皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.714 | 8点 | 死との約束- アガサ・クリスティー | 2015/08/11 08:07 |
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(ネタバレなしです) 1938年発表エルキュール・ポアロシリーズ第16作の本書は、前年の「ナイルに死す」と同じく中東を舞台にした本格派推理小説です。「ナイルに死す」に比べるとプロットが地味で損していますが、内容的には勝るとも劣らぬ傑作だと思います。殺人は中盤まで発生しませんが、ボイントン家を中心にした人間ドラマが緊張感を生み出して読み手を退屈させません。もちろん謎づくりの方も手抜きなし、今回は注射器が重要な手掛かりのようでもありレッド・ヘリング(偽の手掛かり)のようでもあり、読者を翻弄します。ちょっとした小道具を使って謎を膨らませる手腕はさすが巨匠ならではです。そして白眉なのがポアロによる、関係者を一堂に集めての事件解明の場面です。めくるめくようなどんでん返しの連続には本格派ファンならしびれること請け合いです。 |
No.713 | 5点 | ピーチコブラーは嘘をつく- ジョアン・フルーク | 2015/08/09 01:00 |
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(ネタバレなしです) 2005年発表のハンナ・スウェンセンシリーズ第7作です。謎解き自体は独立した事件を扱っていますが、物語的には前作「シュガー・クッキーが凍えている」(2004年)の流れを受け継いでいるところがあります。ハンナだけでなく周りの人間も積極的にアマチュア探偵ぶりを発揮しており、しかも互いに「あんたも容疑者ね」なんて、ほとんどゲーム感覚のノリです。ハンナのプライヴェート面でも次作が待ち遠しくなるような演出がしてあり、シリーズファンには楽しめるでしょう。 |
No.712 | 6点 | 歌う砂―グラント警部最後の事件- ジョセフィン・テイ | 2015/08/09 00:45 |
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(ネタバレなしです) ジョセフィン・テイ(1896-1952)の死の年(1952年)に出版された遺作(グラント警部シリーズ第5作。脇役扱いの「フランチャイズ事件」(1948年)はカウントしていません)です。前作「時の娘」(1951年)ではけがで入院していたグラント警部、今回は病気で休養しています。P・D・ジェイムズの「黒い塔」(1975年)を先取りしたような設定ですがグラントの病気が決してお飾りではなく、苦しみから快方に向かう姿がよく描かれています。冒険ロマン小説のネタを本格派に仕上げたような内容で、謎解きとしては論理的に弱いですが魅力的な詩の謎にスコットランドの風景描写や多彩な人物描写を巧妙に絡めた文学的香りの漂うミステリーとして十分に楽しめます。それにしてもグラントと女優マータ・ハランドの仲が結局進展しないままシリーズ終了になってしまったのは心残りですね。 |
No.711 | 6点 | 絡新婦の理- 京極夏彦 | 2015/08/09 00:08 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の百鬼夜行シリーズ第5作で、私の読んだ講談社文庫版は1350ページを超す圧倒的分量でした。とてもポケットに収まるようなサイズではなく、全4巻の分冊文庫版の方をお勧めします。講談社文庫版の巻末解説では良くも悪くも「壊れた」本格派推理小説の清涼院流水の「コズミック」(1996年)や山田正紀の「ミステリ・オペラ」(2001年)と比較して本書を「壊れていない」と評価していますが個人的には本書も結構「壊れて」いると思います。登場人物の一人が何が解らないのかが解らないと苦悩するほどに複雑なプロット、大勢の登場人物(ぜひ登場人物リストを作ることを勧めます)、宗教(何と西洋宗教)に関する膨大な知識、フェミニズム等々、ページ分量の多さも凄いが中身も濃厚です。何よりも中禅寺(京極堂)と悪人たち(自称悪魔までいます)の心理対決場面の壮大なことといったら!これは笠井潔の矢吹駆シリーズの思想対決に匹敵します。読んでて疲れてしまいましたが。 |
No.710 | 6点 | シメオンの花嫁- アリソン・テイラー | 2015/08/08 13:00 |
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(ネタバレなしです) 英国の女性作家アリソン・テイラー(1944年生まれ)が1995年に発表した本格派推理小説のデビュー作です。分量も多く、テンポが遅めの地味な物語ですがP・D・ジェイムズほどには重苦しくなくて意外と退屈はしなかったです。だけど読んでて結構イライラしましたよ。やたらと人間が対立しているんです。上司と部下が、同僚同士が、夫と妻が、警察と事件関係者が些細なことですぐに口論しています。読んでいるこちらにまでその雰囲気が伝染して、誰かに言いがかりをつけたくなってしまうような、ちょっと危険な作品です(笑)。犯人はちゃんと明らかにされますがちょっとゴシック小説風な締めくくりになっているのは読者の評価が分かれるかもしれません。 |
No.709 | 7点 | ドラゴンの歯- エラリイ・クイーン | 2015/08/08 12:42 |
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(ネタバレなしです) 1939年発表のエラリー・クイーンシリーズ第14作の本書は前作の「ハートの4」(1938年)に続く作品ですが、舞台はハリウッドから懐かしのニューヨークへと戻っています。ですが内容的にはハリウッドものの延長線上にあるといってもおかしくない、波乱万丈の物語です。女の対決あり、危機一髪からの脱出劇あり、甘ったるいロマンスありと映画向きのシーンが満載です(実際に本書は映画化されています。但しストーリーは大幅改訂されたそうですが)。評論家にはどちらかといえば不評の作品ですが個人的には十分楽しめた本格派推理小説でした。完璧と思われた推理がたった一人の証人によって覆されてしまう第19章が特に印象的です。ところで本書のタイトルの意味は何なんでしょう?ギリシャ神話に「ドラゴンの歯を地面に撒いたところ、武装兵士が生まれてきた」というエピソードがあったように記憶していますが、それと関係あるのでしょうか?私にとっては未だ解けない謎です。 |
No.708 | 6点 | 赤い拇指紋- R・オースティン・フリーマン | 2015/08/08 12:31 |
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(ネタバレなしです) 法医学者探偵ジョン・ソーンダイク博士の生みの親オースチン・フリーマン (1862-1943)の1907年発表のデビュー作です。第11章や13章ではいかにも科学者探偵らしい活動を読むことができます。科学的といっても決して学術的になり過ぎず、一般読者にもわかりやすい説明は高く評価できます。扱われている犯罪が長編ネタとしてはちょっと苦しく、一応犯人当て本格派推理小説ではありますが犯人もトリックも大方の読者は早い段階で見当がつくでしょう(ミスリーディングらしいミスリーディングがなく、容疑者数も少ないです)。ロマンスも描かれており、全く無用だと批判した評論家もいたような記憶がありますが個人的には物語のちょっとしたアクセントとしてあってもいいとは思います。こちらも現代小説のロマンスに比べるとまどろっこしいぐらい奥手なロマンスですが(笑)。私の6点評価は書かれた時代を考慮してちょっとおまけの採点です。ところで決着の付け方に微妙にすっきりしないところがあったのですが、何と後年に本書の後日談的な作品が書かれたそうです。ぜひ翻訳紹介してほしいものです。 |
No.707 | 6点 | 不肖の息子- ロバート・バーナード | 2015/08/08 12:21 |
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(ネタバレなしです) 英国のロバート・バーナード(1936-2013)は本格派推理小説の書き手としてだけでなく評論家としても名高く、「欺しの天才」(1980年)はアガサ・クリスティー評論としては最高であるとの評価を得ています。日本であまり積極的に作品が紹介されていないのはシリーズ探偵に重きを置いていないのがネックになっているからだと思います。1978年発表の本書はメレディス主任警部シリーズ第1作ですが、次のシリーズ第2作は実に10年後の「芝居がかった死」(1988年)まで書かれませんでした。彼の作風はクリスティー風の伝統的な犯人当て本格派推理小説のスタイルを踏まえながらも、登場人物がグロテスクに描写され(作者自身がそうコメントしています)、結末も型通りには終わらないケースがあると言われていますが、初期作品である本書を読む限りではそれほどキワモノ的な作品とは思えません。登場人物も「ちょっと風変わりな」といった程度です。すっきりした文体とテンポのいい物語の流れがとても読みやすく、コンパクトな作品ながらちゃんとレッド・ヘリング(読者を騙す仕掛け)も用意してあります。初期作品にして入門編としてお勧めの良作です。 |
No.706 | 6点 | 鉄の枷- ミネット・ウォルターズ | 2015/08/08 12:15 |
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(ネタバレなしです) 1994年に発表されたミステリー第3作の本書でMWA(米国推理作家協会)のゴールド・ダガー賞を獲得し、これでウォルターズはわずか3作目にして英米両国のミステリー最高峰を制覇したことになるわけです。なかなか魅力的な謎をはらんだ事件で物語の幕が上がるし、第16章や第18章での推理場面などは間違いなく本格派推理小説ならではの展開ですが、登場人物たちの人物像が物語の進行とともに変化したり新たに気づかされたりする作者の小説テクニックが印象的でした。そういう点では謎解きよりも物語性重視の作品と言えるかも知れません。雰囲気は重苦しいし物語のテンポもゆったり目ですが、それほど読みづらさを感じないのも作者の実力の高さの証しだと思います。 |
No.705 | 5点 | 寝室には窓がある- A・A・フェア | 2015/08/08 12:10 |
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(ネタバレなしです) 1949年発表のバーサ・クール&ドナルド・ラムシリーズ第12作です。物語の開始時点で既にラムが探偵活動の最中という、起承転結を意図的に崩した導入となっているため何が何だかよくわからないまま読む羽目になりました。真相も非常に入り組んでおり、軽妙な文体に騙されて(?)気軽に読もうとすると私のように混乱が収まりませんので、ある程度の集中力をもって読んだ方がいいと思います。 |
No.704 | 4点 | ブラジル蝶の謎- 有栖川有栖 | 2015/07/26 21:32 |
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(ネタバレなしです) 1996年発表の火村英生シリーズ第2短編集です。 講談社文庫版で「国名シリーズ第3弾」と宣伝されていますが表題作以外の5作はタイトルに国名を使っておらず、国名シリーズを名乗るなら全作品を国名を使ったタイトルにするぐらいでないと駄目ではないかと「ロシア紅茶の謎」(1994年)と同じ不満を抱きました。収容された作品は1995年から1996年の発表ですが唯一例外が「人喰いの滝」で、これは第一長編「46番目の密室」(1992年)に次いで書かれたシリーズ最初の短編だそうです。ページが1番多く現場見取り図が2枚も用意された力作です。ワトソン役の有栖が意外と活躍しているのが異色です。とはいえ他の作品はやや軽量級の謎解きで、まあ短編だからそれもありではありますがmakomakoさんがご指摘の通り一発ネタに頼っているのでそれが説得力に欠けたりすると後には何も残らない結果となります。「鍵」などは悪しき典型となってしまいました。 |
No.703 | 5点 | 上を見るな- 島田一男 | 2015/07/26 21:20 |
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(ネタバレなしです) 島田一男のシリーズ作品で主人公の個人名が付いているのは意外と少なく、その中では8長編と13短編で活躍する南郷弁護士シリーズが有名です(弁護士作品といっても法廷ミステリーではありません)。このシリーズは半分が本格派推理小説、半分が軽めのハードボイルド小説という評価のようですが、1955年発表のシリーズ第1作である本書は前者に分類されています。戦中戦後の混乱による二人妻、二人夫の悲劇の話など時代を感じさせる描写がそこここにありますが、文章は都会風に洗練されていてそれほど古めかしくはなくてまずまず読み易いです。結構アイデア豊富ではありますが、緻密で重厚な「古墳殺人事件」(1948年)や「錦絵殺人事件」(1949年)と比べると推理やトリックの粗さが目立ってしまうのは読み易さと引き換えの弱点と言えるかもしれません。物語の締めくくりが異様なまでの迫力に満ちていたのには驚かされました。 |
No.702 | 10点 | 血ぬられた愛情- エリザベス・ジョージ | 2015/07/26 21:08 |
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(ネタバレなしです) 作者自身もお気に入りと評価している1989年発表のトーマス・リンリー警部シリーズ第2作の本格派推理小説です。謎解きもしっかりしていますが、そこにレギュラーキャラクター同士によるサイドストーリーが劇的かつ密接に絡み合い、圧倒的ともいえる物語の流れを形成しています。重厚な作品ながら衝撃的な事情聴取から息を呑むような犯人追跡劇に至るまでページをめくる手が止まりませんでした。私にとっても一番お気に入りのエリザベス・ジョージ作品です。 |
No.701 | 6点 | 夢の棘- ピーター・ロビンスン | 2015/07/26 21:01 |
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(ネタバレなしです) 1989年発表のアラン・バンクスシリーズ第4作の本格派推理小説で、前作の「必然の結末」(1989年)に続いて本書でも捜査する側(バンクス)と捜査される側(事件関係者の一人)の両方の視点から交互に事件を描くプロットになっています。被害者の身元を特定するための捜査が長く続き、なかなか犯人探しに移行しません。極めてスローな展開で全体的にちょっと地味過ぎるように感じましたが、結末は結構「おおっ、そう締めくくるか!」でした。 |
No.700 | 4点 | ダルジールの死- レジナルド・ヒル | 2015/07/26 20:47 |
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(ネタバレなしです) 衝撃的なタイトルの2007年発表のダルジールシリーズ第20作です。本当にダルジールは死んだのか?、という疑問はここでネタバレしては興ざめになると思うので答えは書きません。これまでにも名探偵の死については色々な作家が取り組み、「本当に死んだ」「助かった」「死んだふりをしていた」「別人の死が名探偵の死と誤解された」など色々な工夫を見せていますが本書に関しては感心できませんでした。プロットはテロ組織との捜査を中心とした警察小説のそれで、本格派推理小説の謎解き要素が皆無です。ダルジールを取り巻くシリーズキャラクターがどういう反応を見せるのかという点では楽しめるところもありますが、それはシリーズファン読者に限られた楽しみでしょうし...。 |
No.699 | 7点 | 列車に御用心- エドマンド・クリスピン | 2015/07/26 03:10 |
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(ネタバレなしです) ジャーヴァス・フェン教授が活躍する14作品と非シリーズの2作品を収めて1953年に発表された第一短編集です。 作者による「はじめに」で、「短編小説の魅力は作品が醸しだす雰囲気を堪能すること、もしくは未知なる物語との刹那の出会いにある」と述べ、この短編集に収められた16作品の内15作品が後者であると紹介しています。専門知識を求める「金の純度」などは少々つらいですが、全般的には気の利いた謎解き手掛かりによる推理の本格派推理小説として楽しめます。個人的なお気に入りは「ペンキ缶」「喪には黒」「窓の名前」ですが、唯一の「作品が醸しだす雰囲気を堪能する」作品である「デッドロック」も現場見取り図付きの謎解きに加えて青春小説としても楽しめる逸品です。kanamoriさんの推奨と全く同じになって感想として芸がありませんが、いい作品はやっぱりいいのです。 |
No.698 | 10点 | ナイン・テイラーズ- ドロシー・L・セイヤーズ | 2015/07/26 02:46 |
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(ネタバレなしです) 黄金時代と呼ばれる1930年代のミステリーの中でも最高傑作クラスと絶賛されることもある、1934年発表のピーター・ウィムジー卿シリーズ第9作の本格派推理小説です。謎解き小説として良く出来ているかと言われたらむしろ欠点も多い作品だと思います。偶然の要素が重なっているのはやはりマイナスポイントだし、真相もある意味で腰砕けです。しかしそれが全く不満に感じられません。それがセイヤーズ作品がしばしば評されるところの、「ミステリーと文学の融合」によるものなのかは凡人読者に過ぎない私には何とも判断できませんが、序盤の鐘突きシーンと余りにも劇的な結末は比類なき迫力に満ち溢れており、その筆力に圧倒されます。中間部は対照的に何とものんびりした展開で、ここはじれったく感じるかもしれませんが多少の不満は最後で吹っ飛びます。私が読んだのは創元推理文庫版ですが鐘の音の描写のパンチ力が凄まじく、名訳だと思います。 |
No.697 | 5点 | フローリストは探偵中- ジャニス・ハリソン | 2015/07/26 02:23 |
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(ネタバレなしです) 米国の女性作家ジャニス・ハリソンが1999年発表のガーデニング・ミステリー(米国本国でもこう呼ばれています)第1作です。英語原題は「Roots of Murder」で、集英社文庫版の邦題は脳天気なユーモアミステリーみたいでちょっとひどいなと思います。読みやすいコージー派の本格派推理小説ではあるのですが決してふさけた内容ではありません。生花業や葬儀業やアーミッシュやダイエットのことなど、知る人ぞ知る世界が盛り沢山に描かれていますが、それでいて予備知識がなくても理解しやすいストーリーづくりなのはありがたいです。謎解きとしては主人公のブレッタ・ソロモンの推理が根拠薄弱で、犯人の自白に助けられている部分が多いのは弱点ですが、サスペンスも効いておりそれなりに楽しめた作品でした。 |
No.696 | 8点 | ニコラス・クインの静かな世界- コリン・デクスター | 2015/07/26 02:06 |
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(ネタバレなしです) 1977年に発表されたモース主任警部シリーズ第3作で、プロローグとエピローグの間に32章をはさんだ構成となっています。第24章でモースは犯人は〇〇だと思い込んで逮捕し、容疑者取り調べの中で自分の推理を基に事件を再構成しますが反対証拠のために釈放を余儀なくされ、その後も推理が二転三転していきます。容疑が転々としていく本格派推理小説は珍しくありませんが、本書が優れているのはボツになった推理もそれなりによく考え抜かれていることで、特に最後から2番目にモースが示した解決は非常に強力に構築されています。最後の(そして本当の)解決が直前の解決を否定するだけの説得力が足りないようにさえ感じられたほどです。 |
No.695 | 4点 | 編集室の床に落ちた顔- キャメロン・マケイブ | 2015/07/25 23:12 |
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(ネタバレなしです) キャメロン・マケイブ(1915-1995)は元々はドイツ人ですがナチスの台頭をきっかけに英国、カナダ、フランス、イタリアと国外を転々として最後はオ-ストリアで生涯を閉じたという数奇な運命を辿った人です。作家の他にも映画製作者、レーサー、ジャズ・ミュージシャン、ジャーナリスト、性科学者と色々な顔も持ち合わせているようです。英国時代の1937年に発表された本書はとてつもない問題作という世評通りの本格派推理小説です。作風は全然違うんですが私はスタンリイ・エリンの「鏡よ、鏡」(1972年)を思い出しました。これほどまでに何が本当なんだか混乱させられる作品も珍しいです。結末にも唖然とさせられますし、確かに独創的ではありますが好きか嫌いかと問われればどちらかといえば嫌い(笑)。一度は我慢するけど二度はもう勘弁と言いたいです(あっ、これってジュリアン・シモンズの評価と同じになってしまいましたね)。国書刊行会版の巻末解説(解説者は小林晋)は一読の価値ありです。 |