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nukkamさん
平均点: 5.44点 書評数: 2814件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.654 6点 犬はまだ吠えている- パトリック・クェンティン 2015/05/06 00:45
(ネタバレなしです) リチャード・ウェッブとヒュー・ウィーラーのコンビ時代のパトリック・クェンティンはダルース夫妻シリーズが有名ですが、同時期にジョナサン・スタッグ名義で9作のヒュー・ウェストレイクシリーズも書いています。1936年発表の本書はシリーズ第1作の本格派推理小説です。猟奇的な殺人事件に加え、コブ警視に「この辺りじゃ誰も寝ないのか?」とうんざりさせるほど夜中に怪しげな行動をする容疑者たちが不気味な雰囲気を盛り上げます。残虐描写はそれほどきつくはありませんが仮に映像化したら凄いことになりそうです。動物たちの扱い方も巧妙です。謎解きとしては思い切ったどんでん返しに挑んでいるのが印象的ですが、動機の説明が後出し気味に感じられるのがちょっと惜しいです。

No.653 6点 奇面館の殺人- 綾辻行人 2015/04/19 21:16
(ネタバレなしです) 2012年発表の館シリーズ第9作の本格派推理小説です。講談社文庫版で上下巻合わせて650ページを超す大作です。仮面の人物が登場する本格派推理小説では横溝正史の「犬神家の一族」(1950年)や綾辻行人の「水車館の殺人」(1988年)が有名ですが、本書ではそれが何人も登場して名前の代わりに<〇〇の仮面>と表記されるのです。作者によるあとがきの中で、本格派推理小説に対して「顔が見えない」という批判がよくされていたことへのちょっとした開き直りみたいなコメントがあります。それが執筆理由の全てではないでしょうけどきっとにやにやしながら書いたんだろうなあと思います。殺人が起きただけでなく吹雪の山荘状態で外部とは連絡できない、寝ている間に鍵付きの仮面をかぶせられて外すことができないという異常な状況の割には登場人物の誰一人パニックになることもなく、「妙に」落ち着いた雰囲気なのがちょっと違和感ありますが、初期作品を彷彿させる軽やかなパズラーを書いておきたいという作者の思いは実現できていると思います。怪奇幻想や狂気描写の類は排除されてます。

No.652 5点 puzzle- 恩田陸 2015/04/17 10:47
(ネタバレなしです) 2000年発表の本格派推理小説で祥伝社文庫版で150ページ程度の短い長編(中編に分類している文献もあります)です。無人島の三重死亡事件、死因は餓死、墜落死、感電死、しかも屋上の墜落死体の周辺にはそれより高い場所がなく、椅子に座った感電死体の周囲は黒焦げ等の痕跡がないなど実に魅力的な謎が提示されます。さらには死者の身元もわからず、当然ながら人間関係もわからないという状況が謎を深め、この短いページ数でどう収拾つけるのかと期待しながら読みましたが、説明の中途半端感が拭えませんでした。生きている登場人物が2人しかいないという特殊なプロットなので仕方ない面もあるのですが、「なぜ」の謎解きは推理が納得できる材料がないまま強引に推理しているとしか思えません。トリックも微妙でした。

No.651 5点 鉄鼠の檻- 京極夏彦 2015/04/16 12:01
(ネタバレなしです) 1996年発表の百鬼夜行シリーズ第4作です。相変わらずの大作主義で、私の読んだ講談社文庫版は実に1300ページを超える厚さがありました。後に出版された分冊文庫版が全4巻になったのももっともで、価格は多少高くつきますがこれだけの分量なので読みやすさを優先して分冊版の方がいいかと思います。このシリーズの特色である京極堂による「憑き物落とし」(犯人探しはついでの位置づけになってしまいますが)は本書でも健在と言いたいところですがあまりにも宗教色が強く、その分妖怪色は後退しているところは評価が分かれそうです(巻末解説を宗教学者に書かせているほどです)。非常にユニークではあるけど万人が納得するとは思えない殺人動機など本格派推理小説の謎解きとしては前衛に走り過ぎではと感じました。

No.650 4点 望湖荘の殺人- 折原一 2015/04/16 09:13
(ネタバレなしです) 1994年発表の本書は、私の読んだ光文社文庫版の裏表紙の粗筋紹介では本格派推理小説と紹介されていましたが推理要素がほとんどありません。測量ボーイさんのご講評に私も賛成で、登場人物が思いつきの仮説で行動する場面の連続を描いたサスペンス小説だと思います。「結末が最後までわからない」という紹介は誤りではありませんが、そもそもあの結末は読者が事前に推理で当てられる伏線がありません。襲う側と襲われる側の立場が逆転したりとプロットはスリルに富んでおり、サスペンス小説としては悪くないと思いますが本書を本格派推理小説と期待して読むとがっかりすると思います(私はがっかりしました)。

No.649 6点 災いの黒衣- アン・ペリー 2015/04/11 23:49
(ネタバレなしです) 1991年発表のモンクシリーズ第2作の歴史本格派推理小説で、上流階級の一族を中心にしながら使用人たちの描写にもかなりの力を入れているのがユニークです。推理としては不完全で一部の謎解きを自白に頼ってしまってはいますが、真相は非常に大胆なもので印象に強く残りました。それにしてもモンクは終盤はヘスターに主役の座、そして探偵役までも(?)を明け渡してしまったようなところがあり、今後はどうなるんでしょうね。なお作中でシリーズ前作の「見知らぬ顔」(1990年)の犯人名をネタバラシしているのは残念です。

No.648 5点 幽溟荘の殺人- 岡田鯱彦 2015/04/11 23:39
(ネタバレなしです) 1952年発表の本格派推理小説で1958年には「黒い断崖」というタイトルの改訂版が出版されています。典型的なパズル・ストーリーになっており、「読者への挑戦状」と「手掛かり索引」が挿入されています。どちらも読者に対してフェアプレーな謎解きであることを強調する手法ですが、一つの作品で両方を備えているのは初めて読みました。もっとも改訂版の「黒い断崖」(私は未読です)では「手掛かり索引」が削除されてしまったそうです。この改訂版では探偵役やワトソン役が別人になり、さらには舞台の名前が幽溟荘からミモザ荘に変更されています。ページ数が少なく登場人物も多くなく犯人当てとしては難易度は低め(トリックがなかなか面白いです)、物語性は完全に犠牲にして謎解きのみに集中しており、「薫大将と匂の宮」(1950年)と同じ作者の作品とは思えません。本格派嫌いの読者には全くお勧めできないです。論創社版の「岡田鯱彦探偵小説選Ⅱ」(2014年)に収められているものは仮名づかいを現代風に改めてあって読みやすくなっています。

No.647 6点 龍神池の小さな死体- 梶龍雄 2015/04/11 23:35
(ネタバレなしです) 1979年発表の本格派推理小説です(ケイブンシャ文庫版では長編第4作と紹介されていますが、「透明な季節」(1977年)、「海を見ないで陸を見よう」(1978年)、「大臣の殺人」(1978年)、「天才は善人を殺す」(1978年)に次ぐ長編第5作です)。全部で5章から構成されていますが、過去の事件を調べる最初の2章はあまりにも手探り感が強くてテンポが遅く少々退屈です。しかし現代で事件が発生し、名探偵気取りのヒロインが活躍する第3章から一気に謎解きが盛り上がり、第4章の最後では「推理小説でいえばここで犯人を推理するデータは全部出つくしたというところ」と宣言されます。そして第5章、ネタバレにならないように紹介するのは難しいのですが、この章は「解決」と「もうひとつの解決」で構成されています。前者だけで物語を終わらせることも可能だったでしょう。ところが後者によってまるで世界が歪んでしまったかのような衝撃が読者に提供されます。例えば(結末は全く違いますが)ジョン・ディクスン・カーの「火刑法廷」(1937年)のようなひっくり返し方です。但しカーが最初の解決を否定するようなところがあったのに対して本書は「もうひとつの解決」が「解決」を否定しているわけではありませんし、カーよりも手が込んでいます。

No.646 5点 ハーバード同窓会殺人事件- ティモシー・フラー 2015/04/11 23:27
(ネタバレなしです) 全部で5作書かれたジュピター・ジョーンズシリーズの1941年発表の第3作でシリーズ代表作と評価の高い本格派推理小説ですが個人的には評価の分かれる問題作かと思います。真相は(似た前例はありますが)あまりに大胆過ぎて万人受けは難しいでしょう(この大胆さのゆえに高く評価する意見があるのも何となく理解はできますけど)。この作者の持ち味である軽妙な文体で簡潔に説明しているのが本書の場合はネックとなっており、こういう真相ならもっと丁寧に説明しないと論創社版の巻末解説にある通り、読者にとって「不条理感が残る」ことになってしまうでしょう。

No.645 5点 ブルーベリー・マフィンは復讐する- ジョアン・フルーク 2015/04/11 23:23
(ネタバレなしです) 2002年に発表された本書は序盤から思い切りストレートに事件関係者にアリバイを尋ねまわるハンナの探偵ぶりが何ともおかしいです。シリーズ3作目ともなるとさすがに(マイク以外は)みんなも彼女のアマチュア探偵としての存在を認めるようになったのか意外と素直に取り調べ(?)に応じています(笑)。ほとんど運任せで解決されて論理的な謎解きはないに等しいけどいかにもコージー派らしく気楽に読めるミステリーになっています。

No.644 3点 インパーフェクト・スパイ- アマンダ・クロス 2015/04/11 23:18
(ネタバレなしです) 1995年発表のケイト・ファンスラーシリーズ第11作です。ジョン・ル・カレの「パーフェクト・スパイ」(1986年)を意識したタイトルが付いていますが、あいにく私はカレ作品を読んでいないのでどれほどの影響を受けているのか見当もつかず(あちこちでカレ作品からの引用があるのはわかりますが)、国際的陰謀があるわけでも産業スパイが登場するわけでもありません。フェミニズム問題ばかりが目立っており、終盤のケイトのせりふにあるように、探偵が「何かを解決する」わけではなく、これまでに私が読んだクロス作品の中でも最もミステリーらしくありません。デビュー作でユーモア本格派だった「精神分析殺人事件」(1964年)と本書を比べるとあまりの作風の違いに驚きます。クロス(1926-2003)は本書以降にシリーズ作品を3作発表したところで自殺してしまうのですが、本当に書きたかったのは何だったのだろうと考えさせられます。

No.643 5点 暗闇の鬼ごっこ- ベイナード・ケンドリック 2015/04/11 23:15
(ネタバレなしです) 米国のベイナード・ケンドリック(1894-1977)は1945年にアメリカ探偵作家クラブ(MWA)の創立に携わり初代会長に就任した大物で、ミステリー作家としては12作の長編といくつかの短編で活躍する盲人探偵ダンカン・マクレーンシリーズで知られています。本書は1943年発表のシリーズ第4作の本格派推理小説です。連続転落死の謎が魅力的ですが現場状況やトリックの説明描写が粗く、マクレーンの推理が鋭いというよりも警察の捜査がいい加減過ぎではの疑問が拭えません(あのトリックは痕跡をかなり残すでしょう)。終盤でのマクレーンと犯人の対決場面が非常にサスペンスに富んでいます。謎解きとは直接関係ありませんが最後の一行にはびっくりしました。

No.642 7点 謀殺の火- S・H・コーティア 2015/04/03 18:50
(ネタバレなしです) 1967年に書かれた本書はシリーズ探偵の登場しない本格派推理小説です。論創社版の「緻密な推理」という評価には首をかしげざるを得ません。ある登場人物が述べるように、「不正確で、限られたことしかわからなかった」推理であり、仮説の域を脱しきれていないように思えます。とはいっても非常に大胆で魅力的な仮説で、決して本書は凡作ではないと思います。序盤は事件の紹介が細切れになり過ぎてわかりにくかったり、登場人物の大半が生身の人間として登場しないので(その言動は手紙や新聞記事の中で伝えられるのみ)その性格が把握しづらいなど欠点も多いのですが、読むだけの価値は十分にあると思います。

No.641 5点 殺人混成曲- マリオン・マナリング 2015/04/03 18:36
(ネタバレなすです) 米国の女性作家マリオン・マナリングについてはあまり詳細な経歴は知られていないようですし、書かれたミステリー作品数も多くはないようです。1954年発表の本書は彼女のミステリー第2作で、クリスティーのエルキュール・ポアロ、セイヤーズのピーター・ウィムジー卿、マイケル・イネスのアプルビイ警部、E・S・ガードナーのメイスン弁護士、レックス・スタウトのネロ・ウルフ、ナイオ・マーシュのアレン警部、エラリー・クイーンのエラリー・クイーン、ミッキー・スピレーンのマイク・ハマー(唯一のハードボイルド探偵代表)、パトリシア・ウェントワースのミス・シルヴァーという著名な名探偵を(但し作中では名前を微妙に変えてます)登場させたパスティシュ小説にして本格派推理小説です(本書の英語原題はずばり「Murder in Pastiche」)。それほどページ数の多い作品ではなく、しかも9人の探偵たちのそれぞれの捜査を描いた第2章だけで全体の8割ぐらいを占めています。逆に真相説明は非常にあっさりしているし、動機の説得力に欠けているのが大きな弱点です。結末にはあまり期待せず、各々の探偵活動がどれだけ原作を上手くパロっているかを楽しみながら読むべきだと思います。ちなみにハヤカワポケットブック版は都筑道夫を含めた10人の訳者がそれぞれの探偵パートを分担して翻訳している企画になっており、それが効果的だったかは何とも判断できませんがこういうこだわりは大いに拍手したいです。

No.640 7点 ママは眠りを殺す- ジェームズ・ヤッフェ 2015/04/03 18:27
(ネタバレなしです)  1991年発表のママシリーズ第3作は2人の語り手がいるのが新趣向です。血の繋がりがないので仕方ないのかもしれませんが片方がママのことを「老婦人」と呼ぶのが最初は違和感ありました(といってもママと呼んだらやっぱり変ですが)。相変わらずヤッフェは期待を裏切らず、本書も本格派推理小説のお手本のような謎解き小説になっていて、次々に明かされる手掛かりと論理的な推理が楽しめました。

No.639 5点 ハーレー街の死- ジョン・ロード 2015/03/29 21:14
(ネタバレなしです) 1946年発表のプリーストリー博士シリーズ第42作の本格派推理小説です。殺人か、自殺か、事故か、それとも第4の可能性があるのかというのがメインの謎です。この真相は凄く意外とまでは思いませんがまずまず小器用にはまとめていると思います。ただ一般的な犯人探しのプロットと違っているためか、延々と続く地道な捜査が中だるみ気味に感じられてしまいます。論創社版の巻末解説にあるように、アイデア勝負の作品だしアイデア自体はまあまあとは思いますが結末に至るまでが結構しんどい作品でした。

No.638 5点 ペンローズ失踪事件- R・オースティン・フリーマン 2015/03/29 21:06
(ネタバレなしです)  1936年発表のソーンダイク博士シリーズ第17作の本格派推理小説です。真相が早い段階で見当がついてしまうことも多いフリーマンですが、本書はちょっとしたどんでん返しがあって読者の意表を突くことを意識したところがあります。しかし短気でせっかちな私には事件性がはっきりしない失踪事件は苦手なテーマで、F・W・クロフツの「ホッグズ・バックの怪事件」(1933年)と同じく、後半にならないと局面が大きく変わらない展開は辛かったです。あとこれは作者の問題ではないのですが、他の作品でもよく顔を出しているミラー警視の口調があまりにも乱暴な長崎出版版の翻訳には違和感を覚えました。

No.637 6点 恐怖は同じ- カーター・ディクスン 2015/03/29 20:59
(ネタバレなしです) カーター・ディクスン名義での最後の作品となったのはヘンリー・メリヴェール卿シリーズではなく、1956年発表の歴史本格派推理小説である本書です。現代人が過去にタイムスリップするというのはジョン・ディクスン・カー名義の「ビロードの悪魔」(1951年)と同じ設定ですが、本書では現代の謎と過去の謎が提示されているのが特徴です。とはいえ謎解き要素はやや希薄で、特に現代の謎は推理も不十分なままに何となく解決されてしまったようなところがあります(過去の謎解きはまあまあだと思います)。しかし冒険小説としては一級品で、序盤から複雑なロマンス、皇族との対面、相次ぐ決闘とハラハラドキドキの場面が連続し、最後までテンションは落ちません。

No.636 5点 マリオネット園「あかずの扉」研究会首吊塔へ- 霧舎巧 2015/03/29 20:52
(ネタバレなしです)  2001年発表の《あかずの扉》研究会シリーズ第4作となる本格派推理小説です。相変わらず「マンガ的」な軽さと生真面目に考え貫かれた謎解きの組み合わせが不思議な魅力を醸し出していますが、国内ミステリーをある程度読んでいないとわかりにくい暗号など、やや読み手を選ぶようなところがあるのはちょっと気になりました。

No.635 4点 だれがコマドリを殺したのか?- イーデン・フィルポッツ 2015/03/29 20:36
(ネタバレなしです) ハリントン・ヘキスト名義で1924年に発表された本格派推理小説です。タイトルは王道的な犯人当て本格派推理小説のような雰囲気がありますが、前半部は恋愛と恋愛成就後の人間関係がゆっくりとした展開で描かれていてミステリーらしさがなく、ここが退屈に感じる読者もいるかもしれません。手掛りからの推理というよりは突如思いついた仮説から強引に解決へ持って行くので犯人当てとしてはあまり楽しめません。これ見よがしの殺意とか狂気の描写とは異なるものの、じっくりと醸成されたかのような犯人像の描写には作者の個性を感じます。

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nukkamさん
ひとこと
ミステリーを読むようになったのは1970年代後半から。読むのはほとんど本格派一筋で、アガサ・クリスティーとジョン・ディクスン・カーは今でも別格の存在です。
好きな作家
アガサ・クリスティー、ジョン・ディクスン・カー、E・S・ガードナー
採点傾向
平均点: 5.44点   採点数: 2814件
採点の多い作家(TOP10)
E・S・ガードナー(80)
アガサ・クリスティー(57)
ジョン・ディクスン・カー(44)
エラリイ・クイーン(42)
F・W・クロフツ(31)
A・A・フェア(28)
レックス・スタウト(26)
ローラ・チャイルズ(24)
カーター・ディクスン(24)
横溝正史(23)