No.373 6点 紅の殺意- 蒼社廉三 2014/04/23 08:56
(ネタバレなしです) 長編3作と短編約80作を書いた蒼社廉三(1924年生まれ)は戦記ミステリー作家として有名ですが実のところ戦記ミステリーの数はそれほど多くなく、通俗サスペンスやSFなども書いています。1961年発表の長編ミステリー第1作は社会派推理小説と本格派推理小説のジャンルミックス型です。埼玉県川口の工業地帯、福岡の炭鉱地帯、家船で生活する広島の漁民など地域性と時代性の丁寧な描写、地道に足を使った捜査などはいかにも社会派推理小説らしさを感じさせます。一方で二転三転する証言に翻弄されて容疑が転々とし、容易に真相が見えてこないところは本格派推理小説としての謎解きの面白さも堪能できます。タイトルもシンプルながら意味深です。

No.372 5点 高すぎた代償- 佐野洋 2014/04/06 19:46
(ネタバレなしです) 1959年発表の長編第2作で一応は本格派推理小説に分類されていますが長編第1作の「一本の鉛」(1959年)と比べると謎解きの面白さが後退したように思いました。無差別に旅館の宿泊客を盗聴するという悪趣味に端を発してにわか探偵となって男女の関係を調べていく、というミステリー的にはあまり興をそそらない展開が野暮ったく感じられます。心中事件の謎解きもありますが影が薄いです。頻繁に主役交代させるなど多彩な人物描写に工夫は見られますが本格派推理小説としては謎解きの醍醐味をもっと味わせてほしいです。終盤の意外性が読ませどころの一つですがこの意外性、瞬間的には相手をだませても遅かれ早かればれてしまうと思います。

No.371 3点 湯布院の奇妙な下宿屋- 司凍季 2014/03/19 19:08
(ネタバレなしです) 1995年発表の一尺屋遙シリーズ第4作の本格派推理小説です。この作者らしく盛り沢山な謎解きなので1つや2つ粗いところがあってもあまり目くじらをたてるつもりはないのですが、それにしても第25章の謎解きがいくらなんでもこれはないだろうという出来栄えです。そこから先を読む意欲がかなり失われてしまいました。最後に明かされるどんでん返しなんかはなかなか悪くないと思っていますが個人的には第25章の(悪い意味での)効果で全てが台無しです。

No.370 5点 ヴァルハラ城の悪魔- 宇神幸男 2014/03/09 01:05
(ネタバレなしです) 1997年発表の本書は音楽ミステリ四部作の番外編的な作品で、意表をついた真相が好き嫌いが分かれそうな本格派推理小説です。豪華絢爛な舞台(残念ながら見取図はなし)、クラシック音楽、美酒美食と夢のような世界が描かれていますが、(ミステリーの必要条件ではないとはいえ)私のような読者にも夢を見させるようなロマンチックな描写になっていないのはちょっと残念。似たアイデアはチェスタトンやエラリー・クイーンにもありますが本書はかなり大掛かりな仕掛けになっています。ヒロインのキャラクターは嫌いの方に投票する読者が多そうな気がしますが(笑)。

No.369 4点 法隆寺の殺人- 篠田秀幸 2014/03/03 11:30
(ネタバレなしです) 2001年発表の弥生原公彦シリーズ第4作で、新たな試みが見られる意欲作の本格派推理小説です。一つは歴史の謎解きに挑戦していることです。こういう学問的な話が苦手な読者には(私もその一人ですけど)興ざめになってしまう危険性がありますが、語り手に熱く語らせるなど退屈にならないように工夫しています。もう一つはフェアな謎解きへのこだわりです。「読者への挑戦状」が挿入されているところはこれまでのシリーズ作品とも共通していますが、本書はさらに犯人からのフェアを主張するメッセージまでも用意されています。これは作者の主張でもあるだろうし、フェアであることの理由もわからないではないのですが、うーん、フェアの本質とはそういうところにあるのでしょうか?うまく説明できないのですが、ルール違反でないこととフェアであることは同じではないと思います。フェアというのは読者にもちゃんと謎解きできるチャンスが与えられているかどうかであって、反則ぎりぎりで読者を煙に巻いて反則でないからフェアですというのはちょっと違うような気がします。まあミステリーとは「読者を騙す」文学ですから、「うまく騙された」と感じるか「ずるく騙された」と感じるかは読者によってまちまちでしょうけど。

No.368 6点 水曜日ラビはずぶ濡れだった- ハリイ・ケメルマン 2014/03/03 10:24
(ネタバレなしです) 1976年発表のラビ・スモールシリーズ第6作です。不動産売買を巡っての思惑や駆け引きがたっぷりと描かれていて、国内ミステリーだったら社会派推理小説(海外ではこの用語は使われていませんけど)と分類されてもおかしくありません。一方で本格派推理小説としてもよく書かれていて、ある薬品が人から人へとバトンタッチ式で渡されていることで謎解きの興味に深みを与えることに成功しています。

No.367 5点 オーガニック・ティーと黒ひげの杯- ローラ・チャイルズ 2014/02/16 12:02
(ネタバレなしです) たいした推理もなく行き当たりばったりで解決してしまうことの多い「お茶と探偵」シリーズですが、2011年発表のシリーズ第12作の本書に至ってはセオドシアが唐突に犯人の名前が頭に浮かび上がり(その前には違う容疑者を散々疑っていますけど)、ティドウェル刑事の制止も聞かずに犯人を追い掛け回します。この追跡劇は結構面白いのですが、結局犯人がわかった理由は説明されずに終わってしまいました。もしかするとどこかに謎解き伏線があったのかもしれませんが、凡庸な読者の私には判らないままですっきりできませんでした。説明責任を果たしてほしい(願)。

No.366 4点 殺人シナリオ- ハリー・カーニッツ 2014/02/16 11:51
(ネタバレなしです) シナリオライターとしての方が有名な米国のハリー・カーニッツ(1907-1968)のミステリー小説はわずか4作、先に発表された3作はマルコ・ペイジ名義ですが1955年発表で最後の作品となった本書はカーニッツ名義です。英語原題が「Invasion of Privacy」、つまり直訳すると「プライヴァシーの侵害」ですがこのプロットが予想以上に難解でした。映画脚本を巡る訴訟問題に発展しそうな状況で物語が始まるのですが、そもそもどんな脚本なのかどこが問題なのかがはっきり説明されずに物語が進行します。色々な関係者の利害関係も曖昧で、誰と誰が協力関係で誰と誰が敵対関係なのかももやもやしています。最後は犯人当て本格派推理小説として着地していますが、作中で推理だ論理だと言っている割には犯人を特定した理由が説明不足なのも残念です。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー、D・M・ディヴ...
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2865件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(82)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(43)
F・W・クロフツ(32)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(27)
ローラ・チャイルズ(26)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)