皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
nukkamさん |
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平均点: 5.44点 | 書評数: 2814件 |
No.794 | 6点 | ジョージ・サンダース殺人事件- クレイグ・ライス | 2015/09/02 09:00 |
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(ネタバレなしです) 実在した米国の人気俳優ジョージ・サンダース(1906-1972)の名義で1944年に発表された本格派推理小説で、サンダース自身が主人公で探偵役です。英語原題は「Crime on My hands」で原書房版の日本語タイトルは個人的には感心しません(別にサンダースが殺されるわけではない)。それ以上に遺憾に思うのは代作者であるクレイグ・ライスの名前ばかりハイライトされていますが、実はSF作家のクリーヴ・カートミル(1908-1964)との共同執筆なのです。しかしそのことは巻末解説で簡潔に触れているだけで、カートミルにとってちょっと不公平な扱い方だと思います。まあ内容的には、例えばサンダースが犯人をおびき寄せようとすると、次から次へと容疑者が集まってきて罠が台無しになってしまうなどライスらしい作風になっており、共作といってもライス主導だったであろうとは思いますが。俳優として探偵役を演じるのはもううんざりと言いながら事件に巻き込まれて真剣に探偵役を務めるサンダースの描写が面白く、起伏に富んだプロットで読ませる作品です。 |
No.793 | 7点 | 法の悲劇- シリル・ヘアー | 2015/08/29 10:48 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表の長編第4作で、ヘアーの最高傑作と評価されるにふさわしい本格派推理小説です。本書ではシリーズ探偵のマレット警部に加えてもう一人シリーズ重要人物が登場します(ばればれかもしれませんが本書では容疑者扱いなので一応名前は伏せます)。しかし両名とも意外と出番が少なく、バーバー判事とその周辺人物による人間ドラマが物語の中心となるプロットです。後半まで小さな事件しか発生しない、とてもゆっくりした展開ですがこのドラマの読み応えが素晴らしくて退屈しません。生身の人間としてはほとんど登場しないのにしっかり存在感を示す人物さえいるのがすごい小説テクニックです。そして得意とする法律知識と謎解きの組み合わせに加えてタイトル通りの「悲劇」色の絡ませ方がまた絶妙。専門知識を使った推理はあまり好きではない私ですが本書は別格の存在です。 |
No.792 | 6点 | アリバイの唄- 笹沢左保 | 2015/08/29 08:54 |
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(ネタバレなしです) 1990年発表の夜明日出夫(よあけひでお)シリーズ第1作の本格派推理小説です。容疑者は2人しかおらず、犯人当てに挑戦する謎解きではなくアリバイ崩しのプロットになっています。発表した時代は新本格派推理小説の全盛期時代で、1960年代に自身が新本格派を標榜していた笹沢としては先輩作家の意地を見せたかったのかもしれません。講談社文庫版では「前代未聞の大トリック」と宣伝していますがまさにトリック一発に全てを賭けたような作品です。感心するよりも呆れる読者の方が多いかもしれませんが、よくもここまでと唸りたくなるような手の込んだトリックが使われています。 |
No.791 | 6点 | 白薔薇と鎖- ポール・ドハティ | 2015/08/29 00:08 |
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(ネタバレなしです) ポール・ドハティーがマイクル・クラインズ名義で発表している、16世紀の英国を舞台にベンジャミン・ドーンビーとロジャー・シャーロットの主従コンビを探偵役にしたシリーズの第1作(1991年出版)です。ジョン・ディクスン・カーの歴史本格派を彷彿させるような冒険小説的要素が濃厚な作品ですがその語り口が独特で、主人公のロジャー・シャーロットをはじめ登場人物の俗人ぶりがこれでもかと言わんばかりに書き込まれています。上品さや洗練さとはほど遠い描写ですので好き嫌いは分かれるでしょう。謎解きとしては歴史本格派ならではのトリックや手掛かりが使われています。 |
No.790 | 5点 | そそっかしい小猫- E・S・ガードナー | 2015/08/29 00:00 |
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(ネタバレなしです) 1942年発表のペリイ・メイスンシリーズ第21作です。失踪事件に小猫の事件に殺人事件とばらばらな印象の出来事が続き、しまいには〇〇(殺人事件ではない)の容疑で意外な被告が告発されるなど予想もしない展開に振り回されますが最後はもつれあった事件がきれいに収束される解決につながっています。真相には不満な点もありますが謎解きの伏線も巧く張ってあります。あと恒例行事のハミルトン・バーガー検事とメイスン弁護士の論戦(皮肉合戦?)がいつも以上に楽しく読めました。 |
No.789 | 7点 | 遺骨- アーロン・エルキンズ | 2015/08/28 23:43 |
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(ネタバレなしです) ギデオン・オリヴァー教授シリーズは骨の鑑定に関わる知識が披露されるのが特徴ですが、1991年発表のシリーズ第7作である本書では容疑者たちにも学者が揃っていて、骨の鑑定結果を巡っての専門家同士のやり取りがファンにはたまらない趣向になっています。もちろんジュリーやジョン・ロウといった素人代表が絶妙のタイミングで「わかるように説明しろ」と注文しているので専門知識のない読者でも十分に理解可能です。まるで本格派黄金時代の作品で使われそうな大胆なトリックが使われているのも本書の特色です。 |
No.788 | 5点 | ニューゲイトの花嫁- ジョン・ディクスン・カー | 2015/08/28 23:38 |
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(ネタバレなしです) カーが歴史ロマンへのあこがれを抱いていたことは(カーター・ディクスン名義の)「赤後家の殺人」(1935年)などからも明らかですが、1950年代になると積極的に歴史ミステリーを書くようになりました。1950年発表の本書はその皮切りとなった作品で、本格派推理小説と冒険小説をミックスしたような作風になっています。活劇シーンを挿入してにぎやかに盛り上げていますがその分謎解きストーリーが寸断気味になるのは功罪半々といったところでしょう(消える部屋という魅力的な謎が用意されているのですが)。とはいえ後年の「喉切り隊長」(1955年)などに比べればしっかり謎解きしています。惜しいのはヒロイン役のキャロラインの出番が意外と少なく、せっかくのタイトルが十分に活かしきれていないことです。 |
No.787 | 5点 | カナリヤ殺人事件- S・S・ヴァン・ダイン | 2015/08/28 23:27 |
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(ネタバレなしです) 1927年発表の第2作である本書で、ファイロ・ヴァンスはあるやり方(私の読んだ創元推理文庫版の粗筋紹介では堂々とネタバレされてました)で容疑者の性格を分析して犯人を見出します。しかし分析の信憑性はさておくとしても容疑者ごとに異なるやり方で検証しているので、これでは公平な比較になってないように思えますが(笑)。警察のアリバイ捜査や物的証拠を徹底的に馬鹿にして心理分析のみを重視するヴァンスの探偵方法に作者としても限界を感じたのか、次作の「グリーン家殺人事件」(1928年)以降は物的証拠にもっと重点を置くようになり、心理分析は補完的な役割を果たすようになります。本書のトリックはさすがに古臭さを感じさせる苦しいトリックですがまあ実際古い作品なので勘弁するか(笑)。 |
No.786 | 5点 | エジプト十字架の秘密- エラリイ・クイーン | 2015/08/28 23:21 |
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(ネタバレなしです) 1932年発表の国名シリーズ第5作の本格派推理小説です。派手な趣向の連続殺人にスリリングな犯人追跡、そして鮮やかな推理(もちろん「読者への挑戦状」が付いています)とくれば本書が国名シリーズ中屈指の人気作だというのも理解できるのですが、個人的にはいまひとつでした。というのはかなり分厚い作品なのですがその割には重要な謎解き手掛かりが少なくて、無駄に物語が長過ぎるという印象が拭えませんでした。ただ最後の一行では思わぬ作者のユーモアの冴えに接することができて後味は非常によろしかったです(笑)。 |
No.785 | 5点 | 雲上都市の大冒険- 山口芳宏 | 2015/08/28 09:11 |
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(ネタバレなしです) 山口芳宏(1973年生まれ)の2007年発表のデビュー作で、タイトルから冒険スリラー系かと思ってましたが最後に劇的なクライマックスが用意されているものの本格派推理小説の謎解きの要素の方が濃い作品でした。時代を1952年(昭和27年)、舞台は実在の松尾鉱山をモデルにした鉱山都市というかなり凝った設定にしています。ただ描写が案外とあっさりで、その分プロットが読みやすくなっている面はあるものの、例えば横溝正史の名作「八つ墓村」(1949年)のようなスケール感に欠けているのが惜しいと思います。謎解きでは頭脳派と行動派の2人の探偵とワトソン役という配役が新鮮でもあり(頭脳派だってそれなりに行動的だし、行動派だって推理します)、どこか懐古的でもあります。人間消失(脱獄)トリックは良くも悪くも衝撃的なトリックで、個人的にはこれが成立するのはちょっと信じ難いです。エピローグで登場人物に「信じないのが自然だろう」と語らせているのは作者の自虐でしょうか(笑)。 |
No.784 | 7点 | 犬神家の一族- 横溝正史 | 2015/08/27 18:42 |
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(ネタバレなしです) 1951年発表の金田一耕助シリーズ第6作の本書は、何度もTVドラマや映画になっていることから知名度抜群で、そういえば小学生の男の子の間でプールで「スケキヨごっこ」するのが流行ったこともあったそうですからまさに国民的ミステリーと言っても言い過ぎではないでしょう。本格派推理小説の謎解きとしては必ずしも全てが論理的に説明されてはいないですし(でも「八つ墓村」(1949年)よりは改善されています)、余りにも偶然の要素が重なった真相は自力で謎解きしようとした読者の顰蹙を買いかねませんが、和風ゴシックとでも形容したくなるような雰囲気はたまらない魅力です。 |
No.783 | 5点 | 猫は汽笛を鳴らす- リリアン・J・ブラウン | 2015/08/22 08:46 |
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(ネタバレなしです) 1995年発表のシャム猫ココ&ジム・クィラランシリーズ第17作です。クィラランが直接事件に巻き込まれず、しかも失踪事件のためか前半はほとんど盛り上がりを欠いた展開です。後半になると結構派手な事件を起こしていますが、推理についてはココの与えるヒントがいかようにも解釈できるようなものばかりです。クィラランの最後の説明も「ただの勘だが」ではすっきりした謎解きを期待する読者には不満を残すでしょう。 |
No.782 | 4点 | 密偵ファルコ/砂漠の守護神- リンゼイ・デイヴィス | 2015/08/22 08:41 |
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(ネタバレなしです) 1994年発表の密偵ファルコシリーズ第6作の本書は、冒険スリラーと本格派推理小説のジャンルミックスを目指してどっちつかずに終わってしまったような印象を受けました。ファルコが旅の一座と一緒に10以上の都市や町を転々とするのですがトラベルミステリー要素はそれほど感じられません。また人間関係が案外と複雑で読みにくいです。第三幕の冒頭でファルコが容疑者をかなり絞り込んでいるような様子があったので本格派好きの私はいよいよ名探偵ぶりを発揮かとどきどきしましたが、その後は迷走ぶりの方が目立ってしまいました。 |
No.781 | 5点 | 寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁- 島田荘司 | 2015/08/22 08:34 |
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(ネタバレなしです) 御手洗潔シリーズの「占星術殺人事件」(1981年)と「斜め屋敷の犯罪」(1982年)で作家デビューしたものの、本格派推理小説がまだ人気低迷期だったこともあって島田は社会派推理小説の要素を取り入れた作品を書くようになります(御手洗潔シリーズの次作は「異邦の騎士」(1988年)まで待たねばなりません)。その代表作とされるのが吉敷竹史シリーズで、1984年発表の本書はその第1作です。地味なキャラクターの刑事の地道な捜査描写、試行錯誤を繰り返す推理などはいかにも社会派風ですが、一方で「旅行する死者」という魅力的な謎を提供しているあたりは本格派作家の意地でしょう。解決はやや好都合な展開に感じられますが、最終章で突然1人称の物語にしているのがちょっとした工夫です。 |
No.780 | 5点 | 殺しへの招待- 天藤真 | 2015/08/22 08:27 |
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(ネタバレなしです) 1973年発表の長編第5作ですが、私にとっては連作短編集「遠きに目ありて」(1981年)に次ぐ天藤作品です。しかしこれが作風が全く違っていたのには驚きました。とにかくどろどろした人間関係がしつこく描かれており、ベッドシーンも何度かあります。創元推理文庫版では「ユーモラスなタッチ」と「ひねりの利いたプロット」と紹介されていますが前者については一体どこにユーモアが?、と出版社に尋ねたいぐらいです。後者に関しては紹介の通りで、被害者探しの前半はもちろんですが事件発生後の展開もかなりユニークな本格派推理小説です。後味の悪さを残す第三部を蛇足と評価する意見にもなるほどとは思いますが、個人的には消化不良気味の第二部で終わるよりはいいかなと思います。とはいえ全体の雰囲気は最後までなじめませんでした。 |
No.779 | 6点 | 「裏窓」殺人事件 tの密室- 今邑彩 | 2015/08/22 08:20 |
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(ネタバレなしです) 1991年発表の貴島柊志シリーズ第2作の本格派推理小説です。作者が「怪奇と本格推理の融合」を試みた作品ですが本書の場合は怪奇色が出てくるのは物語の3分の2が進行してからです。エピローグについて「合理的な謎解きのお好きな人は読む必要がありません」と断り書きしていますが、まだおとなしいレベルかなと思います。 |
No.778 | 5点 | 透明な季節- 梶龍雄 | 2015/08/22 08:09 |
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(ネタバレなしです) 梶龍雄(1928-1990)は大器晩成型の作家で、長編第1作である本書が発表されたのは1977年です。特に旧制中学や旧制高校を作品背景にした本格派推理小説は非常に高く評価されています。もっとも後年には「女はベッドで推理する」(1986年)とか「浮気妻は名探偵」(1989年)など通俗ミステリーっぽい作品まで書いたりして試行錯誤を繰り返していたようです。本書は時代小説要素、青春小説要素、そして謎解き本格派推理小説要素を詰め込んだ贅沢なミステリーで、戦争末期の社会描写は特に印象的です。ところがそれがミステリーとしての弱点にもなっており、(主人公が述懐しているように)戦争の悲惨さの前にはポケゴリこと諸田少尉の死の謎解きがどうでもいいようにさえ感じられてしまいます。片仮名文の手紙による真相説明が読みにくいのも問題です。とはいえ、他の作家には書けないであろう個性を確かに感じさせる作品でした。 |
No.777 | 5点 | 天使はモップを持って- 近藤史恵 | 2015/08/22 07:58 |
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(ネタバレなしです) 1997年から2001年にかけて発表された短編をまとめて2003年に出版された連作短編集です。場違いなファッションに身を包んだ若き清掃作業員キリコがオフィスを騒がす事件の謎を次々に解いていきます。殺人事件を扱った作品もありますがほとんどは小犯罪レベルで、中には犯罪一歩手前で終わったような作品もあります。ハッピーエンドの作品ばかりではなく、またキリコ以外の人物が謎解きに成功する作品もあったりと意外と多面的です。一応は本格派推理小説にジャンル分けできますが、それほど論理的な推理が披露されるわけではないので解決に唐突感があります。最後に収められた「史上最悪のヒーロー」(これはミステリーでさえありませんが)で物語として一つの締めくくりを迎えますが、人気があったのかこのシリーズは続編が書かれるようになりました。 |
No.776 | 5点 | 仮面の島- 篠田真由美 | 2015/08/22 07:35 |
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(ネタバレなしです) 2000年発表の桜井京介シリーズ第7作です。前半は失踪事件ぐらいしか事件性のあるネタがなく、あまり盛り上がりません。中盤になるとかなり劇的な動きがあるのですが、これは一般的な本格派推理小説で扱う事件とはやや異なる展開です。京介の最後の説明を読むとこの作者のねらいはよくわかるのですが(だからイタリアのヴェネツィアを舞台にしたのですね)、謎の提示が散漫なため複雑な真相のインパクトが弱くなってしまったのが何とも勿体ないです。 |
No.775 | 6点 | スモールボーン氏は不在- マイケル・ギルバート | 2015/08/22 07:27 |
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(ネタバレなしです) 1950年発表のヘイズルリッグシリーズ第4作の本書はギルバートの本格派推理小説の代表作とされています。デビュー作の「大聖堂の殺人」(1947年)と比べると筆がなめらかになったのか控え目なユーモアが混じった文章は読みやすく、地味な展開の物語ながら退屈しないで読めました。「クリスティーに匹敵する」と絶賛したキーティングはやや過大評価かなとも思いますが、水準点レベルは余裕でクリアしていると思います。弁護士や秘書が大勢登場するので最初は人間関係の整理でちょっと大変でしたけど。 |