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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2755件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.295 5点 原子炉の蟹- 長井彬 2012/02/27 16:24
(ネタバレなしです) ジャーナリスト出身の長井彬(1924-2002)は定年退職後にミステリー作家になった遅咲き型で、デビュー作である本書は1981年の発表です。社会派推理小説と本格派推理小説、両方の要素を持っていますが謎の魅力よりも原発開発にからむ社会事情描写の方が目立つプロットであることから個人的には社会派に分類される作品だと思います。(広義の意味での)密室、(拡大解釈気味ですが)見立て殺人、謎めいたメッセージなど本格派好きにアピールするネタも揃ってはいますが扱い方はかなり地味だし、探偵役の曾我の推理で全ての謎が解明されるわけではなく犯人の自白で解明される謎があるのも謎解き好き読者の評価は分かれそうです。前半はややドライに過ぎる物語ですが、事件関係者の諸事情が明らかになる後半は感情に訴える場面も増えます。

No.294 5点 死者を起こせ- フレッド・ヴァルガス 2012/02/16 18:40
(ネタバレなしです) 1995年に発表されたミステリー第4作の本書では探偵役として3人の歴史学者(マルク、マティアス、リュカ)と元刑事でマルクのおじであるアルマンの4人が事件を調べます。本格派推理小説ではあるのですが直球勝負のポール・アルテと比べるとヴァルガスはプロットがかなりひねってある印象を受けます。この「ひねり」とは容疑が転々とするとか大胆などんでん返しとかのことではありません。サスペンス小説調になったりユーモア小説調(それもかなりひねくれた)になったり、挙句には謎解きを放棄しているように感じられたりと本格派推理小説のプロットから何度も脇道にそれています。結末はそれなりに意外性があると思うし謎解き伏線も張ってはあるのですが、この「ひねり」にどこまで読者が付いていけるかで評価が分かれそうです。

No.293 6点 虹列車の悲劇- 阿井渉介 2012/02/03 21:34
(ネタバレなしです)1992年発表の列車シリーズ第9作ですが、シリーズの中で異彩を放つ作品となりました。短時間で白骨化した死体に妖しげな虹の出現と魅力的な謎もありますが、本書で最も力を入れたのが人間ドラマの部分でしょう。これがなかなかよくできています。確かに登場人物の行動には身勝手なところが多いのですが共感できる部分もあって奥行きのあるストーリーになっています。

No.292 6点 絃の聖域- 栗本薫 2012/01/26 20:17
(ネタバレなしです) 1980年発表の伊集院大介シリーズ第1作の本格派推理小説です。このシリーズはミステリーに対する作者の関心が下がった時期もあって作品レベルのばらつきが大きいのですが、本書はかなりの力作だと思います。1970年代にリバイバルブームを巻き起こした横溝正史の影響を感じさせる作品で、和風を意識した舞台が印象的です。登場人物が意外と多く関係も複雑で、中盤までは地味でゆったりとした展開ですが終盤は劇的で、特に最終章では内田康夫の「天河伝説殺人事件」(1988年)の幕切れに匹敵するような深遠な世界が描かれています。ただ謎解きは事件の真相が横溝正史の某作品を連想させるもので、好き嫌いは分かれるかもしれません。男同士のキスシーンを入れているのもさらに好き嫌いが分かれそうです。

No.291 10点 Yの悲劇- エラリイ・クイーン 2012/01/26 17:49
(ネタバレなしです) 1932年発表のドルリー・レーン4部作の第2作で「Xの悲劇」(1932年)と常に最高傑作の座を争っている本格派推理小説です。純粋な謎解き作品としてなら「Xの悲劇」がお勧めでしょう。一方本書も謎解きレベルでは遜色ない上に、事件の悲劇性の演出が見事です。とはいえこの結末をどう評価するかで意見が分かれそうです。「Xの悲劇」は最も万人受けして平均的に高得点を稼ぐ傑作、本書は気に入らない読者もいるかもしれませんが最高評価を多く集める傑作と言えるのでは。

No.290 5点 小麦で殺人- エマ・レイサン 2012/01/17 19:04
(ネタバレなしです) 1967年発表のジョン・サッチャーシリーズ第6作で、CWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得したことから代表作のように紹介されていますが、個人的には微妙な作品でした。一応は本格派推理小説としての謎解きもありますが、政治色が濃厚なのは評価が分かれそうです。米ソ間の「雪どけ」時代に発表されたからでしょうか、ソ連人が登場していますが結構気配りしたような描写になっていますね(笑)。

No.289 7点 硝子のハンマー- 貴志祐介 2012/01/17 18:52
(ネタバレなしです) 新本格派の作家たちがホラー作品に手を染めているぐらいだからホラー作家の貴志祐介(1959年生まれ)が本格派推理小説に手を伸ばしても驚くことではないのかもしれませんが、2004年発表の本書ではあっぱれなまでにホラー要素が排されており、特に前半の謎解きは密室の謎を巡って次から次へとトリックが検討されて圧巻です。これだけトリック仮説が飛び交うのはクレイトン・ロースンの名作「帽子から飛び出した死」(1938年)ぐらいしか私は思いつきません。真相トリックもなかなかユニークで面白いです。評価が分かれそうなのは後半がある登場人物の半生記みたいなプロットに様変わりすることで、これはガボリオの「ルコック探偵」(1869年)やドイルの「緋色の研究」(1887年)に前例がある手法ですが、個人的には謎解きの面白さにブレーキをかけられたような気がします。

No.288 4点 グレイシー・アレン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン 2012/01/13 18:47
(ネタバレなしです) 前作の「誘拐殺人事件」(1936年)がセールス的に失敗し、出版社からの要求を丸呑み(?)して実在の喜劇女優グレイシー・アレン(1902-1964)とその夫のジョージ・バーンズまでも作品に登場させた1938年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第11作の本格派推理小説です。ユーモア・ミステリーを狙ったのであったらやはりヴァン・ダインの作風にはミスマッチだったとしか言いようがありません(映画化もされてますがこれも失敗だったそうです)。どたばた展開もぎごちなく、第16章から第17章の展開ではここで笑うべきなのかシリアスに読むべきなのか私は途方にくれました。むしろ暗く重苦しい雰囲気のカフェ描写などの方が印象に残りました。

No.287 8点 三本の緑の小壜- D・M・ディヴァイン 2011/11/14 14:38
(ネタバレなしです) 1972年に発表された本格派推理小説の傑作です。少女が全裸死体で発見されるという猟奇的犯罪を扱っていますがエログロ雰囲気は全くなく、(性犯罪の可能性は検討されますけど)誰にでも勧められる作品として仕上がっています。コリン・デクスターの傑作「ウッドストック行最終バス」(1975年)に影響を与えたのではと思わせる印象的な出だしから、悲劇的な事件を扱いながら(やや強引だけど)救いを暗示する幕切れに至るまでよく考えられたプロットです。謎解きの巧妙さも読者の期待を裏切りません。

No.286 7点 大いなる救い- エリザベス・ジョージ 2011/11/07 19:59
(ネタバレなしです) 生っ粋の米国人ながら英国を舞台にした推理小説を書き、英米両方で高い評価を受けているエリザベス・ジョージ(1949年生まれ)による1988年発表のデビュー作で凄みを感じさせる傑作です。本格派推理小説ですが誰が犯人とかどうやって殺したかとかの王道的な謎解き要素はあまり重視されていないプロットですが、読むのが辛くなるような真相の衝撃が読者を打ちのめします。丹念な人物描写はP・D・ジェイムズに匹敵しますが、こちらは感情をむき出しにする場面も多くて物語にメリハリがついており、重厚さと読みやすさが両立しています。なお本書は新潮文庫版では「そしてボビーは死んだ」というタイトルで発行されていますのでダブって入手しないようご注意を。

No.285 5点 死霊谷の呪い館- 山村正夫 2011/10/31 21:18
(ネタバレなしです) 1990年発表の滝連太郎シリーズ第7作の本格派推理小説です。前半は快調です。この作者ならではの伝奇要素と現代要素のバランスが絶妙で、謎の面白さもたっぷりです。本格派推理小説好き読者としては最後は合理的に解決してもらいたいので、後半になって伝奇性が薄まるのも問題とは感じません。とはいえ必要性が全くないうえにあまりに陳腐なトリックの密室を始め、真相はかなりの残念レベルです。結末が全てだとまでは言いませんけど、本書の場合は前半との落差があまりに大きすぎました。

No.284 7点 拳銃をもつジョニー- ジョン・ボール 2011/10/31 20:05
(ネタバレなしです) 有名ミュージカル「アニーよ銃をとれ」(英題「Annie Get Your Gun」)(1946年)のタイトルを流用した1969年発表のヴァージル・ティッブスシリーズ第3作(英題「Johnny Get Your Gun」)です。犯罪を犯して逃亡する少年ジョニーと彼を追跡するヴァージル・ティッブスたち捜査陣を描いた犯罪サスペンスと紹介しても間違いではありませんが、要所ではティッブスの鋭い推理による謎解きも披露され、本格派推理小説好き読者へのアピール力もあります。社会問題描写や子どもへの温かい気配り描写など実に充実した内容で、悲劇に終わるのか救いがあるのか最後まではらはらさせる展開もお見事です。

No.283 5点 死仮面- 横溝正史 2011/10/24 17:30
(ネタバレなしです) 作者絶頂期の1949年に書かれた金田一耕助シリーズ第5作ながら、地方誌に連載されたこともあって完全な原稿が見つからず長らく幻の作品扱いされていたそうです(単行本化されたのは作者の死後となりました)。あの「八つ墓村」(1949年)と「犬神家の一族」(1950年)の間を埋める作品ということで結構期待した読者も多かったのではと思いますが、残念ながらあれほどのスケール感はありません(長編としてはページ数が少ないという制限があるので仕方ないところもありますけど)。前半は複雑な人間関係が重厚かつ地味に描かれています。事件性がはっきりしないこともあって盛り上がりに欠けています。ところが後半になると学園を舞台にした冒険スリラー風に様相が変わってびっくり。推理には不満もありますが、ミスディレクションが効果的な謎解きでした。

No.282 6点 ドーヴァー9/楽勝- ジョイス・ポーター 2011/10/23 13:08
(ネタバレなしです) 1979年発表のドーヴァーシリーズ第9作はトイレネタが多少目立つ程度で、このシリーズ作品としては羽目をはずす場面が少なく普通の本格派推理小説の印象が強い作品です。良くも悪くも平均点的な内容で、「普通」がいけないわけでは決してありませんが、これといった特色を見出しにくかったです。

No.281 5点 生贄伝説殺人事件- 山村正夫 2011/10/19 22:02
(ネタバレなしです) 1992年発表の滝連太郎シリーズ第9作の本格派推理小説です。女子中学生が誘拐され、誘拐犯の一人と思われる男が殺されるという事件を扱っています。直接的な官能シーンがあるわけではないのですがロリコンとか少女売春がらみのプロットは読者を選びそうですね。登場人物が少なくてストーリーも比較的シンプル、ページ数も講談社文庫版で300ページに満たないので大変読みやすい作品です。このシリーズの特色である伝奇要素もそれほど強力ではなく、全般的に淡白過ぎる印象もありますが、この題材であまり濃密に描かれるのもちょっと...。

No.280 8点 一日の悪- トマス・スターリング 2011/10/19 09:23
(ネタバレなしです) 米国のトマス・スターリング(1921年生まれ)については詳しく知りませんが、デビュー作はサスペンス小説、第2作は犯罪小説、そして第3作の本書(1955年発表)は本格派と、特定ジャンルにはめられない作風の作家のようです。アガサ・クリスティーやエラリー・クイーンの書く本格派推理小説とは趣が異なり、サスペンス小説色が濃厚なプロットですが結末に至るとそれまでに張り巡らされた様々な伏線が真相を明らかにするという、本格派ファン満足の謎解きが待っています。この謎解きは視覚的に訴える手掛かりを巧妙に活用しており、映画化(1967年)されたのも十分うなずけます。

No.279 5点 人形館の殺人- 綾辻行人 2011/10/18 16:49
(ネタバレなしです) 1989年発表の館シリーズ第4作ですが、それまでのシリーズ作品が本格派推理小説の王道路線だったのに対し本書は思い切って作風を変えています。謎解き要素もちゃんと残してはいますが、サイコ・サスペンス色濃厚なプロットは好き嫌いが分かれそうです(個人的にはあまり楽しめませんでした)。大胆などんでん返しに驚かされましたが、反則とは言わないまでもこれは少々やり過ぎではという気もします。

No.278 5点 漂う殺人鬼- ピーター・ラヴゼイ 2011/10/10 19:36
(ネタバレなしです) 2003年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第8作で、ハヤカワ文庫版で600ページ近い分厚さが苦にならない語り口の巧さが光る警察小説の佳作です(本格派推理小説としては真相がアンフェアに感じられますが、そもそもラヴゼイがシリーズ作品であっても色々とスタイルを変えるのですから注文つけても仕方ありません)。シリアル・キラー(連続殺人犯)を扱っていますが、犯人描写が残酷さや非情さよりも知能犯ぶりに重点を置いているため、万人受けしやすくなっています。ダイヤモンド警視の方が活躍度が高いものの本書が初登場となるヘン・マリン主任警部も印象的なキャラクターで、後年には彼女を主役とした作品が書かれることになります。

No.277 5点 嘘をもうひとつだけ- 東野圭吾 2011/10/05 18:52
(ネタバレなしです) 2000年発表の加賀恭一郎シリーズ短編集で、5つの短編のどれも完成度は高く読み応えも十分です。しかし短編集としてまとめられて通しで読むとどの作品もプロットパターンが似通っているように感じられました。最初に主人公と加賀美刑事のやり取りが続き、登場人物が極端に少ないこともあって犯人の正体は早々と見当がつく展開で共通しています。このワンパターンはもう少し工夫して変化をつけてほしかったです。どれか1つを選ぶならひねりのインパクトが大きい「狂った計算」でしょうか。

No.276 6点 ファッジ・カップケーキは怒っている- ジョアン・フルーク 2011/10/05 18:27
(ネタバレなしです) 2004年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第5作で、やや厚めの作品ですが読みにくさはありません。事件の謎解きとは別にレシピの謎解きまでやっているのがとてもユニークです。これって料理好きなら十分に見破れる謎解きになっているのでしょうか(料理のできない私は論外ですけど)?犯人当ての方はあまりにも堂々と張られていた伏線に思わず笑ってしまいました。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2755件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(78)
アガサ・クリスティー(55)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(41)
F・W・クロフツ(30)
A・A・フェア(27)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)