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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1505件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.32 6点 黒の回廊- 松本清張 2023/04/07 23:35
光文社文庫版の巻末解説によると、本作が雑誌に連載されたのは1970年台前半で、単行本として一般に発売されたのは1976年です。清張はこの連載開始少し前にやはりヨーロッパを舞台にした2編のパズラー系中編を書いています。その1編は、スコットランドのゴルフ発祥の地と言われる町が舞台の『セント・アンドリュースの事件』ですが、本作もやはり、セント・アンドリュースから遠くないレブン湖で殺人は起こります、殺人が起こるのは、全体の半分を過ぎるあたりで、その後、ヨーロッパ舞台のもう1編の中編『アムステルダム運河殺人事件』のモデルになったバラバラ殺人への言及もあります。
巻末解説ではビガーズの『チャーリー・チャンの活躍』が作者の脳裏にあったのかもしれないと書かれていますが、全体的な雰囲気や犯人の設定など、むしろ中近東を舞台にしたクリスティーに近いような感じを受けました。

No.31 7点 駅路- 松本清張 2020/08/05 23:33
表題作等10編の内、『ある小官僚の抹殺』はカッパ・ノベルズ版『黒地の絵』で読んだことがあります。この作品はドキュメンタリー・タッチで描かれた、タイトルからも推察できるようにいかにも社会派な作品です。あと倒叙もの『捜査圏外の条件』も、疑われないための段取りや、その企みが崩れるきっかけは覚えているのですが、どこで読んだのだったか。
他の方も指摘されているとおり、謎解き要素の特に強いのが『巻頭句の女』と『薄化粧の男』。後者はクリスティーの得意とするあの手ですね。表題作は、『巻頭句の女』や『白い闇』と共通するところがありますが、3つの中では最も印象が薄く、これを表題作にするのかなと思えました。
まあ『万葉翡翠』と『陸行水行』という歴史の謎を探るという意味での歴史ミステリを2作揃えたところが、本書の目玉でしょうか。後者の中では、ジョゼフィン・テイの『時の娘』も言及されています。

No.30 7点 黒地の絵- 松本清張 2018/07/28 10:19
同じタイトルの短編集は光文社からも出ていますが、それは新潮文庫版とは、表題作以外は全く異なっています。で、この評は新潮文庫版の方に対するものです。
暗く異様な感じの表題作は、今回再読してみると、現代では表現にもテーマにもかなり問題がありそうですが、迫力のある作品であることは間違いありません。
これも評判のいい中編『真贋の森』は唐突なオチが気になる人もいるかとは思いますが、やはり傑作。この作品を、或る日本美術史教授が絶賛していたとことが記憶に残っています。ちなみに「竹田」という画家のことがちょっと出てきますが、美術に詳しくない人は「たけだ」と読みそうです。これは江戸時代後期の田能村竹田のこと。
ALFAさんも好きだという『拐帯行』もいいですが、偶然が過ぎるとも思えます。雑誌か何かで紹介されたルートだという説明でもあれば、納得できるのですが。

No.29 5点 分離の時間- 松本清張 2017/11/08 18:27
「黒の図説」シリーズ第1・2作として週刊誌に発表された作品を収録していますが、本では順番を逆にしています。ただし『黒の画集』みたいな短編集ではないので、シリーズとする必要もないと思うのですが。
表題作は量的に『点と線』と大して変わらない短い長編。松本清張らしい、民間人が偶然に遭遇したことから疑惑を感じて、殺人事件の調査をすることになる、という展開です。友人の雑誌記者の方が結局名探偵役を果たすことになるのも、作者らしいところ。政治家と企業トップとの癒着糾弾よりもむしろ同性愛をテーマにしているのは清張としては珍しいでしょうが、全体的にはまあ無難にまとめたという感じでした。
中編『速力の告発』は速力に対する告発の意味で、自動車産業の無責任さに対する、斎藤警部さんも書かれているようにまさにストレートな批判ですが、最後に突然ミステリになるところは落差がありすぎと思えました。

No.28 6点 鷗外の婢- 松本清張 2017/01/26 17:58
収められた2編どちらも160ページぐらいで、長編と呼ぶにはちょっと短い作品です。
『書道教授』は犯罪小説で、中心となるのは浮気をした挙句、相手の女を殺してしまうという、ごくありふれた話です。かなり早い段階から、彼が後に警察に語った内容を書いていて、その点ではひねりなどないことを作者は明示しています。ところがそこに書道教授を登場させることによって、謎解き的な要素も盛り込み、またずうずうしい死体処理のアイディアを入れているところがおもしろくできているのです。
一方表題作は、それとは全く異なるタイプの作品です。「婢(ひ)」の訓読みは「はしため」、作中で「いまでいうお手伝いさん」であると説明されています。鴎外か小倉に軍医部長として赴任していた時の女中のことを主人公が調べていくうちに、古代史がらみになり、事実と虚構の境がはっきりしないところがおもしろい作品でした。

No.27 6点 内海の輪- 松本清張 2016/08/17 16:16
表題作と『死んだ馬』の犯罪小説2編を収録。
連作『黒の様式』第6話として最初『霧笛の町』のタイトルで書かれた表題作は文庫本で200ページぐらいの短めの長編です。瀬戸内の町を巡る半分ぐらいまでは、こんなに長くする必要があるのかなと思っていたのですが、その後主人公にやっと殺意が芽生えてきてからは、ここまで引き延ばしているからこその作品だなと思えました。『古代史疑』等を著した作者らしく、遺跡発掘もストーリーに絡んできて、そこから(当然そうなるんでしょうねという感じではありますが)ある偶然が警察の疑惑を引き起こすことになります。最終的な証拠については、最初の方に出てくるのが鮮やかに決まりますが、その部分を読んだ時何となく伏線じゃないかと予測できました。
中編『死んだ馬』は悪女と、彼女に翻弄される才能ある建築設計家を描いた犯罪小説で、まあまあといったところでしょうか。

No.26 6点 高校殺人事件- 松本清張 2016/02/06 14:05
松本清張の長編では他に例を知らないのですが、一人称形式で語られる作品です。作中の「私」は高校3年生。自分を示す言葉が「僕」ではなく、さらに清張節の落ち着いた文章であるだけに、大人になってから高校時代の思い出を書いたという印象を受けました。
仲良しグループの一人が殺される事件が起こりますが、ただ死体が発見されるのではなく、そこに至る過程がなかなか魅力的です。殺される学生がポーやボードレールの詩が好きだという設定で、自作の(つまり清張作の)暗い耽美的な詩まで披露されています。全体的にはコナン・ドイルあたりの感じを受け、実際ドイル当時にはまだ確立されていなかったように、本作でもフェアプレイは守られていません。まあ誰でもある程度見当のつきそうな真相ではありますが。また探偵役が事件を解決(推理)するわけでもなく、本格派としてなら失格です。しかし小説として楽しめたことは確かなので。

No.25 4点 山峡の章- 松本清張 2015/09/20 23:05
『主婦の友』に連載された作品で、内容的にもそれらしい感じがします。全編通して官僚と結婚した女性の視点から描かれ、前半は少しずつ怪しげな事件が起こっていくだけの緩やかなサスペンス系の味わいです。中心事件の発端である2人の人物の失踪が起こるのが1/3を過ぎてからで、さらにその死体発見となると、1/2を過ぎてからです。その後やっと真相解明の調査が始まります。
強引な引っ越しの理由など多少整合性に欠けるところはあるものの、全体的なバランスは悪くないと思います。しかし社会派ミステリとしては、事件の裏は一方で状況が特殊すぎていながら、発想的には平凡であるという、どうにも冴えないもので、官僚機構の暗部に対する追及も手ぬるい感じがしました。
なお雑誌連載時のタイトルは『氷の灯火』という、意味のわからないものでしたが、現在のタイトルは内容に直結しています。

No.24 8点 張込み- 松本清張 2014/09/14 12:34
表題作は25ページほどのものですが、野村芳太郎監督は張込み刑事を1人から2人に増やし、その刑事の1人の家族生活の回想を付け加えたぐらいで、これを2時間近くもある映画に仕立てています。それでも映画が間延びした感じになっていないのは、監督の腕でもあると同時に、原作がそれだけの内容を凝縮しているということでもあるでしょう。強盗殺人犯人よりも、犯人の愛人であった現在は平凡な主婦を、刑事の視点から描いた作品で、サスペンスはありますが、ミステリ度は希薄です。
他の作品もそれぞれおもしろいのですが、特に印象に残ったのは次の3編。『顔』は二重のどんでん返しが用意されています。犯罪者は余計な事をしなければよかったのに… 『鬼畜』は犯罪小説としてすさまじいものがあります。リアリズムでここまで描かれると、主役夫婦に嫌悪感を通り越した感情を持ってしまいます。『投影』はまさに社会派謎解きミステリ。

No.23 5点 影の地帯- 松本清張 2014/02/23 18:53
『霧の旗』『黒い福音』『砂の器』等と同じ1961年に発表されたかなりの大作です。ともかく膨大な量のミステリを書きまくっていた時期で、それぞれ強烈な個性を感じさせるそれらの有名作と比べると、本作は大作感はありますし、死体処理トリックが工夫されているものの、特に際立った印象は残りませんでした。全体的には、社会派冒険スリラーとでも呼びたいような、リアリズムの中にご都合主義的な荒唐無稽さをミックスしたタイプと言えそうです。
フリーのカメラマンが主役ですが、途中で視点が新聞記者に替わり、探偵役交代かと思っていたら、70ページぐらいしてまた元に戻るという構成になっています。しかし、この新聞記者の部分は手紙だけで済ませた方がよかったように思えました。ラストの決着のつけ方も、唐突かつ安易な感じがぬぐい切れません。それに松本清張にしては、文章が多少雑な感じがするのも気になります。

No.22 5点 黄色い風土- 松本清張 2012/05/26 19:18
これも久々の再読ですが、覚えていたのはラスト・シーンだけで、事件概要も黒幕の正体も全然記憶にありませんでした。確かにこのラストは、今読んでみてもなかなかインパクトがあります。
文庫本で750ページ近い大作で、殺される人間の数も10人という多さです。自殺や事故死に見せかけた溺死が多いのですが、明らかな殺人もあり、犯罪者一味はそれらにどう区別をつけていたのか、考えてみればかなりいいかげんです。まあ論理的に詰めていくと、松本清張作品の大部分はかなり穴があるものですが。またseiryuuさんが指摘されている2つの偶然の内でも、由美のことがわかる方は、いくら何でも安易すぎます。
それでも組織の見当がついてくるあたりまでは、やはりおもしろく読ませてくれたのですが、最後に明らかになる黒幕の正体は、何だかなあという感じでした。
なお、雑誌連載時には『黒い風土』のタイトルだったそうですが、作者が好んで使う「黒」をなぜ「黄色」に変えたのか、不思議な気もします。

No.21 8点 黒い画集- 松本清張 2011/12/27 21:27
週刊朝日に昭和33~35年連載された中短編9編から選んだ6編に、同じ頃別に発表された作者自身お気に入りの『天城越え』を加えて1冊にまとめたのが、現在新潮文庫で読める版です。清張の古い全集等では、他の作品を入れたものもあります。
評判のいい最初の『遭難』のサスペンスはさすがで、終り方の薄気味悪さも格別です。短い『証言』は、最後がちょっとあっさりしすぎかなといったところ。『紐』は最初の方でしつこいアリバイ確認があるので、これは当然…と思っていると、最後にひねりがあります。『凶器』については、作者自身ダールを意識したと語っていますが、ダールより謎解き興味が強くなっています。最後の『坂道の家』は最も長い作品ですが、不倫話の果てにミステリ的なオチをつけたもの。
いずれも政治や企業悪をテーマにしたという意味での社会派ではありません。せいぜい『寒流』で銀行内の派閥争いが絡むぐらいですが、それでさえむしろ私的な話で、当時の登山愛好者、都会の会社員、農村生活者等がリアルに描かれた作品群です。

No.20 6点 蒼ざめた礼服- 松本清張 2011/08/07 19:46
その評論家はなぜそれほどまでにその廃刊になってしまった古い雑誌を欲しがっているのか? その雑誌を評論家に提供しようとした人が、時計と一緒に雑誌も盗まれてしまったことを主役の片山が知ったことから、事件は転がり始めます。
些細な疑問から始まって、殺人と思われる水死、さらに新型潜水艦建造にあたってのアメリカからの技術提供会社決定をめぐる政治的駆け引きへと、問題は大きく膨らんでいきます。社会派というよりスパイ小説系と言ってもいいようなスケールを持ったかなり長大な作品ですが、それを平凡な一個人の視点から追及していくのです。
そういった大風呂敷の広げ方とその全体的なまとめ方は、今回再読してみると、展開の意外性はあまり感じられない書き方なのですが、やはりなかなかおもしろく読ませてくれると思いました。ただし、死体処理のトリックだけは取ってつけたような感じで、そんなトリックをわざわざ使う意味がないのは、減点対象です。

No.19 2点 花実のない森- 松本清張 2011/04/16 08:50
今まで読んだ松本清張作品の中でも、最も安易な展開の作品でした。
「女性画報」に連載されたということなので、ロマンティック路線を狙ったのでしょうが、どうも主役の男の身勝手さばかりが気になります。いくら上品で美人であるにしても、本当に一目ぼれによる思い込みという感じにはあまりなりません。ウェイトレスをしている恋人を使って事件関係者を探らせるのも身勝手。この恋人はクイーンやクリスティーが好きだということですが、その設定も全く生かされないままです。
二人ともが落し物をする偶然。新聞の写真を目にする偶然。さらにその後簡単に、写真には写っていない二人目の事件関与人物にたどり着く経緯。謎の女があえてホテルで会食する意味の無さ。切符の切れ端の発見(なぜその切れ端が落ちていたのか全く不明)。最後の偶然の出会い。そういったご都合主義が連続する作品で、真相も平凡としか言いようがなく、端正な情景描写がむなしく感じられてしまいました。

No.18 5点 蒼い描点- 松本清張 2010/10/08 21:41
内容的にはずいぶん軽いミステリです。途中に「誰もいなくなった」なんて章がありますが、確かにクリスティーとも共通する雰囲気があります。本作での意味は、関係者たちがみんな失踪してしまったということで、結局その後また現れたりするのですが。かなり長い作品で、分量はあの名作の2倍以上。
まあ軽くて読みやすいのはいいのですが、ミステリの女王と比べると解決はどうもすっきりできません。殺人の経緯にはいくらなんでも偶然過ぎるところがありますし、旅館の立地を利用したちょっとしたトリックもご都合主義、さらにそんな時間をかけたことをする必要がないとしか思えないのも問題です。思いつきの仮説とその検証が実は行われていたことが後から明かされるのも、アンフェアな感じです。
長さに見合った複雑な解決を意図したのかもしれませんが、犯人の(ある意味での)意外性を除くと結末には不満なところの多い作品でした。

No.17 8点 霧の旗- 松本清張 2010/08/20 21:33
中公文庫版カバーの作品紹介では「現代の裁判制度の矛盾と限界を鋭く衝き」となっていますし、作品中でも雑誌社での会話でそのことに触れられています。しかし、実際には社会制度批判になっているとは言いがたい作品です。東京に住む多忙な大塚弁護士が北九州の事件を断ったのは普通のことですし(新幹線もない時代です)、それを裁判には金がかかるという制度の問題点に結びつけることはできません。
それよりもやはり、本作の焦点は桐子の異常な逆恨みでしょう。大塚弁護士から断られた瞬間に、彼女は目的であるはずの兄を救う気持ちをきっぱり捨てたとしか思えません。映画では倍賞千恵子や山口百恵が演じたこのヒロインの復讐は、『ケープ・フィアー』(スコセッシ監督の映画版を見ただけですが)における弁護士家族を追い詰めるデ・ニーロの不気味さより不条理です。
ずいぶん昔、最初読んだ時にはミステリ的でないと思った結末は、清張作品の中でも特に後味の悪いものです。

No.16 5点 考える葉- 松本清張 2010/06/27 13:54
最初に読んだのは中学生の頃だったと思いますが、当時は前半がつまらないという感想をいだいたのでした。しかし今回読み返してみると、むしろメインの事件と言える外国使節団長暗殺までの謎が膨らんでいく前半の方が楽しめました。それまでにもすでに2件の殺人が起こっていたことは、全く覚えていませんでした。
松本清張の作品では、全体的な犯罪計画はかなり適当なことがありますが、本作では特に目立ちます。主役の男を暗殺犯人に仕立て上げるといっても、接触した人物は完全に正体を明かしているのですから、計画に無理がありすぎです。そんな策略などしない方がよっぽどましでしょう。
まあその部分の非現実性に目をつぶれば、事件の裏の設定やストーリー展開はおもしろくできています。

No.15 6点 アムステルダム運河殺人事件- 松本清張 2010/04/05 22:17
外国を舞台にして日本人が殺される中編2編が収められています。
『アムステルダム運河殺人事件』は現実のバラバラ殺人事件に取材したものだそうです。首無し死体テーマですが、首と手首を切り落とした理由がなかなか意外で、松本清張には珍しく純粋な謎解きが楽しめます。途中で、やはり現実の事件をモデルにしたポーの『マリー・ロジェの謎』をかなり長々と解説までしているところからしても、作者がこの推理の着眼点には自信があったことがうかがえます。
『セント・アンドリュースの事件』はゴルフ発祥の地と言われるスコットランドの町での事件。これも謎解き中心の作品ですが、その地への旅行計画から話は始まり、なかなか事件が起こりません。トリックは悪くないのですが、もっと短くてもよかったかなと思えました。

No.14 8点 黒い福音- 松本清張 2010/02/22 21:30
作者の代表作の一つとされる作品ではありますが、今回再読してみて、意外なほどのおもしろさを感じました。
現実に昭和34年に起こったスチュワーデス殺人事件をモデルに、キリスト教会の暗部を暴き出した本作は2部構成になっています。全体の6割を占める第1部では、第二次世界大戦直後、砂糖の闇販売に手を染めたことから犯罪の深みにはまっていく教会の状況が描かれていきます。第1部後半はほとんど、途中から登場する若い神父の視点になります。視点をいつの間にかその神父に持っていく手際も巧みで、殺人に至る心理サスペンスが見事。
第2部では一転して、スチュワーデスの死体発見から警察の調査が中心になります。容疑者が単に外国人というだけでなく聖職者であるからこそ、当時の警察の神経の使い方も並ではありません。
第2の精液など実際の事件の手がかりにあまりに忠実すぎて、作者の想像した「真相」に矛盾点が出てきているところは少々気になりますが、それでも特に第1部の迫力には圧倒されました。

No.13 8点 ゼロの焦点- 松本清張 2009/12/21 00:05
今日2009年12月21日は松本清張生誕からちょうど100年目。というわけで、映画化・テレビドラマ化でもおなじみの代表作の評です。
作者らしい北陸地方の雰囲気を伝える叙情性あるストーリー展開ということでは、本作以上に有名な『点と線』よりも明らかに上だと思います。逆に論理的整合性では『点と線』に及ばないのですが。新婚早々の夫が金沢から失踪。不可解な失踪というのは、犯罪捜査のプロでない一般人が事件を探っていく立場になるきっかけとして自然です。そういう庶民的なリアリズムこそ、松本清張が重視したところでしょう。
失踪者の行方も失踪原因も全く不明なうちに、失踪者の兄が殺され、さらに…という筋の運びも興味を持続させてくれます。
そしてラスト・シーン、最後の1文がなんとも印象に残ります。「目を」「叩いた」ですからね、こういう表現を思いつくなんて、できそうでできないことでしょう。2時間ドラマの定番断崖ラスト・シーンのまさに原型であると同時に、追随者にはまねのできない厳しさが凝縮されています。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1505件
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