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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.574 6点 シタフォードの秘密- アガサ・クリスティー 2014/12/01 00:20
(ネタバレなしです) 1931年発表のシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。使われているトリックが有名ですが、使われ方があまりにもシンプルなので現代ミステリーの複雑なトリックに馴染んだ読者にはさすがに古臭く感じるかもしれません。もっともトリックだけに依存した作品でもないので今でもそれなりの面白さはあります。登場人物が多いのですが後年の名作「ナイルに死す」(1937年)などに比べると人物描写がまだ不十分なのは仕方ないとはいえ惜しまれます。

No.573 6点 眠りの森- 東野圭吾 2014/11/25 08:14
(ネタバレなしです) 1989年発表の加賀恭一郎シリーズ第2作の本格派推理小説です。シリーズ前作の「卒業」(1986年)では学生だった加賀は刑事になっています。「卒業」では自身が事件の中心にいた加賀ですが、刑事になっても登場人物の1人に肩入れして公私混同ぎりぎりの行動をとったりしています。講談社文庫版の巻末解説で述べられているように「より心理描写を重視するようになった」ところが見られますが描けている人物と描けていない人物のばらつきが大きく、必ずしも成功してはいないように思います。そのためか動機の探求に力点を置いたプロットなのですが、例えば見知らぬ男はなぜ事務所に侵入したのかという謎解きが推理というよりも単なる後付け説明しにしか感じられませんでした。締めくくりの哀愁的なメロドラマは良くも悪くも若々しいです。

No.572 5点 霧に包まれた骸- ミルワード・ケネディ 2014/11/21 12:01
(ネタバレなしです) 英国の評論家として有名でしたがあまりにも激辛の評論が多くてミステリー作家と衝突することもしばしばだったミルワード・ケネディ(1894-1968)はミステリー作家としては20作ほどの作品があります。本格派推理小説の書き手ですが前衛的な作品と伝統的な作品を書き分けていたそうで、1929年発表の本書は後者タイプです。もっともデビュー作に引き続き登場のコンフォード警部が名探偵役ではないところは少し風変わりです(本書以降はコンフォード警部の登場作品はないようです)。論創社版の巻末解説が非常に充実しており(ネタバレしているので事前に読まない方が吉です)、私の感想は全部カバーされてしまいました(笑)。単純そうな事件で指紋を始め色々と手掛かりがあるのに捜査が進むほどわけがわからなくなり、死体の身元さえはっきりしなくなる不思議なプロットは結構読みにくかったです。最後はすっきりと締めくくっており随所でユーモアも見られますが、中盤まではじれったい展開でした。

No.571 5点 帝銀村の殺人- 篠田秀幸 2014/11/17 18:45
(ネタバレなしです) 2002年発表の弥生原公彦シリーズ第5作の本格派推理小説です。ハルキノベルス版の作者による巻末解説で、このシリーズが往年のミステリー作品のオマージュと現実の犯罪の研究を特色としていることが紹介されていますが、特に本書は過去の犯罪(帝銀事件)の分析に非常に多くのページを割いており、また松本清張の犯罪ドキュメント「小説帝銀事件」(1959年)(私は未読です)を強く意識しています。そのためか名探偵の活躍する本格派推理小説としては物足りなくなってしまい、「読者への挑戦状」の直後のコメントにあるように「(弥生原が)他人の推理に感嘆の意を露にするだけで自分なりの推理を述べていない」状況が長々と続きます。かなり後半になって新たな事件を起こして謎解きを盛り上げてはいますが、展開的には遅すぎの感があります。

No.570 5点 窓辺の老人- マージェリー・アリンガム 2014/11/17 18:35
(ネタバレなしです) 日本で独自に編集されたアルバート・キャンピオンシリーズ短編集ですが、ほぼ発表年代順に収めてあるのがいいですね。1936年から1939年にかけて発表された7つのシリーズ短編にエッセイが1作収めてあります。長編でも本格派推理小説あり冒険スリラーありと多彩な作風のシリーズですが短編もやはり多彩でした。kanamoriさんの書評にもあるように本格派推理小説らしい作品は「ボーダーライン事件」と「窓辺の老人」ぐらいでしょうか。もっとも前者は何だこれはと言いたくなるような人を食った真相ですし、後者の方は何が起きたのかさえなかなかはっきりしないもやっとした展開です。「怪盗<疑問符>」も本格派と言えなくはありませんが、推理が強引過ぎです。中には非ミステリー作品もあってとらえどころがありません。

No.569 5点 ソクラテス最期の弁明- 小峰元 2014/11/11 13:48
(ネタバレなしです) 1975年発表の長編第3作です。講談社文庫版の巻末解説では過去の2作と比べて「推理小説的な味わいが乏しい」と紹介されています。なるほど、第一の事件の真相が中盤あたりで早々と自白によって明らかになってしまうのは腰砕け的な印象を残しますし、人物の視点が次々と替わって誰が探偵役なのか見極めにくいところも謎解きプロットとしては問題ありだと思います。しかしこの多視点描写は作品としての長所にもなっており、人物個性を確立するのに効果的でサスペンスも盛り上がります。第二の事件に関してはアリバイ調査やトリック分析などそれなりに謎解きしています。ただ学生というより半分社会人みたいな描写になっているので、「青春推理小説」らしさは弱いかなと思います。そして不条理で後味の悪いエピローグも気になるところです。良くも悪くも過去2作とは異なる個性を発揮しています。

No.568 5点 死の翌朝- ニコラス・ブレイク 2014/11/11 11:55
(ネタバレなしです) ナイジェル・ストレンジウェイズシリーズ最後の作品となった1966年発表の本格派推理小説です。アメリカを舞台にしているのが特色で、派手ではありませんがそれを意識した描写が散見され、最後は何とフットボール(アメリカン・フットボール)の試合中のスタジアムで劇的に物語が締め括られます。しかし動きを感じられたのはその最終章と死体発見の場面ぐらいで、会話主体の地味なプロットです。アクセントのつもりか唐突なベッドシーン(官能描写としては大したことありませんが)があったのには唖然としましたが、物語上の必要性を感じません。犯人の性格分析を推理に織り込むのはこの作者らしいのですが、論理的な説明になっていないところが説得力という点で弱いように思います。

No.567 5点 ドーヴァー7/撲殺- ジョイス・ポーター 2014/10/23 10:46
(ネタバレなしです) 1973年発表のドーヴァーシリーズ第7作の本格派推理小説です。バッキンガム宮殿よりも大きく立派な邸宅という壮大な舞台ですが描写力が物足りなくてプロットの中で活かしきれていません。またドーヴァーがぶつぶつ文句は言うものの、行動で羽目を外すところまでいかないのでシリーズ作品の中では地味な部類でしょう。とはいえ最終章のどたばたではさすがにはじけていますけど。本格派の謎解きとしては後出しじゃんけん気味の手掛かり提示が残念です。

No.566 6点 魔術王事件- 二階堂黎人 2014/10/23 10:01
(ネタバレなしです) 2004年発表の二階堂蘭子シリーズ第7作です。講談社文庫版で上下巻合わせて1100ページという大ボリュームの中に謎とスリルを目一杯詰め込んだような本格派推理小説です。物語の4分の3まではスリラー色が濃く、うんざりするほどの事件と犠牲者(名前も紹介されずに死んでいく者もいます)、そして江戸川乱歩もかくやと言わんばかりのグロテスク描写の数々。謎解き伏線も忍ばせてはあるのですが、圧倒された読者は推理に集中するのも難しいです。グロッキー気味となったところで蘭子による長大な謎解き説明があってようやく本格派の世界に戻れました。納骨堂や西洋館のトリックはトリックメーカーとしての健在ぶりをアピールしています。

No.565 4点 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン 2014/10/22 18:59
(ネタバレなしです) 作者の死後の1999年に発表されており、それまで単行本化されなかった中短編が収めたものです。珍しいのは「間違いの悲劇」で、これは小説ではなくシノプシス(梗概)です(粗筋みたいなものでしょうか)。こんな未完成品まで出版されるのはさすが巨匠ならではですね。とはいえ(創元推理文庫版で)80ページを越えており、しっかり結末まで書かれています。しかも推理が結構丁寧で、もしこれが長編本格派推理小説として完成していれば後期作品の中ではかなりの出来映えになったのではと思われます。エラリーの登場しない中編「動機」は推理はやや粗いですがサスペンスに優れています。短編「結婚記念日」(米版では未収録)とショート・ショート5作は平凡です。残り物の寄せ集め的であることは否定できず、クイーンの熱烈なファン以外は読まなくても問題ないかなと思います。

No.564 6点 わが王国は霊柩車- クレイグ・ライス 2014/10/22 18:51
(ネタバレなしです) 「第四の郵便配達夫」(1948年)以来久しぶりに発表されたマローンシリーズ第10作の本格派推理小説です。ライス最晩年の1957年の作品ですがプロットは結構複雑で、第8章でマローンが「1つの名前の5人の女、3つの声の1人の女、2つの名前の1人の男、2人で1つの名前の1人の男」と述べているようにやたらこんがらがった人間関係に読者は振り回されてしまいます。ライスの筆力だからこそ読ませます。このシリーズとしてはアクションは地味な方ですが、それでも次から次に状況変化があってこちらはふらふらです(笑)。

No.563 4点 地下墓地- ピーター・ラヴゼイ 2014/10/22 18:43
(ネタバレなしです) 1999年発表のピーター・ダイヤモンドシリーズ第6作です。人骨事件、フランケンシュタイン、殺人事件と多彩なネタを揃えていますが、逆に前作「暗い迷宮」(1997年)の記憶喪失、前々作「猟犬クラブ」(1996年)のミステリ愛好会のような核となるテーマがなくて散漫なプロットになってしまったような気もします。それでも最後はうまくまとめあげているのですが、下品なユーモアは余計だったと思います。

No.562 5点 倉敷・博多殺人ライン- 深谷忠記 2014/10/22 10:36
(ネタバレなしです) 1992年発表の壮&美緒シリーズ第24作の本格派推理小説で、アリバイ調査もありますがいわゆるアリバイ崩しではありません。動機が曖昧で犯人を絞り込めない状況が延々と続き捜査がなかなか進展しません。そのため壮の推理が被害者のちょっとした不自然な行動に着目するところから始まる展開に無理がありません。地味なプロットを洗練された文章で退屈しないように工夫していますが、人物描写が淡白なので複雑な動機については読者の共感を得にくくなっている面も否定できません。

No.561 6点 死はあまりにも早く- ヘンリー・ウエイド 2014/10/20 18:11
(ネタバレなしです) 1953年発表のプール警部シリーズ第6作ですが、彼が活躍するのは中盤以降です。非シリーズ作品の「塩沢地の霧」(1933年)と同じく、犯行場面を直接的には描写してはいませんが事件に至るまでの経緯はあらかじめ読者に対してオープンにしてある「半倒叙」スタイルを採っています。犯人当てとしての面白さは放棄した作品ですが、脇役に至るまで人物造型がしっかりしているためか地味な展開ながら退屈することなく読めました。結末の劇的で印象的な締めくくり方もこの作者ならではの巧さが光ります。

No.560 5点 ストップ・プレス- マイケル・イネス 2014/10/20 16:40
(ネタバレなしです) 私はそれほどイネス作品を読んでいないのですが、まじめな作風なのか陽気で楽しい作風なのか迷うことしばしばです。1939年発表のアプルビイシリーズ第4作の本書はイネスのファルス本格派らしさが発揮された最初の作品と評価されているようですがよくわかりませんでした。悪ふざけみたいな事件が次々に起こるのですが、例えばジョン・ディクスン・カーやクレイグ・ライスなら関係者があたふたする場面を面白おかしく描写して盛り上げるのでしょうけど、本書の登場人物はどこかさめたような反応です。笑い話を大真面目な口調で語っているような感じとでもいうのでしょうか。なるほどと感心できる謎解きがあるのですが、微妙に読みにくい作品でした(単に私がユーモアを解さないだけなのかもしれませんけど)。

No.559 5点 密室の死重奏- 藤原宰太郎 2014/10/20 14:00
(ネタバレなしです) 藤原宰太郎(1932年生まれ)はミステリー研究家として知られ、1960年代後半から次々に推理クイズ本やトリック紹介本を発表してミステリーの面白さを読者に伝えてファンを開拓するのに大いに貢献しました。但しトリックはともかく犯人の正体までばらしてしまったことについては「やり過ぎ」との批判も少なくないようですが。そんな彼が自作ミステリーとして初めて発表したのが1986年発表の久我京介シリーズ第1作の本書で、トリック重視の本格派推理小説です。小手先系ながらわかりやすいトリックは印象的ですが、犯人当てとしてはダイイングメッセージ頼りの推理なのが苦しいです。

No.558 5点 京都大文字送り火殺人事件- 草野唯雄 2014/10/20 13:32
(ネタバレなしです) 1985年発表の尾高一幸シリーズ第3作です。爆弾殺人というのが珍しく、ハウダニットに力を注いだプロットです。単独犯か複数犯か両構えで推理しているところは「支笏湖殺人事件」(1980年)にも通じるところがありますが、本書は犯人の正体がやや早く割れているので犯人当てとしてはあまり楽しめませんでした。また小説として謎解きと関係ない日常場面があるのは構わないのですが、唐突なロマンス場面や刑事同士の猥談場面は通俗に走り過ぎのような気がします。

No.557 7点 死を招く料理店- ベルンハルト・ヤウマン 2014/10/20 12:28
(ネタバレなしです) ドイツの作家ベルンハルト・ヤウマン(1957年生まれ)による2002年発表の本書は人間の五感(聴覚、視覚、触覚、嗅覚、味覚)をテーマにし、世界の五都市(ベルリン、メキシコ・シティー、シドニー、東京、ローマ)を舞台にしたミステリー五部作の最終作にあたる本格派推理小説です。設定も半端でなければプロットも半端ではありません。推理小説家である「わたし」の物語と、その作品の探偵である「ブルネッティ」の物語が交互に描かれる構成をとっています(いわゆる作中作です)。しかし一部の登場人物が両方の物語に出現したり、誰が死んだのかさえもどんでん返しがあったりとひねりにひねった展開に読者は最後まで振り回されます。複雑難解ですが魅力も十分にあり、第3章での迷宮を思わせる地下教会での追跡劇と逃亡劇が入り混じった冒険談、第6章での「パスタ食ってみろ」騒動のちょっと狂気じみたユーモア、第8章での推理小説の読者の視点に立ったユニークな犯人当て推理など、読ませどころが一杯あります。そして美味しそうな料理やローマの観光地描写もたっぷり。詰め込み過ぎてごった煮風になっているので万人向けではありませんが結構な力作です。

No.556 6点 陸軍士官学校の死- ルイス・ベイヤード 2014/10/20 12:04
(ネタバレなしです) 米国のルイス・ベイヤードは1999年に非ミステリー作品で作家デビューし、2003年から歴史ミステリーを書くようになりました。2006年発表のミステリー第2作で、舞台を1830年代の米国にしてあのエドガー・アラン・ポオを登場させた本格派推理小説です。この時代のポオはまだ若く(作家でもない)、主人公(語り手のガス・ランダー)の助手という位置づけで物語は進行します。前半は探偵コンビの捜査という、よくある展開ですが後半はロマンスや主従関係の微妙な変化などが加わって面白さが倍増します。終盤ややスリラー系に流れますが最後はちゃんと推理が披露されます(ネタバレ防止のため詳しく書けませんが翻訳者の苦労は並大抵ではなかったでしょう)。上下巻合わせて700ページを超す大作の割には読みやすいですがグロテスクな描写があるのが玉に瑕でしょうか(ほんのちょっとですけど)。

No.555 4点 死者の靴- H・C・ベイリー 2014/10/20 11:54
(ネタバレなしです) 全部で11作の長編で活躍する弁護士ジョシュア・クランクのシリーズ第7作である1942年発表の作品です。本格派推理小説では真相解明を最後に持ってくるためにどうしても名探偵の意見や説明は後回しになりがちなのですが、それにしても本書のクランクは何をしようとしているのか何を考えているのかが全然わからず、最終章に至っても他人の推理に対して「証拠が明確に語っています」とか「結果はおのずと明らかです」とか言うばかりで自分ではほとんど説明しないのでどうにもすっきりしないまま終わってしまいました。ワトソン役のホプリーは彼なりに頑張っているのに、クランクから「わたしは何もしていない。きみだってそうだ」なんて言われて、そりゃあんまりでしょ。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
カーター・ディクスン(24)
ローラ・チャイルズ(24)
横溝正史(23)