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空さん
平均点: 6.12点 書評数: 1505件

プロフィール高評価と近い人書評おすすめ

No.405 5点 真鍮の家- エラリイ・クイーン 2011/05/07 13:00
『クイーン警視自身の事件』の続編となる作品です。警視が退職して再婚した話は、同時期の他作品との整合性を全く無視しています。まあ、クイーンは個々の作品の内部では非常に論理的であるにもかかわらず、ニッキー・ポーターの設定等、作品間では平気で矛盾したことを書いているのが、妙なところです。本作でもクイーン元警視夫妻が活躍しますが、今回は最終章で出てくるエラリーに、事件の謎の全面的な解明はゆだねられます。
最初に読んだ時はあまり冴えないように思ったのですが、再読してみるとクイーン警視の推理にも説得力はありますし、さらにそれをひっくり返していく構成はなかなか楽しめました。不思議な雰囲気もある館モノですが、その館自体を慎重に解体していくことになるというところにもひねくれぶりは見られます。殺人未遂に続いて殺人が起こるのに、中心的な謎はむしろ宝探しだというのも、妙なところです。ただし、事件の元になる館の主人の行動心理が分析されていない点は不満です。

No.404 7点 魔術師が多すぎる- ランドル・ギャレット 2011/04/30 09:53
科学的に厳密なハードSFであれば、謎解きミステリとの融合も納得もできますし、実際アシモフ御大を始め、かなりの作品があります。しかし本作はハリー・ポッターにも近いような魔法の世界です。呪文で不可能なことを起こせる設定の中で、密室の不可能殺人をどう演出するのかが見所でしょう。この趣向は魔法の限界を明確にすることで、かなり成功していると思います。
全体的には、不可能犯罪ということも含め、『ビロードの悪魔』等カーの歴史ものに似た味わいがあります。
密室トリック自体は共通点があるとは言え、カーの某有名作(現代が舞台の)のような目のつけどころの意外性はありませんし、改良点にしても作者の都合で何とでもなる部分ですので、あまり高い評価はできません。しかし、解決に至る伏線は充分張ってありますし、スパイ要素も謎解きにうまく溶け込んでいて、おもしろく仕上がっています。

No.403 6点 蜘蛛男- 江戸川乱歩 2011/04/27 22:36
乱歩の通俗長編第1作。
何が通俗なのかというと、まずは悪役の設定です。開幕早々死体をばらばらにして石膏で覆い、学校へ美術模型としてばらまくといった具合で、その目立ちたがり屋ぶりは二十面相並みです。もっとも二十面相は殺人嫌いですけど。そんなことをする理由がないなどと目くじら立てても始まりません。もしそんなとんでもない妄想に憑かれたような犯罪者がいたらという話なわけです。
で、その前提を容認しさえすれば、前半の話は意外にまともです。リアルな設定の中で奇抜なトリックが使われるのより自然とさえ思えるほど。ただ、犯人が弄するトリックのために読者にも蜘蛛男の正体が早い段階でわかってしまう(直感的にだけでなく論理的に)ところはありますが。全体の7割ぐらいでその正体が明かされてからは、話はサスペンス調になってきます。
まあ、縛られて絶体絶命のピンチになった蜘蛛男が最初の殺人計画を実行できることになるところは、その登場人物の感情も全然納得できないというわけではないのですが、やはりいくらなんでもご都合主義かな。

No.402 7点 娼婦の時- ジョルジュ・シムノン 2011/04/25 22:39
これもハヤカワ・ミステリの1冊ですが、これをこのシリーズに入れるかなぁと思える作品です。
ある殺人者の肖像、といった感じの小説ですが、ストーリーの中心になるのが殺人というわけではありません。第1章、殺人を犯して自首して出た主人公。警部や予審判事の尋問、弁護士との対話、精神科医の診察など、会話を中心にしながら、彼は子どものころからの出来事を回想していきます。特に重要なのが性的な要素ですが、そのことを示したタイトルの「娼婦」という言葉は疑問です。10代の頃の思い出に出てくるアナイスは娼婦ではありません。ちなみに原題の意味は「アナイスの時」。
そして最後…あいまいなままで話は終ってしまいます。殺人動機も結局ある程度わかったようでいて、やはりよくわからない。殺人を帰結としている話ではないとは言え、結末の盛り上がりとか収束感を重視する見方からすれば、物足らない気はするでしょう。
決して「小説」としてけなしているわけではありませんし、個人的にもこんな終わり方の話はかなり好きなのです。しかし、本作の出版は集英社のシムノン選集(集英社版タイトルは『アナイスのために』)にでもまかせておけばよかったでしょう。

No.401 8点 さらば甘き口づけ- ジェイムズ・クラムリー 2011/04/22 22:15
主人公私立探偵の名前スルーは『明日なき二人』の主役の一方とはカタカナではどうしたって別人としか思えないので、英語のWIKIPEDIAを見てみたら、C.W.Sughrue となっていました。なるほど、eightの発音ですか。
邦題はむしろ『さらば愛しき人よ』を思わせますが、原題、そして内容はやはり『長いお別れ』に近い作品で、実際第12章にはこの言葉も出てきます。というより、チャンドラー自身初期から後期に向かうにつれて、よりウェットになってきますが、それをさらに徹底して、もうべたべたにしてしまったような雰囲気です。
グリーンの『ヒューマン・ファクター』に出てくる犬が印象的だと書いたばかりですが、犬の存在感に関する限りは本作の酔いどれブルドック、ファイアーボールの方がはるかに上。なにしろ登場人物表にまで載っているほどです。
派手なアクションがあって事件が一応決着を見た後、さらに70ページ以上も残っています。この後どうなるんだろうと思っていたら、全然ミステリではない話になって、それでもおもしろく読んでいたのですが、最後にショックが待ち構えていました。この動機はもちろん、方法もミステリの範疇を完全に逸脱してしまっています。本国でクラムリーが純文学扱いされているというのも納得のいく、胸にこたえる結末です。

No.400 8点 ヒューマン・ファクター- グレアム・グリーン 2011/04/19 21:41
純文学的に地味なものを想像していたのですが、文学性だけでなくエンタテインメントとして非常におもしろく仕上がった作品でした。もちろん作中で言及される007みたいなのではありませんが。
最初のうちは、誰が二重スパイなのか、見当はつくにしても隠したままで物語は進んでいきます。それがいつの間にかはっきりしてきて、後半はその人物の葛藤が描かれていくことになります。疑惑を持たれているらしいということになってからの終盤は、脱出に向けてサスペンスもかなり盛り上がってきます。最後の方、モスクワの場面は必要かなとも思ったのですが、その後のラスト・シーンは、まさにブツッと切れた後の音が聞こえるような余韻があって、やはりいいですねえ。
タイトルはこのスパイ事件の根底に流れているのがポリティカルでもエコノミックでもなく、ヒューマンな要因であることを指しているのでしょうか。
登場人物たちが鮮やかに描かれているのは、なにしろ文豪G.グリーンですから当然でしょうが、犬のブラーもなかなか印象的です。

No.399 2点 花実のない森- 松本清張 2011/04/16 08:50
今まで読んだ松本清張作品の中でも、最も安易な展開の作品でした。
「女性画報」に連載されたということなので、ロマンティック路線を狙ったのでしょうが、どうも主役の男の身勝手さばかりが気になります。いくら上品で美人であるにしても、本当に一目ぼれによる思い込みという感じにはあまりなりません。ウェイトレスをしている恋人を使って事件関係者を探らせるのも身勝手。この恋人はクイーンやクリスティーが好きだということですが、その設定も全く生かされないままです。
二人ともが落し物をする偶然。新聞の写真を目にする偶然。さらにその後簡単に、写真には写っていない二人目の事件関与人物にたどり着く経緯。謎の女があえてホテルで会食する意味の無さ。切符の切れ端の発見(なぜその切れ端が落ちていたのか全く不明)。最後の偶然の出会い。そういったご都合主義が連続する作品で、真相も平凡としか言いようがなく、端正な情景描写がむなしく感じられてしまいました。

No.398 7点 キドリントンから消えた娘- コリン・デクスター 2011/04/13 21:43
失踪した娘はそもそも生きているのか、死んだのか? その前提のところからして何度も意見を変えながら、その度に砂上の楼閣論理を組み上げては判明した事実に叩き潰され、また組み直していくモース警部。ルイス部長刑事の目撃者への疑念を基にした推理にモース警部の想像を加えた発想など顕著な例ですが、それぞれの仮説はクリスティーの短編とかをも思わせます。しかし、それらのアイディアもここまで繰り返されては、そのうちどうでもよくなってくるほどです。
これはバークリーの『毒入りチョコレート事件』における最終推理が最も鮮やかな推理と言うわけでもなかったのを上回る収束感のなさです。第1作『ウッドストック行最終バス』では感じられた結末の意外性はほとんど無視して、ひたすら仮説の森をさまよう楽しみに徹した作品になっています。
しかしそれにしては、ロビンさんが指摘されている発端の手紙の真相が結局不明な点はやはり気になりましたし、警察が再調査に乗り出した時期に殺す動機のあいまいさ、それに犯人の最終確定を犯人自身の独白で行っているのも、なんだかもやもや感が残ります。

No.397 6点 メグレと田舎教師- ジョルジュ・シムノン 2011/04/11 22:53
冒頭でメグレに助けを求めて来る田舎教師は、村で起こった意地悪ばあさん殺人事件の容疑者として逮捕されてしまいますが、その地方の憲兵隊長も、実際には教師の有罪を信じているわけではありません。よそ者であって、しかも町でなら普通な厳格さを持ち込もうとする教師は、村人たちからは白い目で見られています。そういったフランス田舎の排他性が捉えられた作品です。あとがきではメグレは明らかに田舎嫌いだと書かれていますが、メグレ自身が田舎育ちなので、微妙なところです。
メグレは名物の牡蠣が食べたいこともあって、数日休暇をとって出かけていくというのが笑えますが、小学校あたりをうろついて子どもたちに尋ねて回り、真相をつかみます。最後には、大したものではないにせよとりあえずどんでん返しも用意されていて、全体的にきれいにまとまった佳作という感じです。

No.396 7点 黒死館殺人事件- 小栗虫太郎 2011/04/07 21:48
皆さん読みにくさに怒ったりぼやいたりされていますが、久々に読み返してみると、地の文章は確かに晦渋ではあるものの、それほど難解だとは思いませんでした。それより名探偵法水を始めとする登場人物の台詞の方が、やたらに博識を披露してカタカナルビだらけ、さらに無茶な飛躍も多く、意味不明です。地の文章より会話の方がはるかに難解(というより理解不能)な小説なんて、めったにないでしょう。確かに奇書です。
しかし、そういった薀蓄羅列があればこそかもし出される雰囲気もあるわけで、そこは意外に楽しめました。謎解き的な部分では、各事件の経緯は仮説の山に埋もれ、結局明快な形をとれないままに終っていますが、それほど気になりませんでした。
法水、支倉、熊城の3人の関係は、ファイロ・ヴァンス、マーカム検事、ヒース部長刑事の関係そのままですし、「ケンネル」「グリーン家」「僧正」等のタイトルも出てきます。語り手のヴァン・ダインに相当する人物はいないのですが、何となく一人称形式を思わせるようなところもあります。まあこの偏執狂的な博識披露癖はヴァン・ダインなど問題になりませんが。

No.395 7点 覗くひと- アラン・ロブ=グリエ 2011/04/04 23:11
ロブ=グリエが脚本を書いた映画『去年マリエンバードで』ほどではないにしても、いかにもヌーヴォー・ロマンらしい前衛的作品です。
しかし難解文学であると同時に、ミステリ度もそこそこ高い作品になっていると思います。主人公は殺人を犯し、逃亡中の身です。そして冒頭で彼が渡った島では、崖からの墜落死事件が起こるのです。もちろん通常のミステリのようなまともなストーリー展開はありません。主人公がただ様々な人に時計を売ろうとする反復が執拗に描かれていくのですが、一方で墜落死事件の犯人は誰なのかという謎もつきまとってきます。その謎に対する解答が、某有名ミステリを連想させる真相なのです。
そしてラストはまた、ロブ=グリエらしく奇妙な不安定感を残したままの幕切れとなります。
すべてが明快に割り切れる小説に物足らなくなった場合には、読みにくさを覚悟の上でチャレンジしてみてもいいかもしれません。

No.394 7点 赤毛のレドメイン家- イーデン・フィルポッツ 2011/04/02 00:06
久しぶりに再読していて、何となく似たところがあるなと思ったのは、クイーンの初期某有名作です。トリックの根本にも同じような発想があるのですが、月日をかけた一族の連続殺人という点でも共通しています。クイーンの作品には、本作のようなベタな恋愛は全くありませんが。
そんなわけでクイーンと比較しながら読み進んでいくことになってしまいました。するとやはり、犯人に対する疑惑を隠しておいて、最後に急転直下暴露する手際ということでは、あまり感心できません。途中でほとんど真相に近い可能性をピーター・ガンズが指摘してしまっていますし、犯人の言動にも、あまりに疑いをまねきそうなところがあるのです。構成上読者には犯人がすぐ直感的にわかってしまうのは、かまわないと思うのですが。
しかし、それでも思っていた以上におもしろく再読できました。このゆったりしていながらサスペンスもある展開はさすがです。昔から文学的だと言われていますが、芸術的に高度というより、雰囲気がいいんでしょうね。

No.393 4点 壷中美人- 横溝正史 2011/03/29 23:00
角川文庫版で200ページちょっとの短い作品です。『スペードの女王』や『夜の黒豹』と同じく短編を引き伸ばしたものだそうですが、本作にはそれほどの価値があったかなと思えます。元の短編は読んでいないのですが、ひょっとすると長編化にあたって複雑化したせいでしょうか、犯人の設定が、結末の意外性という点から見てどうもすっきりできないのです。また冒頭で金田一耕助が疑惑を持った壷中美人についての秘密も、そのアイディア自体は悪くないのですが、だからこそこんな殺人事件になったというつながり方が弱いと感じました。
それより、角川文庫版に併録されている長めの短編『廃園の鬼』の方がすぐれています。大胆な計画と人情話的なラストがうまく組み合わさっていて、動機がはっきりしないのはどうかなと思えますが、いい読後感を残します。ただ、タイトルは内容に合っていません。

No.392 6点 Les rescapés du Télémaque- ジョルジュ・シムノン 2011/03/26 23:35
河出書房の言うところの「本格小説」として1938年に書かれた作品ではありますが、むしろ地方(特に港町)を舞台にした初期メグレものを思わせます。主要舞台はメグレの『港の酒場で』と同じ北フランスのフェカン、謎解き度も並のメグレものより高いとさえ言えるほどです。違うのは、探偵役がメグレではなく素人だということ。素人だからこそ、特に最後の追跡劇など私立探偵小説的なサスペンスもあります。
フェカンの港にニシン漁から帰ってきた船長ピエール・カニュは、殺人罪で逮捕されてしまいます。殺された老人は、カニュ家も絡んだ過去のテレマック号遭難事件の生存者でした。ピエールを救うため、彼とは双子の鉄道員シャルルは、不器用ながら独自に捜査を始めます。
最後、シャルルがディエップでの犯人逮捕に決定的な役割を果たした後フェカンに帰って来て、釈放されたピエールを囲むみんなと合流するところは、不思議な高揚感があります。

No.391 5点 教会で死んだ男- アガサ・クリスティー 2011/03/23 23:07
全13編中11編は、以前創元版の『ポワロの事件簿2』『クリスティ短編全集4(砂に書かれた三角形)』で読んだことのあるポアロものです。『戦勝記念舞踏会事件』『プリマス行き急行列車』等は、トリック自体は鮮やかで悪くないのですが、犯人がそのような方法を使うメリットがあまりないのが不満な作品です。なお『プリマス~』のトリックは後にメリット面を改善して長編に仕立て直されています。『クラブのキング』(ちょっといんちきな感じもしますが)、『スズメ蜂の巣』(殺人阻止というのが珍しい)はどちらもなかなかいい話。しかし『マーケット・べイジングの怪事件』が最もよくできていると思います。これはトリックはそのままで小説としてのふくらみを持たせ、中編『厩舎街の殺人』として書き直されています。
怪奇ものの『洋裁店の人形』はまあまあですが、最後のミス・マープル登場の表題作『教会で死んだ男』は、原題にもなっているダイイング・メッセージが結局ほとんど意味不明ですし、トリック的にもどうも冴えません。

No.390 7点 間違いの悲劇- エラリイ・クイーン 2011/03/21 10:26
最初に収められた中編『動機』は、田舎の小さな町(ライツヴィルよりだいぶ小さそう)を舞台に、名探偵エラリーの登場しない作品ですが、ミッシング・リンク・テーマを不自然でない形にまとめあげた秀作です。田舎町の雰囲気もよく出ています。ある意味リドル・ストーリーなのですが、あいまいな感じの残らないすっきりした解決になっていると思いました。
途中のショート・ショート6編は最後の1編を除き(ダイイング・)メッセージものですが、中ではホックが代作した『トナカイの手がかり』がよかったと思います。
そして最後に控えるのが、ダネイがリーに送ったままの形の長編『間違いの悲劇』梗概。タイトルからしても、レーン4部作を想起させますし、シェイクスピアをモチーフにしたところも特に『レーン最後の事件』との共通点があります。さらにこれは単なる偶然ですが、梗概の状態というのが『Yの悲劇』のヨーク・ハッターが書いた小説梗概を連想させます。ただし本作の方がはるかに細かい点まで書き込まれていて、人物造形も本編でこそはぶかれていますが、最初に置かれた登場人物紹介でかなり説明されています。
プロット、トリックについては、クイーン60年代以降の作品の中ではベストと言い切っていいほどの出来ばえで、ミスディレクションもなかなかのものです。最終的に小説化されなかったことが本当に惜しまれます。

No.389 6点 人生の阿呆- 木々高太郎 2011/03/19 18:59
松本清張以後だとミステリ作家の直木賞候補や受賞も珍しくありませんが、それよりはるか前、昭和12年に直木賞を受賞した作品です。
久々に再読してみて、最も感心したというか驚かされたのが、文章です。乱歩や横溝の耽美的な感じを与える文章とは対極に位置する、清張をも思わせるほど抑制された筆致なのです。死体発見シーンなどあまりに地味であっけないほど。
その文章で、良吉がロシアを列車で横断していくのが描写されるあたりは、最も記憶に残っていたところでした。この部分は全然ミステリでないわけで、そこが印象深いような作品です。ただ、タイトルの「人生の阿呆」という言葉が書かれた手紙に関する部分は、あまり説得力がないかな(文学的意味で)と思えました。
「読者への挑戦」が入っていたことはすっかり忘れていました。真犯人がわかりやすいとの論評もありますが、真相はかなり複雑な上、伏線も完全でなく、全体を見通す(暗号の理由も含め)ことは不可能でしょう。

No.388 6点 二つの密室- F・W・クロフツ 2011/03/09 21:21
クロフツと言えば、アリバイ崩しでなくても広い地域をフレンチ警部などが飛び回って捜査するものが多いという点では、確かに本作は異色とも言えるでしょう。しかし、舞台を限定して密室ものを書いても、じっくりした捜査過程はやはりクロフツ、という印象を受けました。むしろnukkamさんも指摘されているように、探偵役でもなく、倒叙ものの犯人でもない人物の視点が大幅に取り入れられていることの方が、この作者らしくないと思えます。最初の1/3は完全に家政婦アンの視点です。
第2の密室はどうということもありませんが、第1の事件の機械的トリックは悪くないと思います。しかし、密室構成方法より第1の事件が殺人であることを証明する手がかりの方に感心しました。また、第2の密室トリックが露見するきっかけ部分は意外にサスペンスがあります。
悲惨な事件ですが、ラスト、アンの将来性にはほっと一息できます。

No.387 6点 メグレ間違う- ジョルジュ・シムノン 2011/03/06 08:31
タイトルにもかかわらず、メグレが特に重要な点で推理を間違えるわけではありません。途中で、自分の捜査方法が間違っているのではないかと気にするところはありますけれど。
本作では、事件の中心人物である有名な外科医のキャラクターが独特です。メグレもこの外科医を新聞などで知っていたという設定ですが、この人物になかなか会おうとせず、周囲の人物からいろいろ聞き出して攻めていっているところがおもしろいというか。作中でも述べられているように、この外科医がメグレ自身の「等価値の反対」的な存在であるため、そのような捜査の仕方になったということです。たぶん、本書を読んでこの人物に好印象を抱く人はめったにいないでしょうが、それでも奇妙なインパクトのある人物です。

No.386 6点 ランボー・クラブ- 岸田るり子 2011/03/03 22:13
タイトルの「ランボー」は、散文詩『地獄の季節』等が有名な19世紀フランスの詩人アルチュール・ランボーのこと。
15歳の少年と私立探偵の2人の視点を章ごとに交互に配置していく構成の作品で、そのパターンは最後まで続きます。といっても、2つの話が最終的にどうつながってくるかが見所というタイプではありません。私立探偵の視点の方に、少々うるさいユーモアがあるのが好みではないのですが、視点交替はかなり効果を上げていると思います。
少年が非常に珍しい後天性の色覚障害という設定で、早い段階から医学ミステリ系だということは想像がつくようになっていますが、隠された秘密は悪くありませんし、疑惑が膨らんでいくサスペンスもなかなかのものです。最後の1ページも無駄なくまとめてありますしね。
しかしこの作者、『出口のない部屋』でも感じたのですが、謎めいた小説構成はいいのに、密室などの物理的不可能犯罪トリックの扱いがどうも冴えないのです。不可能性は無理に入れなくてもよかったのではないかと思えてしまいます。

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空さん
ひとこと
ハンドルネームの読みはとりあえず「くう」です。
好きな作家
E・クイーン、G・シムノン
採点傾向
平均点: 6.12点   採点数: 1505件
採点の多い作家(TOP10)
ジョルジュ・シムノン(110)
アガサ・クリスティー(65)
エラリイ・クイーン(53)
松本清張(32)
ジョン・ディクスン・カー(31)
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