皆さんから寄せられた5万件以上の書評をランキング形式で表示しています。ネタバレは禁止
していません。ご注意を!
空さん |
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平均点: 6.12点 | 書評数: 1505件 |
No.385 | 6点 | 失踪- ビル・プロンジーニ | 2011/03/01 21:12 |
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70年代に登場したいわゆるネオ・ハードボイルド系の中でも、プロンジーニは謎解き好きだそうですが、この長編第2作では、まだそれほどではありません。一方一人称の名無しのオプと言えばもちろんハメット由来ですが、別れた恋人のことや肺がんへの心配など、やたらにぼやきが多いこの探偵は、ハメットの非情さとは全然違います。まあラスト近くにはハードな殴り合いもしてくれますが。
失踪事件の手がかりを求めて、依頼人の要請によりドイツの小さな町にまで調査に出かけていくストーリーですが、全体的には実際の作品の長さにも見合ってこじんまりとまとまっています。プロット構成はロス・マクに近い感じを受けました。ただし家庭の悲劇が描かれているわけではありません。犯人が仕掛けるごく簡単なトリックは、うまくはまっていると思います。 しかし、犯人特定の決め手とか、その犯人の告白などの最後部分が何となく弱いのです。もう少し感動的に盛り上げられなかったのかなあ。 |
No.384 | 7点 | 恐怖の谷- アーサー・コナン・ドイル | 2011/02/25 21:28 |
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このホームズもの最後の長編の執筆は1914~15年。すでに『トレント最後の事件』等も出版された後ですので、ドイルもミステリに対する新しい考え方に対応してきたということでしょうか、ホームズの推理論拠は、なかなかフェアに提示されています。
しかしそれより、本作が高く評価される理由は後半部分にあると言われています。約20年前に起こったという設定のこの出来事、実際の事件をモデルにしているそうですが、アメリカの炭鉱町を舞台に無法者たちの世界が描かれていて、Tetchyさんも指摘されているように、ハードボイルド的なシチュエーションです。ただ書き方は全然ハードボイルドとは違いますけれど。この後半部分のからくりは推測がつくのですが、それだけにかえってサスペンスが感じられ、おもしろく仕上がっています。 ただ、モリアーティ教授を持ち出してきたのはドイルのサービス精神かもしれませんが、これはむしろない方がよかったのではないかと思えるのですがね。 |
No.383 | 5点 | 名探偵に乾杯- 西村京太郎 | 2011/02/23 21:01 |
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おなじみの名探偵シリーズの(少なくとも今のところ)最終作となった本作では、ポアロの息子を名乗る人物が登場します。謎解きミステリとしての出来ということでは、捨てトリックはまあこんなものかなというところですが、うーん、この最終解決はねえ。登場してないフェル博士の某作品をもちょっと思わせますが。また、二十面相シリーズでは聡明だったはずの小林中年がヘイスティングズより凡庸なのがなんとも…
それより、一風変わったクリスティーの『カーテン』論になっているところにおもしろさを感じました。単なるネタばらしなんて生やさしいものではなく、自称ポアロの息子が詳細かつ強引に分析していきます。ポアロが書いたという探偵作家論原稿も出てきますが、この元ネタはクリスティーの『複数の時計』でのミステリ評ですね。 その自称ポアロの息子に対する老名探偵たちの視線にも納得。 |
No.382 | 5点 | メグレの途中下車- ジョルジュ・シムノン | 2011/02/21 21:45 |
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メグレが出張の帰り、西フランスの田舎町で予審判事をしている旧友を訪ねていったところ、ちょうど連続殺人事件が起こっていて、メグレも首を突っ込むことになるという筋立ての作品です。こういった地方舞台タイプは初期には多いのですが、本作が書かれた時期では珍しいでしょう。
ミステリとしては、一応ごく簡単な心理的トリックが仕込まれているという程度。それより、田舎町の住人たちの階級に対する意識が、メグレの旧友を通して描かれ、息苦しい感じが出ています。犯人の最後の行動は、そこまでやるかと思えるほどで、救いようのない事件を徹底させてくれています。 なお、原題を英語に直訳すれば "Maigret is afraid" で、第6章の最後あたりで「おれはおそろしい」というメグレの台詞が出てくるのですが、これはむしろ「おれは心配だ」ぐらいに訳した方がよさそうです。 |
No.381 | 7点 | 裏窓- ウィリアム・アイリッシュ | 2011/02/17 21:18 |
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表題作はヒッチコックによる映画化も見ましたが、原作を先に読んで充分怖がっていたせいか、映画のサスペンスはそれほどと思えませんでした。ヒッチコックはグレース・ケリーが演じた登場人物を加えたかわりに、原作のトリックと推理を無視しています。ちなみに犯人役はペリー・メイスン役が有名なレイモンド・バー(こう書いてもネタバレではありません)。
それ以外では、みなさんに評判のいい『ただならぬ部屋』がやはり一番印象に残りました。トリックは、初めて泊まった部屋で本当にそんなふうに錯覚するものか疑問ではありますが、殺されそうになるクライマックス部分もやはり見事。『じっと見ている目』もよかったですし、『死体をかつぐ若者』、『踊り子探偵』、ファンタジーの『いつかきた道』等も水準は十分クリアしています。 表題作だけなら8~9点ですが、短編集全体としてはこれくらいで。 |
No.380 | 7点 | 怒りっぽい女- E・S・ガードナー | 2011/02/13 23:13 |
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大岡昇平が訳した創元版で読んだ作品。
メイスンものは依頼人を被告人にするため、作品によってはかなり無理やりな偶然を使うこともありますが、本作はそれほど気にならない程度です。重要手がかりははっきりわかるように堂々と示してありますし、解決もすっきりできています。また被告人2人のキャラクターも、このようなタイプの作品では問題ない程度には描かれています。 まだ第2作だからということもあるのでしょうか。メイスンの法廷戦術はそれほど派手ではありません。法廷外での実験を画策してくれてはいますが。 しかし久しぶりに再読して一番驚いたのは、犯人が使うトリックが他の作家の非常に有名な某傑作とよく似た発想であったことでした。すっかり記憶から飛んでいました。その傑作の方がやはりトリックの使い方はすぐれていますが、本作はそれより10年近く早いのです。 |
No.379 | 7点 | 休日の断崖- 黒岩重吾 | 2011/02/10 21:02 |
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同じように松本清張から影響を受けて、社会派と呼ばれるようになる推理小説を同時期に書き出した作家の中でも、水上勉の暗い叙情性に対して、黒岩重吾の持ち味は、臣さんも書かれているようにハードボイルドっぽい感じもする、肉食系の粘っこい力強さのようです。
犯人が使ったトリックは平凡ですが、これくらいの方がむしろ小説のスタイルに合ったリアリティがあると思いますし、犯行計画全体として見ると無駄なくきっちりと組み立てられています。まあ真相解明部分については、こんなことをして証拠能力があるのかと思えるところは気になりましたが。 被害者の未亡人の人物設定は意外性もありますし、非常に印象的です。彼女に対する、主人公である新聞社社長の感情も、なかなかいい感じです。 |
No.378 | 6点 | 死の蒸発- ジョー・ゴアズ | 2011/02/08 21:04 |
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「ダシール・ハメット以来正真正銘の私立探偵が制作の世界に飛び込んだ数少ない作家の一人」(バウチャー)と言われもし、さらにそのものずばりのタイトル作『ハメット』も書いているだけに、その直系のように思い込むと、少なくとも本作に関する限り違和感を覚えるのではないでしょうか。
確かに私立探偵小説、つまりホームズやポアロみたいなのではなくリアルな私立探偵を描いた小説であることは間違いありません。しかし、犯人の可能性がある人間たちを絞り込み、さらに一人ひとりについてしらみつぶしに検討していくじっくり捜査の過程、真相が明らかになるクライマックスのサスペンスなど、むしろパズラー寄りの警察小説に近い印象を受けました。 三人称形式であるだけでなく、一つのシーンで複数の登場人物の視点を混在させ、それぞれの感情まで描いているところなども、ハードボイルドっぽくない感じがします。 |
No.377 | 6点 | 死んだギャレ氏- ジョルジュ・シムノン | 2011/02/04 22:05 |
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シリーズ第2作ですが、初期メグレもののパターンが確立された作品と言っていいでしょう。11~13章ぐらいに分かれていて、分量的にもほぼ一定。メグレが地方で起こった事件の捜査に赴くという構成です。第1期の19冊中、パリ市内が中心舞台と言えるのは3作だけです。まあ今回はパリと地方を行ったり来たりしますが。メグレ警視についての風貌描写もほとんどなく、おなじみの名警視といった扱いになっています。
しかし、一方でミステリのスタイルという点では、まだ迷っていたのかもしれません。メグレものとしては非常に珍しい(たぶん唯一)タイプのトリックが使われています。さらに真相解明直前に、こんな手も考えられていたのだと指摘されるのは、ホームズ中の有名トリックです。 それでも、メグレによって最後に明らかにされていく死んだギャレ氏の人物像、それともう一人の人物との関係は、やはりシムノンらしい味があります。 |
No.376 | 7点 | 影の告発- 土屋隆夫 | 2011/02/01 21:00 |
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章の見出しがすべて「○の○○」で、最終章がタイトルと同じ「影の告発」という、こだわりを持った作品です。その各章の最初に少女の視点による幻想的な短い断片を置いているのは、『危険な童話』の童話と同じパターンですが、今作では半ばぐらいまでで本筋との関連の見当がつくようになっています。
実は、写真を使ったアリバイ・トリックだけが記憶に残っていました。ほぼ同じ頃書かれた清張の『時間の習俗』と似てはいるものの、清張作ほど完璧主義的な凝ったトリックではありません。その点に不満があったのですが、読み直してみると、前半は犯人の嘘への疑念や、被害者の側からの追及で明らかになってくる動機などに費やされ、なかなかおもしろい筋立てになっていました。 ごく早い段階で重要な手がかりの存在を堂々と宣言していたりして、フェアプレイへの配慮もあり、評価を改めた作品です。 |
No.375 | 8点 | 罰金- ディック・フランシス | 2011/01/29 09:27 |
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アメリカ探偵作家クラブ賞受賞作。今回の語り手=主役は新聞の競馬担当記者です。弱音を吐きながらも、人気馬の出走取消にからむ不正を暴き、馬を守ろうとする彼が熱い。その主役の奥さんの設定が、本作の核になっています。この夫婦の関係、奥さんへの愛情が実にいいのです。さらにいい女、いい友人といった人物の描き方もさすがですし、終盤のサスペンス、アクションも緊迫感十分。ラスト2行だけは、なかった方がいいように思えましたが。
一方、謎解き的要素は全くないといっていいほどです。悪役については、常識の通用しないこだわりはまあいいとしても、問題は記事を書くかどうかではなく、記事が掲載されるかどうかだというあたりまえのことに気づかないらしいのでは、知的なおもしろさは最初から放棄しているということでしょう。 ところで、Forfeitという原題、確かに辞書では「罰金」の意味が最初に出てくるのですが、それでは内容に合いません。むしろ没収・剥奪の意味なのかもしれません。 |
No.374 | 7点 | 死が最後にやってくる- アガサ・クリスティー | 2011/01/27 21:37 |
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歴史(時代劇)ミステリを書く作家はかなりいます。しかし、古代エジプトが舞台のフーダニットとなると、考古学者マローワン教授の夫人であるこの人をおいて他にないでしょう。冒頭に置かれた「作者のことば」の中で、古代エジプトの農事歴を説明したりして、本格的に時代考証しています。ただ"兄"、"妹"という言葉の意味についての説明は、ひょっとして叙述トリックで混乱させるつもりかと思っていたら、そうではありませんでした。
それにしても、全体の1/3ぐらい過ぎてやっと殺人が起こったと思ったら、後は次から次へと立て続けの連続殺人。登場人物はあっという間に減っていきます。犯人の設定はいかにもクリスティーらしいので、意外性があると言うべきかないと言うべきか迷うところです。ただ、家族全体を襲う悲惨な事件に、これでどう最後をまとめるのかと思っていたら、これもこの作者らしい恋愛感情をからめて、ラスト2~3ページはうまく決着をつけてくれていました。 ポアロの時代だったら通用しないトリックや無理のある殺意も使われていますが、古代なら問題ありません。 |
No.373 | 7点 | 悪魔が来りて笛を吹く- 横溝正史 | 2011/01/23 10:30 |
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謎解きの面から見れば、犯人やトリックの意外性は、この作者の他の有名作品に比べるとたいしたことはありません。他の方も指摘しているように、最初の殺人を密室にする必要も感じません。密室になる段取はまあ納得できますが、血の火焔太鼓なんてややこしいことをし過ぎです。しかもごく早い段階で、紐を使えばなんとか密室にできると言ってしまっているのですから、不可能興味はありません。
ある人物が嘘をついていることは、『本陣殺人事件』や『獄門島』事件を手がけた金田一耕助なら気づいて当然ですが、少なくとも発表当時は一般的でない知識がないとわからないので、フェアとは言えません。 などと悪口を書いてはいますが、小説としての構成はさすがです。晩年の数作を除くと、作者の最も長い作品のひとつですが、冗長さは全く感じられません。最後の殺人も、結局こうならざるを得なかったのだろうなと思えます。 映画やドラマ版は見ていないのですが、実際に作曲されたタイトル曲の演奏を視聴すれば、ラスト・シーンはよりインパクトがあるでしょうね。 |
No.372 | 7点 | メグレ警視と生死不明の男- ジョルジュ・シムノン | 2011/01/20 21:27 |
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メグレものの中でも、今回は相手がアメリカの殺し屋たちということで、解説にもいつにないスピードとアクションのことが書かれています。確かにそうなのですが、それでも作者の独特な語り口のせいでしょうか、やはりいかにもメグレらしいところが感じられます。
メグレが何人もの人から、アメリカの殺し屋に比べるとフランスの犯罪者はアマチュアに過ぎないと言われ、不機嫌にぶつくさ言っているようなところも楽しめます。「無愛想な刑事」ロニョンの活躍と愚痴もいい感じです。 ただし後から考えてみると、プロの殺し屋にしては、基本的なところに不手際があるのが少々気になりました。また最後は完全にすっきり解決とまでならないのが、このシリーズでは時々あることなので特に不満というわけでもないのですが、今回のような派手なタイプの場合にはどうなのかな、と思えます。 なお、メグレがアメリカに行ったことがある話を『メグレ、ニューヨークへ行く』だと注釈してありますが(p.60)、これは間違いで、メグレがアメリカに研修旅行に行くのは『メグレ保安官になる』です。 |
No.371 | 7点 | 証拠死体- パトリシア・コーンウェル | 2011/01/18 21:27 |
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コーンウェル初読。いわゆるベスト・セラーというのは、こういうのを言うんでしょうか。スティーヴン・キングさえ、映画はずいぶん見ていますが原作を全く読んでいない自分としては…でも、共通点はありそうな感じです。様々な要素を詰め込んで盛りだくさんにし、小説の長大化を図っているのはあまり好みではないのですが、それはまあいいでしょう。
最後までサスペンスを持続させるためのご都合主義的なごまかしがちょっと気になるところはありました。しかし、殺人犯の正体に近づいていく過程はなかなかよくできていますし、現場で採取された繊維と、被害者の作家がなぜ犯人を家に入れたのかの謎、さらに過去の大事件との奇妙な関連など、最後にうまく結び付けてくれています。 単独の作品としてはおもしろかったのですが、同じ主人公で毎回似たようなことをやられては、という懸念も持ってしまいました。検死官が何度もこんな目にあうのだとしたらね。 |
No.370 | 7点 | レーン最後の事件- エラリイ・クイーン | 2011/01/14 22:08 |
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初志貫徹作品(シリーズを順番に読んでいけば意味はわかります)。
好評につき急遽入れたという説もあるらしい『Zの悲劇』の後、すなわち本来この作品が『Zの悲劇』と命名される予定だったということかもしれませんが、まさにシリーズの幕を引く作品です。その『Zの悲劇』からの連続性はよく指摘されますが、「そう言えば『Yの悲劇』でもやはり…」と思わせるところもあります。 確かに、まず殺人が起こる普通の「本格派」ミステリを期待して読み始めると戸惑うでしょう。しかし、老名優ドルリー・レーンが最後に扱うにふさわしい、シェイクスピア関係の古書を巡る奇妙な事件です。今回久々に再読してみて、最終章では直接には指摘しないままにあらかじめ読者に犯人を悟らせた上で、その根拠となる推理を披露、しかもその推理の中でも犯人を名指ししないという技巧が使われていることに気づきました。 奇妙な文字列の原因が『ギリシャ棺』での凡ミスを訂正するものだというのも興味深い点です。 |
No.369 | 5点 | 鉄鎖殺人事件- 浜尾四郎 | 2011/01/11 21:33 |
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ヴァン・ダインからの影響が大きく、戦前には珍しく厳格な謎解きに徹した作家として知られる浜尾四郎で、本作では『ケンネル殺人事件』がコスモポリタン誌に連載され始めたなんて記述が出てきます。しかし、内容的にはそれほどヴァン・ダインを感じさせるものではなくなっています。事件は東京だけでなく、逗子の方の田舎でも起こり、地域的な広がりがあります。
犯人の見当だけなら、小説構造上かなり早い段階でついてしまうでしょう。ただし犯人の名前以外の謎はそう簡単には解けないでしょうから、問題はありません。真相にはヴァン・ダインの20則的な意味では多少不満がありますし、真犯人指摘のタイミングもいまひとつですが、やはり構造はしっかりできています。昔『殺人鬼』を読んだ時には気づかなかったのですが、名探偵藤枝真太郎の設定にも元検事である作者らしい配慮が伺われます。 ただ、乱歩や横正のような文章の巧みさが感じられませんし、漢字の使い方も、これをひらがなで書く?と思えるようなところもあって、文学的な意味では評価を下げざるを得ません。 |
No.368 | 6点 | 義眼殺人事件- E・S・ガードナー | 2011/01/09 12:21 |
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例によってご都合主義的な偶然が重なって依頼人が窮地に陥るパターンですが、これくらいならまあいいでしょう。義眼と消えた証人とに焦点を絞って、なかなか好ましい印象を与えてくれる佳作です。ただ、片目の依頼人がメイスンのところにやって来た理由がいいかげんなのが少々不満ではあります。
普通なら簡単に解決のつく事件のはずが、ある人物の行動によってややこしいことになってしまうのです。メイスンもそれで苦境に立たされますが、バーガー検事(本作が初登場です)の出方を予測してのメイスンの思い切った策略が最後には功を奏します。 ところで、本作には昔から何種類もの翻訳がありますが、そのほとんどのタイトルに「殺人事件」がついているというのは、ガードナーにしては非常に珍しいですね。 |
No.367 | 7点 | ブーベ氏の埋葬- ジョルジュ・シムノン | 2011/01/07 21:35 |
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メグレものではありませんし、冒頭でのブーベ氏の死は単なる病死です。
しかし、そのブーベ氏の隠された過去の秘密を少しずつ明らかにしていくストーリーということでは、かなりミステリ的な作品です。しかも最後には犯罪がらみになってきます。メグレの部下たちの中でも最古参のリュカ刑事は、メグレもの以外にも『汽車を見送る男』等にちょい役で出演していますが、本作ではほとんど主役の一人と言っていいくらいの活躍ぶりです。ブーベ氏の過去を探るもう一人は、地道な聞き込みに歩き回る冴えないボーペール刑事(彼はたぶん新顔)。 以前『自由酒場』評で、セレブな生活からの逃避という主題は作者の純文学系作品にも出てくることを書きましたが、その時意識していた作品の一つが本作です。 ブーベ氏の過去が明らかになった後、短い最終章で描かれる埋葬が、しみじみとした余韻を残します。 |
No.366 | 6点 | 模造人格- 北川歩実 | 2010/12/28 11:09 |
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この作者はどんでん返し連続技が評判だということですが、本作に関する限り、個人的には普通に意外な真相の結末を用意した心理サスペンスという印象を受けました。
その意外な部分が明らかになるクライマックス部分は、後から考えてみると、ある人物の参加はどう見ても余計で不自然になっているだけです。その人物の狂気には辟易するぐらいなのですが、他の登場人物たちも大部分常軌を逸したところがあります。 タイトルでも暗示される基本的なアイディア自体には感心しましたし、文章も読みやすく、二人の視点を交互に配置している点もなかなか効果をあげていると思えます。そんなわけで全体的にはおもしろかったのですが、ちょっと長すぎるかなという感じはぬぐえません。上記某登場人物の異常さを抑えた設定にした方が、無駄を省いてきれいにまとまったのではないかとも感じられます。 |