皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.554 | 6点 | ねじれた家- アガサ・クリスティー | 2014/10/20 10:00 |
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(ネタバレなしです) 1949年発表の、シリーズ探偵が登場しない本格派推理小説です。クリスティーのミステリーでは常に会話が重要な役割を果たしていますが特に本書では会話場面の占める割合が非常に高く、行動場面は少なくなっています。そのためか捜査が進展しない前半はサスペンスに乏しいですが、後半の劇的な盛り上げ方は(派手ではないけど)重い余韻を残します。このプロットなら人物描写をもっと深堀りして重厚な心理ドラマ路線を追求することも可能だったでしょうけど、作者としても読みやすさとの両立に苦心したのではないでしょうか。 |
No.553 | 6点 | 黒い蘭―ネロ・ウルフの事件簿- レックス・スタウト | 2014/10/20 09:06 |
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(ネタバレなしです) スタウトのネロ・ウルフシリーズは長編33作が書かれていますが中短編も結構あり、生前に13もの中短編集が出版されています。収められた作品は最少で2作、最多でも4作ですからほとんどが中編かと思われます。1942年発表の第一中編集「黒い蘭」は表題作と「ようこそ、死のパーティーへ」の2作品を収めたのが米国オリジナル版ですが、論創社版は後者を除外して代わりに第4中編集(1950年)から1作、第12中編集(1961年)から1作を選んで独自編集したものです。国内初の単行本化は読者として大いに感謝しますし独自編集を否定するつもりもありませんが、本書のアーチー・グッドウインによる作品紹介を読むと「ようこそ、死のパーティーへ」も黒い蘭絡みの事件のようで、米国オリジナル版をそのまま翻訳してもよかったのではという気もします。とはいえ論創社版に収められた3作品はどれも面白く、特にウルフやアーチーに臆することのない(容疑者でもあるのですが)依頼人が痛快な「ニセモノは殺人のはじまり」は私の1番のお気に入りです。 |
No.552 | 6点 | かぼちゃケーキを切る前に- リヴィア・J・ウォッシュバーン | 2014/10/17 15:45 |
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(ネタバレなしです) 2007年発表のフィリス・ニューサムシリーズ第2作です。コージー派の本格派推理小説としての読みやすさはもちろんですがアマチュアのフィリスが探偵活動に取り組む流れがスムースで、特に第24章で謎解き議論に加わるところに不自然さを感じさせません。読者が推理するのに手掛かりが十分とは言えませんが、コージー派としてはしっかりした謎解きプロットです。 |
No.551 | 6点 | 死の会議録- パトリシア・モイーズ | 2014/10/17 12:23 |
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(ネタバレなしです) 1962年発表のヘンリ・ティベットシリーズ第3作です。国際犯罪組織がらみのスリラー小説としての色合いが濃い作品ですが、最終章でのヘンリによる手掛かりに基づく推理の積み重ねはまさしく本格派推理小説ならではのものです。当時としても非常に古典的なトリックが使われているのも却って新鮮な印象を与えます。なお「死人はスキーをしない」(1959年)で容疑者だった人物が再登場(今回は脇役)していますので、未読の方は注意下さい。 |
No.550 | 7点 | 四人の女- パット・マガー | 2014/10/17 11:43 |
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(ネタバレなしです) 誤解を恐れずに書きますがマガーは緻密な謎解きとか読者を欺くテクニックは決して上手くないと思います。ミスディレクションなんか不自然なまでに強引なことがあり、却って真相が見破られやすい時もあります。しかしその弱点を補って余りあるのが、卓越したストーリーテリングと多彩な人物描写です。1950年発表の第5長編の本書は「被害者探し」の本格派推理小説ですが、主要登場人物をわずか5人に絞ったためか人間ドラマとして一段と深彫りされたような感じがします。本書以降のマガー作品は犯人探しになったためか翻訳が止まってしまったようですがこれは非常にもったいないですね。マガーの本質は謎解きの形式とは別の次元だと思うのですが。 |
No.549 | 5点 | 濡れた心- 多岐川恭 | 2014/10/17 11:22 |
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(ネタバレなしです) 1958年発表の長編第2作で女子高生の同性愛を扱った作品と紹介されており、それだけでも読者を選びそうですね。男の私は気にしませんでしたが仮に男同士の同性愛だったら読むのをためらったと思います(笑)。官能小説風ではありませんが、かといってプラトニック・ラブでもない微妙な描写です。また片方の女性は男からのアプローチに嫌悪感を示しながらもはっきり拒否するわけでもなく、なかなか複雑な人間関係になっています。登場人物の手記(日記やメモ)で構成されたプロットがユニークで、多彩で繊細な心理描写が光ります。ちゃんと動機、機会、手段を推理する本格派推理小説になっていますが、謎解きの興味以上に犯罪が登場人物たちの人生に与えた影響の方が気になります。登場人物の1人がもう未解決でもいいじゃないかというようなことを言っているのも納得できます(もちろん未解決にはならず、ちゃんと真相は明らかになります)。 |
No.548 | 6点 | 下北の殺人者- 中町信 | 2014/10/17 11:05 |
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(ネタバレなしです) 1989年、出版社勤務と兼業だった作者がついに専業作家となって最初に発表した本格派推理小説です(通算16作目)。講談社文庫版の巻末解説の通り、登場人物は決して多くありませんがこの複雑な真相を読者が解決前に完全に見破るのは不可能ではないでしょうか。二転三転、どんでん返しの連続が半端でなく、まさに論理のアクロバットです。当時の国内は新本格派推理小説の黄金時代を迎えていましたが、トリック重視の作品が多い新進作家とは異なる、プロット勝負の謎解きで個性を発揮しています。 |
No.547 | 6点 | ルイザの不穏な休暇- アンナ・マクリーン | 2014/10/14 16:46 |
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(ネタバレなしです) 2005年発表のルイザ・メイ・オルコットシリーズ第2作の本格派推理小説で、シリーズ前作よりもルイザの家族描写に力が入っており、「若草物語」の登場人物ローリーのモデルとなる青年を登場させたりとオルコットのファン読者にもアピールしています。有力な手掛かりがやや少ないですが謎解きはしっかりしており、私はミスディレクションに引っかかってしまいました。 |
No.546 | 5点 | 殺人投影図- 結城恭介 | 2014/10/14 16:36 |
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(ネタバレなしです) 1980年代後半から花のジャンスカ同盟シリーズ(私は未読です)など軽妙な作品を発表していた結城恭介(1964年生まれ)が1994年に発表した雷門京一郎シリーズ 第1作です。生真面目で理系のイメージを与えるようなタイトルですが内容はユーモアに満ちた本格派推理小説で、理系要素はありません。構想に4年もかけたとは思えないほどリラックスした雰囲気が漂っています。粗野な会話が多いのがちょっと気になりますけど、複雑なプロットを軽妙かつ明快な文章でわかりやすく説明しています。ただ雷門の説明で「事実」と「真実」がどう違うのかは私にはわかりませんでした。密室トリックは古典的なトリックが使われています。なおノン・ノベル版の裏表紙粗筋で中盤の展開まで踏み込んで紹介しているのは少々行き過ぎに感じました。そこは読んでのお楽しみでよかったと思います。 |
No.545 | 5点 | バトラー弁護に立つ- ジョン・ディクスン・カー | 2014/10/14 10:10 |
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(ネタバレなしです) フェル博士シリーズの「疑惑の影」(1949年)で主役級の活躍をした弁護士バトラーを再登場させた1956年発表の本格派推理小説です。本書ではフェル博士は登場せず、バトラーはフェル博士の後ろ盾なしで謎を解きたいとこだわっています。ところがこのバトラーが主役かというとそうではなく、準主役に留まっており(主役はやはり弁護士のヒュー・ブランティス)、しかも法廷場面がないのですからどうしてこのタイトルになったのか不思議です。ハヤカワポケットブック版は手袋を「手套」と表記するほど古い翻訳ですが、それでも巻き込まれ型冒険スリラーとしては文句なく面白かったです(ヒューが結構火に油を注いでいます!)。日本人読者には辛い言語絡みの手掛かりなど謎解きとして粗い面もありますが、どたばた劇の中に忍ばせた伏線はカーならではの巧妙さが光ります。なお作中に「疑惑の影」のネタバレがありますので未読の読者は注意下さい。 |
No.544 | 4点 | メッキした百合- E・S・ガードナー | 2014/10/13 21:59 |
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(ネタバレなしです) 1956年発表のペリー・メイスンシリーズ第51作です。どうも本書のメイスンは法廷で精彩を欠いているように感じられます。いつもなら自分の流儀を押し通すはずなのに今回は被告人からああしろこうしろと注文つけられているし、反対尋問では検察から「異議あり」を次々に決められています。まあ後者に関してはメイスンも検察の尋問に対して「異議あり」を返していますけど。最後はちゃんとどんでん返しが鮮やかに決まるのですが、メイスンの推理説明が一見論理的でいるようでいてその決め手が「人の性格を正しく判断すること」というのでは説得力のある論理とは思えませんでした。 |
No.543 | 3点 | 大会を知らず- ジル・チャーチル | 2014/10/13 21:32 |
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(ネタバレなしです) 2003年発表のジェーン・ジェフリイシリーズ第14作です。これまでのシリーズ作品中(創元推理部文庫版の巻末解説の表現を借りるなら)最も「地味」ではないでしょうか。小さな犯罪はいくつか起きますが、解くべく謎が何なのかはっきり提示されないまま物語が進行します。一応はジェーンがある秘密を探り出すのに成功していますがそれほど印象に残りませんでした。いつクライマックスが訪れるのかと待ちながら読みましたが、とうとう盛り上がらないまま終わってしまったような読後感です。 |
No.542 | 6点 | ミンコット荘に死す- レオ・ブルース | 2014/10/07 16:39 |
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(ネタバレなしです) 1956年発表のキャロラス・ディーンシリーズ第3作の本格派推理小説です。私はこの作者はアイデアが優秀でも謎解きプロットが雑になって損しているというイメージを持っているのですが、本書は結構緻密なプロットになっていると思います(とはいえ扶桑社文庫版巻末の訳者付記では謎解き伏線の問題点がいくつか指摘されていますが)。どことなくのどかな雰囲気が漂っていますが真相は結構大胆で衝撃的です。この仕掛けは某海外作家Cの1930年代発表作品や別の海外作家Cの1940年代発表作品に似たような前例があるし、好き嫌いも分かれそうな仕掛けではあるのですが印象的であることは間違いありません。 |
No.541 | 6点 | スリー・パインズ村の無慈悲な春- ルイーズ・ペニー | 2014/10/01 19:44 |
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(ネタバレなしです) 2008年発表のガマシュ警部シリーズ第3作である本書は2つの物語で構成されています。1つは殺人事件の謎解きとしての物語、もう1つはかつての警察スキャンダル絡みでガマシュ警部が苦境に陥る物語です。複数の物語が交錯するミステリーも最近では珍しくありませんが往々にして読みにくくなったり、謎解きの面白さが減ってしまったりしてしまうことも少なくありません。本書の場合はぎりぎりセーフといったところでしょうか。ガマシュ警部、捜査どころではないのではという場面もありますが最後は推理による解決へと持っていってます。できればシリーズ第1作の「スリー・パインズ村の不思議な事件」(2005年)を本書より先に読んでおくことをお勧めします。 |
No.540 | 5点 | クッキング・ママの事件簿- ダイアン・デヴィッドソン | 2014/09/26 16:41 |
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(ネタバレなしです) 「事件簿」というタイトルがつくと短編集であることが多いのですが本書は1994年発表のシリーズ第4長編です(ちなみに英語原題は「The Last Supers」)。これまで読んだシリーズ作品もコージー派らしからぬ暗くてとげとげしい雰囲気に満ち溢れていましたが、本書では不幸に打ちひしがれるゴルディがしつこく描かれ、ちっとも楽しくありません。それでもまあ、探偵活動は頑張っていて今回は聖職者や信者の複雑な人間関係という、ケイト・チャールズのミステリーみたいな世界を扱っています。しかしチャールズの作品では共感しやすい人物もいるのですが、本書はそういう人物がほとんどいないのでますます重苦しいです。コージー派のミステリーってもっと気軽に読めるのではなかったっけ? |
No.539 | 3点 | 秘跡- エリス・ピーターズ | 2014/09/26 15:04 |
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(ネタバレなしです) 1985年発表の修道士カドフェルシリーズ第11作ですがあまりミステリーらしくありません。一応あるトリックが使われているし、ある秘密が最後に暴かれはするのですが、解くべき謎としてはっきり提示されたプロットではありません。カドフェルも探偵らしい活動をほとんどしていません。ストーリーテリングは巧妙で、どういう結末を迎えるのか目が離せない展開ですが物語としてはともかく、本格派推理小説としては高い評価点を与えることができません。これで英語原題が「An Excellent Mystery」とは! |
No.538 | 5点 | 鍵のない家- E・D・ビガーズ | 2014/09/26 11:42 |
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(ネタバレなしです) 書かれたチャーリー・チャンシリーズ作品はわずか6作なのに、シリーズ映画が40本近く制作され、ラジオドラマや漫画版も作られたほどの人気でした。1925年発表の本書がシリーズ第1作となりますが、本書のチャンはハレット警部の優秀な部下という立場で後年の作品と比べるとまだ名探偵としての個性を確立していません。最後に犯人と対峙しているのも別の人物で、チャンはサポート役に徹しています。後年デビューとなるヴァン・ダインやエラリー・クイーンと比べると謎解きパスルとしては粗いのですが、舞台となるハワイ描写に力が入っています。作中人物に色彩豊かで天真爛漫な場所だったハワイが本土の機械文明の真似だらけになったことを嘆かせていますが、それでもなおボストン出身の主人公には十分なカルチャーショックを与え、そこから少しずつ馴染んでいく経過を丁寧に描くなど物語性をおざなりにしていない点では上回っています。 |
No.537 | 5点 | ためらう女- E・S・ガードナー | 2014/09/24 18:37 |
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(ネタバレなしです) 1953年発表のシリーズ第41作です。本書は本格派推理小説には分類できないでしょう。終盤にメイスンがあるものを破壊して見つけた証拠品はあまりに唐突に提示され、しかもほとんど推理がからみません。「三日月形の〇〇」に関する推理も飛躍し過ぎの感じがします。とはいえサスペンスはシリーズ屈指の出来映えです。最初からクライマックスを迎えているかのように読者をぐいぐいと引っ張り、やっと光明が見えたと思ったらピンチが更に広がってしまう展開はハヤカワポケットブック版の古い翻訳もハンデにならない面白さです。スマートな捜査が身上のトラッグ警部の意外な一面も読めます(これには驚きました)。 |
No.536 | 4点 | ポルノ・スタジオ殺人事件- ロバート・バーナード | 2014/09/24 18:19 |
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(ネタバレなしです) 1986年発表のシリーズ第4作です。「拷問」(1981年)もそうでしたけど小心者の読者を追い払ってしまいそうなきついタイトルですね(笑)(ちなみに英語原題は「Bodies」です)。セクシャルな場面は全くなく、むしろすっきりした文章でまとめられていますが風俗犯罪がテーマとして扱われているところはアガサ・クリスティーやジョン・ディクスン・カーとは違う時代の作品であることを感じさせます。個人的に残念だったのは「拷問」と比べて推理が物足りなく、犯人当てよりも犯罪組織のしっぽを掴むことに重点を置いた警察小説のプロットになっています。 |
No.535 | 5点 | レモンメレンゲ・パイが隠している- ジョアン・フルーク | 2014/09/24 16:51 |
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(ネタバレなしです) 2003年発表のシリーズ第4作で、ハンナの末妹ミシェルが初登場して更ににぎやかになりました。そのせいかお菓子の描写もこれまで以上に美味しそうです。犯人当てミステリーとしては都合よすぎるぐらいの展開で謎が解けてしまいますが、1番の読ませどころはハンナが密室に挑戦する場面でしょう。といっても密室トリックの謎解きでなく、ハンナが密室からの脱出を試みるのです。 |