皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2865件 |
No.605 | 6点 | 画商の罠- アーロン・エルキンズ | 2015/02/25 11:30 |
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(ネタバレなしです) 1993年発表のクリス・ノーグレンシリーズ第3作で、過去2作品に比べて組織的犯罪臭さがない分、本格派推理小説好きには受け入れやすい作品だと思います。とはいえメインの謎解きは絵の真贋であって、殺人犯探しが付随的に扱われているのが本書の長所(個性)でもあり短所(専門的ジャンルのため一般読者にはややわかりにくい)でもあります。 |
No.604 | 3点 | 猫はクロゼットに隠れる- リリアン・J・ブラウン | 2015/02/24 19:06 |
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(ネタバレなしです) もともとこのシリーズは謎解きの面白さにはあまり期待をかけれなかったのですが、1993年発表のシリーズ第15作の本書あたりから一段とミステリーらしさが失われてしまったような気がします。主な事件は遠く離れたフロリダで起こった自殺らしき事件(クィラランは現場へ行きません)と農場主の失踪事件で、どちらも事件性が低いためミステリーとしての魅力にやや乏しく、クィラランの推理も論理よりは直感に頼った感があります。ミステリー以外の部分(演劇、ハロウィーン、クリスマスなど)の描写の方が光っています。 |
No.603 | 6点 | ロマンチック街道殺人ルート- 高柳芳夫 | 2015/02/19 15:26 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説で、日本で事件が起こり中盤は(当時の)西ドイツが舞台になり、そして最後は再び日本に戻って事件が解決されます。ロマンスも描かれていますが控え目で、むしろ企業(銀行)のスキャンダル疑惑の描写の方が目立っておりロマンチックな雰囲気はそれほどありません。犯人はかなり杜撰な行動をしていますが相当な強運に助けられていたなあという感想です。 |
No.602 | 5点 | 死人島の呪い雛- 山村正夫 | 2015/02/18 19:29 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表の滝連太郎シリーズ第3作の伝奇本格派推理小説です。大まかな範囲では難解な謎解きではないと思いますが、最終章での細部の説明が何でもあり的な真相なので不満が残りました。またこの最終章で新たな殺人事件を起こしているのは(滝は言い訳していますが)何とか防げなかったのかという気分にさせられます。伝奇的要素と現代的要素を上手く融合しており、過度ではないユーモアも心地よく、読みやすい作品です(ただ低俗な人間関係描写は好き嫌いが分かれそう)。 |
No.601 | 6点 | サイモン・アークの事件簿〈Ⅲ〉- エドワード・D・ホック | 2015/02/18 09:09 |
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(ネタバレなしです) ホックが日本の読者向けに選んだシリーズ中短編26作を3冊の短編集に分けて日本出版されたものの最後となった短編集(2011年出版)で8作品が収められていますが他の2つの短編集と遜色ない水準です。濃厚なオカルト色と現代的な真相の対比が印象的な「焼け死んだ魔女」(1956年)、オカルト色は薄いですがエレヴェーターからの人間消失の謎が魅力的な「黄泉の国への早道」(1988年)、海の中から光と共に現れる女妖術師の「海の美人妖術師」(1980年)などが楽しめましたが他の作品も粒ぞろいです(「魂の取りたて人」(1989年)の足音トリックはすぐばれてしまいそうな気もしますが)。また創元推理文庫版の鳥飼否宇による巻末解説はこのシリーズの特徴を要領よく紹介した名解説だと思います。 |
No.600 | 5点 | エドウィン・ドルードのエピローグ- ブルース・グレイム | 2015/02/16 12:18 |
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(ネタバレなしです) 英国のスティーヴンズ警視とフランスのアレン警部が活躍する本格派推理小説は全部で13作書かれていますが、1933年発表のシリーズ第3作の本書は最大の異色作でしょう。アレンが登場しないのも理由の一つですが、スティーヴンズが1857年の世界に移動(?)するのです。しかもそこはチャールズ・ディケンズの未完のミステリー「エドウィン・ドルードの謎」(1870年)の中の世界なのです。但しグレイムはディケンズの作風を踏襲する気は全くなかったようで、ディケンズと比べると人物描写にはほとんど配慮していません。失踪中のエドウィン・ドルードは仕方ないでしょうが、ローザ・バッド、ランドレス兄妹、ディック・ダッチェリーなどの重要人物の登場が非常に少なく、未完のディケンズ作品の続編を期待する読者は物足りなく感じるかもしれません。その代わりというわけではありませんが13章から14章にかけての法廷場面でスティーヴンズがつい20世紀の知識を口に出してしまって窮地に陥ってしまうなど、過去の世界で現代人が悪戦苦闘する描写は本書の個性となっています。謎解きは証拠不足を好都合な証言で強引に解決しているような印象が強くすっきりできませんでした。21章の最後のとんでもない自白には唖然とするばかりです。 |
No.599 | 6点 | マシューズ家の毒- ジョージェット・ヘイヤー | 2015/01/30 16:29 |
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(ネタバレなしです) 1936年発表のハナサイド警視シリーズ第2作の本格派推理小説です。「紳士と月夜の晒し台」(1935年)と同じくプロットにメリハリが乏しいのは弱点です。個性的な登場人物描写は長所ですが誰が主人公と特定できないのも作品の焦点が定めにくい一因でしょう。真相は意外と言えば言えるのですが、そもそもが後手に回った捜査のせいで大事な手掛かりの登場が終盤近くまで登場しないのですから謎解きとしても少々不満があります。 |
No.598 | 6点 | 七番目の仮説- ポール・アルテ | 2015/01/28 14:33 |
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(ネタバレなしです) 1991年発表のアラン・ツイストシリーズ第6作です。四部構成となっていますが、第一部はいかにもアルテらしい、不可能としか思えない謎の魅力がたっぷりです。しかし本書の特色はむしろ第二部以降で、一体誰がどんな陰謀を企んでいるのかという謎を巡って推理します。トリックよりも犯人と動機の謎解きに力を入れた作品で、特に後者については単なる犯行動機だけでなく、なぜこれほど複雑怪奇な事件にしたのかという理由も追求されます。アルテといえば不可能犯罪と期待する読者にはやや物足りなく感じるかもしれませんが、作者がトリックメーカーに留まらないことを示した作品と個人的には評価したいです。真相解明場面での犯人とツイスト博士の心理対決のサスペンスなどさすがにこの作者は演出が巧いです。 |
No.597 | 4点 | 無縁坂殺人事件- 草川隆 | 2015/01/27 16:27 |
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(ネタバレなしです) 1987年発表の本格派推理小説です。丁寧な捜査描写の結果、犯人の正体は中途で見当がつくのですが(この人以外に有力な容疑者がいない状況になる)、動機が完全に後出しのため意外というより拍子抜け感が強いです。不可能犯罪要素もありますが何か謎解きを盛り上げるもう一工夫が欲しかったですね。 |
No.596 | 6点 | 真赤な子犬- 日影丈吉 | 2015/01/27 13:30 |
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(ネタバレなしです) 1959年発表の長編ミステリー第2作で、作者のトレードマークである幻想的作風はまだ見られませんがそれでも初期代表作と評価されるにふさわしい本格派推理小説です。同時代の社会派推理小説とも味気のない本格派推理小説とも違うところを目指していただけあって個性豊かな作品です。自殺希望者が殺されるという不思議な事件に始まり後半には不可能犯罪も発生しますが、謎解きだけでなくバラエティーに富む人物描写や控え目なユーモアも作品の個性です。 |
No.595 | 6点 | そして医師も死す- D・M・ディヴァイン | 2015/01/27 10:27 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表の長編第2作の本格派推理小説です。前作の「兄の殺人者」(1961年)と比べると主人公が容疑者となっているのが特徴で、そこに複雑な人間関係を絡ませて地味な展開ながら退屈しないプロットになっています。色々な場面で周囲との対決姿勢を隠さない(ある意味不器用な)主人公の将来がどうなるのかも読ませどころです。ミスディレクションが巧く、真相説明で語られる「論理の穴」はなかなか印象的でした。ただ真相説明が「兄の殺人者」に比べて十分とは言えず、容疑者を残り3人に絞ったところで2人を犯人候補から外した理由は明らかでないように思います。まあそれは全体から見れば些細な問題で、水準の高い謎解き小説だと思います。 |
No.594 | 6点 | 毒杯の囀り- ポール・ドハティ | 2015/01/26 18:23 |
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(ネタバレなしです) ドハティがポール・ハーディング名義で1991年に発表した修道士アセルスタンシリーズの第1作の本格派推理小説で14世紀後半の英国が舞台です。同時期にマイクル・クラインズ名義でロジャー・シャーロットシリーズの第1作「白薔薇と鎖」も発表していますがあちらが冒険小説要素がかなり強いのに対して、本書は剣での切り合い場面もありますがストレートな本格派推理小説に仕上がっています。主人公のアセルスタンもロジャー・シャーロットに比べると普通人的なキャラクターで、ドハティー入門としてはこちらのシリーズがお勧めです。不可能犯罪を扱っていますがそれほどその謎を強調せず、自殺か他殺かの検証や死者が生前に残したメッセージなど色々な謎をバランスよく提示したプロットになっています。 |
No.593 | 5点 | チャリティー・バザーの殺人- キャロリン・G・ハート | 2015/01/26 17:35 |
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(ネタバレなしです) 1999年発表のデス・オン・ディマンドシリーズ第9作です。事件が起きるまでの序盤の展開は白眉と言いたいほどの出来栄えで、土砂降りの雨がサスペンスを効果的に盛り上げます。それに比べると慈善バザーの描写はもっとにぎやかさがあってもいいのではと注文を付けたくなります。プロットは何度も容疑が転々とするのですが謎解き伏線は物足りず、特に真相に至る最後のどんでん返しは読者が(アニーも)当てようがないのではと思います。 |
No.592 | 5点 | チューダー女王の事件- クリストファー・ブッシュ | 2015/01/26 16:15 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表のルドヴィック・トラヴァースシリーズ第18作の本格派推理小説です。アガサ・クリスティーの某作品を連想させるメイントリックにある小道具を組み合わせた工夫が光ります。トリックの完成度では「失われた時間」(1937年)を上回ると思います。しかしプロットで損している印象を受けました。主な容疑者が揃うのがようやく第7章になってからという遅い展開に加えて、「自殺か他殺か」の議論が終盤まで続くのが冗長に感じられます。 |
No.591 | 5点 | 脅迫- ビル・プロンジーニ | 2015/01/26 14:50 |
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(ネタバレなしです) 1981年発表のシリーズ第7作で、主人公の人生に大きな影響を与える女性ケリーが初登場する作品です。密室殺人事件を扱っているのが特徴で謎解き伏線もしっかり用意されており、本格派推理小説として評価するなら「殺意」(1973年)を上回ると思います。とはいえminiさんのご講評の通り本書はやはりハードボイルド小説です。アクションシーンあり(といっても主人公はもう53歳なので正面からの肉弾戦とは違います)、ベッドシーンありです(正確にはベッドインまでで、そこから先の描写はありません)。殺人が起きるまでがサスペンスに乏しいのと、ドライにあっさりと書かれているためか肝心の「脅迫」がパンチ力に欠けるのがちょっと残念ですが本格派好きの読者でも受け容れ易いと思います。 |
No.590 | 7点 | ディーン牧師の事件簿- ハル・ホワイト | 2015/01/26 13:24 |
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(ネタバレなしです) 短編本格派の名手エドワード・D・ホックが2008年に亡くなって遺憾に思う読者は決して私だけではないと思いますが、そういう読者は同じ2008年に本書でデビューしたハル・ホワイトに新たな期待を見出せるのではないでしょうか。6つの短編が全て不可能犯罪を扱っているだけでもわくわくしましたが、トリックが類型的にならぬよう気配りしているのには感心しました。特に「足跡のない連続殺人」では全ての事件に異なるトリックを用意しているのに驚かされます。一方で「ガレージ密室の謎」のトリックは違う意味で驚かされます。これは(ネタバレ防止のため理由は書きませんが)拒否反応を示す読者も少なくないかと思いますが強烈な印象を残す作品であることは間違いありません。 |
No.589 | 6点 | 死の天使- パトリシア・モイーズ | 2015/01/26 12:14 |
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(ネタバレなしです) 1980年発表のシリーズ第15作で犯罪組織絡みのスリラー小説ですが、このジャンルのモイーズ作品ではベストの出来栄えではないでしょうか。中盤にヘンリの妻エミーが主役になる場面がありますが、誰を信じていいのかわからない状況を作り出してサスペンスを巧みに盛り上げます。美しい風景描写に定評ある作者ですが、本書ではカリブ海のハリケーンに挑戦しているのも読ませどころです。結末も十分に劇的ですがやや駆け足気味に終息してしまい、余韻に浸れなかったのがちょっと惜しい気もします。 |
No.588 | 6点 | ドラゴン殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/01/26 11:40 |
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(ネタバレなしです) 1933年発表のファイロ・ヴァンスシリーズ第7作です。謎の魅力が高い一方で真相が脱力モノというのが大方の意見ですが、ドラゴンの仕業(に思える)というオカルト風な設定への挑戦意欲をどこまで評価するかで賛否両論が分かれそうです。確かに犯人が結構目立つ失敗をしていてヴァンスだけでなく事件関係者の何人かも真相の見当がつき、それでいながら警察は五里霧中というプロットはどこか釈然としない部分もありますが、犯人当てとしての推理ロジックは十分納得できました。篠田秀幸が本書を下敷きにして「龍神池の殺人」(2004年)を書いているので比較しても面白いですよ。 |
No.587 | 6点 | 虚空から現れた死- クレイトン・ロースン | 2015/01/26 10:12 |
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(ネタバレなしです) ロースンはスチュアート・タウン名義で奇術師ドン・ディアボロを探偵役にした本格派推理小説の中編を4作発表していますが、その内「過去からよみがえった死」と「見えない死」の2編を収めた1941年の第一中編集が本書です。パルプ雑誌に発表されたためか派手な筋立てで、前者ではコウモリ男、後者では透明人間の謎が提供されます。とにかくトリックまたトリックのオンパレードで、犯行トリックだけでなくディアボロや彼の仲間たちがチャーチ警視を愚弄するトリックまで入り乱れ、読む方は振り回されます。複雑なプロットと緻密な謎解きなので登場人物リストを作って読むことを勧めます。 |
No.586 | 4点 | 出張鑑定にご用心- ジェーン・K・クリーランド | 2015/01/23 16:19 |
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(ネタバレなしです) 2006年発表のジョシー・プレスコットシリーズ第1作です。主人公が過去の不幸な出来事で心に傷を負い、涙もろくなっているのが珍しいです。主人公が容疑者になることはいくらでも前例がありますが、ジェシーが真犯人探しにはそれほど積極的でなく自身を守ることを優先しているところが自然なストーリーづくりになっています。ただそのためかジェシーの知らないところで解決に向かっている印象が強く、真相説明も結果報告調で推理が物足りません。 |