皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.25 | 5点 | 天井の足跡- クレイトン・ロースン | 2008/12/09 22:25 |
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今までに読んだロースンの3作品はいずれもその傾向があるのですが、これには特にごちゃごちゃした感じを受けました。
この人の作品はメインになるアイディアを中心に物語を構成するというのではなく、様々な謎にそれぞれ解決をつけていくという多元的な構造になっているという気がします。タイトルの天井の足跡の謎も、このストーリーの中に本当にこの現象が必要だったか、疑問です。そのため、謎解きの説得力はあるのですが、どうもカタルシスを感じさせる収束感に欠けるように思われるのです。 |
No.24 | 7点 | 時間の習俗- 松本清張 | 2008/12/09 21:41 |
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いつもは動機の社会的背景を重視する作者ですが、これだけ練り込まれたトリックを思いつけば、かえって社会性は邪魔になると判断したのではないでしょうか。シリーズ探偵を使わない著者が『点と線』と同じ2人の刑事を4年ぶりに起用して、アリバイ崩しに徹してくれます。
写真を使ったアリバイは共犯者がいれば簡単に実現できますが、それを単独犯でいかにして行うかが眼目です。逆に社会派的動機であれば、共犯者がいてもおかしくないわけで、そのあたりが松本清張のバランス感覚でしょう。 ただ、『点と線』に比べて、このアリバイのある人物が真犯人だと目星をつける根拠が弱い点は、気になりました。 |
No.23 | 7点 | 曲った蝶番- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/08 22:34 |
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カーの作品中、読んでいて最も怖かったのがこの作品です。訳文の問題もあるでしょうが、途中の謎めいた不気味な雰囲気は『火刑法廷』以上だと思いました。ただ、トリックについては、隠されていた秘密は非常に意外なのですが、それ以外にありえないという論理的な詰めがないのが、不満ではあります。
なお、この作品の後に『ガストン・ルルーの恐怖夜話』を読めば、たぶん驚くのではないでしょうか。あの元祖密室長編『黄色い部屋の謎』を書いたルルーの傑作短編集です。 |
No.22 | 7点 | 殺人は容易だ- アガサ・クリスティー | 2008/12/08 22:26 |
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作者がどういう方向に読者の疑いを持って行こうとしているかは簡単にわかってしまったのですが(似たパターンをクリスティーは後の作品でさらに巧妙に使っていて、そっちを先に読んでいましたので)、それでもやはりおもしろく読めるのは、さすがに小説技巧のうまさですね。わかっていながら、誘導に乗りそうになってしまいます。
バトル警視(『ひらいたトランプ』等)が、ほんのちょい役でゲスト出演。 |
No.21 | 6点 | 絞首台の謎- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/07 17:47 |
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フェル博士もののような大トリックや論理性は最初から期待しない方がいいです。
むしろ、はったりをきかせた不気味な謎を次々に繰り出しておきながら、その解明に意外性や鮮やかな論理性がほとんどない(一応説明はつけているのですが)ところなど、江戸川乱歩や横溝正史の通俗長編に近いものがあると言えるでしょう。 特にカーの場合は、ビジュアルな効果を出すのがうまく、雰囲気は楽しめましたし、意表をつく皮肉なラストも鮮やかでした。 |
No.20 | 6点 | 魔術師- 江戸川乱歩 | 2008/12/07 17:05 |
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真面目に謎解きを考えていたら、最初の事件で、この作品のちょっと後に書かれたクイーンの有名作を思い出すかもしれませんね。
肉仮面のくだりとか、その章で復讐鬼が「使命を果たすほかに、人の命をあやめたくない」と言っておきながら、本来復讐の対象者でない人をマジック・ショーの中で惨殺するなど(このシーンにはとんでもない偶然も重なります)、もう嘘っぱちやりたい放題といったところです。 それでいて、最後にはかなりまともに辻褄合わせをしているところが、「私の通俗長篇のうちでは、やや纏りのよいものの一つ」という自己評価になってくるのでしょう。 |
No.19 | 8点 | ひらいたトランプ- アガサ・クリスティー | 2008/12/07 14:06 |
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前年に書かれた『ABC殺人事件』の中で、ポアロがこのような事件を扱ってみたいと言っていたプロットまさにそのままの作品です。
ヘイスティングズも不満をもらしていたとおり地味な事件で、オリヴァー夫人(他の作品にもたまに登場するクリスティーの分身ともいうべき作家)が犯人だったなどというような大技も全くありません。それでもミスディレクションを張り巡らせておいて、終盤にはスリリングな展開まで見せ、鮮やかな解決で納得させてくれるのですから、さすがにミステリの女王、センスの良さは抜群です。 ブリッジのルールは知らないのですが、ほとんど気になりませんでした。 |
No.18 | 7点 | 日本庭園の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/06 19:21 |
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『中途の家』で国名シリーズ打ち切り宣言をした直後の作品であり(原題The Door Between)、読者への挑戦もやめるにふさわしい事件でした。日本趣味を取り入れて雰囲気を出したところも、ラストの心理的推理に至る構成も、この後に続く軽めの3長編を飛び越して『災厄の町』以降の作品群につながっていくような印象があります。
この節目の作品でクイーンが初めて挑戦した密室(そうですよね!)のアイディアはまあまあ程度で、だからこそのこの終わり方なのではないかと思えます。 |
No.17 | 6点 | 連続殺人事件- ジョン・ディクスン・カー | 2008/12/06 19:18 |
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第1の事件におけるトリックの問題については、私が中学生の時に、カーと同じ勘違いをしていた人が、クラスに1/3ぐらいはいたことを思い出します。別の効果を指摘する人もいますが、普通の部屋では、この方法で殺人を行おうとしても全く不可能です。
実は別の作家が、この別の効果をある特殊な状況の下で利用して、殺人をたぶん可能にしています。しかしカーの場合勘違いをしていたことは、p.208~211のトリック説明部分を読めば明らかです。(「たんと××んでよかったなあ!」なんてね) もう一方の密室構成方法もたいしたことはないのですが、ストーリーはなかなかよくできています。カー名義では、久々に笑いをふんだんに取り入れた作品で、なかなか楽しめます。 |
No.16 | 6点 | チャイナ蜜柑の秘密- エラリイ・クイーン | 2008/12/06 10:54 |
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そこまでやるか! と思いながらも、あべこべ殺人を説明する強引な論理には圧倒されました。この何とも奇妙な謎とその解答が本作の最大の(また唯一の?)見所でしょう。ただ、あべこべにしなければならない事態が生じなければ、犯人のある細工は非常に目立っていたはずだというところ、犯人の当初の殺人計画自体に無理があるのが気になります。
国名シリーズの中では、分量的に最も短いわりに、ストーリー的に最も間延びした印象があるのも減点の対象ですね。 |
No.15 | 7点 | ホッグ連続殺人- ウィリアム・L・デアンドリア | 2008/12/06 10:50 |
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本来なら、こういった書評などに触れる前に読んでもらいたい作品です。
この小説で賞賛されるところは、おそらく一点だけでしょう。決して他の部分がつまらないというわけではありません。全体としてはすっきりとまとまっていて普通におもしろいのですが、どこが良かったかをまともに書こうとすると、全く知らない方が楽しめるその一点にある程度触れざるを得ないのです。 妙な期待などせずに、気楽に読み始めるのが一番かもしれません。 |
No.14 | 6点 | 東京空港殺人事件- 森村誠一 | 2008/12/05 21:25 |
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東京空港内での密室殺人捜査と、飛行機墜落事故の原因究明とをからめて、話は進んでいきます。
後者の、正に社会派の王道とも言うべき問題提起はさすがに読みごたえがありますし、密室トリックも偶然を利用した部分は少々気になりましたが、悪くありません。ただ、その2つの事件がどう結びついてくるのかという点については、期待していただけに拍子抜けでした。 |
No.13 | 7点 | 悪魔のような女- ボアロー&ナルスジャック | 2008/12/05 21:00 |
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この2人がコンビを組んだ第1作だけに、ストレートな構造ですので、ホラーでなくミステリだということを知っていれば、結末は簡単に想像がつくでしょう。冷めた目で謎を分析しながら読むのではなく、ホラーのように雰囲気や文章を味わうべき作品だと思います。心理的に追い込まれていくクライマックス部分には息苦しくなるような緊迫感がありました。
原題の意味は「もう存在しなかった女」ですが、邦題は、小説の設定を逆にしたアンリ=ジョルジュ・クルーゾー監督の映画の邦題を採用しています。しかし、「悪魔のような女(複数形)」で映画にも小説にも意味が通じてしまいます。 |
No.12 | 3点 | かくして殺人へ- カーター・ディクスン | 2008/12/04 21:43 |
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カーが時々試みる悪ふざけ的なアイディアが空回りした作品ではないでしょうか。
動機の着想にはかなり感心したのですが、犯人の「意外性」でこの手はないでしょう。それと関連しますが、読者が知りようのない手がかりをH・M卿が握っていたというのも、嘘は書いていないなどと作中で言い訳することのあるカーにしては珍しいアンフェアぶりです。 |
No.11 | 5点 | チベットから来た男- クライド・B・クレイスン | 2008/12/04 21:00 |
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メインの密室トリックは原理だけなら現代ではおなじみのものですが、それを成立させるための手順は、なかなかうまく企まれています。ただし、実は第1の殺人について普通に考えてみれば、謎は残るにしても、犯人は簡単にわかってしまいます。
小説的には、中途半端すぎる三角関係や幕切れの落ち着きの悪さなど、粗が目立ち、結局、チベット旅行の話の部分が一番おもしろいというのが正直な印象でした。 |
No.10 | 5点 | 奇跡島の不思議- 二階堂黎人 | 2008/12/03 22:12 |
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自分が殺したのでもない事故死体の首を切断して皿に乗せた理由を、どなたか説明していただけないでしょうか。名探偵は完全に無視していますが。
推理の組み立てがへたなのも困ったものです。まず最後の事件に説明をつければ犯人もわかるので、それから見立ての理由等について推理を進めればいいのに。 メタ・ミステリにするのでなければ、プロローグとエピローグはいらないとも思います。 ずいぶん悪口を書いてはいますが、過去の事件の首切り理由には感心しましたし、西洋美術が好きなこともあって、読んでいる間はとりあえず楽しめましたので、この点数ということで… |
No.9 | 9点 | 星を継ぐもの- ジェイムズ・P・ホーガン | 2008/12/03 21:26 |
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読んだのは20年以上前ですが、読後の印象は、このトリックはチェスタートンの宇宙版だ、というものでした。今だったら島田荘司でしょうか。
がちがちにきまじめなハードSFの展開の果てに、こんな壮大極まりないバカミス・トリックを持ってくるとは… 冒頭で発見される死体の正体については、時間を何らかの形で操作しているのではないかとも思ったのですが、そんな安易な手は全く使っていませんでした。読みづらさも、この程度ならむしろハードSFらしくて好ましいと思います。 |
No.8 | 8点 | 赤い右手- ジョエル・タウンズリー・ロジャーズ | 2008/12/02 22:08 |
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これだけ必然性を無視しまくれば、普通どうしようもない駄作か脱力バカミスにしかならないところですが、そうであればこそのおもしろさを獲得しているのは、筆の勢いによるものでしょうか。カルト的名作との評価を得ているだけのことはあります。
格調高く仕上げれば、この異様な雰囲気はボアロー&ナルスジャックに近い感じになるのではないかとも思えるのですが。 ただ、アクロイドを引き合いに出しての読者を驚愕させるコペルニクス的転回とは全く思いませんでした。 |
No.7 | 6点 | ハートの4- エラリイ・クイーン | 2008/12/02 21:31 |
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この時期のクイーンは軽いタッチが特徴ですが、これも冒頭から笑わせてくれて、小説的なまとまりもよく、全体的に楽しめました。
動機の問題は、犯人の発想自体も推理もあまり冴えませんが、裏で進行していた企みの意外性は十分でした。ヴァン・ダイン流の性格分析による真犯人指摘まで、おまけに取り入れられています。 |
No.6 | 4点 | 迷路館の殺人- 綾辻行人 | 2008/12/02 21:26 |
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あまりに非現実的な(ゲーム的な)展開にも、ちょっと引きぎみになってしまいますが、それより気になったのが、作中作で一種の叙述トリックが使われる意義です。
この手の使用は外国の某有名作がたぶん最初で、鮎川哲也のある短編でも効果的に利用されていました。 ところが本作では、首切りの真の理由に読者が気づかない限り、この叙述トリックには何の意味もないのです。 できるだけ複雑な謎を、という意気込みもいいのですが、これでは無駄に複雑化しただけではないでしょうか。 |