皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
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空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.25 | 6点 | ブラック・マネー- ロス・マクドナルド | 2021/11/04 20:07 |
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文庫版の作品紹介ではロス・マクの異色作としているのも、なるほどと思える作品でした。依頼内容自体がある男の身元調査というのは、本来なら私立探偵の仕事らしいのですが、ハードボイルド系ミステリではあまりないでしょう。調査対象の男は最初からうさんくさく、何かあるという感じがします。リュウが他の作品と同じく、ていねいで自然な流れに沿った調査をしていくと、事件はその男の正体とは直接関係ない方向に進んでいきます。半分近くになってから殺される人物がまた意外です。その人物が何かを隠しているらしいことは少し前から明らかなのですが。
早い段階からある人物の態度には不自然さを感じていたのですが、最後には、その態度の意味が納得できます。タイトルの黒い金(隠し所得)の動機との関係など、さすがにきっちりできていますが、真相解明部分がこの作家にしてはあまり鮮やかでないのが不満でした。 |
No.24 | 7点 | ドルの向こう側- ロス・マクドナルド | 2021/04/24 12:52 |
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犯人が意外だという人も多いようですが、個人的にはかなり早い段階で、この展開なら犯人はどちらかでないとロス・マク最盛期にならないなと予測してしまったので、意外性を感じませんでした。と言っても、それはその真相に感銘を受けたかどうかとは全く別問題です。ただ最終章、ずっしりとは来たのですが、最後の数行だけ、少し甘いかなという気がしてしまいました。後、リュウが以前に付き合っていた女性が偶然事件の重要関係者として登場するのですが、この人がリュウの元カノだった必要があるのかにも疑問を感じました。まあ、その設定のため珍しく激したリュウを見ることもできることも確かなのですが。以上が、直前の2作に比べて点数が落ちる所以です。リュウにしては珍しいと言えば、捜査の手数料や経費のことで困ったりしているのもそうですが、このタイトル、その点も踏まえているのでしょうか。 |
No.23 | 6点 | わが名はアーチャー- ロス・マクドナルド | 2019/11/27 20:34 |
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『逃げた女』から『女を探せ』まで、邦題にはすべて「女」をつけた7編ですが、原題では女を表す言葉のあるのは Girl、Woman、Lady、それにBlonde も入れるとしても4編だけです。
邦訳ではそんなふうにタイトルはあえて統一されていて、作品自体も1954年、長編では『犠牲者は誰だ』発表年までの初期作品だけなのですが、中田耕治の翻訳には統一がとれていないところがあります。全体的にはこの翻訳者の粗野な感じは、殴り合いや銃の撃ちあいも多い初期ロス・マクにかなり合っていると思うのですが、リュウの一人称代名詞は『逃げた女』だけが「俺」で他は「私」です。その『逃げた女』の一節「ぼくの車に乗った。…(中略)…俺はノックした。」と同じ段落の中で代名詞が変わるのは、どう言い訳してもだめでしょう。 全体的にはやはり特に短い作品は解決が忙しく、もう少し長くした方がよかったかなとも思いましたが。 |
No.22 | 8点 | さむけ- ロス・マクドナルド | 2019/01/28 22:33 |
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ロス・マクの中でも断トツの人気を誇る本作ですが、最初に読んだ時は結末には驚かされたものの、『人の死に行く道』以降の他作品と比べて、特別に優れているとは思えなかったのです。今回久々に読み返してみると、最初の方はこの作家にしては意外に軽いノリだなと思えました。アレックスの父親については、ストーリー展開上からも登場する必要がないでしょう。しかし後半3つの事件の関連性が明らかになってくる展開はさすがです。
ただ、リュウが最終章(たった5ページほど!)になって真相に気づく重要手がかりについては、それをわざわざ持ってきてそこに置いていたことが不自然だと思いました。その直前までで、事件のほとんどの部分は解明されているのですが、それでも読者をその最終章だけで驚かせる手際が非常に鮮やかなだけに、もっと不自然でない手がかりにできなかったかなと、その点少々残念でした。 |
No.21 | 8点 | 縞模様の霊柩車- ロス・マクドナルド | 2017/12/21 19:27 |
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最初に読んだロス・マクが本作で、本当に久しぶりの再読です。初読当時は、特にラストのリュウと犯人との対話と、その後歩き始める「水の涸れた川床のような道」の情景に圧倒的な感銘を受けたものでした。
今回読み直してみると、事件の構成は意外にシンプルだと思いました。前後の作品のような大胆なアイディアもありません。まあ真相を知っているため、様々な出来事の裏の意味がわかるからというところもあるのでしょうが。それでも自然な形での結末の意外性は充分にあり、ミスディレクションも効いています。最初の方で出て来る縞模様の霊柩車が、ただ象徴的な意味を持つだけでなく、重要な手がかりを提供することになるのも、うまくできています。そしてストレートに突き刺さって来るアメリカの「家庭の悲劇」。 リュウが頭を枝から下がったマンゴーにぶつける場面などユーモラスなところも記憶に残っていました。 |
No.20 | 6点 | 魔のプール- ロス・マクドナルド | 2017/10/08 22:34 |
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リュウ・アーチャー・シリーズ第2作は、ほとんど最後近くまでは前作以上に通俗ハードボイルドっぽい派手なストーリー展開の作品でした。特に閉じ込められた部屋からリュウが脱出するシーンは壮観です。本作は『新・動く標的』のタイトルで映画化されたそうで、未見ですが、確かに映像化すると迫力がありそうです。文章の方では、すでに情景描写には、さすがロス・マクと思わせる表現も多少見受けられますが、ウィットに富んだ会話には欠けます。
ただ最終の第25章だけは、それまでの通俗的はったりとは全く異質なものになっています。次作『人の死に行く道』以降の作品にもつながるような犯人の告白も渋くていいのですが、それよりもその後にある「何の役にも立たない喧嘩」のシーンにけっこう感動してしまいました。この最終章における落差をどう捉えるかは人それぞれでしょうが、個人的には一応評価1点アップ。 |
No.19 | 5点 | トラブルはわが影法師- ロス・マクドナルド | 2017/08/17 10:42 |
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ケネス・ミラー名義で発表された第2作は、デビュー作と同じくスパイ小説で、一人称形式という点も同じです。1945年2月、ハワイで起こった事件は自殺として処理されますが、今回の語り手ドレイク少尉はスパイ活動絡みの殺人ではないかと疑います。さらにデトロイトでも自殺とみなされる事件が起こり、という展開で、大陸横断鉄道でのサスペンスなどは、アンブラーの『恐怖への旅』等とも通じるところがあります。
タイトルについては、途中で「トラブルのほうが、ぼくを摑まえて放さないんだ」「まるで、トラブルはきみの影法師だ」というセリフが出てきます。しかしドレイク、かなり自分の方から事件に首を突っ込んでいってます。 全体的にはおもしろいのですが、クライマックスに向かう部分が偶然に頼りすぎている点、最後のどんでん返し部分が何となく安っぽくなっている点等、不満もあり、これくらいの評価です。 |
No.18 | 6点 | 動く標的- ロス・マクドナルド | 2017/05/13 17:56 |
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リュウ・アーチャー(本作ほか創元版では「リュー」表記です)初登場作のタイトルは、セリフの中に出てきます。抽象的に「むき出しの光り輝いている、路上の動く標的」という言葉を他の人物が語った後、リュウ自身が「あいつこそ……わたしの動く標的なんだ」と言うのです。シリーズ第3作『人の死にいく道』あたりから既に、リュウはそんな言葉を口に出す探偵ではなくなってきます。
ストーリー自体かなり暴力的で、これもリュウのセリフを引用すれば「二日に三回も殴られれば、大てい頭も悪くなるさ」といった誘拐事件です。そのワイルドさは、チャンドラーよりハメットの亜流でしょう。ただやはりプロットのひねりはあり、あと80ページも残っているのに、誘拐犯の一人の正体に気づき、対決することになるので、この後どう展開するのかと思わせてくれます。で、結末だけは未熟ながら、後期にもつながる悲劇性を帯びることになっていました。 |
No.17 | 5点 | 三つの道- ロス・マクドナルド | 2017/02/12 22:43 |
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最初ケネス・ミラー名義で発表された第4作は、まさにハードボイルドだった前作『青いジャングル』とは全く異なり、記憶喪失を扱ったプロットだけ見れば、書き方によっては奥さんのマーガレット・ミラー風にもなりそうな、サスペンスものでした。まあアクション・シーンもありますし、さらに主人公が愛より大切なものは「正義だ」と言ったりもするのですが、「本とか映画のなかをのぞいては、正義なんかどこにもないわ」と反論されています。
三人称形式で何人かの主要登場人物の視点を切り替えていく手法は、ミステリ的な狙いとしてはわかるのですが、全体的なまとまりという点では疑問です。かなり早い段階で、真相の見当はついてしまう読者が多いでしょうが、最終章のまとめ方は、意外でした。 なお井上勇の翻訳は、ヴァン・ダインやクイーンはかなり好きなのですが、ロス・マクについては相性が悪いように思えました。 |
No.16 | 6点 | 死体置場で会おう- ロス・マクドナルド | 2016/11/14 22:39 |
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『人の死に行く道』の後に書かれた、リュウ・アーチャーものでない作品です。一人称の主役ハワード・クロスは地方監察官、執行猶予になった者の監督官です。したがって本作は私立探偵小説ではありません。しかし犯罪に関係する公的機関に属してはいても、本来捜査官ではない彼が、警察やFBIをいわば出し抜いて、誘拐とそれに続く殺人事件の捜査をほとんど一人で進めていくという(なぜそこまで一人でやるかという気もしますが)話ですから、一応ハードボイルドとしていいでしょう。真相はいかにも作者らしいものになっています。
しかし、まさかロス・マクで文章が下手と批判しなければならない作品に出会うとは思いもよりませんでした。しゃれた比喩を使っているのに、文がぎくしゃくした感じで、時には主語と述語が対応していなかったりしているのです。同じ訳者でも前作はそんなことはなかったのですがねえ… |
No.15 | 6点 | ミッドナイト・ブルー- ロス・マクドナルド | 2016/08/25 18:13 |
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『ロス・マクドナルド傑作集』のタイトルで出ていた時に買って読んだのを、このたび再読しました。中短編5編の他に、評論『主人公(ヒーロー)としての探偵と作家』、さらに訳者の小鷹信光による20ページ以上もの解説が付いています。
ロスマクはハードボイルドの中でも本格派っぽいとされることが多いようで、実際真相は論理的に構築されていて意外性もあります。しかしハメットが、真相を示唆する手掛かりをあらかじめ用意しているのに対して、ロスマクは捜査を進めていくうちにもつれた謎が自然にほぐれてくるという構成になっています。このほぐし方が、長編の場合だと最後の方で鮮やかに決まるのですが、短い作品だと性急な感じになってしまうのです。 収録作品の中でも、特に『追いつめられたブロンド』はこの欠点が目立つ作品で、当然逆に中編の『運命の裁き』(長編『運命』の原型)が最もよくできていると思いました。 |
No.14 | 5点 | 青いジャングル- ロス・マクドナルド | 2016/04/06 22:58 |
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ロス・マクの初期長編2作はスパイ小説系でしたが、この第3作は、ギャングに牛耳られる悪徳の町を舞台としたいかにもハードボイルドらしい話であり、その意味では自らのジャンルを確立した記念すべき作品と言えるでしょうか。ただし後のリュウ・アーチャー・シリーズとは違い、第1作の『暗いトンネル』と較べてもどこか安っぽい感じのするタッチです。田中小実昌の訳が最初のページから「あまくやさしくおもえる」「おもったよりもはやく」のように、普通漢字で書くところをひらがな表記にしているのも、その一因ではあるでしょうが。
1947年発表と言えば、スピレインが『裁くのは俺だ』で華々しくデビューした年ですが、正統派よりもそういった通俗ハードボイルドに近い感覚があるように思われます。ただし、思想的には登場人物を通してマルクス主義にむしろ親近感を示しているあたり、スピレインとは正反対です。 |
No.13 | 5点 | 兇悪の浜- ロス・マクドナルド | 2015/10/05 21:41 |
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ロス・マクの中でも、発表当時から一般的にあまり評判のよくなかった作品のようです。
確かに、『運命』以後の作品だけでなく、以前の『人の死に行く道』等と比べてみても、全体的な構成にこの作家らしさがあまり感じられないとは言えるでしょう。基本的には明快な犯罪計画に、悪党たちが余計な手を加えることによって事件をわけのわからないものにしているという構成になっています。その悪党たちの行動がリュウ・アーチャーの捜査と交錯することによって、アクションはいつもより豊富になります。発砲となると1発だけですが。 かなり以前に読んだ時には、かなりおもしろく感じたのですが、ロス・マクをまだあまり読んでいなくて、期待するものが固まっていなかったからかもしれません。再読でもかなり派手な展開は悪くないと思いましたが、この作者にしては論理的整合性に疑問があるのに気づきました。 |
No.12 | 8点 | 眠れる美女- ロス・マクドナルド | 2015/03/03 21:48 |
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冒頭の、本作の悲劇的ヒロインとも言えるローレルが石油まみれになったカイツブリを抱いているシーンが印象的です。そのカイツブリは水鳥の一種ということしか知らなかったので調べてみたら、湖や沼地に生息することが多く、見た目にはカモ系みたいですが、動物学的にはフラミンゴに近いそうで。
ローレルの失踪事件が誘拐事件らしき様相を呈してきて、さらに一見無関係な人物の死へと続いていくストーリーは、ロス・マクらしい複雑な人間関係を少しずつ暴き出していきます。偶然と思われていた複数の出来事が必然的なつながりを持つことがわかってきて、過去の事件が明るみに出てきて、と疑問の多い事件を収束させていく手際はやはりうまいものです。そして最後には疑問を抱く暇もないほどの連続どんでん返し早業で締めくくってくれました。そんな意外性を出す技巧が悲劇性を損なっていないところ、さすがです。 |
No.11 | 7点 | ファーガスン事件- ロス・マクドナルド | 2014/08/25 22:29 |
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ロス・マクドナルドが『ウィチャリー家の女』の前に書いた本作は、久々にリュウ・アーチャーの登場しない小説です。ただしやはり一人称形式で、私立探偵でこそありませんが、弁護士が活躍する話ですから、アーチャーものとそれほど違うところはありません。探偵役が変わったことによって多少雰囲気は変わりますが。また、真相はその弁護士が見破るのではなく、事件関係者から説明されることになりますが、必ずしもそうしなければならなかったわけでもないでしょう。
巻末解説では、様々な要素を詰め込みすぎていると評していますが、ストーリーの流れは自然で、複雑すぎるという印象はありませんでした。久々の再読で、内容もすっかり忘れていたので、記憶が理解を助けたわけでもなさそうです。この作者らしく、最後には様々な出来事がきれいに収束していきますが、その最後の「事故」だけはちょっと作り過ぎかなと思えました。 |
No.10 | 6点 | 暗いトンネル- ロス・マクドナルド | 2014/06/20 00:14 |
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ハードボイルドの巨匠が本名ケネス・ミラー名義で1944年に発表したこのデビュー作は、リュウ・アーチャーものでないだけでなく、後年とは作風も完全に異なるスパイ・スリラーで、作者自身ジョン・バカンに影響を受けたと語っています。
とはいえ、最初の1文から、「使い古した汚い毛布のような雪」なんて表現が出てくるあたりからして、ロス・マクらしさの片鱗も感じられます。殺人トリックや犯人の正体など、ロジカルな意外性の工夫があってラストをきれいにまとめるのも、さほど変わることのないこの作者の持ち味だなと思わせられました。もちろん後の作品のような深みには欠けますが、かといってお手軽スリラーでもありません。アクションがかなり多く、それなりに読みごたえもあって、最後まで楽しめました。 展開にご都合主義なところがありますし、殺人に利用されたモノの構造が不明瞭なのは不満ですが、まあいいでしょう。 |
No.9 | 7点 | 地中の男- ロス・マクドナルド | 2013/11/08 22:19 |
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読み始めてすぐ、ロス・マクらしい世界が広がっていくのを感じます。やはり語り口が何とも言えない味わいを出しているのです。このさりげなくも気の利いた文章、会話はさすがに巨匠の技です。
これも久々の再読で、最終解決部分がかろうじて記憶に残っていただけだったとはいえ、複雑に絡み合った人間関係は途中で何が何だかわからなくなってきてしまいました。読書中に登場人物の関係をメモったのはたぶん初めてです。 若い二人の逃避行については、そこまでするかなあという感じも受けましたし、メモを吟味すると、その二人が一緒になったということ自体、ストーリーを組み立てるためのご都合主義じゃないかとも思えましたが、残り3割を切ったあたりから、過去に何が起こっていたのか、次々に明らかにしていく作者の手際は鮮やかです。悪い意味でまさかと思うダミー解決の後の真相も、この作者らしいテーマ性を含んでいます。 |
No.8 | 7点 | 別れの顔- ロス・マクドナルド | 2012/09/30 18:54 |
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盗まれた金の函の捜査から始まる事件は、最初の殺人を手始めに、次から次へと関係者を増やしながら、意外な方向へ複雑な展開を示していきます。誰と誰がどうつながっているのだか、途中でストーリーを整理しながら読み進めないと、よくわからなくなってしまいます。最初の方で、これは重要な要素なんだろうなと思ったことがあったのですが、話が広がっていくうちにいつの間にか忘れかけていました。
そのややこしい事件も、最後にある登場人物の重要な秘密が明かされることによって、一気に解決していきます。ただし第1の殺人事件については、結局犯行の状況はあまり明確にされません。犯人は間違いなくこの人物だろう、ということにはなるのですが。犯人の最後の行動も、そうならざるを得ないかなあとは思うのですが、なんとなくもやもや感が残ります。とりあえずこの後、若い2人に救いのある未来を願って… |
No.7 | 8点 | 象牙色の嘲笑- ロス・マクドナルド | 2012/03/24 00:14 |
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確かにラストは衝撃的です。ロス・マクにしてはかなり早い段階で、なんとなく真相の概要が見えてしまう作品だと思うのですが、それでも最後20ページぐらいには驚かされます。これはやはり核になるアイディアというより書き方、盛り上げ方の問題なんでしょうね。このラストの決め方で評価がアップします。初期にしてはあまりハードボイルドらしくない筋立てなのも本作の特徴でしょうか。
翻訳で主語を「おれ」としていることについては、ロス・マクには合わないという人もかなりいるようですが、個人的にはそれよりも、地の文で「おれ」なのに、会話の中でリュウは「ぼく」と言っている点に違和感を覚えました。 なお原題の”grin”は、ニヤリと笑うということなので、それこそハードボイルド探偵がたまに浮かべる笑みなどもそんな感じ。”mock”(嘲る)の意味はありません。そのことを意識して最後部分を読んでみると、タイトルの味が伝わってきそうです。 |
No.6 | 8点 | 一瞬の敵- ロス・マクドナルド | 2011/08/15 16:38 |
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後から考えてみると、なるほどこういったところから構成を立てていったのだろうなと思える仕組みになっています。人間関係がそうとう複雑なのですが、だいたいのところは読者にも予想できるように展開を考えている感じです。ただ最終章では意外な秘密が明かされることになります。
元保安官補フライシャーの扱いが若干はっきりしないところは不満といえるでしょうか。デイヴィが結局どうなるかという点については、難しいところですね。この落ちのつけ方はショッキングではありますが。後期ロス・マクのいわゆる「家族の悲劇」ということでは、彼が結局一番の被害者なんですね。アーチャーが事件にかかわるきっかけになった、失踪したサンディの方の扱いについては、もう一つ最後に何か欲しい気もします。 テーマ性と謎解きとがきれいに噛み合っているところが、ロス・マクの手腕でしょうが、本作ではテーマ性以上に、複雑な謎解き構成の方におもしろみを感じました。 |