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[ 本格/新本格 ]
鯉沼家の悲劇
宮野村子 出版月: 1998年03月 平均: 5.67点 書評数: 3件

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光文社
1998年03月

論創社
2009年03月

No.3 6点 人並由真 2020/08/29 05:05
(ネタバレなし)
 平家の落人の末裔として土地の人々から畏怖されるものの、現在は没落の一途を辿る山村の旧家・鯉沼家。同家の家長格だった長男は五年前に謎の失踪を遂げ、今は彼の姉妹である四人の女性と、庶子である五女の血筋だけが健在だった。四人の嫡子の娘の中で唯一、外に嫁いだ次女の息子である「ぼく」こと27歳の春樹。春樹はその鯉沼家から招待を受けて、数年ぶりに母方の実家に向かう。だがそこで遭遇したのは、恐るべき連続殺人事件であった。

 光文社文庫の「本格推理マガジン」版で読了。文庫版(普通に本文は一段組)で実質160ページ弱という紙幅。短めの長編というよりは長めの中編と呼びたくなる程度のボリュームだが、連続殺人事件の舞台装置とキャラクターシフトに関しては、この上なく魅力的。
 文芸設定も、5年前に行方をくらましたままの伯父、数十年前の春樹の祖父の変死、妾腹の五女の息子で超絶的な美少年、さらには繰り返し怪死の予言を告げるその五女……と外連味に満ちており、国産クラシック・パズラー好きなら途中まで読んでゾクゾクワクワクしない人はいないであろう? と思うほど。
 
 ただまあ、後半になって解決に至る道筋が駆け足になり、真相にはそれなりの意外性やどんでん返しも用意されているのに、それが演出としてまったくもって不完全燃焼なのは本当にもったいない。
 高木彬光の『刺青殺人事件』のように作者が物語全体を増量して改稿していたら、もしかしたらかなりの優秀作になったのでは、と思わせる。実に残念で惜しい作品。

 まあそれでも、この作品のなかに込められた「謎解きミステリとしてのある種の物語性(というかそのスタイリズム)」は21世紀の現代の作家たちのなかにも、形を変えて脈々と受け継がれているはず。その辺は、本当に有難く喜ばしいことだとは思う。

No.2 5点 ボナンザ 2015/05/21 07:26
ミステリマガジンで読了。確かに結末の部分はあまりにも駆け足。
魅力的な設定なことは確か。

No.1 6点 nukkam 2015/03/17 14:16
(ネタバレなしです) 1949年に宮野叢子(みやのむらこ)名義で発表された長編第1作です。旧家の複雑な人間関係と悲劇的な運命が描かれていて、これは宮野の得意パターンらしく、それゆえか本書は代表作と評価されています。一方で死の予言通りに起きる連続怪死事件という魅力的な謎を持つ本格派推理小説でもあるところは「文学派」と言われる宮野としては異色作でもあるようです。この謎解きについては江戸川乱歩や二階堂黎人は中途半端と厳しく評価しています。まあ確かに謎解きプロットとしては解決に物足りなさもあるのですが、同時代の横溝正史や高木彬光の本格派推理小説と比べれば、豊かな物語性で個性を発揮している作品であります。


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宮野村子
2009年03月
宮野村子探偵小説選Ⅰ
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