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ミステリー三昧さん
平均点: 6.21点 書評数: 112件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.49 5点 夜明けの街で- 東野圭吾 2011/04/12 21:19
<角川文庫>不倫を題材にしたサスペンス長編です。
不倫相手がもしかしたら殺人者かもしれないというミステリ的要素とその愛人に溺れる愚かな男性の心の葛藤を描いたサスペンス長編です。
ミステリ的要素として「時効を目前に控えた事件」の真相は何なのかという謎がありますが、結局ずっと隠し続けてきた事実が最後に明かされるというだけなので、読者にとってそれが驚きの真相に成り得るかという点がポイントになりそうです。私的には、実際の現場では捜査の網にすぐ引っ掛かって解決しそうな気がして、時効間近の難事件という割には軽い印象でした。時効まで告白を待ち続けた理由もあまり納得できない。そんな辛い思いをしてまで成し遂げる必要があったのか理解に苦しむ。だって15年間でしょ。あまりにも長すぎます。
純粋に小説を楽しむという点でもイマイチです。やはりこの手の小説には修羅場は欠かせないでしょう。女と女の意地とプライドのぶつかり合いのようなドロドロした展開を期待してしまうので、私的には刺激が足りませんでした。円満解決なんてありえない訳ですから、もっとブラックな結末でも良かったんですけど・・・
不倫をこれからしてしまうかもしれないといった境遇の人が読んで、思いとどまるきっかけになると良いですね。「新谷君の話」も含めて。

No.48 6点 赤い指- 東野圭吾 2011/04/05 20:50
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの7作目(長編)です。
素人が考える犯罪計画ともあって、ボロを見せすぎ故に加賀恭一郎にとっては簡単な事件だったと言えます。犯人視点で描かれる倒叙ミステリの面白みは、犯人の抱える弱みと強みが窺い知れること、そして、探偵といざ対峙した時にそれら要素がどう機能し、どう物語が転がりみせるのかという部分だと思っています。本作でいう弱みは、死体隠蔽の際に多く手掛かりを残してしまったこと。芝生、靴ひも、タイヤ跡の始末、手袋など、いかにも素人くさい凡ミスの数々。気付いた頃にはもう遅い。いつの間にか、しつこい問い攻めに逃げ場がないといった状況。相変らず、気付きレベルが半端ない。犯人の持つ強みとして挙げられる現状を打開する為の秘策に関しても、いざ真っ向勝負してみたら冷静にいなされ、泳ぎに泳がされ敗北宣言するといった有様。そして、ますます貫禄を増す加賀恭一郎。犯人すら知らない真実が明かされたときは「そんなバカな」という感じでした。私的には嬉しい不意打ちを食らわされた感じ。間違いなく、加賀ブランドは存分に味わえる作品です。本格ミステリとしてはまずまずです。

No.47 5点 ゲームの名は誘拐- 東野圭吾 2011/03/26 12:02
<光文社文庫>
初めて誘拐ミステリを読みますが、設定が特殊な故、緊張感がなさすぎる。プロット上、仕方ないですが被害者側の描写があまりなく、犯罪者側との攻防戦が見られず残念でした。終盤の被害者側の一発逆転という展開もプロット上、気付きやすく消化不良気味。
余談ですが、2011年度出版の東野圭吾作品は注目していきたい。もう既に加賀恭一郎シリーズ最新刊が出版されましたが、夏にはガリレオシリーズの最新作も出版されるとのこと。今年中には流れに追いつきたい。

No.46 5点 殺人の門- 東野圭吾 2011/03/26 11:44
<角川文庫>
ジャンルで言えば、主人公が殺しを実行するまで描いた犯罪小説。ただテーマが特殊で「憎しみ」という感情は何をきっかけにして「殺意」へと変わるのか。「憎しみ」の限界点はどこなのかを探し求める青年の人生を描いた作品となっています。今までになく、ドMな主人公の登場でした。このようなミステリらしくもなく、派手さもなく、ただひたすら暗く地味な作品に対して感想を書くのは難しいな。申し訳ないです。

No.45 5点 ダイイング・アイ- 東野圭吾 2011/03/01 01:03
<光文社文庫>実はこっちも買ってしまったので感想を。
ジャンルは「SF」+「オカルト」。東野お得意の失われた記憶探しを盛り込みつつも新しいテイストだったので飽きずに読むことが出来ました。あまり怖いとは思わなかったですが、プロローグには少しゾクッとさせられました。自分のせいとは言え、睨まれながら死なれるのですから。気が狂うのも仕方ない。それにしても彼女はいったい何をやりたかったのか最後までよく分からずモヤモヤ気味です。終盤の加害者の〇〇〇〇という真相がある為に物語の進行上、主人公を殺すに殺せない状況で、とりあえず繰り出した行動が何故かセックスアピール。。。怖いというよりエロいぞ東野圭吾・・・

No.44 5点 あの頃の誰か- 東野圭吾 2011/02/12 02:32
<光文社文庫>久々のノンシリーズ短編集です。
『白銀ジャック』に続き、いきなり文庫にて最新刊とのこと。できるだけ出版順に読むスタイルを貫きたかったが、衝動に駆られて購入してしまった。ノンシリーズの短編集だからってのが一番の理由。別に「わけあり物件」というフレーズに惹かれた訳ではない。きっと単行本で出す価値はなく、でも勿体ないからストレートに文庫ならばという軽い考えがあったと思います。
気軽な気持ちでいざ読んでみると、年代の古い作品ばかりで最近の東野圭吾を知らない私にとっては逆に馴染みやすく割と読んで正解だったというのが正直なところ。
『シャレードがいっぱい』・・・殺人が起きるものの、遺言状の隠し場所やその中身、人間関係の解き明かしがメインで嗜好からズレるあたりが東野作品らしい。一応推理はあるが、雑学の知識が混じった解決が好きではない。ついでに主人公の性格が嫌い。この女性のモデルって東野圭吾の身近にいたのでしょうか。タイトルを『あの頃の誰か』にしたきっかけがこの作品ってのが意味深です。ちなみに読んで思い出されたのが『ウインクに乾杯』でした。途中で読むのをやめた作品です。
『レイコと玲子』・・・東野圭吾の得意とする分野だと思います。いわゆる「私」系ミステリーで、主人公自身を謎とした失われた記憶を追求するお話。読んで思い出されたのが『変身』『分身』『むかし僕が死んだ家』など。
『再生魔術の女』・・・私的ベストです。いわゆる「奇妙な味」系の東野作品って読んだことがなかったので、新鮮味があり、自然と物語に惹き込まれました。ただオチは想定範囲内でしたが。『怪笑小説』や『毒笑小説』ってこんな感じに面白いのかな。
『さよならお父さん』『名探偵退場』・・・これらは確かにわけあり物件でした。まさか原型があったなんて。
他、ショートショートは普通。『二十年目の約束』は駄作。なんだこれ。

No.43 6点 レイクサイド- 東野圭吾 2010/08/10 23:08
<文春文庫>家族の在り方を問う社会派ミステリです。
感想としては、登場人物に共感が得られず読後感が悪い。というか家族をテーマとした物語が苦手だ。解説でも述べられていることですが、この物語には内面描写が少ない。私はそれが大いに不満でした。もっと人間一人ひとりにスポットを当ててほしかった。4組も家族がいたことで夫婦関係とか親子の触れ合いが希薄になってしまっていると思います。中途半端に上っ面だけ家族関係を谷間見たところで、こんな動機を持ってこられても説得力ないだろう。客観的にみれば、家族崩壊丸出し。一生に一度しかない中学受験とは言え、犠牲を払い過ぎですね。子供のことに一生懸命。でも信頼はしていない。そのギャップが異様な読後感を生んでいました。
結局○○が犯人というフーダニットパターンを応用したホワイダニットという発想だけは良かった。でも、作者は本格ミステリに比重を置いていない。なんか惜しい。評価し辛い作品でした。

No.42 7点 片想い- 東野圭吾 2010/08/10 22:59
<文春文庫>性同一性障害を扱った社会派小説です。
今までの東野作品の中で一番テーマが重い。「性同一性障害」がテーマなんですけど、それを知らずにタイトルから恋愛小説かと踏んで読みだすと大きくギャップを感じることでしょう。誰による誰に対しての『片想い』なのかは早々と明かされるのですが、当然としてそこからの展開が予測不可能。さすが東野圭吾。やっぱり人物描写にかけては文句のつけようがない。いくら努力したところで、ワンアイデアからここまで飛躍して物語を描くのは困難だと思う。さすがに才能を感じずにいられない。男に化けた女、女に化けた男、女の心を持った男、と出てくる人物は異型ばかり(と言っては失礼ですが)で非現実この上ない。だけど自分の意思を一番大事にする心とか、現実から目を背けず一生懸命生きようとする姿とかはリアルで人間らしいし、読んでいて気持ちが良かった。
でも反面、自分の未熟さを感じずにはいられない。「親友とは何だろうか?」「男女の境目ってどこだろうか?」「結婚に対する覚悟とは?」など様々な問いかけをぶつけられ深く考えさせられるが、答えが何一つ出てこなかった。それに引き換え登場人物たちは、みんなしっかり自分の意見を持ってて重いメッセージをぶつけてくるのですから、無念です。特に西脇理沙子は強烈だった。もう激しく夫に対抗意識剥きだしで読んでる方もヒヤヒヤ。なんで?と思ってたら、なかなかミステリ的な解答が得られ、ビックリ。冒頭の場面がフラッシュバックしました。余談ですが、この作品を読んで以降、お腹いっぱいでしばらく他の東野作品に手を伸ばせず、期間があいてしまった。またこれから頑張って読もうと思います。なんだかんだで楽しい読書ですから。

No.41 8点 聖女の救済- 東野圭吾 2010/01/09 15:09
※ネタばれあり
<文藝春愁>ガリレオシリーズの4作目(長編)です。 ※『ガリレオの苦悩』と同時刊行
雰囲気がドラマ版に完全シフトしていますね。内海薫が登場した途端に俄然面白くなる。まず、女の直感とやらで(読者に自明な)「真柴綾音が犯人であること」「草薙が犯人に好意を寄せていること」をいきなり言い当てます。『ガリレオの苦悩』と同じく「女性ならではの着眼点」が冴え渡る設定は徹底されている模様。
本作は倒叙形式の本格ミステリになっています。普通の毒殺事件ではありますが、倒叙形式を採用することで「不可能興味」をそそる展開になっている。「遠距離から人を殺すことが果たして可能なのか?」が本作のメインであり、毒の混入経路が終始議題の中心となります。その解答は正直、驚けなかった。けど、その解答が何故「虚数解」なのか?その部分に感心してしまい高評価とする結論になりました。少なくともオリジナリティが高い真相であることは間違いない。
その他、動機を描く徹底さ、二つの異なる捜査がリンクする展開、犯人の趣味にまで伏線を張っていた周到ぶりなど物語全体に無駄がなく「本格ミステリ」として充実していた。






(ここからネタばれ感想)
今回のトリック、驚きよりも感心の方が強い。確かに理論的にはあり得ても、現実的にはあり得ない(普通の犯人なら考えないor実行しない)です。「何もしない」ことが殺害方法。表現上「プロバビリティーの犯罪」と似通った意味合いがあると思う。ただ、最初は「死の確率」を最小限に留めないといけない。「勝手に死ねばいい」という問題ではない。被害者の気持ちが変わるまで「救済し続けなければ・・・」という気持ちがある。愛がある故に殺人に踏み切れないでいる微妙なバランス加減をトリック一本で表現したという部分にオリジナリティを感じました。「タイトル」も巧いですね。愛情と憎しみが混在する渦中だからこそ見守り続けた一年間・・・つらい一年間だったと思う。
ただ、被害者は女の敵だったと思う。被害者の愛人、宏美を庇い続ける綾音の心理状況も読み終わってやっと理解できた。

No.40 7点 パラドックス13- 東野圭吾 2010/01/07 02:59
<毎日新聞社>「P-13現象」というSF要素を取り入れたヒューマンドラマです。
あくまで「P-13現象」は小道具の一部にすぎない。「Pー13現象とは何か?」や「何故13人は生き延びたのか?」が物語の主軸ではなく「これからどう生きるか?」に終始スポットが当てられている。よってミステリ要素は低い。
けど、割と楽しめた。「生」を追求する物語っていいなぁ。。。東野圭吾が描く登場人物には「生」のパワーを感じる。所詮、作中の人物ではあるけど、彼らから学ぶことって一杯ありますね。
「人間は一人では生きてゆけない」みたいなセリフを連発していた点が印象深かった。まぁ、その通りだろうけど現実世界ではどうかな。私的には割と生きていける気がする。現代は「人間」より「物」に頼ることの方が多くなった。それ故に孤独でも「のほほん」と生きれる世の中になってしまったと思う。「生きる意味」を真剣に考えながら生きている人なんて少ないと思う。一人の方が逆に「社会的ルールによる縛り」もなく開放的で清々しい。もちろん一人だから「身分の差」も気にすることなく「何が善と悪か?」なんかも自分で決めてしまえばいい。
ホント自由すぎると思う。いざ「P-13現象」状況下に置かれたらと思うと怖い。私は自制心が保てず、パニックになって自滅する(笑)。

No.39 7点 手紙- 東野圭吾 2010/01/04 00:33
<文春文庫>罪の重さを手紙で綴ったヒューマンドラマです。
生きる上で「強盗殺人犯の弟」というレッテルはあまりにも重荷。もし、自分が「直貴」だったら、こんな懸命に生きてはいないだろう。
結局、直貴は多くの幸せを失ったと思う。「差別は当然のことだ」という社長の言葉は的を射ているが、残酷です。私的には由実子と結婚してハッピーエンドという形で終わりにしてほしかった。・・・が現実は厳しいですね。一生付き纏うのかと思うと気が重くなる。
ラストに正解はないだろう。「現実逃避する」にしても「素直に受け入れる」にしても失うものが大きい。自分の幸せを願うなら、前者が正解か。。。でも、この運命は悲しいなぁ。
ミステリではないけど、どんどん読める。私的には『秘密』や『時生』より断然面白い。物語の「重量感」と「リアリティ」の面で優れている。これは現実世界を生きる上で一つの教訓になる。

No.38 7点 白夜行- 東野圭吾 2009/12/31 12:52
<集英社文庫>代表作として名高い大長編ノワール・ミステリーです。
きっと、この物語の最大の謎は主人公「桐原亮司」「西本雪穂」の存在だろう。主人公ではあるが(二人の視点からではなく)二人を取り囲む第三者の視点によって「二人の人生」が描かれている。それ故に「本当の姿」が掴めない構成になっている。何を思い、何を考え、何を抱えながら生きているのかが(二人を取り囲む登場人物と同様に読者も)全く分からない。リーダビリティーの根源はそのプロットの妙にあるといっても過言ではない。厚さを気にせず読めたのは二人の人生を追う過程だけでも「ミステリー」として成立しているからだと思う。
亮司の不審な行動の根本にあるものは「雪穂」だった考えられる。確かな結論は出ていないが、雪穂の「最愛の人」は亮司だと信じたい。・・・けど、ラストのセリフはあまりにも冷たい。
全く心が読めないのが、怖い。そして、悲しい。

No.37 6点 嘘をもうひとつだけ- 東野圭吾 2009/12/22 23:07
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの6作目(連作短編)です。
無難なミステリです。特に欠点がなく、5編全てが面白い。加賀恭一郎は論理派の刑事なので、シリーズ物では一番好きなキャラクターです。最近の作品では情をなるべく殺して仕事に徹する姿が印象的。短篇集ですが本格度は高めです。相変らず冴えのある推理で魅せてくれる。それを考慮すると『嘘をもうひとつだけ』がベストです。
また、私的には動機が丹念に描かれていたことにも好感が持てました。一般的に短編の本格ミステリは動機を無視する傾向が強い。ただ、東野圭吾氏の場合は短編集であれリアリティを追求する姿勢は徹底されている。まぁ正直、若干動機が弱めで納得し難い作品もあるけれど、動機があってこその殺人という点では『狂った計算』が印象深い。多分、夫は妻を愛していなかっただろう。絶対こいつは妻を使い勝手の良い道具としか思っていない。あのまま一緒にいても状況は悪くなる一方だったと思う。殺しは良くないけど、同情の余地はある。

No.36 7点 名探偵の呪縛- 東野圭吾 2009/12/02 02:32
<講談社文庫>天下一大五郎シリーズの2作目(長編)です。
ストレートなアンチミステリ『名探偵の掟』とは対照的に、この作品では少し変化球気味に(しかも前作より重い)メッセージをぶつけてきます。なので読み始めは意図が掴めない状況に陥りやすいかと思います。また、東野圭吾氏の作品を何点か読まないと、このメッセージは読者の胸に深く突き刺さらない。そんな意味で読者を選ぶ作品です。
私は「本格コード」に悪戦苦闘する東野圭吾の姿をこれまでの作品によって谷間見てきたので、思いのほか胸を刺されてしまいました(笑)。本格志向の作品に対しては『ある閉ざされた雪の山荘で』『仮面山荘殺人事件』『悪意』などの!!!!な作品があったけれど、対照的に『卒業』『白馬山荘殺人事件』『魔球』『探偵ガリレオ』などの????な作品もあって不満を感じたこともあります。ただ、作者との「本格に対する距離感」が合ったり合わなかったりとギャップを感じつつも「自分のミステリ観」を探る意味で読書自体は楽しめていたので、従来の本格志向から離れる決断をなされたことは非常に残念です(完全にではないと思いますが・・・)。
まぁ「逃げ」とは思いませんし、さらなる飛躍も期待できそうなので、全然OKです。作者の気持ちに触れる事が出来た。それだけでこの作品は高評価です。

No.35 5点 どちらかが彼女を殺した- 東野圭吾 2009/11/30 20:15
<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズの3作目(長編)です。
加賀恭一郎の「察しレベル」は一流の探偵を思わせる。偽装に偽装を重ねた犯行現場から犯人断定に至るまでの過程はロジックに頼ったものなので好感が持てました。
結末の真相部分は全く分かりませんでした。なんか「利き腕」が重要なカギらしいですが、状況が細かくてウンザリしてしまった。
「読者挑戦物」はワクワクしません。解く気も起らないので私的には普通の本格ミステリと変わりません。大変失礼ですが、ちょっと「ネタばれサイト」を確認して終わりにしてしまいました。
なので足跡だけ残します。次回作はスルーします。

No.34 5点 ガリレオの苦悩- 東野圭吾 2009/11/16 20:24
<文藝春秋>ガリレオシリーズの4作目(連作短編)です。※『聖女の救済』と同時刊行
『探偵ガリレオ』『予知夢』よりも楽しめました。
私的ベスト『落下る』・・・女性刑事「内海薫」の登場によってガリレオシリーズに新しい風が吹きました。女性ならではの観察眼と洞察力で草薙を圧倒する活躍ぶりが印象的です。トリックは相変わらずですが、湯川が「何か」から立ち直るきっかけとなった事件という点で、長編を読むにあたって唯一「予習」になりました。湯川に何があったのか?とても気になります。
今作では湯川と草薙のやり取りが控えめでした。その分、周りの人間(友人や先生)と交わることで湯川の「人間性」に深みが増した気がします。全編に渡ってラストが読み所です。特に『操縦る』の読後感は心地よい。科学者としての「芯の強さ」も強く感じました。

No.33 4点 予知夢- 東野圭吾 2009/11/13 15:59
<文春文庫>ガリレオシリーズの2作目(連作短編)です。
確かに他では類を見ない驚愕ハウダニット系なのですが、私を含め「本格物好き」が望んだものではない。トリックに既出感がなく新鮮なのは、他の本格ミステリ作家が(専門知識を要したトリック創作を)敢えて避けてきただけのことです。専門的な知識を塗し過ぎると読者が付いて来ず「自己満足」に終わる可能性が非常に高い。
その根底を覆し、現在では東野圭吾氏の代表作として人気シリーズにまで発展してしまった。「成功した」作品であることは間違いない。ただ、これだけ人気が出たのは「東野圭吾」というバリューネームと「ドラマ」の影響が非常に強い。
映像を観て、原作を読むと多分ガッカリすると思う。
原作を読んで「東野圭吾って大したことないね」と思われそうで恐い。もっと他を読んでほしい。

No.32 6点 名探偵の掟- 東野圭吾 2009/11/07 11:00
<講談社文庫>天下一大五郎シリーズの1作目(連作短編)です。
皮肉の利いたパロディですね。古典名作が使い古した定番トリックに対して、ためらいもなく文句をぶつけています。まさにミステリでありながら、ミステリを否定する「アンチミステリ」となっていました。東野圭吾氏の本格に対する素養も感じられました。
私的ベストは『アリバイ宣言』です。アリバイ崩し物を根本から覆す「笑える」ミステリとなっていました。「えへへ」と自慢げにアリバイを語る様が微笑ましい。犯人にとっては「探偵への挑戦状」ですからね。興奮が高鳴るのも分かります。探偵の悩み苦しむ姿を眺めながら、常に自惚れていたいのでしょう。探偵が解くのを諦めた途端、慌てて自ら「ヒント」を出し始める姿が印象的です。オチも利いていました。
解説を読んだ限り、読者が考える「本格」とは敢えて距離を置きつつ「本格」に取り組む姿勢はデビュー当時からあったようですね。少なくとも自らハードルを上げて取り組んでいたに違いない。それを知らずに初期作品を読んでいた自分が悔やまれる。余談ですが『魔球』は完全に読み間違えていました。彼は「ダイイングメッセージに対する考えがズレている。そして本格を分かっていない」とさえ思いました。全くの誤解でしたね。
私は「ド本格なミステリ」or「大人びたシリアスなミステリー」が読みたいのでこの点数ですが、ファンにとっては「10点」でしょう。これからドラマを観させていただきます。

No.31 8点 悪意- 東野圭吾 2009/11/05 16:59
※ネタばれあり<講談社文庫>加賀恭一郎シリーズ4作目(長編)です。
久しぶりに東野圭吾氏のド本格に出会えて嬉しかった。故にベタ褒めです。
「驚き」よりも「感心」のほうが強い。東野圭吾氏は人物を描く技量が長けていると改めて感じました。これは騙される他ないだろう。「作者の筆力」によって騙された。
とにかく「手記形式」を採用した点が秀逸。実に奥深くて好きなジャンルになりつつあります。
フーダニットに関しては文句の付け所がない。「電子機器」の常識を上手く伏線として生かしていた。ロジカルな犯人当てが可能な部分で高評価です。加賀恭一郎が疑いを持ったきっかけも犯人の心理を突いていて良い。決定的な証拠もちゃんと提示されている。ただフーダニットに関しては「手記形式」にした意味はあまりない。でも、この作品には別の部分で「手記形式」を採用した狙いがありました。そのことにも高評価したい。






(ここからはネタばれ感想)
ある程度のミステリ好きなら「手記形式」→「筆者が犯人」→「虚偽の記述あり」までは容易に察することができるでしょう。故に驚きが少ない。なのでこの手のミステリは「2番煎じ」とは言わせぬオリジナリティーが必須になってきます。この作品にはそれがある。
まず「手記内容≒事実」をロジカルに指摘できるように配慮されていた点。「指にペンダコができていた」という明白な伏線を配置することで「ズルさ」をかなり軽減している。ただ「ビデオテープ=作り物」は察する余地がない。もう少しビデオテープの詳細を読者に公開すべきでした。
また「手記形式」を採用した犯人の狙いが秀逸過ぎる。「被害者に難がある」という状況を「手記」から創り出すことで、真の動機を隠蔽。同時に被害者を悪者に仕立てあげることで「憎しみ」すらも解消。このダブルを成し遂げた完全犯罪の構図が凄すぎる。「上手く行き過ぎ」という文句もありますが、じっくり創り込まれた完全犯罪のプロセスを楽しめたので、拍手喝采です。

No.30 4点 探偵ガリレオ- 東野圭吾 2009/11/02 11:33
<文春文庫>ガリレオシリーズの1作目(連作短編)です。
科学・物理トリックをハウダニットで利用するのはやめてほしい。端から考える余地がありません。本格色は出ていますが何も残らない。と言いたいところですが『壊死る』のトリックは凄く神秘的で好感が持てました。実現できるなら使ってみたい。科学は脅威です。
読んだ限り、湯川助教授にTVドラマほどの魅力は感じません。もっと内面まで抉り込んでほしい。草薙と湯川のやり取りは「探偵が警察をバカにする」という推理小説ではお馴染みの演出なので、新鮮味がない。私的には上っ面だけの社交辞令としか感じず、そこから人間味を見いだすことは難しい。
私の中で「湯川学」がどう変わっていくのか?この作品以降では、その部分で楽しみを見いだしていきたい。とにかく『容疑者Xの献身』に期待しています。

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